勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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よろしくお願いします。



魔王倒します宣言

一気に成長したな~ハドラーは。

敵であっても他者の。いい方向への成長は何か嬉しい。

アバン先生が勇者辞めて教師やってた理由が何となく分かった気がする。

 

敵の前でニコニコしているのを見たヒュンケルとザボエラは気味悪くなったが、ハドラーはもう慣れた。

「お前はこの従者に何か用があったのではないか?」

ティファの用向きを尋ねる。

先程ティファが使ったのはアンデット語だった。

ならばモルグの方に用があったはずだと。

 

「あ・・忘れてました。」

いけない、いけない。

ハドラーの成長が嬉しくてつい忘れてた。

 

「ソーマ―レ(すみません)

 メイネームド・ティファ(私はティファと言います)

 トゥレイマール・リング・カムパッタ(その手にあるリングをお返しください)

 ウェルポン・ナウノウ(武器の類ではありませんので)」

 

じいちゃんに教わったアンデッド語が果たしてモルグさんに通じるか不安だ。

転生して早十二年。

やること沢山あって、モルグさんが人語が出来たかどうか細かいとこはすっかり忘れた。

アンデット語なら通じると思うけど、駄目ならヒュンケルにリング返還頼もう。

 

果たして

「カウム(分かりました)」

モルグが応えた。

「メイマスティアール・ヒュンケル・エニフレイン(私の主のヒュンケル様に聞きましょう)」

ティファと同じくアンデット語で。

 

 

「モルグ!先程からこの小娘となんの話をしている!!」

アンデッド語が分からないヒュンケルはものすごく苛立った声で従者に問いただした。

「これは申し訳ありませんヒュンケル様。

 こちらの娘さんがアンデッド語を・・つい懐かしくなってしまって。

 娘さん、私は人の言葉が話せますのでそちらで。」

主を不快にさせてしまったとモルグはすぐにヒュンケルに詫びた。

主は戦は強いが心はとっても繊細で、断固として認めないだろうが結構な寂しがり屋の面を

持っている。

今のも詰問と言うよりも拗ねた声だった。

主を大切にしているモルグはすぐさまヒュンケルの事をフォローする出来た従者なのだった。

 

 

「そうなんですか、出過ぎたことをして申し訳ない。

 こちらの方が良いかと・・。」

ティファも困り顔で笑い頭を掻いて謝る。

「しかしヒュンケルさんはアンデッド語が・・

 確か御父君はアンデッド族でしたよね。

 てっきり使えるものかと思ったのですが。」

 

・・父は一度として使った事はなかった筈だ。

なのに何故小娘の方が使える?

確か情報では兄ともどもモンスター島で自分と同じようにモンスター達の手で育てられたと、

アンデッド語が出来るモンスターか?

 

「そう言えばお前の養い親はブラスだったな。」

(ハドラーが知っている者だと⁉)

「むっ!養い親とかいうな!!  

 じいちゃんはじいちゃんだ!!」

「・・ブラスとは誰だ?」さっさと教えて話し進めろ!

 

「お前の父バルトスは俺の配下随一の強さで地獄の門の門番だったのは覚えているな。」

「当然だ。」

「こやつと取り逃がしたダイという小僧の育て親のブラスもまた俺の直属の配下で魔道に強く、

 魔法系の隊を一個師団任せていたのだ。」

「はい⁉」

「何だと⁉」

(嘘でしよ!じいちゃん当時の魔王軍で結構高い地位にいたなんて・・。)

ティファはヒュンケル同様本気で驚いた。

てっきり操られて暴れてるだけだと考えていたのが、一個師団の隊長とは寝耳に水だった。

(だからハドラーに会って咄嗟に様つけて呼んでたのか。)

当時の関係は身に染みていたようだ。

「何だ、お前は知らなかったのかブラスの詳しい事を。」

「・・じいちゃん昔の話何にもしない。」

そりゃそうか、思い出したくもない葬り去りたい嫌な記憶でしかないもんね。

本当のじいちゃんは平和を愛する本当に優しい人だから。

でもどうやら、自分達兄妹とヒュンケルはよくよく運命の鎖で繋がっているらしい。

共にモンスター・・それも魔王ハドラーの直属で、末はアバン先生の弟子で、

片や闇の道に堕ち、片や光の道を走っているコインの裏と表。

複雑に絡み過ぎだ。

運命の神様ってのは相当悪趣味な奴決定認定してやる。

 

          「お前このまま魔王軍に入るか?」

 

・・つらつら埒も無い事考えてたら・・なんか爆弾発言きたー!!!

