勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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この回にてヒュンケル編は終了です
よろしくお願いします。


悲しみの結末

地底魔城内でティファ達が敵軍を助けまくっているのを全く知らないダイとポップの二人は

ヒュンケル相手に熱戦を繰り広げている。

 

ガルーダで逃がされた二人は地底魔城から離れた森の中でなんとバダックに助けられた。

国が無事だからバダックと兄たちの出会いはないだろうとティファは考えていたが、

「偵察行ってくる。」と城を出て地底魔城近くまで来たバダックに遭遇をした。

ヒュンケルと交戦をした事を聞いたバダックは、敵が城まで追ってきては不味かろうとその場で

支援をして隊長を討つべきだと素早く判断をした。

伊達にハドラー大戦を生き延びてはいない、現場の判断の高さを買われて一介の農民出から

兵站隊長の地位まで上り詰めた実力者。

今回の偵察も、若手の仕事では不安だったので役目をぶん捕ってきて出てきたが正解だった。

ダイ達の居場所を知られない様に連絡用の鳩も飛ばさん方がいいだろうと考えた。

全ては事後承認にする、隊長格を倒せば処分は無かろうと大人の狡さも少々あるが、

バダックの人柄を信じ気絶しているダイを抱えたポップは頼る事にした。

 

助けられたのはいいが、目が覚めたダイに覇気がない。

大切な妹と仲間を人質に取られたと話してもだ。

「どうした?」

初戦でぼろ負けしたのが尾を引いているのだろうか?

無理もない、手も足も出なかったのだからとポップは案じたのだが、

「俺・・ヒュンケルの気持ち少しわかる・・戦うべきか分かんないんだ・・」

じいちゃんがバルトスの様になったら、その考えがダイの心を迷わせる。

「・・バッカ野郎!!!」

そんな迷いをポップの一喝が吹き飛ばした。

「あいつは間違っている!!

 先生いなくなったのに無関係の人達を傷つけてんだぞ!!

 正しいわけあるか!

 勇者のお前がそんなこと分かんないでどうすんだ!!!」

一行の魔法使いとは、一行を正しく導くのも役割だと考えているポップは手厳しくダイを叱りつける。

「マァムもティファもつかまってるんだぞ!

 しゃんとしろ!!」

「・・ポップ。」

仲間の名前を再び出してダイがようやく顔を上げた。

「それにティファも言ってただろう、勇者は心が闇に堕ちた奴も助けるべきだって。」

「・・そうだ・・そうだよ!!」

ティファは言っていた!

もしもじいちゃんが殺されても、自分達に復讐を望むはずがないと!

優しくて、自分達の幸せをいつも一番に考えていてくれる素晴らしいじいちゃん。

もしかしたらバルトスも、こんなことを望む人ではないのかもしれない。

助けよう!人質の二人はもちろん、間違った道を行ってしまったヒュンケルも!!

 

 

迷いを吹っ切ったダイはポップと特訓をしてライデインを百発百中にした。

魔法は通用しなくとも、金属であれば鎧の中の物はダメージを受けるだろうとの

ポップの発案を受けて朝から猛特訓をして外さなくなったところにヒュンケルから

決闘の宣告を受けて、バダックにお礼を言って地底魔城へと二人で向かった。

バダックも同行を申し入れてくれたが、

「必ず勝って仲間を連れ帰ってきます。

 皆でレオナのいる王城に。」

ダイとポップは頼もしくも高齢のバダックを案じて丁寧に断った。

「ダイ君、ポップ君も無事に帰ってくるんじゃぞ。

 姫もダイ君に会うのを楽しみにしておるぞ。」

バダックはこの礼儀正しい二人の少年を一目で気に入った。

ダイの強さは姫から耳タコなほど聞かされており、その強さにアバンの教えが加われば

大丈夫だと確信をしている。

第一老体の身が足手まといになってはと、二人の無事を祈って待つことにした。

ダイはティファから渡された回復薬とポップのお説教で心身共に全快をして意気揚々で

地底魔城にポップと共に乗り込み、罠紛いの導きでコロシアムに出て即座にヒュンケルと

激突となった。

 

 

