鋼鉄の魂   作:雑草弁士

106 / 108
『エピソード-092 撤退支援と言うよりは救出』

 いま一歩の位置まで『マンスフィールド劫火連隊』に迫っていた『第20ベンジャミン正規軍』は、それを阻止せんとする『SOTS』との戦闘により1/4強のバトルメックを撃破もしくは鹵獲された。『第20ベンジャミン正規軍』はやむなく、しかし整然と撤退を開始。キースは無理な追撃は控え、撤退する敵を見送った。

 戦闘はキース率いる『SOTS』が勝利したものの、全く損害が無かったわけではない。致命的な損傷は受けてはいないものの、矢面に立ったA、B、C大隊のバトルメックは相応に装甲板を削られている。たとえばC大隊に所属する第9中隊は偵察中隊としてほぼ中軽量級で構成されているため、真正面からの戦闘であった今回は損傷度合が大きい。今後の戦闘に参加させるのは不安が残る。

 

 そんな中、『マンスフィールド劫火連隊』からの通信がジャスティン大尉の指揮車両を介し、キースの機体に入る。キースは急ぎ応答した。

 

「こちら『SOTS』部隊司令、キース・ハワード大佐」

 

『こちらは『マンスフィールド劫火連隊』部隊司令、オーガスト・マンスフィールド大佐。ハワード大佐、見事な勝利、おめでとう。こちらも物見の兵を出していたんじゃがの。それからの報告でのう。

 いや、こちらもそろそろ負傷者を動かせそうじゃて。生き残っている偵察兵にも、撤退命令を出したわい。合流して、急ぎ降下船まで赴かんと』

 

「そうですね、マンスフィールド大佐。そちらから見て、南西に5km地点にある程度の広さの土地があります。そこで落ち合うのはいかがでしょう」

 

『うむ、それでこちらはかまわんとも。ではこちらは至急出立するとしよう』

 

 マンスフィールド大佐との通信を終えると、次にキースは『SOTS』の降下船と連絡を取る。彼はフォートレス級ディファイアント号に通信を接続した。

 

「ディファイアント号、応答せよ。こちら部隊司令、キース大佐。ディファイアント号……」

 

『こちらはディファイアント号船長、マンフレート中尉です』

 

「マンフレート船長、こちらはとりあえず1回戦目は勝つことができた。気圏戦闘機隊をそちらに帰したから、受け入れと補給、整備を頼む。特に(ダート)(エッジ)中隊の軽量級気圏戦闘機は、すぐに偵察に出すから大至急でな。

 それと、もう少しで『マンスフィールド劫火連隊』と合流できそうだ。そちらは『マンスフィールド劫火連隊』の降下船群と合流できたか?」

 

『気圏戦闘機の件は、了解です。『マンスフィールド劫火連隊』の降下船は、既に合流済みで、こちらのオーバーロード級フィアレス号とサンダーチャイルド号から推進剤を分けてやってます。恒星連邦に戻ったら、宇宙空間でタンカーから推進剤を買わないと……。

 あ、ちょっとリアム大尉がお話がある様なので、代わります』

 

 通信機のスピーカーから、回線を切り替えるかすかな雑音が流れ出る。そして恒星連邦の連絡士官、リアム大尉の声が聞こえて来た。

 

『大佐、こちらリアム大尉です。結局、ちょっと無理をする羽目になりましたな』

 

「そう言うな。と言うか、まだ無理は終わっていない。『第20ベンジャミン正規軍』は退(しりぞ)けたが、『第7アン・ティン軍団』は足止めを食らわせて回り道をさせただけで、健在なんだ。『マンスフィールド劫火連隊』のメックは脚部の駆動装置に致命打をくらってる機体も多く、足が遅い。……追いつかれる危険も高いんだ」

 

