昼休憩が終わり、午後の時間となる。
そして午後の授業は二時間HRの時間として割り当てられていた。
恐らくこの時間を使って、二学期の説明を行うのだろう。
始業のベルが鳴ると同時、
「えー、諸君、改めて会うのは久し振りだな。今日から二学期が始まる訳だが、どうだ?」
そう言って、茶柱先生は池に話を振った。こういう時、
池は「そうですねー」と、少し間を置いてから自分の答えを口にする。
「まあ、頑張ります。今はまだ、それしか言えないです」
「頑張る、か。あまりにも抽象的で、具体性に欠ける。だが先を見据えた回答とも言えるな。ありがとう、池。お前の活躍を私は期待しよう」
「は、はい!」
元気よく返事をした池に、茶柱先生は薄く笑い掛けた。
この数ヶ月、『成長』したのは何も生徒だけじゃない。茶柱先生も生徒との向き合い方を模索しているのだろう。
「さて、今から二学期の説明を始める──と、言いたい所だが。諸君、掲示板は見たか?」
その質問に、クラスの半分を超える生徒がそれぞれ頷きを返した。
茶柱先生は「重要な事を掲示されている事が多い為、今回見ていなかった生徒は今後注意するように」と言うと、真剣な表情でこう言った。
「今日正式に、クラス変動が行われた。クラスポイントが逆転した為、BクラスがCクラスに。CクラスがBクラスとなる」
その発言の意味を、オレたち生徒は重く受け止める。
「正直な所、我々教師としてもこの事態は予想していなかった。だが結果として、Cクラスは上位クラスへの『下克上』を果たし、Bクラスへと成り上がった」
茶柱先生は言葉を続ける。
「今のクラス闘争はA、B、Cクラスの三つ巴となっている。私たちDクラスは
それは、客観的な事実。
教え子たちがその現実に顔を曇らせる中、担任は「だが」と言った。
「だが、だからこそ、私はお前たちが
教室が、少し、だが確かに震えた。
各々が闘志を燃やす中、茶柱先生は笑みを深めると話の本題に入る。
「二学期は九月から十月上旬までの約一ヶ月間、体育祭に向けて体育の時間が増える事となる。その為、新たな時間割表を配布する。もし紛失した場合は、学校のHPを見るように。PDFをダウンロードする事で印刷する事が可能だ」
その説明を聞きながら、オレは配られたプリントに目を通す。
説明通り、体育の授業が一学期よりも格段に増えている。その理由は、先生の台詞の中にあった『体育祭』にあると言う。
「この学校、『体育祭』なんてものが行事にあったんだな」
一人の男子生徒がプリントを見詰めながら、そんな呟きを落とした。他の生徒からも似たような感想が聞かれる。
オレはと言うと、聞き慣れない言葉に戸惑っていた。知識では知っているが、これまで育ってきた環境の弊害で無縁だった為だ。
体育祭──もしくは、運動会とも言えるだろう──は、学校・会社などで行われる運動競技の一種だ。
オレが知っているのは基礎的な知識のみであり、実際がどのような物かは分からない。百聞は一見にしかずとはまさに今のような状況を指すだろう。
「先生、これも『特別試験』の一つなんですか?」
女子生徒がそんな質問を口に出す。
その質問は生徒の誰もが疑問に思った事だろう。夏休みの間に行った『無人島試験』及び『干支試験』は記憶にまだ新しい。
当然、オレたち生徒はそう返ってくると予想していた。
しかし茶柱先生は意味深に笑うと、こう言った。
「特別試験、か。どう受け止めるのもお前たちの自由だ。とはいえ、先日の特別試験同様、この体育祭が各クラスに大きな影響を与えるのは間違いないだろう」
肯定とも否定とも取れる、どっちつかずの返答に生徒たちは困惑を隠せない。
そして一部の生徒からは悲鳴が上がった。オレの記憶が確かなら、運動があまり得意ではない生徒だ。自分の不得意な分野で戦うのだから、その反応は当然と言えるだろう。
だが中には、そうではない者も居る。
「よっしゃ!」
そうガッツポーズを作ったのは
他にも少数だが、歓声を上げる生徒がちらほら居た。
「それでは今から、体育祭の説明に入る。とはいえ、基本的にはそこのプリントに書かれている内容をそのまま読み上げるだけだ。質問は随時受け付ける」
