鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『プロローグ-4 旅立ち』

 3025年6月、キースはメック戦士養成校『ロビンソン戦闘士官学校』を優秀な成績で卒業した。だが彼は何処のメック部隊にも入らなかった。何処かのメック部隊に入る伝手は、親友のジョナスの部隊しか無かったからである。本来であればそれでも良かったのだが、ジョナスの部隊は現在後方惑星の守備に就いている。それでは駄目なのだ。彼にはやらねばならない事がある。そう、『アルヘナ光輝隊』司令官トマス・スターリングとその一党への復讐だ。

 だが実際に復讐をする前に、キースには会っておきたい人物がいた。そのため、彼はアンティータムという恒星連邦の南十字星境界域に存在する、いわゆる後方惑星にやってきたのである。会いたい人物がこの惑星で入院生活をしていたのだ。

 キースは商用降下船にて惑星アンティータムの首都トールヒルにやって来ると、宇宙港から乗合バスで中央病院まで向かう。あらかじめ、向かう先に連絡は入れてあった。トールヒル中央病院に到着すると、彼は入院患者の病棟へ向かう。行き先は複数の患者が入る、6人部屋だった。他の入院患者には眠っている者もいる。キースはそう言った者たちを起こさないように、そっと部屋に入った。

 目的の人物は、窓際のベッドに横たわっていた。キースはその人物に話しかける。

 

「こんにちは、ひさしぶりだな。調子はどうだい、軍曹。」

「軍曹はよしてください、キース坊ちゃん。もう引退した身です。この手と足じゃ……。」

 

 その人物、元『BMCOS』の偵察兵ライナー・ファーベルクは、苦笑しつつ左腕を上げた。その左腕は、上腕部で断ち切られ、金属フレームの光る義手になっていた。見ると、彼の右脚も太腿から金属フレームの義足になっている。そう、彼が『BMCOS』唯一の生存者の偵察兵であったのだ。腕と脚を失っただけでなく、その大怪我のせいで身体を壊し、入院しての療養が必要になったのだ。

 ライナーは悲しそうに続ける。

 

「この手と足じゃ、偵察兵としては死んだも同じですから、ね。」

「そうか……。動力付きの人工義肢なんて、手に入らないか、手に入っても馬鹿高いからなあ……。」

「あ、キース坊ちゃんなんて言って失礼しましたね。もう士官学校出たんでしたよね。だったらキース少尉様だ。」

「あ、いや。俺も部隊に入ったわけじゃないから、少尉になる資格は持ってても、まだ少尉じゃあないよ。……『BMCOS』が健在だったら、今頃新任少尉だったんだけど、な。」

 

 2人は一気に暗くなる。だがどうにか気を取り直し、再び会話を始めた。

 

「ライナー、言いづらい事かもしれないが、どうか教えてくれないか。もし知っていたら、で良いんだが、父さんと母さんの……最期を。」

「……わかりました。ただ、お母上の方は私はわかりません。申し訳ありません。ですが、お父上の方は……ウォルト・ハワード大尉の方は知っています。」

「!」

 

 キースは目を見開いた。ライナーはひとつひとつ、思い出す様に語る。

 

「ハワード大尉の着弾観測員としての技量は、あのタンクレディⅡの防衛戦で……本当に頼りになる物でした。大尉の誘導に従って撃てば、目標地点へ必ず着弾したもんです。砲兵の方も腕が並じゃありませんでしたがね。なんせ、あのサイモンさんの仕込みでしたから、砲兵は。

 だけど、あの休戦時間のときに……。敵の特殊部隊が基地に潜入してきたんです。大隊長のマルティム・グース少佐が、メック戦士の中で真っ先に殺されました。メック戦士の中でって言うのは、メック戦士以外の歩兵や非戦闘員のコックなんかが、それより先に殺されてたんですよ。敵は殺したそいつらの服を奪って変装してたんです。

 グース少佐が真っ先に殺されたことで、指揮系統は寸断されました。第2中隊中隊長のモリス・パーシー大尉も次に狙われて殺されて、ハワード大尉が最後に残った高級士官でした。ハワード大尉も無論狙われました。おそらく情報が漏れてたんでしょう。的確に指揮官を真っ先に狙ってたんですから。でもハワード大尉への最初の襲撃は、私が防いだんです。コックに化けて食事を運んできた様に見せた刺客を射殺して、ね。」

 

 そこまで言ったところで、ライナーの目が厳しさを増す。

 

「でも、『アルヘナ光輝隊』のやつらが裏切って攻撃をかけてきたんです。ハワード大尉はメックに急いで乗ろうとしました。その時、見慣れない助手整備兵がいまして、私からはちょうど撃てない角度でして……。その助整兵は、やっぱり敵の変装でした。ハワード大尉は撃たれて、乗り込みかけたメックから落下したんです。

