喧騒に包まれるラウンジ。
しかしオレにとってはどうでも良い。
「時間の無駄だったな……」
「あはは、言うねー」
独り言に割り込んできたのは
近くに居ることは目視していたが話し掛けられるとは思っていなかった。
場所をエレベーターに移す。オレと櫛田以外、乗客は居なかった。オレが奥に入り、彼女が前に立つ。
「お前も居たんだな」
「まぁね。私も堀北さんみたいに無視をしようかなと思ったんだけど。でもやっぱり面白そうかなって思って」
「感想は?」
「うーん、きみの言う通り時間の無駄だったよ。あぁでも、
一年Aクラス坂柳
「
純粋に疑問に思ったので尋ねてみると、彼女は
「いやいや、あれは無理だね。私と坂柳さんが遊ぶことは多分、未来永劫ないと思うな」
「それはまたどうしてだ?」
「あはは……
質問を質問で返されたオレは戸惑った。
ここでようやく櫛田はオレに顔を振り向かせる。そこでは魔女が妖しく口元を歪んでいた。
「私はね清隆くん。『女王』に刃向かう程馬鹿じゃないよ」
驚くほど静かにエレベーターが停止する。電光掲示板では『3F』の文字がオレンジ色で輝いている。
「ほら、着いたよ」
「……ああ」
色々と言いたいことはあったが、オレはそれらを呑み込み、一つに纏めた。
「じゃあ、待たな」
扉が完全に閉じる寸前、櫛田は唇を動かしていたが……何を言っていたのかは分からなかった。
彼女が呑まれないことをオレは願おう。
それしかオレには出来ないのだから。
自分の部屋に戻るため廊下を歩き、扉を開けると、
「ああああああああぁぁぁやぁぁぁぁのこおおおおううううううじいいいいぃぃぃぃ……!」
「……」
「ああああああああぁぁぁやぁぁぁぁのこおおおおううううううじいいいいぃぃぃぃ……!」
「……」
怨嗟の声、そして沈黙が繰り返される。
オレは内心で頭を抱えた。
目頭を片手で摘み「マジかー……」と小さく呟くのは許して欲しい。
「あー、えっと……どうかしたか
放置することは出来ないし、無視をすることも出来ない。
オレがおずおずと声を掛けると、クラスメイトの男はふらふらと覚束ない足取りでこちらに近付いてくる。
逃げようにも背後はひんやりと冷たい扉。退路は完全にない。
「助けてくれよ
「いや……助けるって何を……?」
「助けてくれってえええぇぇぇ!」
だ、駄目だ……会話が成立しない。
実のところ、オレは何故山内がここに居るのか見当がついている。
だが関わりたくない気持ちの方が正直なところ大きい。
「
とうとう山内はオレの両肩をがくがくと揺さぶってきた。
いまオレはどんな表情をしているのだろう。
高度育成高等学校に入学してからの数ヶ月で、オレは数多くのことを経験した。
はじめての出来事を何度も繰り返すうちにオレは成長したはずだ。友人が言うのだから、多分、それは間違っていないのだろう。
だが、しかし──。
これはちょっと無理かもしれない。
「……一旦落ち着いたらどうだ。顔が凄いことになっているぞ」
一言では言い表せられない程のものになっている。
というか、いま気付いたのだが──。
「なぁ山内」
「……な、何だよぅ?」
「お前、どうやって室内に入ったんだ?」
全ての部屋はオートロック式だ。入室する為には指紋認証をする必要がある。
「……
「ああ、高円寺が……」
室内に入るためには内部から開けて貰うしかない。
まさか高円寺が……と思いながら室内を軽く見渡すが、彼は留守にしているようだった。
「グズッ……あいつなら……ズズッ、どっかに行ったよ」
これは完全にオレの予想だが、恐らくはこれで合っているだろう。
まず、山内はオレに相談したいこと──内容は予想がついているが──があって部屋を訪れた。しかしオレは部屋に居なかった。そこで高円寺が扉を開け、彼を招いたのだろう。
だが高円寺の性格上、彼がひとを自分から招待するとは思えない。
山内は廊下に居た時からこの状態で、扉越しから伝わってくる雑音が喧しくてしょうがなく、さらには近所迷惑のことも考えて、嫌々ながら行動したのではないだろうか。
そして美しくない山内を放置して部屋を出たに違いない。そう考えると、山内が無事なのは奇跡に等しいんじゃないだろうか。
「あー……取り敢えず、鼻水を何とかした方が良いと思うぞ」
汚いから、という言葉を直前で言わなかったのは自分でも偉いと思った。
ズボンのポケットからティッシュを取り出し、数枚、彼に手渡す。
ズズズズゥゥッッッという音が盛大に鳴り、ようやく山内の顔はまともなものになった。
「座ったらどうだ」
立ち話するのは疲れるし、何よりも、この超絶至近距離を何とかしたい一心で提案すると、山内は素直に聞き入れた。
