間違い続けている『寄生虫』の独白
突然だが、私の懺悔を聞いて欲しい。
──
人生に於いて、人は望もうが望まないが『分岐点』に立つと思う。
一生が百年という長い年月にまで伸びてしまった現代の文明社会に於いて、その『分岐路』は一個や二個じゃない。
もちろん、個人差はあるだろう。だが『それ』は確かにあり、私たち人間はそれに直面する度に自分が進む道を選んでいる。
『それ』は、ゲームのように失敗したらリセットする事は出来ない決断だ。
そして決断するのは、当事者たる自分自身。
誰かに委ねることは決して
私はそれが、嫌で嫌で仕方がなかった。
星の数ほどある選択肢の中から『正解』を探し当てるのは容易なことではない。
私たちはいつも、より良い未来を夢想している。
そして、その責任を負えるのもまた、自分だけだ。それは罪を犯すようなものであり、自分だけが抱えられるもの。誰かに譲渡することも、誰かに負担を共有することも認められない。
そうして、私たちは今この瞬間を生きている。
私はそんな人生が、大嫌いだ。
私が『明確な間違い』を選んでしまったのは、中学生の時だった。
それまで順風満帆に楽しく中学校生活を送っていた私は、たった一度の『選択ミス』であっさりと転覆した。
今でも脳裏に焼き付いて離れない、当時の光景。
力無く項垂れて涙を流す私を見て
あの時の惨めさ、情けなさ、受けた屈辱は少し思考するだけで想起される。そして、光が見えない暗闇と絶望を決して忘れはしない。
私は次の『分岐路』で誤った道を選ばないよう、それだけを考えて最低で最悪な中学校時代を過ごした。
そして、私は高度育成高等学校へ入学を果たした。
私は過去の経験を活かし、入学して早速行動を起こした。
もちろん、これらは全て虚像であり本来の私からはかけ離れている。
私の過去を知っている人物が見たら抱腹絶倒ものだろう。
いつかボロが出て、私の正体が割れてしまうかもしれない。そう考えると、身体の震えがとまらなかった。だが私はそのリスクを承知の上で行動し、仮初の平穏を摑み取った。
そうして、私は今の私を確立した。学校の異質性には驚いたが、クラス闘争なんてものは私には関係のないことだと思っていた。Aクラスになれずとも普通の学校生活を送れればそれで良いと思っていた。
私は、安堵していた。これで私の生活を脅かす危険分子は無くなったのだと思い込み、愚かな私は過去の出来事をいつしか忘れていた。
否、忘れ去ろうとしていたのだ。記憶の彼方へ押し込み、過去を無かったことにしようとしていたのだ。
その代償を、私は払うこととなった。
『あの時』と同じだ。何も考えず楽して取った選択が、私を今苦しめている。
浅はかな私を嘲笑うかのように、現実を突き付けてくる。
『不良品』と呼ばれ、他クラスから蔑まれている私たちDクラス。
だがこの一学期で、皆、少しづつ『成長』している。あれだけ馬鹿にされていた三馬鹿トリオも、見違える程大きくなった。
だが、私はどうだろうか。
いつしか私は井の中に取り残され、誰も居なくなっていた。
私が今置かれている状況は『最悪』の一歩手前だ。
だがそれも、夏休みという時間があったからに過ぎない。
クルージングが終わり寮へ帰ってから、私は一度も部屋から出ていない。ここだけが唯一の逃げ場であり、一歩でも外に出れば最後、悪意が私を襲うと確信している為だ。
時間が解決すると淡い期待をしていたが、寧ろ、問題はますます深刻化していた。
だから私は、唯一の味方──否、『寄生先』に助けを乞うた。
その人物がこの問題を解決出来ると信じ、恥も外聞なく助けて欲しいと縋り付いた。
その人物は私を助ける代わりにある条件を提示してきた。
それは、とても簡単に達成出来る条件とは言えない条件。
だがしかし、私はその条件を呑めなかった。
差し出された救いの手を衝動に駆られるがままに払い除けた私は、愚者にも程があるだろう。
だが提示されたその条件は『最善な方法』ではあっても『最良の展開』を迎え入れられるかは分からないものだったのだ。
そのリスクが少しでもあるのなら、私はその選択を取れない。
なんて都合の良い考え。なんて自分勝手な人間なのだろうか、私は。
私はその人物に罵詈雑言を浴びせた。問題の本質を何も分かってないと、あらん限りに罵倒した。もっと上手く助けろと上から目線で詰りもした。
そうして、その人物との繋がりもなくなった。
というか、携帯端末の電源を切って音信不通にしているのが正しい。誰かからの着信を見る勇気すら、今の私にはない。
ただ、私が餓死で死なれては困るのだろう。食料だけは毎朝、日の出がない早朝、玄関前に置いてくれている。私は外に誰も居ないのを確認しながら、それを回収し一日を過ごす。
なんて惨めなんだろう。
なんて情けないんだろう。
唯一の拠り所すら自業自得で失ってしまった私は、ひとりで生きていけない弱い『寄生虫』そのものなのだ。
明日から、二学期が始まる。間違い続けている私に、『正解』が選べるとは到底思えない。
絶望が、すぐそこにまで近付いていた。