勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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世界に散らばるいし達:エピローグ⑥

無事に戻ってこられたはずのポップの異変を説明したのは、どう説明すべきかを悩むティファではなくチウであった。

 

ある意味ポップに、-あの時-何が起きたのかを知っているのはチウの方であり、話を自分よりも又聞きしたティファよりも詳しい事を、あの場で何が起きたのかを異界のアバンに少年ポップが説明を、呆然としていたポップを抱きしめながら耳で捉えており・・・何よりもポップの暴走魔力を一身にあびてズタボロなティファに、ポップの心の傷などという重い説明役をさせたくないチウは、ティファの様な淀みない話し方ではないが、それでも自分の知る限りの事を話した。

 

それは悲しくて、モンスター達が身近な存在となり時には外のお茶会の時に共に興じるようになったメルルや、すっかりモンスター達と家族となったマァムや、元より家族であったダイにとってはポップと同じような衝撃を受け次第に青褪める中、ガルダンディーとボラホーン達はポップを弟のように可愛がっているだけに、優しく明るいポップの心を傷つけられたことに両の拳を握りしめ殺気立つ中、向こうに渡った大人達の殺意はそれ以上であった。

 

あの時・・・石化した若きバーンとミストバーンを様々な理由から地上界から去る事に賛成をしていかせたが・・・あの二人が空間を通ったと同時にキルバーンだけでも壊すべきであったと、キル達の殺意はすさまじく、そしてそれは-元凶-どもを己達の罪の重さを知らしめた上で踏みにじり!バラバラにしてやりたいとすらキルはあの世界に戻りたいと願う程であった・・・

 

そしてアバンとマトリフは愛弟子が負ってしまった心の傷をどうしてあげればいいのだろうかと、即座に算段し、ダイとメルル達は眠っているポップの下に参じて涙を溢す。

 

安らいだ顔に穏やかな寝息を立てているポップの心の中は、果たしてどうなってしまっているのか。

 

向こうにいた時のポップは自分達との再会時に大泣きをしていたがそれ以外はいつも通りであり、-無事でよかった-と・・・・単純に喜び、本当の意味で大丈夫だったのかと深く考えなかった己が不甲斐ないと悔し泣きをするヒュンケルを、親友のラーハルトはとにもかくにもポップの心が休まるようにしてやろうとヒュンケルを慰めながら、その心の内ではどうにかあちらに戻って、キル同様元凶であった無能な神々共を槍の錆に出来ないだろうかと怒りに沸いている中、ティファの声が流れた。

 

「チウ君、ポップ兄が-キメラ達-を手にかけてしまったのは私も知ってる。」

 

それは決して大きな声ではなかったが、自分の質問から逃げる事を許さない力強い声であった。

二代目大魔導士・炎の魔法使いの人間から逸脱した魔力を持っているポップの暴走を一身に受けたとは思えないほどの力強い声音と同じくらいの意思の強さを乗せた瞳がチウの顔を見た時、チウの顔に動揺が広がるのを見たティファは確信をしてそれを言葉に出した。

 

「ポップ兄が苦しんでいるのはキメラ達をその手にかけた事だけじゃない。

-その後-私が知らない事があったんでしょう。」

「それは・・・・」

 

無いと言えないチウは、それでも自分とポップが知ってしまったこの世界のモンスターがどのように思われ始めているかを、周り特にティファに知ってほしくはないというのがチウの考えであった。

 

ティファさんは優しい、それはポップ以上に・・・・そのティファさんが助けたと言っても過言ではない世界が、酷い事を考えている者がいるのを知られたくなくて、チウの口は重くなるのを、ティファの溜息にチウの方はびくりと跳ねる・・・・きっと、変に頑固な自分を叱るような思いであるのだろうかと。

 

だがそれは違った、ティファが溜息をついたのは別の理由であり、それをチウにきちんと説明をする。

 

「チウ君、ポップ兄を助けるにはきちんと-傷になった大本-を知らないといけないんだよ。

大本を知らないとどう助けてあげればいいか分からないからね。」

 

例えば咳をしたとしても、それが喉を傷めてしまったものからか、風邪なのか或いは肺の病気なのかもしれない。

 

同じ咳をしたにしても、それぞれの症状によって治療の根本から変わってくる。

それは心の傷も同じであり、ポップが何に苦しんでいるのかを知っていた上げなければ助けようがないのだというティファの言葉に、ノヴァに師事して医療活動にも従事し始めているチウには分かりやすすぎる程の説明に、チウは観念した。

 

間違った治療は致死率を上げるだけだという、普段は優しくともこと師としてあらゆる医療知識を教えてくれる時のノヴァの厳しくも的確で正しい教えの中にある言葉を主出したチウは、-正しい情報-を話さないという選択肢はなかった・・・それは偏に、間者たる者の生命を救う事を第一としている-リンガイア救護団-の端くれとしての矜恃でありそして傷ついているポップの為に・・・

 

