Dクラスにとって運命の日。オレはいつもよりも格段に早い時間帯に寮を出た。
だが一年D組の教室ではない。オレは特別棟に向かった。とある人物と会う約束をしていたからだ。
早朝の特別棟は無人だ。階段を登ると、靴音が反響し、一つの音楽を奏でる。
特別棟三階。……いや、この表現は正しくないだろう。『暴力事件』の現場に、オレは足を踏み入れた。
そして一人の男がオレを出迎えた。
「遅いぞ、
「それはすみません、
生徒会長、堀北
「その敬語はやめて貰おうか」
どうやら気に食わなかったのは、オレの言葉遣いだったらしい。
眼鏡のレンズ越しに見える瞳は、心做しかいつもより鋭く思われた。
ここは世間話を話すことで、お互いの心理的距離を縮めるとしよう。
「今日も暑いな」
「そんなことはどうでも良い。早く話の本筋に入れ。時間の無駄だ」
オレの努力はあっさりと一刀両断された。
流石は兄妹。対応の仕方が限りなく類似している。
肩を
「あんたには生徒会長として、聞きたいことがある。一人の生徒としてな」
「……なら俺も、生徒の
「当然だな。
まずは様子見だ。
東京都高度育成高等学校は多くの謎に包まれ、その実態はまだ分かっていない。
生徒会も同じだ。堀北学のこれまでの言動から想起するに、普通の学校とは違い、生徒会には相当の権力があることは想像出来る。
生徒会長は悩む素振りを見せることなく、生徒の問い掛けに淡々と答える。
「お前の言う通りだ。この学校には様々な特殊なルールがあるが、今回のような生徒間の
「次の質問だ。あんたの言葉をそのまま
「簡単なことだ。知っているとは思うが、Cクラス側が申請したから、これに尽きる。これで満足か?」
オレは軽く首肯した。
つまりだがある程度の要望は通る、ということ。その確認が取れただけでこの会話に価値がある。
もちろん
恐らく、Dクラス側が申請しても許可されただろう。
「次の質問だ。
「……なに?」
「例えばだ。あんたら生徒会が判決を出せなかった場合、もしくは何か別の要因があった場合……判決の延長が認められるかどうかを聞いている」
この質問にはさしもの生徒会長も、発言を慎重に考えているようだ。
数秒間の沈黙の末、彼はおもむろに口を開く。
「原則では、延長……つまり、再審議は起こらない。何故ならそれ程の案件になるとするのなら、最初からそれだけの
「ああ。もっと深い意味が欲しい」
「なら残念なことに、お前の質問にはこれ以上答えられない。理由はいまさら言うまでもないだろう」
これ以上の情報の取得は難しいか。
堀北学は恐らく、一度決めたらそのことを変えないだろう。それだけの意志力が彼にはある。
逆に今度は彼がオレに質問を投げてくる。
「俺も綾小路、お前に聞くべきことがある。昨日審議会に出席する
不思議そうにオレを見つめてくる。
嘘は許さないと、そんな気迫が彼から伝わる。
両者の視線が交錯した。
オレは一度
「あんたの推察通りさ。オレは『暴力事件』が起こったことも、そして友人の須藤が巻き込まれたことも、その全てがどうでも良い」
「なら、何故──?」
「さてな。ただ言えることは、あんたの疑問には審議会で答えることになる、ということだ。
そう言うと、堀北学は面白そうに一度笑った。「なかなかに有意義な時間だった」と呟き、特別棟から出るために階段を降り始める。
「放課後、楽しみにしていよう」
「そうしてくれ。……そうだ、あんたにもう一つ質問があった。どうやったらあんなにも早く端末を操作出来るようになるんだ?」
この一週間、頭の隅から離れなかった疑問を口にした。
堀北学の連絡先を交換した記憶がオレにはない。少なくとも自分からは申請していない。
だがある程度は推測出来る。
十中八九、先週の月曜日、オレが彼から10万prを渡された時だろう。あの短い時間でプライベートポイントを譲渡し、さらには連絡先も登録する。
気付いたのはふと何気なく連絡帳を開いた時。するとそこには、『堀北学』の文字があり、二回程画面を見返してしまった。
あの時程彼に
ごくりと
「慣れだ」
衝撃の事実。
……いやいや、慣れで到達できる領域ではないと思うんだが、あれは。
ところが堀北学は……いや、歴代最高と言われている生徒会長は、堂々とした佇まいを崩さなかった。
「話は終わりか? それなら俺はこれで失礼する」
「あ、あぁ……」
オレはただただ、離れていく背中を眺めることしか出来なかった。
流石だな。携帯端末の操作スピードでも妹を軽々超えるなんて……!