平田が使っているベッド、その縁に座る。オレは彼と向かい合う形で自分のベッドの縁に腰掛けた。
「それで……用件はいったい何だ?」
「分かっているだろ! 佐倉についてだよ!」
怒鳴られてしまった。
これはかなりまずい状況かもしれないな。
「つまり、お前は恋愛相談をしたいんだな?」
最終確認をすると、山内は
ここでオレが取れる選択肢は二つ。一つ目は相談に応じるというもの。二つ目はその逆だ。
どちらを選択しても面倒臭いことになるのは目に見えている。
そのうえでオレはどちらを取るべきなのだろう。
……いや、そこまで考える必要はないかもしれない。希望的観測だがそう願おう。
「相談を受けることは了承するが、助言とかはあまり期待するなよ」
「ありがとう……! ありがとう綾小路! お前だけが心の友だぜ!」
感極まって泣く前に、早く話をして貰いたい。
「彼女持ちのお前に話を聞いて貰えるだなんて……これは勝ったも同然だぜ!」
訂正したい箇所があったけれど、時間の浪費にしかならないと判断し、オレは無言で話を促した。
「俺が佐倉のことを好きなのはこの前言ったよな」
「ああ、無人島試験の最中に聞いたな」
「そう、そうなんだ! 俺は佐倉のことが好きなんだ! 愛していると言っても良い!」
「…………」
「何だよ。文句でもあるのかよ!?」
オレの無言が癪に障ったのか睨んでくる。
オレは「何も無い」と一言謝罪する。けれど、胸の中の靄をきりばらいすることが出来ない。
何故彼は軽々と『愛』などと宣うことが出来るのだろう。
これは嘲りではない。純粋な興味だ。
お世辞にも山内は佐倉と仲が良いとは言えない。
いや、その段階ですらない。
彼らの関係は良くてクラスメイト、悪くて赤の他人だろう。
それも当然だろう。
山内
そして彼が彼女に惹かれた最大の要因は身体的特徴──胸だ。
それが悪いこととは言わない。
生物である以上、自分に適した優れた相手──山内春樹の場合、まず何よりも胸の大きさなのだろう──と恋仲になりたいとは自然なことだ。
だからこそ、人間は都合の良い『外面』だけを視て、『内面』には気付かず──あるいは気付いたとしても、まるでないかのように扱う。
オレは対面に座る山内の顔をじっと見つめ、思考に耽る。
何故、彼は軽々と『愛している』と言えるのだろうか。
愛情とは無縁の人生を送り、そのレールの上を歩いてきたオレは、それが知りたくて仕方がない。
それを知った時オレは────。
思考を中断し、オレは彼に尋ねた。
「最後に確認するが、本気なんだな?」
「ああ!」
「……分かった。話を聞かせてくれ」
山内は安堵の表情を浮かべ、けれど悲痛な面持ちに戻る。そしてゆっくりと話を始めた。
「実は……俺、避けられている気がするんだ」
「避けられているって……佐倉にか?」
「あぁ、間違いない……」
オレは困惑した。
これまでの山内の様子からして、もっと重たい話になると思っていたからだ。いや、当人からしたらそうなのかもしれないが……。
「あー……悪い。もうちょっと詳しく頼む」
「お前……それを聞くのかよ」
「嫌なのは分かるが、そこは了承して貰わないと話にならないぞ」
「けどよぅ……」
とはいえ、佐倉本人に話を聞くという方法も残されている。しかしそれはあまりにも彼女に酷だろう。
山内は渋々ながらも、
「俺さ、無人島試験が終わってから佐倉にずっと声を掛けていたんだ。ほらさ、やっぱり最初は仲良くなることからが定石だろ?」
「そう……なのか?」
「ケッ! なら
唾を吐いてから、山内はそう言う。
オレは胸中でため息を吐いてから想像してみた。
言われた通り、椎名の輪郭を描き出す。
「どうだ?」
「……そうだな、山内の言う通りだと思う。仲良くないひとと付き合おうとは思わないだろうな」
あくまでも一般論を言ってみると、それはもう嬉しそうに山内は頷いた。
友人にせよ恋人を作るにせよ、まずは自分から歩み寄ることは必要だろう。
つまり、山内の行動は正しいと言える。
「最初は挨拶からしてみたんだ」
「挨拶か」
「ああ。けど佐倉は返事をしてくれないんだよ。ひどいと思わないか?」
「……それ、本当か?」
「当たり前だろ! こんなことで嘘を吐くかよ!」
いや、確かにそうなのだが……。
しかしどうにも腑に落ちない。
昔の佐倉なら兎も角として、今の彼女なら挨拶くらいなら充分対処出来るはずだ。
「さらに聞いてくれよ綾小路。佐倉だけじゃなくて、
「ああ、そうだな。それより……みーちゃんもか……?」
オレのなかにますます猜疑心が生まれる。
佐倉一人ならまだ兎も角として、みーちゃんまでも返事をしないだろうか。
オレが尋ねようと喉を鳴らす前に、大音量が部屋に響いた。
「おまえっ!