『……大佐。わたしには『SOTS』をできる限り無事に帰還させるという使命もあるんです。たしかにこの任務の依頼書を持ってきたのもわたしですが……。『上』の方では『マンスフィールド劫火連隊』も助けたいですが、『SOTS』をこの件で消耗させ、磨り潰してしまうのは絶対に避けろ、と』

 

「うむ……。リアム大尉も大変だな。無茶振りされて。だがここで『マンスフィールド劫火連隊』を犠牲にでもしようものならば、『SOTS』の名に傷が付く。それも致命的な、な。

 なに、偵察兵からの報告では『第7アン・ティン軍団』は『マンスフィールド劫火連隊』との戦いの傷が、まだ色濃く残っているとの事だ。こちらも今しがたの戦闘で傷を受けたが、致命傷は無い。……なんとかしてみせるさ」

 

『……了解です。くれぐれも、ご無事で』

 

 リアム大尉との通信を終えると、キースは『第20ベンジャミン正規軍』と『第7アン・ティン軍団』を追跡させている、第4、第5偵察兵分隊を降下船まで撤収させる事にする。今後は(ダート)(エッジ)中隊の軽量級気圏戦闘機による高高度偵察に切り替えるのだ。

 偵察兵による地上からの偵察の方が事細かに情報を得られるのは確かだ。だが少なくとも、キース達主戦力が降下船に帰還するよりも先に偵察兵を戻しておかねばならない。メック部隊や機甲部隊などが戻り次第、降下船群は即座に発進して惑星を撤退せねばならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 整然と並んだ、バトルメックの列が進む。それらには輸送用の網に包まれた、戦利品の損傷バトルメックが背負われていた。更にそれに追随して戦車の群れ、歩兵や捕虜を乗せたAPC(装甲兵員輸送車)、指揮車両や輸送車両、数台の機動病院車(MASH)が走行する。

 今現在、『SOTS』と『マンスフィールド劫火連隊』は合流を果たし、出せる全速で降下船の着陸地点まで急いでいた。もっとも『マンスフィールド劫火連隊』のメックは脚部の駆動装置がやられて速度が出せない機体も多い。これが『SOTS』のメックだけであれば、戦利品を捨てて速度を稼ぐという選択肢もあったのだが、この状況下ではその意味も無い。

 

 そんなさ中、キースのS型バンシーにマンスフィールド大佐のD型マローダーから、通信が入った。カーキ色をしたマンスフィールド大佐のD型マローダーは、あちこちに着弾痕は見受けられ損傷はあるものの、移動速度には問題は無い様子だ。

 

『ハワード大佐、敵の動きは今現在どうなっておるのかの?』

 

「気圏戦闘機による高高度偵察を行いました。それによると、『第20ベンジャミン正規軍』は前回の戦闘で受けた損害に耐えきれず、本拠地であるミストラ城に退却した模様です。一方の『第7アン・ティン軍団』ですが、あちらは執拗に我々を追跡していますね。

 ……残念ながら、あちらの足の方が速い。このままだと降下船に到着直前で追い付かれます」

 

『……対策は?』

 

「降下船群の着陸地点より前で、『SOTS』は足を止めて迎え撃ちます。既にその場所には、降下船に残してきた整備兵たちの手によって、地雷原を敷設中です。更にその場所には距離的に、『SOTS(ウチ)』のフォートレス級に装備されてるロングトムがぎりぎり届きますので。

 ですので『マンスフィールド劫火連隊』は、急ぎ降下船へ逃げ込んでくださ……」

 

 キースの言葉を遮り、マンスフィールド大佐が言った。

 

『いや、『マンスフィールド劫火連隊(こちら)』にも戦闘に耐えうるメックは、半数の2個中隊強は残されておる。それを一時的に、そちらの指揮下に入れよう。そちらと連携を取っての戦闘は難しいかもしれんが、遊撃の兵力としてなら役には立つじゃろうて』

 