……テンションがおかしくなった。危ない危ない。衝動のままに叫び出すところだったぞ。あまりの暑さに思考が
これ以上ここに長居する理由はない。オレは新鮮な空気を少しでも早く吸うために、階段を駆け下りた。
一年Dクラスの教室に入ると、室内には誰も居なかった。
無理もない。何せ生徒が登校するにはまだ早すぎる時間帯だからだ。
こうして一人で居ると──あの日、オレがこの学校に入学した日のことを思い出す。
理由は違うが、それでも無人の教室に放り出された
自分以外に誰も居ない。
嗚呼……どうしてもあの光景が想起されてしまう。記憶が湧き上がってしまう。
──
脳裏に浮かび上がった瞬間、オレは
そこまで思考してから自嘲する。
結局オレという人間に、完全な
どれだけ拒絶しようと、逃げようとしても巻き込まれてしまう。そう、早いか遅いかの違いでしかない。
もはや呪われている。
今もそうだ。今回の一件で、オレの認知度は上がってしまうだろう。
遥か高みの
誰だろうと視線を送ると、そこには
「おはよう、佐倉」
「お、おはよう……綾小路くん。早いね……」
「まぁな。ってか、敬語、やめたんだな」
「う、うん……。
佐倉とみーちゃんの仲は良好のようだ。
その証拠に、彼女は『みーちゃん』と言い直したからな。友達として認め始めているのだろう。
「ダメ、かな?」
「いや全然。むしろその方が良いと思うぞ。同級生だし、友達だからな」
「う、うんっ」
とはいえ、オレの友人にはもの凄く丁寧な言葉遣いをしてくれる女性が居るのだが……。
まぁ彼女の場合はそれが素だと思うから別に良いか。
佐倉は自分の身を守るために、敬語を使っていたのだろう。
その策はある意味では正しいが、ある意味では間違っている。
親しくなった相手に敬語を使われるというのは、どうしても違和感を覚えてしまうものだ。距離を感じてしまう。
「席、座ったらどうだ?」
立ったまま会話をするというのも苦行だろう。佐倉は申し訳なさそうに一度謝ってから、自分の席に座った。
いや別に、これくらいでは余程
「えっと、綾小路くん……」
「どうかしたか?」
佐倉はおずおずとオレの顔を見ては逸らして、見ては逸らしての動作を繰り返した。
とても面白い。笑いを
これ以上からかうと良くないと思い、オレからボールを投げた。
「それで、どうして佐倉はこんなにも早く来たんだ?」
投げられたボールは佐倉の元に行き、受け止められる──
「ご、ごめんなさい……」
──ことはなかった。
……キャッチボールって、独りだと出来ないんだな……。
当たり前のことを再認識していると、何度も頭を下げられた。悲しくなるからやめて欲しい。
咳払いをしてから、もう一度尋ねる。今度は答えてくれた。
「そ、その……昨日、今日のことを……してしまって……」
とはいえ、耳を
「悪い、もうちょっと声を大きくしてくれ」
「は、はい……。昨日、審議会のことを考えていたら寝れなくて……。茶柱先生の前では須藤くんを助けたいって……言えたのに……心の準備もしていたのに……その時のことを考えたら……」
「……」
「……ダメだね、私は……いつもいつも、周りのことを考えちゃう」
佐倉の気持ちは、分からなくはない。それどころか、人間として備わっている当然の反応と言えるだろう。
例えば周りを
まぁ中には、
「……今ならまだ、やめられるぞ」
「やめられるって……私が、審議会に出席することをですか……?」
「ああ。茶柱先生に事情を話せば、あるいは」
「でもそれじゃ……須藤くんが……!」
「そうだな。Dクラスの唯一の武器は無くなってしまうだろう。だけどな、どちらにしろ向こうはDクラスからの証人という点で攻めてくるだろうさ」
それが佐倉のような、平生は大人しい性格の証人だったらなおさらだ。
正直なところ、彼女の存在はあってもなくても問題ない。
故に、佐倉
そう思ってしまうのは、オレが異常なだけか。
オレは
「須藤のため、Dクラスのため……そんな考えは一度全部、捨てた方が良いんじゃないか?」
「えっ……?」
「今日佐倉愛里が証言するのは、『暴力事件』を見たという真実を話す自分自身のため、そう思えば良い」
誰かのために何かをする。
その考えを……
だが時にしてその信条は自身に破滅を
「自分が『成長』するために……今回の『分岐点』を利用する。そのために佐倉は発言する。それで良いじゃないか」
「私自身のため、ですか……?」
「ああ」
『自我』を持ち始めた佐倉にはまだ実感が湧かないかもしれない。
しかしいつしか、今日の日を思い返す日が来たら。その時後悔の念を抱くようならいっそのこと……。
「──当たって砕けろ」
佐倉は一瞬、きょとんとした表情をオレに見せた。
そしてくすくすと笑い始める。
彼女は一度
「ありがとう、綾小路くん。勇気が出たよ」
六時限目が終了し、現在は帰りのSHR。
いつもの
「さて、お前たち……特に須藤にとっては運命の日になったわけだが。どうだ、準備は万全か?」
「無論です。ベストを尽くします」
