鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-002 初任務開始』

 2mを超える筋骨隆々たる体躯の人物が、数名のやや小柄な――大抵の人類は、彼の前では小柄な部類に入ってしまうのだが――男女の前で挨拶していた。

 

「俺が傭兵小隊『SOTS』の隊長、キース・ハワード中尉だ。これからよろしく頼む。できるならば、長い付き合いにしたいと思うし、そうなるよう努力するつもりだ。諸君らも、同様に努力して欲しい。」

「……つまりは、戦死するな、って事ですな。了解です。」

 

 キースに応えたのは、レパード級降下船ヴァリアント号船長に就任した初老の男、カイル・カークランド少尉だ。かつては歴戦の航空兵であり、気圏戦闘機を甥に譲り渡して引退後は、悠々自適に暮らしていた。だが最近はその暮らしが退屈になり、また戦場に出たいと思うようになっていたらしい。

 ちなみに現役時代は少尉よりも階級は高かったのだが、今回隊長のキースが中尉――小隊長は普通中尉である――であるため、それより下の階級に就くことをあっさりと承知してくれた。この事情は、隣に並んでいる副長のイングヴェ・ルーセンベリ准尉も同じである。なお船長は少尉の階級であるが、降下船に乗船中はキャプテン……大尉と同じ発音で呼ばれることになる。

 

「あ、そういう意味だったのか。」

「こら!聞こえるわよ!静かにしてなさいマイク!」

 

 この2人は、気圏戦闘機のパイロットたる航空兵、マイク・ドーアティ少尉とジョアナ・キャラハン少尉である。彼らはカイル船長やイングヴェ副長の弟子にあたるらしい。その後ろには、彼と彼女の郎党である整備兵……航空機関士の、ジェレミー・ゲイル伍長とパメラ・ポネット伍長が、やれやれと言う表情で自分たちの主人を眺め遣っていた。

 この他にも本当なら、降下船専属の機関士であるナイジェル・グローヴァー伍長やメアリー・オールビー伍長がいるのだが、その2人はここにはいない。彼らは昨日のうちにキースに挨拶を済ませ、今日は既にヴァリアント号のチェック作業に入っているのだ。今日これから、カイル船長たちにヴァリアント号を飛ばしてもらい、本格的出発の前に多少船に慣れてもらわねばならないのである。

 

「済まないな、カイル船長、イングヴェ副長。本当はもっと長く船に慣れるための時間を取りたかったんだが……。恒星連邦との契約では、目的地までの行き帰り分の推進剤は支給してくれるとあったんだが、なにぶん新しい船員たちが船に慣れるための練習用の推進剤まで出せ、とは言えない。だから自前で推進剤を買ったんだが、資金があまり無くてな……。そんなに大量には買えなかったんだ、推進剤。」

「気にせんでください隊長。この型の船は、一応現役の航空兵時代に経験があります。本職の航法士が負傷で船を操れませんでな、気圏戦闘機のパイロットであった私が緊急と言うことでレパード級降下船を扱ったことがあったんですよ。」

「その時の助手も私でしてね。ですからレパード級の扱いは、一応わかってますよ。」

「そう言ってくれると、気持ちが楽になるよ。さて……。」

 

 キースは船長、副長の方から、今度は2人の航空兵の方へ向き直る。

 

「マイク少尉、ジョアナ少尉、それからジェレミー伍長、パメラ伍長。4人はこれからシミュレーターでの演習とその補佐に就いてもらう。マイク少尉とジョアナ少尉の腕前や連携がどれくらいの物か、実感しておかなければならないからな。これも推進剤や演習場の関係で実機演習ができんので、シミュレーターで済まないが。……そのシミュレーターも、1時間いくらとかでの借り物なんだがな。

 なおそのシミュレーターでの演習には、地上戦闘のステージでは本小隊のメック部隊も参加する。」

「地上戦闘のバトルメック支援以外にも、ステージがあるんすか?隊長。」

「ああ、マイク少尉。敵気圏戦闘機隊がうじゃうじゃ湧いて出る中での、味方降下船の地上降下を支援するステージもある。……もっとも、敵はコンピューターのプログラムで動いてるだけだから、本物のパイロットが乗った敵機には遠く及ばない。慣れたつもりになって、油断はしないようにな。」

