鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-003 初陣』

 ヴァリアント号のバトルメック格納庫では、4機のバトルメックが既に降下殻に収められていた。キースはその内の1機、グリフィンに乗り込んでいる。彼は他の機体に通信を入れた。

 

「これより惑星カサイ、敵制圧地域後方の小規模基地への強襲降下作戦を開始する。全員準備はいいか?メック部隊2番機?」

『はい、こちら2番機マテュー少尉。準備完了、ウルバリーンの調子も良好です。はじめてこのメックに乗って以来、これほど調子が良かったことは無いですよ。』

「3番機、どうか?」

『おう、じゃない、はい!3番機アンドリュー軍曹、サイモンさんの腕は凄いな……ですね!ライフルマンが今までで最高の調子だ!』

「君とエリーザ軍曹は、既に実戦経験があるからな。期待している。ただ降下殻での突入訓練は数少ないらしいから、そこは注意してくれ。4番機?」

『はい、4番機エリーザ軍曹です!ウォーハンマーも万全です!降下については大丈夫です!あたしもアンドリューも、回数は少ないけど訓練成績自体は良かったですから!』

 

 メック部隊の確認を終えたキースは、次に気圏戦闘機隊に連絡を入れる。

 

「気圏戦闘機隊1番機、メックが大気圏に降りるまでの護衛と、地上に降りた後の支援、頼んだぞ。」

『こちらライトニング1番機、マイク少尉。まかせといて下さいっす!』

「気圏戦闘機隊2番機、マイク少尉が無理しない様にしっかり手綱を取ってくれ。頼むぞ。」

『こちらライトニング2番機、ジョアナ少尉。任せてください。』

『ちょ、それはひどいっす……。』

 

 最後にキースは、偵察・整備兵分隊に声をかけた。

 

「偵察・整備兵分隊サイモン曹長。そちらの指揮は頼んだぞ。地上で会おう。」

『了解です、坊……隊長。誰にも無理無茶はさせませんわい。』

「ネイサン軍曹、アイラ伍長。実際にまともな戦闘力を持っているのは君ら2人だけだ。他の皆を守ってやってくれ。」

『『了解!』』

「キャスリン伍長、君が負傷したら、治療する者がいなくなる。万が一にも怪我することの無いように。」

『了解です。負傷者が出たらそのときは任せておいてください。』

「ジェレミー伍長、君は2台目の車輛を頼んだ。運転は慎重にな。1台目のサイモン曹長の運転についていけない様だったら、彼にきちんと申告して手加減してもらってくれ。」

『は、はい!きっちり付いて行かせてもらいます、大丈夫です!』

「パメラ伍長、君の出番は基地制圧後だ。基地のコンピュータから情報を取るのは、君にしかできない。それまではあまり前に出るんじゃないぞ。」

『了解!ご心配ありがとうございます!』

 

 全員に声を掛け終えたキースは、ブリッジに最後の連絡を入れる。

 

「カイル船長、イングヴェ副長、では行ってくる。射出、よろしく頼む。」

『大丈夫、任せておいてください。……?あー隊長、ウォーレンさんが何かおっしゃりたいそうで。』

「そうか、ウォーレンさんを出してくれ。ウォーレンさん、何か?」

『いえ、大したことではありません。無事でお戻りになることを期待しております。契約で定められた時間をオーバーしないよう、気を付けてください。』

「わかりました、お気づかいありがとうございます。」

 

 キースは苦笑しつつ言った。

 

「じゃ、船長。地上の、味方基地で会おう。ウォーレンさん、また後ほど。」

『はい、また後ほど。』

『了解です。副長、バトルメックと気圏戦闘機の射出準備!』

『了解、カウントダウン開始します。隊長、行ってらっしゃい!』

 

 レパード級降下船ヴァリアント号の側面に付いたメック用のハッチと気圏戦闘機用のハッチが展開する。射出準備は完全に整った。イングヴェ副長の声が通信機より響く。

 

『60秒前……30……10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、グッドラック!』

 

