勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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暖かいいしの下に:影の慟哭・死神の献身

突如として静寂の中を響き渡せる拍手の音に、真っ先に動いたのはティファであった。

 

-全部-思い出したのだ。

-自分の知る原作-では、大魔王を倒した後に何が起きるのかを。

 

若きバーンに向けなかった夕月を即座に取り出し抜剣し、未だ繋がっている-世界のエネルギー-から即座に必要分を回して全員の前に出て剣を構えた先にいたのは、予想を違えずにキルバーンがいた。

 

それも石化したバーンからほんの少しだけ離れた距離に。

 

「手前ぇ・・・・何しよってんだよ・・・」

 

体がある程度回復をした青年ポップが目を覚まし、即座にキルバーンを問いただす。

自分達にとって、この世界のキルバーンは猛毒のような存在であり到底-キルバーン-と呼べる存在ではなく、出会ったが最後、跡形も無く散りにするべき疎ましく悍ましいモノでしかない。

 

そんな存在が、自分達のキルバーンによって四肢を斬り落とされたというのに完璧な姿をして現れたのだ。

警戒しない方がおかしい、しかしキルバーンはそんな青年ポップを見ても、己を最大限に警戒しているティファを見ても、どころキルを見ても何の感慨も無さげにしながら悠々と石化したバーンに近づいていく。

正確には-ピロロ-が人形キルバーンを盾にするように進んでいるが、青年ダイ達にはその様な事はどうでもよく、石化したバーンを使って何をするつもりだと警戒する中、ティファが問うた。

 

「そのバーンに何か御用ですか三文死神?」

 

・・・・・もう少し言い方ないのかと思った一同はきっと悪くない・・・現に言われた当人も、あまりのド直球なティファの物言いに、怒るどころかかえって毒気を抜かれた様に唖然としているピロロと人形キルバーンは、次第に怒るのが馬鹿らしいと人形キルバーンはクスクスと笑ってしまった。

 

どこまでいっても不遜で真っ直ぐな物言いしかしない小娘に、呆れを通り越しておかしみする感じるのだから不思議だと、本体であるはずのピロロとは違う思考で笑ってしまい、ピロロを憮然とさせるが、ティファにとってはそんな事はどうでもいい。

石化したバーンをどうするつもりか再度問う。

 

「今更利用価値も何も無いと思いますよ?」

 

鬼瞳はエネルギー全てを使い果たし、石化したバーン自身も心臓三つのうち二つは確実に潰れ、何千年先かに封印が解けたとしても、最早その辺の魔族よりも弱い存在でしかないと見積もっているだけに、キルバーンが今更出てきて何がしたいのかと疑問である・・・そもそもが姿を現した理由も分からない。

 

-キルバーン-に搭載されていた黒の核晶はもう取り除かれているをティファはクロファの覗き見によって知った状況全てを知らされている。

それに黒の核晶単体で自爆したとしても何の戦略的にも戦術的にも意味合いがない。

 

そして-ミストバーン-と違い、主の仇・・・・あぁそうか・・・

 

「-迎え-に来たのですか?」

 

ティファは己の思考に生じた名前に引っかかっていた事をようやく理解しそしてキルバーンにぶつけてみた。

 

若きバーンの精神体に入り込んだ時、濃密すぎる-暗黒闘気-を感じていたのだ。

それも若きバーンのものとは違うと分かる・・・・まるで-生き物の様-なそのエネルギーの正体はもしかしたらと。

 

ティファの周りに集まり取り囲むように守る仲間達は、ティファの言葉を石化したバーンを守りに来たのだろうかと誤解をした。

 

「・・・・其の方にも忠義の心とやらがあったのか?」

 

あまり口をききたい相手ではないが、老大魔王はこの中で一番の年長であり、ティファに何もかもの口利きをさせるのも嫌なので代表して目の前のキルバーンに尋ねたが、鼻で笑われ一蹴された。

 

「御冗談を!僕はそこの-男-と違って石化している大魔王に忠誠などという者を抱いた事は一度としてありはしませんよ。

僕はヴェルザー配下で主から命を受けたが故に、大魔王に仕える義理はあれども義務なぞ無いのですから。」

 

-何時もの様に-誰が相手であろうとも飄々とし、間違いを小馬鹿にしたようなしぐさをするキルバーンに、キルは本気で怒気を発しそのまま打ち掛かろうとするのを老大魔王にやめよと言われて渋々と気配を落ち着かせるのを横目に、キルバーンは石化したバーンに近づき、そして石化したバーンに触れたのはピロロの方であった。

