3025年の8月初頭、キース率いる傭兵小隊『SOTS』は惑星ガラテアの首都ガラテアシティへと戻って来ていた。新しい仕事を探すためである。仕事の条件は、恒星連邦がスポンサーであること、そして恒星連邦ドラコ境界域における任務か、もしくはドラコ連合ゲイルダン軍管区への攻撃任務であることだ。キースたちの小隊の中核メンバーにおける大部分が、ドラコ連合に所属しているハリー・ヤマシタという人物か、もしくはその関係者を仇として狙っているのである。
無論キース自身も、その1人だ。彼と彼の郎党であるサイモン老は、元『アルヘナ光輝隊』の部隊員及びその司令官であったトマス・スターリングを、仇として狙っている。だがハリー・ヤマシタが、『アルヘナ光輝隊』が恒星連邦を裏切った事に何らかの関係を持っているらしいのだ。ハリー・ヤマシタは、ドラコ連合のスパイであるらしいことがわかっている。そしてそのスパイには、『アルヘナ光輝隊』になんらかの工作を行って裏切らせ、キースの父ウォルト・ハワードが所属していた傭兵大隊『BMCOS』を戦闘員、非戦闘員の区別なく虐殺させた疑いがかかっているのだ。
それはともかくとして、仕事は案外あっさりと見つかった。恒星連邦ドラコ境界域の惑星ドリステラⅢへの、2ヶ月の駐屯だ。このような中途半端な時期に、中途半端な期間の駐屯任務があると言うのには、理由がある。同じ恒星連邦ドラコ境界域にある惑星マーダックに、ドラコ連合の惑星イラーズンに駐留していた傭兵大隊『タキザワ傭兵武士団』が襲撃をかけてきたのだ。その規模は1個増強大隊、おおよそ1個大隊プラス1個中隊だ。ちなみにどこぞの部隊の様に、1個中隊でも大隊より大きいからと言って、連隊を名乗るような恥ずかしい真似はしていない。
このときマーダックには部隊の再配置の都合上、一時的に1個中隊の戦力しか置かれていなかった。今回の襲撃は、その情報を知った上で行われたに違いない。恒星連邦はこの攻勢に対し、周辺の宙域から援軍をかき集めた。元々ドリステラⅢに駐屯していた傭兵部隊『グレート・ターヒル中隊』も、援軍に駆り出された部隊の1つだ。だが今度はドリステラⅢの防衛に穴が開く。それで泥縄的ではあるが、さほど信頼を置かれていない部隊でもかき集めれば何とか使えるだろうと、小隊規模の独立傭兵部隊を3個小隊=1個中隊規模集めて、留守番としてドリステラⅢに送り込もうと言うのだ。
「つまりは、まだまだ信頼されていない部隊だ、と言うわけだよな。まあ、それは仕方がないけど。この間、初任務をこなしたばかりだからなあ……。」
「そうだね。まあでも、信頼されていない部隊にしては随分と条件がいい契約だと思うよ。なんせ、行き帰りの推進剤は支給、もし任務中に戦闘があった場合は消耗した装甲板と弾薬は支給。その上、装甲板以上の損傷を受けた場合は、正規軍の備蓄している修理部品を正規の値段で売ってくれるんだから。割増価格じゃなしに。」
キースの言葉に応えたのは、この傭兵隊の副隊長をやっているマテュー少尉だ。今彼らは、宇宙港ガラポートに停泊しているレパード級降下船ヴァリアント号の食堂を兼ねた会議室におり、来客を待っていた。やがてブリッジからインターホンで連絡が来る。
『お客が来ましたよ、隊長。』
「ありがとう副長。船長にも都合がつくなら面接官として参加してくれる様に頼んでおいたんだが、どうなったかな?」
『船長はちょうど仕事を終わらせて、そちらの部屋に向かったところです。』
「ありがとう。じゃあ。」
キースはインターホンを切る。マテュー少尉が顔を引き締めた。
「さて、それではここからお仕事モードですね。」
「ああ、そうしよう少尉。」
2人の気配が変わる。なれなれしい雰囲気が消え、キースは若干偉そうな口調に、マテュー少尉は丁寧な口調になった。やがてカイル船長と、偵察・整備兵分隊を統率するサイモン老が入室してきた。
「船長、サイモン曹長、こちらに座ってくれ。」
「ああ。隊長、ここでいいかね?」
「わかりもうした、隊長。」
椅子に腰かけると、カイル船長が質問をする。
「隊長、今日は何人くるのかね?」
「全部で7人だが、まとめて7人全員を雇うかどうか決める面接だからな。」
「歩兵1個分隊ですな。こちらが履歴書で?ああ、健康診断と身体検査の結果も付属してますな。」
サイモン老が14通の書類を手に取り、めくりながら読む。キースは頷いた。
