勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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いしの積まれる世界:空に昇る竜の奇蹟

ダイは泣いた

本当にもう涙が枯れるのではないかという程泣いた。

 

父を識った・・・敵として撃たねばならない相手として。

父が魔王軍で、それも自分が大好きなポップ・マァム・ヒュンケル・ロモス王とそして・・大好きなレオナ達人間を共に滅ぼそうと言って来たから・

 

断固として戦った、自分の記憶を消去されても親友ポップの命がけの行いで記憶を取り戻してそして・・・

 

父に再会した・・・父に出会った時と違って-人間-を守り抜くと思っていた心が揺れている時に・・・もしもこの状態であの時出会っていたら・・・きっと自分は父からの提案に迷いそして・・・負けて記憶を消されて連れて行かれたかもしれない・・・そんな自分の何かに気が付いたのか、再開当初は距離を置こうとしていたのか、自分に近づこうとしなかった父が真夜中に来て、部屋の外に連れ出され満天の星空の中庭で、母との出会いや赤子の時の自分に対しての一切を淡々とだが話してくれた。

 

お前を愛していると、静かな声で告げられ頭を撫でられ、もう寝なさいと言われた時に俺は親父に心が救われた。

あの人となら、どんな苦しい戦いも戦い抜けると・・・そして親父が死んだ時、俺の心も確かに心で・・・そして戦えなくなった俺のせいで、異界というところからティファさんポップさんチウ君が巻き込まれて・・・・それでも親父が助かった事が嬉しかった・・・最低だと思いながら。

 

弱い俺のせいで幸せな時間を壊され、もしかしたらティファさん達は自分の世界に帰れない可能性だってあっただろうに、そんな事も考えずに俺は親父の生を喜んで・・・そして悲しみも味わった。

 

俺を命を懸けて戦い抜いた親父の死は絶対に決まった事で、それをひっくり返したせいで親父は俺との絆を持っていかれたって。

 

でも俺は、やっぱり親父が生きている事の方が嬉しくて、生きていれば新しい思い出や想いを積み重ねられる、デルムリン島でずっと一緒に暮らせるって。

それに・・・親父は自分の犯した罪も忘れている事が俺には嬉しかった。

 

酷い話だ、勇者の考える事じゃないと分かっていても、親父が苦しまない事の方が嬉しくて・・・・・

 

そして親父の微かな俺に対する記憶と想いが、自分の中に眠っていたことが分かって喜べば・・・・・それを天に放って力を増幅させて大魔王を討てと言われて・・・・どうして?

どうして親父と俺事を引き裂こうとするんだこの世界は!!!どうして過酷に生きた親父から何もかもを奪い取ろうとするんだよ・・・・・どうして・・・親父の幸せの記憶を取ろうとするんだよ・・・

 

どうしてどうしてと・・・・・泣いても・・・・それでも、左手の紋章を発動させた時に流れた親父と歴代の竜の騎士達の想いが忘れられない

 

生命を守る為に、強大な悪を討てと・・・・ずるいよ・・・そんな風に託されたら、俺にはできないなんて言えなよ・・・・親父達が守ったこの世界を・・・・どうして守らないなんて言える?言えない・・・言っちゃいけない・・・・だって!!だって!!!

 

 

「俺は・・・・」

 

ティファがバーンの精神体を取り押さえる事で現世世界の鬼眼王を止めていたのはほんの数分だが、その間ダイはマザードラゴンの要請を受けた後はずっと泣いていた。

 

親友のポップにも、師であるアバンにも、仲間や尊敬し始めた青年ダイ達にもどうすればいいと問う事は無く、マザードラゴンの要請以降ずっと目をつむって押し黙っているティファにも問いかける様子は無く、ただただ下を向いて泣き濡れているのを、周囲はどうしてあげることは出来なかった。

 

父との結ばれた絆が残っていたのだと嬉しそうにしていたダイを知るだけに、勇者・竜の騎士としての使命だとか、まして一度世界に絶望したダイに世界の為にと言える筈も無く、泣いているダイの背中を少年ポップが包んでやる事しか出来ずに、不甲斐ないと全員が忸怩たる思いをする中で、ダイは突如顔を上げ、涙をグシグシと両の拳で拭いながら、少年ポップの包んでくれている腕の中から歩いて出て、決然と空を見上げる。

 

数歩、たったの数歩だが、仲間達にとってそれは大いなる数歩であった。

どこか自分達を戦いの拠り所にしていた少年勇者が、空高く舞おうとする若竜の如く大地に足を踏みしめる様に、苦悩を乗り越えそして

 

「俺は勇者だ!!!生命を守る!!!竜の騎士で勇者ダイなんだ!!!!!」

 

竜が空高く昇った・・・・力強く振り上げらた-左手-から空を一路目指し、竜の紋章が空を上りそして・・・・

 

ゴロゴロ・・・・ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ゴゴ!!!

 

歴代の竜の騎士達の想いと蓄えられていたエネルギーが空を昇り、天界が空に溶け込ませていたティファが取って来た黒の核晶の三本分のエネルギーと合わさった時、膨大なエネルギーが紋章を通して顕現し、それ故に稲光が発生し空間を帯電させ蒼天を黒雲で染め上げる様は、竜が空で暴れているかの如くであり、更にうねりを上げ膨大なエネルギー同士が濃密に合わさった時其れは起きた。

 

 

ガッ!!!ガッガーーーーンンンン!!!!!!!

