勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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幕間の続きです。
出てこない主人公の事で魔王軍は結構振りまされています。




ー幕間・魔王軍ー➁

二人の間にはバチバチの闘気が渦巻く。バランとしては我が子等に会うのを邪魔する者への怒り、ハドラーはバランを止めるべく。

 

-ズバズバ物言いをする娘-ハドラーが放った一言で、昔に出会った娘を思い出す。

自分を-おひげのおじさん-と呼び、ルードの面倒をなにくれとなく見ていた奇妙な少女。種族の垣根無く、自分達を全く恐れずにニコニコと笑っていた変わった子供。

もしもティファがその子に似ているのならば「私も舐められたものだなハドラー。」

「・・・・」

「私が我が子等に会ったからと言って、私の中の憎しみが消えるわけでは決してない!」

「・・あの娘に会ってそう言いきれるのか?」無理だろう!あいつは本当に遠慮会釈なぞ無いと断言できる!

「ふん!昔貴様が言ったような娘に出会っているのでな、もう慣れたわ。」ティファだとてあそこまでではない筈だ!あの娘は本当に変わっていた。

「何だと!あいつの様な者が他にもいるのか⁉」あれ一人でもうんざりとするのに、もう一人いると思うと頭痛がする!!

まさかその二人目の変わった娘がティファの事とは思っていないが、口論は激化をする。

「とにかく!貴様が懸念しているような事は起こりえない!!さっさと許可を出してもらおう!」

「いかんぞ!!許可はせん!!!」

「貴様!まだ言う・・」  -ガシャン!!- 「はいストップ二人共~」

 

口論に夢中になっていた二人は、大鎌が間に割って入って来るまで-それ-の存在に気が付けなかった。

赤と黒の仮面に、同色を基調としたトランプのジョーカーのような男、大魔王バーンの直属の配下・死神キルバーンの存在に。

 

 

「駄目だよ~ミスト、二人の喧嘩止めて上げないと~。皆仲良くしようね~。」

笑いながら歌うようにミストに話しかける唯一の人物。

「それに二人共、大事な事はバーン様にお伺いを立てないと。」

いつもはハドラーに任せているが、今回は珍しく天井に掛かっている石像を通して出席をしている。

「バランよ、竜の子等を引き込む自信はあるか?」短くとも伝わる深みのある力強い声が、緊迫をした会議場の雰囲気を一変させる。

「無論!あの子等を人間の側に置いておくつもりなぞない!!」

「では己が宝を取り戻すがいい。」許可を出した後、石像の瞳から光が消え失せる。

「決まりだな。」大魔王の命は絶対だ。

「・・はあ~・・こうとなってはバラン、丸め込まれるなよ・・」

ハドラーは頭をがりがりと掻きながらも観念をした。最早バランの憎しみの念を信用するほかない。

あのとんでもない娘の言葉に負けないでほしいものだ。

「時にキルバーン、わざわざこのために来たのか?」

軍内でも-始末人-と呼び名で恐れられているキルバーンが、これだけの為に来たとは思えない。

「違うよ~、もしもバラン君の問いに君がすっとぼけたら、今までの敗戦の責任を取らせるって脅して来いってバーン様に言われたんだよ~。

君が正直に、しかも覇気満載に答えてくれて、成長していたのを喜ばれて脅しは無しってすぐに取り消しも来たから安心してね、ハドラー君♪」・・すっとぼけなくて本当に良かった。

「それともう一つ、裏切り者が偵察しに来る前にこの城を移動させておけって。」

「・・ちょっと待て!動くのかこの城は!!」

「うん、この鍵でね。」ガチャリ・ゴ・・ゴゴゴゴゴゴ!!

 

キルが大きなカギを石像の真下の壁にある穴に入れて回すと、城全体が鳴動をして、動き出す衝撃が奔った!

「さあ!グランド・ツーリングにレッツゴーだよ!!」楽しい世界旅行だ♪

 

 

 

「フンフフフ~ン♪」 「・・楽しそうだなキル・・」おや!

「ここ最近どうしちゃったのさミスト!!長ければ数十年だんまりしてる君が、ここ数日で沢山話してくれるなんて~。嬉しくて僕は君をお茶会に招待しようかな~。」

「・・・・」いいからさっさと言え!

