それは意地か誇りか
若きバーンの思考は老バーンの徴発を受けた時とは違い、最早冷静さを取り戻している。
今戦っている目の前の老大魔王が、やがてはスタミナ切れで自分に圧され倒れ伏すのが目に見えている。
笑みを浮かべて余裕を見せているが、こちらの放つ闘気の余波でそれなりにダメージが蓄積されているのも目の前にいるからこそ分かる・・・・にも拘らず目の前の老大魔王は自分から逃げる素振りは愚か・・・・そもそもが、あのような些細な・・・意味の分からない理由で自分と敵対する道を平然と選ぶ・・・・己の手で敵を倒し切るという戦いにおける至高の快感を得られる訳でもなく、やりすぎれば己に咎が課せられるというのに怖れる事も無く・・・こ奴は・・・・・
「分からぬ!!!!!」
老大魔王の何もかもが・・・己に対して何故リスクを冒してまで敵対するのか、その理由もここまでする全ての事が分からない事が、次第に若きバーンにの思考に苛立ちを生じさせた。
「このような事をして其の方に何の益があるという!!??其の方が余の首を獲るならば!其の方の身は只では済むまい?
下手をすれば!その咎はお前が連れし異界の竜の騎士も同罪になろうというに!!!」
互いの手を止めずに打ち合う中、若きバーンは老バーンに問いただす。
なぜ己の益にもならぬ事に命を懸けているのか、下手をすれば連れてきた異界のダイどころか、大切だと言っていたあの三人にも前のりをしてきた者達全員にも何かしらの代償を求められ・・・・何もかもを毟り取られるかもしれないというのに・・・なのに!
目の前の老大魔王は自分の疑問を聞いても涼し気にしているのすらに腹が立つ!!
「この世界の事なぞ!貴様らには関わり無いというのに!!!」
この苛立ちはきっと、あの異界の忌々しい小娘から始まっているのだと若きバーンには分かっている。
この世界とは何の縁も所縁も・・・それどころか己達を理不尽に攫い!利用しようとした忌々しい神々がいるこの世界を守るが自然とばかりに・・・敵対しなければ!或いは早々にこちらに降れば見逃していた輩が・・・・この老大魔王の如くにあっさりと自分に牙を剝いたのだ!!
「・・・・っく!!」
苛立ちに力を乗せた若きバーンのゼロ距離カラミティエンドを、顔面ギリギリで老バーンは杖の刃で受け止め、刃より-炎の鳥-カイザーフェニックスを生じさせ若きバーンの顔を焼き尽くし、ダメージよりも術者の手ではなく刃の部分からのカイザーフェニックスの出現に驚いた隙を老バーンが見逃す筈も無く、今度こそ石突の部分で若きバーンの顎に打ち付け振り上げ、無防備になった喉笛にそのまま石突きを打ち付け、そのまま光球を生じさせ叩きつけ吹き飛ばした!
若きバーンはあまりの痛みに呻く事も出来ずに、世界に生じて初めて無様に地に叩きつけられ転がされながら吹き飛ばされという屈辱を味わう・・・何故・・・
「き・・・さま!!この力を持ちながら!!何故天界と地上界に膝を折った!!何故力で奴等をねじ伏せなかった!!
それをすれば!貴様の力を以てして天界の神々共に魔界の瘴気とやらの浄化を命じることて可能であろうに!!!」
「・・・・・」
「答えろ!!」
常人でなくとも、竜の騎士程度であったれば即死の攻撃にもすぐに体勢を立て直した若きバーンの問いに、老バーンが答えない事に若きバーンは苛立ちが増す。
その力を有しながら、何故弱き者達に対して己と対等だという-勘違い-をさせているのか若きバーンには理解に苦しむ。
弱きものを飼って愛でるのではない・・・・
強者であるのならば!何故竜の騎士達に膝を屈したのだと詰じる若きバーンの言葉に、老バーンは刃を水平に保ちながらもふっと笑った。
「強者か・・・・こんな余が、-広大な惑星-に住まう事も知らなんだ矮小の身たる余が強者とは・・・」
それは誰に対しての嗤いであったか・・・
世界の広大さどころか、生命の重さすら知らずにただ己の欲望のままに大戦を敢行し、魔界の神が守る筈の魔界の民すら顧みていない若きバーンに対してか、それともかつての自分か・・・
「・・・・惑星・・・・なにを・・・」
「貴様は知っているか?今余等が立っているこの大地とても、この惑星にとってはほんの少しの地であることを?」
「なにを・・・何を言っているのだ貴様は!!」
「貴様が消そうとしているこの地が!如何に奇跡の如き事象の果てに生まれた地であるかを!!