ところが堀北は、いつもと同じ態度を崩さない。それは虚勢か、それとも……。
茶柱先生は薄く笑ってから、SHR終了の旨を告げた。
「それでは行くぞ。私に付いてこい」
言うや否や、茶柱先生は教室を出ていく。
審議会が開演されるのは午後四時から。現在は三時五十分。時間の余裕は無い。
堀北、須藤、佐倉と合流し、教師のあとを付いていこうとすると、数々の声援が送られた。
「ファイト!」
「頑張ってね!」
「応援しているから!」
あれだけ纏まりがなかったDクラスが、一つの集団へと形成され始めている。
仲間意識が芽生えつつある証だろう。
今回の『暴力事件』は、多くの人間のターニングポイントになりそうだ。
「堀北。休み時間に予め言ったと思うが……」
「分かっているわ。でも大丈夫よ。
「何の話だよ?」
「何でもないわ。須藤くん。分かっていると思うけど、あなたはなるべく発言しないように。大人しくしているのよ」
「ああ、もとからそのつもりだ。堀北と綾小路に全部任せるぜ」
本心からそう思っているのだろう。
須藤は信頼の言葉を
丸投げしているわけではないだろう。ただ自分には何も出来ないから、堀北やオレを頼る。
茶柱先生はオレたちを無言で先導し、校舎四階へと
教室の入口には『生徒会室』のネームプレートが刺さっていた。一般生徒ならまず訪れない領域だ。
Dクラスの担任は扉をノック……するその前に、教え子を静かに見つめた。
「実質これが、クラス闘争、その
「……何を仰りたいのですか?」
「堀北。お前たちDクラスがAクラスに行きたいと願うのならば──この戦い、勝利してみせろ」
それは茶柱先生なりの
堀北や須藤、佐倉の三人はいつもの彼女とは違うことに戸惑いの声を上げてしまう。放任主義の彼女がどうして? そのような感想を抱いているのだろう。
しかしそれも一瞬。
すぐに表情を引き締め、頷いた。
「佐倉は指示があるまで隣の教室で待機だ。中にはお前以外にも生徒が居るかもしれないが、接触は控えるように」
「はい……」
「それでは、行くとしようか」
くるりと回転し、茶柱先生は今度こそ扉をノックする。返事はすぐに出され、彼女は生徒会室の中へと足を踏み入れた。オレたちもあとに続く。
教室内は長机が並べられており、ぐるりと長方形が作られていた。
Cクラスの三人は既に席に着いていた。彼らの体には包帯が
……なるほど、同情を誘う作戦か。
彼らの横には、三十代後半と思われる男性が居た。
「遅れました」
「いえいえ、時間にはまだ余裕があります。お気になさらず」
「お前たちは知らないだろう。一年Cクラスの担任、
茶柱先生が坂上先生を紹介してくれた。
彼は眼鏡を掛けており、
「そして彼がこの学校の生徒会長だ。彼の横に立っている彼女は書記だな」
生徒会長と書記は部屋の奥に居た。
彼は最終確認だろうか。机の上に置かれている書類に目を通していた。
彼女はそんな彼を守るかのように寄り添っている。オレと目が合い、悟られない程度に会釈してくれた。オレも返す。
堀北は一瞬兄に視線を送ったが、すぐに逸らした。オレが事前に教えたおかげだろう、目に見えた動揺は感じられない。
オレたちはCクラス陣営と向き合うようにして席に座る。
「それではこれより、先日起こった『暴力事件』についての審議会を開きます。Cクラスからは担任の坂上先生、そして訴えを起こした
通過儀礼として、橘書記はそう言ったのだろう。
少なくともこの段階では特別、質問はない。
ところが意外な人物が手を挙げた。茶柱先生だ。
「それでは私から。生徒会長、どうしてお前が足を運ぶ。いつもなら橘だけのはずだが?」
「それはおかしなことを仰いますね茶柱先生。確かに私は日々多忙の故、信頼のおける橘に任せてしまう機会が多い。しかし裏を返せば、時間が許せば私は議会に参加するようにしています。それだけのことですよ」
「……なるほどなるほど。よく理解した。済まなかったな、時間を無駄にしてしまった」
含み笑いを浮かべる茶柱先生だが、堀北学はそれに反応をすることがなかった。
彼女が言外に言っていることは、『妹が居るからお前はここに居るのではないか』ということだろう。流石に全部合っている気はしないが、大まかな意味合いとしては正しいはずだ。
橘書記は咳払いを一つしてから、事件の
「──以上のような経緯を踏まえ、学校側は『暴力事件』だと断定しています。双方の主張を客観的に聞き、どちらが正しいのかを見極めさせて頂きます」
互いに無言で頷く。
戦いの
「小宮くんと近藤くんの二人は、同じバスケットボール部の須藤くんに呼び出され、放課後、特別棟に出向いた。そこで喧嘩を売られ、一方的に殴られたと主張しています。被疑者の須藤くん、これは真実ですか?」
「そいつら……小宮たちが言っていることは嘘……嘘です。俺が彼らに呼び出されて行った……行きました」
間髪入れず須藤が否定する。
堀北の言い付けを守るために、慣れない敬語を使っていた。Cクラスの連中は失笑していたが、これもまた『成長』だ。
あくまでも訴えたのは向こう側。こっちは少しでも心証を良くしなければならない。
