勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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世界に散らばるいし達:エピローグ⑦

今日はもう全員休もうとは、魔界の神様からの言葉であった。

 

ポップが傷つき、チウもまた傷ついている事はここで話し合って解決できるような一朝一夕でできる筈も無い事であり、其れよりも長期を視野に入れて動く事を視野に入れ、何よりも眠るポップと泣き濡れながらキルの腕の中で眠ってしまったチウと、ポップの暴走に寄り傷だらけになりマトリフのベホイミによって全回復をしたティファをきちんと休める事が最優先事項であり、待ち疲れていた全員も休むべきだというバーンの言葉に、他の者達も頷いてポップとチウは男性たちだけの部屋で眠る事になり、ティファはレオナ達と大人しく休む様にとのお達しの元、ヒュンケルとクロコダインも休む事にしてそれぞれが部屋に向かった。

 

子供達を見送った大人達は、疲れた溜息と共にもう少し飲み明かしてからと、何と無しに決まってそれぞれ席に着き手酌で各々飲みたいものをグラスなりワイングラスなりに注いで飲み干す酒の・・・・・何とほろ苦い事である事か・・・・

 

「・・・・向こうで飲んだ酒の方が美味いってのも皮肉なもんだ・・・」

 

不俱戴天の仇と同じ-キルバーン-を己が手で切り刻み、ティファとチウを膝に乗せてポップを腕の中に抱えての酒と・・・・とても同じ酒だとは思えないと溢すロン・ベルクに、残った大人達、バーン・ハドラー・アバン・マトリフそしてバーンの後ろに常に控えているミストとキルの心も重く・・・先を想うだけで重いため息が出そうになるのを堪える。

 

溜息をつくと幸せが逃げるんだって・・・・

 

 

下を向いて苦しい顔で溜息をつくよりも、上を向いて笑顔で深呼吸した方がいい事ありそうだと笑った料理人の少女の言葉の言を担ぐように・・・

 

「・・・・・ポップとチウ君の傷となる-根本-を如何にかする方法なぞあるのでしょうかね・・・」

 

ショットグラスに注がれた琥珀の液体を回しながら、自身の思考も回そうと言うようなアバンの言葉に、それは無理だとこの場にいる全員が知っている。

 

アバンが言った事はすなわち、モンスター達の迫害を根絶させる事であり・・・純粋な子供達には申し訳ないが、その様な事は天地がひっくり返っても金輪際あり得ない事。

 

そも差別とはなにも人がモンスター達に抱くだけではなく、人と他腫族だけに非ず。

 

人同士もあり、それは身近な身内内でも起こりうることであり、それは人だけではなく魔族も半魔もそして・・・・清らかだと人々が信じてきた天族とてもある事だと知られたこの世界で、全ての人がモンスター達に対する偏見に基づき、或いは憎しみや何かしらの優越感などの歪んだ思惑による差別、そして人間の都合で狩られる事を全て無くすなどそれこそ・・・・

 

それを考えるだけで口の中の酒だけではなく、胸中から苦いものがこみ上げる・・・幸せだけが過ぎる今日この夜には全く相応しくなく、それを齎した他世界の愚か者達を踏み躙り殺しても尚収まらない想いが支配しかける中、バーンは其れでも-あの子供達-であればもしかしたらと信じている。

 

「一昔前であれば、勇者達と魔界の神たる大魔王と魔王が同じ席で共に食事に興じ笑いさざめく未来があると言われて信じた者達があったであろうか?」

 

アバンと同じく、ワイングラスの赤い液体をクルリと回しながらポツリと放たれたバーンの言葉に、マトリフを始め他の者達は俯いた顔を上げる。

 

バーンが行ったような言葉を、十年前でなくとも五年前、或いは・・・・

 

「俺はよ・・・大戦時の真っただ中で・・・・嬢ちゃんがダイ達や俺達の他に、ハドラーやそこにいるキルバーンとミストバーンを入れた茶会をしてみたいって言った時に度肝を抜かれたよ・・・」

 

バーンの言葉に応える様に、マトリフが一つの話をし始める。

 

それは大戦時、様々な事を背負いすぎ、仲間達に様々な秘密を抱えすぎた果てに心を壊し見も損ねたティファと再会した時の話であった。

 