 ハワード大尉の最後の命令は、『チェックメイト騎士団』と恒星連邦に『アルヘナ光輝隊』の裏切りと、自分たちの壊滅を伝えろ、と言うものでした。傷の具合から、もう助からないのはわかってました。ハワード大尉は、手榴弾を1個置いていけ、と言って……。そして襲い来る敵の特殊部隊員の何人かを道連れにして、私を逃がすために自爆したんです。

 すいませんでした。私は結局ハワード大尉を助けることが……できなかったッ!」

「……自分を責めちゃだめだ。ライナーはよくやったよ。腕や脚を失ってまで、君が通報してくれなかったら、タンクレディⅡは敵の手に落ちていた。君があの惑星を守ったと言っても、過言じゃあない。

 それに……。責めるべき奴は他にいるさ。ライナーの代わりに、俺がそいつらに必ずいつか、思い知らせてやる。」

 

 ライナーは泣いていた。その肩を叩きながら、キースは諭す様に言葉を紡ぐ。

 と、そのときである。何か荷物をどさっと床に落とす音が聞こえた。

 

「ぼ、坊ちゃん?もしかしてキース坊ちゃんですか?うわあ、昔から大きい子でしたけど、なんてまあ立派な体格になったもんですなあ。うわ、わしよりも頭一つでかい。わしも身長には自信があったんですがの。」

「あ、サイモンさん!」

「サイモン爺さん!?」

 

 そこに居たのは、かつてキースの父、ウォルト・ハワードの郎党として整備兵兼間接砲撃手をやっていた、サイモン・グリーンウッド老人であった。彼は老齢になったため、傭兵部隊『BMCOS』を引退、家督を息子に譲って楽隠居し、今では後方の惑星で悠々自適の生活を送っているはずだった。その後方の惑星と言うのが、この惑星アンティータムだったのである。ライナーが療養先にこの惑星を選んだのも、後方の比較的安全な惑星という以外に、同じ部隊に所属していた知り合いがいるからであった。

 キースとサイモン老は、旧交をあたためる。キースが『ロビンソン戦闘士官学校』に入学して以来4年間、時折写真などは送っていたものの、直接会う事は無かったのだ。まあ、旧交をあたためると言っても、ほとんどサイモン老が喋り、キースはそれに相槌を打ったり、士官学校でのことを尋ねられて答えたりするばかりだったが。

 そこへライナーが口を挟む。

 

「サイモンさん、あんたにはキース坊ちゃんが来ることは言ってあったろ?なんであんなに驚いたんだい?」

「いや、わしの記憶にある坊ちゃんは12歳の頃の坊ちゃんでしたからなあ。あの頃はまだ、わしよりも小さかったし。それでも並の子供よりもずっとずっと大きかったですがの。」

「ははは、ちょっと大きくなり過ぎた気もするけどな。おかげで『ロビンソン戦闘士官学校』の授業で、学校の備品のスティンガーに乗る時なんか、身体がつっかえて大変だったぞ。」

 

 キースの身長は、いまや2mを超える。体つきも筋肉ムキムキのマッチョマンだ。メック戦士と言うより、ボディビルダーとでも言った方が似合う。しかも恐ろしいことに、未だ成長期が終わっていないのだ。もう少し身長が伸びたら、20tクラスの軽量級メックには……特に操縦席が狭いことで知られるスティンガーには、おそらく身体がつっかえて乗ることはできなくなるだろう。彼はしみじみと思う。

 

(俺の乗機が、55tのグリフィンで良かった。本当に良かった。父さん、グリフィンを予備機にしておいてくれて、本当にありがとう。)

「……坊ちゃん?」

「あ、ああ何だいサイモン爺さん?」

 

 怪訝そうな顔のサイモン老に、キースは気を取り直して要件を尋ねる。サイモン老は、急に真面目な顔になると、ずばり斬り込んで来た。

 

「……坊ちゃん、これからどうするおつもりかの?『ロビンソン戦闘士官学校』を良い成績で出たと言うことであらば、ジョナス殿の推薦でもあらば何処か恒星連邦正規軍のメック部隊に入ることも、難しくはあれども不可能ではありますまい。それとも何処か傭兵部隊にでも入るおつもりですかの?」

「サイモン爺さん……。俺は……。俺は何処かのメック部隊に入るつもりは、今のところ無い。」

 

 固い口調で、キースは返事を返す。

 

「ジョナスが、恒星連邦の諜報部員が調べた情報を、こっそり流してくれたんだ。『アルヘナ光輝隊』の面々は今、ドラコ連合の正規軍に分散して編入されているらしい。恒星連邦とドラコ連合の境界付近にある、ゲイルダン軍管区って場所にいる部隊にだ。だがそれがどの部隊なのかは、はっきりしていない。ジョナスが触れられる情報ではそこまで見られないのか、はたまた恒星連邦の諜報部でも調べがついていないのかはわからないが。」

