『エピソード-001 小隊結成』
ここは『傭兵たちの星』惑星ガラテアの、首都ガラテアシティ。宇宙港ガラポートを北部に持つ都市でもある。3025年7月、キースとサイモン老は、この都市にあるコムスターのオフィスにやって来ていた。本当は傭兵に対し仕事を斡旋するMRBのオフィスに先に行こうかとも思っていたのだが、もしかしたら自分たち宛てに誰かからメッセージが来ている可能性があったのだ。
サイモン老は、恒星連邦とライラ共和国の2国の政府高官に対し、非常に強力なコネクションをいくつも持っている。そう言った権力者たちに、自分たちの復讐相手に対する情報収集を依頼していたのだ。もっとも、けっこうな賄賂が必要になったのだが。だがキースは親友ジョナスの政治工作により、傭兵部隊『BMCOS』の遺産を受け継いでいたため、かなり懐に余裕があったので、一寸財布に痛かったのは確かだが、賄賂を賄うことができた。
果たして、コムスターオフィスで侍僧が操作する端末を覗き込んでいたサイモン老が、キースに声をかける。
「坊ちゃん、わしの伝手から連絡が来てました。……送り主の名前を出すのは、余人のいるここじゃあちょっと。」
「わかった、サイモン爺さん。だったら何処がいいかな。ホテルの部屋でいいか。」
2人は自分たちが宿泊している安宿へと戻る。そこに取っている部屋で、サイモン老は口を開いた。
「さて、これが送られてきたメッセージのプリントアウトですわ。ダヴィオン情報部の、かなり上の方にいる、ジョナサン・フォード伯爵が送ってくれた情報です。裏切った『アルヘナ光輝隊』についての補足情報ですな。」
「……続けてくれ。」
「はい。『アルヘナ光輝隊』は、タンクレディⅡに赴任する直前に、1人のメック戦士を新たに雇用してます。それでそのメック戦士なんですが……。名前はコンラート・エルレンマイヤー。ですがそれは偽名で、本名は……おそらく、の但し書き付きですが、ハリー・ヤマシタ。ドラコ連合のスパイだったらしいんですな。」
ドラコ連合のスパイが、タンクレディⅡに送り込まれる傭兵部隊に潜入していた。そしてその部隊は戦場で裏切りを働いた。何か関係があるのは間違いないだろう。
「なるほど、他には?」
「いえ、これだけですな。ただ、当人の静止画像がメッセージに添付されて送られてきました。こちらがそのハードコピーです。」
「……こいつが。言わばこいつも仇の1人だってことか。……サイモン爺さん、酒場に行ってみよう。」
「坊ちゃんはまだ、飲酒年齢に達してなかったんでは?」
まあ、とてもそうは見えないが。キースは身長2mを超え、筋肉ムキムキのマッチョマンで、30歳以上に見える老け顔だ。実年齢は16歳でしかないのであるが。
「そうじゃないよ、わかってるんだろう?メック戦士の集まるような酒場に行って、噂話を集めるんだ。ここは噂に聞く『傭兵たちの星』だ。あちこちから、傭兵たちが集まっている。雲をつかむような話だが、もしかしたら雲を掴めるかもしれん。」
「そうですな。では行ってみますかの。」
フランツの酒場と言う名のその店では、メック戦士たちが軍歌をがなり立て、陽気に、あるいは陰気に酒を飲んでいた。キースはサイモン老と共に、この店のカウンターに座る。だがとりあえず、彼はサイモン老に任せることにする。理由は、彼は情報収集の経験が無かったからである。サイモン老は一度隠居する前の、傭兵部隊『BMCOS』での現役時代において、少なからずその手の経験があった。
「バーテンさんや、わしにはお勧めの酒を一杯、坊ちゃんにはトマトジュースをたのむわ。」
サイモン老は酒代には多めの金額をカウンターに置く。初老のバーテンダーは、キースの顔を見ると怪訝そうな顔をしたが、注文通りの品を出す。サイモン老はバーテンダーと世間話をしながら、ある程度打ち解けたところで話を切り出した。
「……ところでな、バーテンのおいちゃん。この写真の男について、何か知らんかの?」
「む?……私は知らんが。だが多少で良ければ、知ってるやつを知ってる。」
「ほほう?」
「ほら、あっちの奥まった所にあるテーブルで飲んだり食ったりしてる4人組。あいつらも、この男によく似た男の写真を持って来て、似たようなこと聞いてたな。何も知らんと言うと、がっかりしてたが。
あんたらが情報交換してやれば、あいつらも喜ぶんじゃないかね?」
サイモン老とキースはバーテンダーに礼を言うと奥のテーブルへ向かう。そしてそのテーブルにいる、陰気に飲んだり、やけ気味に食ったりしている男1人、女3人の組み合わせに声をかけた。
「あー、ちょっといいですかの?」
「……なんだよ、うるせーな。」
「ちょっとアンドリュー!すいません、今こいつ虫の居所が悪くて……。アンドリュー!あんた飲み過ぎよ!
