少し長くなりますがお付き合いのほどよろしくお願いします。
自分の妹は何を言っているんだろう?
確かに妹は常に種族の差異なぞ寿命や生態系・特殊な事の一つや二つで中身はさして変わらない、みんな怒って笑って泣いて悲しむ生き物であると言ってたが、この場面で愛した物が魔王・大魔王まで出してもいいのだろうか?
現にティファが発言をした後のこの気まずい沈黙はマズった気がする。
俺的にはアリだし、あってほしいと思う。
だって俺の好きな人は人間で、俺は違うと言われて身をひけと言われたら絶対に嫌だからだ。
でもティファ、この沈黙をどうするの?
「いい加減な事を言うなティファよ!!!」
唖然茫然で聞いていたバランがとうとう切れた。
自身の無意識の怯えを暴かれたうえ、その説得のためとはいえ何を荒唐無稽な事を無責任に言っているのだ!
綺麗事を言えばそれで丸く収まるとでも思っているの・・「いい加減じゃない!!!」
バランの言葉にティファも負けじと怒鳴り返す。何と頑固な娘だ!!
「お前が私の何を知ってそう言えるのだ!!」
ソアラの心情はティファ自身が思っている事を投影しての事ならば納得がいく。
ティファならばもしかしたら・・考えたくはないが好いた相手が本当にそうであったも-そうなんですか、何が問題なんですか?一緒に解決をしましょう-とか言って幸せを全力で目指す強さがあるのは分かる!
しかし自分を素敵な者と言いきる根拠はなんだ!たかだか二度しか会っていない頑是ない子の言う事に腹が立つ。
自分の何を知っているのかと。
その言葉にティファは沈黙をして俯いてしまった。
やはりその場しのぎの言葉かと思ったが、
「・・・笑ったから・・」小さなティファの声がした。
「人間の子に見える私に!-お髭のおじさん-が笑ってくれた!!お日様みたいに温かく!!」
「私が・・日・・」
「だから私は-お髭のおじさん-が大好きになったんだ!それに付いて行く人達もきっといい人達だって!!ガルダンディーさん・ボラホーンさん・ラーハルトさんが大好きで、ルード君は最初から可愛くて!!-皆の事-が大好きだったんだよ!!!」
己の中の秘密にしておいた宝物を見せるが如く、ティファは真っ赤になって告白をする。
最後まで言うつもりはなかった、ずっと自分だけが知っている宝物にしておきたかった。
些細で小さな事かもしれないけれども、告白を面とするのは恥ずかしい。
誰かを大好きになったきっかけを言うのは。
最初から父と知っていた、それでもどこか遠くの事に思えて実感はなく、あの笑顔で頭を撫でられて初めて実感をした。
この人は自分の父であり、そしてまた-大好きなお髭のおじさん-にもなった瞬間を思い出せば、今この時でも胸が温かくなるのに。
私がお日様だと?
それはかつて自分が最愛の妻に言った言葉だ。
-ソアラの笑顔は太陽の様に温かい-と。
その言葉に照れた妻の笑みを見て更に幸せになった。
今その言葉を、かつて見知らぬ人間の子に向けた笑い顔をそう評してくれるとは夢にも思ってもみなかった・・
そしてもうひとつ言わなければいけない事がある。
今の自分の言葉に衝撃を受けている父には酷かもしれない、それでも伝えなければいけない事が!!
「ダイ兄、覚えてる?ウォーリア船長が、私達が島に流れ着く前の海の話を。」
ダイ兄にとっても大切な話だから覚えているはずだ。
急に俺に振る⁉でもティファなら何か考えがあっての事だ。
思い出せ、俺達がデルムリン島に流れ着く前の海は「嵐で多くの船が難破をして、ウォーリアさん達も死にかけたあの話だね。」
ウォーリア?また知らぬなの人間がどうかしたというのだ!
「私達兄妹がデルムリン島に流れ着いたのは嵐で船が難破をして、無事に流れ着いたからなんだよ。」
さっき父さんがアルキードにされた仕打ちの中で、私達兄妹が他国へ運ばれてしまった事も話していた。
父さんはその時のこと以外を知らない。
「あの嵐で大勢の船乗りたちが命を落としたって、赤ん坊がデルムリン島に漂着をするなんて本当はあり得ない程の災害クラスの嵐だったって。」
ウォーリアさんの真剣に話してくれた顔を今でもよく覚えている。
それ程の嵐で赤子が無事だったのはきっと「小舟に乗った私達を見つけたじいちゃんが目にしたのは、揺り篭から放られないようにって荒縄が揺り篭の足先から首当たりまで巻いてあって、その荒縄も小舟に固定をされていたから辛うじて無事だったんだって、じいちゃんとその船長さんが教えてくれたんだよ。」
あの人達は命を懸けて私達兄妹を守ってくれたんだ。
「そんな・・馬鹿な!!そんな事が⁉そんな事があってなるものかっ!!!」
ティファが言った事を頭の中で反芻をして理解したくない事をしてしまった!!
ティファの話が本当ならば!罪人と目された子等を、アルキードの者達が命を懸けて助けてくれた事に他ならないではないか!!・・その彼等の・・家族を・兄妹達を・友人達を・恋人を自分はあの日に滅してしまったではないか!!!
ソアラを喪い、父王の心ない言葉にアルキードを滅し、それと知らず船の者達は我が子等を助けるために懸命の作業をして命を繋いだなぞと・・
「いまさら私にどうしろと言うのだ!!!!」
知ってしまった真実は、テランや魔法使いの小僧を通して人間の善き面を見せられたバランはとうとう耐え切れなくなり叫びあげる。
バランの悲痛な声に、ヒュンケルが反応をした。
自分もかつて己の過ちを気づかされ、戦いの最中だというのにダイ達に叫び上げた心の痛みのあの台詞と同じ。
「私はもう一国を滅ぼし、人死にが少なかったとはいえカールとても!!
そんな私に今更どうしろと言うのだ!!!」人が自分を許すはずがない!!
レオナとメルルからベホイミを受けているヒュンケルとクロコダインはその悲痛な叫びに胸が潰れる思いがする。
あれはかつての自分達だ、罪の意識を思い知らされて押しつぶされそうになった時の事を忘れる事は無く、今でも自分達を苛み呵責し心が血を流す痛みを伴う。
果たして自分達は許されて生きるのに値するのかとそれでも!あの少女ならばきっと!!
「だったら償おう!!」力強く言ってくれる。
「人は・・生き物は生きている限り間違いを犯す!どんなものだって心から悔いたのであれば、たった一度償う機会があっていいはずだよ!!
人間だって他の種族に酷い事をする、半魔だってモンスターだって・・もしかしたら天族や精霊だって・・」
「だから⁉他が間違いをするから気にするなと言うのか!!」
「違う!!償う方法はきっとあるはずだよ!!
命を奪って苦しいのなら今生きている人達を助けて守って・・償う道を歩けばいい!!!
歩いて歩いた先にきっと答えが待ってるはずだよ!」きっと答えがあるはずだ。だって、
「世界は弱すぎも酷過ぎもしない!!いつか許すって言ってくれる人がきっといる!」
辛くて死んだほうがましな茨の道を歩く事になるのは分かってる。
「それでも・・・世界中の人が父さんを許さないって言ってもティファが絶対に側にいる!!一緒に償う道を歩く!!!だからこっちに来てよ-父さん!!!-」
とうとう主人公がバランを父さんと呼べました。
バランは知りたくなかった人間の善性と見知らぬ他人を救う者達の勇気ある行いを知って心の中が大荒れとなりました。