その男──一年Aクラスに所属している
それは、一年Aクラスのリーダー争いの旗色が悪い、という事。長期休暇の夏休みに入るまでは敵対派閥である
それは葛城の自惚れではなく、客観的な事実だった。
しかしながら──無人島試験。突如として行われたこの特別試験によって、『葛城派』の優位性は失われる事になる。
特殊な事情があり豪華旅行そのものに参加出来なかった坂柳の代わりに、葛城がAクラスのリーダーに就く事になった。『葛城派』にとって、坂柳が居ない二週間という期間は最大のチャンスだった。逆に言えば『坂柳派』にとっては最大のピンチだった。
──この特別試験の結果によって、Aクラスの今後が決定する。
それがAクラスの共通認識だった。
『葛城派』は葛城の指示のもと動き、一致団結して特別試験に臨んだ。『坂柳派』も内心はどうであれ、クラス闘争に負けては本末転倒だと分かっていた為表向きは葛城に従った。
葛城は優秀な男だった。普段は『石橋を叩いて渡る』タイプであり、慎重な男だった。
だが無人島試験に於いて、葛城は慎重さを捨て去り、強硬策に打って出た。
それは何故か。
それは、着実に迫ってくる他クラスに警戒をしていたからだ。
Bクラス、Cクラス、そしてDクラス。どのクラスもリーダーを据えて万全を期して特別試験に臨んでいたが、Aクラスのみそれが出来ていなかった。入学して数ヶ月が経つというのに、未だに身内で争っている。これでは『不良品』だと言われても文句は言えないだろう。
優秀な人材が多いAクラス。それ故に、誰をリーダーにするかで揉めたのだ。
さらには、夏休み開始直前に起こった『暴力事件』。葛城にはどうしても、『CクラスとDクラスの不良が起こした馬鹿な喧嘩』だとは思えなかった。Aクラスの生徒は下位クラスの愚かな争いだと嘲笑っていたが、葛城はそうではなかった。恐らくは、坂柳もそうだろう。
それはCクラスを率いる男──
その龍園が意味もなく『暴力事件』を起こす筈がない──というのが、審議会が開かれるまでの葛城の考察だった。しかしこの考察も、Dクラスの生徒──
結果はどうあれ、Dクラスは事実上『完全勝利』した。誰もが『痛み分け』だと予想していたが、そうはならなかった。
──この出来事により、葛城は早急に地盤を固めなければならないと強く思うようになる。
そして、満を持して挑んだ──特別試験。無人島試験のみならず干支試験でも、Aクラスは『敗北』した。特に無人島試験では言い訳の余地もない『大敗』。Aクラスの獲得ポイントは僅か20cl。他クラスとの距離を詰められてしまう結果となった。干支試験では龍園率いるCクラスが如何なる手を用いてか全クラスの『優待者』を暴き出し、単独での勝利を収めてみせた。その間、葛城に出来る事は何もなかった。リスクを冒さない無難な策ばかりを講じ、後手に回った。結果、あっさりと負けた。
あと数日で二学期が始まる。流石の葛城も、学校への登校が憂鬱だと感じていた。先の数々の失態により、同士は多くが『坂柳派』へと寝返った。
それを責めるつもりはない。それが正常な判断だ。自分は言わば、『終わった人間』。
味方だと言って残ってくれた生徒には悪いが、葛城は坂柳に全面降伏しようとすら考えている。
自分だけなら、良かった。だが自分に付き合ってくれる人間をこれ以上巻き込む訳にはいかない。坂柳は今後、徹底的に『葛城派』を潰しに掛かるだろう。彼女が不要だと判断したら、退学にすら追い込むかもしれない。それがたとえクラスメイトだとしても、彼女からしたら『葛城派』は『敵』だ。彼女の性格を考えればその可能性は極めて高い。
その最悪を避ける為には、葛城が坂柳に服従するのが最善だ。そうすればAクラスは一枚岩になり、クラス闘争にも本腰を入れられる。下位クラスからの攻撃にも問題なく対処出来るだろう。
「──だが、本当にそれで良いのか……?」
それまで黙考していた葛城は、そう、声に出して自問自答した。
長い時間、葛城は考えていた。過去と、現在と、そして未来。それらを分析し、自分に何が必要なのかを模索していた。
「……」
確かに自分は、『終わった人間』なのかもしれない。今一番、クラスに貢献していないのは間違いなく自分だ。Aクラスが二度も敗北したのはひとえに、自分の責任だ。
だがしかし、ここで坂柳に頭を下げる事が本当に最善だと言えるのか。
葛城は、自分がリーダーである必要はないと考えている。何故なら葛城康平という人間はリーダーの『器』はなく、あくまでもリーダーを補佐する能力に長けているからだ。
「俺は、どうすれば良い……?」
服従か、抵抗か。坂柳有栖の軍門に下るか、あくまでも自分こそがリーダーに相応しいと虚勢を張るか。
葛城は目を伏せ、自問自答を繰り返す。
ここが一つの分岐点だと、葛城は分かっていた。ここで取った選択によって、今後の学校生活……引いては人生が決まると言っても過言ではない。
優秀だからこそ、葛城は迷う。慎重だからこそ、彼は重い決断が中々出来ない。どうしても二の足を踏んでしまう。
「
数時間前の出来事を思い返し、葛城は苦笑いした。
その時だった。
軽やかなメロディが室内に流れる。チャイムの音ではなく、一階からの呼び出し。葛城は一旦考え事を中止し、いったい誰かと思考を巡らせる。
今日、誰かと会う約束を葛城はしていなかった。真っ先に思い浮かぶのは今なお自分を慕ってくれているクラスメイト、
それはつまり、葛城とは普段関わりのない者からの呼び出しである、という事。
「堀北生徒会長だろうか……?」
数時間前、自分から持ち掛けた話に対して考え直し、前向きに検討してくれたのかもしれない。それは個人的なものであるが、目下悩んでいる問題が一つでも解決される事に越したことはない。
少しの期待と共にモニターを覗き込んだ葛城だったが、その期待は裏切られる事となる。しかしそれがどうでも良いと感じられる程、彼は衝撃を受けていた。予想だにしなかった人物が、そこには映されていたからだ。
通話ボタンを押すと、向こうもそれを認識したのだろう。安堵したかのように息を吐くと、おもむろに口を開けた。
「突然の来訪、すまない。大事な話がある。中に入れて貰えないか」
一年Dクラス──綾小路清隆は葛城にそう言った。
葛城は改めて、自分が今分岐点に立っているのだと自覚せざるを得なかった。
読書の皆さんが思う、一学期の間に最も実力を示したDクラスの生徒は?
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綾小路清隆
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堀北鈴音
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平田洋介
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櫛田桔梗
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須藤健
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松下千秋
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王美雨
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池寛治
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山内春樹
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高円寺六助
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軽井沢恵
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佐倉愛里
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上記以外の生徒