その日の夕刻、全世界の空に黒雲が渦巻き瞬く間に夕焼け空が暗雲立ち込める禍々しい空と成り果てたのを、人々は一様に不安に駆られ空を指差し、ある者は建物から出て何事だと喚き、ある者達はその反対に屋内に逃げ込み身を寄せ合って隠れる中、暗雲の中か雷鳴轟きくとも雲の間を丸で光の竜の如く稲光が横走りするのを、街・平原・山間・海沿いは無論の事
「王よ!危険です!!お早く中に!!!」
「ええぃ!騒ぐな!!」
「クルテマッカ王様!!」
「騒ぐなと・・・これは・・・一体何が・・」
ベンガーナ王が
「フォルケン王様!・・・過日竜の騎士とそのご子息の勇者ダイ殿達が激突した時以上の禍々しい気配を帯びた暗雲が、視界の届くところ全てに覆われております!!」
「なんという・・・一体何が・・・」
テラン王が
「ロモス王・・」
「皆の者・・・信じよう・・・ワシ等に出来る事はあの子等の無事を祈り、何事があっても助けに行けるように騎士団・兵士団達を動かせるようにせよ。」
ロモス王がそれぞれの国で重臣たちと共に悟る。
きっと、勇者達が最後の決戦をしている影響が世界を覆っているのだと・・・
しかし今勇者達の動向をフローラの親書が届く王族達と違い、庶民達は不安の坩堝に突如叩き落されたようなものであり、不安に駆られる中
「怖れないでください!!」
その声は過日リンガイアとロモスに勇者達の戦況を届けてくれた少女の声が響き渡り、知っていた者達は縋るようにその声に聞き入り、知らぬ者達もその凛とした声に希望を見いだそうと声に聞き入れば、暗雲垂れ込める空一面に-映像が二つ-出現し、一つには地に伏している若い少年少女と大ネズミと鎧を着込んだ青年とリザードマンが、ズタズタの体を必死に起こして空に向かって何かを叫んでおり、もう一つには-蒼い空-の中で戦っている少年と-若き偉丈夫の魔族-が戦いを繰り広げていた!!
「皆さん!地上に生きとし生ける皆さん!!今世界を覆い尽くしている暗雲は、映像に映っている者達の激突が影響しているに過ぎません!!
戦っている少年は数か月前にロモス王国を救ったのをきっかけに、魔王軍によって蹂躙されていた各国を救っている救国の英雄勇者ダイであり、相手は魔王軍が統治者大魔王バーンなのです!!!」
少女の言葉に、誰もがくちを利くことが出来なかった。
今自分達の世界を脅かしている魔王軍の、それも魔王ではなく大魔王と言われるものが姿を現し直々に勇者と戦っている・・・地上に伏しながらも勇者ダイの名を呼んでいる中、空中での大激突が一つ起こるたびに、地上を覆っている暗雲から雷鳴が轟き、少女の言が本当であることを示唆している!!
・・・神話の中の、お伽噺の様な一大決戦とは、勇者とその敵達が自分達とは離れた遠くの未開の地に築かれた敵の拠点で繰り広げられ、いつの間にか倒されその知らせを受けるだけであった筈が・・・今、地上の者達の目の前で繰り広げられている戦いに、誰もが声なく恐怖に或いは勇者達の雄姿に或いは戦う勇者と地に伏している勇者の仲間達の姿に絶望するなど、様々な心境から口を閉ざして誰もが、それこそこそ王侯貴族や賢者・神官・大神官達までもが言葉なくその光景を見ている中、映像から-少年勇者-と-大魔王バーン-の会話が次第に聞こえ始めていた。
「・・・ぜ・・そこまで傷だらけになっても余に逆らうかダイよ!!」
「・・・・・さい・・・お前を倒すって!!倒して皆とこの世界を旅するんだって決めたんだ!!!」
「ば・・・かな事を!愚かな事を!!お前達だけに戦いの業を背負わし傍観している者達の為になぜ貴様は!貴様等はその身を賭して戦うのだ!!」
「・・るさい!!黙れ!!!!」
「ふん!余の問いに真っ向から答えられぬとは貴様の覚悟もたかが知れといよう!!童は童らしく!!大人であり三随一一の強者たる余に縋りつけばいいもの!!!