ポップが、-この世界のモンスター達-を取り巻く現状が、場所によっては迫害に繋がる思想が生まれ始めてしまった事を・・・悲しい現実を図らずとも知ってしまった事を・・タイミングが悪かったとチウは思う。

 

これがあの時の後でなければポップはその考えを持っている者達に憤る事はあれども、ここまでになる事は無いのだろうと泣きそうになりながら・・・・

 

「-僕達-が今・・・・・世間の一部からどう思われているのかを・・・僕が教えてしまったんです・・・」

 

向こうのモンスター達に対する考えに怒りと共に怒鳴り込みそうになったポップを留める為に・・・・心が傷ついたポップに言わねば・・・・きっと砦の者達を向こうに回していただろうと、其れだけは避けくて・・・・

 

チウの言葉に、モンスター達の怖ろしい部分をきちんと知っているダイやマァムやメルル達はそれでも悲しくなって項垂れ、大人達は-子供達-に隠しておきたかった事を知れられてしまったかと重い溜息をつく。

 

いつかは知られる事ではあったが、其れでも知られる日が遅ければ、それこを一生子供達の耳に入らなければいいと願っていたのだが・・・・ティファは違う意味で-溜息-をつくのを、キルが目ざとく見つけた。

 

「・・・・お嬢ちゃんは・・・・モンスター達の現状を悲しまないのかい?」

 

生命を愛し、敵であっても倒し切ることが出来ない心優しいティファらしくないというキルと、そしてキルの言葉に気が付いた者達の意見は、ものの見事に裏切られる。

 

「・・・・・私としては、-そういった事-が起こるのは少なくとも大戦終結後から数年後と見積もっていたのですが、チウ君の話から察するにもっと早かったのだと知った事に少々思うところがありまして・・・」

 

そういう事とはモンスター達が人々から怖れから迫害へと至るプロセスの速さを指し示し、ティファとしては其れは平和が訪れ、人々に余裕が生まれ-余計な事-も生じ始めるのは三~四年ぐらいだろうと見積もっていたのだが・・・・チウの様子から察するに

 

「チウ君、君が助けたはずの人から心無い事を言われたのは・・・大戦終結から一年経っていない頃?」

 

ティファの確信めいた言葉に、チウは泣きたくなった・・・・人々と共に地上を守って来たと、凄いことは出来ずともその手助けをしていたという小さいながらも自負心があった自分にとって・・・・モンスター特有の聴覚の良さがあの時ほど恨めしく思った時は無かった・・・・土砂災害から救い出した者が、フォブスターにあのモンスター達を-大人しいうちに処分すべきだ-という言葉は・・・・今も自分を痛くして、それはロモス王城内であった-酷い人々の件-が収まった後だけになおさらここでも自分は・・・自分達は居所が無いのかと泣きたくなって、それでも行った相手をすぐさまゴメスがぶん殴って、俺の大切な仲間に何言いやがると大声で言ってくれた事で救われたのだが・・・・それでも・・・

 

チウのポロポロとこぼす涙が・・・・無言であっても其れが答えとなってしまった時、チウはそっとキルに抱き上げられそして優しく包み込まれ背中を優しく叩かれ、チウも優しいキルに身を押し付け涙を流す。

 

思い出すだけで痛くて・・・其の事を大切な人達に知られたくなくて。

 

だって自分の周りにいる人達も、モンスター達を友や仲間そして家族としている人達ばかりなのだから・・・・

 

チウとティファの遣り取りで、現状を知った者達の心は一様に重くなる。

 

ポップが負ってしまった心の傷の原因が、この世界にも起因しているかもしれない事に、そうであるならばポップの心を治すにはただ単純に優しい環境で穏やかに過ごさせるだけでは駄目なのだと悟って。

 

敏く賢いポップが、この世界のどこかでも罪のない、或いは殺されるほどの事をしていないモンスター達であっても、人間の差別意識や憎しみの思いで簡単に殺されてしまう事があるのだと知ってしまったのだ。

 

それは生まれ育ったランカークス村にいた時や、それこそアバンに師事する為に家と村を飛び出し師と共に旅をするようになっても知る事の無かった、興味も無かったモンスター達の優しい面をモンスターアイランド・デルムリン島でダイとティファに教わる事で知った時から、ポップにとってはモンスター達の無為な死は他人事ではなくなってしまったのだろう・・・仲間や家族とも思える程の近しい者になってしまったのだから。

 

其れこそがポップを苦しめている真の原因であるのだろう・・・そうでなければ偶発的とはいえども、先の大戦とそして向こうの世界でも-他のモンスター達-を手にかけてきたポップがここまで苦しむはずがなく、その時の手応えと-彼等の現状-が合わさってしまい、あたかも自分が殺している、或いは断末魔が心に浮かび、それが心の傷なのではないかと・・・

 

そうであるのならば、ポップの心を完全に癒すには、この世界の-根本-を如何にかしなければならない事を知ったのだから・・・・




今宵ここまで
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