父さんと三人組が襲撃をしてきて、私を見て驚いた隙に説教する予定だったのに、
「このバカガキンチョが!ルードの粘液で消化されてえのか!!」
「無謀な馬鹿だとは思っていたが!考えなしの馬鹿まで追加されたいのか小娘!!」
「お転婆も大概にせよ!もっと自分を大事にできないのかバカ娘!!!」
う~う~、何でか私がお説教されてる!!
「だって!!ル―ド君が!!!」-バッガン!!-本気で鳥兄さんに頭ぶたれた!!!
「だからって口の中に飛び込む馬鹿がいっか!!」
「ルード!!お前も悪いぞ!!」ルード君もボラホーンにしばかれてる。
「-だっておねいちゃんが!僕よりもそんな!!-」
「問答無用で筒に入れさせるぞルード!!!」ラーハルトさんがおっかないよ!
ひっくう~「そんなに・・怒んなくてもいいじゃないですか~」何で私が怒られないといけないの~・・理不尽だよ。
久し振りに会った少女が、いきなりルードの口の中に飛び込んだのを見た時は心臓が止まるかと三人は思った。
無謀で馬鹿だとは思っていたが、成長をしたら少しは落ち着いているのだろうかと夢見た自分達が馬鹿だった。
「・・ったく・・いいから服着ろ。」ほれ着せてやる。
「馬鹿な小娘だ・・ほら髪をきちんと結い直せ。」リボンくらいは結んでやってもいいだろう。
「あまりにも無謀が過ぎるぞ。」ポーチも全て落として服を脱ぎおって。
三人は何の疑問もなく何くれとなく少女の面倒を見る。
自分達の名前を知っている、それでも自分達は少女に名を聞いていないというのをすかんと忘れて。
ガキンチョ・小娘・娘とそれぞれ好き勝手に呼んでいる。今更名前なぞどうでもいい位少女の存在は大きいのだから。
それに-ふわり-「・・あまりにも無謀が過ぎるぞ、娘よ。」バラン様とて娘を愛しているのだから。
大きな手に両手で抱き上げられた。
振り向いたらやっぱり「お髭のおじさんも怒ってる?」酷く憂い顔の父さんだ。
「怒ってはいない、しかしそれ以上ではある。」ルードが一目散に飛んで行った先にはもしやと思い期待をした。
そして案の定見つけた!それもボラホーンとガルダンディーによってルードの口から引きずり出された娘が!!
もうどうしてああなるのかが自分にはさっぱりと分からない!自分が人間とずれているとの自覚はあるが、この娘ほど変わっている訳ではないと断言できる!!
最早放ってはおけない!この娘は自分が保護をしてうっかり無謀をしない様に見ていなくては!!
「今度は聞かぬ。我等の元に来てもらうぞ娘よ。」そして大切にする。
「う~ん、お髭のおじさんそれって犯罪だよ~。」悪い事禁止だよ。
「そうでもしないと安心できぬ。どうせ今までも相当な無謀をしてきたのであろう?」
「・・・・少しだけ?」自分でも疑問形。えっとハドラーに宣戦布告とか、わざと敵に捕まったのかって無謀かな・・やっていないと断言できない所がいたいな。
「バラン様、聞くだけ損です。さっさと連れて行きましょう。」「あ!ラーハルトさん酷い!」
「お前なんてバラン様が言った通りだろう!ゆうこと聞いておけ!!」「そんなことないよ、ガルダンディーさん!!」
「ではどう違うのだ?無謀をしていないと言いきれるのか?」「・・突っ込み鋭すぎだよボラホーンさ・・」
「いい加減にしろ―――――!!!!!」バリバリ!!!
少年の怒りに満ちた声が、気配的にも物理的にも雷を落とした――!!
妹を好き勝手する父親とは絶対に認めたくない男とその配下とおぼしき奴等が!!最愛の妹と何を気軽に話してる!
ティファは俺の妹だ!!好き勝手にしていいのも俺だけだ!他人が勝手に触るんじゃない!!
近頃はウォーリア船長の船員に、ティファに言い寄る若い船員達がいる
それらはもれなくお友達のモンスター達と一緒に邪魔をする。
好きだと言いかけた時にタイミングを見て出ていき、プレゼントのお菓子は美味しくいただき、花束は自分が受け取るetc.だ。
大切で大事な可愛い妹に!!ティファがいなければさっさと当人達にライデイン落とすのに!!