 

 

「・・貴方何考えてんですか⁉」

「何を!!

「ハドラー様!お戯れが過ぎますぞ!!」

モルグ以外が一斉にハドラーに集中砲火を浴びせたが、本人はどこ吹く風だ。

「ヒュンケル同様親の代から俺と縁があるのだ。

 実力もあるし・・」

当たり前だ!今すぐその首どころかこの場にいる全員相手にしても勝つ!!・・とは秘密だ。

「人間とは思えん程変わっているしな。」

どいつもこいつも!!人の事を変わり者の如く!!!しかも!

「・・何ですかヒュンケルさん。」

ヒュンケルまで人の事を珍妙なものを見るような目で見て超失礼!!

「・・いや・・何でも・・。」

(こいつと同僚・・冗談ではない!)

まさかこの小娘とここまで縁があったとは思わなかった。

そうするとダイも同じになるが・・この兄妹、はっきり言えば全く中身が似ていない!

兄の方は真っ当に見えたが・・むしろ小娘はアバンに似ている気がする。

ここまで妙で変ではなかった気がするが・・こいつが同僚なぞ真っ平だ!!

アバンがちらついて目障りだ!

 

 

「・・ハドラー。」

「何だ?」

呼び捨てにしたのに平然としてやがる。

「答え知ってて聞いてますよね。」あり得ない、お断りだと。

「当然だろう。」

「・・人の動揺を見て遊ばないでいただきたい!」厳重抗議もんだ!

「ふん、島で散々人を虚仮降ろした報いは受けろ。」

・・腹立つ!余裕で笑って~っ!!

「それよりもリングの中身は何だ小娘!!」

はれ?

「さっさと教えて、とっとと牢に戻れ!!」

「ヒュンケルさん、急にどうしましたか?」

何か急にヒュンケルが怒りだした。

「お前こそ一体何なんだ!」

「私ですか?」

「貴様はハドラーとも戦ったのだろう!」

うっわ、上司の事平気で呼び捨てっていけないんだ。

「しかも目の前でハドラーによってアバンを殺されたのだろう!」

ああそうか。

「何故仇と平然と話している!!」

自分は父の仇を討つために半年間共にいてもこんな風に穏やかに話した事は無い!

なのに・・ティファはまだアバンが殺されて一月も経っていないというのに仇で敵の軍司令官と

平然と話している神経がおかしい!!

 

「それで苛立っていると。」未熟者。

「ここは戦場ではありません。」

「・・・」

「日常の場で戦場での出来事を持ち込んでギラギラと敵視するのは三下のやる事でしょう。 

 ましてアバン先生とハドラーは正々堂々一騎打ちをして敗れたのです。

 戦場で会えば間違いなく戦いますが、実力のある敵には日常の場で会えば礼を尽くすのが

 戦士・戦う者と私は考えています。

 戦うのは戦場だけで十分です。」

以上ティファの戦う者の心構えの授業でした。

ハドラーがあの時ダイ兄達を質にしてとかしてたら私もヒュンケルの言うように問答無用

してるけど違うからね。

 

「・・お前がそれを言うのかティファよ・・」

あれ?ヒュンケルからの綺麗ごというな類が来る前に、ハドラーが抗議してきた・・なんで?

「何か問題ありますかハドラー?」

問答無用したいのか?してほしいのか?

「お前のどこが礼をもって接しているというのだ!!」

そっちかい!!

「あれこれ無礼な事しか俺に言っていないどの口が!!」

「失礼な!

 魔王もどきが初級魔王になって素敵ですって言ったでしょう!!」

「貴様それで人を褒めたつもりか!!」

「当たり前です!

 このまま行けば一流魔王も夢ではありませんよ!!」

 

       「その方が倒しがいがあります!!!」

 

きっぱりといったら・・なんか周りが静かになった。

「お前・・」

「正気か?」

本人を前にして、しかも敵に囲まれた状況で魔王倒しますって堂々と・・

こんなに呆然とさせられたのは初めてだとヒュンケルとザボエラは本気で思った。

 

「・・お前は俺を倒すつもりか?」

「はい。」

「兄の勇者がではなく?」

「はい!一流魔王になったら私の手で倒したいです!!」

いい笑顔ではっきりと自分の目を見ながら・・

「くっくっく、だ~はっはっはっは!!」

面白い!アバンの事でくさくさしていたのが吹き飛ぶわ!!

