タイムリミットまであと六日を切った。
Dクラスの教室はいつも以上に
教室の中に入ると、
「おはよう、
「おはよう、洋介。目撃者は見付かったか?」
「いや、残念なことに見付からなかったよ。他のクラスの教室にも足を運んだんだけどね、なかなか……」
悔しそうに唇を
まぁでもそれも仕方がない。
「オレも昨日、
さらりと嘘を吐く。
「Cクラスの人たちについては最初から諦めてるけどね。でもそっか……ありがとう。清隆くんもどうだい?」
この『どうだい?』はオレも情報交換の場に参加するかしないかの言葉だろう。
極端に関わりを持たないというのも、怪しまれてしまう要因となってしまう。
洋介のあとに従い、オレも
室内を見渡すが、彼女の姿は見られない。スクールバッグすら無いことから、多分、まだ登校してないのだろう。
「おはよう、
「まぁな。洋介から聞いたけど、目撃者は見付からなかったんだってな」
「はあ? 何それ、綾小路くんは何もしてなかったじゃない」
「軽井沢さん、そんな言い方は良くないよ。それに清隆くんには昨日、Cクラスの情報を探って貰っていたんだ。個人的にね」
怒る軽井沢を優しく
全員の視線がオレに集まる。
調査結果を報告しろと
「残念なことに、Cクラスにも目撃者は居なかった。むしろ話を聞いたら、男連中には殴られそうになったぞ。これ以上刺激しない方が良いと思う」
またさらりと嘘を吐く。
こうやって
軽井沢や櫛田をはじめとした女性陣はその光景を想像したのか顔を
しまった、やり過ぎたか。
「綾小路、お前よく無事だったな。ちょっと見直したぜ」
「だけどさ……まじでどうする? 一年には片っ端から声を掛けたし……」
「上級生にも探りを入れるしかあとはないけど……」
当然と言うべきか、あまり乗り気じゃなさそうだ。
コミュニケーション能力が高くないと出来ない芸当だからな、その気持ちは分かる。
「櫛田さんと池くんには申し訳ないけど、先輩への聞き込みをお願いしても良いかな」
「私は大丈夫だよ。仲の良い先輩に聞いてみるね」
「櫛田ちゃんが言うなら俺も良いけどさ。あまり期待するなよ、平田。バカな俺でも分かるけど、確率は絶望的だぜ──な、なんだよ皆。その驚いた顔は」
「「「お前本当に池?」」」
「失礼にも程があるぞ!」
涙目で叫ぶ池。
いや、割と本気で疑ってしまう。
このままいけば、国語の成績が上がっていくだろうな。期待していよう。
「ま、まぁ池くんのことは一旦置いておくとして」
「おい
「でもこのままだと最悪の展開になっちゃうんじゃないかな。だって僕たちはまだ、戦う武器すら持ってないんだから……」
「もしかしたら
「「「流石、嘘吐きは言うことが違う」」」
「池と対応が違い過ぎるだろ!」
そんなことを言われても、
遠慮なく矢が飛ばされるのを敏感に感じたのか、彼は下手くそな口笛を吹いた。
「僕たちに出来ることは、須藤くんを信じることだけだ。そして彼の信頼に応えることだと、僕は思う」
「あなたのその
遅めの堀北の登場に、池や山内たちが真っ先に反応を示す。
「あっ、堀北先生だ」
「池くん、前から思っていたのだけれど、その『堀北先生』はやめてくれないかしら。もう勉強会は終わったのだし、その
「え〜、良いじゃん。それに期末テストも勉強会開くんだろ?」
「開かないわよ」
「「えっ」」
絶望の表情を浮かべる生徒たち二名。
大量の汗を頬に流す教え子の姿に、先生は一度ため息を吐いてから。
「……冗談よ。赤点を取られても困るから、一応開くわ」
「「助かった!」」
「ただし妥協は一切しないからそのつもりで」
「「やってやらぁ!」」
雄叫びを上げる。
軽井沢が『こいつらバカだわー』と嘲笑しているのに気付かないほど、彼らは喜んでいた。
さり気なく沖谷や櫛田も申請しているあたり、堀北主催の勉強会は好評のようだ。
「堀北さんの言う通り、最悪の展開は想定しておかないとね」
「だとしたらまたゼロ円生活か……。ただでさえ俺らは綾小路に借金があるのに……」
