勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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超竜軍団との決戦の地が決まりました。

始まりは魔王軍の死神さん視点でお送りいたします。



竜の親子の対面

いや~何あの子供達、本当に子どもって言っていいのかな?

あの勇者君はバラン君の子供だって言われているから一応納得いくけど、魔法使いの子って調べても出てこなかったよね。

つまり王族でも、勇者一行の仲間の子でもない一般庶民のお子様って事だよね・・どこにいたのあんな凄い逸材。是非魔王軍に欲しい位だ!

 

「・・・キルバーン・・仕事の時間だよ・・」

うるさいな~。

「分かったよピロロ、仕事・・」

「誰だ!!!」 -ドガッ!-おや見つかったか。

気配が漏れ出たからって、空間内の僕に気が付く勇者君の実力は本物か。

 

 

「ダイ・・あの壁がどうかしたのか?」

誰何しながらドラゴンスレイヤーを投げたという事は、敵が潜んでいるのかとポップも魔力を溜めながら壁を睨みつける。

 

「うふふふ~怖い・怖い~。」

 

歌うような、楽しそうな声を出しながら、壁から長身の・・声から察するに男でいいのか?怪しさ満載な奴が出てきやがった!!

しかもドラゴンスレイヤーが胸元にぶっ刺さっているのをなんとも思っていない様に・・

「グッド・アフタヌーン勇者様たち。僕は魔王軍の一人で、-キルバーン-

口の悪い奴は死神って呼ぶけど、以後お見知りおきを。」

ドラゴンスレイヤーを右手で抜き、ドロドロに溶かしながら優雅に挨拶をしてくる。

「お前がドラゴンを放ったのか!!」

今にも斬りかかりそうなダイを抑えつつポップが問いただす。

口調と仕草はふざけて見えるが、レア武器であるドラゴンスレイヤーを一瞬でとかせるものなど聞いた事がない!生半可なドラゴンの炎にも耐えられると言われているほどの武器をだ!!

こいつはやばい、下手したらバルジ島でヒュンケルが倒したハドラー以上だ。名前に-バーン-が冠せられているのは伊達ではなさそうだ。

実力が全く読めず、あの赤い瞳を見ているだけで寒気が奔る。

 

おやおや、あの魔法使い君は僕の実力に気が付いて警戒してしまったな。

「ほら坊や達、顔が怖いよ。スマイル・スマイルね?今日はそこの勇者君の実力を見るためのほんの挨拶に来ただけだよ。

でも勇者君の力が-人間-に見られなかったのは-ピロロ-の目論見は失敗か。」

ちょっといい気味かも。

 

挨拶・・街に被害が出て、人にこそ被害が出なくともそれは運が良かったにすぎないのを挨拶だ!!それも人間がダイの力を見ていなかったってのは・・つまりダイの力を意図的に人間に怖がらせようとしやがったのか!!

 

「お前は!!」-ヒーン!!-「許さない!!!」

 

ポップが怒鳴る前に、ダイは完全に切れて紋章を発動させた。人を巻き込んだ者が挨拶だなんていう奴は倒してやる!!

「はい、ストップ」

 

-ピタリ-

 

いつの間にかダイは背後をとられて、冷たい感触が首筋に伝わる。

「短気は損気だよ勇者君。」

大きな三日月型の大鎌が、ダイの頸を今まさに刈り取ろうとしている。

「今日は本当に挨拶に来ただけだよ。それと確認かな、君が竜の騎士様の子かどうか。」

「・・俺が・・何?」

自分の事を知っている?

「君はまだその力の源を知らないんだね。テランに行ってごらんよ、そうしたら分かるから。」

そしてそこにはお父さんが待っているのは内緒だけどね。

 

「手前!ダイから離れろ!!」

ポップはダイに大鎌が首筋に当てられても悲鳴を上げて動揺をせず、キルバーンの横位置に静かに配し、ありったけの魔力をかき集めて威嚇をする。

ダイの頸が落ちる前に、ギラでキルバーンの腕を落とす!

