勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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いしの積まれる世界:最終決戦前夜④

し~ずかな~しずかな~砦の秋~っと・・・ついつい前の世界の歌が出て来るな~と思いながらも、ティファは秋の風を感じながら-里の秋-を口ずさみながら砦の廊下をゆっくりと歩いている。

この世界も春から大戦が始まり、秋の始まりで終わりを迎えようとしている。

外を見れば細い上弦の月が満天の星の中に掛かっている・・・いい夜だと、この世界に来て初めてティファは心穏やかに空を見上げている。

 

アバン先生が来た、ヒュンケルも来た、ロン・ベルクさんとラーハルトとそして、おじさんとキルも来てくれた。

 

矢張りティファにとっては、おじさんとキルは特別であった。

幼い頃からの自分の良きところも悪い所もきちんと知ったうえで全てを受け止めてくれるおじさん。

 

「嬢ちゃん、ちゃんと食って寝てるか?馬鹿弟子とチウはそうでもないが、顔に疲れが出てんぞ?」

 

おじさんと、ティファがぎゅうぎゅうと抱き着けば一発で体調の変化を見抜かれ、そんな事になっているのかと周りにばれてしまって自分達のラーハルトに詰め寄られかけたが、キルがひょいと抱いて逃がしてくれた。

 

「今日沢山食べて寝てもらえばいい話でしょう?そう目くじら立てたらだめだよ~槍使い君達。」

 

飄々と大人の余裕で手助けしてくれるキル・・・四人の大人達が来てくれたことも勿論嬉しい事に変わりはない・・・ないが・・・・

 

「ティファ!まだ寝ていなかったのか?」

「はりゃヒュンケル・・・・ん、ちょっと空見てたくて・・」

「そうか、確かにいい空だ。しかし・・」

「分かってますよ、寝なさいですよね。」

 

ティファは少しだけ口をとがらせる。

その様子にヒュンケルは口が過ぎたかと焦ってしまう。

 

「いや・・・早く寝ろと言ってるのではなくて・・・その・・・」

「ふふ、分かってますよヒュンケル。ちゃんと寝ますから安心してください。」

 

焦れば、-優しい大人の笑み-を浮かべてくれるティファに、それはそれでヒュンケルは悲しくなる。

どうして自分は、ティファを-子供のまま-でいさせてあげることが出来ないのだろいうか?

 

それはアバン先生にも出来ずに、大魔王バーンとてもティファは大人の顔を覗かせる。

マトリフ大魔導士とキルだけがそれを成しえている・・自分達には一体何が足りずに、ティファに大人の顔をさせているのかが分からず周りは分からないがヒュンケルは自分が頼りない大人だからと思ってしまう・・・それこそが大人になり切れない証なのかもしれないと思いつつも、ヒュンケルはそっとティファを抱き上げ腕の中に抱え込む・・・どうしても、ティファに甘えてしまう自分を捨てられなくて・・・その代り必ず守るから許してほしいと胸の中で呻きながら小さなティファの温もりに暖を取る。

 

「明日・・・・必ず・・」

「はい、皆で帰れるようにしましょう。」

 

きっと、この世界の者達が見れば間違っていると言われるかもしれないが、それでもヒュンケルはティファを包み込むようで反対に包まれる。

ヒュンケルの頭は細いティファの腕の中に納まり、表面を穏やかにしながらも荒れたままであった内側が落ち着いていく。

ヒュンケルの荒れ狂っていたものが凪いでいくのを、ティファも穏やかに感じている。

優しい言葉を発しながらも、ヒュンケルの瞳の奥底に揺らぎが、自分達・・・特に自分を見る目に焦燥感があったのがずっとティファとしても心配だったが、穏やかになる心音を聞いて一安心をする。

 

「今日ちゃんと寝ますねヒュンケル。」

「あぁ・・・眠ってくれティファ。」

 