「あー、借金については最悪、卒業までに
まぁその場合、月日が遅くなる程、彼らに対する友情パラメータは下降していくが。
「無料の山菜定食とかはまだ受け入れられるけどさ、やっぱりポイントは欲しいよね。友達との付き合いもあるし、服とかアクセサリーとかも買わないと……」
軽井沢の言葉に同調する女性陣たち。
そこら辺女子は苦労しそうだよな。男に生まれて良かったと思える貴重な機会だ。
「それにさー、他のクラスの子たちがオシャレな服とか着てたりさ、食堂で美味しそうなご飯を食べているとさ、凄くイラってくるんだよね。何て言うのかなー、力の差を見せ付けられている気がしない?」
またもや軽井沢の言葉に同調する女性陣たち。
女子の闇は深いからな、圧倒的な差を突き付けられたら嫉妬もするだろう。
「Aクラスだったら今頃、一生……は無理だけど、それでも充分なお金があるんだろうな。ああああああ!
「「「うるさい。けどその気持ちは分かる」」」
はぁと重たいため息を長く吐くクラスメイトたち。
そんな中、堀北は失笑していた。お前たちがAクラスなんて無理に決まっているだろ、バカめ! (意訳)とか思っているんだろうな。
こいつももうちょっと他者との時間を共有する気持ちがあったら、Aクラス行きだったかもしれないのに。
「一瞬でAクラスに行く裏技とかあったら最高なのにな」
「そんな方法があったら苦労しないと思う」
「沖谷お前……ここ最近俺に冷たくないか?」
「そ、そうなのかな? 自分だとよく分からないけど……」
「堀北のが移ったんじゃないか?」
本人が居る前でよく言えるな……。
その堀北はどこ吹く風だ。流石としか言い様がない。
「だけど池くんの言うことは尤もだよね。Aクラスとのクラスポイントの差は905clだし……」
「だよな!」
想い人である櫛田の同意を得られたからか、
クラスポイントが一番近いCクラスでさえ、405clの差がある。入学してまだ三ヶ月とはいえ、この差は絶望的だ。普通のやり方では小遣い稼ぎで精一杯だろう。
そう考えると、
「──喜べお前たち。裏道は一つだけ存在するぞ」
教室の前方入口から、そんな声が聞こえた。声と同時に、Dクラスの担任、茶柱先生が入室してくる。
ここ最近はSHRの数分前に居るケースがやけに多いな。
「ちゃ、茶柱先生!? えっ、会話を聞いていたんですか?」
「あれだけ声が大きかったら嫌でも聞こえてくる。他のお前たちも、気持ちは分かるがもう少し落ち着きを持て」
「す、すみません……。って、今なんて?」
聞き返す池。
それは教室に居た生徒の気持ちを
「
「またまた〜。茶柱先生、いくら俺らでも、そんな嘘には騙されませんよ〜。なぁお前ら?」
何度も頷く仲間の支援に、池は自信を持つ。やめてくださいよねと苦言を
今度は先導者が口を開く。
「茶柱先生、詳細な情報の開示をお願いします」
「答えは既に言っている……と言いたいところだが、流石の私も、教え子全員を敵に回したくはない。それでは説明するとしよう」
そう言って、茶柱先生はホワイトボードに何やら書き出した。日本史の先生だからか、書くのがとても早いし上手だ。
数分後、空白だった黒板には、びっしりと黒色の軌跡が輝いていた。
それはいまさら過ぎる、Sシステムのことだった。
「普通の方法では、クラスポイントを重ねることによってAクラスを目指すのが一般的だ。お前たちもそれはこの数ヶ月で痛感しているだろう」
「そうですね。ですがその普通じゃない一手があると、茶柱先生はたった今仰いました」
「ああ。この学校に入学した日の事を思い出して欲しい。私はお前たちに、ポイントで買えないものはこの学校にはないと通達したはずだ。つまり、
茶柱先生はオレを
中間試験の際、オレはプライベートポイントを消費することで、三年Dクラスの
クラスポイントとプライベートポイントはリンクしているのが常だが、物事には必ず例外も存在する。