「さらにお聞きします。須藤くんは今否定しましたが、実際はどうだったのですか? 詳しくお願いします。そして暴言でない限り、普段の言葉遣いで構いません」
橘書記の言葉に、須藤は安心したようだった。
いつもの口調で話し始める。
「俺はその日、部活の先輩と一緒に自主練をする予定だったんだ。その日も約束していた」
「須藤くんはそのように言っていますが、小宮くん、近藤くんはどうなのでしょうか?」
「彼が言っていることは嘘です。……確かに先輩と一緒に自主練をしているようですが、その日は彼から呼び出してきたんです!」
「橘書記、宜しいでしょうか?」
すっと手を挙げたのは堀北だ。
橘書記がどうぞと言う。了解を貰った彼女は、Cクラスの連中を冷めた目で見ながら言った。
「現段階で、小宮くんたちは嘘を吐いています。その証拠もあります」
「ほう。具体的には?」
言葉を挟んだのは生徒会長だ。
堀北は一瞬
「須藤くんと自主練をしている相手を、証人として用意しています。入室の許可を頂きたいのですが」
「……生徒会長」
「許可する」
「私が呼んでこよう」
「お願いします、茶柱先生」
一旦生徒会室から居なくなる茶柱先生。
小宮と近藤たちは目に見えて
数秒後、茶柱先生が一人の男子生徒を連れてくる。その人物が登場した瞬間、須藤が声を上げた。
「……キャプテン!」
「久し振りだな須藤」
キャプテンと呼ばれたその生徒は、須藤に笑い掛けた。
冷静に観察する。身体を覆う筋肉は厚く、完成されていた。須藤以上のものだ。
キャプテン……つまり、この人はバスケ部のリーダーか。堀北は彼に協力を申し出たのだろう。
「三年Bクラス、
石倉先輩はそう言って、深々と頭を下げた。
無理もない。忘れがちだが、この『暴力事件』はD、Cクラス間の事件だけでなく、バスケットボール部の身内での事件の側面も持ち合わせている。
集団を率いる長としてのけじめだろうか。
「石倉先輩、まずは来て下さりありがとうございます。先輩のおかげで、嘘を正すことが出来ます。証言、お願いします」
「それでは石倉くん、どうぞ」
「俺は『暴力事件』が起こった日、部活が終わった後に須藤と一緒に自主練することを約束していた。そして彼は小宮たちに呼び出されたから、自主練を開始するのは遅らせて欲しいと願い出て来た。俺は了承した」
「それは事実ですか?」
「ああ。誓って嘘は言っていない」
「ありがとうございます。それでは隣の教室に退席して下さい。茶柱先生、お願い出来ますか」
ああ、と茶柱先生は石倉先輩を引き連れて出ていく。すぐに戻り、席に座り直した。
中断されていた議会が再開される。
「これで須藤くんが呼び出されたのが分かると思います。部活の先輩……さらに石倉先輩は部活のキャプテンです。明確な上下関係がある中、須藤くんが嘘を吐く理由はどこにもないでしょう」
「それは、しかし……」
「小宮くんたちに聞きます。堀北さんの主張は正しいですか? 自分たちから呼び出したと認めますか?」
「……はい、認めます…………」
「さらに聞きます。……何故嘘を吐いたのですか?」
当然の追及に、小宮たちは答えない。いいや、答えられない。
これではどちらが被疑者か分かったものではない。黙秘権が被疑者には認められているからだ。
それにしても……堀北は凄い。たった一人証言させるだけで、彼女は須藤の心証をプラス方向に、小宮たちの心証をマイナス方向にした。
「嘘が一つ
「諍いというか……須藤くんが見下してくるんです」
「見下す?」
「はい。彼は一年の中では群を抜いてバスケが上手い。もちろん僕も、近藤くんも必死になって練習して追い付こうとしています。けどそんな僕たちを、須藤くんはバカにしてくるんです」
「それは須藤くんが、あなたたちに面と向かって暴言なり暴行をした……という解釈で良いでしょうか?」
「そういうわけではありませんが……態度に出ていたんですよ。あれは絶対、僕たちをバカにしていました。それで反論したら逆ギレしてくるんです」
苦し紛れにも程があるな。事実、須藤は
被害妄想にも程があると言いたいが……完全には否定出来ない。何故なら──。
「生徒会独自の調査によれば、須藤くんはこれまでに小規模ながらも問題行動を度々起こしてきました。会長はどのように思われますか?」
「小宮たちの思い込みだと断ずることは出来ないだろう。彼らの主張を一部認める」
これで状況は五分五分か。
とはいえ、今までのはお互いの能力を視るためのもの。
前半戦から後半戦へ突入する。
「僕たちは須藤くんに殴られました! これは覆しようのない事実です!」
「小宮くんたちはこう言っていますが……須藤くん、何か弁明はありますか?」
「確かに俺はこいつらを殴った。けど、先に喧嘩を売ってきたのは向こうだ」
両者共に相手の主張を叩き潰そうと
やはりというか、Cクラス陣営は『怪我』という証拠を武器にして戦うつもりのようだ。
確かにそこを論点にされると、オレたちは窮地に追い込まれてしまう。