こいつと会って気が晴れた!腹の底から笑える。

 

ハドラーはティファの答えが胸の中まで響き、全身をゆすって愉快な気分で笑いあげる。

「返り討ちにしてやる!!」

ティファの宣告を冗談としてではなく本気で受け取り宣告し返す。

「いいえ!

 頑張ってあなたを倒します!!」

宣告しあい、お互いバチバチに見合う。

この瞬間、ティファとハドラーに言い知れぬ、他者には理解できない一種の絆の様なものが

が出来た瞬間だった。

 

睨み合いながらも互いに愉快気な瞳をしているのをと、アバンを仇呼ばわりし憎しみに

とらわれていた自分が間違っているのかとヒュンケルは耐えきれなくなり、

「さっさと中身を見せろ小娘!!」

モルグからリングをむしり取りティファに押し付け話を強引に戻した。

 

「そんなに大切な物が入っているのか?」

楽しい事を邪魔されながらもハドラーも中身が気になっていたので尋ねる。

「今見せます、デルルー」

ティファはリングを床に置いてから出る呪文を唱えた果たして中身は・・楽器の山だった。

「いや~ハープ、シターン、二胡は手荒に扱われるとすぐ壊れてしまうのです。

 長年の愛用品でして。」

驚く外野ににっこりと説明をする。

「・・モルグ・・」

「はいヒュンケル様。」

「さっさとこの娘を牢に連れていけ。」

「かしこまりました。」

 

「そう言えばティファよ。」

ヒュンケルにこの場より追い出されかけるティファにハドラーが声を掛けた。

「お前は何故ここに囚われた、誰かを庇ったか?」

ティファの強さから言って、ここに居るのがそもそも不思議だ。

ヒュンケルはその言葉にムッとする。

確かにダイを庇って傷ついたが、あれも自分の実力だ!

「ブラッディスクライドという技に競り負けました。」

そらみろ!ティファもそこは認めているとヒュンケルは気をよくしかけたが、

「何だと!

 俺のヘルズクローを無傷で躱しておいて何だその様は!!」

ハドラーの一言で消し飛んだ!

一・二度、魔界でバーンの命でハドラーの戦いを間近で見たことがあった。

確かに強かったが、自分がいつか追いつけそうな強さに感じられた。

しかしヘルズクローは威力が凄まじく、自分の魔装でも無傷では済まない技の筈!

「そんなのまぐれです!吹聴しないでください!!」

「あれがまぐれだと!俺の目は節穴ではないぞ!!」

・・また口喧嘩を・・

「モルグ、連れていけ。」

「はい。」

ピタリと収まったが、あらゆる意味でため息しか出ない。

 

「その前に一ついいですかハドラー。」

今度はティファがハドラーに声を掛けた。

雰囲気が一変して、ティファの目が冷たくなっている。

「先日の獣王戦で彼の武人を唆し、薄汚い策略を使わせた者がいます。

 お心当たりはありませんか?」

((ザボエラか))

二人は即座に思い当たり、当の本人も肌以上に顔を青褪め血の気が引く思いがする。

それ程までにティファの目と声音は冷たく、凍る思いがする!

「知ってどうする。」

ティファの怒りの思いに、ハドラーも本気で答える。

「斬ります!」

「・・何があったのかは報告は受けている。

 策略に腹が立ったか?」

「いいえ、策略よりも彼の武人の高潔の心が一時とはいえ穢されたのが許せません。

 戦いとは無論綺麗ごとは通ぜぬでしょうがそれでも!

 戦士の戦いに横やりを入れるものを許せるほど私は出来た人間ではありません。

 そいつには先程ヒュンケルさんが言ったような問答無用をしてやります。

 礼なぞ尽くす気はない!!」

獅子が咆えるが如く、ティファは内に秘めていた怒りを咆え上げる。

その瞳は本気の気迫がこもっており、聞くものを納得させるだけの力が宿っている。

それでも、

「言えんな、貴様に教える気はない。」

今のハドラーは配下を売る気は毛頭ない。

例え奸計を恥とも思わないものであったとしても・・そもそも少し前の自分もザボエラと同じだった。

今は違ってきても、同類の配下を売りはしない。

「やはり言いませんよね。」

今のハドラーの心情を思ってか、ティファは怒りを解いて穏やかに微笑む。

まるで怒りなぞなかったかのように。

 

「聞きたい事はそれだけか?」

「はい、後は自分で捜します。」

捜す、今ティファは確かにそう言った。

「脱出でもするつもりか?」

「いいえ、ダイ兄達が迎えに来てくれた後に捜します。」

「・・俺があいつらに負けると?」

「はい、兄達は強いです。」

仲間の勝利を全く疑っていない顔で・・

「俺が二人を首だけにして持ってきてやる!!」

そして泣いて後悔をすればいい!