何やら勇者として敵を討つという趣旨とはだいぶかけ離れているが、闘志は十分ある!
しまった、ディーノをすっかりと待たせてしまった。
いるのは分かっていたが、少女の方が衝撃度合いが大きかったためにそちらを優先し過ぎたか。
しかし瞬時に紋章を発動させて、平原にライデインを落とすとは流石に我が子だ!
戦士としてなんと優れた子に育っているのだろうと、父としては嬉しい!短気は大目に見よう。
「すまないディーノ・・」 「五月蠅い!俺の名はダイだ!!ブラスじいちゃんがそう付けてくれたんだ!!!」ダイ以外は認めない!まして人間を滅ぼすと言っている男から・・「ティ・・」-モガ-
「随分と人間の女の子にご執心じゃねえかよ、人間全滅目論んでるお人がよ。」
ダイがティファの名前を呼び掛けたので急いで手で口を塞ぎ、余裕たっぷりとした挑発をする。
この言い方であれば、聡いティファならばすぐに分かってくれるはずだ。
その男が先ほど言った父親であり、今回の敵なのだと。
どういう経緯で知り合ったがは不明だが、まさか昔会っていた知り合いだと思わなかった。心底驚いたが、魔法使いがこの程度でうろたえて感情を出すわけにはいかない。
ティファは驚くだろうか?親しく呼び合う知り合いが、そんな複雑な関係だと知って。
「・・・・本当なの?」ティファは悲しい顔をバランに向ける。
「・・娘よ・・」バランはその顔を見て苦しくなる。この娘には笑顔がよく似合い、悲しい顔をさせたくはない。
それに、己の中の醜い感情を知られたくはなかった。
「お髭のおじさんはまだ人間が嫌いなままなの?」とてもとても悲しそうな眼で、自分の目をのぞき込んでくる。
自分からそらさせない様にと、小さな手がひたりと頬に張り付く。
「人間にもいい人は沢山いるよ。テランのあの子供達だって人間の子供なんだよ?」
そうだ、それがあるのがいけない。ルードの面倒を見て、ボラホーンとラーハルトに憧れの眼差しを向けていた十数人の子供達。
「・・あの村は手を出さぬ。」そうすればいいだろう。
「勝手を言うな!!」ダイはバランの言い分に本気で腹を立てる。
生殺与奪権利を持つ、神にでもなったつもりかとポップとクロコダインも同様だった。
「お髭のおじさん・・それじゃあ駄目なんだよ。」その村を救うと言ったのに、何故悲しい顔をするのだ。
「あの村の子供達も、大人だってそんなこと喜ばないよ。あの村の人達はテランが好きで、王様も大好きで、行商に来る遠方の友人が好きで、親戚の家も他国にあるんだよ。」
世界はバラバラに見えても繋がっている。
一人の人間が笑って本当の意味で幸せになるには、実は世界が平和でいなと叶わないのではないのかと思うほどに複雑に絡み合っている。
一概に自分達だけが助かれば幸せかといえば、あの村の人達は否と答えるだろう。
「そんな事をしてたら、お髭のおじさん達皆が嫌いになられちゃうよ?」それこそルードに長生きを願ったニーナにもだ。
その言葉に、ガルダンディー達も苦しくなる。ニーナ達と敵対したくはないと、この期に及んでも都合のいい事を考えてしまう。
バランの子息で目の前の勇者ダイよりも、少女とテランのあの村の子供達の方が遥かに大切なのだ。
「・・・・人とは本当に狡猾な生き物だ・・」
少女と竜騎衆の悲しみを感じたバランは、胸の中にどす黒いものが覆いつくし始める。
「弱く!あどけなく!!そしていつかは裏切る業深き者!!それが人間なのだ!」二度と人間なぞ信じるものか!
かつては自分も少女のように人間を信じた。だが挙句どうなった?自分から最愛の者を奪い、あまつ死にゆく娘に罵倒までする醜い生き物ではないか!!
「・・お髭のおじさんは、人に酷い事をされたんだね。もしかしたらガルダンディーさん達も。」
「そうだ!ガルダンディーとボラホーンの一族は人間との土地争いが元で争い、一族を滅ぼされた!!ラ―ハルトは幼少期より、その出生によって迫害をされて死ぬ寸前に私が助けた!!