 

 

竜の騎士だけが使える紋章閃が、天地開闢始まって以来の最大の威力で稲妻の如く凄まじい暴虐とまで言えるほどの威力を以て動きを止めた鬼眼王と化したバーンに振り落ちる。

 

あまりの威力と速度に、精神体となったティファを追い出したバーンが最後に現世(うつしよ)で見た最後の光景は、巨大な竜の紋章であった。

 

あの・・・・忌々しい神々の尖兵たる竜の騎士に、弱いと評した勇者に・・・敗れる己がどこか滑稽で・・・

 

 

「フックックック・・・・ハッハッハッハッハッハ!!!是非も無し!!!!」

 

 

散々弱いと決めつけていた輩が、ここに来て、自分との対峙のせいで大化けした事か、それともあの-異界の化け物娘-を引き入れられた時に取り逃がしたせいか、様々な事を見過ごし逃し軽んじた結果がこれであるのならば・・・・・最後の相手となったダイが、様々な葛藤の果てに起こしたこの行いの果てに敗れるのであれば・・・・忌々しい神々の億倍もましな気概を持つこの澄んだ心を持つ少年にならば是非も無いと、バーンは己の最後をもたらす災厄を笑いながら甘んじて受けれる。

 

ティファ達がどう評価しようとも、バーンは誇り高い本物の大魔王であった。

その性は傲慢であり不遜でありそして・・・・孤高であり続けた。

 

周りを頼むことなく二度とおのれの中を荒らさせない為に

 

一人で戦いそして倒される時も、-誰-もいない。

 

忠臣もいないが見苦しく敵に向かって命乞いをして喚くような愚かな配下もいない・・・唯自分一人が倒されていくのもまた悪くは無いではないか・・・

 

見事だと・・・ここまで劣勢であった者達の、それでも手放さなかった絆とやらに魅せつけられてしまっては・・・・もういいではないか・・・・

 

栄華を極めた、強敵たちと戦い合った・・・・不本意ではあるが異界の化け物娘との頭脳戦もしあった・・・・眩しい漢達の生き様を見て・・・・

 

これ以上のものがある筈も無しと、バーンは光り輝く、空から己を滅ぼしに降ってくる光り輝く光を見据えそして、一身にあびた時、鬼眼王の肉体全てが消滅し、防御として剥き出しのバーンの本体に張られた結界のせいで、バーンの腰から上の部分だけが残され、それも石化しながら地面に叩きつけられた。

 

 

誰もが、バーンの最後に圧倒され言葉が無かった。

倒したと確信するほどの膨大なエネルギーが空に生じた時に感じた高揚も吹き飛ばす程に、敗北を受け入れたあの時のバーンの全てが凄まじく・・・そしてたとえ様も無い程の圧倒的なあの姿に、孤高の大魔王の生き様を見せられた思いがして敵の首魁を討ったとは思えない程の静寂が辺りを包む中、ティファは少し前のバーンの言葉を思い出す。

 

 

「出ていけ異界の忌々しい小娘、余はこれまで一人であった。」

 

死に際してそれを穢すなというバーンの言葉を。

 

肉体が死んでも精神世界が崩壊するまでにはタイムラグがあり、ティファはそれまではバーンと共にあろうとした。

 

死を、一人で迎えるのは悲しい事を知っているから

 

前世での死に方は、ひっそりとした死に方であったのを覚えている。

病院で一生を過ごし、友となった者達も病死し、孤独の中で誰に看取られずに夜半に息が出来なくなり朦朧としながら最後に見たのは誰かの顔ではなく、見続けていた天井であった・・・・それがひどく悲しくて寂しくて、死よりも尚怖ろしかった・・・・誰かの役に立つことも無く、誰かを助けてあげる事も出来ずに、誰かに助けられるだけの最後に誰もいなかった寂しさは・・・・せめて敵であっても、敵の首魁であっても見送る事くらいは良いだろうと思ったのだが・・・・それも自身の傲慢であったと思い知らされた。

 

「余は大魔王也、魔界の神大魔王バーン也!同情で余の最後を穢す事を許さじ。」

 

死にゆく者の想いもまた様々にあり、己の考えを押し付けることを恥じたティファは、頭を無言で深々と下げそしてバーンの精神体を自由にして立ち去り、そして少年ダイ達と共に、バーンの最期を眼に焼き付ける。

 

考え方も生き様も相容れないものであったが、それでも・・・・

 

自分達が総力を以て倒した相手は、確かに魔界の神大魔王バーンであったのだと知らしめられる相手であった・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこかの世界では、空に昇った竜は相棒の少年魔法使いを蹴落として黒の核晶と共に虚空の果てに爆発と共に行方を晦ませたが、この世界の空を昇った竜は、黒の核晶と合わさりこの世界の生命を救った・・・・・そんな結末となったのだった・・・




今宵ここまで・・・・


五百話で異界の大魔王を倒したというのはどこか感慨深いものがあります。
小石から始まり、いし【意志・意思】の積まれる世界となり思いも志も絆となり大魔王を討つことが出来ました。

一区切りとして、ここまで応援してくださった皆様、筆者の酷い誤字脱字を治してくださった皆様、このシリーズに限らず【勇者一行の料理人】を長く読んでくださる皆様に心よりお礼を申し上げさせていただきます。

エタらずにここまで書き上げる事が出来たのは皆様のおかげです。

時には筆者の考えたのよりもいい案を下さり、文章丸ごと直してくださり感謝してもし切れません。

これよりは小石世界の最終【暖かいいしの下に】を少し書かせていただいて締めたいと思います。

フラグで出したこの世界のハドラーやザボエラや、まだ残っているキルバーン達の事が気になる方はもう少しだけお付き合いただきたく思います。
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