「ライデイン!!」

早々に魔装をしていたヒュンケルに対してライデインを使用したが、

「くぅ・・のお!!闘魔傀儡掌!!!」

命中をしてポップの狙い通り肉体に大ダメージを負いながらも、不屈の闘志で気絶をしな

かったヒュンケルは、傀儡掌でダイを捕え、

「ブラッディスクライド!!」

ダイの胸部を深く抉った。

「はぁ・・はぁ・・手こずらせおって、止め!!」

「止せ!ヒャダ・・」

「待って!!二人共!!!」

 

ダイに止めを刺そうとしたヒュンケルと、させまいとヒャダルコで動きを封じようとした

ポップを止めたのは、

「マァム!!・・無事だったのか・・」

「小娘!!何故ここに居る!!」

ポップは無事を喜び、ヒュンケルは驚きと共に激怒した。

先程ポップ達が来る前に、勇者達を倒せば解放してやると言ったのに、人の事を哀れんだ

不快感が思い出される。

それと・・抵抗できない少女に手をあげた罪悪感もだ。

カッとなったとはいえ・・頬をうった手の感触の不快さも・・。

 

「ダイ・・酷い!

 あなたの弟弟子なのに!!」

闘技場の惨状にマァムは怒りよりも悲しくなる。

-真実-を知ってしまった今となっては、ヒュンケルが哀れだ。

マァムの感情を正確に感じたヒュンケルは、それを不快に感じ振り払うように吠え上げる。

「アバンの教えを受けたものは皆敵だ!!」そのはずだ!

-今の貴方を見てバルトスさんはどう思うのでしょう-

ティファの言葉がちらつき、それと共にマァムの言葉も拒絶しようとなおも叫ぼうとした先にまたもやマァムの言葉によって止められた。

「違うの!

 アバン先生は貴方の仇じゃなかったの!!」

「何を出鱈目を!!」

「・・これを聞いて・・」

激したヒュンケルに臆することなく、マァムは隠し部屋で見つけた魂の貝殻をヒュンケルに

わたした。

真剣な瞳のマァムに何かしらを感じたヒュンケルは貝殻を受け取り耳に当てた。

 

-愛する息子ヒュンケル、これを聞いているという事は私はこの世にはいないのだろう-

「・・これは・・父さん!!」

紛れもなく・・幼き頃に聞いていた父の声。

 

全てを聞いているマァムは痛ましげにヒュンケルを見る。

父の仇だと思っていたアバン先生が、実はバルトス自身からヒュンケルを託されていたのを

知って・・。

ヒュンケルもどんどん表情を変えていっている・・。

「おいマァム、あれ一体。」

「あれは・・」

寄ってきたポップにも説明をする。

ティファの言う通り、ヒュンケルは悲しい間違いを犯していたことを。

(そんな事ってあるかよ!!)

聞いたポップも泣きたくなった。

半生を掛けたものが間違ったいた・・ハドラーのせいで!

あいつのせいで!もしかしたら兄弟子となっていたかもしれない同門のヒュンケルの心情を

思って遣り切れない気持ちが溢れてくる。

(ティファ・・)

今無性にティファに来てほしい。

皆の心が温かくなる答えを出してくれるかもしれない妹分に。

 

 

「嘘だ・・嘘だ!!」

聞き終えたヒュンケルは貝を叩きつけ叫び上げて半狂乱の体になった。

仇と狙ったアバンは・・実は父から自分を託されていたと・・

本当の仇は父と自分が仕えたハドラーだったと!!

 

 

自分のしてきたことは・・

-八つ当たりです!!-

「黙れ!!」

ティファの言葉がよみがえり、この場にいないティファを怒鳴る。

-父君は戦士の心構えがあったのでしょう-

貝の話が本当ならば、止めを刺さなかったアバンに父は怒りをあらわにしていた。

同情は無用と。

父を助けたのはアバンの優しさであった。

-その胸の星飾りは大切な方からの贈り物でしょう-

自分の贈り物を見て剣を引いたアバンの優しさに父は心を打たれ、自分を託したと。

-アバン先生もお父さんも、貴方の事を愛していたはずよ!!」

マァムという娘の言う通りに・・。

 

「ヒュンケル・・。」

ポップとマァムは掛けられる言葉が見つからずヒュンケルの名を呼ぶ事しかできなかった。

呼ばれたヒュンケルが二人を見て見れば、自分の事を悲しそうにしている。

自分の事を悲しんでいる?・・馬鹿な!自分は敵だ!!

