勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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原作通りポップが弟子になります。
よろしくお願いします。



魔法使いの弟子に!

ポップの目の端に、レオナの近くの窓の外に気球が見えた。

「姫さん!あれに!!」

レオナの後ろを指さして気球を見るように促した。

あれはパプニカ王家の持ち物、エイミとバダックを見てすぐに分かるはずだ。

 

「姫様お早く!!」

「こっちですぞ!!」

二人もレオナを呼んでくれている、これで逃がせる!

 

「逃がすか!!」

レオナが窓の外に行く前に、フレイザードに追いつかれた。

レオナの頭部を掴んだフレイザードはそのままレオナを氷漬けにする。

 

「折角の人質を逃がすかよ。」

 

人質、つまりフレイザードには今すぐレオナを殺す気はないようだ。

そう判断を下したポップは、「ダイ、マァム!!目えつむれ!」-カアー―

用心にとバダックより持たされた閃光弾をフレイザードの足元に投げつけ破裂させ目をくらまし、

ダイとマァムを気球に押し込んだ。

 

「ポップ!レオナが!!」

「あいつは人質をすぐに殺す気はねえ!!

 今は不利だ、出してくれバダックさん!」

「分かった!」

バダックも歴戦の兵、状況をすぐに判断して気球を出す。

 

「・・ちくしょう!!お前達、後を追え!!」

いいところで逃がしてたまるか!

気球を落として大渦の餌食にしてやる!!

皆まとめて死んじまえ!

 

フレイザードの呪いのような執念を叶えるべく、小さな氷と炎のモンスターは気球に張り付き、

布を破いていく。

「・・高度が・・」

「こんの!ヒャダルコ!!」-カシーン-

「・・駄目か・・」

「魔弾銃も作動しないわ!」

打つ手がなくなりさらに高度が落ちかけたその時

 

               -バーン!!!-

 

とてつもない光の魔力が気球全てを包み込み、モンスター達を一瞬で滅した。

「・・これは一体・・」

「見て!光の来た方向に島があるわ!!」

マァムが指を指したところに大きな島が見える。

「光はあそこから・・バダックさん、あそこまで持たせてくれ。」

「ほいきた!」風も味方してくれて、ギリギリ島の端に不時着出来たが、気球は使い物にならない程ボロボロになっていた。

「こいつは直さんと使えんな。」

バダックの言葉に全員が意気消沈とし、特にダイは焦りを覚える。

「早くレオナを助けないといけないのに!」

やっと会えると思っていた思い人が!敵の・・あんな奴の元に!!

「落ち着けダイ、とにかく移動手段とあの結界をどうにかする方法を考えねえと。

 今行けたとしても策なしじゃ手も足も出やしない。」

-魔法使いは冷静に-ティファの言葉をかみしめて必死に考えを巡らせる。

これ以上、大切な者達を失わない様に。

「・・とにかく、助けてくれた人に礼をしよう。」あの洞穴の中か?

ダイの気持ちを落ち着けさせるために一旦話題を変えて、ポップは目の前の洞穴を見る。

深くて、人が住めそうな・・

「今時の若いのにしちゃあ礼儀がなってるじゃねえか坊主。」

いきなり後ろから声がした!

(嘘だろう!警戒してたのに気配しなかったぞ!!)

自分は近頃周りの物音や気配に気を配り、無意識でも出来るように心がけている。

なのに、気配どころか物音一つしなかった!!

振り向けば、高齢の男性が岩場の上に立っていた。

「誰・・・」

「マトリフおじさん!!」

ポップが聞く前にマァムが男の名前を呼んで飛びついた。

マトリフ、それは以前アバン先生が教えてくれた、かつての仲間で、世界一の魔法使いの名だった。

 

 

「マトリフ様。」

マトリフの姿を認めたバダックとエイミはマトリフに様を付けて最上級の挨拶で片膝をついて

礼をとる。

マトリフは先の大戦後、半年間だけパプニカ王室の相談役をしていた国の重鎮。

それが無くとも-世界最高峰の魔法使い- -大魔導士-の異名を持つマトリフは

敬うべき相手である。

そんなマトリフ相手にも、

「おじさん久し振り、無事でよかった。」

マァムは笑顔で抱き着く。

何となれば幼き頃よりの大好きなマトリフおじさんだ。

「マァムも元気そうだな、お前さんの事はロカ達から聞いて知ってる。

 そっちのお二人さんも堅苦しい挨拶はいらねえよ。」

マトリフは飄々としているが、先程の光の威力から実力はいやというほど分かった。

(さすがアバン先生の仲間だ。)

ポップは初見でマトリフの実力を見て取り、畏敬の眼差しを向ける。

この人に自分の魔法の師になってほしいと。

今の自分は足りないものだらけの実力不足。

もしもアバンの元でルーラを習得できていれば・・ヒュンケルを見殺しにせずに済んだはずだ!!

過去のチャラチャラしていた自分が悔やまれる。

優しい先生に甘えていただけのお調子者の自分を捨て、今度は死ぬ気で強くなりたい!

