昼過ぎに三人とロカさんがダイ爆睡の後に起きて昼食となって、
食べ終わった後に三人で修行名目で外に出て森の近くでポップ兄・ダイ兄、私で会議中。
議題はもちろん強くなること。
具体的にはダイ兄の戦力強化と、ポップ兄の身体強化の課題だ。
ダイ兄の方は強さがあっても実践的動きは単調で読まれやすいのが緊急の課題だ。
歴戦の猛者からすれば分かりやすくて単体では相手になんない。
パーティー戦ならいけても、何かの理由でばらけたり一対一の時に戦えませんじゃ勇者とは言えない。
魔法も使えるようになって、使える手数を増やしてもらわないといけない。
確かレイラさんがこの村の村長さんは初級レベルは出来て人に教えられる腕の持ち主と評してた。
そっちに頼むといったら、
「俺が教えるんじゃダメか?」
ポップ兄が申し出てくれたけど、
「ポップ兄って人に教えるの苦手っぽい。
頭で考えるよりも感覚で魔法使ってるでしょう。
それ人にきちんと伝えられる?」
「・・無理かも。」
「でしょう。
ダイ兄は理論的には理解してるから、後は実践をきちんと教えてくれる人の方がいいよ。」
力をボンと出せとか擬音使って教えそうで無理だろう。
「それにポップ兄にも課題があるでしょう。」
「つってもよ、ダイはともかく俺に教えてくれる人の当てあんのかよ。
・・ロカさんに口伝してもらうのか?」
「違いますよ、マァムさんに頼んでみる。」
「はっ⁉あいつ?」
「そうだよ。
これもレイラさん情報でアバン先生はマァムさんには特に体術を施してたって言ってた。
ポップ兄よりも上だよきっと。」
教えてくれる人の目途はついたとしてだ、頼むには大問題が一つ残ってる。
どうしてアバン先生に教わった者が、そんな初歩を学ばなければならないのかの説明がきっといる。
ポップ兄の体術だけならば魔法しか習わなかったと言い訳たってもダイ兄の場合はアウトだ。
島で三日しか教わっていないのを言えば、レイラさんはそんな中途半端な兄を放って
先生が魔王を単独追っかけるわけないと分かってしまう。
嘘を言っても哀しみ増えるくらいなら・・
「・・本当の事言うしかないよね・・」
「だな・・」
「そうだね・・」
二人は目に見えて暗く沈む・・未だに先生の消失の傷は癒えずか。
私も先生も周囲に酷い事をしている。
片や実際生きていて今頃は自分磨きの修行の為に弟子達を置いていかねばならず、
片や周りが傷つくことを承知で魔王と単身戦わせて舞台より退場させている。
皆が生きるためだというのを免罪符にしてだ。
そこはもう仕方ない事だと割り切ってレイラさんに話すのはいい。
あの人も一行と共に世界を救うために激闘をくぐり抜けてきた強い人だ。
哀しみに心を沈めてしまうことはなくともマァムさんの方が心配だ。
修業をしているダイ兄を見てもらって、何で今更と疑問を持ってもらって薄々察してもらって
ショックの少ない方向で話をしようとポップ兄と話をまとめてレイラさんの所に行って村長宅に行くことにした・・気が重い。
ロカさんが横になってマァムさんが居ないのを見計らって案内を頼んだ。
「おお三人共、昨日はミーナの事ありがとう。
聞けば魔王軍の者もおいはらってくれたとか、本当にありがとう。」
「いえいえ。
こちらこそお頼みしたい事がありまして、よろしいでしょうか?」
「ほう、何でしょう?」
「ポップ兄。」
「おう・・
レイラさん驚かないでほしい。
先生は・・」
ん?・・マァムさんの気配がする・・。
「そんな!!アバン様が・・」
レイラさんの顔が青くなって、話し終えた時には紙のように白くなって泣き始める。
元仲間・・それも一行の要の勇者の死はやはり重いか・・でも今はレイラさんよりも。
そっとその場を離れた。
気配を消して、誰にも気が付かれることなく。
(そんな!!・・アバン先生が・・
そしたら・・ティファは嘘を言ったの⁉)
母が三人と共に村長の家に行くのを見かけたので、自分ももう一度お礼を言おうとこっそりついてきた。
まさかこんな酷い話を聞くとは思わずに!!