まだ当時は幼く、出会った時のそなたと同い年頃の時に!誰も手を差し伸べるどころか殺そうとしたのだ人間は!
そして私の大切な者達を奪ったのも・・」
呻くように、胸の痛みを吐きつくすかのようにバランは目の前の少女に叫び上げる。
「そなたは!人間の醜い本性を見ていないからこそ綺麗事が言えるのだ!!」
少女の美しすぎて眩しすぎる心を否定するように。
種族なんて気にしない、あの言葉を粉々にするために。
バランの激白に、ダイとポップは衝撃を受けた。
まさか同族がそこまで酷い事をするとは思ってもみなかった。
ガルダンディー達を見てみれば辛そうな顔と、微かな憎悪を感じる。底に仕舞い込んでいた痛みを思い出すように。
「駄目だよお髭のおじさん!」凛とした声がバランの負の思考を遮る。
「何度言わせる!そなたは・・」 「私だってあったよ!酷い事に!!」
バランの怒鳴り声に負けない様に、ティファも負けじと大きな声ではっきりと言う。
ダイとブラスには絶対に内緒にしていた事だが仕方がない。
旅をしていれば、それも自分のような子供はすぐに襲われる。
追剥や盗賊たちは数えきれないほど、親切に泊めてくれた家の人が女衒で寝込みを襲われた。
傷薬を売ってあげたのに、渡すお金はないと石をぶつけられた。
言葉を話す大型モンスターを助けてあげたのに、そのモンスターよりも上位のモンスターに贄に出されて、食われかけた。
気を失っていたはぐれ魔族さんを助けたのに、話をする前に硫酸を浴びせられて背中には醜い傷が未だに残っている。
お金も騙し取られた、遊んでいたモンスターに騙されて目玉を啜られかけた。
本当に全種族に騙され酷い目にあった。危害を加えていない種族は精霊くらいしかいない。
「・・・・娘よ・・そなたはどうして恨まない?何故平然と笑っていられる。」それこそ人間どころか世の全てに不信感を持っても不思議ではないだろうに!!
「だって、やったのはその人達であって、他の人達じゃないもの。
硫酸を浴びせた魔族さんはラ―ハルトさんじゃない。
私を騙して食べようとしたのはガルダンディーさん・ボラホーンさん・ルード君じゃない。
お金を騙し取ったり、殺そうとしたのはニーナ達じゃない。
私はね、種族なんかでは-その人達-の事を分かるとは思えないんだよ。
だってお髭のおじさんの言う通りだったら、酷い事をしたのは全部人間だけじゃない。全種族が悪しきものになっちゃわないかな?」だって、全種族に悪さされた。
「それでも、私はニーナ達もお髭のおじさんたちの事も大好きだよ。」愛おしくて、助けたいと思うほどに。
「それは・・」
「人間だって、魔族だって、半魔だって、モンスターにだって悪い奴等はいる。
腐ってどうしようもない奴がいるのも知っている。
私だって、大切な人達を殺した奴は許さない。」きちんと殺す。
「でもその人か、関わった者以外を滅ぼそうと思わない・・もしかしたら、私の大切な人達は、私に復讐なんて願わないかもしれない。」ブラスじいちゃんが願う訳がない。
「お髭のおじさんの大切な人は、願ったの?」人間を滅ぼしてほしいと?
・・あの日の出来事を決して忘れはしない・・妻は願わなかった・・人間への復讐なぞ・・
-あなた、人間を許して頂戴・・・-死の寸前でも、ソアラは優しいままで・・・では私は・・妻の思いを踏みにじっていると言うのか!この少女のように、死したソアラは悲しんでいる・・
「いけないお喋りをする子だね~」
バランの迷いを嘲笑うかのように、歌うような声が朗々と平原一体に響き渡り、同時にティファの口を二つの手が覆いつくして、そのまま-黒い空間の中-に引きずり込んだ!
「忘れちゃだめだよバラン君。その素敵な大切な人を奪ったのは-誰-何だい?」
思い出してごらん、何故君はそんなにも人間を憎んでいるのかを。
主人公が今まで育んできた思いを、あと一歩で届きそうでしたが、
届きそうなところで-彼-が邪魔をしました。