「……了解です。先の戦闘で、こちらの部隊にも戦闘参加が厳しい機体がいくつも出たので、正直助かります」

 

『いやいや、助けられているのはこちらの方じゃて。しかも現在進行形でのう』

 

 そしてマンスフィールド大佐は、大きくため息を吐く。

 

『ふう……。言わんでおこうと何度も思ったのじゃが……。捕虜になった部下たちは……。やはり身代金交渉で取り戻すしか無いのう……。そやつらのバトルメックも……』

 

「……」

 

 悄然と語るマンスフィールド大佐の声に、キースはしかし黙するしか無かった。マンスフィールド大佐は知る由も無い事だが、あと1ヶ月半で第4次継承権戦争が始まる。それまでに身代金交渉がまとまらなければ、下手をすると長期に渡り、敵の捕虜になった者たちは帰って来ない事になる。

 だがその事をマンスフィールド大佐に言うわけにも行かない。それ以前に、まず『マンスフィールド劫火連隊』の残存部隊を、この惑星パリスⅡから無事撤退させなければならないのだが。キースは黙したまま、S型バンシーを走行させた。

 

 

 

 

 

 

 キース達『SOTS』の大半と、『マンスフィールド劫火連隊』のうちで戦える力が残っている2個中隊強は、峻険(しゅんけん)な地形に挟まれた荒野に布陣していた。ちなみに『SOTS』のうち、ダメージが大きい第9中隊とその他幾ばくかのメック1個小隊ほどが、本隊を離れて降下船へ先に移動している。

 なおマンスフィールド大佐のD型マローダーは移動力にこそ不安は無かったが、それでもけっこうな損傷を被っていた事と、現場で指揮権がキースにある事を鮮明にすべく、自身は降下船へと帰艦していた。その際に当然ながら、『マンスフィールド劫火連隊』の2個中隊強にはキースの命令に従う様に厳命を下していたが。

 

「さて、『マンスフィールド劫火連隊』アッシュベリー大尉、コープランド大尉。頼りにさせてもらうぞ。だが、あまり前には出ないで遊撃に専念してくれ。貴官らに無理をされて万が一大ダメージを食らわれでもしたら、助けに来た我々の面目が立たんからな、ククク」

 

『は、了解です。まあしかし、先に降下船に行った仲間たちを護るためです。あくまで必要な無理ならば、遠慮なしに命じていただきたいですな』

 

『こちらも了解です。ジム、あ、いえ、アッシュベリー大尉の事ですが、あちらの言う通りですね。自分たちも命を捨てる気は更々無いですが、必要な無茶ならやってみせますとも』

 

「……うむ。さて、お客さんがやって来たぞ。『SOTS』全機! 『マンスフィールド劫火連隊』全機! 奴らを降下船の方に通すな! だがまずは、奴らが即席の地雷原に差し掛かるまでは撃つなよ!」

 

 キースは全部隊に通達する。そしてキースのS型バンシー、『SOTS』に2機存在するオストスカウトのセンサーに、『第7アン・ティン軍団』の姿が捉えられた。キースは『SOTS』降下船群と、はるか後方に位置取りしたスナイパー砲車両、機動ロングトム砲に命じる。

 

「ディファイアント号ロングトム砲、アレクセイ曹長! BK-0311のNo.1980、No.1981、No.1982、No.1983に連続して撃ち込め! スナイパー砲車両、ボールドウィン軍曹はBK-0311のNo.2020、2021、2022、2023、2024、2025に連続して砲撃! 機動ロングトム砲サイモン大尉はBK-0311のNo.1901、No.1902、No.1903、No.1904だ!