子等に縋りつく醜きこの世界なぞ見捨てよダイ!!!!」
「るさい・・・五月蠅い!!黙れよ!!!!」
大魔王バーンの言葉に、抵抗しながらもその言葉に痛めつけらる少年勇者の表情に、そして大魔王バーンの言葉に大半の大人達の心が痛む・・・・あの魔族の男の言う通り・・・自分達は地に伏しそして今なお戦っている少年少女達に縋って生き永らえている・・・・魔王軍の脅威を取り除いてきたのは紛れも無く彼等であり、それらに報いてやれることも無く今日まで来た事を、大人達特に王達は己らの不甲斐なさを、過日のパプニカ王国で行われた世界会議の場にて、敵からの襲来から身を守ってくれた彼等を知ってから思わぬ日は無かった。
何が王か、何が王侯貴族か・・・・国どころか己達のみすら守ってもらった彼等は一様に忸怩たる思いに胸を焦がし、故にカール王国の女王フローラからの呼びかけに応じて武具・食料品等の、現状で出来うる中での支援を惜しみなくしたとても!最後に最前線にて戦うのは彼等であり自分達は見ている事しかできない・・・まさしく子供等に取り縋っている醜い者ではないかと・・・・
城内外から、街々から、村々からすすり泣く声が響き渡る・・・・善良であればあるほどに魔族の男の言い分が突き刺さり、幼気な子等のお陰で今日を過ごせていたことを知らずにいた事に対する罪悪が、そうでない者達も不貞腐れたような、俺達は別にと、目の前にいない誰かに言い訳をしようとしてしくじり苦い思いが広がる中、ベンガーナの地にて泣いている女の子がいた・・・
「お・・・母さん・・・・どうしよ・・・・私・・・あのお兄ちゃんに・・・酷い事した!!!」
「あ・・・」
「今みたいにあのお兄ちゃんだって怪我してたのに・・・私怖くって・・・お兄ちゃんに石投げて・・・」
それはダイの人からかけ離れ過ぎた力に恐れ戦きダイに無意識に小石を投げてしまった少女であった。
少女はあの時、助けてくれた人に感謝の心が無かったわけではなかった・・・しかし状況が悪かった。
少女は母と一緒に楽しい買い物に行ける事を喜び、その先で出会ってしまった竜の軍団の襲撃に巻き込まれてしまった。
竜どころか、ベンガーナの町中に住んでいればモンスターを見かける事すらまずない中で育った少女にとって、竜を見ただけで胸が潰れる程の恐怖の中、母も自分も死にかけた先で見てしまった-圧倒的な暴力-
あれはまさしくダイには制御できていなかった力であり、加減せずに振いし力は暴力と言えよう程の力に、平和の中にいた少女が怯える事は無理からぬことであり、双方の悲劇でもあった。
だからと言って、少女がその後助けてくれた恩人に小石とはいえども石を投げつけあまつ当ててしまった事を悔いていない訳ではなかった。
あの後、周りの大人達からあんな得体のしれない力を振う小僧相手では仕方が無いと・・・どこか悪い顔をして言い募る男達を一喝した女性がいた。
それがダイに助けられた少女の母であった。
石に挟まれしばらく朦朧とした意識ではあったが、それでも我が子がしてしまった不始末をつぶさに見ており、もしも意識があったればその場で即座に叱ったものをと悔いながらも、助けてくれた大恩人に大の大人が何を言っているのだと少女諸共に叱りつけたのだ。
あの少年が助けてくれなければ今頃は自分達は死んでいたのだと、母親は少女の肩を掴み真剣に諭す中、少女もまさか投げた小石が当たるとは思っていなかった為に、以来その事を夢に見る・・・助けてくれたお兄ちゃんに、酷い言葉を投げつける大人と石を投げる自分の夢を・・・きっと・・・・・お兄ちゃんは傷ついた筈だ・・・だって自分が小石を投げた後、お兄ちゃんは青褪めて逃げるように自分達の前からいなくなってしまって・・・それ以来その顔が頭から離れないのに・・・・次に見た時はお兄ちゃんと魔法を使っていたお兄ちゃんも傷だらけで・・それでも戦っているお兄ちゃんに自分は何ていう事をと、少女の小さな胸が押しつぶされかけた時
「知っているぞダイ!過日貴様はベンガーナにて人間を襲って来た竜達から守ったが!!その守りし人間の!!それも少女から小石を投げつけられた事を!!
あれこそが人間達の貴様に対する答え・・・」
「違う!!!!!!!」
自分の・・・自分達の所業を知られそれを口に出された時、少女とあの場にいた大人達は青醒め・・・非道を働いた自分達を、あの少年勇者は見捨てるだろうと思われたが、違うという言葉が少年勇者から飛び出た!
「何が違うというのだダイ!!」
「人間が全部酷い人みたいに言うなよ!!確かに俺の事を怖いって言った人達が居た!!俺に酷い事した子も・・でもな!!力しかない馬鹿な俺を!ポップがずっと助けてくれた!馬鹿みたいに悩んでいる時にあいつはいつだって俺と一緒に悩んで答えを探してくれて戦ってくれた!!
