ようこそ事なかれ主義者の教室へ   作:Sakiru

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家族愛

 

 ──曰く。

 

 葛城康平(かつらぎこうへい)には病弱な双子の妹が居た。両親と祖父母既に他界している葛城家にとって、家族の(きずな)は何よりも大切なものであり、重視するものだった。

 だがその最愛の妹と、葛城は離れ離れになってしまう。

 何故なら葛城が入学した学校──高度育成高等学校は在学中の三年間、余程の非常事態を除き外出を禁じている。それはつまり、家族に会えないという事を意味していた。オレをはじめとした一部の生徒にとっては最大の魅力だったが、葛城にとっては最大のデメリットだった。

 妹を大事にする葛城にとって、この校則は非常に煩わしいものだった。家から近い学校を適当に選び妥協しようとさえした。それ程までに葛城は妹の事を家族として愛していた。

 だがその兄を、妹は必死に諌めたのだという。妹にとって、葛城はとても自慢な兄であり、自分の所為でこれ以上人生を狂わせたくなかったのだ。

 葛城は悩みに悩んだ末、この学校に入学する事を選んだ。この学校は学費を政府が全て負担する為、実質タダである。病弱の妹は優しい親戚の家で何不自由ない生活を送っているが、金銭面で負担を掛けているのが葛城は申し訳ない思いでいっぱいだった。せめて自分だけでも、と思うのは当然の帰結だった。

 見事高度育成高等学校に入学を果たした葛城は、これまでの人生では想像さえ出来なかった様々な出来事に直面する。自分と同格、あるいはそれ以上の強大な敵と鎬を削るクラス闘争は、彼にとっては過酷な試練の連続だった。敗北を味わい、挫折を知ったものの、それでも彼は戦う事を諦めなかった。

 そうして気が付けば、葛城は学校に入学してから早くも数ヶ月が経ち夏休みに入っていた。そして葛城家にとって『大事な日』が近付いていた。

 それは、八月二十九日。この日は葛城兄妹がこの世に生を受けた日だった。これまでは互いに誕生日プレゼントを贈りあっていたが、今年はそれが難しくなってしまう。

 とはいえ、それは入学前から事前に説明があった事だった。生徒とその家族はそれに同意して入学している。当然、葛城もそこは承知していた。

 だがここで、誤算が生じる。それは校則が徹底的に定められている事だった。葛城は事情を話せば荷物一つくらいなら送れるだろうと考えていたが、それは甘い考えであった。

 一応学校の敷地内に郵便局はあるものの、それは学校関係者や教師が使う為にあるもの。オレたち生徒が郵便局の職員に頼み込んでも門前払いをされるだろう。最悪なのはそのまま学校に報告され、罰則を受ける事だ。あくまでも未遂な為『退学』とまでは行かないだろうが、プライベートポイントの減額で済めば御の字だろう。

 そこで葛城は次の一手を考えた。生徒に最も近しい立場の人間──つまり、生徒会に頼ろうと思ったのだ。だがその淡い希望も、生徒会長の堀北学(ほりきたまなぶ)によって一刀両断されてしまう。生徒会長は葛城の事情を聞き同情を寄せた上で、『ノー』という回答を叩き付けたのだ。

 

「──なるほどな。話は分かったぜ」

 

 話を最後まで聞いた須藤(すどう)は、両腕を組んでそう言った。

 葛城の相談を受けたオレが、強力な助っ人として彼をこの部屋に呼んだのだ。幸いにも部活動が終わる時間帯だったようで、彼はすぐに来てくれた。

 

「改めて紹介しよう。(けん)、こっちが葛城康平だ。Aクラスのリーダーの一人だと言えば分かるか?」

 

「おう、流石にそれくらいは知っているぜ」

 

「それで葛城、こいつが須藤健だ。詳しい紹介は欲しいか?」

 

「いや、不要だ。須藤の事は良くも悪くも知っている。だがしかし……まさかここまで変わるとは。率直に言って驚いている」

 

 二人は初顔合わせとなる為、必然的にオレが仲介役となる。だが、その必要は殆どないようだった。互いに必要最低限の情報は持合わせているようで、手間が省けた。

 

「それでよ、清隆(きよたか)。どうして俺を呼んだんだ?」

 

 考える事が苦手な須藤が、そうオレに尋ねてくる。基礎学力が堀北によって向上されつつある彼ではあるものの、基本的には頭よりも体が先に動くタイプなのは変わっていない。だが、それが悪いとは一概には言えない。今回の場合、須藤は持ち前の『直感』で自分がいくら考えても駄目だと判断したのだろう。

 

