勇者一行の料理人   作:ドゥナシオン

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お久しぶりです。
バラン編以降筆者がポンコツ化しまして遅くなりました。



料理人の休暇願

疲れた、自分の子供達にここまで迷惑をかける親なんてダメダメだ。

まして世界規模で大迷惑を被らせるなんて論外だ、絶対に見つけだしてボコって説教しよう。

ダイ兄達大丈夫かな?

 

 

遡った数時間前

 

バランが去った後、レオナの采配でテランの森の小屋で一行は休むことにした。

何となれば魔王軍に狙われている者達が、ただでさえ兵の数が少ないテラン王に気を使わせたくないというレオナの発案で。

 

医者はいらない、何故ならばティファがいるからだ。

確か料理人を名乗っていたはずなのに薬学・医学に通じていて、下手したら市井の医者以上・宮廷医師を名乗れそうなほどの腕前で、ホイミ系ならば自分とベホイミスライムがいるので大丈夫。

一行には気兼ねがない所でゆっくりとしてほしいレオナは、周りにかなりごり押しをしているのを承知で押し通した。

 

 

「よく分かった、彼等にゆっくりと休むようにと伝えてほしい。」

何もかもを承知して、それでも笑って労ってくれるテラン王に涙が出そうになった。

 

今回の件で勇者ダイの身元が明らかになった。

それはつまり実の父親が魔王軍であり、先のアルキードの悲劇の引き金を引いた重大な犯罪者であることも明らかになってしまった!

それでも、その報告をメルルから受けたであろうフォルケン王は一切態度に出さずに、勇者一行の助けをしてくれると、短い一言で言ってくれた事にどれだけ救われる思いをしたか知れない。

感謝をしてもし足りないが、長々としては王の体に障るので飛び切りの笑みで応えて辞去した。

 

先に小屋に行ったメンバーはティファがてんてこ舞いをしている。

万能薬の瓶にはラベル張りがなかったのでメルルに説明をするよりも自分で塗った方が早いのでティファが三人の治療をしている。

傷によっては成分の違うものを塗らなければならないので慎重に。

塗った後に飲み薬も併用をすべきか、自己再生機能に任せるべきかも考慮しなければならず、矢張りメルルにすぐバトンタッチとはいかない。

終わったころにレオナが戻ってきて、ぐったりと疲労困憊しているティファの姿があって、レオナを驚かせてしまった。

 

そしてレオナがティファに説教三昧の嵐が吹く。

「何でもかんでも自分でやりすぎ!!」

「無茶しすぎ!!」

バラン戦の重要場面を支えた後に、ほぼ一人で手当てをするのは相当無茶だ!

メルルだとて旅暮らしでそれなりに医学知識はあるはずだ、なのに頼らないのはどうなのだ!!

「貴方達もティファを止めなさいよ!!」

 

怒りの矛先はヒュンケル達にも当然向かった。

薬くらい自分達で塗れ!付帯くらい巻きあえるだろう!!

ある意味ギガデインよりも怖ろしい雷が鬼軍曹化をしたレオナによって、一行滞在の小屋に堕ちた。

 

「ですが姫・・その・・・この薬はかなり特殊なんです。

万能薬と言うのはご存知ですか?」

怒られながらもおずおずとティファが意見を述べた。

「ええ、確かリンガイアのノヴァと言ったかしら。

その人の発案で国家規模で作られた薬だったかしら?」

「そうです、この薬も私オリジナルですが万能薬と同じで一般の薬と違って扱いが微妙なんです。

飲み合わせ・塗り合わせによってはお互いの効果を消しかねないもので、飲み薬は原液を持ってきてしまったので希釈を間違えると毒になります。

なので急に手伝ってほしいと言える代物では・・」何かあったら傷付くのはメルルさんだしな。

助けようとして体調悪化は駄目でしょう。

「・・・そんな凄いものを毎回使ってるの?」

「まあ・・はい・・」

「はぁ~しょうがないわね。でもこの後ゆっくりと休んで頂戴。

ダイ君、具合どう?」

 

一通りお説教をした後レオナはいそいそと寝台のダイに近づく。

激闘の後で弱っているダイを自分が看護する!

「大丈夫だよレオナ。」本当は起きたいのに、クロコダイン達とメルルも駄目と言ってきたので横になっている。

ティファなんか泣きそうな顔で休んでほしいと言ってきたのだから降参をするしかない。

 

ティファとてポップのメガンテ相当堪えただろう、たとえ助かったとしてもだ。

兄達が倒れ伏しているのを優しいティファが平気なはずがない。

妹の心配がとれるのならば何でもしよう。

 

 

だからこそクロコダイン達も自分で手当てをするというティファの無茶を聞いたのだが、それは言わぬがなんとやらだろう。

やり遂げたティファが疲れても、どことなく元気になった気配がしたのだから。

 

「あの~・・・」

 

そんなティファが何か言い辛そうに手を挙げた。

 

「どうしたのティファ、遠慮なく言ってちょうだい。ダイ君と一緒に寝台に横になりたい?」

「いいえ・・その・・あの・・」

なんとも歯切れが悪い、戦っている時やその前ははきはき言っていた子だったのに。

「いいのよティファ!遠慮なくどんと言って頂戴!!」

胸をどんと叩いて許可をすれば「その・・休みが欲しいんです・・」

何か健気なことをか細く言った!!