それがプライベートポイントの『譲渡』。昨日の一之瀬のように、ポイントのやり取りは自由に学校公認だ。
理論的上では行える手段だ。
「質問です。何ポイント貯めれば可能なのでしょうか」
「2000万prだ。頑張れ」
「頑張れって……いやいや、無理無理。無理ですよ! 2000万prですよ!?」
「そうだそうだ〜!」
「横暴だ〜!」
「理不尽だ〜!」
各所で巻き起こるブーイングの嵐。
茶柱先生は教え子の姿に呆れた様子を
「仕方ないだろう。
確かに初期クラスポイント……10万prの状態だったら容易だろう。
「俺からも質問ですけど。過去にクラス替えした生徒は居るんですか?」
「良い質問だな。答えを告げると否だ。理由は言わなくても分かるだろう。学校側は特別措置としての方法は残しているが、実質不可能なものとして設定している」
うげぇと顔を
仮に10万prを三年間維持出来たとして、最高は360万pr。そして恐らく、どんなに頑張っても、クラス単位で稼げるポイントは400万届くかどうか。つまり五分の一。
しかし『譲渡』すれば、また話は違ってくる。
洋介、池とバトンが繋がれる中、次に質問をしたのは堀北だった。
「過去最高、どれだけのプライベートポイントを貯めた生徒が居るんですか? もし宜しければお聞かせ願いたいです」
「お前も中々良い質問だぞ堀北。三年程前だったか、あれは卒業間近のBクラスの生徒だったか。1200万prを所持していたな。私の記憶違いでなければ、そいつが最高だと思われる」
「せ、1200万pr!? それもAクラスじゃなくてBクラスの生徒が!? 何それ凄い!」
「じゃあ私たちもワンチャン出来るんじゃ!?」
「だからもう少し落ち着けを持てと言っているだろう。話は最後まで聞け。そいつは確かに1200万prを貯めた。……が、卒業寸前で退学になった。もちろん自主退学ではない。学校側が退学処罰を与えた」
「……それって、その人が悪いことをしたんですか?」
「櫛田の想像通りだ。そいつは
当時の出来事を思い出したのか、やれやれと首を横に振る茶柱先生。
「つまりだ、犯罪を犯しても2000万prは貯まらないということだ。仮にお前たちがAクラスを本気で目指すなら、クラスポイントの総合点で上がるのを勧めるぞ」
「先生、質問良いですか」
「ん? どうした綾小路、お前が質問をするなんて明日は槍でも降るのか?」
ことさらにわざとらしく驚く仕草を見せる茶柱先生。だがそれは彼女だけでなく、周りのクラスメイトもそうだった。
だが前言撤回するわけにもいかない。
「これは他のクラスの友人から聞いたのですが、
オレの言葉に仰天するクラスメイト。
当然だ。なにせDクラスの生徒は、そんな情報は一度たりとて耳にしていないのだから。
どういうことだと大勢の視線が茶柱先生に収束する。
「綾小路の言う通りだ。部活の活躍によっては、クラスポイント及びプライベートポイントが報酬として与えられるケースがある」
「「「はあああああああ!?」」」
「済まない済まない。すっかり伝達を忘れていた。綾小路のおかげで思い出せた、感謝する」
「もしかしてさっきの裏道も忘れていたんじゃ?」
「悪いな」
相変わらずの茶柱先生の態度に、生徒たちは口をあんぐりと開けるしかなかった。
女子生徒の一人が不満そうに口を尖らせる。
「もっと早くから知っていたら部活やっていたかもしれないのに……」
「それは違うぞ。部活動はポイントのためにやるものじゃない。仮にそんな軽い気持ちで入っても、長続きはしないだろう。本気で打ち込んでいる友人に対して申し訳ないと思わないのか、お前は?」
「うっ──それは……。けど可能性はあるでしょう!」
「そうだな、その可能性があることは認めよう。まぁ低いと思うがな」
「うぅ……」
容赦ない
可哀想に……。心の中で同情する。
けどまぁ個人的には、オレは茶柱先生寄りの意見だ。不純な動機で何かをやろうとしても、最初の頃は上手くいったとしても、徐々に成果は残せなくなるだろう。