「こいつ……葛城の事情は分かったけどよ、俺に出来る事は殆どないと思うぜ。そりゃ、助けになりたいとは思うけどな」

 

 頭を捻りながら、須藤はそう言った。ここに呼ばれた理由を探している。

 そしてそれは、葛城も同じだった。

 

「来てくれた須藤には申し訳ないが、俺も彼と同意見だ。そろそろ彼を呼んだ理由を聞かせて欲しい」

 

 オレはそれに答える前に、一つ確認を取る。

 

「その前に、一つ確認させて欲しい。葛城、あんたの目的は妹に誕生日プレゼントを送り届ける事だよな」

 

「ああ、その通りだ」

 

 テーブルの上には、葛城が妹の為に用意された誕生日プレゼントが置かれていた。従業員に頼んだのだろう、綺麗にラッピングされている。

 

 オレはそれを見ながら、静かに問うた。

 

「その為に手段を選ばない覚悟はあるか?」

 

 そう言うと、葛城はオレの真意が分かったようだった。困惑の表情から脱却し、真剣な顔付きになる。

 

「それはつまり──校則を破れ、という事か?」

 

 肯定の頷きを返すと、葛城はますます厳しい表情を見せる。オレの今の発言が本気かどうかを疑っているのだろうが、オレは至って真面目だった。

 鋭い視線を寄越してくる彼の瞳をまっすぐ見詰めながら、オレはその結論に至った理由を話す。

 

「まず、あんたは数時間前に生徒会に向かった。最初の一手として、事情を話す事で理解を貰おうと思った」

 

「……そうだ。だが同情はされたものの、校則違反に当たるからと言われてしまった。『外部との連絡を一切禁じる』──この校則はこの学校が設立されてからある校則の一つ。とはいえ生徒会長の口振りでは、当初は今ほど厳しくはなかったようだがな」

 

 恐らく、発送する荷物の中に認められていない荷物などを入れてしまった生徒が居たのだろう。

 規則を破る者が居たのなら、当然、その規則が厳しくなるのは当然の事だ。

 

「次の一手として、あんたは恐らく『プライベートポイントでの対応』を求めた。違うか?」

 

「……その通りだ。この学校は実力至上主義──『ポイントで買えない物はない』と先生たちも公言している。俺は最後の手段としてそこに懸けた」

 

 生徒個人が所有している『プライベートポイント』の価値はとても高い。例えば、『暴力事件』の際、オレが審議会の延長に成功したように様々な用途に用いる事が可能だ。

 葛城はAクラス。毎月振り込まれるポイントはオレや須藤が所属しているDクラスと比べたら雲泥の差だろう。さらにはこの男の事だ、無駄な出費はせず半分は残している筈。

 だがその交渉も、上手くは行かなかった。

 

「プライベートポイントは万能ではないと、俺は生徒会長に言われてしまった。校則で決まっている事は簡単には捻じ曲げられない、とな」

 

 だがそれもおかしな話だろう。この学校に校則はあってないような物であり、様々な抜け道がある。恐らく、学校が意図してそのように作っているのだろう。

 兎にも角にも、葛城が考えた戦略はことごとくが失敗に終わった。そこでどうしようかと悩んでいたのだ。

 

「葛城、残された手はこれしかないと思うがな」

 

「だが綾小路(あやのこうじ)、それは……!」

 

「無論、もし学校にバレたら重たい罰則を受けるだろう。『退学』はないと信じたいが」

 

 冗談を言うも、それで笑いが生まれる事はなかった。もう少し勉強してからやろう。

 思い悩む、葛城。そんな彼に声を掛けたのはオレではなく須藤だった。

 

「まずは清隆の話を聞いてみようぜ。その上で決めれば良いだろ」

 

 その言葉は、停滞していた思考を前に進めたようだった。「そうだな」と頷くと、葛城は目で訴えオレに話を促す。

 オレがした質問の答えにはなっていないが、まあ、良しとするか。本音を言えばここで決断して殻を破って欲しかったが……──そう思いつつ、オレは口を開けた。

 

「正規方法は存在自体がない。施設職員に頼み込んでも駄目なら、オレたちの手で届けるしかないだろう」

 

「待ってくれないか、綾小路。無断外出しようものならそれこそ『退学』となるぞ」

 

「いや、その心配はない。ここに唯一(ゆいいつ)一人だけ、堂々と外に出る事が出来る人間が居る。そうだろう?」

 

 言いながら、オレは須藤を見た。自然と、葛城の目もそちらに釣られる。

 そしてその須藤はと言うと、オレが何を言いたいのか完全に理解したようだった。

 

