ダイにとっては、バーンは敵であった・・・・否敵でなければいけない者であった。
そう思わなければいけない程に、ダイの中の闘争心は限定的なものとなっていた。
明確な敵でなければ、己の仲間を脅かすものでければ・・・・少し前の若きバーンのように自分達を殺そうとし、そして自分が愛する者達が住まう大地を消すという怖ろしい事を言っていたこいつを倒さなければならないとダイは思い定めることが出来ていたのを・・・こいつは今何と言ったのか、思考が闘争から外された。
思えばダイの戦いは自分から戦いに行くというよりも、戦いに呼ばれていた戦歴であった。
魔軍司令官ハドラーは大好きな先生の仇であった。その大好きな先生の仇をとる為に、そして大好きなロモス王がハドラーもいるという魔王軍によって脅かされている故に島を出た。
パプニカには自分を好きだと言ってくれた、気の強いでも優しいお姫様を助けにバルジ島での二度にわたる渡航をして戦いそして戦いの沼の中に誘われた。
最初から訳の分からない敵の脅威に翻弄され明確に全ての敵を倒して世界を助けるという目的は無く、漠然と周りを助けたいという一つの想いのみでダイは闘って来た。
ヒュンケルやクロコダインのように贖罪をしながら世界を助ける、ポップ・マァム・レオナ・メルルの様に自分達の住まう世界を、ひいては己達の故郷を守る、他の者達も其れは同様であったろうが、ダイの考え方は敵に勝ってその日を生きるというチウやモンスター達に近いシンプルな考えは・・・己達や守りたい者達の命を脅かさないという若きバーンの言葉は、単純な思考故に敵に対して迷いのなかった・・・迷いながらも答えを見つけられたダイの思考に入るには十分な単純な提案であった。
「そち等でなくともダイよ、お前だけでも余の側に居ればそれでよい。其の方が余の手元に居れば自然とお前の仲間達は寄って来るであろうよ。」
自分の提案を聞いた途端、目を見開き昂っていた闘志の炎が少しずつ弱まったのを感じた若きバーンは、己の毒がダイの思考に入り込めたことに気を良くする。
どうやらダイは・・・この若き竜の騎士は歴代の竜の騎士とは違うようだと・・・これは-人-に限りなく近い-子供-なのだと。
これが守りたいのはおそらく
「なぁダイよ、そちは-世界-を守りたいか?その身だけではなく、余の足元にいる若き魔法使いを、あそこに倒れ伏しているそちの仲間を引き換えににしてでも守りたいか?」
「・・・お・・・れは・・・・」
あぁやはり・・・
「そちさえ来ればそれで良い。何も余の手足となって戦えとも言わんよ・・・そちの様な幼き子供の助けなくば守れない世界に何の価値がある?そちの助けに応えてくれた者達がいたとてそれはここ数日余の軍団に立ち向かって来た百にも満たないあの戦士達の身であろう?」
おそらく-今-ダイが守りたいのは、ここにいる者達とカール・パプニカ平原に出てきた装備からするにカールの残党とロモス王国で集められた対魔王軍の有志達、そして一行の中に居続けてきた占い師と姫君・・・・そして
「あそこにいる異界の者達も無傷で帰そう。」
元々いない者達の生死なぞには興味は無く、ミストを返すと言えばキルバーンも攻撃をやめ様・・・
「それでも不足であるならそちが育ったデルムリン島のモンスター達もそっくり残そう。元々デルムリン島は地上を消すにしても残る予定だったのだ。そのままそこで住まうもいいであろう?
あそこには群島もあり橇の仲間達の家族とやらも数十人しかおらぬ村人達も住むには不足は無い。
それに・・・パプニカの姫君も数十人の家臣達もいても余にとっては問題にすらならん。」
「そんな!!そんな事許される筈ない!!!沢山の・・・・大勢の人達が死ぬなんて言い訳が・・」
「くっく・・その大勢の人達がお前を助けてくれたのかダイよ?」
そのわずかな言い淀みを、若きバーンが見逃すはずがなかった。
魔軍司令官ハドラーとの篩での戦いの時には何の迷いも無かった・・・しかし自分との邂逅前のハドラーとバランの相打ちのようにバランが死んでしまった時、確かにダイの心も共に一度死んでいるのを若きバーンはよく覚えている。
そしてダイが一体何に心に傷をつけられたのか・・・・
「-悪意の小石-を投げる人間を守るのに、何故お前の大切な者が死ななければならない?
よしんばお前達と余と相打ちになったとして人間達はお前達にどう報いる?」
「それは・・・そんなの・・・」
「そう、分かるまい緒前には・・・だが余は断言できる。お前が守ろうとした人間達は、お前が愛したモンスター達を許さず己達の目に映る生命全てを狩り尽くし、住処を追いやり絶滅すらさせるだろう。」
「あ・・・だ・・黙れ!!黙れよ!!!」
聞きたくない!!これ以上聞いてしまっては・・・もう本当に闘えなくなる・・・・心が折れそうだ・・・・・俺は・・・一体何を守りたかった?