それに部活に
どちらにせよ言えることは、オレたちの担任教師は性格が悪いということだ。
「さて、そろそろ朝のSHRが始まる。席に着くことをお勧めしよう」
見れば、チャイムが鳴る三分前だった。
慌てて自分の席に向かう生徒たち。
席に戻って、一時限目の授業の準備を前もってしていると、堀北が声を掛けてきた。
「ねぇ綾小路くん」
「どうした?」
「仮に目撃者がDクラスに居たらどうなるかしら」
「無いよりはマシだろうけど、決定的な証拠にはならないだろうな。もしかして堀北、目撃者を見付けたのか?」
まさかと思い尋ねると、堀北は口を
数秒後、おもむろに首を横に振る。
「……いいえ。なんでもないわ」
「そうか」
相槌を打つと、軽やかなメロディが校舎中に響いた。始業を告げるチャイムだ。
堀北の様子は明らかにおかしかったが、向こうがそう言うのならオレから詮索することはしなかった。
放課後になり、現在は作戦会議の時間だ。それは構わない。だが不満がある。
「……どうしてオレの部屋なんだろうな」
「あはは……ごめんね清隆くん」
申し訳なさそうに頭を下げる洋介。まぁこの
人数分の麦茶を用意し、一人一人手渡していく。
部屋に居るのは、オレ、洋介、堀北、櫛田、そして──
「私も居て良いのかなぁ……?」
一年Bクラス、一之瀬
櫛田とはまた違った可愛らしさで首を捻る。
池や山内が居たら『萌えー!』とか言うんだろうな。ただ残念なことに、定員オーバーだ。
本来なら彼らや沖谷、須藤も部屋に入れたかったのだが、容量にも限界がある。
それにしても……。
「よく堀北が認めたな」
「何よその言い方。一之瀬さんが協力してくれた方がメリットがあると思ったから、認めたに過ぎないわ。けど、何故特別棟に居たかは疑問だけどね」
「にゃはははー……」
困ったように頬を掻く一之瀬。
目が合うと、『ありがとう』と唇の動きで伝えてきた。
オレの部屋に来る前、洋介と堀北は事件現場の特別棟の三階に出向いていた。正確にはオレがそうするように指示を出したのだが。
そして計画通り、一之瀬は偶然を装って洋介たちに接触、協力を申し出た。最初、堀北は一之瀬を疑っていたようだったが、なんとか無事にある程度の信頼を勝ち取ることに成功したようだ。
まぁ堀北が駄目だと言っても、洋介が居るからどちらにしろ成功したと思うが。
「そう言えば綾小路くん、今日は椎名さんと会わなくて良いの?」
「用事があるそうだからな」
今朝、携帯端末にメッセージが届いていた。
だから今日は久し振りに一人で過ごそうと思っていたのだが……結果、洋介たちを招き入れることになった。
これ以上文句を言っても仕方ないか。
「それで、どうだったんだ?」
「じゃあまずは私から報告するね。放課後を使って二年生、三年生の先輩に池くんと一緒に聞き込みしたけど、
落ち込む櫛田に、洋介がすぐさまフォローを入れる。
「櫛田さんと池くんでダメなら無理だったと思うよ。清隆くんもそう思うよね?」
「同感だな。洋介、事件現場はどうだったんだ?」
「そうだね……特にこれといったものはなかったかな」
「そうか……防犯カメラでもあったら良かったんだけどな。そんな上手くはいかないか」
「学校の校舎の中にあるのは原則的には教室くらいなものだからね。あとは確か職員室だったかなぁ」
一之瀬も会話に加わり、知恵を絞ってくれている。
櫛田も興味を持ったらしく、オレに尊敬の眼差しを向けてきた。
「けど綾小路くん、よく防犯カメラのこと知ってたね。私なんて今言われるまで気付かなかったよ」
「入学初日に知る機会があったんだ。櫛田も、意識を少しでも割いていれば見掛けていたと思う」
今度は一之瀬がオレに尊敬の眼差しを向けてきた。
ほへーと口を半開きにして、感嘆の声を出す。
人から褒められるなんて滅多にないことなので照れ臭さを感じてしまう。
