この一撃で全てが決まる
そう、自分のこの一撃でこの世界の全てと、-この世界に連れてこられた人達と助けに来た人達-全ての人達の命運が決まるのだと、そう自覚した時ダイはの額から冷汗が流れ、心が竦むのを感じた・・感じてしまった。
今までは無我夢中で、目の前の敵を倒せばいいだけであった。
確かにロモス王と王国の命運を背負っていたかもしれないが、其れよりも島から連れてこられた爺ちゃんとポップとマァムを助ける事に夢中になり、ヒュンケルを倒して彼を心の闇から助けようと必死になって、こいつを倒して大好きなレオナを助けるんだとそれだけを念じてフレイザードを破り・・・・襲来して親父がポップとゴメちゃんに酷い事をして・・・俺が倒して止めないといけないと・・・色んな事でぐちゃぐちゃになった感情をすべて吐き出すかの如くに戦った果てに、あの場にいた皆に助けられて何とか勝てて・・・何かを背負っていると自覚して戦う事が、これ程怖ろしい事だとはダイは思いもしなかった。
ポップはいつだって自分と自分達の命を預かるように様々な作戦を考えて展開して戦ってくれたのか。
マァムは戦いながらも自分達の回復をしてくれて、ヒュンケルとクロコダインはいつだって俺達の前に立って俺達が戦いやすいようにしてくれていた・・・レオナは・・・レオナこそが国を、大勢の人達の生命をあの小さな背に背負いながら俺達の旅に付いて来てくれた・・みんな・・・それこそあの異界の大魔王は何千年も魔界という大きなものを背負って戦って・・ダイさん達も・・・もしかしたらティファさんも、こんな怖いものをずっと背負いながら戦っていたのだろうか?
技のイメージが固まり、闘志を燃やしながらも、ダイの心は千々に乱れる・・・ダイはこれまで自分の感情や思いで戦ってきたところがあり、大勢の命を守る事に繋がる戦いを数多してきたが、背負っているという自覚はこれまで皆無であった。
当然の話かも知らない。
彼は出自や一時育った場所は兎も角、物心ついてから彼が住んでいたのはモンスターアイランド・デルムリン島という狭い世界であり、良識や善悪は兎も角、人の常識もまして広さも何も知らない少年が、ある日突然世界の事を知ったので助けたいです等という異常な事が起こる筈も無く、世界を旅したとはいえども局地戦に次ぐ局地戦であり、そこを勝てばまた次に行くという連続であった。
そん中で大義だの大勢の生命だのを背負っていたのだと言われても、ダイとしては夢中で好きな人達を助ける為に闘っていたのだとしか言いようがなく、しかしそんなダイも、事ここに至っては自分が負ければ今ここにいる大好きな人達だけではなく、湖の底の神殿やパプニカ王城にいる父や仲間達だけではない・・・地上は勿論の事、天界という場所や魔界でも大勢の命が失われる・・・・それは悲しくダイにとっても嫌な事であり、それを止める為には目の前の片腕だけになった大魔王を倒さねばならない!
だが、目の前の大魔王は片腕だけになっても悠然とした表情を崩さず、それどころかこれから自分が何をするのかと期待する余裕すら感じられるのが、ダイにとっては何よりも怖ろしかった。
「どうしたのだダイ、若き竜の騎士にしてこの世界の勇者よ?余の全てを否定して余を倒すのであろう?」
にらめっこをしていても自分に勝つことは出来ぬぞと笑う大魔王・・・
もしかしたらこれから自分が放つ技も、大魔王にとってはとるに足らぬ技であり、破る自信の表れではないだろうか?
負ければ・・・-全員-が死ぬ、殺される・・・・
それが何よりもダイにとっては怖ろしかった!
負けて死ぬのが自分だけであったればどれほど楽であろうか!自分一人だけならば何も悩むことは無いのに・・・自分が愛した人達の明日が自分に掛かっているのが・・・怖い、敵と戦うよりも怖くて怖くて堪らない!!
いっそ大魔王を道連れにして・・・・
叶わぬ時は先生やポップの様に道連れに・・・
そんなとんでもない・・・覚悟ともいえない-逃げ-の思考がダイに芽生えようとした時、-ソレ-は飛んで来た・・
「ダイ!!!!頑張れダイ!!!!!おっかなくってもなんでも!!!俺はお前の事信じてんぞ!!!!!」
先程・・大魔王にボロボロにされた自分の魔法使いが、周りに助け起こされながらもしっかりとした-あの-声で自分を信じていると叫びあげていた。
「俺もな!!大事な時になると怖くなっちまって何度・・・一度お前達捨てようとしてご免!!!!怖いよな・・・逃げてぇよな・・・・けどな!それでも頑張って必死に前に進めば勝てるかもしれない道がちゃんとあるんだ!!!!弱くてビビりで臆病な俺でも!!お前とだから!!お前達とだからその道を行けたんだ!!!!」
魔法使いは今勇者が何に葛藤を抱いているのかを的確に言ってのけた。
ダイの剣に手をかけて覚悟が決まった顔をしながらも一向に動かないダイに、周りは何事が起きたのかとざわめいたが、己の臆病さをよく知っているポップだけには分かった。
ダイは今、自分だけではなく他者の生命を背負って戦う事が怖くなったのだと・・当たり前だ!!!あいつはまだ十二歳なんだぞ・・・まだまだ親や商売の手伝いをしても!野原駆けまわって、王侯貴族にはそれが無理であってもそれなりに親や大人達の庇護を受けて守ってもらえる歳のガキが!!反対にこの世界と向こうの世界の結構どころかどう考えても神々にも等しい人達の命運まで背負っちまって!!それが平気だなんて言う十二歳がいるのものかよ!あいつは・・・・・本当は島でのあいつはモンスターの友達と楽しく暮らしてた、先生の授業が難しいってゴメに愚痴ってでもさぼらない真面目な奴で、旅の間もネイル村からロモス王に会いに行く途中で見つけた川で休みがてら水掛け合って遊んでいる時の眩しい笑顔は!!確かに-ガキ-だったんだ・・・子供なんだよあいつは・・・そんな子供に何もかもを背負わせなきゃいけない世界なんて絶対に間違ってる・・・英雄譚なんて-本-の中だけで良かったんだ。
俺が夢見ていた英雄の物語何て・・・夢の中だけで・・・それでも、どんなに嫌だと思っても現実では親友のあいつにしか、ダイにしかもう大魔王バーンに勝つ術がなくて、それでも俺は、ただあいつに任すだけにしたくないんだ!!!