「坊ちゃん……。」

「だから俺は、何処かの部隊に入って、その部隊の配備先に縛られるわけにはいかないんだ。俺はとりあえずフリーの傭兵として活動したいと思っている。できるならば恒星連邦がスポンサーとなっている、奴らが襲ってきそうなドラコ境界域の惑星での任務か、はたまた逆に奴らが守っていそうなゲイルダン軍管区の惑星に襲撃をかける任務を選びたい。

 そう……。俺は、元『アルヘナ光輝隊』の奴らや、そいつらに引き入れられたドラコ連合の特殊部隊、それに元『アルヘナ光輝隊』司令官のトマス・スターリング!そいつらを叩き潰して、可能ならば父さんのエクスターミネーター、デスサイズを取り戻したいんだよ!」

 

 最後の方は、キースは吼える様に激白していた。そこで今まで黙って聞いていた、寝台上のライナーが口を開く。

 

「坊ちゃん、だがフリーの傭兵ってのは大変ですよ?よほど運が良くなけりゃ、メックの維持もできなくなる可能性も大きいんです。仇を討ちたい気持ちは痛いほどわかるんですがね。

 ここは運を天に任せるくらいの気持ちで、ドラコ境界域に駐屯してる傭兵部隊に入隊志願してみたらどうですか?ドラコ境界域にいれば、奴らが襲撃してくる可能性もゼロじゃあないでしょう?」

「無論、それも考えたさ。でも、もう少し確実性が欲しい。奴らに関する情報がもう少し集まるまでは、何処かのメック部隊に縛られるのは避けたいんだ。」

 

 キースの意志が固いのを理解したのか、ライナーはため息をついた。そこへサイモン老が言葉を発する。

 

「……坊ちゃん。お願いがあります。」

「え?何だいサイモン爺さん?」

「わしも坊ちゃんに付いて行かせてください。」

 

 サイモン老の言葉に、キースは驚く。サイモン老は、既に引退した身だ。それが現役復帰すると言うのである。キースはサイモン老を止めようとする。

 

「サイモン爺さん、無茶はだめだ。サイモン爺さんは隠居の身だろう?降下船の離着陸や大気圏突入時のGはきつい。サイモン爺さんの歳では身体に毒だ。」

「なに、わしはこれでも身体を随分鍛えております。大丈夫ですわな。それに隠居の身だなどと言ってはおれません。主家の跡取りである坊ちゃんの一大事ですからの。

 それに……。わしの一族は皆、この年寄りよりも先に逝ってしまいました。後を任せたはずの跡取り息子も、その家族も、孫もみんな奴らに殺されてしまいましたわい。奴らを討ちたいのは、坊ちゃんだけではないんです。

 それに幸いわしは整備兵。坊ちゃんのグリフィンの面倒を見ることもできます。ちょっと己惚れてもいいなら、腕もそんじょそこらの若僧には負けません。わしがグリフィンを見れば、メックの維持も少しは楽になるでしょう。間接的にわしの手でウォルト様やニコラ様、息子フォルカス、その嫁のエリノル、孫のマシューやエイミー、他にも部隊の仲間達の仇も討てると言うものですわ。」

 

 その台詞で、キースはサイモン老もまた仇持ちの身だという事を思い出した。今までその事に気付かなかったことを、キースは恥じる。

 

「すまない、サイモン爺さん。サイモン爺さんも、仇を討ちたかったんだよな。なのに俺は……。」

「ストップです、坊ちゃん。で、どうです?わしを連れてってくれますかな?」

「……わかった。一緒に行こう、サイモン爺さん。そして奴らを必ず追い詰めて討ち取ってやるんだ。」

「本当は私も行きたいところなんですがね。この身体じゃあ手助けになるどころか足手まといです。……皆の仇、かならず討ってください。吉報、待ってます。」

 

 ライナーが頭を下げる。キースとサイモン老は力強く頷いた。

 

 

 

 サイモン老が惑星を出る法的手続きを終えた頃、キースとサイモン老は商用降下船にキースのグリフィンを貨物扱いで積み込み、惑星アンティータムを出立した。ライナーも特別に病院の外出許可を貰って、見送りにやって来てくれた。

 2人の行く先は、『傭兵たちの星』の別名で知られる、ライラ共和国の惑星ガラテアである。そこにはコムスターが開設した、MRB(Mercenary Review Board)と言う、傭兵と雇用主との間の仲介組織が存在するのだ。無論、手数料は取られるが。彼らはそこで、恒星連邦がスポンサーになっている、ドラコ境界域もしくはゲイルダン軍管区における作戦の仕事を探すつもりなのだ。

 降下船が凄まじい噴射炎を吐いて、ゆっくりと宇宙港を離床して行く。キースとサイモン老の長い旅が、今始まったのだ。




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