勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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主人公が精神的に頑張ります。
よろしくお願いします。



~回想・幸せへの道を~

どれくらい泣いたのか分からない、泣きすぎて頭がぼおっとする。

ヒュンケルは最早ティファに腕をまわすのも億劫で、だらんとしてティファに支えられている。

 

自分は父を失った時、ただこうやって泣きたかっただけなのかもしれない。

父を失ったあの冷たさを、誰かのぬくもりに温められながら悲しみを・痛みを・苦しみを泣きなっがら

癒されたかったのかもしれない。

その機会は確かにあった。偉大で温かい師の胸に素直に飛び込めばよかったのかもしれない。

それをせず、師を世界を憎むことで乗り越えようとした。

だからすべてを間違えてしまったのだろうか?

師の気持ちを、歪んだ感情で受け取っていたから気づけなかった。

今ならばわかる、こんな自分を温かい声で何度も読んでくれた優しき師の思いが。

自分をどれ程慈しみ、愛し守ろうとしてくれていたのかが。

 

そしてアバンの亡き後は、その弟子たちが師の意志を受け継ぐ様に現れた。

 

―俺、ヒュンケルの事助けたかったんだ。気持ち分かるし、勇者としても助けたかったんだ―

―お前の事を見捨てたくなかったんだ!-

―間違ったのならやり直しましょう―

 

―              -

―ヒュンケルを助けたかったんだ―

―              -

 

本当の意味で三人の子供達に救われた。

では今ここに居るティファは?

最初に自分に散々な事を言ってあらゆる意味で自分を怒らせた。

しかしそれがあったからこそ、憎しみしかなかった自分の心の殻にひびが入り、最後はダイ達の

温かさによって粉々に打ち砕かれたのだ。

 

「ふふふ・・ははははは。」

何故かおかしくなってきた、この娘・・いやティファは本当に無茶苦茶だ。自分を怒らせ泣かせて、そして笑わせている温かさに溢れた素晴らしい人だ。

 

「答えは出ましたか?」

頭をくしゃくしゃしながら優しく自分の今後の事を聞いてくれる、罪人である自分の事を。

やりたい事は見つかっている、ダイ達の助けになりたい。

ではその後は?いや、今はそんなことを考えても詮無きことか。

「時に・・貴方を何と呼べばいいですか?」

「・・は?」

「いえ、仮にも年上の方ですのでヒュンケルさん・ヒュン兄・もしくはヒュンケルのどれにすれば。」

何か変な事で迷ってる。そっと顔を放してティファの顔を見れば、とても真面目な顔をしている。

どうやら場をほぐすためのジョークではなく本気で聞いているようだ。

「・・ヒュンケルで頼む。さんも、兄も、敬称は不要だ。」

「いいのですか?」

「ああ、俺はお前達に救われた身だ。偉そうにしているようで付けられる方が心苦しい。」

「分かりました。ではヒュンケル、今クロコダインを呼びますね。」

「ああ、頼む。」

殺しかけたクロコダインが、今の俺を見てなんというだろうか。

 

 

ガルーダで来たクロコダインに早速ヒュンケルを説得できた旨を報告をして、その後隠し持っていた魔剣はきちんとヒュンケルに返してあげた。

「こいつも・・生き残ったか。」

長年愛用の品の無事に、とってもホッとしてくれた。

そんなヒュンケルを、クロコダインも温かい目で見ている。

ヒュンケルの心の闇が消えたのを感じて喜んでくれているようだ。

さて、ここからは私も本気で挑まないといけない。

二人と周りの者達の人生がかかった岐路を、より良い道に進むためにも。

 

「さて、お二人はこれから一行の助けをしようと思っていますよね。」

「無論だ。」

「それ以外ない。」

きっぱりと言ってくれる、その心に偽りなしか。

「なら一つだけ約束をしてください、これは必ず守ってもらわねば困ります。」

「何だ?」

「どんな事でも聞こう。」

言った、どんなことでもって言った!約束して欲しいのは、

「一行の助けをしても、自分の命と幸せも大切にしてください!

 出来ないというのであれば一行の助けはさせません!!私が力づくで追い払います!!!」

「何だと!」

「ティファ、それはあまりにも・・」

「言ってしまえば罪を償うために命を懸ける事は簡単なんです、自分の命だからと粗末にしてしま 

 えばいいのですから。 

 しかし、それは貴方達を助けようとした人たちに対してとても酷い事なんです!」

皆が悲しむだけじゃ済まない。

「戦えば命を懸けねばならない時も確かにあります!それでもギリギリの時でも自分達の

 命も大切にしてあげてください!!」

「俺たちにそれをか・・」

「こんな・・俺達の命を・・」

「分かっています、生き続けて罪を償うのは死ぬよりも辛い事かもしれないと。

 それでも私は!貴方達にも生き続けて幸せになってほしいのです。」

 

 

今ティファは何と言った?罪を償えというのならば分かるが幸せになって欲しいと、自分達に対して!!

いったいどこの世界に、元敵に対して幸せになって欲しいというのだろうか?