 激しいGと共に、降下殻に包まれたバトルメックは大気圏へ向けて射出された。気圏戦闘機隊がそれと同時に発進し、万が一に備えた直衛に就く。これまで敵気圏戦闘機は出て来ていないから、制空権は事前の情報通り、味方が取ったままなのだろう。ただし通信封鎖しているため、確認はできなかったが。味方の恒星連邦軍と通信できるようになるのは、作戦が終了してからだ。

 機外の映像がブラックアウトする。一応他のセンサーで、機体の姿勢情報や高度情報、目標地点との相対位置情報は伝達されるが、周囲が真っ暗なまま大気の乱流で降下殻が大きく揺らされるのは、やはり恐怖だ。Gもきつい。だがキースは頑健な肉体の耐久力と意志力で、それに耐える。ただの2mムキムキ筋肉男ではないのだ。

 

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、降下殻パージ!」

 

 キースのグリフィンが、降下殻を分離してその本体を現す。今回の戦場に合わせて砂漠迷彩に塗装されたその機体は、降下用制動ジェットを噴かして速度を殺す。カメラは既に回復しており、同じように降下殻を脱ぎ捨てて制動ジェットを噴かす仲間の機体が判別できた。その上空を、気圏戦闘機隊の50tライトニング戦闘機2機が飛翔している。眼下に、規模が大きく無い敵の基地と、慌てて出撃してくる2輛の戦闘車両に4機のバトルメックが見えた。

 キースは仲間の機体に連絡を入れる。

 

「無線封鎖解除!敵機確認!目標スコーピオン戦車2輛、20tワスプ1機、20tスティンガー1機、35tパンサー1機、35tジェンナー1機!おそらくは軽量級で構成された偵察小隊と思われる!メックの総重量はこちらが遥かに上だが、基地には砲台が1つあるし、地雷が敷設してある可能性がある!注意せよ!」

『『『了解!』』』

「気圏戦闘機隊、砲台を叩けるか!?砲台の構成は……大口径レーザー1門と中口径レーザー2~3門と見える!対空攻撃に有利なオートキャノンは搭載されていない!」

『まかせといて下さいっす!』

『了解です!』

 

 各自のメックは制動ジェットを噴かして、各々の機体が得意とする位置に着陸する。キースのグリフィンとアンドリューのライフルマンは後衛に、マテューのウルバリーンとエリーザのウォーハンマーは前衛に。直後、彼らの機体は制動ジェットをパージして身軽になる。

 

「エリーザ!突入しろ!マテューはその後ろに付け!アンドリュー、そこから2時の方角にある岩場で部分遮蔽を取って、支援射撃に徹しろ!」

『了解!突貫します!』

『背中は任せなさい!』

『大口径レーザーは2本一緒に撃っちゃだめだ、大口径レーザーは……。』

 

 アンドリューは、自分自身に何か言い聞かせている。キース自身のグリフィンは、10時方向に存在していた別の岩場の上にジャンプジェットで登った。ジャンプジェットに取り込まれた大気が加熱、加圧され、強烈に噴き出した。55tの大重量が、宙を舞う。ここからなら、戦場の全てが見下ろせるため、死角はほとんど無くなる。

 案の定、ウォーハンマーのかなり前方で、対メック地雷……震動爆弾が爆発する。振動爆弾とは、メックの発生する重量による振動を感知して爆発する爆弾だ。基本的に、目標とするバトルメックの重量に対して、どの重量のメックが通ったときに爆発するか設定できる。重すぎるメックが通った時は、その遥か手前で爆発してしまうことになり、この様に意味がなくなるのだ。この距離で爆発したからには、どうやら地雷の設定は50t近辺のメックが目標らしい。

 

「マテュー!地雷の設定は50t近辺の模様だ!55tのウルバリーンではちょうど引っ掛かる!ウォーハンマーの後ろから離れないか、離れざるを得ないときはジャンプ移動しろ!」

『了解っ!この、沈め!』

『落ちなさい!』

 

 マテューとエリーザは、ジェンナーに集中砲火をかけている。ジェンナーはその機動力でウォーハンマーの後ろに回り込もうとしているが、その動きはキースに読まれていた。

 