そっとヒュンケルに降ろされ、ティファは大人しくは・・・ポップ達の待つ寝室には向かわず、自分達が戻ってくる前に部屋に下がった者の下へと向かい、気配でここだろうと扉の前に立ち、周囲に対して-全ての気配-を閉ざす結界を張るという念を入れてからノックをした。

 

「あ!??・・ちょっと待て!!」

 

自分の気配で察したのか、相手は物凄く慌ててドタバタと普段の彼らしくない音を立てながら出てきた事に、ティファは苦笑してしまう。

この人も大人なのか子供なのか分からない人だな~と思っているところに扉がガチャリと開いて、そして呆れられた。

 

「・・・・こんな夜更けにどうしたお嬢さん?」

「遅くに申し訳ありませんロン・ベルクさん。部屋に入ってもいいですか?」

「・・・少ししたら寝ろよお嬢さん。」

「分かってます。」

 

にっこりと笑うティファに弱いロン・ベルクは、諦めてティファを部屋に招き入れた。

・・・酒瓶が転がっているのはご愛敬だろう・・

 

「年頃のお前さんに、深夜に男の部屋に来るなと言った方がいいのかね?」

「ロン・ベルクさんには今更だと思いますよ?」

 

苦言めいた事を言ってもめげないティファに、ロン・ベルクは一つだけ置かれている椅子をティファに進めて自身はベットに腰を下ろす。

一目が多い中では堂々とティファを膝に乗せるが、ロン・ベルクもこういう時にはきちんと考えている。

どれ程幼い見た目であっても、ティファももう年頃の娘なのだから。

そのティファが夜更けに男の下に、それも寝所に来ること自体が問題であるが、ティファだとてその辺の常識はしっかりとしている筈であり、それを押してもここに来た理由がある筈だと水を向ける。

 

「それで、今度は何があった?」

 

自分を一人で訪ねてきたのは、向こうでの決戦前で酷い事を頼まれて来た時であり、今回は何事だと穏やかに聞いてくるロン・ベルクに、ティファはどういいだそうか悩んでいただけに有難く受け取る。

 

それは本当に一切を話した。

この世界で起きた出来事を、チウと兄の心が傷つけられ事も知っているだろうがティファの口から語り、そして二度と彼等が傷つかないようにこの世界で自分が-向こうの世界と同様に動ける力-を十全に振るう為に、この世界の命運と己の命運を紐づけした事を・・そして今日その力を行使して体に負荷がかかりすぎ血反吐まではいたが、この世界の何かの力によって全回復した事を・・聞く内に静かになり・・・そして・・・・・ティファは椅子からさらわれる様にフワリと宙を浮きギチリと音がする程の、骨が全て砕かれるのではないかと思う程の力でロン・ベルクの腕の中に閉じ込められそして・・唸り声がした。

 

「お前は・・・本当に・・・殺したくなる!!!」

 

己達をどこまでも置いて行かんとするこの娘を!他の誰かに何かによって奪われるくらいならばいっその事自分の手で殺したくなるというロン・ベルクの言葉とそして本気の殺意に、ティファは抵抗もせずに聞き入る・・・・きっと、この人にならば殺されても文句は言えないから・・

 

この世界のマザードラゴンは、自分がこの世界と紐づけになるのを猛反対し、そして今日の惨状に遂に切れてこの世界の神々をも動かしたのだ。

 

-もしもこの娘に奇跡の御業を使わないというのであれば!私はこの娘の魂を向こうの世界に返すその日まで隠し通します!!!私の思念体としてのエネルギー全てを使って!-

 

神の涙の様に、マザードラゴンの血に連なるティファの青い血の法陣を伝い、マザードラゴンは天上界の神々を脅して全回復をさせたのだ。

ティファが姿を消せばきっと少年ダイは闘う力を喪い、結局はティファが来る前と同じ地上界と天界の破滅の道を行く事になるとマザードラゴンは脅し、何万年も生きる寿命の内の一万年程ティファの全回復という奇跡の御業の対価に使っても文句は言わさないとばかりに。

それがなくともティファの体感としては、兄達に心配を山ほど掛けたとしても生命の危険はなかったと言える・・・言えるが・・・それでも矢張り心配を掛けたくないと、マザードラゴンと神々の遣り取りを聞いてほっとしたのだが、ティファにかけてしまった迷惑はもとより、ティファの仕出かしたこの所業も告げると言われた時は、さしものティファも焦り懇願をした!