「うーん、困ったね。目撃者を捜すことそのものが間違っているのかな」
「どういうこと平田くん」
「つまり、目撃者を見掛けたその目撃者を捜すんだよ。事件当日、特別棟に入っていく生徒を見た生徒が居るかもしれない」
思い付きにしては悪くないアイディアだ。
放課後に特別棟に入る生徒なんて普通なら皆無だから、たまたま見掛けた生徒が疑問に思い、覚えているかもしれない。
「悪くない案だとは思うけれど、圧倒的に時間が足りないわ。それに、
堀北が言った言葉の意味が分からず、一瞬、静寂が部屋を支配した。
最初に我を取り戻したのは櫛田だった。
「堀北さん、それってどういうこと?」
「──
「……えっ?」
「『暴力事件』を目撃した生徒よ。櫛田さんや平田くんならある程度は知っているはず」
「……同じクラスの佐倉さんが……?」
櫛田と洋介が思わず顔を見合わせてしまう。
オレも表情にこそ出さなかったが、大変驚いていた。
Dクラス陣営が驚愕する中、唯一他クラスの一之瀬だけは首を傾げた。
「綾小路くん、その佐倉さんって誰なの?」
「Dクラスの女子生徒だ。平生は大人しい性格で、そこの堀北以上にコミュニケーション能力に問題がある」
そう説明すると、殺気が飛ばされる。言わずもがな、堀北からだった。
しまった、後半部分は言うべきことじゃなかった。
「けど堀北さん、どうして佐倉さんだと?」
「昨日の須藤くんが謝罪していた時、あるいは平田くん、あなたが彼に手を差し伸べた時、一人だけ──そう、一人だけ目を伏せていた生徒が居た。彼女を除く全員が関心を寄せていた中、佐倉さんだけがそのような行動を取っていた。何故だと思う?」
「自分に関係があることだったからか」
「えぇその通り」
オレは内心、堀北の観察力の高さに舌を巻いていた。
あの状況で冷静に教室全体を俯瞰するなど、そう簡単に出来ることじゃない。
「けど堀北さん、佐倉さんが目撃者だとどうして断定出来るの? まだ可能性があるって話だよね?」
「いいえ、違うわ一之瀬さん。今朝確認したから」
だから今日は登校するのが遅かったのか。佐倉はいつも、遅刻にならない程度の時間に登校しているからな。
どうやら堀北は、本気で須藤を救おうとしているようだ。
「うん? でもさ堀北さん。どうして昨日確認しなかったの?」
「Dクラスからの証人だと決定的な武器にならないからよ。だから昨日と今日の放課後どちらかで、他クラスから目撃者を見付けるのがベストだった。けれど……」
「そうか、明日はもう木曜日。これ以上の時間のロスは無くしたいってことだね。だけど目撃者を見付けられなかったらこっちの完全敗北だ。この際効力は
平田が納得したように頷く。
ようやく問題が一つ片付いた……と言いたいところだが、またもや問題は浮上する。
たった今しがた客観的な佐倉のイメージを知った一之瀬が、客観的な意見を口にした。
「目撃者が見付かったのは
「まぁそこは頼むしかないな」
「いきなり押し掛けるのはダメだよね? 佐倉さんの性格的にも」
その配慮はオレにも適用されて欲しかった。
「櫛田は確かクラスメイト全員の連絡先を持ってたよな。悪いが掛けて貰えないか?」
「もちろん良いよっ」
櫛田が携帯端末をスクールバッグから取り出し、佐倉のだと思われる番号をプッシュした。
その間に、一之瀬が声を抑えて出す。
「凄いね櫛田さん。どうやったらそんなことが出来るんだろう」
「一之瀬は持ってないのか?」
だとしたらちょっと……いや、かなり意外だ。
オレの質問に、一之瀬は頷いた。
「女の子は持っているんだけどね、男の子は持ってない子もいるかな。ほら、無理に聞き出すと良くないじゃない?」
「そうだな」
「あっ、そうだ綾小路くん。私と連絡先、交換してくれないかな?」
「もちろんだ」
一之瀬と連絡先を交換し合う。
ここ最近、オレの通話帳にどんどん名前が載っていく。入手当初とは段違いだ。
感涙していると、携帯端末を耳に当てている櫛田が顔を少しばかり顰めた。