「マテュー!ジェンナーがウォーハンマーの後ろに回るのを阻止しろ!格闘距離に持ちこめ!エリーザは目標変更、うかつに近寄ってきたワスプを……いや待て!おそらく地雷に誘い込む罠だ!エリーザはスティンガーを!アンドリューはワスプ!」

 

 キースのグリフィンが粒子ビームを放ち、ジェンナーの右脚を撃ち抜く。そこにマテューのウルバリーンがキックを見舞った。ジェンナーはウォーハンマーの眼前で右脚を折り砕かれ、倒れ伏す。慌ててジェンナーのメック戦士は、降伏の信号弾を打ち上げた。

 ワスプとスティンガーは、中距離から中口径レーザーを連射していた。だが一方のワスプが、軽率さを装ってウォーハンマーに近寄ってくる。やはりそちらには、ウォーハンマーの様な重量級に対応した地雷が敷設してあるのだろう。

 しかしそのワスプをアンドリューのライフルマンが撃つ。2門の中口径オートキャノンと、1門の大口径レーザーが火を吹いた。そのうち大口径レーザーとオートキャノンが命中する。ライフルマンは部分遮蔽を取って、静止射撃をしている。この状況で彼の射撃技量ならば、この位の芸当は朝飯前だった。ワスプは頭に大口径レーザーの直撃をくらい、その部位を消し飛ばされる。パイロットは奇跡的に緊急脱出した様だった。

 さて、ワスプの片割れのスティンガーだが、こちらは比較的運が良かったらしい。遠距離に陣取ったパンサーの粒子ビーム砲による援護に助けられ、ウォーハンマーの集中砲火を浴びつつも未だ一発の命中もない。逆にスティンガー側からの命中打も無かったが。

 一方、砲台は2機のライトニング戦闘機による空襲を受けていた。ライトニング戦闘機の機首に装備された最大口径のオートキャノンが、2発とも見事命中する。砲台はあっさりと沈黙した。ライトニング戦闘機は、他の目標を叩くべく旋回に移る。

 

「……あのパンサー、邪魔だな。先に片付けるべきだな。」

 

 パンサーは大半の位置から部分遮蔽になる位置を占めて、支援射撃に徹している。大半の場所が撃ち下ろしになって丸見えなはずのキースの位置からも、例外的に部分遮蔽になっている場所だ。その上距離は遠射程である。だがキースは、あえて狙撃に挑戦する。岩場から上半身だけを出しているパンサーを、注意深く狙った。パンサーも、キースのグリフィンを狙う。そしてパンサーとグリフィンの粒子ビームが互いに交錯する。パンサーの射撃は、グリフィンの左胴正面に命中した。0.5t以上の整列結晶鋼の装甲板が、溶融して弾け飛ぶ。

 だがキースの射撃も、パンサーに命中した。それも頭部に、だ。装甲を貫通した粒子ビームが、パンサーの操縦席をメック戦士ごと焼き尽くす。パンサーは崩れ落ちた。

 同時に2輛のスコーピオン戦車が、マテューのウルバリーンに撃たれ、蹴られて双方炎上する。あれでは乗員に生存者はおるまい。戦車はバトルメックに比べ、非常に脆いのだ。ここでスティンガーが、降伏の信号弾を打ち上げる。一般回線から、スティンガーのメック戦士の声が聞こえた。

 

『降伏する!撃つな!降伏する!』

「降伏を受け入れる。機体から降りろ。」

 

 キースは粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルランチャーを、もはや守ってくれる物が無くなった基地へと向ける。仲間の小隊の機体も、同じく武器を向けた。やがて基地からも、降伏の通信が入ってきた。

 

 

 

『隊長、コンテナを見つけました。幸い、開けられてないみたいですのう。それと、兵員輸送車がありましたで、接収して捕虜の移送に使いますな。それの運転はジェレミー伍長が、捕虜の監視はネイサン軍曹とパメラ伍長がしますでの。』

「そちらは任せるよ。頼んだ、サイモン曹長。」

 