まるで親のかたきを見るような目で、山内は鋭い眼差しでオレを睨んできた。
胸倉を摑まれそうな、そんな勢いだ。
──本格的に面倒臭くなってきたな……。
今日の山内は相手するのに疲れる。こんな時平田が居れば丸投げ出来るのにな……。いやでも、彼らはそんなに仲は良くないか。
実に今更だが、どうしてオレは何人ものクラスメイトから恋愛相談をこれまでに受けているのだろう。
思考がどんどん泥沼化しそうだったので、まずオレは彼の誤解を解くことにした。
「みーちゃん……
「いやいやいや、おかしいからな! 親しく『みーちゃん』だなんて……!」
「本人がそう呼んでとクラスメイトに言っているのは山内だって知っているはずだ。実際数こそ少ないが男子だって何人か呼んでいる」
しかし言葉を尽くしても、山内は冷静さを取り戻さなかった。
「前から思っていたが、綾小路、お前!」
「な、何だ……?」
「何でお前のような無表情なやつが女の子と仲良く出来るんだよ!」
それは心からの叫びだった。
山内は天──ではなく、天井に向かって熱く吼える。
オレは初めて本気で引いた。
慟哭している隙をついて逃走することは出来ないだろうか。……出来ないんだろうなあ。
「…………話を戻しても良いか」
「逃げるのかよ──わ、悪い。謝るからその目をやめてくれ、頼むから」
自分でも自覚出来るほどの冷めた目で、オレは脱線した話を元に戻すために言った。
「山内の話を信じない訳じゃないが、どうにも想像出来ないというのが素直な感想だな」
「け、けどよぅ……」
「ちなみに挨拶はどんな風にしていたんだ?」
試しに聞いてみる。
すると山内は佐倉たちにやるように実演する為か、こほんと咳払いし、
「例えば朝の挨拶な。──おはよう佐倉、
「……」
「おはよう佐倉、
「分かったからもう一度言わなくても良い」
おっ、そうか? と彼は呑気そうに笑った。
こめかみを押さえるオレを、山内は心底不思議そうに見てくる。
自分の行動は正しいものと信じてやまないのだろうか。
だとしたらこれは問題だろう……色々な意味で。
「前半の挨拶は良い」
「そうだろそうだろ!」
「……問題は後半だ。どうしてナンパ男が言いそうな挨拶なんだ?」
「女の子の容姿を褒めることは大事だろ。これがブスだったらもちろん言わないさ。そんなの嘘だからな。けど佐倉たちは可愛いだろ? だから会う度に称賛することによって、俺はきみを見ているということをアピールしようと思ってな」
思ったよりも考えられていて驚いた。
が、しかし……これはなあ……。考える方向性が違うと思う。
「山内の作戦は充分に伝わってきた。お前なりに考えて行動していたんだな」
「分かってくれるか、綾小路!」
「その上で言うが、容姿を褒めるのはまだ早いと思う。まだ山内たちの関係性はただのクラスメイトだ。だから……そうだな、まずは軽い世間話くらいで良いと思う」
段階を踏めと優しく諭す。
「世間話かぁ……。綾小路はどんなのが良いと思う?」
「…………天気の話とかはどうだ?」
「それだと爺ちゃん婆ちゃんの話だろうが!」
「そ、そうだな……」
これはオレも反省する。
初顔合わせなら天気の話も有効だろうが、急に山内がころっと話題を変えたらますます怪しまれるか。
備え付きのテレビの横に置いてあるデジタル時計を確認すると、時間に余裕があまりないことに気付く。
これは早々に話を終わらせなければならない。
その為には──気は乗らないが──もっと真剣になるか。
同性、ではなく、異性と仲良くなる方法。
申し訳ないが、佐倉は普通の女の子……とは言い難い。オレは彼女の『秘密』を知っているからだ。
その観点からみても、佐倉愛里という少女を攻略するためには、普通の方法では難しいだろう。
そしてオレは親しくさせて貰っている女性の友人から、何名かをピックアップする。
最後に残ったのは、やはりというか、『彼女』だった。
「趣味の話はどうだ……?」
「趣味? そんなんで良いのかよ?」
「ああ、そうだ。相手……佐倉の趣味について聞くのはどうだろう?」
「けど俺、佐倉の趣味なんて知らないぜ」
「ならまずは軽く自分の趣味を言って、それから、佐倉について聞けば良い」
結局オレが言ったのは恋愛の初歩だろうが、間違ってはいないはずだ。
佐倉も自身の写真撮りという趣味について、興味を示されたら話に応じるだろう。
「そうか! 俺、分かったぜ!」
「それは良かった」