あー、で、何でしょうか、お爺さん。」
サイモン老は、懐から写真を取り出す。
「あんたらが、この男についてなんか調べとるって聞いたもんでな。お互いの情報を交換でもせんか、と思って来たんだけどものう。」
「……!アイラ!キャスリン!アンドリュー!この写真!」
「え?あ、ああっ!?」
「こ、こいつ間違いない!」
「あ?なんだってんだよ……。」
「アンドリュー!あんた水でも飲んで、少し酔いを醒ましなさいな!ほら!」
その4人組は、大騒ぎになった。サイモン老は気長に彼らが落ち着くのを待っている。その一方で、キースは呆然と彼らの様子を眺めていた。
やがて彼らも落ち着いて話ができる状態になる。
「さ、先ほどはどうも見苦しい所をお見せしまして……。」
「あ、す、すまねえ……。で、あんたらこのリカルド……メック戦士リカルド・アゴスティについて何を知ってるんだ!?」
「アンドリュー!あんた先走り過ぎ!まずは挨拶と自己紹介からよ!」
「あ、す、すまねえ……。お、俺はメック戦士アンドリュー・ホーエンハイム。こっちは俺の郎党の偵察兵、アイラ・ジェンキンスだ。」
「あたしはメック戦士エリーザ・ファーバー。こちらが郎党の整備兵で医者の、キャスリン・バークレーです。」
キースとサイモン老は顔を見合わせて頷くと、キースが前に出て挨拶をする。
「……俺はメック戦士キース・ハワード。着弾観測員もやってる。こちらは俺の郎党で、サイモン・グリーンウッド。俺が信頼する凄腕の整備兵にして、凄腕の砲兵だ。」
「え!?サイモン・グリーンウッド!?あの知る人ぞ知る!?伝説の整備兵!?砲兵もやってるって言うからには間違いない!?」
そう言ったのは、偵察兵と紹介されたアイラと言う少女だった。まあ少女と言っても、もう酒が飲める年齢なのだが。キースはしみじみと考える。
(……そうか。恒星連邦と、ここライラ共和国じゃあ、飲酒年齢が違うんだったな。)
「え?アイラ、知ってるの?」
「私が知ってて、なんで整備兵のあんたが知らないのよキャスリン!?」
「い、いえ私はどちらかと言えば、看護兵上がりの医者だから……。整備の勉強もしてるけど、そっちはそれほどの腕じゃないし。」
「あんたら、いい加減にしなさい。話を本題に戻していいかしら。」
どうやら、今喋ったエリーザという女性メック戦士が、この一行のまとめ役らしい。どうやら気苦労が多そうだ。彼女の台詞に、キースとサイモン老は頷く。
「こちらの事情から話をするわね。この写真の男、リカルド・アゴスティは、卑劣な裏切り者なのよ。ライラ共和国に雇われてたとき、こいつが内部の警備情報を敵に洩らしたために、あたしたちの傭兵中隊は駐屯してた基地を特殊部隊に爆破されたの。そのことは戦闘後に明らかになったんだけどね。
そしてそのことがばれる前の戦闘で、そいつのフェニックスホークが、マーカス中隊長のアーチャーを背中から撃って……。アーチャーは弾薬に火が回って爆散して、指揮系統が潰されたあたしたちは潰走した。逃げきれずに、部隊の大半がやられちゃったけどね。残ったのはあたしのウォーハンマーとアンドリューのライフルマンだけ。立ち直れなくなった『アーロン突撃中隊』は、部隊解散。
あたしとアンドリューは、それでも我慢できなくって、リカルドの馬鹿を追いかけてるってわけ。やつを殺して、マーカス・アーロン隊長他戦場で討たれたメック戦士達、それに爆破された基地にいたあたしたちの家族の仇を取るんだって……。」
「すまん、ちょっと良いか?」
そう言って割り込んできたのは、隣のテーブルにいた青年だった。その表情は厳しい。
「……なんですか?貴方は?」
「い、いやすまない。聞くともなしに聞こえてしまったんだ。ただその話が、あまりにも俺たちの事情に似ていたんでな。」
「似ていた?」