「そういえば一つ聞いてもいいかな?」

ポップの威嚇をものともせずに、キルは平然とダイに話しかける。

「君の妹さんはどこにいるの?」

 

妹・・ティファの事も知られている⁉

 

「あの子も一緒に・・・」-イオ!!-ズガーン!!-

「・・物騒だね魔法使い君は・・、いきなり魔法を放ってくるなんて。」

「うるせえ!!こいつに近づくんじゃねえ!!!」

 

ダイどころかティファの事も出されたポップも、とうとう堪忍袋が切れた。こんなやばい奴が気軽に弟・妹の事を言うな!!

「あ~あ、怒られたから僕は帰るね、シー・ユー。」

 

現れた時同様に、壁を背にして消えて行った。

 

あとに残された二人は呆然とし、その場に居たテランの高名な占い師・ナバラと孫娘のメルルの導きによってダイの出生の秘密を知るのであった。

怪しく死神を名乗るキルバーンの情報だけならばテランに行く事は無かったが、ナバラ達と、そして昨日のマトリフの助言を思い出し、ポップはダイをテランに連れて行くことにした。

 

「うまくいったよミスト~。ご褒美頂戴♪」

 

帰っていきなりミストの背後から抱き着くのがご褒美。

ちゃんと仕事をすれば許してくれるミストは優しいな~。

「二人は間違いなくテランに行くね。でも妹さんがいなかったのが残念だよ。」

 

バラン君も教えてくれないから名前も分からない。

勇者君にかまをかけても、魔法使い君によって邪魔をされてこれまた情報が得られなかった。

「凄いよね~、今まで-魔王軍の監視網-に引っかからなかった子なんてさ。」

 

全世界とは言えないまでも、主要都市部・各王宮には必ず設置をして悪魔の目玉で、デルムリン島に先代勇者とその弟子と、弟子候補のダイが見つかったというにだ。

見た目は本当に可愛い女の子だった。しかし現時点でも今の紋章を使いこなしている勇者君よりも実力は上だと言える女の子っていうのもあり得ない。

そんな子が今まで引っ掛からなかった、ある意味異常事態と言えよう。

「・・・・監視は怠らん・・」

ダイ達の行く先のテランには、もう目玉を送ってあり設置済みだ。

見逃さないとミストは静かに、力強く宣言をする。敬愛するバーン様の障害となりうるものは全て潰す為に!

 

 

 

 

ナバラの持っていたキメラの翼で四人はすぐにテランについた。

静かな所で人も少ない。

「ここには魔王軍も来なかったよ。」

国の衰退と、それゆえに今大戦で放って置かれたのをナバラが教えてくれた。

「・・いい王様みたいなのに・・」

ダイとしては争いを失くそうとしたテラン王・フォルケンを好ましく思っただけに、それが元で国が衰退するといのが悲しくなる。

争いの元なんてすべてなくなった方がいいのに。

「ダイ・・」

そんな優しい弟の頭を、ポップはくしゃくしゃと撫でながら王城へと向かう。

ナバラは高名な占い師であり、フォルケン王の信も厚く顔パスで通れた・・通った先には!

 

「レオナ!!どうしているの⁉」

パプニカにいるはずのレオナがいた!!

「ダイ君達こそ・・ベンガーナに行ったんじゃないの?」

「いやそれがさ・・」

説明下手なダイに代わって、ポップがこれまでのいきさつを話した。

 

「そう・・そうなの。ダイ君、自分の事をきちんと知りたい?」

「レオナ・・俺・・ずっと俺は人間だって・・でも違うかもしれないって!分からない・・だから確かめに来たんだ。」

 

いつもの明るく元気なダイが泣きそうになりながら己の思いを吐き出すように話す。

人間と違ったら・・レオナは自分を

 

「ダイ君」・・温かい・・

 

レオナは膝をつき、ダイを包み込むように抱きしめる。

「ダイ君のその力が何なのかは私にも分からない。でもね、力は力であって、それをどう使うかを決めるのはダイ君でしょう?私を助けてくれて、世界を救おうとしてくれるダイ君の事が、私は大好きよ。」