「もしそれで負けちまったら!!負けそうになったら俺の全部使ってその中に飛び込んでお前を絶対助けに行ってやる!!!」
きっと周りの大人達が止めるかもしれない、ヒュンケルとヒュンケルさんと、ロン・ベルク達も青年のダイさんも今の俺の言葉で俺の事注視してる・・・それでも!!
「神様ってやつが止めたって!!絶対のお前の隣に行ってやる!!!!俺の全部使って助けに行ってやるから!!いつも通りお前は難しい事考えないで大技ぶちかましちまえよダイ!!!!!」
難しい事は分からないよ・・・
凄い事が出来るのに、それが何に繋がるのかを考えた事のないダイ。
世界を助けているというのも、何となくフワフワとした実感しかなかったのが此処に来て気付いてしまった背負う者の大きさ・・・・重圧なぞ考えなくっていい・・・難しい事を考えるの、ダイの一行では勇者ではなく!魔法使いの自分の領分だとポップは自負している。
更に難しい事は!悪いがアバン先生や師匠たちに丸投げする!!
だからダイはいつもの通りでいいのだというポップの言葉に・・・
「なんだよそれ・・・・俺が馬鹿みたいじゃないのさポップ・・・・」
つい苦笑して軽口が出てしまった・・・
「馬鹿だよ!お前はさ!!!ガキだからって言って逃げてもいいのに!!!そうしないでそんな凄い所に立っている大馬鹿だよ!けどな・・・・俺はそんな大馬鹿で!!ハチャメチャで!!どんな辛い事があってもみんなと笑うお前が大好きなんだよ!!!」
大好き・・・・そうだ・・・・俺は・・・
「俺も・・」
そうだよ・・・命運とか、この後とか・・・・そうじゃない・・・・
「大好きだよ!!ポップ!!!!!」
皆が大好きだから!だから勝つんだ!!!!
その瞬間、ダイの心が明確な答えを持ち芯を通した時、ダイの剣を握っていた右手の紋章の輝きが増し、そして
カッシャン!!!
ダイの剣の鍵が解かれた。
剣が主の決意を受け取り、満を持すように鍵を開けたのだ。
「・・・・もしもダイ殿が破れた時は我等も行くぞ若きポップ・・」
「・・・・俺の無謀を止めないんだラーハルトさん・・」
「僕達・・・あぁ・・・・お嬢ちゃんとチウ君達と、ボロボロの人達や力のない人はご遠慮願いたいんだけど・・・・バーン様行く気ですよね?」
「当然ぞ。」
「私もまだ力は残ってますよ。」
「いざとなったらフェザーでできること全部して、じたばたと足掻きましょうか。」
若き少年が戦っているというのを見ている事しかできないのであれば、最後の最後届かない時に、大人がじっとしているなぞごめんこうむる・・・・二度とティファの様に何もかもを背負った挙句に砕け死んでいくような子の様を見るなどないようにと願うのは何も大魔王や向こうの大人達だけではなく、青年ダイもこの世界のヒュンケルもアバン先生も静かに残りの闘気を練り始める。
それは向こうの世界のマトリフの手によって万能薬で手当てを受け、マァムのベホイミで体を回復させたティファも同様で、自分達にもきっと何かできる事がある筈だと構えているチウ達・・・
そして、動けなくなっても自分達と同じように飛び出していきそうな面構えのヒュンケル達とノヴァとロン・ベルク達・・
少年ポップの言葉に呼応するこの場にいるみんなに、少年ポップは心から泣きたくなる。
ダイ、お前が俺達を大好きなように、俺達もお前が大好きなんだよ・・・
きっと・・いや絶対、この場にいなくとも姫さんも姫さんにくっつけていったゴメと親父さん達も、湖の底に隠した親父達やレイラさん、この場から撤退しなければならなかったカールのみんなも、お前のことが大好きだって断言できる!
だから・・・・きっと行こう・・・・・戦いに行く冒険ではない、この世界を見に行く旅にみんなと行こう・・
大好きなお前となら、どこであっても楽しい場所になる筈だから
今宵ここまで