「うげ……。」

「マイク!まったく……。マイクがすいません、隊長。」

 

 緊張感の無い航空兵に、キースは苦笑する。だが、硬くなってガチガチになるよりはいいか、とも思う。実際、その後のシミュレーター演習では2人はそれなりの技量と連携を示した。バトルメックとの連携も、即席にしては良い方であったと思われる。

 その日から数えて2日後、彼らはレパード級降下船ヴァリアント号で惑星ガラテアを離れ、ジャンプポイントへと向かった。

 

 

 

 そして6日後、彼らはジャンプポイントに到着、マーチャント級航宙艦クレメント号とドッキングし、目的の星系まで運んでもらった。超空間によるジャンプはほんの一瞬で完了する。さすがに惑星ガラテアと今回の目的の惑星は遠すぎるため、何度かジャンプを繰り返さねばならなかったが、途中の星系に設置されている航宙艦再充電のための補給ステーションのおかげで、それほど航宙に時間はかからなかった。

 キースはクレメント号の艦長であるアーダルベルト・ディックハウト達と、任務前の挨拶をしていた。

 

「アーダルベルト艦長、クヌート副長、長距離の旅、ありがとう。我々はこれから惑星カサイに降下します。」

「語尾が「します」になっとるよ。君が隊長なのだから、もっと偉そうにしないといかんよ。……我々はここのジャンプポイントで待ってるからな。必ず帰ってくるんだよ。」

「気を付けるよ、ありがとう艦長。我々の任務は略奪物資の奪還だからね。敵本隊が味方の本隊とやりあってる間に、こっそりと敵の基地に忍び寄って防衛している少数部隊を排除し、略奪された物資を運んでとっとと逃げ出すだけの任務だよ。カサイは味方の惑星だし、制空権を取られたという話は聞かないからね。降下は問題ないだろう。

 ……まあ、油断だけはしないつもりだが、ね。では行ってくるよ、艦長。」

 

 そう言うとキースは、部隊員たちが待機している第1降下待機室に向かう。そこから彼らはクレメント号に接続されている降下船ヴァリアント号に移乗し、惑星カサイへ向けて数日間の旅路に入るのだ。

 

 

 

 ヴァリアント号の船室で、キースは部隊員たちと共にブリーフィングを行っていた。

 

「……という事で、今回の作戦は敵の小規模な後方基地に対する強襲降下作戦だ。各々のバトルメックを降下殻に収納し、大気圏外から目標地点へ直接突入する。既に皆のメックは降下殻の着装が完了している。大気圏突入時、制動ジェットの燃料を、無駄に使うんじゃないぞ。自分の命がかかってるからな。ただしケチり過ぎて、速度を充分に落とさずに地表に突っ込むことの無いように。

 そして、そこで重要なのが、マイク少尉とジョアナ少尉の気圏戦闘機隊だ。大気圏突入直前のバトルメックはまったくの無防備だ。俺たちの命は君らと君らのライトニング戦闘機にかかっている。頼んだぞ。」

「「はい!」」

 

 ライフルマンに乗るアンドリュー軍曹が、小さな声で呟く。

 

「……キースは、いやキース隊長は、さすがに指揮官教育しっかり受けてきただけあるなあ。年齢のこと言われてがっくりと崩れ落ちた奴と同一人物だって、とても思えねえ。」

「こらこら、聞こえるよ。今はブリーフィング中だよ。」

 

 ウルバリーンを駆る副隊長、マテュー少尉がこれも小声で窘めた。ウォーハンマーのエリーザ軍曹も、うんうんと頷いている。果たしてどちらの台詞に頷いたのかは、さだかではない。まあ、彼女は真面目だからマテュー少尉の言葉に頷いたのだと思うが。

 キースは続ける。

 