 サイモン老から、連絡が入る。サイモン老率いる偵察・整備兵分隊は先ほど合流してきて、制圧完了した基地内の捜索を行っていたのだ。捕虜というのは、生き残った敵メック戦士3人のことだ。彼らを連れ帰れば、捕虜交換の際に身代金が取れる。これはバトルメックにも言えることで、今回はパンサー、ジェンナー、ワスプ、スティンガーを鹵獲した。これらの機体も、持ち帰ることができれば、身代金を貰っての返還対象になる。

 これらの戦利品を担いで持ち帰るための網を、メック部隊員たちは今用意しているところだ。奪われた物資のコンテナも、その網に入れて持ち帰ることになる。

 やがてキースたちは、メック戦士以外の捕虜を解放すると基地施設を破壊し、その場を立ち去った。気圏戦闘機隊は既にヴァリアント号に帰投し、ヴァリアント号は味方基地に向けて飛び立った後である。

 

『楽勝だったな!誰の機体もたいしたダメージ受けてないし!』

『アンドリュー、まだ油断はできないわ。帰り着いたわけじゃないのよ。』

『そうだよ、敵襲があるかも知れないから、気を付けるに越したことはないよ。』

 

 もう全て終わったつもりで楽観的なアンドリューを、エリーザとマテューが窘める。アンドリューは反論した。

 

『だ、だけどさ!悪いメックの後に良いメックを投入することはタブーじゃんか!今更襲撃をかけてくることは……。』

「だが哨戒部隊などとの偶発的遭遇もあり得る。それに奪還物資が、敵にとってこの上ない大事な物である場合などは、そのタブーを犯しても襲撃を仕掛けてくることはあり得なくはないよ。悲観的になり過ぎることは無いが、かと言って油断してはいけない。」

『むう、た、確かに……。』

 

 キースの説明に、アンドリューは唸る。キースは重量物を輸送しているため、通常の半分以下の速度でしか移動できないメック部隊に、ゆっくりと併走している兵員輸送車にも通信を入れる。

 

「ネイサン軍曹、もし遭遇や襲撃があったら、そちらはさっさと戦域外に離脱してくれよ。」

『わかってます、隊長。こっちは任せてください。』

 

 キースには、嫌な予感がしていた。こういう予感は、外れたことはあまり無い。案の定、先行して偵察していたアイラ伍長から緊急通信が入る。

 

『隊長!敵の哨戒部隊を発見しました!このままだと、1時間以内に遭遇します!』

「落ち着くんだ、アイラ伍長。敵の編成は?それと敵の装備は完全か?」

『あ、も、申し訳ありません。敵は30tジャベリン1機、45tK型フェニックスホーク1機、55tデルヴィッシュ1機、60tドラゴン1機の1個小隊です。ジャベリンとフェニックスホークにはそれぞれ右胴と頭に若干の損傷が認められますが、動きに妙な所は見受けられません。』

 

 今まで黙って聞いていたアンドリューが、進言してきた。その声が少し緊張している。

 

『荷物を抱えていては戦えないぜ。隊長、進路をずらして、やり過ごすことはできないか?』

『それこそ荷物を持ったままじゃ、センサーの有効半径から逃げられないわよ。かならず発見されるわ。だからと言って、荷物を捨てるわけにはいかないわよ。鹵獲品のメックはともかくとして、目的の奪還物資は。』

 

 エリーザが反論する。キースは少し考えると、アイラと本隊の間を走行しているサイモン老とキャスリン伍長の組に連絡を取る。

 

「サイモン曹長、この先の……本隊から2km先の地形を教えてくれ。一応上から地図は渡されているが、実際に現場を見た人間の意見が聞きたい。あと、曹長たちは全速力でそこから離れるんだ。そしてそこから40km離れた、地図上のX-65-536地点に陣取るんだ。曹長の運転技術なら、あと1時間かからず、そこまで行けるだろう?」

 

 

 

 ドラコ連合の識別マークを機体に描いた、砂漠なのに森林迷彩の4機のバトルメックが行進していた。岩と砂ばかりの地形が続く。と、何かに感付いたのか、そのバトルメックたちがいきなり隊列を整えた。

 