 

ピロロは普段脱ぐことのないバーンの紋章帽子を捨てる様に脱ぎさり、石化したバーンの鬼瞳の箇所に額をつけ、そして・・・暗黒闘気を迸らせる。

 

君がまだそこにいるのは分かってる・・・・戻ってきておくれよ・・・

 

その闘気の量は、-一つ目ピエロ-が持ちえる限度を超しており、ダイ達が駆けよってピロロを止めようとしたのを止めたのは、人形キルバーンではなく、ティファであった。

 

ティファは無言で再び全員の前に立ち、何故か夕月を鞘に納めて両手を広げて駆けようとする男達を止めている間に、ピロロとキルバーンの望んだものが姿を徐々に現し始め、男達は益々警戒をした。

 

ピロロの暗黒闘気を依り代にするかの如く、始めは暗黒闘気の迸りが蠢いたかのように見えたが、少しずつ像を結びやがて-濃い霧-の如く集まりそして・・・凝り表された姿に、老大魔王達もどこか納得をした声音で姿を露わにした者の名前をぽつりと、そしてピロロとキルバーンは感に堪えかねたように喘ぐようにその名を呼んだ。

 

「ミスト・・・」

 

その名を呼ばれた-霧-は、目を見開いた。

霧の大きさは最早往時の姿は無く、一つ目ピエロのピロロを少し大きくした程度であり、禍々しい気配も一切なく、後ほんの少し何かがその身を襲えば、文字通り大気に溶けて消え果そうなほどで儚く、密度の薄いものと成り果てていた。

 

しかしピロロと人形キルバーンにとってはそんな事はどうでもいい・・・ミストが今目の前にいる!

其れだけが、今の二人にとっては重要な事でありそれ以外はどうでもいい事なのだから。

 

「ミスト・・・・君が無事で・・・あぁ・・・僕は・・・・-僕達-は本当に嬉しいよ・・」

 

人形キルバーンはダイ達を警戒しながらもピロロとその大きさになってしまったミストバーンを守るように腕の中に納めようと近づいたが、それは叶わなかった・・・ダイ達が何かをしたわけではなく、まして第三者が来て阻害したわけでも決してない。

 

「ふざけるな!!!貴様との約定とやらのせいで!!私はバーン様と共に逝く事を拒絶され弾き出されたのだぞ!!!!!」

 

儚く消え果そうな姿とは裏腹に、ミストバーンの慟哭の声は凄まじく、親友と認め口にする事もためらわなくなったキルバーンを拒絶したのだ。

 

 

 

 

 

 

-遡ったバーンの精神世界-

 

 

・・・・余は・・・死ぬのか・・・

 

異界の忌々しい小娘ティファを追い出した後、現世にて少年ダイの最期の一撃を受けた時、ティファの考えた通り精神世界では少しの時差が生じ、走馬灯のような思いがバーンの頭をよぎる。

 

後悔は無い、ティファに言った事は強がりでも何でもない・・・しかし、己の成した事は全て勝者となった者達によって消されていくのだろうかとぼんやりと想いながら消えようとした時、幽かに自分を呼ぶ声に、思考をそちらに向ければ・・黒き霧が凝り、やがて固まって見せた姿は・・・

 

「其方かミストバーンよ・・・」

「・・・・バーン様・・・・」

 

死神に言う事を聞かせるために、取り込むことはせずとも己の肉体の中に隠したミストバーンに対してもどこか冷めた瞳を向ける。

 

この世界のバーンは、己に数千年付き従ったミストバーンに対しても一線を引いて親しくミストと呼んだことは一度してなく、それは最期の時となった今であっても尚それを崩そうとしないのを、ミストバーンは悲しく思う。

 

己は他と違い、どこまでも目の前の主だけを振り仰ぎ今日まで-存在-してきた。

生きてきたというのにはあまりにも本来の生命体から逸脱した自分・・・そんな自分を主だけが必要だと言って拾ってくれたお方・・・・せめて最期は共に-逝く-事を望み、主に取り込まれなかった身を捧げようとしたが

 

「失せよ、我が目路より疾く。」

 

あの忌々しい小娘と同列に扱われるが如く出て行けと・・・

そんな主に、ミストバーンは時間がないなりにも切々と語る。

己が主以外に振り仰ぐことは金輪際なく、地獄であろうとも共にありたい事を・・・友を許してほしいと懇願する様は・・・若きバーンをしても心動かされるほどの熱があり、二心無いと分かってもそれでも・・・

 

「ならぬ・・・・」

「バーン様!!!」

 