オレが万感を込めて頷くと、山内は「うおおおおおおおぉぉぉ!」と拳を天井に突き刺す勢いで立ち上がる。
「ありがとう綾小路! 本当にありがとう! 俺たちは心の友だぜ!」
「ああ、そうだな」
「俺、この試験頑張るよ! 絶対に優待者を見付けて、功績を上げて……佐倉に格好良いところを見せるんだ!」
「ああ、そうだな……──ちょっと待ってくれ。いま何て言った?」
しかし山内にオレの声は届かなかった。
紅潮した顔で、一人の漢は叫ぶ。
「うおおおおおぉぉぉ! 俺がやれるってことを証明してやる!」
オレが制止する間もなく、山内は部屋から出ていった。
バタン! と扉が勢いよく閉められた音が、とても大きく響く。
…………。
オレは携帯端末を操作し、オレの心情を最も理解してくれるだろう一人の友人にメッセージを送る。
『お前の大変さが少しは分かった』
『は? 何言ってんの? 頭大丈夫?』
確かにそう言われても仕方がない程の脈絡のなさだが、これはあまりにも辛辣なのでは? とオレはさめざめと心の中で泣いた。
ここ最近、どんどんオレに対して口が悪くなっている気がする。心をオレに開いていると喜ぶべきか……。
『あっ、今の履歴ちゃんと消しておいてね』
『もし消さなかったら?』
興味本位で試しに聞いてみたのだが、既読だけがついた。普通に怖い。
恐怖心に従い履歴を消したところで、突如、画面がメロディと共に通話モードに切り替わる。
そこには『櫛田桔梗』の名前が表示されていた。意を決して、オレはコールボタンをタップする。
「もしもし──」
『やっほー。さっき振り。しっかりと消してくれた?』
オレはここで妙案が浮かんだ。
好奇心が疼くとも言えよう。
後悔するとしても、オレはこの選択をすることをとめられない。
「遅くなったが、今日も桔梗は可愛いなあ。昨日の二倍……いや、三倍……いやいや五倍は輝いているぞ」
『……』
「今日も桔梗は可愛いなあ──」
『聞こえているからやめてくれない? 気持ち悪くて吐きそう』
……なるほど。山内、やっぱりあの挨拶は駄目なようだぞ。
女の子からこんなことを電話越しでも言われたら、中々に心が抉られるな。
と、オレが消沈していると、櫛田はため息を吐き、
『あのね、清隆くん。おおかた誰かに影響されたんだろうけれど、それは本当にやめた方が良いから』
「そ、そんなにか……?」
『うん。百年の恋も冷めるレベルだよ』
私が相手で良かったねと櫛田は言った。
『清隆くん、ひとには向き不向きがあるんだよ。きみのような無表情且つ言葉に感情が込められていない棒読みのひとが言っても意味ないから。ね?』
「分かった。分かったからもうやめてくれ。何だか泣きたくなってくる」
『その言葉すらも棒読みなんだよ……』
そうは言われても、それこそ、ひとには向き不向きがあるんだと思う。
オレは空気を変えるために咳払いをして、
「ログは消したぞ」
『わあっ、ありがとう清隆くんっ!』
天使の声とはこのようなものを言うのだろう。
何人の男がこの魔女に騙されるだろうか。
本当に……ひとを騙し、自分を偽るのが得意な少女だ。
だからこそ、オレはこの言葉を贈る。
「大丈夫か?」
『……ッ。何のこと?」
「本当は連絡するつもりはなかった。けどやっぱり、心配になってな」
『……ほんとうに……困っちゃうなぁ……』
疲れたように櫛田は息を吐いた。
メールを送ったのは、彼女の状態を知るため。ここで彼女が過剰な反応を示した時、オレの杞憂は当たったことになる。
そして履歴を消せなど、わざわざ彼女が言ってくる必要はない。もとよりオレは消すつもりだったのだから。
それは彼女も知っている。
なのにも拘らず、彼女は電話を掛けてきた。
彼女が縋れるのはオレしかいないのだから。
『……あと少しで、二回目のグループディスカッションが始まるね』
現在時刻は午後の六時を少し回ったところだ。八時から二回目のグループディスカッションが開始される。
「そうだな。上手く出来そうか?」
『愚問だよ。当然、出来るに決まって……──』
彼女の言葉を遮って、オレはこう言った。
「今ならまだ戻れる。それでも、桔梗、お前はとまらないか?」
『……』
「正直、お前の拘りがオレには分からない」
『ふふっ、おかしいことを言うね。……私だけじゃない。誰もがみんな、この黒く、醜い感情を持ったことがある。……だから、清隆くんだけだよ、分からないのは』
「そうなのかもしれないな、少なくともいまは」