そうで無ければこの先の敵たちに-ゴン!!-・・すぐに敗れてしまうって・・あれ?

 

凄い打撃音が聞こえたので考えを止めて目の前を見てみれば、マトリフがマァムに伸されてる。

「・・おいダイ、俺考え事してて見てなかったんだけど何でマァムはあの人の事殴ったんだ?」

「・・あのね・・」

ダイは言いづらそうに話してくれた。

マァムの体が育ったと言って、おしりを触ったことを。

 

・・自分なら命が惜しくてそんなことをしようと思った事は無い!

マァムには組み手稽古で散々負けてボロボロにされているからだ。

そんなマァムの力を知っていてもやってしまうマトリフは凄いなと、別の意味でも尊敬が芽生えたポップだった。

 

「とにかく立ち話もなんだ、とりあえず中に入れ。」

洞穴の中は深くて広く、椅子とテーブルが置かれており、さらに奥にも部屋が見える。

椅子の一つにマトリフが腰を掛けると、ダイ達は先ほどの礼を述べその上で一連の出来事を話し助力を乞うたのだが、

「断る、俺はもう引退した身だ。

 それに王族を助ける気なんてねえよ。訳はそこの二人にでも聞くんだな。」

にべもなく断られた。

 

話を振られた二人は暗澹たる顔つきでマトリフが隠者になった経緯を話した。

大戦後王室に乞われて相談役となったが、大臣達の妬み嫉みの権謀術数に人の醜さを見せつけられ

心底人に愛想尽きたと王に面と向かって言って出奔したのだと。

-人間なんてこんなものか―

 

半ば分かっていたが改めて見ると本当に醜くうんざりとし、以来ティファとノヴァに出会うまでは昔の仲間以外に会いたくもなかった。

 

エイミとバダックは消沈した。

今はあの時の大臣達は国王の命で放逐されたとはいえ、マトリフの人嫌いの原因はパプニカ王室のせいだからだ。

このままではレオナが死んでしまう。

ダイとマァムが食い下がろうとしたその時、

 

「だったら、助けではなく俺に魔法を教えてください。

 その後は自分達でどうにかします!!」

ポップの弟子入り志願が洞穴に響き渡った。

 

 

「お前さん、ポップつったな。」

「はい!」

先程お礼の前に全員が一通り名乗っている。

「お前さんアバンの弟子だろ。

 あいつに教わりゃいいだろう、奴さんどうした?」

先日ロカの治療に行った時、マァムが一行に付いて行ったのは聞いたがアバンの事を聞くのは忘れていた。

ロカとレイラは進んで何も言わないところを見るに、ある予感はしているのだが、

 

「先生は・・」

 

改めてダイ達の口から聞くとため息が出た。

いい奴ほど先に死んで、こんな世捨て人の自分が長生きするのは間違っていると。

「だからあなたに魔法を教えてほしいんだ!!」

「おじさんお願いよ! 

 せめてポップに魔法を教えてあげて!!」

「マトリフさん!お願いします!!」

・・この三人は・・まるで昔のアバンたちを見ているようだ。

三人の子供達を見てそう感じる。

 

飄々としながらも誰よりも心強く、世界の為に戦ったアバン。

短気でしばしばアバンと口論をしながらも、戦いになれば一行の盾となり勇者を支えたロカ。

心優しく常に仲間の身を心配をして、泣きながらも最後まで一行の回復役を担っていたレイラ。

 

アバンは最早おらず、ロカもレイラも戦えない。

この子供達はアバン達の意志を受け継いでいるようだ。

 

宮廷を出た時は二度と世間と関わるつもりはなかった。

しかし・・今は-嬢ちゃん-と-坊や-のおかげか、人をもう一度見直してもいい気がしている。

人もそんなに捨てたもんじゃないと思わせてくれた二人の子供達の笑顔が浮かぶ。

それに自分はかつて嬢ちゃんにある言葉を言った。

-世界は弱すぎも酷過ぎもしねえ-と。

力があり過ぎて、他者に受け入れてもらえるかどうかに怯えていた幼い少女の心を守る為だけに言った。

自身は全く信じていなかったが、今目の前の三人を見ていると信じたくなってきている。

昔自分が力を貸したあの三人に本当によく似て

 

 

「強くなってどうすんだよ。」

 

三人に問いかける。

 

「俺は大切な仲間を、皆を助けたい!!」

「俺は仲間を、大勢の人を見捨てない為に!!」

「私は皆を守れる力が欲しい!!」

果たして三人は即座に答えてきた。

自分の琴線に触れるほどの熱量を伴って・・。

 

「分かった、坊主の弟子入りを許可してやる。」

昔とは違う方法であっても、この一行の助けになってやろう。

老いてどこまで出来るか分からんが、大魔導士の最後の大仕事だ。




原作と違って、自ら弟子入りしたポップでした。
主人公の心の中におじさんが強くいるように、マトリフの中でも
主人公とノヴァが大切な者とされています。

次回は再び島に行きます。

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