余はそれを知らなんだ・・・いや・・知っていても、それでも死にゆく魔界を優先して消滅をさせていたやも知れぬが!誰の為でもなく!!己の自己満足の為に大戦を引き起こし消す必要のない大地を消し去り!!!のみならず己を育みし魔界に被害が及ぼうとも何ら顧みぬ者が大魔王を!ましてや魔界の神を名乗る事の方が!!!余にとっては不快である事この上ないわ!!!!」
それは凄まじい怒気であった。
距離がありながらも対峙している若きバーンの身に叩きつけられ肌が張り付くほどの闘気の入り混じった怒りであった。
老バーンの怒りは、なにも己達の宝の為だけでは決して無い。
老バーンにとって大戦を起こした理由は全て魔界の為、ひいてはそこに生きる魔界の民達の為であった。
死にゆく魔界を救うべく、ただそれのみを願って・・・・それが無ければきっと自分は、魔界の一領地を治め、もしかしたら妻を娶り子をなし一族を作りその領地の安寧のみを願って生きく道を歩いてたかもしれない・・・・そんな時を夢見た時が、確かにあったのを・・・・それを捨てでも、おのが首を敵対した者達に差し出そうとしてまでも己が願ったの事は・・・・それを!滅びとは無縁の魔界に住んでいる身で!!己の力に酔いしれ高慢なる思い一つで生命を無に帰すこのような輩が!!!
「貴様は人間は強者を差別する醜き者だと言ったそうだが!広大な世界の中で営みを紡ぐ生命の尊さを知らず!美しさを知ろうともせず!!強者だ弱者だとしか馬鹿の一つ覚えの様に囀る口しか持たぬ者が!支え合い助け合いながら懸命に生きる者達が居る事も知ろうともせずに踏み躙るさまこそ醜い事この上ないと知れうつけが!!!!!」
叫びあげながら渾身のカラミティウォールを若きバーンに放ち、相殺される事を承知で撃つと同時に突っ込み、案の定直ぐに相殺された帳の向こうの若きバーンに打ち掛かる。
まるで愚かな事をしでかした若造を叱りつける老人の様な物言いに、ずっと強者として生きてきて、その様な事を面と向かって言われた事が無い若きバーンは叩きつけられる思いに、老バーンの言葉の意味が分からない。
何故・・・強者が弱者を思いやらねばならないのか・・・・
「弱き者など!強者に守られその後ろで囀り強者に阿るか影でこそこそと怯えてる以外の何が出来るというのだ!!」
老バーンの言葉を否定しようと、若きバーンは自分が知る・・・・それしか知らない事を吠え上げるが、老バーンにとっては其れこそ有象無象の言葉でしかなかった。
「その程度の見識しか持たぬ・・・だから!お前は-一人-か・・・・死神はお前のモノではなく、お前を支える影を使わねばならぬほどお前の周りには誰もおらぬか。」
「だからどうした!強者についてこられるものなどほぼなく!!王者は常に孤独・・・」
「違う!!!!」
世界の歴史を紐解けば、真の強者・英雄・天才は孤独になりがちであり、お前は一人だという老バーンの言葉を若きバーンはそれが当然だという言葉を、老バーンは力強く否定する。
「真に周りを大切にしようとすれば!自然人は付いてくる!!足りなければ力を!知恵を!優しさを与えてくれる!!生命は一人で生きているのではない!!-大勢の見知らぬ誰か-が!!!その誰かもまた支えられた先に生きているのだ!!!!」
たった一人で生きているものなど要る筈がない。
世界の生命の循環にすら数多の精霊達が今この瞬間にも働いているのを、老バーンはもう知っている。
力無きものとこの若きバーンが言う者達が田畑を耕し、衣服が作られ、物が作られ自分がそれによって生かされているのを知っている。
自分から愛情を以て接せ無い者を!理解してもらおうとしない者がどうして受け入れられよう!
「だが!!現にあの若き竜の騎士が守らんとした人間どもが!!何をしたのか貴様も・・」
「そうだ・・・・人は・・・人だけではない、魔族もモンスターもそして精霊にも神も天族にも愚かで間違いを犯すものはいる。それをした余が言えた事ではないがな。」
いつしか打ち合いはやみ、距離を取って言葉の応酬が続く。
若きバーンは人間の弱さゆえの醜さを言うが、老バーンは其の過ちを犯すのは-全ての種族-がしてしまう事だと・・・まるでティファの様に言う。
己の欲と怖れと醜さを内包するのは、どの種族も・・・・自分も含めて悲しい事に同じなのだと・・それでも
「この広い世界には、優しい者達も確かに大勢いてくれるであろうよ。」
もしかしたらこの世界はそれが少数かも知れない・・・・だがそれでも・・・
「あの若き勇者は余の問いかけに-分からない-と答えた。」
嫌いだではなく分からないと。己を苛んだ者がいるというのにだ。
ならば
「もしもその少数であっても守るとあの若き勇者が答えを出した時、其の地上がもう無いとあっては滑稽な事この上なく困るのでな。」
生命の横溢の美しさを偉大さを自分は知っている。この世界にも生きているのは人間だけで決してない。
確かに自分達には何の縁も所縁も無い世界で、もしかしたら余計なお世話であるかも知れず、目の前の若きバーン同様に高慢で自己満足の為の行動でもあるかも知れない。
それでも、狭き世界しか知らず、知ろうともせずに魔界の為でもなんでもなく、己の自己満足の為だけに生命を消そうというこの愚か者の望む通りに釈然としない老バーンは杖の刃に-残りの魔力-と気力を込める。
大勢の者達に支えられて知った生命の尊さを、この世界の本当の意味での広大で素晴らしきものが果てなくある事を教えてもらった自分が、この若きバーンの望む通りにしてなるものかと己の矜恃を掲げて
今宵ここまで
助けられた者の想いが勝つか
己一人で道を駆けあがらんとする者の想いが勝つか・・