「怒らないでよ~、スマイル・スマイルね。でも君の言う通り僕は楽しい。

まさかハドラー君が竜の騎士様と互角に言い合いが出来る日が来ようなんてね~。」

復活した時は本当に小物でどうでもよかった小物魔王がさ。

「-成長する者-を見るのは君も大好きだろうミスト~。」ミストの背後に回って、後ろから両腕をまわせば拒絶されなかった。

ミストも自分同様、成長し、高みを目指す者が大好きっ子だから。

「それとねもう一つ、楽しい事があるんだよ。」秘密を話すようにひそりと話す。

「今日みたいに、ピロロを置いて僕一人でネイル村に偵察に行った事があるでしょう。」

「・・それがどうした・・」

「僕その時にね、バラン君の娘さんにあったかもしれないんだよ。」

ハドラーがクロコダインに一行の映像を悪魔の目玉で見せていた時、丁度自分はハドラーと暇つぶしにチェスをしていたので一緒に見ている。

「黒縁の大きな眼鏡をかけていた可愛い子でさ、よく覚えていたんだ~」実際にあったらもっと可愛かったけど。

「見逃したのか!」勇者一行のものと知りつつ?

驚き怒ったミストはキルを振りほどき、真正面からキルを見据える。

「うん、だってその時は一行の人達をどうしろとは命令されていないもの。」全く悪びれてない!

「・・それで行かせたのか・・」

「そう!可愛かったし、それに僕の服をカッコいいって褒めてくれたんだよ!!」嬉しくなって見逃したんだよ!

 

そんなド派手な服をか⁉あり得ん!!ハドラーの言う通り、娘の方はとんでもない子に育っているのだろうか?

戦力強化の為に、バランの子等を魔王軍に引き入れる事をバーン様に進言をしたのだが、大丈夫だろうか?

一抹の不安を覚え、自分にはあり得ない幻の頭痛を感じ始めた。

 

 

 

 

 

おのれ!ハドラーめ!!

バランは自室のベッドに腰を掛け、まだ怒りに震えている。あの後根掘り葉掘りいつから知っていたのかを問い詰めて全て聞いた、聞けば聞くほどに怒りが煮えくり返った!!

ハドラーの話が本当ならば、半月前にデルムリン島に言った時点で知っていた事になる!

今の今まで隠し立てをしおって!本当に自分がどれほどあの二人に会いたかったか、どれほど世界中を回って捜したか!

赤子の二人の顔を忘れた事は片時もない、二人共ソアラに似て優しい顔をしていて、ティファの髪はソアラに似てふんわりと美しかった。

抱き上げればディーノには泣かれてしまったが、ティファは嬉しそうに声を立てて笑って喜んでくれていた。 キャァ~ア~フフフ~

あの笑い声を思い出す度に、冷え込んだ心が温かくなる。

それをハドラーめ!外界との接触のないデルムリン島で育てば、多少は変わった子に育ってもおかしくはなかろう!!それを本人の咎のように言いたておって!

ティファがそれを聞けば傷つこう、今の内にハドラーの意識を改めさせよう。そうでないと可哀そうだ。

 

バランにとって二人を連れ帰る事は決定事項であり、その後の事を考えるのは自然な事である。

しかし意外だったのは息子の方ではなく、娘の方を警戒していた事だ。

ディーノは島を出て半月しか経っていないのに、ロモス王国から勇者一行を認められ、三人の団長を討ち果たし、バルジ島では完全に力を使いこなしていたとミストが言葉少なく教えてくれた。

自分の血を色濃く継いでくれたと嬉しいが、今だとてティファの情報は全く入っていない。

辛うじて容姿が分かり、アバンとやらの黒縁の眼鏡を譲り受けて掛けて旅をしている事くらいだ。

ハドラーが目を付けたのならば実力がありそうなものだが、そちらで活躍をしたとの情報はない。

それにどうやら中身の方がトンデモないと言っているようだが、五年前に出会ったあの娘に比べれば、多少の事では驚かない。

五年前に二度だけあった変わった少女、ルードの虫歯を心配し、文句を言っていたガルダンディーを叱り、ラ―ハルトとボラホーンにきちんと挨拶をして、そして、懐かしい子守唄を聞かせてくれた少女。

-説得だか丸め込まれているんだか変わらされている-そうハドラーがティファを評したように、あの娘によって竜騎衆の三人も変わってしまった・・以前ほど人間への憎しみが感じられなくなったような気がする。

ティファも、あの娘と同じなのだろうか?

一度だけ自分達とこないかと誘ったが、今度は聞かずに連れてこよう。同い年の子がいた方がティファもディーノも喜ぼう、ついでにデルムリン島にいる育ての親とやらも。

後は・・確かパプニカの姫君か・・ディーノの為に、人間ではあるが少女の一人くらい良かろう。二人に会うのがとても楽しみだ。

 




居ても居なくとも周りを右往左往させる主人公でした。
キルは基本ピロロが大嫌いなので、一緒にいる描写は極力出ません。
原作よりも五割増しでミストとバーンとハドラーが大好きです。

次回の幕間は勇者一行サイドです。
なるべく早く本編に戻しますが、お楽しみください。

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