オレたち生徒がプリントに目を落とすのを確認してから、茶柱先生は説明を開始した。
「まずだが、今年の体育祭は全学年を『紅白』の二つの組に分けて行う事が決められた。各学年のA、Dクラスが『赤組』。そして各学年のB、Cクラスが『白組』となる。つまり今回、私たちDクラスとAクラスは共闘する事となる」
これには生徒からどよめきの声が所々から出された。
これまでのクラス闘争及び特別試験に於いて、各クラスが協力する事がなかった訳ではない。しかしそれは、生徒の判断によるものだった。
だがしかし、今回の体育祭は学校によってそこを決められている。
「Aクラスか……俺たち、上手くやれんのか……?」
池が
どのようにAクラスと協力していくかが、今回の体育祭に於いては重要となるだろう。
しかし、Aクラスか。
オレは悟られない程度に隣人を見た。様子は普段と同じだが、その内心は違うんじゃないだろうか。
「まず先に、体育祭の結果が齎すものを伝えておく。各自、メモを取るなりするように」
そう言うと、茶柱先生はホワイトボードに文字を書いて言った。
・体育祭に於けるルール及び組分け
全学年を『赤組』と『白組』に分けて行われる対戦方式の大会。
A、Dクラスを『赤組』。B、Cクラスを『白組』とする。
・全員参加競技の点数配分(個人競技)
結果に応じて、一位十五点、二位十二点、三位十点、四位八点が組に与えられる。
五位以下は一点ずつ下がっていく。
団体戦の場合は勝利した組に五百点が与えられる。
・推薦参加競技の点数配分
結果に応じて一位五十点、二位三十点、三位十五点、四位十点が与えられる。
五位以下は二点ずつ下がっていく。
※最終競技のリレーは三倍の点数が与えられる。
・赤組対白組の結果が与える影響
全学年の総合点により勝敗を決める。
負けた組は全学年等しく100clのマイナスとなる。
・学年別順位が与える影響
各学年、総合点で一位を取ったクラスには50clが与えられる。
総合点で二位を取ったクラスはクラスポイントが変動しない。
総合点で三位を取ったクラスは50clのマイナス。
総合点で四位を取ったクラスは100clのマイナス。
簡単な話、全力で体育祭に臨めという事だろう。
しかし今回の試験結果は、その殆どがクラスポイントのマイナスに繋がるものになっているな。
良くも悪くもこれまでの特別試験は、ハイリスク・ハイリターンの側面があった。
「一番の理想は『赤組が勝って尚且つ学年別順位で一位を取る事』だ。そうすれば50clが与えられ、他クラスとの差を縮められるだろう」
そこで一人、挙手をする生徒が現れた。
その生徒は先生から指名を受けると、質問を行う。
「配られた資料と、今先生の口から語られた試験結果を察するに、私たち赤組が勝っても学年別順位で一位を取らないとクラスポイントは得られないという認識で間違いはありませんか?」
「その通りだ、
「ありがとうございます」
千秋はそう言うと、席に座り直した。
そんな千秋に、茶柱先生は「意外だな」と口にする。
「お前はこれまで、あまりこういった場では発言してこなかっただろう。それこそ私は池や平田、堀北あたりがまっさきに質問をしてくると思っていたのだがな」
「心境の変化があっただけです」
「心境の変化か、なるほどな。どちらにせよ、生徒の積極性が向上するのは大変喜ばしい事だ。お前の活躍にも期待しておこう」
そう茶柱先生が称賛すると、クラスの雰囲気が少し変わった。それは、最後列の席に居るオレだからこそ気付けた変化。
「一番最悪なパターンは言わずとも分かっているだろうが、『白組に負けて尚且つ学年別順位で最下位の四位を取る事』だ。この場合、200clが引かれる」
「うげっ、マジかよ! そうなったら俺たちの夏休みの努力が水の泡じゃんか!」
「その通りだ。Dクラスは現在235cl。今月からなんとか人並みの生活を送る事が出来始めた訳だが、結果によってはもう一度あの時の苦しみを味わう事となる」
茶柱先生の言葉に、殆どの生徒が呻いた。
だが、茶柱先生のそれは脅しではなく十分に起こり得る未来。負けを覚悟するとまではいかないが、どのような結果になろうとも揺らがない精神性の獲得は今後の課題と言える。