俺が落ち込んでたらマァムとメルルと大ネズミのチウが慰めて力をくれたんだ!!
力しかなくって戦い方が下手だった時!ヒュンケルとクロコダインが体を張ってドジった俺達を助けてくれて・・ロモスの王様は俺達の事を勇者だって言ってくれて!ベンガーナ王様もテランの王様も俺達の事を応援してくれて!お城の人達も三賢者の人達も!!皆戦って俺達の事を助けてくれたんだ!!!
何も知らないお前が酷い事言うなよ!!!!」
己の心情を曝け出し、少年勇者は剣を振って大魔王バーンの体に傷をつけていく・・・それは少年勇者ダイの心の怒りを表すかの如くで・・・・その言葉に、どれ程の者達の心がその瞬間に救われている事か・・・
「ダイ君・・・・すまない・・・その場で共に戦ってやれずに・・」
「・・・・ディーノ・・・」
「・・・バラン様!!私にディーノ様の側に行く御許可を!!飛竜を呼べば・・」
「いけません!!」
「姫君!!」
「三賢者及び竜の騎士バランの従者にして竜騎衆のラーハルト!今あの戦いに貴方達が行ったとて足手纏いにしかならないのは戦士ではない私にも分かります・・・・・私と一緒に耐えてください・・・・」
「・・・・姫様・・・・」
「お・・・・おぉ!!!」
レオナの言葉に、三賢者とバラン達は泣きながら映像を食い入るように見入り、ラーハルトは己の力の無さを不甲斐ないと泣きながら地面をたたき割り、拳から血が出るのにも構わず映像を見る・・・・主の子息にして敬愛できるもう一人の幼き主を
だが、どれ程の決意をしてもダイがバーンに一つの傷をつける中、バーンはダイに十の傷をつけ、そしてぐらりと空中で身を崩したダイがやられると、世界の者達の悲鳴が上がりかけた。
誰もが、迫りくる大魔王バーンの手刀でダイの体が叩きのめされると、バランさえ覚悟した時其れはきた。
「キぃ~ヒッヒッヒッヒ、魔界の神と呼ばれた男が、童相手に大人気の無い。」
「き・・・様!ザボエラ!!この光輪を解かぬか!!!」
大魔王バーンの手刀が決まりかけた時、けったいな・・・・・・そうとしか言いようの無い笑い声と共に闘気か呪法で作られた鎖が大魔王バーンの全身を縛り上げ、難を逃れたダイも驚く中大魔王は配下の者に命じたが、ザボエラは動じずに、呆けたダイをサッサとこっちに来いと指図し、あ、うんとフラフラと近づくダイを見ながらザボエラと、大魔王バーンに呼ばわれた小柄な・・少年勇者よりも小さな身体の顔は・・・以下省略な翁の魔族がニンマリと笑う。
「大魔王様・・・貴方はやりすぎましたな。地上を全て巨大呪法によって滅しようとしたのを-狭間の世界-の者達と、魔界の-とあるところ-が騒ぎ儂に泣きついて来ましてな。
-地上が消滅されれば魔界と地上の間にある俺達の世界も崩壊する-と、魔界からは地上が無くなれば実りある場所が減って早晩魔界は滅ぶ、もう大魔王にはついていけないと、-大多数-からの声に儂も決めましたのじゃ。」
「ザボエラ・・・・貴様裏切るか!!」
「ふむ・・・・己の利益にもならぬ、それどころか地上が消えてしもうては魔界も狭間の世界の住人達もそして-儂-も困るのですじゃよ。
地上を征服するからと話に乗りましたが、真意が奈辺にあるか分かった今はお暇させていただきましょう。」
「こ・・・の!!裏切り者が!!!!」
吠えども、大魔王バーンを縛っている鎖は容易には切られないらしく、大魔王が藻掻くのを見る中バランとラーハルトとザボエラに苦しめられたバダックは驚愕をした!!
あの欲深さと強者に媚びる事にかけては右に出る者はいなさそうな出世欲の権現たるザボエラが!!最高権威に逆らい堂々と離反している・・・・一体何が起きているのか分からないとは・・・・・現場にいるダイもぽかんとしている。
それを更にザボエラが叱責をした!