 

何の思惑もなく、ただダイを好きだとレオナは告げる。

 

「俺・・俺も・・皆好きで、レオナは大好きだよ。」

泣き笑いしながらダイはようやく心が落ち着くのが分かった。好きな人が、どんな自分であっても好きだと言ってくれて心が癒される。

 

-ゴホン!!-「あ~・・もういいか二人共。」

 

ダイを慰めてくれるのは嬉しいが、それ以上は目のやり場に困る。止めていなければ口づけをしてそうな二人を、ポップは赤面をしながら止めに入った・・馬に蹴られて死んじまうかな?

「あ!!・・行くわよダイ君!」

「そうだね、でもどうしてここにレオナがいるの?」

「私はお父様のお使い。詳しい事は内緒だけど、親書を届けに来たのよ。」

外に待たせているが、護衛もきちんと魔法団の一団を連れてきている。

 

話をしながら一行はフォルケンの寝室へと通された。

レオナの父の様にベッドの上で政務をとっているが、レオール王は病を得ても獅子の如くであったが、フォルケン王は深山の泉のような静謐さを讃ええた人物であった。

深き知識を持ちし老賢者の様に。

 

「話は分かった。ナバラ、そなたの見立てではどうか?」

レオナの挨拶とレオール王の親書を渡された後、レオナから勇者一行の紹介とテランに来た目的を告げられたフォルケンは、ナバラに助言を求める。

「はい、私も確かに見ました。勇者ダイの額に一族に伝わる-竜の紋章-が浮んだのを。」

「それはかの湖に沈みし神殿に刻まれている刻印と同じものの事か?」

「はい、我がテランが信仰せし-聖母竜・マザードラゴン-が生みし騎士様の紋章と同じでした。」

「そうか・・」

 

前大戦では姿も噂も無かった竜の騎士様が、此度は現れたか・・しかし、いかに騎士様とは言え若すぎる。

後ろにいる魔法使いの子もまた然り、老いた自分にできる事は無くこんな年端もいかない子等が戦う、なんと因果な事であろう。

「勇者ダイよ、湖に潜り己の出生を知りたいか?」

「俺は知りたい、知っておきたいんです!この力が何であり、きちんと使えているのかどうかを。

俺はまだまだ弱いんです、知った事で強くなれるのならば・・」

「何故強くなりたい?」

 

先の戦いの功労は知っている。老いたりとはいえ情報収集はまだまだ衰えてはいない。今だとて強さを備えているのもだ。

「世界を守りたい!」

ダイはフォルケンの瞳を見つめ、迷うことなく言いきった。

魔王軍から世界と愛しいレオナを守りたい!その為の力が欲しいのだと。

「・・分かった。すまない試すような事を言って。」

フォルケンはダイの覚悟をきちんと受け止めて、湖に潜る許可を出した。

 

 

「行ってくるよ、ポップ。」

ダイは笑いながら湖に潜る。違う世界の自分達は、苦悩の果てに神殿に行かざるをえなかったとは知りもせずににこやかに。

「行っちまった・・」

 

苦悩ではなく、ポップは心配な顔をする。

 

「あらポップ君は意外と過保護ね。」

「いやさ・・ティファにも説明しないといけねえと思うとよ・・」

 

あの可愛い妹に、お前は・・なんてどう言えばいいんだよ⁉

 

「ティファ?・・ねえポップ君、ティファって誰の事?」

「・・・・・は?」

「だから!ティファって誰よ!!まさかダイ君のガールフレンドかなにかなの⁉」

 

ダイのとてつもない出生の秘密を共有する相手何てただの相手であるはずがないと、レオナは鬼の形相で迫る!

