勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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ようやくバラン編の本編です




マァムの旅立ち

今日の昼前にパプニカ王城に行く予定だったが、マァムが壊れた魔弾銃を直せないかバダックさんに見てもらいたいと朝を少し過ぎたころに向かった。

その時マトリフにおかしなことを言われた。「もしかしたらダイの額に紋章の謎を解くカギはテランにあるかもしんねえ。」

今日は遠出をしてきていいと言われたが、「俺は別に気にしてねえんだがな~。」

親友で弟弟子の力の源かもしれないと師匠に言ったら、自分よりも師匠の方が熱心に調べてくれていたらしい。

「何の力か分かんなきゃきちんと制御できると言えねえぞ!」暢気言ったら雷落とされた。

「へいへいっと、師匠は心配性だな~。もっと気楽に行こうぜ、長生きの秘訣って暢気が一番らしいぜ。」

「っつ!!馬鹿言ってねえで!!さっさと王城行って、テランに道草食って来いひよっこが!!」

「そんじゃ行ってくるよ。」

ポップ達が言った後、マトリフは盛大にため息を吐く。アバンの奴が弟子にする事だけはある、魔法の才能だけじゃねえ、あいつは底抜けに明るいんだ。

力だけならあった-嬢ちゃん-とは違う、あれは明るい振りをして心の弱さを一生懸命に隠していた子供だった。

嬢ちゃんが-ティファ-なら、ポップの本当の明るさに守られてほしい。

ダイ達もみんな良い子だ、こんな偏屈じじいを気遣い慕ってくれている。

長生きか、頑張ってみっかな。

 

 

マトリフには暢気にとは言ってみたが、今自分達の方が緊張をしている!

王様に会ったのはロモス王だけで、あの王様は気さくだった。

果たしてパプニカ王はどんな人物なのか「三人共落ち着いて頂戴、お父様もロモス王の様に気さくな人なの。

でも驚かないで上げてね、お父様はここ数年病を得て今は寝室で政務をなさってるの。」

明るいレオナが不意に悲しそうにするのはこちらも悲しくなる。

「大丈夫よレオナ。」マァムはレオナの手をとって、慈愛に満ちた微笑みを向ける。

「私の父もずっと寝たきりだけど、今でも雷親父って言われるほど元気があるの。

人って案外丈夫なのよ。」だから諦めないでほしいと優しく諭す。

「サクッとお礼を受け取って、ゆっくり話せたらいいな。」

「レオナのお父さんか、きちんと挨拶しないとね。」

「・・みんな・・ありがとう・・ありがとう・・」レオナは三人の優しさが嬉しくて、ぽろぽろと涙を流す。

「そうよね!お父様は強いのよ!!」涙を拭い、力強く言いながら歩き出す。

その様子をバダックと案内のアポロが優しい眼差しで見守る。姫に、本当の友人達が出来てよかったと。

生まれたころから知っている、お転婆姫と言われ、口さがない者達からは跡取りに相応しくないと言われている姫君を。

本当は誰よりも賢い、だからこそ分かってしまうのだ人間の醜い部分を。

この子さえいなければという親戚の者達・権力にすり寄る輩に怯えて姫は外に行くようになったのも。

古参のバダックはそれとなく見守るように王から直々に命じられ、ついでに子飼いも作れるように賢者見習の中から見繕ってくれとも言われた。

それが現・三賢者になったのは偶々だが、子供だった彼等にもきちんとレオナの行動の意味を話してある。

三人が大人達によからぬ姫の悪口を吹き込まれる前に先手を打って。

以来アポロ・マリン・エイミは姫を守る忠実な者となった。

その姫に誠の友が得られたのを喜ぶのは、至極当然であった。

 

 