「そうか、分かったぜ! 部活の大会だな!」

 

 大正解だ、とオレは頷いた。

 オレたちが居る場所はあくまでも『学校』だ。隔離施設の側面があるのは否定出来ないものの、日本政府が大きく関わっている立派な『高等学校』である。いくら校則が厳しくとも、部活動の活動までは制限が出来ない。

 

「作戦は至ってシンプルだ。ここにいる健が、バスケ部の大会中に上手いこと抜け出し、ポストに投函する。これしか方法はないと思う」

 

 オレがそう説明すると、葛城と須藤はそれぞれ異なる反応を示した。

 まずは葛城だが、こちらはオレのアバウト過ぎる作戦に対して懐疑的なものになっている。

 そして、この作戦の(かなめ)である須藤は不安な表情を浮かべていた。もし学校にバレたら、現行犯である彼が一番重たい罰を受けるだろう。さらにはこれまでの素行の悪さを考えれば、今度こそ弁明の余地はない。部活の強制退部で済めば御の字、最悪なのは言わずもがな『退学』だ。だがバスケットボールというスポーツでプロ選手になる事を夢見ている彼からすれば、どちらも等しく重たい罰となる。そうなる事を不安に思っているのだろう。

 

「健、思う所はあると思うがまずは聞かせて欲しい。当日の流れをなるべく詳細に教えてくれないか?」

 

 口を閉ざしている葛城の代わりに、オレが頼む。

 須藤は「あ、ああ」と頷くと、両腕を組んで真面目に考え出した。

 

「まず朝だが、バスに乗る前に簡単な荷物検査を行うな。それで、その時に携帯も没収される。その後は開催地に向かって、着いたらすぐに着替えて試合だな。飯はその日の状況によりけりだが、だいたいは大会が終わった後に現地で食べる事になっている。他に聞きたい事はあるか?」

 

「着替える場所や荷物の管理はどうなっている?」

 

「用意された更衣室の中だな。着替えの最中は流石に見張りはないけどよ、それ以外は監視の目がとても厳しいぜ。何せ、他校の奴らとはろくに話す事も出来ないからな。トイレもそうだが、俺たちだけ専用のスペースがあるな」

 

 外部との連絡を禁じる、を出来る限り行っている訳か。

 

「食事の持参は認められているのか?」

 

「ああ、認められているな。事前にポイントを払って弁当を頼むか、自分で弁当を用意するかのどっちかだ。少人数だが、弁当を持ってくる奴は居るぜ」

 

「それなら、持ち込む事自体は簡単だな。──葛城、入学した時に貰った弁当箱と水筒はあるか?」

 

 状況をシミュレーションしていたのか、返事がされるまでに少々時間が掛かった。再度葛城に声を掛けると、彼は言われるがまま首を縦に振る。

 そして腰を上げると、キッチン棚の中に仕舞われていた弁当箱と水筒を取り出した。

 

「プレゼントは弁当箱の中に、袋は丸めて水筒の中に入れれば良いだろう。あとはこれを何食わぬ顔で持って行けば良い」

 

「な、なるほど! 流石清隆だぜ!」

 

 須藤からの純粋な称賛を素直に受け取りつつ、葛城にどうだと視線で尋ねる。

 しかし須藤とは違い、彼の硬い表情が崩れる事はなかった。

 

「持ち込み方法はそれでいいかも知れない。いくら学校とは言え、流石に中身までは見ないだろう。だが、問題はまだ残っているぞ」

 

「確かにそうだよな。俺が上手く教師の目を掻い潜ったとして、どうやって送るんだ? それに現金もないぜ?」

 

「その通りだ。綾小路、これについてはどうするつもりだ?」

 

 オレたちが所持しているプライベートポイントは、あくまでも学校内でのみ使える物だ。敷地外に出た途端、たとえそれが100万prでも無価値となってしまう。

 

「着払いで送れば良い。伝票くらいなら敷地内でも貰えると思う」

 

 実際に貰った事はないので、不確定な要素になってしまうが。

 オレは二人を交互に見詰めながら言った。

 

「今話したのは、現実的ではあるがとてもリスクの伴うものだ。それを理解した上で実行するかどうかを決めてくれ」

 

 オレに出来るのはあくまでも作戦の立案のみ。この先は葛城と、何よりも実際に任務に就く須藤が決める事だ。

 沈黙を破ったのは、葛城だった。須藤に向き直ると、深々と頭を下げる。

 

「須藤、もしお前さえ良ければ引き受けてはくれないだろうか。俺のクラスメイトには、このような事は頼めない。是非お前の力を貸して欲しい」

 

