ー幕間・魔王軍ー①
紅茶を飲んだ後、ダイはそわそわし始める。
「なんであいつはあんなにそわそわして落ち着かねえんだ?」
「いやさ師匠、ダイはパプニカのお姫さんにぞっこんなんだよ。」
「成る程な~」
マトリフの洞窟がほのぼのしている時、魔王軍本拠地・鬼岩城は緊張感が奔っている。
フレイザードの敗北で、ダイ達に対する今後の方針を決めるべく残りの軍団長がまたもや招集をされた。
(生きている・・俺は確かに死んだはずだが・・)
意識の無くなったヒュンケルに、それでも心臓を貫かれて死んだのは自覚をしている。
「バーン様が貴様を生かすとお決めになられた。」
甦った直後にミストバーンに言われた言葉に、バーン様に対する忠誠心がさらに高まる。
それはともかくとしてダイ達の成長は早すぎる。まさか魔法使いのポップが、あの土壇場でベギラマを、それも威力は僅かながら向こうが上。
マァムといったか、あの娘も強き闘志を持っている。厄介な芽は早々に潰さねば!
しかし、敵の名前をこうもすぐに覚えるとは。アバン達の頃にはなかったが、それだけダイ達が厄介なのだろうか?
-敵の名前もきちんと覚えておくのは司令官としてのお仕事でしょう?覚えられない方がおかしいです。
そもそも敵に対する礼儀でしょう-
不意にティファの声が頭に浮かんできた!
-敵の名前を覚えるのも礼儀の内なのか?-
-そうですよ、せっかく一流魔王に育っているんですからそのまま育って下さいね。育ったら私が貴方を倒します!-
-ふん!島には来なかったくせに!!-
-こちらの都合です!放っておいて下さい!!-
頭の中でぎゃーすか喧嘩をしてしまったが、これもアバンの時にはなかった。
いつも意識していたが、こんなことも初めてだ。おかしな娘だあれは。
「ドラ―殿・・」
さっさとギッタンギッタンに「ハドラー殿!!」「・・・バラン・・」
「いかがした、先程から呼びかけているのに全く気がつかずに。」しまった。
本当に気が付かなかった!
-貴方はまだまだですね~- 少しうっとおしいぞ!
「バルジ島での敵の事は報告を受けた。手こずっているようならば手を貸そうと思ってな。」
バランはバルジ島の事を聞いてすっかり戦士の血を湧かした。
クロコダインとヒュンケルを撃破し、更には魔王軍の不完全とはいえ包囲網を突破してフレイザードを討ち破った猛者に成長をしている!是非手合わせを願いたい!!
「いや、お前には引き続きカールの女王達の行方を追ってくれ。
奴等の騎士団はほぼ無傷で行方をくらませたのであろう?再結集をされれば厄介だ。」
バラン達がカールを攻め滅ぼしに行った時、何故か城下町には人っ子一人おらず、城ももぬけの殻!
これはティファの式神・夢告げを発動したのを当然魔王軍は知らず呆気にとられた。
カールのフローラは柔軟な思考を持ち合わせ、リンガイアに竜の軍団が攻め上った情報も入っており、夢は真実かもしれないと取るものも取らずに逃げる指示を出し、国民からの支持も厚い女王の英断でカールはほぼ無傷で逃げおおせたのだ。
当然魔王軍としては手痛かった。
そこは分かるのだが、「捜しものはザボエラの方が得意なはずだ。それとも私では力不足だろうか?」
「まさか!」むしろ象が蟻を踏みつぶしに行くようなものだ!
だからと言ってはいそうですかと言えん!!
ダイ達、それもティファなんぞに会わせてなるものか!!
「くどい!これはもう決定事項だ!!」
持てる覇気を全て込め、バランの申し出を全力で阻止する。
実力は圧倒的にバランの方が上だが、権限は自分にある。姑息な手段ではあるがそれを押し通させてもらう!
一体、この短期間に何があったのだハドラーは?
二年前に復活をして会わされた時はものすごい小者だったのが、デルムリン島とやらに行ってから急激に変わった。先程の気迫は侮れん。
この様子ならば手柄を取られる云々は言わないだろうが、ならば何故自分を外すのか分からない。
本当に今のハドラーは読めない程の深き器を手に入れたか。
まさか当代の竜の騎士に認められたと知らないハドラーは、バランが口を噤んでくれた事にホッとしながら会議場に入った。
これで大丈夫、そう思ったのは甘かった!
「ハドラー!!ザボエラが全て白状したぞ!!!」激昂してきたバランが追ってきた!!
「何事だバラン!バ-ン様の御前だぞ!」
一応叱咤したが内心で冷や汗が出る!ザボエラの奴!!余計な事を!!!
「貴様に問う!」
「聞いてやろう。」冷静装うが嫌な予感しかしない!
「貴様は知っていたか、勇者ダイという少年の額に紋章が輝くことを!!」やはりか、ザボエラめ!余計な事を!!
-惚けますか?-またもやティファの、それも嘲るような声がする。-舐めるな!!-
「知っていた。」こうとなれば腹を括るのみ!!
知っていた・・確かにハドラーはそう言った!
ハドラーの様子がおかしいので後から来たザボエラに、島で何か変わった事がなかったかを聞いてみれば、「確かダイと呼ばれて小僧の額に紋章らしきものが光った。
今回の事ではないが、クロコダインの時には同年代の小娘の方にもあったかの・・」
同年代の少年と少女に額に紋章だと!!もしや・・それは・・だからハドラーは!!
「企みが読めたわハドラー!!!」絶対に許さん!!
そして尋ねてみれば知っていた!
「貴様は私の正体と魔王軍に席をおく理由を知っているはずだ!!そして我が子等を捜していた事を!」
「ああ全て知っている!」その頃は何をしているのか阿呆らしいと見ていたが、あの当時に見つけてくれればこんな面倒ごとは起こらずに済んだものを!!
-他力本願はいけませんね~- -やかましい!!-
「知っていてなぜ黙っていた!!」バランめ、返答次第では俺を斬るか。
「あ奴等がその辺の子供らならば教えただろうが!今のあ奴等は勇者一行の勇者とその仲間!!
貴様と合わせるわけには断じていかん!!」
特にティファに合わせた日なんぞは・・一番ティファに変えさせられたのは自分だと自覚をしている。
よく最近部下たちが-今のハドラー様いいよな~- -何があったか知らんがいいよな~-と言われているくらいだ。
ポップは島で会った時は様々な意味で強くなっており、ヒュンケルに至っては復讐の相手の自分を前にしても憎しみの色は見られなかった。
もしもバランが同じ事が起きたら?そんな博打は打ちたくもない!!
「バラン!貴様は言いきれるのか⁉我が子等に会い、親子の情に流されないと!!」
「・・それは・・」
「しかも貴様の-娘-はとんでもない者に育っておるんだぞ!!」
「はあ⁉」
バランは呆気にとられた。ディーノが強くなって目を付けられているのは分かるが、ティファは寸前まで情報がないのに、もうハドラーが目を付けているのは何故だ?
「誰に対してもズバズバと物を言い、気が付けば相手は説得をされているんだか丸め込まれているんだか知れんが、確実に変わらされているんだぞ!」筆頭は主に自分だ!!
「お前があ奴等に会って我が軍に反旗を翻せば、間違いなく魔王軍にとっての最大の脅威だ!最高司令官を任ぜられているものとして許可は出来ん!!」腹蔵なく全部答えた!これで斬りたければ相手になる!!
二人の口論は次まで続きます。