「ダメ、無理だね。あとでもう一度掛けてみるけど無理だと思う」
「どういう意味だ?」
疑問に思ったので尋ねてみる。
櫛田は難しそうな表情を浮かべながら説明してくれた。
「連絡先は教えて貰えたんだけど、よく知らない私から連絡されても迷惑だと思うの。実際、堀北さんも上手くいかなかったようだし……」
さり気なく堀北をバカにする櫛田。
『表』の顔しか知らない洋介や一之瀬たちは分かりやすい具体例を出しただけだと誤解しているだろう。
一方、朧気ながらも嫌われていると察している堀北と、『裏』の顔を知っているオレからしたら反応に困ってしまう。
「電話がダメなら、あとはもう直接行くしかないよね。櫛田さん、頼めるかい?」
先導者の指示に、調停者は了承する。
「うん。頑張るねっ」
「それじゃあ今日は解散しようか」
帰り支度を済ませ、ぞろぞろと玄関口に向かっていく友人たち。その際、空になったグラスを片付けることを彼らは忘れなかった。
池や山内たちに見習わせたい。割と本気で。
寮の廊下で別れの挨拶を交わし自分の部屋に戻り、メールを作り送信する。返事はなかったが、まぁ問題ないだろう。
明日の準備でもしようと思い立った、その時だ。
玄関のチャイムが鳴った。
誰だろうと思いながら玄関扉を開けて対応すると、そこには一之瀬の姿があった。
「どうした一之瀬、忘れ物か?」
「ううん、綾小路くんと話したいことがあって。入っても良いかな?」
「ああ」
「ごめんね。お邪魔します」
一之瀬は先程と同じ場所に腰を下ろした。
「お茶はどうする?」
「うーん、出来れば貰いたいかな。ちょっと長話になりそうだから」
「了解」
洗ったばかりのグラスに再度液体を注ぎ込む。
お盆に二つ分のグラスを置き、両手でしっかりと手に持って一之瀬の元に向かった。
話して分かったことは、一之瀬帆波は非常に話していて苦にならないということ。おめでとう、椎名、みーちゃんの次にランクインだ。まぁ本人からしたら嬉しくないだろうが。
そしてあと分かったことがある。
それは龍園翔と同等以上に警戒すべき相手だということ。
もし一之瀬帆波と敵対することになったら潰すのに苦労しそうだ。まぁ対峙するのは堀北や洋介たち。
オレは普通に、彼女とはそこそこの友達付き合いをすることにしよう。
読書の皆さんが思う、一学期の間に最も実力を示したDクラスの生徒は?
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綾小路清隆
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堀北鈴音
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平田洋介
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櫛田桔梗
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須藤健
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松下千秋
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王美雨
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池寛治
-
山内春樹
-
高円寺六助
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軽井沢恵
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佐倉愛里
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上記以外の生徒