「強襲降下後、メック部隊は基地を制圧し、敵に奪われた希少な物資を奪還する。

 ヴァリアント号は、バトルメック射出後わずかに遅れて突入軌道を取り、メック部隊から50km離れた地点へ着陸する。ここにはレパード級降下船が着陸可能な地形が存在するのは、事前情報でわかっているから安心してくれ。ヴァリアント号は、偵察・整備兵分隊を下船させた後、メック部隊の支援を終わらせた気圏戦闘機隊を回収し、味方の基地へ撤退。そこで気圏戦闘機隊と共に俺たちの帰りを待ってもらう。

 偵察・整備兵分隊は車輛で移動、メック部隊と合流してもらうことになる。メック部隊は奪還した物資の輸送で移動力が著しく低下するはずなので、メック部隊の撤退路の先行偵察を行ってもらうことになるだろう。メック部隊が味方の勢力圏までたどり着けば、任務は完了だ。質問はあるか?」

「ヴァリアント号は、奪還物資の輸送には使わないんですか?」

 

 エリーザ軍曹が質問を発した。キースはちょっとだけ情けなさそうな顔になるが、それは一瞬だけですぐに元の顔に戻る。

 

「バトルメックと気圏戦闘機については、装甲版と弾薬の補充は無償で行ってくれるし、その他の部品が損傷した場合でも、正規の値段で正規軍の備蓄部品を売ってくれるそうだ。その他の装備に関しても、たとえばジープやスナイパー砲搭載の車輛が損傷した場合、代替品を支給してくれることになっている。だが……。

 だが降下船は、戦闘に参加させて損傷した場合、何の補償もされないんだ。だから万が一の事を考えると、さっさと撤退させなくてはならない。」

「納得です……。」

 

 誰も異議を唱えなかった。降下船は馬鹿高いのだ。傭兵大隊『BMCOS』の遺産と言う形でなければ、絶対に手に入らなかっただろう。万が一失われたりしたら、今回の仕事が大赤字、などと言う言葉で表せる物ではない。

 世知辛かった。

 

「あー、奪われた物資って、何なんすか?」

「すまんがそれは、「need to know」だ。本当は俺にも教えてくれないはずだったのだが、持ち帰る物資を間違えては話にならんと説得した。だが部隊員たちにも教えるなと厳命されている。

 奪われた物資コンテナがもし開けられていたりしたら、俺の判断で持ち帰る物を選ぶことになっている。」

 

 マイク少尉の言葉に、キースが答えた。答えになっていない様だが、これは仕方ない事だろう。

 

(けど、高い技術を持つサイモン爺さんに見られたら、わかっちまう事なんだがな。遺失技術を使ったバトルメックのパーツなんだから。長射程型粒子ビーム砲とか、長射程型大口径レーザーとか、ガウスライフルだとか、高性能放熱器だとか、XLエンジンだとか……。そこまで秘密にする事かとも思うんだがな。っていうか、そういう物見つけたんなら、さっさとNAISに送って、研究資料にしてもらえよ。

 ……物資コンテナが、開けられてないことを祈ろう。)

 

 内心で愚痴るキースだった。彼はブリーフィングを続ける。

 

「さて、他に質問はあるかね?」

「「「「「……。」」」」」

「……無いようだな。では作戦開始まで残り48時間だ。ゆっくり休養を取って、作戦に備えてくれ。解散!」

 

 部隊員たちは三々五々、散って行く。キースはしばらくそれを眺めていた。そしておもむろに彼は、この部屋にいたもう1人の人物の方を振り向く。その人物は、今まで一言も声を発しなかった。何と言うか、非常に影の薄い人物である。

 

「……こんなものです。ウォーレンさん。」

「なるほど、大したものです。発足したばかりの小隊とは、とてもとても思えませんね。」

 

 この人物は、ウォーレン・ジャーマン。コムスターの仲介で受けた任務を、その部隊がきちんと果たすかどうかを確認する管理人として派遣された人物である。ただし彼自身はコムスターの一員ではなく、深い関わりも持たない、単なる下請けである。コムスターも、いちいち1個小隊規模の新設小隊に、わざわざ自分の組織から管理人を派遣するほど人手は余っていない。