おそらくこれはダイ達の考えではない、彼らは助けたいという一念のみでその先のことまで

はなかった気がする。

ならばこの考えはティファだけの考えなのだろうか。

「ティファ、それは無理な事だ。」

「我等のしたことを考えれば、幸せになぞ・・」

「駄目です!!」

 

二人の言葉をきっぱりと遮った。私は戦力欲しさにこの二人を助けたいわけじゃ無い、ダイ兄達もきっとそうだ。

だからこそ強気で言わないといけない。

「命を守る事はともかくとして、幸せを大切にするというのがどれほど難しいのかは分かってます。

 正答なき物で何が幸せかその人にしか分からないものです。

 きっと今のあなた方は幸せが何かを見失ってしまったのでしょうから。」

正しいと思って魔王軍に身を置いていたのが、負けて更に間違いだと思い知ったのだから、

「世界は貴方達につらく当たるでしょう。あの魔王軍の、それも隊長格であった者として許さないと。」

被害にあった人々がいつかまとまって糾弾をしに来る日が来るかもしれない。でも・・

「それでも世界は貴方達が思う程弱すぎも酷過ぎもしません!!」

 

力が世間の子よりもあり過ぎて、周りの人達から化け物扱いされたらどうしようと悩んでいた私に、-おじさん-がくれたくれた大切な言葉。

 -世界は酷過ぎも弱すぎもしねえ-

その人の本質を見て、分かって受け入れてくれる人もいると教えてくれた。

おじさん、力を貸して!私が分かったように、この二人にも!!

「案外しぶとくて強いんです!貴方達が償う道を歩ききる決心をして歩けば、いつかは分かって

 くれる人達がいるはずです!」

今はダイ兄達だけだけど、それでもいつかはと切に願う。

「貴方達に笑いかけ声を掛けて、気にしてくれて心配をしてくれて、友に恋人に家族にと

 思ってくれる人たちが出て来てくれるかもしれません!!」

私のこの望みは欲張りだろうか?子供の愚かな甘ったるい綺麗ごとだろうか?

それでも私は願うのを止めない!

「その時が来た時は、逃げずにその思いを受け取ってあげてください!

 今は罪悪感で罪に恥じ入って受け取り難いかもしれませんが。」

 

「・・ああ。」

「・・その通りだ。」

今のティファの言う通り・・いや、ティファの言う事こそが自分達の心を苛む。罪深き自分達が、そんなことを許されるはずがないだろうと。

しかし、それでも目の前の少女が真剣に自分達の幸せを願ってくれているのも分かっている。

ティファ自身の声も震え、今にも泣き出しそうな顔をしている。己でも酷く辛く難しい事を言っている自覚はあるのだろう。

自分達のような罪人が、ティファの言う幸せになるというのはそれほど難しい事を。

「少しずつでいいんです。」

それでも、少女は言葉を紡いでゆく。

「貴方達が心の底から生きていてよかった、日の光を浴びるだけでも幸せだと思えるその時まで、

 ダイ兄・ポップ兄・マァムさん、そして・・」そして?

「私も入れた皆で道を共に歩きましょう。」

他者の幸せの為に・・見知らぬ敵だった自分達と共に歩いてくれると言う。

おそらくはダイ達もこの考えを聞けば共にと言ってくれよう。

「だからお願いです!自分自身の幸せを見つけて守ってあげてください!!」

償いだけではなく、幸せも切に願われ、

「分かった。」

「約束しよう。」

 

 

 

―分かった―

―約束しよう―

 

「・・良かった・・」

その言葉を聞いたティファは、クシャリと笑った。泣きそうな、ホッとしたような、良い物がすべて詰まったような笑みを浮かべて、

「約束ですよ!」

力強く言いながら、左手の小指を出してきた。

「・・どうしたティファ。」

「ああクロコダインは知りませんか。これは約束の印に、小指だけを絡ませて約束をし合うんです。」

「・・俺も初めてだ・・」

「・・まあヒュンケルも父君が‥人間の、それも子供同士の風習ですが私はこれを大切にしている

 んです。」

 

実はダイ大の世界にも指切りがあった、場所はテランとその周辺地域だけだけど。でも大切な約束はきちんと結びたい。

「・・小指を絡めるのか?」

「・・こうか?」

「一人ずつこうするんです。」

二人共律儀にしてくれた。皆で幸せ目指そうね。

 

 

ティファと指切りをした二人の顔はほんわかとしている。

小さな指は温かく、まるでティファ自身を現しているようだと。

この娘の温かさに掛けて、いつか必ず約束を果たそうと心に誓いを立てた。

 

 

 

 

 

 

―後に二人はティファに激怒をする事になる。自分達にあれほど命と幸せを守って欲しいと約束させたのに、ティファ自身が破ったと。

 その行為が―ティファ自身が望む幸せのためだと分かっても、許せることではないと―

 

 

 




以上が主人公の基本スタイルです。
ダニ以下野郎は許しませんが、いいと思ったら敵味方関係なく関わって助けよう、こっちに来てもらおうと粉をかけまくります。

話の中に後半のお話のフラグをちょこちょこと立てていきます。
次回で短めのお話で回想はお終いです。

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