人?モンスター達?大好きな人達が守れればそれで・・・
最早若きバーンはダイの首にかけている掌には力を入れておらず、優しく甘く語りかけそして
「父バランはお前の事に怒りを覚えよう。」
まるでダイの闘争心を呼び覚まそうとする言葉に、ダイははっとした。
その通りだ・・・自分には、世界をその身一つで守り切った父の、竜の騎士としての血と使命が受け継がれていると思いかけたが
「だがそのバランとても、最後には最愛のお前を守る為のみにその身を捧げてきたではないか。」
それは若きバーンの思考の罠。
若きバーンが知らしめたのは、バランの深き愛情。
世界の為ではなく、愛した妻と息子の為に身を犠牲にしようとし、最後には最愛の息子の為に身を投げうった事を克明に思い起こさせる。
「最愛の者達を守らんとする事は悪ではないと、バランが証明したではないか。」
その言葉に、ダイの中で立て直せたはずだった心が軋みそして・・・崩れたのを若いバーンはニンマリと嗤う。
おや・・・じ・・・・俺は・・・・俺が守りたいのは・・・
周りは只見ている事しか出来なかった。
何か言葉を発すればダイが殺されてしまうのを心得ており、あのティファをしてもどうする事も出来なかった…これを決めるのは最早ダイにしかかかっておらず・・・・そんな状況が!ティファや倒れ伏しても意識が蘇った少年ポップ達にとっても堪らなかった!!
自分達はなぜこれほどまでに無力なのだ!最後にこんな非情な事をダイに決断をさせなければならないなんて・・・・・
「俺は・・・」
やめてくれ!!
「・・・・バーンは・・・・助けてくれるの?」
やめてくれ!!自分達のせいで!お前の真っ直ぐな心をそいつなんぞに明け渡さないでくれ!!!
「あぁ助けよう。お前の助けたいと思う者達全てを。」
たった数百の人間とモンスター達位、柱を落としてもあの小娘の言う通り魔界に結界を施させ、狭間にある地域にも同様に強固な結界を張って保護し恩を売り制圧し、広大な手つかずの地に捕虜にした人間どもを住まわせ質にして竜の騎士の末裔を飼うのもまた一興ではないか。
不味い・・・・まだですか・・・・まだ来られないのですか!!!
キルバーン達の虚実を混ぜた罠と攻撃に生身となった事で生じた肉体の限界という不具合にキルは次第に陥りそして焦る!
この世界の事なぞ自分達にとってもどうでもいい・・・ティファ達を攫った最低中身が住まう世界なぞ・・・それでも!あの子達は良い子なんだ!!理不尽しかほぼないこの世界を懸命に守ろとした良い事達が・・・・無為に狩られるなんてそんな事・・・
魔界では散々に見てきた理不尽であった・・・地上界でも、懸命に生きていてもそれでも踏みにじられる世界なぞ幾らでも見てきた・・・・それでも・・・・・
「御終いだよ・・・・さよならだ・・・」
「しま!!」
それは刹那の思考であったが、獲物を狩る死神の前では甘い事この上も無い隙であった。
死神の大鎌がキルの首を捉えんとしようとした
ダイの心も若きバーンに捕らえられよとしていた
誰もが絶望をした
その地に-雷鳴-が轟きキルバーンの大鎌の刃を粉々に砕いた・・・・一歩間違えればキルにも当たっていただろうが、当たっていないからいいだろうと撃った本人は言うだろう
そして雷鳴に負けないくらいの地を叩きつける大音声は極太の-魔力でできた鞭-であり、その鞭はオリハルコンすらも砕く若いバーンの右腕を叩き斬り少年ポップを踏みつけんとした足も打ち据え、衝撃によって少年ダイとポップは宙を舞った。
誰が・・・・それよりも!!
若きバーンは己の右手が切り取られても瞬時につけて元に戻しながら、少年達を欲さんと手を伸ばす!!
あれ等は・・・初めて地を消し以って天界に絶望を与えんとする憎しみと-余暇-以外で欲しくなった-不可思議な者達-を・・・・・だが伸ばした手は矢張り振り払われる。
「貴様がごときが手にしようとは厚顔無恥にもほどがあろう。」
その声に!そして目の前に見た-男-は!!!!何故!!????
それぞれが囚われようとした時それらは現れた。
雷鳴を轟かせたた者は、鞭を振った者と若きバーンの間に立ち剣を構えて追撃を阻止する・・・その男の顔にも若きバーンは混乱した!!
何故この者が・・・・あの者を・・・
黒い癖っ気のある髪を背にたなびかせている男の顔は見えずとも、今ダイとポップを包み込むように優しく抱き上げている男に、誰もが声なく、それこそ雷鳴によって退けられたキルバーンと、異空間から虎視眈々と獲物を狙っていたピロロとても絶句をし、当然心が折れ掛けたダイも、意識が完全に戻ったポップも!これは一体何が起きたのだと叫び出したいのに出なかった。
叫ぶ声すらもを呑み込みそうな大きな男であった
その男の顔には慈愛の笑みが広がっていた。
その男に抱き上げられているだけなのに、まるで何もかもから守られているような心地よさと安心感を与えられている・・・まるでそれは父というよりももっと万能感をダイとポップは感じた。
村にいた時、デルムリン島に住んでいた時、時折木漏れ日から感じた、春の日差しの中に、柔らかな風の中に、大嵐の後の雄大な夕日の中に感じていた・・・・母スティーヌが、じいちゃんが時折言っていた。
きっとそれは私達を優しく見守ってくださっているのよポップ
偉大なお方が我等を見守ってくださっておるのじゃよダイ
それは・・・・近頃では優しお姉ちゃん達を無理やり攫う悪い奴等になった・・・
それでもこの人がきっと母が、じいちゃんが言っていた・・・姿は-あいつ-と同じでも、陽の光のようなこの暖かい温もりに溢れたこの人はもしかしたら・・・・
・・・・・・・・神様?
おずおずと言ったダイとポップのか細い声に、神様と呼ばれた男の瞳は驚きによって開き、そして何かを思い出すように苦笑しながら、少年達を抱き上げている腕にさらに力を込めて包み込む姿は、まさしく慈愛に満ちた神そのものであった