 

「ティファ!俺達の飯は自分で作る!!アバン先生には料理もある程度させられた!!」

「俺も明日になれば回復をしている!心配をするな!!!」

「私が作りますから皆さんゆっくりなさってください!!」

「いざとなったら私の城に!!」

 

えっと、なんかみんな嬉しいけど怖い。

 

ティファが休みたいと言えばヒュンケルが真っ先に名乗りを上げ、ティファを取り囲むように料理の心配をするなと言ってくれたのだが違うのだ、それじゃない。

 

「えっと・・もっと具体的に言えば、しばらく一行を離れてまた薬づくりに勤しませてほしいと・・」

 

 

 

           

            「絶対に駄目!!!!!!!」

 

 

 

「・・兄・・」

 

ティファが最後まで言う前にダイが力強く却下をして、寝台から降りてティファの両肩を掴んだ。

「何考えてるのさ!!平原でキルバーンに攫われたくせに!!!」

「兄・・」

「ティファは俺の側にいないと駄目だよ!!遠くになんか行かせない!もうガルーダで遠出をしても大丈夫な時じゃないんだよ!!!」

「痛いよ兄・・」

「どうしても行くっていうなら・・俺本気で止めるよ?」

 

ダイは本気で掴んでいるティファの両肩に力を籠め、暗い瞳をティファに向ける。

ここまで言っても兄の言う事を聞かない悪い妹には仕置きが必要だと。

 

それは滅多に見せないダイの本気の怒りだった。

普段は自由で気ままで子供らしく明るいダイだが、ティファが絡むと別人のように怖くなる時がある。

それこそが竜の騎士の子であるという証であるとティファは思っている。

 

-竜は宝物の守護者-

この世界にもある言い伝えで、竜は宝に近づく者には容赦はしない。それは翻せば-宝-が遠ざかろうとしたときも言えるのかもしれない。

年々兄の自分への愛情の度合いが強くなってきたのを薄々感じている。

レオナ達は初めてダイの激情に触れて声も出ずに見守っている。

ダイにこのような一面があっただなんて思いもしなかったからだ。

 

それでも、「ダイ兄、私もね皆を守りたい。今ある既存の薬じゃ間に合わないんだよ。」

兄が自分を大切にしてくれるように、自分も皆を愛している。

 

 

「ティファ・・」

「絶対に無茶しない、危なくなったらすぐにガルーダで逃げれるようにする。キメラの翼もすぐに使えるようにして、毎日手紙書く。

今魔王軍はヒュンケル達の話だと六団長のうち、三軍のそれも実働部隊が潰れたんだからすぐに動きはないと思う。

その間にこっちも備えておきたいんだ。」もう死にかける一行を見たくない。

「・・・・分かった・・明日の朝に・・」

「それは駄目、明日になったらダイ兄私の事絶対に引き留めるでしょう。ポップ兄使ってでも。」

「うっ!!」

「・・図星って・・もうみんなの手当て終わったし、兄の決心が鈍る前に行くね。」

忙しい一日で休みたいけど、-おじさん-と鉢合わせにはなりたくない。

 

その場全員に説得をされたがティファは振り切るように小屋を後にした。

途中で走ってきたヒュンケルに呼び止められたのでお願い事をしたら却下された。

曰く「ポップ兄をあまり叱らないで上げてほしい。」と言ったら、

「駄目だ、ティファの願いでもそれは聞けんな。」

「・・どうしてもですか?」

 

自分達兄妹の為に身を挺してくれたポップをあまり叱らないでほしいが、ヒュンケルとしても思うところが多々多々あり過ぎて本気で説教をするつもりだ。

仲がいい兄妹弟子になってくれたかなティファが内心で喜んでいる隙に、ヒュンケルがティファを抱きしめた。

 

自分の体に押しつぶせそうなティファが、一番戦っていた。

知己を斬り、父と激突をして。それもこれも自分達が弱いから、ティファが戦わざるをえなかったから。

悔しい!腹が立つ!!おのれの弱さに!!!

「ティファ・・俺は強くなる。」

小さなティファが戦わなくて済むようにと、祈りにも似た誓いを立てるように。

だからもう、ティファが傷付く事をしないでほしいと願いつつ。

 

「・・行ってきますヒュンケル。落ち着いたら鳩を飛ばします。

ダイ兄達にはどこにいても鳩が着くようなマグを渡してありますので大丈夫です。」

 

そんなヒュンケルをそっと放し、ティファ-いつもの微笑み-を浮かべる。

それはガルダンディー達に向けた子供の笑い顔ではなく、一行を守る料理人の微笑み。

小屋に行く道すがら-眼鏡-をかけて一行の手当てをテキパキとした。

自分は勇者一行を守るために存在をしているのだと己に言い聞かせるように。

そうしないと、崩れてしまいそうで。

 

「・・分かった・・行って来い。」

何かを察しったヒュンケルも、それ以上は追及せずに黙って見送った。

ティファとあの三人とバランの事は、ティファにしか分からない事だから。

 

 

 

星明りがありがたい、三人のお墓は今日中に作れそうだ。




原作よりも大人びた一面を持ったダイ君でした。


また少しづつアップをしていきたいと思います。

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