『さすがに気付かれたか……。』

『メックというのは、待ち伏せに向かないからね。放熱がセンサーに反応し易いし。戦車なんかだったら、IR偽装網などで隠れて不意討ちとかできるんだけど。あるいは我々の腕前がもっと良ければ、機能を一時的に制限して発熱を抑えられたかもね。』

『まあ仕方ないわよ。こっちも体勢整えるわよ。』

「それに相手は既にこっちの罠にはまっているとも。サイモン曹長、次は今の地点からNNWに240mの地点に照準して撃ってくれ。風向はWで5単位の強さだ。頼んだ。俺はグリフィンに戻る。」

 

 岩山陰の遮蔽位置から、ウルバリーンがジャンプジェットを噴かして飛び出してくる。更にウォーハンマーとライフルマンも、走行移動で物陰から走り出てきた。運んでいたはずの荷物は、何処かに降ろしてきている。

 ライフルマンは、周囲を見渡せるような高地を押さえるべく移動する。ウォーハンマーとウルバリーンは、本来後衛の位置にいるべきはずのデルヴィッシュに向けて全力で移動。直後、何やら空気を斬り裂く音がした。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 ジャベリンとK型フェニックスホークのいる位置に、スナイパー砲の砲弾が降り注ぐ。K型フェニックスホークに砲弾は直撃し、その余波が隣にいたジャベリンを巻き込んだ。無論、これは敵に見つからないようにグリフィンから降りたキースが肉眼で着弾観測を行い、サイモン老に撃ってもらったスナイパー砲による間接砲撃である。キースは敵の動きをその巧みな戦術眼と第六感により読み取って、そこを指定して間接砲撃を撃たせたのだ。

 そのキースは、今は山の陰に隠したグリフィンに乗り込んでいる最中だ。火力的には、スナイパー砲1門とグリフィン1機では、グリフィンの方が若干大きいだろう。だがキースの狙いは、基本的に対抗不能なスナイパー砲による間接射撃を敵に警戒させ、そのことで敵の動きを制御することにあった。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 再度スナイパー砲の攻撃が着弾した。今度当たったのはデルヴィッシュとドラゴンだ。この2機は、有効な遠距離攻撃兵装を備えており、だからこそ戦場が見渡せてなおかつ部分遮蔽の取れる高台を共に目指して移動していたのだ。それ故にその動きを読まれ、なおかつ併走する形になっていたが故に、双方共に着弾に巻き込まれていた。直撃を受けたのは装甲の薄いデルヴィッシュで、右脚の装甲に大ダメージを負っている。一方のドラゴンは、余波を受けただけであり、まだまだ健在だ。

 だがドラゴンに乗っている小隊指揮官のメック戦士は、恐れを抱いていた。移動するバトルメックに、射撃から着弾までが長くかかる間接砲撃を命中させるのは、おそるべき技量の他に相手の動きを正確に読む戦術眼が必要になる。そして敵がその戦術眼を持っていることが確かである証拠に、彼の部隊は先ほどから相手に後の先を取られっぱなしであった。

 

『熱が出るほど撃つな、熱が出るほど撃つなっ!』

 

 アンドリューのライフルマンから、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門が発射され、正確にジャベリンの右胴と左胴とに着弾する。同時にジャベリンが撃った2門の6連短距離ミサイルの片方が、マテューのウルバリーンの胴中央にまぐれ当たりした。だがその直後、ジャベリンは短距離ミサイルの弾倉に火が回り、大爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。

 今、ジャベリンの鼬の最後っ屁をくらったマテューのウルバリーンだが、エリーザのウォーハンマーと共にデルヴィッシュを追い詰めており、その蹴りがデルヴィッシュの片脚を折り取った。デルヴィッシュはゆっくりと地面に倒れ伏す。だがその最後の蹴りが、ウルバリーンの右脚装甲を抉り取っていた。マテューはこれ以上の格闘戦は危険だと、近くにいたドラゴンの格闘距離に入るのを諦めて、少し離れて6連短距離ミサイルと中口径レーザーによる近距離射撃に切り替えた。

