勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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主人公は相変わらず出ません。
よろしくお願いします。


驚きの再会

ダイとティファ、果たしてどちらがここに来るか。

ハドラーは日暮れと共にこおりに位置取りどちらが来るのかを待っている。

フレイザードよりの報告で島で勇者一行を一網打尽にするために。

魔影参謀・ミストバーン、妖術師・ザボエラを炎の柱に、そして自分はこちらに二手に分かれて。

 

無論の事バランは外してある。

ヒュンケルの時に会議でバランをカールから離した結果、王族と騎士団の主要な者達に脱出をされた上に

城を占拠したのに武器庫を壊して終わりという結果になってしまった為だ。今は怒髪天の形相で配下ともども

逃げた行方の手がかりを探して不在であるため、今回は内密にしている。

バランが敵に回れば間違いなく魔王軍の最大の敵になる。

ダイとティファに出会い、特にティファ辺りが説得をしてしまいそうなのが恐ろしい。

あれは誰かれ構わず己の思いを言いたい放題をしそうだからだ。

親子の情と、あの無茶苦茶な説得をされてしまっては、他者とのコミュニケーション慣れをしていない

バランが流されかねないのが一番の懸念材料だ。

あの親子が出会う前に禍根は全て断つ。

その意気込みで待っているのだが、果たしてどちらが来るだろうか。

 

 

「見えたバダックさん!炎の柱だ。」

「ふむ、フレイザードの手下はうじゃうじゃいるが他はおらん。

 今の内に・・」

「き~ひっひっひ!待っておったぞ小僧ども。」

「・・・」

「それ皆出てこい!」

 

ダイ達が炎の柱に辿り着いたその時、待ち伏せをしていたザボエラとミストバーンが姿を現した。

 

「しまった!罠だ!!」

「きっひっひ、儂は妖魔軍団のザボエラじゃ。

 あそこにおるのは魔影軍団のミストバーンじゃ。

 お前達の旅はここでお終いじゃ。」

「そんな事は無い!

 お前達を倒してレオナを助けるんだ!!」

「ひっひ、威勢がいいの小僧。

 お前達の仲間は気の毒にのう。」

ザボエラはダイの怒気を受けても心底楽しそうである。

なにせ魔王軍の大幹部の一人、ミストバーンがいれば安心だからだ。

自身の安全は確保されて優位であり、余裕である。

 

「氷の柱はハドラー様が直々に守っておられる。

 向こうに行った者達も終わりじゃよ。」

「・・そんな・・」

 

 

おかしい、敵が一体も見当たらない。

いるのは氷の小さい奴等だけなんて。

ポップとマァムは違和感を感じて警戒を怠らずに慎重に進んでいく。

少しずつ何かの気配はするが

 

「なんだこっちに来たのはお前か、魔法使いの小僧。」この声は!!

 

声を聞いた瞬間、ポップの体はわなわなと震え始める。

「ポップ、今の声は?」

マァムは-あいつ-の声を聞いた事は無い。

この声は、死んでも忘れるもんか!!

「何だ小僧、俺の声を忘れたのか?」

声の主と仲間の問いに答えないポップに、声の主は更に問いかけてきた。

 

「・・ふざけるな・・お前の声を忘れてたまるかハドラー!!!!」

 

ポップは全身で叫び上げ、声の主ハドラーの咆哮を振り向いた。

 

ハドラー⁉今確かにポップはそう叫んだ、ではこの男が!!

 

「ほう、小僧。

 すこし見ぬ間に顔つきが変わったな、俺に怒っているのか?」

ハドラーは余裕の笑みでポップをからかい始める。

ダイとティファはどうやら共に炎の柱に向かったようだ。

せっかくバーン様より賜った新たな力を二人のどちらかに試したかったのだが、

この小僧の成長速度も侮れん、始末するなら早い方がいい。

「手前は先生の仇だ!許すもんか!!」

眼には以前は見られなかった闘気と覇気がある。

アバンの弟子達は本当に油断ならない。

 

 

「俺が仇か、笑わせる。

 あ奴の本当の仇は奴自身の弱さと優しさとやらだ!

 そんな者の為にアバンは俺に敗れたのだからな。」

 

ハドラーの挑発に、

「先生は・・」

マァムが乗ってしまった。

優しいが故に弱くなったと、尊敬する先生が侮られたのだ!!

「弱くなんかない!!」

 

結界のせいで魔弾銃は機能せず、代わりに持ってきたロットで、

「いやああー!!」

渾身の力でハドラーに打ちかかったが、-ばしん!!-

ハドラーの片手で止められた。

 

「・・そんな・・」

今までで一番闘気と力を込めたものをあっさりと止められたマァムは呆然となってしまい

「ふん。」

振り投げられ「メラゾーマ」火炎最大呪文を放たれられた。

 

やられる!