 

向こうの一人には必ず自分から言う!!だから待ってほしいと!!!

 

期限は今日寝る前に必ずという言葉に、ティファを巻き込んでここまでの事をさせてしまったは自分だと罪悪感に押しつぶされかけているマザードラゴンは必ず今日までならばと了承をした。

ティファはその相手を来た人の誰にするのかは・・・・悩まなかった。

酷い話だが・・・

 

「お前はなんでこの話を俺に?」

「ごめんなさい・・・貴方に・・・貴方ならきっと・・・」

 

分かってくれると思ってというティファの吐息をつくような言葉が、ロン・ベルクの耳朶をうつ・・・分かっている、戦士が命を懸けるという重さを、そしてそれは全て仲間の為であり非難するのはお門違いなのだと・・・・魔界の過酷な環境を生き抜きてきた生粋の魔族たるロン・ベルクにはよく分かっている・・・腹ただしい事に!!

甘いだけでは生きていかれない!時には誰かが・・・・その誰かがいつでもティファだという事のみにロン・ベルクは其の一点のみに怒るを覚える。

もしもこれが他の者であったなれば・・・否!他の者達にはこんな事は出来ないしそもそもが思いつきもしない!!-ティファだから-だ!!!全ては・・・その一言につくほどにアバンやマトリフ・・・魔界の神にすら思いもよらない事を思考し実行してしまうティファだから・・・そのティファは・・・・

 

「また・・・俺に共犯者になれって言うのかよ・・」

「ロン・・・ベルクさん・・・」

 

貴方しかいないと酷い殺し文句に否と言えない男は、少女に込めていた腕の力を抜いて相対する。

あの時と同じ、泣きそうになりながらも堪えている気丈な瞳・・・いっその事こんな事をしたくなんてないと泣いて縋ってくれればまだ救いがあるのに、堪えて耐える、全ては己の大切な者達の為に・・・・

 

「これを持ってろ・・・」

 

本当は渡すかどうか迷っていたものを、ロン・ベルクはマジックリングを取り出す。

キルがティファに服を拵えた様に、ロン・ベルクもまたティファの為にパレスの高炉を借りてティファの為の武器を拵えた。

ポップには魔法があり、チウはティファが常に首にかけている金のマジックリングの中に籠手を預けている事を知っていたので、武器がないティファの為に拵えたのだ。

ティファ専用の武器である刀・雪白はバランの、歴代の竜の騎士だけが扱える真魔剛竜剣と同様の伝説の武器であり、持ち込めないので急ごしらえではあるがロン・ベルクはダイの剣の時と同様ティファ専用の身を考えて打った究極の逸品である。

 

「材料はオリハルコンだと持ち込めなくてな。その次に強度の高いミスリル銀で拵えた剣だ。

ヒヒイロカネと同じで粘りがある。ヒュンケルとラーハルトが持っている鎧シリーズはこれと同じ材料で作った。」

 

ただ固いだけではなく粘りがあるから当時まだ鎧化のノウハウを持たなかった自分でもあれが作れたのだという。

そして後年に鎧化をものにしたからこそ、粘りがあまりないオリハルコンであってもヒュンケルに鎧の魔剣が再度作れたという話を・・・渡された細身の剣に目が行ってしまったティファは全く聞いていなかった。

 