 一方K型フェニックスホークは、そのセンサーでもう1機メックが隠れている――というかその機体は、キースが乗り込んで起動したばかりだったのだが――のに気付き、山を回り込んでそれがグリフィンである事に気付く。K型フェニックスホークのメック戦士は、遠距離支援機であるグリフィンに対抗する定石として、接近戦を挑んだ。数条のレーザー光が走り、1門の小口径レーザーと1門の中口径レーザーがグリフィンの胴中央をとらえた。

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 だがその行動も、キースは読んでいた。K型フェニックスホークはスナイパー砲の直撃を受ける。あろうことかグリフィンもその砲撃の余波をくらっているが、グリフィンは装甲が厚く、たいした被害にはなっていない。キースは、自機を囮にして、敵を罠にかけたのだ。

 先ほどから連続して右脚に着弾を受けたK型フェニックスホークは、次に右脚に喰らえば危険だというレベルになっている。と、キースはグリフィンのジャンプジェットに火を入れ、機体を跳躍させた。K型フェニックスホークは、距離を取らせてはグリフィンに対する勝ち目が無くなる、と追いすがった。

 だが動きの読み合いはキースの圧倒的勝利に終わる。グリフィンはK型フェニックスホークが移動した場所の、すぐ真後ろに着地したのだ。K型フェニックスホークは機体をひねり、できる限りの攻撃を送り込むが、それは全て外れる。そしてキースはグリフィンの強靭な両腕を振り上げた。

 

「済まな……いや、謝るのは偽善っぽいな。」

 

 グリフィンの両腕がK型フェニックスホークの頭を叩き潰した。敵メック戦士の血しぶきが舞う。脱出する間もなく、操縦席が潰されたのだ。キースは首を振ると、グリフィンを再度ジャンプさせ、味方の援護に向かった。

 

 

 

 結局ドラゴンは、左胴に搭載していた10連長距離ミサイルの弾薬に、キース機の粒子ビーム砲の着弾を受けて爆散した。メック戦士は脱出したが、機体が失われた以上彼は失機者となるだろう。戦利品にはK型フェニックスホークとデルヴィッシュが加わる。機体の重量的には、持ち運び用の網を使えばなんとか持ち帰れるが、奪還物資のコンテナを計算に入れるとメックで運べる重量ぎりぎりであり、移動速度は更に遅くなることが目に見えていた。

 結局彼らがドラコ連合の占領している地域から、恒星連邦の支配下にある領域まで戻って来たのは、かなり時間が経過してからになった。一応契約で定められた時間内には帰還できたものの、カイル船長やイングヴェ副長、気圏戦闘機隊の2人からは心配をかけたことで文句を言われたりもした。ウォーレン氏は特になにも言わなかったが、戦利品の山を見て、なるほど、と言った風情であった。

 

 

 

 今回の報酬は基本の任務達成の報酬以外に、戦闘が2回あったため、その危険手当と戦闘勝利によるボーナスも2回分ずつある。損害は、そこそこ叩かれたメックもあったが、なんとか装甲板のみの損傷で済み、弾薬を消耗しただけであった。これは契約により、恒星連邦より支給される。

 更に戦利品としてスティンガー、ワスプ、パンサー、ジェンナー、K型フェニックスホーク、デルヴィッシュの6機、破壊したのがスコーピオン戦車2輛とジャベリン、ドラゴンの2機と大量であった。戦利品は全て恒星連邦が接収するが、それに対するボーナスが鹵獲機の価格の1/10、また破壊した車輛や機体の1/100の価格に相当するボーナスがそれぞれ支払われた。ただし、支払いは全てダヴィオン家の発行するダヴィオンHビルである。

 Hビルと言うのは、5つある継承王家が各々で発酵している紙幣だ。例えばダヴィオンHビルはダヴィオン家が支配する恒星連邦内では十全な価値を持つが、他のライラ共和国、自由世界同盟、カペラ大連邦国、ドラコ連合などでは価値はあまり保障されない代物だ。コムスターが発行しているCビルは、何処の国でも完全な価値を持っているため、傭兵部隊はそれによる報酬支払いを好むが、それが叶えられることは、一部の例外を除きほとんどないと言えよう。