許されないのであれば!なし崩し的にも側にいようとミストバーンはしようとした。

じきに、現世の肉体は全て崩壊し精神世界も共に崩れる・・・許されなくとも供にと・・だが、ミストバーンのそんな健気な願いさえ若きバーンは許さなかった。

 

己の美意識故か、それとも最期の最後になって忠臣と言えるものが本当に間近にあり続けてくれたことを知って為かは分からないが・・・・バーンはミストバーンを拾い、己の若き肉体を預けて、内政を仕切らせる宰相位も付けても真の意味ではミストバーンの事を信じてはいなかった。

こ奴も強者である自分の側であれば安泰であろうと、-その他大勢-と共に括っていた。

だがここに来て・・・共にあるというミストバーンに、だからこそ若きバーンは拒絶したのかもしれない。

 

ミストバーンの考えた通り、精神世界も崩壊が始まり、ミストバーンは主から離れないようにと己の暗黒闘気の集合体の姿を主の肉体に鎧のように覆いかぶさろうとしたが、カランと宝玉に入れられたのだ!

 

「主様!!バーン様!!!!」

「ミストバーン・・・・余はあの死神と約定をした。」

「キルと・・・・それとこれと何の意味が!!」

「余の望む通りに動けば其方を褒美に返してやるとな。」

 

死神は其の約定通りに動いた、であるのならば自分もまた約定を違えることをする気は一切ない。

時に凄まじい謀略戦を行い、それにより無関係の者達の血を大量に流そうとも眉一つ動かさないで生きてきたバーンにとっても、約定を交えた相手が違えなかった時に反故にする事は無かった。

 

故にこそ、ミストバーンはそのような主に惹かれたのだ。

薄汚れた事も平然と行う主が、筋を通す時はどれほど格下の者であっても通すのを見る時に、ミストバーンの心は震えた。

 

綺麗事なぞ何の役にも立たない魔界の中に会って、真剣に約定を守る主の姿は凛として誇り高く知略・謀略をすれども偽りを言った事は終ぞなく、強者故と言われようが、ならば舌先三寸のヴェルザーはどうなのだとミストバーンは彼の冥竜王を主と同じ強者だとは認めず唾棄し忌み、バーン様だけが真の主だと崇める程であった・・・それ故に、ミストバーンはこの期に及んでも己を受け入れてくれない主にではなく、約定を結んだ相手、即ち親友のキルバーンを心の底から憎んだ。

 

主はきっと、約定が無ければ自分も連れて行ってくれたかもしれないと、誰にも分らない未来を潰された気がして・・・

 

「バーン様!バーン様!!!!」

 

それでも、最期くらいはそれを曲げて欲しいと駄々をこねる子供の様に宝玉内で壁を叩き懇願するミストバーンに、バーンは滅多に見せたことが無い・・・もしかしたら初めて見るかもしれない苦笑する顔に、ミストバーンは目を見開き驚く中

 

「余を、困らせてくれるなミストバーンよ・・・・」

「あ・・・あぁ・・・・」

 

酷いお方だ・・・・狡いお方だ!!!!

最期に!!そんな風に弱々しく言われては・・・・

 

「余を約定も守れぬ道化にしてくれるな。」

「バーン・・・・様・・・・」

 

様々な者達の想いと命を踏み躙った果てに・・・・自分の想いも・・・・己の名をあのように呼ぶことで・・・

 

 

崩壊する精神世界の中で、砕け散る中で最後に口にしたのが・・・

 

「さらばだミスト・・・」

 

ずっと呼ばれたいと思い焦がれていた己の名を・・・・この時に・・・・

 

「バーン様!!!!!!」

 

 

 

 

 

「貴様との約定故に!!私は・・・私はバーン様がいてくださるだけでよかったのだ!!

あのお方のいない世界に何の意味があるというのだ!!!!」

「ミスト・・・・・」

「私をそう呼ぶな!!!そう呼んでよいお方は・・・もうどこにもいないのだ!!!!」

 

自らの生命を振り絞ったピロロの暗黒闘気のお陰であるとは知らずとも、ミストバーンは-キルバーン-を拒絶し、暗黒闘気の生命体故に涙は流れずとも慟哭する。

 

だが、影が慟哭し拒絶し石化したバーンのに身から離れようとしなくとも、キルバーン達は気にも留めずに石化したバーン諸共-ミスト-を守ろうと囲い込む。

 

親友の出現と慟哭に驚き動けない者達が正気ずいた時、ミストだけでも守る為に-通路-を構成する時まで気は抜けないと・・・・




今宵ここまで
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