 

「・・ダイの妹だよ・・何で姫さん知んねえんだ?」

どこかでダイが話していないのか⁉

「妹⁉・・ダイ君に・・」

 

一度も聞いた事がなかった。

レオナの驚いた顔に、本当に知らないのだとポップは確信をする。

 

「ポップさん・今ダイさんに妹がいると言いましたか?」

 

今まで話しかけてこなかったメルルが急に話しかけてきた、それも青い顔をして。

よく見ればナバラも驚いた顔をしている。

「そうだ、ダイの双子の・・」

「あり得ません!!」

ポップの言葉をメルルは力強く否定をする。何故なら

 

「一つの時代に騎士様は常に一人でした!二人いた事は数千年の歴史の中で一度としてなかったのです!」

「何だって!」

 

だって・・ティファもダイ同様に紋章が光っているのを自分は見ている!

ダイ・・早く戻って来てくれ!!

メルルのもたらした情報に胸騒ぎが起きる。

 

 

 

「プハ!・・ここが神殿の中か・・」

 

空気があって助かる。

ここに俺の・・俺達の秘密が・・

 

「待っていたぞ当代の竜の騎士よ。」

「水晶が・・お前は言葉を?」

「そうだ、聖母竜より時代の竜の騎士たちを教え導くものとしてこの神殿に据えられしものだ。」

「だったら教えてくれ!俺は竜の騎士という者なのか!竜の騎士ってなんなんだ!!」

「そなた・・竜の騎士の記憶は受け継がれていないとは・・マザードラゴンの力はそれほど弱っていると・・」 

「それは違うぞ水晶よ!!」

 

ダイと水晶の会話に割って入った者がいた。

柱の陰から、一人の男が出てきた。

長身で一目で戦士と分かる男は、ダイから目線をそらさずに水晶に話しかける。

「私こそが当代の竜の騎士、この者は私の子だ。」

「子なぞ!あり得ぬ!!竜の騎士は代々・・」

「そうだ、私もマザードラゴンより生まれ落ちたが、この子供は人間の女性から生まれた我が子だ!それが証拠に竜の騎士しか入れぬこの神殿に入れたのが何よりの証だ。」

「竜の騎士が時代に二人・・」

「訂正をしてもらおう、私の子は双子であり三人だ。」

 

 

この男は自分どころかティファの事を知っている!しかも会話から察するに父だと!!

 

「おま・・」

-ダイ兄、相手の名前を聞く時は自分が名乗ってからだよ~-

 

男に問おうとしたら、ティファの声がした。

三つの頃にウォーリア達に出会い、ティファが教えてくれた事だ。

 

「・・俺はダイと言います!・・貴方は誰ですか。」

 

・・確かこういったらティファとじいちゃんが褒めてくれたのもよく覚えている。

 

何と・・ディーノは礼儀正しい子に育っている!この分だとティファもそのはずだ!!

やはりハドラーが間違っていた!こんなに良い子に育った子をつかまえてとんでもない娘呼ばわりをしおって!!

「・・あのお・・」

 

は!いかん、ディーノが怪訝な顔をしている、ハドラーをとっちめるのは後にして。

「先ほど水晶に言った通り、私は当代の竜の騎士でありお前と妹のティファの父バランだ。」

「父さん・・本当に?」

「うむ・・これが証だ。」-ヒィーン-

戦いの時とは違い、バランは弱く紋章を発動させる。

「俺と同じだ・・」

 

自分では見る事は出来ないが、ポップ達が絵にかいて教えてくれたのと同じだった。

「そうだ、私はお前達の父であり、そなたの名は-ディーノ-という。」

「俺は・・ディーノ?ダイじゃなくて・・」

「そうだ、そなたの母と共に付けたそなたの誠の名だ。

ディーノよ、私と共に人間を滅ぼそう。」

 

そうすれば亡きソアラは喜び、親子三人でいつまでも仲良く暮らせる。




今夜はここまでです。
原作と違い、キルはピロロを心底嫌い計略嫌いでもあります。

ドラゴンスレイヤーはキルバーンの実力を示すためのアイテムとしてすぐに消えましたが、
ロン・ベルグさんに出てもらう予定は原作通りですので思い切って出しました。

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