「・・ヒュンケルさん」

まただ・・またあの困ったような悲し気な顔を俺に向ける!!

「もういい!連れていけ!!」

「はい、さあ娘さん。」

今度こそ俺の目の前から消えろ!

「時に魔軍司令官殿、本当に何しにこちらに?」

散々ハドラーを呼び捨てにして今更だが、用件を果たして出ていってほしい。

「うむ、クロコダインを見かけなかったか?

 自分で蘇生液から出て、こちらで目撃情報があったのだが。

「さて、気が付きませんでしたな。」

見るも何も自分に刺されてまたもや蘇生液にほうりこんでやったが、ハドラー直々に

追いかけてきた。

造反でも疑ったか?・・その勘は当たりだが・・

「あ奴の傷はまだ治り切ってはいない。

 何故飛び出したかは知らんが放っておいたら野垂れしぬだろう。」

しょうがない奴だと頭をがりがり掻いてる・・

「ハドラー!!」-パシ―

そんなハドラーの手を取った者がいた。

「ティファ!お前はまだ牢に行ってなかったのか!!」

ハドラーに怒鳴られてもティファはお構いなしに両手をがっちり握りしめ、

「訂正します!

 貴方は最早上級魔王です!

 そのまんま一流魔王になっちゃってください!!では!」

 

言いたい事だけを言ってモルグについて行ってしまった。

「・・何なのだあれは?」

一方的にまくしたてられたハドラーは無論だが、ヒュンケルとしてはクロコダインを本気で

心配をして追ってきたハドラーの方にこそ驚く。

昔のハドラーと今のハドラーでは本当に何もかもが違い過ぎる!

敗けた配下を心配して追ってくるなぞあり得ない。

・・ハドラーがティファの言う通り、今のままの心の在り様で一流魔王になれば・・いつか

自分はハドラーを尊敬する日が来るのだろうか?

・・何故か・・馬鹿馬鹿しいと思えない。

 

ハドラーとしても、変だが、何故か悪い気が全くしなかった。

用も済んだ、さっさと帰ろう。

「行くぞザボエラ。」

「あ、はい。」

「それからザボエラ。」

「・・なんでしょう。」

「あまり奸計を用いり過ぎるなよ、あれは本気でお前を見つけ出して斬りに来るぞ。」

それこそ他のものには目もくれず。

そう言った一途な敵ほど恐ろしい者はない。

何をしでかすか、こちらの常識がティファには通じそうもないからだ。

(あの小娘の影響か。)

ハドラーが変わった一因はティファかと、ヒュンケルは悟った。

 

もうハドラーてっば!物凄い成長してる!!

「嬉しそうですな娘さん。」

「はい、敵であっても凄い人に会えるのは嬉しくなります。」

「さようですか、しかしこちらに入っていただきますよ。」

「分かってます、あでもこの服は?

 この金のリングは服も・・」

「牢は冷えます、上から羽織りなさい。

 ヒュンケル様はお優しい方です。

 勇者達を倒しても、もう一人の娘さんともども開放なさるでしょうでは。」-ガシャン-

 

行っちゃった、知ってるよ本当はヒュンケル優しいって。

だから助ける・・貴方達も。

本当は予定なかったけど、「この石は石に非ず、誠にとモンスター筒!」-ぼん!-

落ちている小石から式でモンスター筒を数百個作った。

さてと、式鳥作ってマァムさんとクロコダイン捜してあれこれしますか!




この回で主人公と魔王の奇妙な関係が生まれました。
主人公の戦いに関する考え方も書けたと思います。
戦いは綺麗事ではありませんが、基本主人公は戦場と自分が認識した場所以外では
魔王軍の者とあっても戦いを仕掛けません。

そおいった場面がちらほら出ます。


ただしザボエラや似たような類のものは例外で問答無用を仕掛けます。

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