 格上のAクラスが、格下のDクラスに頭を下げる。その事実に、須藤は衝撃を隠せないでいた。

 オレはそんな須藤に声を掛ける。

 

「これはデメリットばかりの話じゃないぞ、健。お前にも確かなメリットがある」

 

「……それは、どういう意味だ?」

 

「さっきも言ったが、この作戦は非常にリスクがある。お前が見事成功した暁には、葛城もそれ相応の『誠意』を見せてくれる筈だ」

 

 オレがそう言うと、葛城は顔を上げた。「それは俺も考えていた」と前置きした上で続ける。

 

「10万prを報酬として支払わせて欲しい。これが俺なりの『誠意』だ」

 

「なっ……!? 10万prだと!?」

 

「ああ、Aクラスの俺ならそれが可能だ。どうだろうか?」

 

 Dクラスのオレたちにとって、10万prという額はとても大きい。ただでさえ極貧生活を強いられているのだ、その生活にある程度慣れたとは言え、欲しいと思うのは何も変ではない。

 

「健、この前新しいバッシュが欲しいと言っていたよな。10万prあれば良い物が手に入れられるだろう」

 

 バッシュとは、バスケットシューズの事。本気でバスケットボールに打ち込んでいるからこそ、その消耗は早い。須藤が以前そのように嘆いていた事を、オレは記憶していた。

 須藤は暫く悩んでいた。両腕を組み、葛藤する。それから数分後、彼は覚悟を決めた眼差しでおもろむに口を開けた。

 

「──葛城、その作戦乗ったぜ。お前は妹の為、俺は俺の為に協力する。それで良いな」

 

「感謝する。お前のような実直な男が協力してくれると言うのなら、とても心強い」

 

 葛城は再度頭を下げると、「しかし」と須藤を意味深に見詰めた。

 

「失礼ながら須藤、俺が抱いていたお前の印象は『素行の悪い典型的な不良』だった。暴言に暴力は当たり前、授業にも不真面目。正しくDクラスに相応しいと思っていた」

 

「お、おう……中々言うじゃねえか。なあ清隆、こいつの事一発殴っても良いか? 良いよな?」

 

「だがこうして対面して、その印象は百八十度変わった。無論、良い意味でだ」

 

 そう言うと、葛城は須藤に右手を差し出した。握手を求められている、という事に須藤はすぐ気付く。

 本来なら葛城は敵であり、今回限りの協力となる。それ故に彼がこの握手に応じる必要は全くない。

 だが、須藤は迷いなくその手を取った。口角を上げ、笑みを見せる。

 

「作戦を詰めよう」

 

 オレの言葉に、二人は力強く頷き返した。

 作戦の成功率を少しでも上げる為、オレたちはすっかりと日が暮れている事も忘れて話し合った。葛城が堅実な意見を出し、須藤が大胆な意見を出し、そしてオレがそれを補完する。

 突発的に出来たこの三人組の相性は意外にも良いように感じられた。

 そして作戦の立案が終わる。時間は二十時を過ぎていた。明後日に大会を控えている須藤は身体のコンディションを整える為、早々に自室へと戻って行った。「今度三人で遊ぼうぜ」と言葉を残したのは、これもまた彼なりの『成長』を表しているのだろう。

 

「それじゃあ、オレもそろそろ行く。悪かったな葛城、結局長居する事になった」

 

 しかし腰を上げようとするオレを、葛城が制した。彼はどこか柔らかい表情を浮かべていた。

 

「綾小路、もし良ければお前にも『誠意』を見せたい。どうだろう」

 

「それは有難いが、良いのか……?」

 

「ああ、お前にこそ『誠意』を見せたいと思ったのだ。そうしなければ不誠実だろう」

 

 葛城は言葉を続ける。

 

「もし今日お前と話をしなければ、俺は本当に『終わった人間』だった。そう遠くないうちに『坂柳派』へ降伏していただろう」

 

「焚き付けておいて何だが、それも『正解』の一つだろう」

 

「そうだな、確かにその通りだ。だがその選択をしたら最後、俺はきっとこの学校で何も為せなかっただろう。恐らくはつまらない学校生活を送っていた筈だ」

 

 オレは黙って彼の話を傾聴した。

 

「今回の校則破りもそうだ。お前からこの案を出されるまで、俺は微塵も考えを持っていなかった。いや、頭の片隅では浮かんでいた。だがリスクが伴うからと無意識下で却下していたのだ」

 

 その言葉に嘘はないだろう。優秀なこの男の事だ、校則違反という案そのものが全く無かった訳ではなかった。だが生来の慎重さがその考えを切って捨てていた。

 