「ああ、そっくりだ。裏切り者の手引きで基地が爆破される下りも、裏切り者のフェニックスホークに味方の隊長が背中から撃たれるところも、まったく同じだったんだ。こっちは4年前の話だがな。
……ああ、失礼。俺はネイサン・ノーランド、偵察兵だ。そっちのテーブルで潰れてるのが、俺の主のメック戦士、マテュー・ドゥンケルだ。」
青年は頭を下げながら自己紹介する。そして4人組――キースたちを入れれば6人になる――のテーブルの上に置かれている写真にちらりと目を遣った。その目が、鷹の目の様になる。
「……やっぱりアヒム・デーメルか。」
「な!?リカルド・アゴスティじゃないのか!?」
「俺たちの部隊を潰したときは、アヒム・デーメルと名乗っていた。あ……いかん、起きてくださいマテューさま!手がかりらしきものに出会えましたよ!」
「あ?うん?な、なんだって!?」
マテューというメック戦士の青年も、なんとか目を覚ます。そして彼らは互いに身の上を話し合った。
「なんて奴だ……。こうなると、他にも同じ目にあった奴がいそうだな。」
「けど、そうなるとリカルドもアヒムも、本名じゃない可能性が高いわね。」
アンドリューとエリーザが眉を顰めながら言う。そこへキースが再度話に加わった。
「その通りだ。今のところわかってる最新の偽名はコンラート・エルレンマイヤー。で、だ。本名は、確定情報じゃあないんだが、ハリー・ヤマシタと言うらしい。……ドラコ連合のスパイらしいんだよ。」
「「「「「「な、なんだってーーー!!!」」」」」」
キースとサイモン老は、自分たちの事情と分かっている情報を洗いざらい話した。
「……と、言うわけだ。ヤマシタの奴は元『アルヘナ光輝隊』になんらかの工作を行って裏切らせた可能性が高い。ただ、もしかしたらこれがスパイとしての最後の仕事かもな。完全な想像だが。」
「なんでだ?」
「ああ、なるほどな。あんたらの伝手で調べられるほど奴がスパイだってことが知れ渡ったなら、スパイとしての価値は無くなるわけか。となると、スパイから別の職業に転身してるかもな。たとえば、メック部隊の指揮官とか。あるいは今までの経験を活かして、現場に出なくても済む、スパイたちの元締めとか。」
偵察兵ネイサンが、キースの推察を補足する。それを聞き、同じ偵察兵のアイラが悔しそうに言った。
「じゃあどうしたら奴を補足できるのよ。下手をすればもうドラコ連合の領域から出てこない可能性もあるわけじゃないの。」
「……元『アルヘナ光輝隊』のメンバーは、今はドラコ連合のゲイルダン軍管区にいるんだったわね。なら奴もそこにいるかも……。それに賭けるしかないわね。」
エリーザが、何かを覚悟したかの様に言葉を紡いだ。アンドリューが彼女に尋ねる。
「どうするつもりだ?」
「あたしたちがガラテアに来たのは情報集めの意味が大きかったけど、仕事探しの意味もあったでしょ?メックの維持費も大変なんだから、そろそろ仕事をしないといけなかったし。だからゲイルダン軍管区に対する襲撃任務か、あるいはそこと隣接している恒星連邦のドラコ境界域での防衛任務かを受けるのよ。そうすれば、運が良ければ奴と出会えるわ。
ねえ、貴方たちも一口かまない?特にキースとサイモンさんは、奴だけが仇じゃないんだから、あたしたちの助けがあれば楽になるはずでしょ?あたしたちも、貴方の助けがあれば事が楽になるって、この勘がピピっと言ってるのよ!」
キースとサイモン老は顔を見合わせた。キースはできるならば、部隊に縛られないで活動をする予定だった。傭兵部隊に縛られてしまっては、自分の望む戦場に行き難くなるからであり、はては仇と出会うことが難しくなるからだ。だが逆に、彼1人であっては仇と出会った際に、勝つことは難しいだろう。その点、アンドリューやエリーザたちであれば、目的の大部分は重なることになる。1人では勝てない相手にも、なんとか勝利することが叶うかもしれない。彼らは頷く。
「よし、一緒にやろう!」