「マァム!!」-ズガーン!!-

間一髪でマァムの直撃をポップが庇った。

「ポップ!」

「無茶すんじゃねえマァム、挑発に乗るな。」

庇ったポップの両足に少しだけ当たった。

 

「ふん、寸でのところで守り切ったか。

 ではこれならどうだ!!」

ハドラーの魔力が高まっていく。

以前島で会った時よりもハドラーは強くなっている!勝てないのか自分では⁉

しかし今自分が諦めたらマァムも死んでしまう!今は自分しかいないんだ!!

「うおおお!!」

「死ね!ベギラマ!!」

ポップの決意とハドラーの呪文は同時であり、腕を突き出したポップの腕からも魔力が放出された。

「・・出た・・ベギラマが・・」

「何だと⁉」

 

 

ポップが土壇場で出したベギラマは僅かながらハドラーの呪文を上回り

「くうぬおお!」

「おお!!」

-ズガーン!!-

相殺した。

 

こやつ!以前とは比べ物にならぬ!

今のポップの変わりようにハドラーは僅かながら怯み、その隙をポップは見逃さず、

爆弾を取り出し導火線に素早く火をつけハドラー達に投げつけ「ベギラマ!!」

二の矢を素早く放った。

 

-ドッガーン!!!-

 

爆弾の威力はベギラマと相まって凄まじい威力で爆発をした。

「やったわねポップ!」

その威力でハドラーを倒せたと思ったマァムは、喜色満面の笑顔でポップに駆け寄った。

「マァム、今の内に柱を・・」-ガラガラ-

「なっ!!」

「・・今のは多少はきいたぞ小僧。」

あの爆発でも、ハドラーにさしたるダメージはなかった。

ハドラーは元来火炎呪文系が得意で、熱ダメージに対しての耐火体質であった。

多少はくらっても、さしたるダメージにはならなかったのだ。

 

「ふっふっふ、小僧にしてはよくぞ持ちこたえた。

 俺の新たな技で殺してやろう!!ふぅん!!」-ゴオウ!-

 

ポップの実力を認めたハドラーは確実に仕留めるために、

「ベギラゴン!!!」

爆裂系最大呪文を放った!

 

「ああう!!」

「きゃああ!!」

 

二人も必死でよけて直撃を免れたが、ダメージが酷く蹲って身動きが取れなくなった。

(ちっくしょう!うごけねえ・・)-ザッザー

身動きの取れないポップの元にハドラーが近づき、右手でがっしりとポップの細い首根っこを

掴み上げる。

「魔法使いの小僧!

 貴様は確実に息の根を止める!!」

ハドラーは遊ぶつもりはなく、ポップを空中高く放り上げ右手のこぶしを掲げる。

(・・あの鉤爪は・・)

薄れゆく意識の中、ポップは落ちていく空中から-ヘルズクロー-を思い出す。

「止めて―!!」

マァムの叫び声・・おれ・・死ぬのか・・

 

           「ブラッディスクライドー!!」

             -ガッシャーン!!-

 

なんだ・・砕ける音が・・・-がし!-

誰かが助けに・・

 

 

 

「闘魔傀儡掌!!」

「ああう!!」

暗黒闘気の糸に縛り上げられたダイは驚愕をする。

「馬鹿な・・この技はヒュンケルの」

「きっひっひ、その技は元々ミストバーンの技じゃよ。

 ヒュンケルはそのミストバーンを師としていたのじゃ。」

「くっそおお!!」

辛うじて首は咄嗟に腕で防いだが千切ろうとしても、闘気の強さがヒュンケルの比ではなく

千切れない。

 

「あう!!」

「ダイ君!!」

バダックがダイを助けようと駆け寄ったが、

「おっと、じいさんは大人しくしておれ。」

「むっ!お前だとて儂と同じ爺じゃろうが!!」

行く手をザボエラによって阻まれた。

「これでも聞いてあの世へ逝け、ザラキ!」-ウォオーン!-

聞いた者を八割の確率で死出の旅に導くザラキに、

「ぐうああ!!」

バダックは頭を抱えて苦しむ。

 

-ダアーン!!-

その時氷の柱の方から轟音が響いた。

バダックの爆弾かどうか分からないが、柱は無事だった。

「ひっひっひ、あれはハドラー様のベギラゴン、

 どうやら仲間の方が一足先にあの世へ行ったか。」

「そんな・・あれは!!」

-ガシャン!!-

その直後、氷の柱の崩壊が見えた。

「何じゃと!一体誰の!!」

今度はザボエラが焦る番となった。

一行の中でハドラーを退け氷の柱を砕けるものなぞ居なかったはずだ。

 

(この気配、やはり生きていたか。)

焦るザボエラとは反対にミストバーンは落ち着いている。

-あれ-は簡単には死なない、そんなやわな育て方をしていないと六年間育ててきた

自負がある。

しかし氷の柱を破壊したのがあれだとすれば、魔王軍に対して反旗を翻したことになる。

アバン憎さで戦っていたあれが何故自分達に対して牙をむく、やはりフレイザードに殺されかけて

腹を立てたか。

・・フレイザードめ、折角のバーン様のお気に入りを敵に走らせおって!