「次の説明に入る。今回の体育祭はクラスポイントがマイナスの対象になりやすいが、その代わり、優秀な成績を収めた個人にはボーナスが与えられる仕組みとなっている」
黒板で文字を消すと、茶柱先生は再び文字を書いた。
・個人競技報酬
各個人競技で一位を取った生徒には5000prの贈与もしくは筆記試験で三点に相当する点数を与える。なお、点数を選んだ場合、他者への譲渡は認めない。
各個人競技で二位を取った生徒には3000prの贈与もしくは筆記試験で二点に相当する点数を与える。なお、点数を選んだ場合、他者への譲渡は認めない。
各個人競技で三位を取った生徒には1000prの贈与もしくは筆記試験で一点に相当する点数を与える。なお、点数を選んだ場合、他者への譲渡は認めない。
・各個人競技で最下位を取った生徒には1000prのマイナスの罰が与えられる。尚、所持プライベートポイントが1000pr未満の場合は筆記試験でマイナス一点となる。
・反則事項について
各競技のルールを熟読の上遵守する事。違反した生徒は失格同様の扱いを受ける。
悪質な場合は退場処分とする可能性がある。それまでの獲得点数の剥奪も検討される。
・最優秀生徒報酬
全競技で最も高得点を得た生徒には10万prが贈与される。
・学年別最優秀生徒報酬
全競技で最も高得点を得た学年別生徒三名には各1万prが贈与される。
・全競技終了後、学年内で点数の集計を行う。下位十名にペナルティを科す。一年生の場合、次回の筆記試験に於いて十点の減点となる。
上手い話には裏がある、その事を体現しているルールだな。
この体育祭、運動神経や体力が優れている生徒が有利な一方で、その逆、つまり運動神経が悪く体力に自信がない生徒はとても不利なものになっている。
「先生、質問しても宜しいでしょうか?」
これまで沈黙していた堀北が、ついに口を開けた。
池や
「個人競技報酬についてですが、もし点数を選んだ場合、それはどのように活用する事が出来るのでしょうか?」
「自由だな。例えば堀北、お前が個人競技で一位になったとする。この場合お前には三点が与えられる訳だが、その振り分けは自由だ。一つの科目に三点振る事も出来るし、あるいは、三つの科目に一点ずつ振る事も出来る」
「なるほど、よく理解しました。続いて質問しても宜しいでしょうか?」
「許可する」
「『全競技終了後、学年内で点数の集計を行う。下位十名にペナルティを科す。一年生の場合、次回の筆記試験に置いて十点の減点となる』との事ですが、これはどのように適用されるのでしょうか。個人競技報酬のように、生徒が決める事が出来るのでしょうか?」
「いい質問だ。そして残念ながら、その質問には答えられない。誰が下位十名に入っているのか、そしてその適用方法は筆記試験説明時に通達する事となっている為だ」
「分かりました。答えて下さり、ありがとうございます」
そう言うと、堀北は広げていたノートに書き込みをしていく。そんな堀北に、茶柱先生はこんな言葉を投げ掛けた。
「だが堀北、お前の成績なら個人競技で上位を取る事はあっても、下位を取る事は事故でもなければまずないだろう。ましてや下位十名に入る事も殆どないだろう。筆記試験も同様だ。お前が赤点を取るような試験なら、このクラスの九割も落ちている。それが分からないお前ではあるまい。それなのに何故、今のような質問を私にした?」
「簡単な話です。まず一つ、確かに先生の言う通り私がそのような成績を残す事は殆どないでしょう。しかし、その可能性はゼロではありません。それなら、聞いておいて損はないでしょう」
「そうだな、お前の言う通りだ。だがお前の口振りでは、まだ理由がありそうだが?」
「それこそ簡単な話です。このクラスはまだ発展途上の段階。他クラスと戦えるだけの戦力はまだない。それなら、直面するであろう問題を浮き彫りにしておいた方が遥かに良いと判断しました」
堀北の返答に、茶柱先生は満足したようだった。
あまりにも迂遠な言い回しだった堀北の発言。それをそのまま受け止めるなら、堀北は弱者の事を見下していると見られるかもしれない。