だが戦えないわけではない。そこの部分では負けを認めても、足掻くことは出来る。
「質問、宜しいでしょうか」
「許可します」
堀北は橘書記に黙礼してから、小宮たちに鋭い視線を浴びせる。
身を竦ませる彼らが哀れでしょうがない。敵ながら同情してしまう。
「あなたたちが須藤くんを呼んだのはいまさら、確認するまでもありません。そこで聞きます。どうして石崎くんがこの事件に関わっていたのでしょうか。小宮と近藤くん二人だけならまだ話は分かります。おおかた、彼の才能に嫉妬し、脅迫……失礼、話し合いがしたかったのでしょう。しかし何故、直接関わりのない石崎くんが居たのでしょうか?」
「それは……用心のためです。男として恥ずかしい限りですが、僕たちと須藤くんでは身体能力に差があり過ぎます。話し合いの結果
「それは面白いことを言いますね。つまりあなたたちは、彼に暴力が振るわれる可能性があると想定していたのでしょうか?」
「そうです」
この展開は予習しておいたのだろう、澱みのないスムーズな会話だった。
さしもの堀北も、これには退くしか方法がないようだった。
だが彼女にはなくても、オレにはある。
オレは静かに挙手をする。そして橘書記から発言許可を貰った。
「お前たちが石崎たちを頼った理由はなんだ?」
「頼りになる友達だからですよ」
「石崎の同郷曰く、彼はなんでも、中学時代は学校を代表する不良生徒だったようだが。そのことは知っていたのか?」
「知りませんでした。けどだとしたら僕たちにとっては幸運でした。結果的に心強い人に用心棒をやって貰っていたんですから。まぁ尤も、こうして一方的に殴られたんですけどね」
オレは左隣に座っている堀北にアイコンタクトを送る。
僅かながらも突破口は開かれた。
「だとしたらおかしくないでしょうか?」
「おかしい? どこがでしょうか?」
「多少ではありますが、私には武術の心得があります。だからこそ分かるのですが、複数の敵と相対した場合の戦いは乗数的に厳しく難しくなります。喧嘩慣れしている石崎くんを含めたあなたたちが一方的に傷を負ったのは腑に落ちません」
「……それは僕たちに、戦う意志がなかったからですよ」
「だとしたらなおさらおかしいですね。あなたたち三人に戦う意志はなかった。なら何故須藤くんは怪我を負わなかったのでしょうか。いえ、言い方を変えましょう。どうして三人とも大怪我を負う必要がありますか? 一対三の状況で、これはあまりにも不自然です」
堀北の主張は一般論という観点ならこの上ない威力を誇っていた。
戦う意志が無いのなら、誰かやられている時に逃げれば良い。それか助けを呼びに行けば良い。後者は無人の特別棟故に難しいだろうが。
「僕たちにはそれだけの友情があるんです!」
「友達が一方的に殴られている光景を目の当たりにしながら、等しく怪我を負う友情ですか。面白いですね」
鼻で笑う堀北。
「……なんと言おうと、これは僕たちの付き合い方です。堀北さんにとやかく言われる筋合いはありません」
睨み合いが数秒続いた。
堀北が『
なかなか決着が付かないことに
「堀北さんがどれだけ常識を
頬に貼っていたガーゼをゆっくりと剥がす。全員の視線が集まり、擦りむけた傷が露出した。
オレは堀北に囁く。
「……堀北、出し惜しみしている余裕はないぞ」
「……ええ……」
「Dクラスからの主張は終わりか?」
つまらないとでも言いたげな冷徹な目。
「須藤くんが彼らを殴り付けたのは事実です。しかし、先に喧嘩を売ったのはCクラスです。一部始終を目撃した生徒も居ます」
「では、その生徒を入室させて下さい。茶柱先生、お願いします」
「了解した」
やや面倒臭そうに茶柱先生は席を立つ。
……いや、気持ちは分かるけどそれを表に出すなよ。
Dクラス最後の刀が鞘から抜かれる。
「し、失礼します……」
小さな声で入室の声が出される。
聞き間違えるはずもない。佐倉だ。茶柱先生は彼女の背中を押し、席に座るように勧めた。
緊張しているのは誰の目から見ても明らかだ。彼女の視線は安定せず、あちらこちらに
橘書記が助け舟を出した。
「所属クラス及び、名前を聞かせて下さい」
「……一年Dクラス、佐倉愛里です」
「昨日茶柱先生から報告があった際には驚きましたが、まさか、Dクラスの生徒でしたか」
坂上先生は眼鏡のレンズを拭きながら失笑した。
それに追随する小宮たちCクラスの生徒。
「何か問題でも?」
「いえいえ、全然ありませんよ」
生徒間で緊張が走るように、教師間でも走っているようだ。
もしかしたら、教師の世界も実力至上主義なのかもしれない。
「では証言をお願いします」
「は、はい……。わ、私は……──」
言葉が止まる。
静寂が徐々に訪れ始め、Cクラス陣営はにやにやと笑い始める。勝利を確信したのだろうか。
堀北が声を掛けようと口を開きかけるが、すぐに思い留まる。
その判断は正解だ。下手に佐倉を励ましたり
無理矢理言わせていると弾圧されるリスクが非常に高い。
佐倉は大量の汗を流していた。息遣いも荒い。
彼女は視線を泳がせ──オレと目が合った。