あの時からティファは神々達と共に世界の根底を変える事象を具現化すべく奔走しながら並行して魔王軍から地上を守るというとんでもない負担を抱えながら、アバンから託されたダイ達を一人前の勇者一行に育てるべくそれと知られないように教え導きそして守っていた・・・・・どう考えてもキャパオーバーにもほどがあるだろうと今でも思うし、それを知らないあの時であっても、ティファは一行の為に身も心も削っていた中で、様々な事が悪い方向で重なり起きてしまった誰にとっても悲劇が、疲れ切ったティファのとどめとなった。

 

あの時の事は八割がたがティファが悪いとダイですらもが感じているのでそこは良いのだが、その後に知った事が問題であった。

 

キルが来て・・・・紆余曲折の果てに知った心の底からのティファの夢を聞いたダイ達と自分とキルは衝撃を受けたほどであった。

 

それはティファ自身が、弱り果て夢現の状態であったからこそ溢れでた事であるが、だからこそ、それこそがティファの心の底からの夢であった事を知らしめられマトリフ達は戦慄にも似た思いが生じたのだ。

 

その当時の最大の敵同士である大魔王の最高幹部達や、ダイとポップとマァムとヒュンケルの師の仇であり、古来より勇者達の相手である魔王であるハドラー達とお茶会がしたいなぞと、それはダイ達以外が聞けば間違いなくあの当時の世情を考えれば幽閉ないし最悪は処刑されても文句が言えない危険思想であったが、現実はどうなったか?

 

勇者ダイと魔法使いポップと武闘家マァムと占い師メルルと賢者でありパプニカ王女レオナの結婚式をその当時の敵達が心の底から祝福をしているではないか・・・

 

天界と地上界が手を携えることが奇跡的に起きたとしても、魔界は無いだろうという生きとし生ける知的生命達の-根本-をひっくり返しつくすことが出来たあの子供達であれば・・・この事象の具現化は何もティファだけの手柄ではない。

 

確かにそのきっかけとなり、始まりは神々達の思惑であっただろうがそれでも、あの時大魔王の最大の敵であるはずの勇者ダイが助けたいと大声で宣言をし、それに続くように声を上げてくれたポップ達の言葉が、平和を望む人々の心の最後の一押しとなったのは間違いはなく、だからこそ地上界の人々は迷いなく弱っている魔界を助けたいと声に出すことが出来た。

 

戦っていた筈の勇者達が救う言葉を発したのだから、きっと自分達の想いも間違っていないのだという勇気を与えて。

 

「・・・・・希望はあるってか?」

「あるのかもしれんな・・・・あ奴等なれば・・・・」

「あると、私は信じたいと思うのは甘いのでしょうかね?」

「俺はあるって信じてるぜアバン?なにせ嬢ちゃん達だからな・・」

「然様、あの子等であればきっと我等では及びもつかないような事を考えて仕出かしてくれるであろうし、我等も共に考え抜こう。」

「僕も、チウ君達が痛い涙を溢すのは見たくはありません・・・」

「きっと・・・・道はある筈です・・・・」

 

魔界が残るか天界と地上だけが救われるかという二択しかなかった道を、-常識-という名の道理を壊して-道-を切り開いて作ってしまった子供達であれば・・・

 

そもそもが、ここにいる大人達は全員が仲間や身近な者達は別として、その他の者達に信を置くことの無かった者達ばかりである。

 

ロン・ベルクは武器が作れて十全に発揮出来る者を好みこそすらそれ以上に深く関わる事はなく

 

ハドラーは共に戦う自軍の者達でも近しい者達のみを、それでも心の底まで曝け出したことはなく

 

アバンも人間の善性を信じこそすれ、本当の意味で信じ切ったことはなく

 

マトリフに至っては人を信じきれず、一時はアバン達以外との交流を断絶した身であり

 

バーン達は魔界を救う以外考えることなぞなかった

 

それぞれがバラバラな考えの中であっても、根底にあった思いは似通ったものがいつのまにか、解けて消えて今に至っている。

 

そう思うと誰ともなしにクスクスと笑い声が上がり、小さな笑い声がやがてさざめき合った時、不思議と苦い酒に旨味が生じる不思議さよ

 

「希望に・・・・」

「子等の幸せなる道が見つかるべく・・・」

「たとえ困難が待ち受けようとも・・」

「俺達も共に考え尽くし・・・」

「きっと見つかる事を信じて・・・」

 

誰ともいう事無く、それぞれが言葉を述べて酒を嗜む大人達は酒の入ったグラスをそれぞれに持ち上げそっと乾杯をする。

 

未来は不確定だと言われている

 

ならば良くも悪くも決まっていないのであれば、選り良い道を行く事もまた可能なはずだと、子供達の進む未来に幸ある事を願って




今宵ここまで
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