 続いて気圏戦闘機隊! (アロー)(カバラ)(ダート)(フィアー)各隊は通常装備で出撃! (ビートル)中隊は先に指示していた通り爆装して出撃し、(エッジ)中隊はその護衛と先導に就け! 爆撃の目標は敵後方のスナイパー砲搭載車両群!」

 

『キース大佐! 敵先頭のおそらくは偵察小隊、K型ワスプ2機、K型フェニックスホーク2機が地雷原へ踏み込みました! 機体が軽量のため、あの周辺の地雷は起爆していません!』

 

 オストスカウトのノア少尉が報告を寄越す。キースは叫ぶように言う。

 

「最初の地雷が炸裂するか、間接砲の砲弾が落着するまで、まだ撃つな! ……よし!K型ウルバリーンとK型クルセイダーの足元で、地雷が起爆したぞ! A、B、C大隊は前進しつつ攻撃! 機甲部隊は遠距離兵器でその後ろより支援しろ! 降下猟兵隊はいつもの様に、エアメック形態で敵後方に飛んで、いやがらせ程度に攻撃をするんだ! 奴らを地雷原から出すな! 

 出番だぞ、『マンスフィールド劫火連隊』アッシュベリー大尉、コープランド大尉! 貴官らは自分の中隊を率いてアッシュベリー大尉は右翼、コープランド大尉は左翼に展開し、敵の側面を攻撃するんだ!」

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 ロングトム砲2門、スナイパー砲1門の、合計3門の間接砲撃が敵『第7アン・ティン軍団』後方のメックに降り注ぐ。地雷原と間接砲撃とに挟まれ、敵は動きが取れない。普通ならば間接砲撃手段があるならば、それを用いて地雷原を吹き飛ばすのが基本なのだが。

 

『こちら気圏戦闘機(ビートル)中隊、中隊長ヘルガ大尉。キース大佐、ご命令通り敵のスナイパー砲搭載車両を爆撃により撃破いたしました。機体は空荷になりましたので、護衛の(エッジ)中隊と共に通常の戦闘任務に復帰いたします』

 

「よくやってくれた、ヘルガ大尉!」

 

 ヘルガ大尉と(ビートル)中隊の活躍により、戦闘序盤で敵は間接砲を全て失った。その報告が行ったのだろう、『第7アン・ティン軍団』はK型アーチャー、通常型アーチャー、ウォーハンマー、マローダーなどの重量級の中でも重いメックを前に出し、地雷原を突破せんと前進する。

 

「思い切りが良いな……。だがそう簡単に、突破されるわけにもいかんのでな! マイク大尉!! 地上掃射!」

 

『了解っす! (ビートル)中隊! (カバラ)中隊! BK-0311のNo.0366から2時方向に地上掃射!』

 

 多くは言わなくとも、阿吽の呼吸でキースの意図を悟った気圏戦闘機隊隊長のマイク大尉は、絶妙な位置取りで(ビートル)(カバラ)の2個気圏戦闘機中隊に地上掃射の指示を出す。この芸当は、最初期の小隊規模時代から『SOTS』に参加していた、一部隊員でなくば不可能だ。

 そして濃密な地上掃射により、地雷原を突破せんとしていた数多くの重量級メックが倒れ伏し、あるいは擱座する。しかし代償として、濃密な対空射撃により(ビートル)中隊機、(カバラ)中隊機も多くがダメージを負った。

 

『ビートル3、4、5、6! カバラ1、2、3、4! 気圏戦闘機隊隊長の権限で離脱と降下船への帰還を命じるっす! カバラ5とカバラ6は、現状ビートル1の指揮下に入って戦闘継続っすよ!』

 

『『『『『『了解!』』』』』』

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!