「勇者の小僧!お前の味方ではない!!勘違いしていないでぼうっとぃてるな!!」
「あ・・・・うん・・・」
「分かったら・・・・・・フバーハ!!!」
「ッ!!全開!!竜闘気!!!」
二人の遣り取りの隙を縫うかのように、鎖を引きちぎったバーンのメラゾーマの化身カイザーフェニックスを二人は魔法と竜闘気で防御するのを、大魔王は嘲笑う。
「ザボエラよ、貴様がどのような策を用いて余に勝とうとしたかは知らぬが・・・・ここいら一体の罠は全て焼かせてもらったぞ?」
言葉に通り、見れば何もなさそうな空中が燃えている部分があり、それを見てザボエラが青くなるのを大魔王バーンが嗤う。
「策ならず・・・・哀れよな。狭間の世界も!魔界も弱いのであれば余にひれ伏し黙って死んでおればよいものを!!
ダイ!貴様にも余を倒す力はあるまい!!!」
折角来た援軍も、あの地上どころか己の故郷でも構わずに破壊するという邪悪な存在に、最早成す術は無いのだろうか?
誰もが膝をつき、心折れる中、勇者だけは諦めていなかった!
「諦めない・・・」
「何?」
「俺は!!諦めない・・・・・助けてくれてありがとうザボエラ・・・・・おかげで俺の最期の力を全部使えそうだ・・」
「・・・・まだ何かできる事があるというのかダイ?」
「ある!!俺の先生が教えてくれた!!どんな困難時であっても!!ジタバタと足掻けって!!!諦めなければきっと光明が見えるって!!
俺は・・・・この紋章に全ての力を注ぐ!!!
ザボエラ!力貸して!!!」
「・・・・・仕方ないのう・・・・・良かろう・・・」
「・・・この・・・小賢しい奴らめ!!!!」
老人魔族が、少年勇者の前に出て、向かってくる大魔王を先程の鎖を他方から魔法陣を出して捕縛する。
「またこれか!芸の無い!!!」
「ヒッヒ!そう言って囚われているのは誰か・・・・早うせい!!小僧!!!!」
大魔王の言葉に対して余裕があるように言おうとするザボエラであったが、鎖が早くもひび割れるのを見て焦るのを、世界中のそれもザボエラをよく知っているバランとラーハルトとも、祈るように見ている。
あの翁の奈辺がどこにあろうとも、それでもダイを助けている事実に変わりなく、そして世界が祈る中ダイの右手に宿る竜の紋章が煌々と輝き、ライデインを剣に落としそして・・・・
「大魔王!!!俺の全てを込めた!!ライデインストラッシュだ!!!!!」
「小僧!!!!!」
技が放たれる寸前に、大魔王も鎖を引きちぎりダイに向かっていきそしてダイの剣と大魔王バーンの手刀がぶつかった時・・・・映像は途切れ空からまるで世界が壊れるような大音声が鳴り響き・・・・そして暗雲が引きちぎられるように突如として霧散しそして・・・・夕焼けの空が地上に現れた。
誰もが、その空を見上げる・・・・・映像がまた結ばれ・・・・・勇者が勝ったという雄姿が映る事を信じて・・しかしどれだけ待とうとも映像は現れず・・・・バラン達は膝をつき、絶望に突き落とされる・・・・もしもあの少女の声がティファであったならば、また映像を結ぶために無茶をして今度こそ命を落としてしまったのではないか・・・考えてみれば!映像には異界の者達はだれ一人おらず!!ディーノたちを守る為にその命を・・・そして息子とその仲間達も・・・・・そう絶望したのはバランだけではなく、数日を共にしたレオナも同様であったが、彼女は己が取り乱せば国が乱れる事を重々承知しており・・・悲しみをこぶしを握り締め血をにじませて耐える。
ダイが死んでしまったのであれば、この後自分達も直ぐに後を追うのだから・・・・最早大魔王に勝てる者はいないと覚悟を決めた。
しかしその覚悟は、一条の光が夕焼けの空を割くようにして飛来してきた時に霧散した。
その時と同じくして、各国にも急報が届けられ、各王家と指導者たちはすぐさま動き、王城内外に、村々に、街々に知らせを緊急用のキメラの翼を渡して報せに行かせた。
即ち、勇者ダイが全ての力を使い果たしながらも、仲間達と最後にやって来た魔族の老人と共に大魔王バーンを討ち果たした事を。
王城内外や街々には馬を走らせた使者たちが触れ回り、村々には村長の下に集まった者達に報せた
其の報せを受けた瞬間、世界は歓喜に包まれ誰もが喜びに沸きたった。
少年勇者とその仲間達と魔族の老人がこの世界を救ってくれたことを寿いで・・・・
そしてベンガーナの少女も泣いていた。
あのお兄ちゃんが無事でいてくれた事が嬉しくて、何年かかっても良いからいつか謝りに行くんだと泣きながら誓ったのだった。
今宵ここまで・・・・
お疲れ様でした・・・