             

         -人間はいいぞヒュンケル、優しくて温かい-

 

クロコダインの言葉が思い出される。

「黙れ!!・・いまさら俺にどうしろというのだ!!」

父とアバンの愛情に気が付けずに、大罪を犯した自分に!!

「俺は魔王軍のヒュンケルだ!!!!」

何もかもを振り切ろうと叫び上げたその瞬間-勿体ないです-

一滴の雫の様に、ティファの言葉が胸に落ちてきた。

-その力があれば、今この時にでも苦しんでいる者達を助けられるのに-

困り顔の・・優しく笑うあの顔は・・アバンと・・そして・・父も重なる・・

心が揺れる・・あの小娘の言葉に・・

 

「ダイ!!」

「おい!」

何だ・・振り返れば、先程気絶をしていたダイが立ち上がっている。

目の焦点は合っておらず、無意識のようだ。

「・・けん・・ま・ほう・・。」

何かを呟いて・・「剣と!魔法だ!!」-ゴオウ!-

「うおおお!!」

「何だと!!」

ダイが訳の分からないことを叫んだと思えば、いきなり向かってきた!

それも剣に炎を纏わせて!!

しかも額には何かの紋様が力強く輝いている!

この者は人間以上の者なのか⁉

 

ヒュンケルの驚愕はポップにも分かる。

通常の者は剣か魔法のどちらかしか使わない・・否!使えない!!

稀に伝説の中に魔法と剣を両方使ったという者がいたと記されていたが、

片手で魔法を撃ち戦ったとあったが、剣に魔法を纏わせられるなぞ聞いたことも無い!

・・それにあの紋様は・・

「ポップ!ダイの!!」

「マァム、俺にも分かんねえ。けどあいつがああなんのは三度目だ。」

正義の力か・・否!そんな都合のいいものはこの世にあるはずがない!!

分からないが、ダイとティファは大切な自分の仲間だ。

あの力を正しきことに使っている・・だから、今度も!

「いけ!!ダイ!!!!

 ヒュンケルの事も助けんだろう!!」

剣に雷を纏い、ストラッシュを撃とうとするダイにポップが叫び上げて背中を押した。

「な⁉」俺を・・助ける・・

ポップの言葉に驚いたヒュンケルは迎撃を忘れ去り、

「あああっ!!

 ライデイン・ストラッシュ!!!!」-バリバリー!!-

「ぐあああ!!!」

ダイの攻撃が直撃をし、

(俺は‥敗けるのか・・)意識が薄れていく。

 

 

-心が闇に堕ちた人も助けましょう-

-ヒュンケルの事も助けるんだろう-

ティファとポップの言葉が自分を包んでゆく・・ああ・・温かい・・

 

 

 

「ヒュンケル!ヒュンケル!!」

「おい!しっかりしろ!!」

「どうしよう!!俺やり過ぎた!!!」

「おいマァム!ベホイミ掛けてんだろうな!!」

「ダメージが・・あ!眼が開いた!!」

 

なにか・・とても騒がしい・・。

「良かった・・ご免・・俺やり過ぎて・・」・・なんだ・・

「おい!聞こえてるか?」・・何なのだ?

「大丈夫⁉」・・なぜダイとポップは心配をしてマァムは俺に膝枕をしている!!

何だこの状況は!!!

「お前達・・敵の俺をなぜ・・」

「ストップだヒュンケル!!」

戸惑い聞いてくるヒュンケルの言葉をポップが遮る。

「お前を助けたいってティファが言った。

 そして俺達三人もそうしたかった・・俺も・・間違ったあんたを見捨てたくなかった。」

「俺もヒュンケルを助けたかった!

 だって俺勇者だもん!!間違ってたら助けないと!!」

ダイも答え、

「ヒュンケル、間違ったって気が付いたのなら償いましょう。

 今度こそ先生の教えを守って、私達も手伝うから。」

-チャリ-

「・・それは!!」

「見つけたの、まるでアバン先生が導いてくれたみたいに。

 きっと・・魂の貝殻もお父さんが導いてくれたんだと思う。

 二人のあなたを愛する心が。」

アバンもバルトスも、ヒュンケルを闇から救いたかったのだろう。

「これは貴方の物よ。」

慈しみに溢れる笑顔で輝聖石を渡してくれるマァムは・・全ての罪を許す聖母の様に

ヒュンケルは映り、「俺の・・負けだ・・」

苦しい心を全て流すように涙を流して降伏宣言をした。

 

奇妙な事だ。

長年いた魔王軍よりもたった二日しか会っていない、それも敵であるこいつらの方が

自分の事を真剣に案じてくれる・・心から負けを認めよう・・

 

「けっけっけ!!