『うん……でも、きみは少しずつ歩いているよ。それは私が保証する』
会話が途切れる。
実のところ、オレはどのようになっても良い。
櫛田がどの選択をしても、オレに実害が出ることはないからだ。全ての業を背負うのは彼女一人だけ。
しかし……だからといって、苦しんでいる彼女のことを放置し、見捨てても良いのだろうか。
それは違うだろう。
それではあまりにも不義理だ。
何よりも、他ならないオレがそれを拒んでいる。
だからこの時初めて、オレの本心を彼女に告げる。それがたとえ残酷なものだとしても。
「お前が進む道は茨の道だ。これまで以上にお前は疲弊し、そしてストレスを抱えることになるだろう」
『そう、だね……』
「もう一度聞く。桔梗、お前はその道を進むか?」
彼女の荒れた息遣いが伝わってくる。
オレは瞼を閉じて彼女の答えを待った。
はたして、数分後──。
芯が通った声が、オレの元に届く。
『私は進むよ。失敗したら私は全てを
「分かった」
『……ごめんね。これで私たちは正真正銘、運命共同体になったんだ』
「そうだな、旅は道連れとも言うしな。たとえお前が挫折し、周りから蔑みの目を向けられ、絶望したとしても、オレだけは味方でいよう。約束だ」
『それは嬉しいなあ。けど言い方が上から目線で腹立つかも』
「気分を害したなら謝る」
『ううん、大丈夫。──あはは、なんか私たち、悲劇に居るみたいだね。椎名さんにちょっと悪いかも』
でも、私は悪い子だから謝らないけどねと、少女は寂しそうに言った。
オレは、
干支試験、二日目を迎えた、早朝の午前六時。
船上は荒れていた。
何故ならば、運営側からの大量のメッセージが、この時までに、生徒の元に届いていたからだ。
『鼠グループの試験が終了致しました。鼠グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『牛グループの試験が終了致しました。牛グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『兎グループの試験が終了致しました。兎グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『竜グループの試験が終了致しました。竜グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『馬グループの試験が終了致しました。馬グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『羊グループの試験が終了致しました。羊グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『猿グループの試験が終了致しました。猿グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『鳥グループの試験が終了致しました。鳥グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
『猪グループの試験が終了致しました。猪グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気を付けて行動して下さい』
──それは正しく、試験終了を告げる
読書の皆さんが思う、一学期の間に最も実力を示したDクラスの生徒は?
-
綾小路清隆
-
堀北鈴音
-
平田洋介
-
櫛田桔梗
-
須藤健
-
松下千秋
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王美雨
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池寛治
-
山内春樹
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高円寺六助
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軽井沢恵
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佐倉愛里
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上記以外の生徒