「あ、私も一緒にやらせてくれ!」
キースの返事に被せるように、青年メック戦士マテューも慌てて言う。彼は更に言葉を付け加えた。
「あ、それと私の知り合いの航空兵……気圏戦闘機パイロットが2名、仕事が見つからなくて腐ってたんだ。彼らにも声をかけてみよう。航空部隊を備えた航空小隊なら、仕事は見つけやすいはずだ。」
「それはいいな。ところで降下船の航法士が2名、なんとか見つからないかな?いや、こちらの伝手で中古だが、充分に現役のレパード級降下船が手に入ることになっているんだ。その他に必要な機関士2名は、なんとかサイモン爺さんのおかげで捕まえたんだがね。」
キースはにやりと笑って言う。彼は傭兵大隊『BMCOS』の資産を、親友ジョナスの伝手で受け継ぐことに成功している。その資産の大半は、『アルヘナ光輝隊』の裏切りの際に失われてしまったのだが、既に金を払い終えて届くのを待っていた、注文済みの資産が幾つか星系外に残されていたのだ。小隊規模の部隊を運ぶレパード級降下船と、スナイパー間接砲1門、それに幾ばくかの分析装置類やジープなどと、バトルメックの補修部品である。それが届く先をキースとサイモン老は、惑星タンクレディⅡから惑星ガラテアに変更してもらったのだ。
マテューは首を捻って言った。
「うーん、引退した航空兵が、なんとか捕まるかもしれない。さっき言った航空兵の繋がりで、そいつらの師匠にお願いできるかも。……いや、「かも」じゃなくて、なんとかしてみよう。」
「あ、そうだ!『アーロン突撃中隊』と専属契約をしてたマーチャント級航宙艦!アーダルベルト艦長たちも『アーロン突撃中隊』の壊滅と解散には、がっかりしてたって言うか、怒ってたからさ!だから上手くすれば手伝ってもらえるかもしれないぜ!?話の持っていき様ではさ!」
アンドリューが叫ぶ様に……と言うか、叫んだ。そして彼は話を続ける。
「んじゃあ、このメック戦士4人と、今話に出てた航空兵2名で1個メック小隊になるわけだな!んじゃあ隊長を決めないとな!」
「なによ、あんたがやるって言うんじゃないでしょうね。駄目よ?あんたもあたし同様、指揮官教育は受けてないでしょうが。」
「お、俺がやるなんて言ってないだろ!?えーと、キース、マテュー、あんたらはどうだ?」
エリーザの言葉に、アンドリューは引き攣った顔になりつつ、キースとマテューの方に顔を向けた。キースとマテューは顔を見合わせる。
「一応俺は恒星連邦の『ロビンソン戦闘士官学校』を、この6月に出たばかりだが……。」
「私も恒星連邦の『サハラ士官学校』を6月に……。ああ、でもキースの方がいいだろうね、隊長は。私は士官学校でも、指揮官よりは参謀役に向いてるって言われてたから。
それに見た目、一番年上っぽいしね、キースが。」
マテューの言葉を聞いた瞬間、キースは崩れ落ちる。うずくまったその姿は、熊か牛が丸まってるみたいであった。急に落ち込んだキースに、マテューは慌てる。他の皆も、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
「な、何か悪いこと言ったかね、私?き、キース?」
「あー、皆さん……。」
そこへサイモン老が口を挟んだ。
「坊ちゃんは、こう見えてもまだ16歳なんですな、これが本当に。」
「「「「「「え……ええ~~~っ!?」」」」」」
「嘘だろ!?」
「30過ぎにしか見えない!」
「じょ、冗談ですよね!?」
「あー、坊ちゃん、内心で老け顔を気にしてるから、あまり触れないでやってくれませんかのう?」
周囲の皆は絶句する。これがキース率いる傭兵小隊『鋼鉄の魂(Soul Of The Steel:略称SOTS)』の始まりだった。
主人公は、なんとかかんとか協力者を得て、メック小隊を編制しました。彼が小隊長です。今後どうなっていくのでしょうか。ご期待ください!