勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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もろバレなタイトルですが、




死神の執着の始まり

「放してください!!!」

 

真っ暗な、どこまで行っても出られそうにない所は怒声とて呑み込む。

「駄目だよ。この前言ったでしょう、お転婆が過ぎると狼に食べられちゃうって。

忠告を無視した君が悪いんだよ、大人しくしてね?」

 

 

キルは少女を後ろから抱えながら空間をたゆとう。

いつもはピロロが肩に乗っているだけで基本は一人でしか入らないのに、初のお客様は気に入った少女で、これからひょっとしたら-仲間-になってくれるかもしれない大切なお嬢ちゃんだと内心でほくほくとしている。

こんなに思いを向けるものに出会ったのは本当に久方ぶりだ。

ヴェルザー様は別にどうでもいい、バーン様の方が今は好きだ。

ミストは言わずもがなで、近頃はハドラー君がいい感じになってきたと観察してみようかな~くらいだが、この少女は全く違う!

 

 

 

少し遡った魔王軍

 

「・・・・・・一体・・・・・あ奴は何なのだ・・・・・」

 

これはハドラーが振り絞るように出した言葉だった。

今魔王軍の残った団長達は、バランの戦を全員で見ていた。

何となれば、最大の障害になりうる勇者一行を壊滅させて、うまくいけばダイとティファが手に入るかもしれない重要な戦だからだ!

キルがお膳立てをして、待っていたバランとダイが激突をして・・・乱入者にバランが撃退をされたところは・・最後はともかくほぼ真っ当な戦いだったが・・ティファのせいですべてが茶番化してしまった!!!!

 

何なのだ本当にあれは!!冗談が具現化をして服着て歩いているようにしか最早見えん!!!

布陣を張っていたところはともかく!ルードとか言う竜にいきなり懐かれて、歯を見るだのアメ上げるだの!さらにはいきなり服を脱ぎ始めて竜の口の中に自ら潜り込むって何だそれは⁉

いかにアバンの形見の為とは言え!命いらんのかあいつは!!!!

もうやだ・・あれに関わると頭痛しかせん・・胃に穴が開きそうな・・

 

「く・・くっくっく・・はっはっはっはっは!!ああもう駄目!!あの子凄い傑作!僕笑い死にするかも!!」

それをミストバーンの肩にもたれて大笑いをしているキルバーンの気が全く知れん。

様々な意味で唖然茫然としているザボエラの方が納得がいく!

この状況は様々な意味でおかしいだろう!!

 

軍随一の冷徹参謀の肩に、軍随一の味方殺しの異名を持つ死神が寄りかかって大笑いをしている図も中々シュールだが、キルは心底大笑いをしている。

もう駄目!あの子があんなに面白い子だと知っていたら、ロモスの迷いの森で有無言わさずにかっさらってきたのに!

 

ティファと言う少女はまさしく自分の好みにバッチリと当て嵌まっている。

服の好み、独特の思考回路、それ故に我が道を堂々と行く姿はまさにバーンとミストにそっくりだ!

 

 

僕のお嫁さんになってくれないかな?そしたら好みの服をいくらでも作ってあげるし、大事に大切にしてあげる。

・・・僕-人形-だから子供は出来ないけど、-快楽-位なら上げられるから、そっちで我慢してもらおうかな?

親友の肩にもたれつつ、赤い瞳を三日月型に吊り上げながらうっそりと微笑む。

 

こいつ絶対に碌でもない事を考えているだろうとは、長年親友をしてきたミストには

手に取るように分かる。

キルは普段は意外にも淡々としている。

道化の如く瓢気ていてもそれすら仮面の一つで、自分とバーン様以外にはピロロにも感情を見せる事は無い。

それでも偶に、本当に稀ではあるがこうやって感情をもろに出す時は碌な目に自分が合わない。

何か楽しそうな事を見つけたと言っては巻き込まれるのだから。

 

「ねえミスト。」案の定甘えた声を出してきた!

「もう勇者君はバラン君に任せて、あの娘さんをさらっちゃおうよ~。

あの子いた方が絶対に楽しい日々を送れるよ~。」・・・・駄目に決まっているだろうが!

大魔王の死神が!ホイホイと表に出ようとするな!!「・・駄目だ。」

内心で切れつつも、キルにしか聞こえないようにそっとつぶやく。

二人きりになったら説教の嵐だ!!

「・・・ケチだな~。」・・・当分口きかん!!!

 

そんな親友コンビが楽しいやり取りをしている間に、事態は増々おかしくなる。

あの氷の如くと評された超竜軍団の配下の竜騎衆たちまでもがおかしくなっている!

