不甲斐ない自分とはおさらばだ!
その為に夜の見回りをかって出た。
何となれば今の一行の中で体力・魔力満タンなのは自分だけ、レオナとメルルには無茶しないでほしいと心配されたがやり通す。
そう思って見回っているのだが、先程から森の中の虫たちの鳴き声が小さくなっているのは気のせいだろうか?
それに、-誰か-が少しずつ近づいている気配もする。
ゆっくりと、しかし確実に小屋に近づいている。
そっと腰に差しているロッドに手を伸ばし警戒をすれば、「ポップ!良かった!!やっと見つけたわ」
茂みの中から出てきたのは何と修業に出たはずのマァムだった!!
「お前マァム!どうしてここに!!」
固い決意をして修行に旅だったはずなのに、何故の場にいるんだ!
「どうしてもみんなの事が気になって・・」何だ・・いやにしおらし過ぎねえか?
俺に言われたくらいでしょげるなんてマァムらしくない。
「お前どうして俺達がここに居るのが分かったんだ?」
マァムらしくないのもそうだが、この場にいる事自体がおかしい。
ロモスとテランでは距離がある、おいそれと自分達の居所が分かるはずがない!
「ポップどうしたの?怖い顔をして。」
言葉遣いも声も甘ったるい!・・・試すか。
「武闘家になる修業はどうしたんだ?」伝手があるからそれを目指すと言っていた。
「・・・私なんかじゃダイとティファの強さには敵わないわ。それならね、頑張って僧侶を極めようと考え直したの。」
「ふ~ん、そうだな。戦いはダイと-ティファ-をメインにすればいいからな。」
今の一行が聞けば間違いなく目をむいて怒りの説教がとんでくること請負な言葉をわざと言ってみれば、
「そうよ、サポートは私に任せて。」・・・・ビンゴかよ!「メッラゾーマ――!!!」-ゴォーウ!-
「きゃあっ!!ポップなんで仲間の私を!!!」
「黙れ偽物野郎が!!!!」寸前でよけられて三文芝居しやがるか!!
「本物のマァムは死んでもさっきみてえな事を言うはずねえんだよ!!」
-ティファを料理するだけの料理人だけでいさせたい-
まだティファの実力を知らなかったマァムが言った事。
戦い傷つくティファを見たくないと言っていた優しい言葉を!こいつは穢しやがった!!
「きぃ~ひっひっひっひ、見破られてしもうたのならば仕方が無いの~。」-ボフン-
「・・誰だ手前は。」
マァムに化けていたのは小汚えじじいか、どことなく腐っていそうだ。
「儂は魔王軍六団長に一人、妖魔軍団のザボエラじゃ。」
ザボエラ!こいつが!!
おっさんとヒュンケルがこいつは策略で来るやつだから一番に警戒をしろと言っていた奴だ!!
確か出掛ける前のティファも、ザボエラというものが万が一現れたら問答無用で攻撃した方がいいと忠告を残していったって・・こいつは!本当に・・・あれ?-ドサリ-
倒さなきゃ、そう思ったのに地面が迫ってきて気が付けば体が動かない。
「きっひっひ、ようやく周囲に撒いておいた毒の粉薬が効きおったか。
小屋の奴等はとっくに効いたというのに、何故お前だけには効き目が遅かったのかの小僧?」
ザボエラも腐っても魔道の研究者であり、自信作の痺れ・眠り粉が瞬時に効かなかった理由を知りたがった。
「ひょっとして、レベル上げにて何か-特別な力-を手に入れおったのか?」
だとしたら実験動物としてぜひ飼って研究をしてみる価値はある。
ザボエラの問いに、ポップは特別な力に心当たりがあった。
すなわち-竜の血-が体内に入った事だ。
古来より竜の血を浴びたものは不老不死になれるという。それが眉唾物だとしても、伝説の竜の騎士達の血が体内に入った事で、自分の体に何かしら変化があったのかもしれない。
この場に居なくとも、ダイとティファが・・物凄く複雑だがバランによって守られているなんて。
そんな素晴らしい話を、誰がこんな下種野郎にする者か!!!
ザボエラがいかに脅し、殴るけるをしても、ポップは頑として口を割らずに堪えつづけた。
その頑固さにさしものザボエラが切れ、「もういい!死ね!!」
毒を仕込んだ右手の爪を振りかざし、ポップに止めを刺そうとしたその時!
-ヒュゥウッ!!-
鋭い風切り音と、続くように喚き声と何かが地面に落ちる音が朦朧としたポップの耳に届いた。
「腕一本切り落とされたくらいで喚くんじゃねえよ。」あっあっ!この声は!!
しわがれた深い声は!自分は絶対に間違うはずがない!!「師匠!!」
ザボエラが出てきた茂みから、大魔導士・マトリフがゆっくりと出てきた。
「ようポップ、大分情けねえ恰好をしてんじゃねえか。」
敵の腕を切り落としたというのに、いつもと変わらず飄々としているマトリフに涙が出そうなほど安堵したくなる。
「・・すまねえ師匠、こいつが味方に化けているのは見破ったんだが、最初から罠に引っかかっちまってた。」ざまあねえやとバツが悪くなる。
「それが分かっているなら俺は言う事はねえよ。ポップ、魔法使いは・・」
「いつだって冷静にだろう、師匠。」
「分かってんじゃねえかよ、キアリー。」
ポップに優しい眼差しを向けて治療を施し、終えた後はザボエラに氷のような視線を向ける。
倒れ伏しているポップからは見えないが、往年の大魔導士・マトリフの顔をして。
敵に容赦なく、味方であっても邪魔になる者には一切の情けを掛けない怖ろしい大魔導士。
ポップは自分の唯一の、それも大切に育てている愛弟子だ。
そのポップに、毒牙を掛けたこいつはどう料理してやろうか?
一思いに殺してなぞやりたくない、己の罪をきっちし償わせてやりたい!!
「右手一本を斬り飛ばしたのだ、その辺でよいのではないか?」
物騒な算段をしていたとはいえ、周囲の警戒を怠っていなかったマトリフは近づく者がいた事に気づけずに驚愕をした!
老いたりとはいえ、生中な冒険者よりも気配を読む術にたけていると自負をしていただけに!!
しかもその相手が、「なにしに来やがったハドラー。」
自分のかつての最大の敵で、勇者アバンを殺した魔王ハドラーが来やがった!!
「遅くなったがザボエラの策略を止めに来た。」・・・・・何かあり得ねえこと言いやがった!
ポップを意外と溺愛している師匠と、策略からすっかり足を洗った魔王様の再会でした。