 じゃあ敗者は死んじまえ!!!」

「・・この声は!!」

「誰だ!」

「・・あそこに!!」

 

声のした方を見れば、氷と炎が合わさった化け物がいた!!

「・・フレイザード・・」

「ざまあねえな~ヒュンケルさんよ。

 負けて女の膝枕か?結構なこったで!!」

フレイザードは侮蔑の言葉をヒュンケルに浴びせた。

フレイザードにとっては日頃から騎士道だ戦士だと収まりかえって偉そうに言う

クロコダインとヒュンケルとバランが大嫌いだった。

バランは実力が違い過ぎて手が出せないが、今のヒュンケルは葬り去る絶好の

チャンスだ!!

 

「そらよ!!」

-ズン!!-

「死火山に活を入れてやった!

 お前は勇者たちと相討ちしたってハドラー様には言っておいてやるよ!!」

「おのれ・・フレイザード!!!」

ヒュンケルは力を振り絞って起き上がり、剣を投げつけたがフレイザードには届かず

岩山に突き刺さった。

「おお~怖え怖え。邪魔者は消えるぜ~。」

 

「・・溶岩が・・」

「チックショー!ヒャダルコ!!」

「・・駄目よ溶けちゃう!」

火山の噴火で溶岩が迫り、もう駄目だと三人は諦めかけたが

「ふん!!」-ゴゴ!!-

「岩が・・」

「ヒュンケル!!」

(俺のこの命に代えても三人は・・)

「おい!」

「ちょっと待って!!貴方が!!」

「うおおお!!」

最後まで自分の事を案じてくれる、素晴らしい弟妹弟子を救うべく、渾身の力で三人を投げ飛ばす。

 

何と素晴らしい者達か・・ティファは・・あいつは何故か全く心配する気が起きない。 

チャッカリとクロコダインと共に脱出してそうだ。

ただ自分と共に滅びゆくモルグや不死騎団の者達には申し訳なく思う。

俺もすぐに逝く・・ダイ達は・・こんな自分の為に泣いてくれるだろうか?

 

 

-どがっ!!!-

「そんな!!嫌だよヒュンケル!!!」

「ちくしょう!!

 俺が・・ルーラさえ使えれば!!」

「ヒュンケル!!ヒュンケル!!」

岩は安全な場所まで三人を届けたが、ダイ達は泣き崩れる。

心を通わせることのできた兄弟子が・・自分達の命と引き換えに!!!

 

-パサパサ―

 

悲しみに泣き崩れ、どの位の時間が経ったか分からない頃、ダイの肩に鳩が

とまった。

「これ・・ティファの。」

真っ白い鳩は、ティファの手紙を運んでくれる鳩だ。

「・・ティファの・・」

「あいつ!!無事か⁉」

この溶岩の中で!!

「待って・・手紙読む。」

 

ー私は大丈夫です、皆と合流するから先に城に行っていてください。

 何があっても前に進むように        ティファー

 

「ティファ・・」

「・・一応無事か・・。」

「でも・・ヒュンケルが・・」 

悲しみで立ち上がれない。

 

「あいつは・・最後は心が救われたのかもしれない・・」

自分達を命懸けで助けてくれたヒュンケル。

「だったら・・命救ってもらった俺達は前に進まねえと!!じゃないと・・」

ヒュンケルの想いは全て無駄になってしまう!!

「うん・・そうだね・・そうだね!!」

ポップの叫びに、ダイも涙をぐしぐしと拭って答える。

「・・そうよ・・進まないと・・」

マァムも涙を流しながらも決心して立ち上がる。

前に進むために、パプニカ城へと。

 




国が無事なのに今後の展開を考えてバダックさんと二人を無理やり
引き合わせました。
三賢者のエイミさんもどんどん出します。 
次はバルジ島でフレイザード編です


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