だが、それは違う。堀北は弱者が迎える結末を敢えて聞く事により、その対策を練っているのだ。
クラスの事を視ようと心掛けている証拠だな。
「次に、お前たちが最も気になっているであろう競技種目について説明する。これまでの説明で薄々気が付いているかもしれないが、競技は二種類の分類に分けられる」
それが、『全員参加』と『推薦参加』の二つだ。
『全員参加』とはクラスの生徒全員が参加を強制されるもの。綱引きといった集団競技も含まれる。
『推薦参加』とはクラスから選抜された生徒が出るもの。クラスの合意があれば自薦でも構わないし、一人の生徒が複数の競技に出場する事も可能のようだ。この推薦競技には各クラスから選ばれた実力者が出場すると予想される。
「うげー、何だか頭がややこしくなってきたー!」
頭を抱える池。だが、それも仕方のない話だ。
点数の増減などは単純な勝ち負けによって決まる為単純明快だが、チーム戦と個人戦の複合型になっているのが厄介だ。
今回の敵は白組のB、Cクラスなのは間違いない。だがそちらに気を取られてAクラスへの警戒を怠ると、学年別の総合点で負ける可能性がある。
一番理想の『赤組が勝って尚且つ学年別順位で一位を取る』為には、Dクラスの生徒が各競技で上位に入る必要がある。
「これが、今年の種目競技のリストだ。しっかりと目を通せ。なお、変更は一切ない」
全員参加種目
①100メートル走
②ハードル競走
③棒倒し(男子限定)
④玉入れ(女子限定)
⑤網引き(男女別)
⑥障害物競走
⑦二人三脚
⑧騎馬戦
⑨200メートル走
推薦参加種目
⑩借り物競走
⑪四方綱引き
⑫男女混合二人三脚
⑬三学年合同1200メートルリレー
全十三種目の競技がラインアップされているな。
それがオレの感想だったが、他生徒からするとそうではなかったようだ。
「茶柱先生、これ、多くないですか? 一日で終わるとは思えませんが……」
そんな疑問を口にしたのは
茶柱先生は「まあ、気持ちは分かる」と同意してから、しかしこう言った。
「確かに多いが、よく見てみろ。応援合戦やダンス、組体操といった競技はないだろう?」
確かにないが、それがどう関係してくるのだろうか。オレが内心で首を傾げていると、茶柱先生はその理由を語った。
「この学校の体育祭はあくまでも、運動神経や体力を競い合うもの。家族も参観する事は出来ない為、時間の掛かる競技は軒並み排除されているという事だ」
腑に落ちたのか、幸村はそれ以上何も言わなかった。ただ、
「次の説明に入る。今から話す事は非常に重要な事の為、きちんと聞くように」
そう前置きすると、茶柱先生はA4サイズのプリントを一枚オレたちに見せた。
遠目からだと何か分からないが、どうやら、かなりの重要書類のようだ。
「これは『参加表』と呼ばれるものだ」
「『参加表』……? なんですか、それ?」
「字の如くそのままの意味だ。これには全種目の詳細が書かれており、お前たちにはこの紙に自分たちで各種目にどの順番で参加するかを決めて記入して貰う。記入後、期限までに担任の私まで提出して貰う手筈となっている」
その説明に、殆どの生徒が疑問の声を出した。困惑の表情を浮かべる教え子に、担任は「無理もないな」と理解を示す。
「お前たちは小学校、中学校と名称こそ違うかもしれないが体育祭と呼ばれるものに取り組んだ事があるだろう。だが恐らく、このような形は取っていなかった筈だ」
つまり、ここに居る全員が初めて取り組む課題という事か。
「先生、次は私が質問しても良いですか?」
「
「ありがとうございます」と桔梗は言うと、クラスメイトが思っている事を代弁する。
「自分たちで決めるって、茶柱先生は言いましたよね? これって、どこまでですか?」
「文字通り、全てだ。例えば、二人三脚。誰が誰と組み、何番目に走るのか。そう言った『調整』を全て行って貰う。私たち教師は求められたらアドバイスは出来るが、私を含めた殆どの先生は専門知識などない為あまり期待しないように」
それこそ本格的なアドバイスを貰おうと思ったなら、体育の授業で聞くしかないという事か。
しかし、『全て』となるとかなりの時間を費やす事になりそうだ。茶柱先生もそれは重々承知しているのか、補足説明に入る。