 ──そして、オレが葛城の相談に親身に乗ったのもここに理由がある。

 

 堀北学が率いる勢力に、オレと葛城は属する事になった。オレたちの目的はただ一つ、『南雲降ろし』だ。『敵』を『二年生全員』だと想定するなら、ただ勉学や運動が秀逸では通じない。ローリスク・ハイリターンではなく、ハイリスク・ハイリターンの戦略を取る必要がこれから出てくるだろう。その選択に迫られた時、一瞬の躊躇が命取りとなる。これは葛城康平の最大の弱点とも言えるだろう。

 だが今回葛城は、そのハイリスク・ハイリターンの戦略を選んだ。本音を言えば即決して欲しかったが、そこはこれからの『成長』に期待したい。逆に言えば、もしこれから葛城が『成長』しなければ坂柳有栖(さかやなぎありす)率いる『坂柳派』には未来永劫勝てないだろう。

 

「綾小路、お前には少額だが5万prを譲渡したい。微々たる額で不満はあるだろうが、どうだろうか?」

 

「不満なんてある筈もないさ。知っての通り、オレたちDクラスは極貧生活を送っているからな。5万prあれば暫くは生活に苦労しなさそうだ」

 

「そうか、分かった。すぐにでも渡したいところだが、それは明後日以降でも良いだろうか?」

 

「それで構わない。須藤の前にオレが貰うのは道理じゃないからな」

 

 葛城の『誠意』──すなわち、プライベートポイントの譲渡。須藤が作戦を成功した時、彼には葛城から10万prが支払われる。

 とはいえ、須藤が嘘を吐いて虚偽報告する可能性もある。その為にはどうにかして直接確認する必要があるが、オレと葛城は敷地内から出られない。

 その為、携帯端末でその瞬間を録画する事が作戦の一つとなっていた。しかし須藤の携帯端末は大会当日の朝に回収される為、別の携帯端末を用意する必要がある。オレや葛城のものでは足がつく可能性がある為、全くの部外者──第三者を巻き込む必要があった。その第三者もオレが推薦し、貸して貰えるよう交渉済みだ。

 葛城が録画を確認し次第、須藤とオレにはプライベートポイントが振り込まれるだろう。

 

「それにしても、驚いたな」

 

 今度こそ帰ろうと玄関で靴を履いていると、葛城がそう呟いた。何がだと視線で尋ねると、彼は感心したように言った。

 

「須藤の凄さにだ。彼の身体能力が高いのは知っていたが、まさか一年生で大会に同行するとはな。普通なら居残り組となるだろう」

 

 それは事実だった。何度も言うが、この学校は徹底的に外部との接触を禁じている。たとえ大会に出る仲間の応援という名目があったとしても、余程大きな大会でなければ許可は出ないと、須藤が以前教えてくれた。

 ただただ感心している葛城に、オレは面白半分でさらなる爆弾を投下してみる事にした。

 

「ちなみに明後日の大会、健はスタメンで出るそうだぞ」

 

 驚愕の表情を浮かべる葛城に「またな」と声を掛け、オレは部屋を出た。最後に良い表情を見れたと言えるだろう。

 一年生のこの時期にスタメン入りを果たした須藤健は、これで晴れてDクラスの『財産』となった。近い将来必ず、彼の実力が発揮される時が来るだろう。その時が来るのが待ち遠しいものだ。

 

 

 

§

 

 

 

 ──余談ではあるが。

 

 大会当日。須藤は試合で大暴れをしたと聞く。ダンクに続くダンクで会場を大きく沸かせ、チームの勝利に大きく貢献したそうだ。そして彼は大会と並行して、葛城からの任務を遂行してみせた。休憩時間に教師とチームメイトの目を掻い潜り、近くの郵便ポストまで爆走。その一部始終はしっかりと録画されており、ミッションをクリアしたのだ。

 とはいえ、実際に葛城の妹へ届いたのかは分からない。向こうからの返信は全て学校によってシャットアウトされてしまうからだ。それ故に、判明するのは卒業後となってしまう。だが葛城も、須藤も、そしてオレもそれが出来たと信じている。

 こうしてオレは今後、葛城康平と友人関係を築いていく事になったのだった。

 

読書の皆さんが思う、一学期の間に最も実力を示したDクラスの生徒は?

  • 綾小路清隆
  • 堀北鈴音
  • 平田洋介
  • 櫛田桔梗
  • 須藤健
  • 松下千秋
  • 王美雨
  • 池寛治
  • 山内春樹
  • 高円寺六助
  • 軽井沢恵
  • 佐倉愛里
  • 上記以外の生徒
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