飛び出して真偽を!!
「マァムさん、」
飛び出そうとすればティファの小声がして腕を引かれた。
「ティ!!」
「シィ~。
そっとこちらへ、本当の事をすべて話します。」
困った顔がどこかアバンに似ているティファの顔を見て、マァムは素直に従って腕を引かれて森の中に入っていった。
そこは鬱蒼とした森には珍しくぽっかりと木がなくなり陽光が降り注ぐ場所で、
自分のお気に入りの所だった。
辛い修業時や、父が病で不安でたまらなくなった時に来ては癒されている秘密の場所に、
何故ティファは連れてきたのだろう?
・・世の中上手くいかない事だらけ・・ひょっとしたら頼んでる最中にマァムさん来たらと考えて、
マァムさんの落ち着く場所をレイラさんに聞いておいてよかったよ。
「ティファ・・ここは・・」
「その前にマァムさん、
こちらをどうぞ。」
マジックリングから水筒とカップを出してマァムさんに上げるのは、
-コポコポ-「どうぞ飲んでみてください。」
「・・この香り・・」-コクンー-
「やっぱり・・蜂蜜ティー。」
甘くていい香りの優しい飲み物は・・かつてアバン先生が淹れてくれたものと同じ味がする。
先生も、悲しくて不安な自分を励ましてくれようと、お茶を淹れてくれてゆったりと
頭を撫ぜてくれた。
-マァム、大丈夫ですよ-
優しい言葉をくれながら・・。
「ティファ・・先生は・・。」
「はい、嘘を言って申し訳ありませんでした。
先程は不意打ちの様になってしまいましたがすべて本当の事です。」
「そんな!!」
嘘つき!!
そうティファを怒鳴って罵ろうとしたが、
「先生の遺体は出てきていません。」
「・・それじゃあ!」
生きて・・そう思いかけたが、
「しかしそれはあくまでも推測です。」
その希望を・・言った当人に砕かれた。
一体・・ティファは何度自分を傷つけるのか。
「それでも私は先生は生きていると考えています。」
「・・どうして?」
「貴方達です。」
「・・私達?」
「先生から教えを受けた貴方達がいるかぎり、
先生は本当の意味で死んではいないというのが私の考えです。」
「それはどういう・・」
「彼の人があなたたちに教えたのは戦う事だけでは無かった筈です。
戦う意味と意義、平和の尊さ、生命に対する優しさも教えてくれたはずです。」
「・・あ・」
-先生!私こんな怖い力いらない!皆を守れればそれでいい!!-
かつて卒業の証として輝聖石と共に魔弾銃を渡されて説明を受けた後に泣いて受け取ろうとしなかった自分に、アバンが優しく教えてくれた。
守るために力を使いましょうと。
力なき正義は誰も守れないが、戦いは守る手段の一つでしかないと。
「マァムさん、人の本当の死とは何時だと思いますか?
私は肉体が滅んでも、その人の考えが受け継がれ実践される限りその人は生きていると言えます。
ですから貴方達が先生の教えを継ぎ、人々を、この地に住まう優しき者達を、
大地を守ろうとするのであればアバン先生は貴方達の中で生き続けていくでしょう。」
あの時の先生同じ優しい笑みを浮かべて・・似たような事をティファは・・
「マァムさん。」
「う・・あ・・」
・・優しい声が・・眼鏡をかけているティファと先生がかさなって・・
「あーあ!!アバン先生!!!」
蹲って泣きだしたマァムをティファはそっと抱きしめ、
マァムもティファの体にむしゃぶりついて、心の底から泣き続ける。
「せん・・せえ!!ああー!!!」
泣くマァムの頭をゆったりと撫ぜながら、ティファはマァムの悲しみをすべて受けようとしている。
・・これは自分が生み出した業の一つだと・・、自らに罪を科しながら。
ティファの心を知らずに、マァムはひたすらに泣き続ける。
(今は・・泣こう。
でも・・その後は・・ティファの言う通り先生の教えを受け継ぐ!)
心の奥で、アバンの教えを継ぐ決意をして。
主人公は島を出て以来眼鏡を掛け続けているので、
余程でないと眼鏡について記述はしません。
アバン先生風にして、周りの人達の悲しみを減らそうとする主人公の持ち前の優しさに、
仲間たちは魅了されて団結力が高まっていきます。