よろしくお願いします。
「へっくしょん!!・・痛い・・」
くしゃみしたら体全体が痛んで目が覚めた。
薄暗い部屋の端っこに据え付けられてるベッドに寝ている状態で、目の前に格子発見。
どうやら牢屋、それも地底魔城のようだ。
ひんやりとするベッドの感触が、少し熱をもって火照った体に心地いい。
・・人生初に捕虜になってるのにこんな感想しか出ないのも人としてやばい気がするのは気のせいだ。
良し!現状確認しよう。
えっと、私は・・腹部手当されて包帯巻かれて・・何故かショーツと・・白い長そでシャツ一枚姿。
大きさから判断するに成人男性の物って・・不死騎団でこんなシャツ持ってるってヒュンケルしか
思いつかん。
手当てしてもらった上に、服まで貸してもらえたか。散々な事を言った私に。
心の奥にはバルトスさんと同じような戦士がまだ残っているのか。
・・さっさと誤解といてあげないとだ。
とりあえずこれで動ける、眼鏡は・・取られたか・・ムカついて壊さないでほしいな。
武器と荷物は言わずもがな。
でも大丈夫、自分と一行の荷物類全部は-ラック・バイ・ラック-のマーキング済みだ。
他者の目が無い所ではハイエントは使いたい放題。
後で回収しよう。
周りを見回せば私一人、マァムさんもクロコダインもいない。
クロコダインはぜひ蘇生液に入れててほしい。
後で式飛ばして二人捜すとして・・首からかけてた金のマジックリングはどこ行った?
大切な物を入れてる金のリングと、-刀・雪白-を入れた銀のマジックリングはいつも首
から下げてる。
今回は捕まるの考慮して雪白の方はリュックに下げた鍋にして擬態させたから敵は放っとくはずだ。
銀のマジックリングは私の式で作ったからできたけど、金の方は本物なので擬態は出来なかった。
あれもマーキングして数ミリの虫の式を付けといたけど「式見。」
・・式見したら動いてる、地底魔城の廊下を・・誰かが持ってる?
どこ!その中は-取り扱い要注意物-ばかりだ!!
寝てる場合じゃない!!あれだけは取り返さないと!!
体力よし!痛み・・無視!!「ああっ!!」-バキン!-蹴りの一撃で格子ぶっ壊して
牢屋脱走!!!
「-うご(待て!)-」
ミイラ男やゾンビぞろぞろ来たけど・・「ごめん!!」
頭踏んずけて突破!!
「それ返してー!!!」
リングを追って城内大爆走だ!!!!
あいつはいつ起きる。
ヒュンケルは玉座に座り、一人苛立っていた。
一行の二人を捕虜にしたとはいえ女・子共の二人で、肝心な勇者と魔法使いに逃げられ、戦士として尊敬していた一人のクロコダインの裏切りが許せなかった。
今もあのやり取りを思い出すと心中煮えくり返る!
「天下の獣王が堕ちたものだな!」
刺し貫いた鎧の下は満身創痍、クロコダインの腹部を刺した剣をそのままにして捻れば
「ぐああ!!」
クロコダインの全身から血が噴き出す。
「・・敵に誑かされおって・・」
最早クロコダインを仲間とはみなさずに剣を抜こうとしたが、傷だらけのみであっても剣を両手で持ちダイ達の追撃を阻止してきた。
「ヒュン・・ケル・・人間は・・いいぞ・・俺のようなものが持っていない・・温かく優しく・・本当の・・勇気を・・」
死にかけの身で話しかけたことが人間への賛美だった!
自分と同じく人間を侮蔑していたあのクロコダインが
「黙れ!貴様は狂ったか!!」
敗者の戯言を聞きたくなくて刺さったままブラッディスクライドを放った。
それでも、
「・・俺も・・生まれかわれるなら・・にん・・げんに・・」
後方に吹き飛ばされ、倒れるまで人間を褒めることを止めなかった。
血を吐きながらも祈るように。
馬鹿な・・いったい何が奴をここまで変えた?