 

 次々に降り注ぐ間接砲の砲弾と、多数の気圏戦闘機の支援、後方の機甲部隊よりの遠距離射撃と、即席で若干の薄さは否めないが充分役立っている地雷原により、『第7アン・ティン軍団』は大打撃を負う。しかしながら『SOTS』側も最前線で敵の攻撃を抑えきっているB大隊、ヒューバート少佐の大隊がかなりのダメージを受けていた。

 

 ここでキースは、連隊指揮中隊の投入を決める。

 

「連隊指揮中隊、前進!」

 

『『『『『『了解!!』』』』』』

 

 連隊指揮中隊は、かつて精鋭であるA大隊の中でも最精鋭であった、言わば中隊規模としては『SOTS』の最大戦力だ。ことにその指揮小隊は、全てが強襲メックで構成されており、メック戦士も人類限界の技量を持つ者たちばかりで、信じがたい打撃力を誇っている。

 

 そしてしばし後、連隊指揮中隊の攻撃力を見た『第7アン・ティン軍団』の司令官は、『マンスフィールド劫火連隊』の撃滅を断念した模様。最後方を抑えていた降下猟兵隊の攻撃を突っ切り、全部隊を離脱させる。

 最終的な敵の損害は30機弱、連隊の1/4にも上った。しかし『SOTS』にも相応のダメージはあり、A大隊から1名、B大隊からは2名、C大隊から1名の合計4人のメック戦士が機体脱出に追い込まれ、その他にも1機のメックが脚を折られ、2機が腕を吹き飛ばされている。まあ破壊された機体が無かったのは幸いであったが。

 幸いと言うならば、遊撃にあたっていた『マンスフィールド劫火連隊』の部隊は大きな損害は無く、悪くてもかなり装甲が削れただけで済んでいる。キースとしては『SOTS』の損害が致命的ではなく、助けるべき対象である『マンスフィールド劫火連隊』残存部隊も無事であった事で、安堵したと言うものであった。

 

 

 

 

 

 

 連盟標準時3028年7月11日、恒星連邦はマーケサン星系の天の北極、ゼニス点のジャンプポイントで、キース達『SOTS』と『マンスフィールド劫火連隊』の降下船は、恒星連邦のタンカー型降下船から推進剤を購入し、降下船のタンクを満たしていた。この星系に来たのは、恒星連邦の連絡士官であるリアム大尉の指示である。

 

「キース大佐、今回は本当にご苦労様でした」

 

「いや、リアム大尉。惑星マーケサンに降下し、そこで今回の捕虜と戦利品を当局に引き渡すまではまだ注意が必要だろう?」

 

「それはそうですがね。ですがここまで来れば、任務は達成できたと言ってもよろしいでしょう」

 

「まあそうだがな。しかし『百里を行くものは九十を半ばとす』という言葉もある。ドラコ連合はスパイや工作員による破壊工作にも長けているからな」

 

「慎重ですな」

 

 キースとリアム大尉は笑いあう。ちなみに今回の捕虜と戦利品は、空荷で連れて来ていたユニオン級ミンドロ号と、多数が捕虜になってしまい空き船になってしまった『マンスフィールド劫火連隊』の降下船に詰め込んである。

 

「しかし、『マンスフィールド劫火連隊』の捕虜たちや鹵獲されたメックは、上手くドラコ連合から取り返せるかな」

 

「大丈夫でしょう。こちらも『第20ベンジャミン正規軍』『第7アン・ティン軍団』からの捕虜と鹵獲メックが大量にあるんです。しかもけっこうな偉いさんのメック戦士がその中に居ましたからね。

 身代金の額としては、恒星連邦(こっち)側がかなり優位かも知れませんよ。ちょっと交渉に時間はかかるかも知れませんが」

 

(その『ちょっと』が、『ちょっと』じゃ済まない事になるかも知れないんだよなあ……。あと1ヶ月と半分、8月20日だったよなあ……。第4次継承権戦争勃発、かあ。口に出すわけにはいかないからなあ……。ああ、ストレス溜まる)

 

 第4次継承権戦争が勃発してしまえば、ドラコ連合との交渉事は難しくなるだろう。下手をすれば、戦争終結まで捕虜交換の交渉は行われない可能性もある。いや戦時中でも交渉が行われる可能性は残っているが。