「君達がレオナを救ってくれた子達か。私はパプニカの王をしているレオールという。

この様な格好で済まないが、本当にありがとう。」

通された寝室の真ん中に天蓋付きのベッドがあり、そこに身を起こしていたレオール王に早々にお礼を言われた。

レオナと同じ明るい金の髪に深い青の瞳の男性は、意志の強そうながっしりとした顎を持ちながらもどこか甘やかな雰囲気がある大人の男性だった。

(・・同じくらいの年に見えても、父さんと全く違うわ・・)父・ロカはガキ大将がそのまんま大人になったような人だから、レオナの父と偉く違うと思わず思ってしまった。

けれどもロカは大好きだから別にいいかと思うが、少しはレオール王の大人の雰囲気を持てないかしらと思うのは自由であろう。

 

お礼は言われたがやはり王の体調はすぐれないらしく、側にいた侍医長とおぼしき人物に今日はここまでにした方がいいと進言をされて、三人はレオナに見送りを止めて城を後にした。

「・・ティファがいれば、ロカさんの時みたくアドバイスしてくれたかも・・」

「そうだね、レオナのお父さん回復するといいね。」

「今度ティファも連れて来てみない?」

三人にとってはティファならば病にも知識があり何とかしてくれるのではないか位に思っている。

あの場で言わなかったのはティファ本人がいないから、下手な希望を持たせたくないのがあったから。

次来る時はティファも一緒だ。

 

「そういやマァム、お前の用事は?」

「あれはもう直らないってバダックさんに言われたの。」作り主は真の天才で、自分には構造すら分からないと一目で言われてしまった。

「そっか、先生って本当に凄いんだな。」

「これからどうするのマァム?」-ガン!!-

「・・痛いポップ!!なに・・」

「馬鹿野郎!!」-びくん!-

「先生から貰ったもんが壊れたマァムを少しは労われ!」

「あ・・・ごめん・・マァム・・」

良く言えば純粋だが少々無神経なダイを、ポップが拳骨を落として叱りつけ、叱られたダイはすぐに意味が分かって反省をしてしょげながらマァムに謝った。

マァムの魔弾銃が壊れたのはレオナを助けるために無茶な使い方をしてくれたからだ。

その事を忘れてしまうなんて情けない。

「いいのよダイ、ポップもありがとう。」やりたい事は見つかっている。

 

一昨日の宴の皆が楽しそうな時に、焚火を見ながらぼんやりと考えていた。

自分は何が出来て、一行の助けになれるのか。

回復役ならば、その場に居なくともティファの薬の方が自分のベホイミよりも数段上だった。あの薬とべほちゃんのベホイミがあれば、僧侶の自分はいらないと思い知らされた。

戦う手段の魔弾銃が壊れた今、果たして自分は-どうしましたかマァムさん-

不意にティファの声がした。

-貴方は笑顔が良く似合いますよ、ほら笑ってスマイルですよ~-

先生と同じ眼鏡をして柔らかい笑みを浮かべたティファの声が、自分の胸をほんわりと温めてくれる。

-寂しいの-自分の胸の内をいないティファに明かす。

宴の焚火に照らされたポップの横顔からは、力強い男の顔をしていた。

作戦が上手く、土壇場で力を発揮するポップからは弟弟子という感じがしなくなり、頼れる一行の魔法使いだ。

ダイも己の力を制御でき、遂にはアバン流の奥義アバンストラッシュを完成させて、一段と勇者らしくなっていく中、自分一人が置いて行かれているようで。

 

-そんな事はありません、マァムさんにはマァムさんにしかできない事がきっとあります。

他の人がではなく、マァムさんの良いところを見つけて上げてください-

私の良いところ・・力が強い・・そうだ!!そうよ!自分には父譲りの力がある!!-伝手-もある!

 

「だから、明日送って欲しいのネイル村の近くに。」

「・・急だな・・」

「御免なさい、でも修業が終わったらすぐに戻るから・・」

「マァムが決めた事だもんね、俺は応援するよ。」「あ!俺だって応援するぞ!!」

急な旅になったったが、その日の夜はマトリフの洞穴でまたもや宴会となった。

マァムが無事に一行に戻ってくれることを願いつつ。




ようやく本編のさわりが書けました。
マァムを無事に旅立ちをさせられて、筆者としてホッとしました。


ポップは一行のお兄ちゃん的ポジションとして、頑張ってもらう予定です。

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