自分と同じだったものの変わり様にヒュンケルは混乱をしたが、もっと奇妙な事が起きた。
倒れ伏していたティファが剣を持ったまま這いずってクロコダインの元へと向かっている。
「はぁ・・はぁ・・っつ!」
呼吸は荒く痛みを感じながらもゆっくりと、しかし確実に。
ティファの横腹の出血も酷くなっておりボロボロの身で何をと見ていれば、クロコダインに辿り着いたティファは、腰につけている服と同系色の水色のポーチを右手で開き、何かの液体の入った小瓶を取り出した。
ヒュンケルは知らないが、中身はテランの回復の泉の水とホイミ草と血止めの薬を混ぜた斬撃用の万能薬が入っており、瓶の栓を口で取り一気にクロコダインの傷口に流し込んだ。
(これで・・蘇生液に入れて貰えば・・)
「死なないで・・くだ・・さい・・ごふっ!」
自分の方が死にそうだというのに何を!
「小娘!何故そいつを助ける!!そいつはお前の敵だろうが!!」
訳が分からない!おそらく瓶の中身は回復薬の類だろうが、自分に使わずに何故敵のクロコダインに使ったのか・・数日前に戦った相手にだ!
「ふふ・・」
笑いながらクロコダインに覆いかぶさるようにもたれながら、ちらりとこちらを見て笑っている。
おそらくもう体を動かす力もないだろうにそれでも
「この者が・・死なすには惜しい・・獣王だから・・」
つっかえつっかへと答えてきた。
まるで自分に大事な、とても大切な事を伝えようとするかのように柔らかい笑みで真剣に。
気を失いながらもティファは剣を左手に握りしめ、右手でクロコダインを包み込むように覆いかぶさったまま。
クロコダインを守るかのように。
一体こいつと言い、クロコダインと言い何なのだ!!
二人の言動が全く分からないと苛立つヒュンケルの心に-ヒュンケル-・・不意に父の声がした。
「戦士の強さは何だと思う?」
一度だけ父が尋ねたことを、
「んと、父さんみたいな強いの!!」
父を尊敬してた自分は即答をした。
「そうかそうか。」
父は嬉しそうに自分の頭を撫ぜつつ、
「ヒュンケル、本当の強さとは真に優しく、自分が見事だと思った敵には礼を尽くし、敵であってもなるたけ弱い者を相手にしない・・そう言うものが本当の戦士だと儂は考えている。」
「・・むつかしいよ父さん、敵は敵でしょ?」
「今はまだ分からんじゃろうが、何時か分かる日が来よう。
お前は儂の息子なんじゃから。力だけでは駄目なのじゃ、心も強く優しくあれ。」
・・今まで忘れていた幼き日の遠い記憶・・父との大切な想い出の一欠けらを・・
-戦士とは・・-先程のあの小娘の言葉で思い出したのだろうか?
-今のあなたは戦士ではない!-・・俺は・・父の教えを・・
「ヒュンケル様。」
不意に後ろからモルグに声を掛けられてはっと我に返った。
「ここに倒れている人間の娘たちとクロコダイン様をいかがいたしましょう。」
モルグが自分の指示を待っている。
先程はティファとクロコダインに対して強い憎しみと殺意を感じていたが、バルトスの教えを思い出いして落ち着いてきた。
この二人も・・味方の為に命を賭した見事な敵だ。
「クロコダインは蘇生液に入れてやれ、黒髪の娘も手当てをしてやれ。
運があれば命を拾うだろう。」死ねばそこまでの話だ。
「もう一人の方は?」
「手を戒めた後に牢に入れておけ、それ以上の事はせん。」
「かしこまりました。」
モルグは一礼をして早速命を果たしに行く。
ティファといったな・・こいつに分からせてやる!
自分も父と同じ戦士なのだという事を!!
久し振りにハイエントの事が書けました。
次回はゲストと主人公が絡んでドタバタします