ティファを竜の口から引き出した後、がみがみと説教をしている!あり得ん!!

どの様な敵対者にも感情を見せず、唯一感情を出したのは-例の一件-の時のみで、あれ以降さらに他の軍団の者にも冷たかった三人とはとても思えない程の・・しかも三人とティファが知り合いで!あのバランが憂い顔に笑い顔だと⁉・・・・今日で世界の終末かと本気で思うほどあり得ん。

しかも会話を聞いている限りでは互いを親子だと認識すらしていないのに、あのバランが人の子にしか見えない少女に普通に話してあまつ連れ帰るとかもう訳分らん!!

ダイが事態に切れてライデインを降らせた気持ちがよく分かる・・ポップがいっている事にも賛成だ、お前は人間を滅ぼしたくて魔王軍やっているのだろうと内心でうんざりしながら突っ込んだ。

 

 

しかし事態はハドラーとミストの思いとは裏腹に-死神キルバーン-が動かざるをえない事になってしまった!!

ティファの純粋な思いの言葉が、憎しみで凝り固まったバランの心を溶かそうとしたのだ!

ティファの綺麗事を粉々にしようとしたのが反対に喰われた結果だった。

 

「行ってくるね~ミスト~」

これは不味いね~と瞬時に判断をしたキルは、返事を聞かずに空間を通って行ってしまい、次の瞬間には悪魔の目玉がティファの口を覆って黒い空間の入り口に引きずり込む映像と、冷たく歌うような-死神-の声が響き渡った。

竜の騎士たるバランが魔王軍にいる理由はただ一つ、最愛の家族を壊した人間を殲滅させる、それのみだ。

その理由がなくなってしまっては、いずれは自分達の邪魔になってしまう。

-手駒-が減っていてこの忙しい時に、そんな事になっては面倒だ。

バランが勇者一行の味方になったら洒落もならない、もれなく竜騎衆達も付いて行ってしまう。

こちらの戦力強化で目論んだことが、まさかティファを中心にどんでん返しを喰らいそうになるだなんて、悪い子は早々に僕が確保しないといけないな~。

 

確保されたティファは当然驚いた!父の腕の中、折角いい感じで話をしていたのに!!冷たい手に口を覆われて引っさらわれれば十分驚く!!

「シィ~、僕だよお嬢ちゃん♪」

・・甘い声・・どこかで・・あ!「迷いの森の!!!」

手を放されたので首だけで振り返ればキルバーンがいた!!

「そうだよ。覚えていてくれてありがとう、君を迎えに来たんだよ。」

「迎えって・・放してください!!」

 

 

そして今に至る。

黒い髪を振り乱し、必死に自分の腕の中から逃れようとしてもそうはいかない。

「ここでは君の力は及ばないよ、通常の空間じゃなくて亜空間なんだから。

-空間使い-の僕の独壇場だよ。」

「・・亜空間・・」

「そうだよ・・・詳しく言ってもややこしいから、簡単に言うと今の君の力はいつもの半分だけしか使えない。

僕や同じような空間使いでないと亜空間に作用している力場の法則から逃れられない。

-大魔王バーン様-クラスや竜の騎士様クラスしか破れない場だね。」-ピクン-

「おや、何に反応をしたのかな?

僕が大魔王バーン様や竜の騎士様と言った事?それとも君が弱くなった事?

改めて自己紹介をするね、僕の名前はキルバーン。

大魔王バーン様の直属の配下で、口の悪いものは僕を死神と呼ぶ。

以後よろしくね、超竜軍団バラン君の娘のティファお嬢ちゃん。」

 

様々に驚いているティファを自分の方に向かせながらゆっくりと挨拶をする。

見開いた一目はやはり夜空の星のように煌めいて美しい。

 

「バラン君!君の娘さんだよこの子は!!」

ダイ達が必死に隠そうとした秘密を暴く。

二人の兄達は、妹を守らんとしていたようだがお構いなしに。

「話してあげなよ、ご子息とご息女に!君の辛さを憎しみを!!世界は決して綺麗事が通らないと!」そしてこっちにきちんと戻っておいでよバラン君。

でないと僕は、君を狩らないといけなくなっちゃうからね。

 

 




策略大嫌いであっても、仕事に私心を差し挟まない・・とは言えませんが、きちんと仕事をした死神でした。

なお空間設定は筆者の思い付きです。
詳しくはどうなっていると言われても細かい設定はしていないので、突っ込まれないとありがたいです。

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