「『参加表』の提出期間は体育祭の一週間前から前日の午後五時までとする。この提出期間以降は如何なる理由があろうとも変更出来ないので、注意するように」
「質問です、先生。もし『参加表』を提出しなかった場合はどうなりますか?」
「その場合はランダムとなり、当日に発表される。当たり前だが、これもまた変更は出来ない。戦略の一手ではあるが、あまり推奨しないな」
この『参加表』はクラスの命綱となる事が予想される。取り扱いには留意する必要があるな。
オレがそのように考えていると、それまで黙って話を聞いていた須藤が挙手をした。
「俺からも質問があるぜ」
「何だ、言ってみろ」
「もし当日に風邪とか体調不良で出場出来ない奴が出たらどうなるんだ?」
「……驚いた。まさかお前からそのような質問が出てくるとはな」
質問の内容ではなく、その質問をしたのが須藤だという事に茶柱先生は驚いているようだった。
須藤は「そんな驚く事じゃねえよ」と言うと、その質問をするに至った経緯を話す。
「部活の大会だと、もしスタメンが欠席したらベンチメンバーが出る事になっている。提出期間を過ぎたら変更は無理だけどよ、この場合はどうなるんだ?」
「その場合は、二種類のパターンに分けられる。まず『全員参加』の場合は失格となる。百メートル走といった個人競技は言わずもがな、騎馬戦や二人三脚といった団体競技に於いても同様だ。その種目に求められる必要最低人数に足りなかった場合、失格扱いとなる」
例えば騎馬戦の場合、一つの騎馬が作れなくなる為数的不利に陥るだろう。二人三脚の場合に於いても同様で、組むパートナーが失格となってしまう。
個人競技なら責任は自分で負えるが、団体競技でやむを得ず欠席する場合は連帯責任となってしまう。そしてその分、個人で得られる得点にも限りがついてしまう。
「マジかよ……」
冷や汗を流す須藤。
そんな須藤に、茶柱先生は「だが、救済措置もある」と言った。
「今の説明は『全員参加』に該当する。だが、『推薦参加』はそうではない」
つまり、欠席者の代わりに出場出来るという事だ。
何故『推薦参加』だけ? と頭上にクエスチョンマークを浮かべる教え子に、担任はこう言った。
曰く、『推薦参加』は体育祭の花形に位置付けられている為特例で認められているらしい。
「とはいえ、代役を立てるに当たって、それなりの代償を払って貰う。極端な話、最初から欠席するつもりで『参加表』を記入する事も可能だからな。それでは戦略性など欠片もない後出しジャンケンとなってしまう」
「あー、確かにな。やるからには正々堂々とやらねえと、つまんねえもんな。それで、その代償は何なんだよ?」
「各競技につき10万prだ。高いと見るか安いと見るかは自由だが、このクラスの殆どの生徒は払えないだろう」
「当たり前ですよ!」と池が激しく首を縦に振る。
茶柱先生の言葉は何も間違ってない。だが中には、その代償を払える生徒が居る。
オレが知っているだけでも、二人居るからな。一人はオレ。もう一人は愛里だ。
「さて、私からの説明は以上だ。他に何か質問はあるか?」
そう言うと、茶柱先生は教室内をグルっと見回した。それを受けてか、数名の生徒がおずおずと挙手をする。
疑問を疑問のままにしない。オレたちDクラスが茶柱先生から以前言われた言葉だが、その教えはしっかりと根付いているな。
それからHRが終わるまで、質疑応答は続いた。時間を無駄にしなかった、これだけでもDクラスが以前のDクラスではないと評価出来るだろう。
「次のHRは第一体育館で行う事となっている。特別必要な物はないが、そこはお前たちの判断に任せる」
終業を告げるベルの音が響く中、茶柱先生がそう言った。
第一体育館となると、移動するのに数分の時間が必要となる。慌ててトイレに行く生徒が続出する中、ある女子生徒が当然の疑問を口にした。
「第一体育館で何をするんですか?」
「全学年の顔合わせだ。お前たちは今日初めて、上級生と面と向かって顔を合わせる事になる」
これはまた、一波乱ありそうだな。
千秋と合流しながら、オレはそんな事を思うのだった。