オレは無言で頷き、精一杯、彼女を支えようと試みる。
「これ以上は時間の無駄ですね」
静寂を良しとしなかった坂上先生が、苛立ちの声を上げた、その時だった。
「──私は、見ました。須藤くんと小宮くんが喧嘩をしているところを……!」
声主を特定するのに数秒要したのは仕方がないことだろう。悲鳴に近い叫び声。
それは女性の声だった。
茶柱先生でもなく、堀北でもなく、橘先輩でもない。
正真正銘、佐倉愛里の音だった。
「詳しく聞かせて貰えますか、佐倉さん」
「は、はい。私は……確かに見ました、小宮くんたちが須藤くんを挑発していたところを。須藤くんはその時、部活の練習着を着ていました……小宮くんたちは制服でした……」
形勢が変わり始める。
Dクラスの切り札は、想像以上の効果を生み出そうとしていた。
佐倉は居心地悪そうにしながらも、言葉を精一杯、たどたどしくも続ける。
「最初……小宮くんたちが須藤くんと話していたんです。けど途中から、石崎くんが須藤くんと話すようになって……小宮くんと近藤くんは何も喋りませんでした。それで……須藤くんを挑発して……取り囲んで。それでも彼は、思い留まりました。殴る直前で拳を引いて……帰ろうとした彼を、彼らはさらにとめたんです。それで、月曜日登校したら、『暴力事件』になっていると知って……」
その時の光景を思い返したのか、顔色をどんどん悪くしていく佐倉。
彼女の口から紡がれる『事実』にCクラス陣営は歯軋りするしかない。そんな中、坂上先生が挙手をした。
「質問をしても良いでしょうか、生徒会長」
「許可します」
「ありがとうございます。……佐倉さん、あなたは本当に事件を目撃したのですか? 話を聞いてる感じだと、須藤くんがうちの生徒を殴った瞬間は見ていないのですよね?」
「は、はい……」
「なら今の話を全面的に信じるわけにはいきません。須藤くんから話を聞いた上で、より精度が高い話をでっち上げることは可能だ」
それはつまり、創作物なのでは? と疑っているのだろう。確かに作ろうと思えば充分に創造出来るだろう。
佐倉が語った内容は……現実味が有り過ぎた。リアリティとでも変換しようか。
「未だに佐倉さんが目撃者だと認めないと?」
「えぇその通りですよ。佐倉さんの性格はある程度分かりました。どうやら彼女は大人しく優しい性格の持ち主のようだ。例えば堀北さん、あなたが『偽りの暴力事件』のシナリオを作り、彼女に俳優として演技させている。違いますか?」
堀北が否定する……その前に、思いがけない所から嘲りの声が出される。
「バカバカしいですね、坂上先生。担任の私が断言しますが、今の佐倉にそんな余裕はありませんよ」
ここでまさかの、茶柱先生の援護が届いた。
てっきりずっと傍観して我関せずの態度を取るとばかり思っていたのだが。
まぁ援護といっても、佐倉に傷を付けてしまうものだが。事実だから何も言い返せない彼女が可哀想だ。
「……証拠を見せれば良いんですか?」
「あるのなら見せて貰いたいものです」
そんなものはないだろう? そんな意味が込められた嘲りの視線。絶対に茶柱先生への報復を兼ねているな。
ところが佐倉は頷くことはしなかった。それどころか首を大きく横に振る。
「──証拠なら、あります」
出されたのは一個のUSBメモリだった。
「……私はデジカメでしっかりと撮りました。このUSBメモリに、データとして残っています」
「橘」
「はい。お借りしてもよろしいでしょうか、佐倉さん」
「は、はい……」
照明が消え、シャッターが下ろされる。光が射し込む余地はない。この学校の生徒会室はいったい、どのような作りになっているのだろう。
そして最後に、プロジェクターが下ろされた。橘書記はノートパソコンとプロジェクターの画面を連動させ、一つのファイルを映し出させる。
それは、須藤が小宮、近藤、石崎らの三人に囲われている瞬間のものだった。
須藤は脂汗を一滴流し、緊張しているようだった。反対にCクラス連中は、にやにやと嗤っている。
「……これで私が目撃者なのは認めて貰えると思います」
坂上先生は言葉を詰まらせるしかなかった。
この写真の効果は非常に大きい。見方によっては、小宮たちが須藤を脅迫していると思わせてくれるだろう。
だがそれでも決定打に欠ける。
そしてそれを、この男が見逃すはずがない。
「よく分かった……と言いたいところだが、疑問が一つ残る。佐倉、これはいつ撮ったものだ?」
「え……?」
質問の意図が分からないのか、佐倉は首を傾げてしまう。
隣で、堀北が息を鋭く呑む気配がした。彼女も気付いたのだろう。
坂上先生もその考えに至ったのか、気勢を取り戻す。
「そうだ、生徒会長の言う通りだ。佐倉さん、きみはさっきこう言ったね。小宮くんたちが須藤くんを取り囲んだと。それはこの時の写真かな?」
「は、はい……そうです」
「なら残念なことに、これをそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。小宮くんたちは須藤くんを挑発した、だが彼は思い留まった。これはその時のものなのでしょう? ならこれは、直接『暴力事件』に繋がるとは言い難い」