 しかしマンスフィールド大佐には申し訳ないが、この件はキースがどうこうできる話では無い。キースにできる事は、既に彼らを救出した事で終わっている。いや本来は撤退支援だったはずなのだが、結局救出してしまった事になるのだが。まあ成り行き上、やり過ぎになるのは仕方のない事であったが。

 

「ああ、もうすぐ航宙艦からの切り離し時刻だな。わたしはアーダルベルト艦長のところに切り離しの挨拶に行って来るよ」

 

「ご苦労様です、キース大佐」

 

 キースはリアム大尉と別れ、マーチャント級航宙艦クレメント号とのドッキングハッチへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 3日後の7月14日、『SOTS』降下船群は『マンスフィールド劫火連隊』降下船群と共に、惑星マーケサンへと降下。そこの軍港で当局に、捕虜と戦利品を引き渡した。更に戦闘で消耗した弾薬や装甲板の補充を受け取る。

 その上で、今回の依頼の報酬を受け取る。今回の報酬は、一部はDHビル、一部はCビルだが、一部はメックや気圏戦闘機の部品で物納の形であった。資金は部隊の銀行口座に振り込まれるが、メック部品などはこの惑星上の恒星連邦正規軍備蓄から抜き出して引き渡されるのだ。

 

 ちなみに『マンスフィールド劫火連隊』はこの惑星で休暇を取り、補充と再編成の予定である。別れの挨拶に出向いてきたマンスフィールド大佐は、言ったものだ。

 

「ハワード大佐、いやキース卿サオルジャン伯爵閣下。はっはっは、お人が悪いですぞ。伯爵閣下だったとは……。いや今まで色々とぞんざいな口を利いてしまい、申し訳なかったですな。

 いや、伯爵閣下の叙爵はニュースネットで放映されていたのでしたな。知らなかったのはこちらの不覚でしたかの」

 

「ああ、いやあまり気にしないでいい。こちらは結局のところ、成り上がり者だからな」

 

「そう言っていただけると、ありがたいですな。はっはっは。……伯爵閣下、此度の事は本当にありがとうございました。お陰様で、部隊の半分強とは言えどあの惑星から脱出する事が叶いました。あとは残る捕虜になった部隊員とメックを、身代金交渉で取り戻すことができれば……」

 

 

 真顔になったマンスフィールド大佐に、キースはこちらも真顔で語る。

 

「ああ。きっとなんとかなる。ただ、できるだけ交渉は急いでもらった方がいいかも知れない。あまりはっきりした事は分からないんだが、何かしら不穏な気配がある。何か事件でも起きれば、交渉が後回しにされて長引く可能性もあるからな」

 

「む……。ご忠告、ありがたく」

 

「それではわたしは、この辺でお開きにしようか、マンスフィールド大佐。また何時か、肩を並べて戦えるといいな」

 

「はっ。ありがとうございます。その日が来たら、必ずやご恩返しいたします」

 

 そしてキースは、マンスフィールド大佐と別れた。

 

 翌日の7月15日、『SOTS』は契約満了の上で惑星マーケサンを離れ、惑星タワスⅣへの帰還の途に就く。ちなみにリアム大尉はマーケサンで何がしかの指示を受け取ったらしく、『SOTS』の降下船、もっと言えばフォートレス級ディファイアント号に同乗して、タワスⅣまでついて来る事になった。




 続編、投稿いたしました。比較的あっさり目な感じで、今回の任務は成功裏に終わりました。まあ、細かい描写はしませんでしたが、多少の損害は『SOTS』側にも出ているのですがね。4人が機体脱出、1人が機体の脚折られて、2人が機体の腕吹き飛ばされて。手駆動装置とか下腿駆動装置とか放熱器とかやられた機体なら、もっと多くいますし。
 でもって、第4次継承権戦争まであと1ヶ月強。来る戦争で、キースと『SOTS』はいったいどの様に動くのか。乞うご期待です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。