 

「では私は船室に戻らせていただきますよ。」

「ええ、了解です。ああ、貴方は作戦中どうなされますか?戦闘部隊に随伴するのですか?貴方の護衛を専属で出せるほど、人は多くないのですが。」

「いえ、私はこの降下船で、あなた方の帰りを待たせていただきます。無理に付いて行って、足手まといになっては本末転倒ですので、ね。ではまた後ほど。」

 

 ウォーレン氏はゆったりとした歩調で去って行った。キースも、自分の船室へともどろうとする。と、その途中でサイモン老が立っていた。彼は口を開く。

 

「坊ちゃん、ご苦労さまです。」

「やれやれ、偉そうな口調も疲れるよ、サイモン爺さん。けど、ご苦労様はまだ早いよ。明後日の今頃には、降下殻に詰め込まれたメックに乗って、大気圏突入だ。それに……その直後、生まれて初めてのメック戦闘だ。」

「そうでしたな。坊ちゃんの初陣ですな。」

 

 キースは、深くため息を吐く。

 

「頭では負ける気はしないんだ。実力さえ出せれば。はっきり言って自慢だけど、『ロビンソン戦闘士官学校』で、教官機を単独で撃墜判定取ったのも、同期生たちを指揮して複数の教官機に勝ったのも、同期の中で俺ぐらいだ。変な言い方になるが、姑息な戦法では誰にも負ける気はしないんだよ。……いつも通りの実力さえ出せれば、な。

 だけど初めての実戦だ。泡食って慌てたりしないか、パニックに陥らないか、ついそんな事を考えちまう。困ったもんだ。自分一人だけのことならば、簡単に吹っ切れもするんだろうけど、仲間達の命まで背負ってるんだから……。いや、嘘だな。自分が死ぬのもやっぱり怖い。はは。」

 

 苦笑しつつ、キースは愚痴という形で疲れや苦悩を吐き出す。サイモン老は、それを優しい顔で見ていた。

 

「なあサイモン爺さん。父さんも部下の命を預かってたりして苦悩したのかな。自分が死んだりするのは怖くなかったのかな。父さんの最期は聞いたけど、俺にはあんな壮絶なことはできそうにないよ。ライナーを逃がすために、敵の特殊部隊員を巻き添えにして自爆するなんて。」

「ウォルト様も、怖がりでしたのう。弱いところも、ありもうした。……坊ちゃんも、ウォルト様によく似てらっしゃる。いざという時は、勇気を振り絞れるところなど、そっくりです。7歳の頃、ジョナス様を守るため、身を持ってかばったそうじゃないですか、のう?」

 

 キースのおっさん臭い顔から、ふっと笑みがこぼれる。サイモンも笑う。

 

「サイモン爺さんに、あのギャラックスから付いて来てもらって、良かったよ。本当に。こんな話できるのは、今じゃサイモン爺さんくらいだからなあ。ああ、あとジョナスもそうか。でもジョナスにここに来てもらうわけにもいかないからな。ははは。

 ……サイモン爺さん。偵察・整備兵分隊を頼んだぞ。まっとうに戦力になるのは、偵察兵のネイサン軍曹とアイラ伍長だけだ。頼りになるのは、サイモン爺さんの指揮能力と戦術知識だ。けっして無理はさせるんじゃないぞ。」

「お任せ下さい、坊ちゃん。わしの全身全霊を振り絞って見せましょうぞ。」

「ああ、あとサイモン爺さんも、無理はするんじゃないぞ?頼むから。

 さて、この任務……。成功させるぞ。絶対黒字で。」

 

 キースの顔に、不敵な笑みが浮かぶ。サイモン老も、右手を握り親指を立ててサムズアップして見せる。降下船は、惑星カサイに向けてまっしぐらに進んでいった。




さて、次回いよいよ初任務です。少尉すっ飛ばしていきなり中尉で隊長になった主人公。その隊長っぷりはどんなものでしょうか。
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