「そ、そんな……!?」
驚愕に目を見開く佐倉に、生徒会長が答える。
「これが『暴力事件』の直前のものだったら証拠能力は文句なしだった。須藤の正当防衛は認められただろう。だが『波』は二回あった。一回目、彼はそれをやり過ごしたのだろう。この写真はその一回目の『波』のもの。それをたった今、お前が認めた。……しかし『暴力事件』が起きたのは二回目の『波』の時。お前は、その二回目を見る前に特別棟から出てしまった。一定の証拠能力はあるが、絶対的なものではない」
残酷なまでに告げられた言葉。
佐倉は勇気を出した。須藤のために、クラスメイトのために……何より、自分が『成長』するために足を踏み出した。
しかし結果はこれだ。彼女の努力は中途半端に実っただけ。彼女の心境を表すのならば、『絶望』というたった二文字で終わってしまう。
互いに致命傷を与えられない。
拮抗する
無言の圧力が掛かる中、坂上先生が疲れたように息を吐いた。
「……どうでしょう。ここは落とし所を模索しませんか」
「ほう。それはなかなか面白いことを言いますね、坂上先生。具体的には?」
問い掛けたのは茶柱先生だ。
しかし坂上先生は彼女には目もくれず、生徒会長に打診する。
「いつまで続けても話し合いは平行線のままでしょう。私たちCクラスも、Dクラスもお互いの主張を曲げる気はさらさらない。……そこで落とし所です。私は教え子にも責任があると思います。例えば最初に須藤くんに呼び出されたと嘘を言ったところです。複数対個数の状況に追い込んだのもそうですし、そのうち一人は喧嘩慣れしているそうだとか。さらにはあの写真もあり、そういった『雰囲気』を先に作ったのは彼らだ」
誰も口を挟まない。
坂上先生は言葉を続ける。それは折衷案だった。
「──しかし、直接的な『被害』を
生徒会長は黙って聞いていた。そしてゆっくりと頷く。それはつまり、彼がCクラス側の折衷案を認めた、ということ。
恐らく佐倉の証言と写真がなければ、須藤にはもっと重い罰が下されていたはず。
「茶柱先生はどう思われますか?」
「担任としてはこれ以上、そちらが譲歩してくれるとは思っていません。なので私には断る理由はありません」
あくまでも茶柱
須藤も佐倉もこれ以上は無理だと察知したのか、諦観の表情を浮かべる。
オレは堀北の横顔を盗み見た。彼女の瞳には闘志が感じられたが、同時に諦めの色もあった。理性が本能を上回っているのだろう。
ここで彼らの提案を呑み込むのが最善だろう。拒絶した場合、戦場はさらに荒れてしまう。
そうなれば最悪の展開、須藤
最初から分かっていたことだ。どんなに足掻いても、どんなに抵抗しようと、証拠が身内から出され、さらには証拠能力も100%じゃないのなら意味は無い。
──Dクラスに『勝利』は摑めない。
オレはこの一週間を振り返った。
須藤が皆の前で謝罪し、目撃者Xを死に物狂いで捜し……そして堀北までもがクラスに貢献するように動いた。
あれだけの絶望的状況から、良くもまぁここまで戦い抜いたと思う。素直に称賛もしよう。
だからオレも動くとしよう。計画の完遂は目前だ。
「答えは出ましたか?」
「ええ。私たちはその提案を──」
受け入れる。その言葉が出される前に、オレは自身の言葉を強引に捩じ込んだ。
「──拒否します」
は? 間抜けな音が誰かから出された。
堀北も、須藤も、佐倉も、茶柱先生も。
小宮も、近藤も、石崎も、坂上先生も。
橘先輩も。
驚愕に色を染める。何を言っているんだお前はと、目を見開く。
そして堀北学だけが──静かに笑っていた。
「オレたちDクラスは、その提案を受け入れません」
聞き間違いを起こさせないように配慮し、オレは改めて、そう、宣言した。
笑いから一転、仏頂面に戻った生徒会長が、務めを果たすべく、静かに問い掛ける。
「その理由を聞いても?」
「理由は主に二つあります。一つ目は、須藤健に『前科』を残させないためです。彼はバスケットのプロを本気で目指している。そんな彼に『前科』があったら困るだろうし、彼はDクラスの『財産』だ。そう簡単には手放せません」
「もう一つは?」
「オレが、証言してくれた石倉先輩や佐倉、そして何より、友人の須藤を信じているからです」
「素晴らしい友情だ……そう言いたいところですが。えっと、きみは──」
「綾小路です」
「そう、綾小路くん。きみはDクラスに相応しい生徒のようですね。実に愚かだ。きみのその浅はかな考えが、他ならない友を追い込むのかもしれないのですよ?」
「だとしてもオレは、須藤健の『無実』を主張します」
正気か? そんな意味が込められた視線がオレに刺さる。
だがそんなものはどうでも良い。
坂上先生は失笑してから、生徒会長に同意を求めた。
「坂上先生の言う通りだ。折衷案が通らないのなら、我々生徒会は独自の裁量で沙汰を下す。審議会の延長は認めない。何故なら、これ以上の進展は無いからだ」
「今ならまだ綾小路くんの