後でぼろくずの様に使い捨ててくれると、ダイを闘気で縛り続けながら物騒な算段を付ける

ミストバーンだった。

 

(誰だろう・・)

暗黒闘気で薄れゆく意識の中、ダイもぼんやりと思う。

妹だろうか?・・いつものように・・間に合って・・

 

(何だ・・ひんやりとした感触なのに、温かい気配に包まれてるような・・)

半ば気絶しているポップは状況が全く分からずに動けない。

 

-ブラッディスクライド―でハドラーを退けると同時に氷の柱を壊した者は、

地面に激突寸前のポップを両手で受け止めることに成功をして心底ほっとした。

爆発音を頼りに駆けつけ、空中高く放られたポップを見て肝が冷えた。

(間に合ってよかった。)

この細い体でよくぞハドラー相手に持ちこたえたものだ。

 

「・・貴方は・・」

驚きの声に振り返れば、マァムもよろけながらも立ち上がり、目を見開いて自分にゆっくりと近づいている。

まるで幽霊に会ったような顔をして。

(皆にはとんでもなく悲しい思いをさせてしまったか。)

「遅くなってしまって済まないマァム。」

 

助けに来てくれた男の力強い声にマァムの思いが堰を切り、

「ヒュンケル!!」

涙を流してポップを両手で抱えたままのヒュンケルに抱き着いた。

「ヒュンケル・・ヒュンケル!!」

とても・・とても悲しんだのだ!アバン先生の死を知った時と同じくらいに!!

「・・生きていてくれて・・本当に良かった・・」

「マァム・・すまないとても悲しませてしまったようだ。」

「ううん・・いいの・・生きていてくれたならそれで・・」

―貴方はみんなに愛されているのですよヒュンケル―

あの人の言う通り、マァムは心の底から自分の身を案じてくれていた。

生きていて良かった、この素晴らしい笑顔が見られたのだから。

 

―ヒュンケル!!-

マァムの声が聞こえる。

あいつは・・死んだはずじゃ・・え⁉

ポップの目が一気に覚めた!

何となればようやく目を開けてみれば、一番最初に見えたのが甲冑を纏ったヒュンケルの顔だったからだ!

(何だこの状況!えっ・・おれ・・ヒュンケルにお姫様抱っこされてる⁉

 つうかヒュンケル生きてた?・・それとも・・)

「俺死んじまったのか?」同じ亡霊仲間として再会してしまったのだろうか。

 

つい先程までハドラーに対して一歩も引いていなかった頼もしいポップの百面相と口走った事に対し、頭でも打ったのだろうかとマァムは別の意味でポップを心配し始める。

 

「俺もお前も生きている、立てるかポップ。」

自分を労わるヒュンケルの声にとりあえず頷き、そっと地面に降ろされた。

「お前にも心配をかけたようだな。」

優しい声と笑顔・・出会った時とまるで違う、憑き物が落ちたようで・・しかし!!

こちらは心底嘆き悲しんだのだ!それを心配かけたの一言で片づけられたらたまったもんじゃない!!

マァムは喜んでるが・・だんだん腹立ってきた・・

「どうしたポップ?」

・・どうしただと・・「バッカ野郎!!!!!」

ヒュンケルの一言で火が吹くほどに思いっきり怒鳴った。

「てんめえ!!あそこで死んで償おうとしたせいで!ダイとマァムがどんだけ傷ついたと 思ってやがる!!

 俺だって・・そこんとこ分かってんのかよこの大馬鹿野郎!!!」

怒りの形相で泣きながらヒュンケルの胸を鎧越しに叩きつつ、猛抗議をしてやった。

悲しかった・・痛かった・・死にゆくものを・・ただ黙ってみているしかできなかった無力な自分が許せなかった・・もう・・アバン先生の二の舞はご免だった!!

 

「ポップ・・」

マァムもポップの気持ちが痛いほど分かり兄弟子に対する雑言を止めずに、泣いて見守る。

ヒュンケルも―道々―ポップの気性を予め聞かされていたので驚かずにポップの全てを受け止める。

「すまない、もう二度と軽々しく命を掛けたりはしない。」

「・・絶対だぞ!!」

「ああ、約束をする。」

 

―この三日後に、ポップは同じような事でヒュンケルから説教を受けることになる―

 

(ティファ、お前の言う通り命を粗末にするものではないな。)

「二人共、ティファから回復薬を預かっている、今の内に飲んでおけ。

 特にポップ、お前には魔力の回復を渡してほしいと言われている。」

「そうだ!ティファは!!」

「ダイ達の方に行ったの?」

二人はティファはどうしたとヒュンケルに迫る。

「ティファは島には来ていない、別行動をしている。」

 




そんなわけでバルジ島で主人公は不在です。
次回、二・三話ほど回想になります。
ヒュンケルがこれほどまで優しくなった理由は如何に。

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