 何はともあれ、キース率いる傭兵小隊『SOTS』は最初の任務を無事成功裏に終わらせることができた。惑星カサイには一般市民は住んでいないため、彼らは1回のジャンプで行ける近場の惑星へ移動し、そこで打ち上げと初勝利の祝宴を開いたのであった。

 

「「「「「「かんぱーい!」」」」」」

 

 一同がグラスをぶつけ合う。皆、笑顔だ。

 

「まあ今回もリカルド……じゃなく、ハリー・ヤマシタの奴は見つからなかったけど、なんとか損害も無く任務達成できたし、まあまあよかったわよね。」

 

 エリーザがにこやかに言う。マテューは頷いた。

 

「そうだね。……ただ私は今回、課題が浮き彫りになった。格闘戦に頼ってばかりじゃなく、射撃の腕を磨かないと。」

「う゛……。あたしももうちょっとで命中しないって事が多かったなあ。圧倒的な火力を誇るウォーハンマーだってのに、もう少しだけでいいから射撃の腕、上げないと。」

 

 先ほどとは打って変わって、エリーザが沈む。そこへアンドリューが話題を変えようと、キースに話を振った。

 

「しっかし隊長は凄かったよな。隊長の砲撃指示した地点に、敵が吸い込まれる様に移動するんだからよ!」

「あー、う、うちは代々由緒正しい着弾観測員の家柄なんだ。父さ……父もああ言った芸は身に付けてたよ。うん。」

「いや、砲撃の指示はウォルト様よりも正確でしたですのう。ウォルト様よりも着弾観測員の才能は、高いかもしれませんで。」

 

 サイモン老の手放しの賞賛に、キースは飲んでもいないのに顔を赤くする。それを見て、周囲の者は笑い声を上げた。マイク、ジョアナ、ジェレミー、パメラ、カイル船長、イングヴェ副長などの後から仲間入りした組は、その様子に目を丸くする。

 マイクが唖然とした様子で言葉を紡ぐ。

 

「隊長って、なんか思ってたのと違うっすよね……。プライベートでは、あんなもんなんっすか?」

「ん?ああ。そうだぜ?なんせ、まだ若いからなー。見た目は老け顔だけど。」

「……幾つなんすか?」

「んー。俺たちよりも年下だとは言っとく。」

 

 アンドリューの返答に、マイクは唖然とした様子で、グラスに手を伸ばしてそれを呷る。そして噎せた。

 

「ぶっ!な、なんだこれ、ジュースっす!酒じゃないっす!」

「仕方ないわな。ここはライラ共和国でなく、恒星連邦なんだからよう。飲酒可能な年齢は、惑星にもよるけど21歳からでの。まあわしらは問題ないども、飲んじゃいけない連中さしおいてわしらだけ飲むのも、申し訳ないだわさ。」

 

 サイモン老が訳知り顔でうんうん頷く。ジョアナもマイクを宥めた。

 

「ま、諦めなさいな。飲みたければ、船に戻ってからにしましょ。」

「くそ、ガラテアまで戻ってから宴会しようって提案すりゃよかったっすよ……。」

「諦めなさい。マテューさんも21歳だそうだけど、我慢してるんだし。それにそれより年下の面々だって、ライラ共和国じゃ平気で飲んでたのに、こっちじゃ飲めないんだから。」

「うがー!」

 

 マイクの叫びに、周囲の者たちは笑い声を上げる。キースはそんな彼らを見て、何とはなしに懐かしさを覚える。それは傭兵大隊『BMCOS』にいた頃の思い出と重なったのだ。彼はその事に思い至り、ふと顔を伏せる。そして仇討ちの決意を強くした。

 だがキースは、とりあえずその思いを脇に置いておく。今は、今だけはただ仲間と笑い合っていよう、それが彼らや、そして喪われた者たちへの礼儀だ、と思ったからである。




初任務は、滞りなく終了いたしました。隊の皆のチームワークも問題なく、仲も良いようです。さて、次の仕事はいったい何処でどうなるのでしょうか。
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