その言葉に嘘偽りはないだろう。
ここでオレが拒否をしたら、生徒会独自の裁量で沙汰が下されるだろう。恐らく、受ける傷は折衷案よりも多いはずだ。
堀北と目が合う。須藤と目が合う。佐倉と目が合う。
三人とも未だに呆然としている。堀北もそうなのは意外だったが……まぁ良いか。
オレは茶柱先生に声を掛けた。
「茶柱先生、確認したいことがあります」
「……言ってみろ」
「先生は入学した時、そして一週間前にこう仰いました。『この学校で買えないものはない』と。そしてその例として、Aクラスへの裏道を教えてくれましたよね」
「……それが、どうかしたか……?」
オレは茶柱先生との会話を一方的に終わらせ、生徒会長の目を真っ直ぐ見据える。
視線が交錯した。
「生徒会長、お願いがあります」
「聞くだけ聞こう」
「審議会を延長して下さい。もちろん、対価は必要です。その対価として──
──プライベートポイントを支払いましょう」
本日何度目になるか分からない静寂。
最初に我を取り戻したのは坂上先生だった。オレを見下し、心の底から嘲笑する。
「はははは! 何を言うのかと思いきや、プライベートポイントを支払う? なるほど、綾小路くん、きみの『それ』は可能でしょう。この学校で買えないものはありませんからね。ルールには則っている。しかしですね──」
「綾小路、Dクラスのお前に幾ら払える?」
「言っておきますが、2万、3万では到底足りませんよ。まぁこの額ですら、きみには払えないでしょうが」
「済まない、話を前に進み過ぎたな。Cクラス側はこの売買を認めるか? 認めた場合、綾小路が支払うポイントは小宮たちに振り込まれるが」
「ええ、審議会の延長を認めます」
「そうか。では改めて聞こう。綾小路、お前には幾ら払える? 最低でも5万prは必要だが、お前にはそれがあるのか?」
「あるわけないでしょうが! ほら、素直に諦めろよ綾小路! 『不良品』のお前には無理だって! なあ!」
「そうだそうだ!」
「小宮くん、近藤くん。それ以上の暴言は看過出来ません」
橘書記が見兼ねて注意するが、連中はにやにやと醜悪に笑っている。払えるわけがないと確信しているからだ。
坂上先生も、茶柱先生も異論は申し立てない。それどころか微動だにしなかった。まるで──分かり切っているかのように。
学校公認の『不良品』。
それがDクラスに所属する者が押し付けられる烙印だ。最低5万pr。他クラスにとってその額は払えない額ではない。
Aクラスの生徒なら余裕だろう。
携帯端末をブレザーのポケットから取り出しながら、オレは静かに嗤う。
5万prを所持している、ことにではない。
5万prという請求額に拍子抜けしたからではない。オレはそれ以上の額を用意していたのだから。それこそ万が一に備え、
なら、何故嗤っているのか。
計画がついに完遂されたからだ。この時の為だけに、
「──10万prを支払いましょう。これで延長を認めて頂けますか」
一月五日 当初、石倉先輩のことを三年『A』組だと表現していましたが、原作をよくよく読み返すと、三年『B』組でした。読者の皆様には誤解を与える表現をしてしまい、申し訳ございません。
読書の皆さんが思う、一学期の間に最も実力を示したDクラスの生徒は?
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綾小路清隆
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堀北鈴音
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平田洋介
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櫛田桔梗
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須藤健
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松下千秋
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王美雨
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池寛治
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山内春樹
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高円寺六助
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軽井沢恵
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佐倉愛里
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上記以外の生徒