先ずさやからして美しかった・・・真っ白い鞘は、先端部分に銀の薄板がされているシンプルな作りになっており、剣身から柄まで全てミスリル銀で拵えられた美しい作りに・・クロファが思わず表に出てきてうっとりとしてしまった・・・雪白は名前こそ白を表すがそれは雪白の能力を解放した時の名であるが・・・これは全てが本当に白く美しく、ティファもクロファも目を奪われたのを、クスリという音にクロファが見上げれば・・・そこには慈しみが籠ったロン・ベルクの瞳とぶつかった・・・・まるで-自分-の事を見ているように・・・・そんな筈無い・・・・自分はバーン以外に-己-を明かしていない・・きっとこの男もティファが愛しいのだ、自分も好意を持つキルやそのほかの者達同様にティファが・・・しかしこの剣は本当に奇麗だ・・・剣身はティファが扱いやすいように強度が無くならないギリギリまで薄くされ、白よりもなおほんのりとした色合いは髪が作りし物と言われればきっと信じてしまう程の・・・

 

「お前がこれに名前を付けてやれ。」

「・・・私が?」

「そうだ、お前が付けろ。」

 

今この場でというロン・ベルクの言葉に、クロファは微かに迷った。

記憶をすぐにティファに植え付けてティファに戻せばいいのに・・・そうしたくなくて、これの名前を自分が付けたくて・・・夕月と・・・・幽やかな言葉に、ロン・ベルクは微笑み少女を、抜身の剣諸共抱きしめる。

 

「夕月か・・・いい名前だ・・」

「そう・・・・うん・・・・そうか・・・」

 

クロファは自分が付けた名前を褒められ、益々この剣を気に入り、ロン・ベルクに礼をして部屋を後にした。

 

「もうこれ以上無茶苦茶すんなよ?」

「・・・・この世界次第・・・・」

 

ティファの様にうまく言えないクロファの言葉にも、ロン・ベルクは困った笑い顔を見せるだけで五月蠅く言わない事にクロファはほっとする中、ロン・ベルクは黒の皮で拵えた鞘ベルトも着けてもらった。細すぎる腰の邪魔になる無い通常よりも細い作りに、クロファは-自分の色-だと目を細める。

白はティファだ、ならばこの黒は自分だけの者だと・・・其の自分の頭を撫でるロン・ベルクに、クロファは頭を下げておやすみなさいと軽やかに寝室に向かうのを、ロン・ベルクは扉の淵に靠れて見送り薄っすらと笑う

 

そうか、あいつは月が好きなのか・・・・太陽と月とはなんともと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その上空の月に迫るほどの超高高度に位置するパレスの中では、キルバーンはいつものように・・・否、いつも以上にミストバーンに纏わりついていた。

それは-ピロロ-も同じで、普段もミストバーンに可愛い使い魔としてそこそこスキンシップを図っているのだが・・・・ミストバーンが何かを言いかけては口を噤む様子に胸騒ぎがしていつも以上に二人はミストバーンを囲い込む中その報が目玉から届いた。

 

「ミストバーン様、カールの西南の森の奥にて空間の揺らぎとその時に少しだけ-砦の一角-と思しき物を捉えました。」

「・・・・・そうか・・・さらにその周囲に重点的に目玉を張れ。」

「は!!」

 

それは今まで見つからなかった-隠された勇者達の隠れ家-だと確信させる報であり、ミストは無言でキルバーンとピロロを脇にどかせて扉に向かうのを、キルバーンはミストバーンの腰に手をまわす。

 

「・・・・見つかったね。」

「そうだ・・・」

 

それを主に至急報告するから放せというミストバーンの無言の言葉に、キルバーンはそっと放しながらも付いて行くと言い出しピロロを肩に乗せるのを、ミストバーンは幽かに息を吐いて好きにしろとともに扉の外に出て歩を進めながら、ミストバーンは胸の中で呟く

 

お前と出会えた月日は楽しい日々であったと・・・・

 

横目に見える死神の大鎌に似た上弦の宵月の如く、儚く消え入りそうな思いを抱いて




今宵ここまで


・夕月・宵月-陰暦八月の季語・月のでは早く光は弱く夜半に没する儚いものとされている
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