「ああ。だから実際に質疑応答するのは、リーダーの分隊長とだけになるな。……前に所属していた傭兵部隊が破産して解散し、次の部隊を探しているところらしい。」
「けれど要求が少しずうずうしいですね。実際に雇われるときに、装備品を整えたいので支度金が欲しいそうです。」
マテュー少尉が、少し眉を顰めつつ言う。キースはにやりと笑ってそれに応えた。
「もし気に食わん人物であるなら、雇わんだけだ。確かに地上にいる間、バトルメックや気圏戦闘機、降下船の警備をしてくれる歩兵は必要としているが、信用できん人物はかえって毒だからな。」
「ですな。お、来たようですぞ。」
カイル船長が言うとほぼ同時に、部屋の自動ドアが開いた。先頭に立って客人を案内してきたのは、偵察兵のアイラ伍長だ。
「失礼します。お客人をお連れしました。」
「ありがとう伍長。では下がっていい。」
「はい。」
アイラ伍長が部屋の外へ出て行く。そこに残されたのは、7人の男女だった。彼らは服装は統一されて――おそらくは以前の部隊の制服――おり、全員がきっちり整列して直立不動の状態である。一番端に立っている中年男性を除いては、皆若い、と言うかまだ幼い感じを受ける少年まで1名混じっている。
その中年男性が、1歩前に進み出て名乗りを上げる。敬礼はしない。歩兵が敬礼するという事は、その相手の戦死を意味する、とキースは何処かで聞いたことがあった気がした。
「自分がこの分隊の分隊長、エリオット・グラハムであります!前の部隊での最終階級は軍曹でした!」
「ご苦労軍曹、楽にしてくれていい。俺がこの傭兵部隊『SOTS』の隊長、キース・ハワード中尉だ。隣にいるのが順に、副隊長のマテュー・ドゥンケル少尉、このレパード級降下船ヴァリアント号の船長カイル・カークランド少尉、そして俺の郎党でもあり偵察・整備兵分隊のトップをやっている整備兵サイモン・グリーンウッド曹長だ。」
「はっ!総員、休め!」
エリオット軍曹――今はまだ入隊が決まっていないから階級は無いのだが――の掛け声に合わせ、直立不動だった6名が少し足を開いて立ち、少しだけ緊張を解く。キースはちょっとだけ困る。
(あー、座ってくれていいって言うつもりだったんだけどな。言える雰囲気じゃあなくなっちゃったよ。)
キースは、彼らの顔を順に眺めた。
「ふむ。テリー・アボット伍長、ロタール・エルンスト上等兵、ヴィクトル・デュヴェリエ一等兵、ラナ・ゴドルフィン一等兵、ジェームズ・パーシング一等兵、ジャスティン・コールマン二等兵……で良かったかな?」
「「「「「「!!」」」」」」
全員の顔が驚きで彩られる。だがエリオット軍曹が睨むと、一瞬で平静な顔色に戻った。ちょっとだけ額に汗している者も何人かいたが。
(へえ……。訓練が行き届いてるなあ。)
「全員の名前を、覚えておいてくださったのですね。」
「まあ、な。これから命を預けることになるかもしれん相手だ。提出された履歴書ぐらいはしっかり読むとも。」
ここでマテューが口を挟む。彼はわざと嫌味な口調を使う。
「しかし、入隊に際し支度金が欲しいと言う要求はどうかと思うね。」
「……はっ!申し訳ありません!」
エリオット軍曹は、生真面目な態度を崩そうとしない。だが彼はその事に関する説明もしなかった。言いわけになってしまう、との思いがあるのだろうか。
(そう考えてる節もあるか。生真面目そうな人物だし。……ん?)
「あ、え、ええと……。」
後ろに並んでいる兵士たちのうちの、まだ幼さの抜けない少年が口を挟もうとして、詰まる。エリオット軍曹がその少年を怒鳴った。
「ジャスティン二等兵!きさま上官同士の話に口を挟むとは何事かっ!!後で腕立て300回だ!!」
「も、申し訳あ……。」
「ああ、待て軍曹。」
「は……。」
キースは笑って言った。
「今はまだ、俺は君たちの上官じゃあない。また、そうなるとも決まっていない。君たちを雇うにしろそうでないにしろ、今が言いたいことを言える最後のチャンスかもしれんぞ?」
それはその通りだ。彼らを雇った場合、キースは正式に彼らの上官と言う立場になる。二等兵が中尉という雲の上の存在に、まともに話をできるわけがない。そして雇わなかった場合は、それでおしまいだ。ジャスティン二等兵はだが、それでも迷っている様だった。キースは、あと一押ししてやった。
「……命令だ、話せジャスティン・コールマン二等兵。」
先ほどの台詞と矛盾するが、キースはあえて「命令」した。ジャスティン二等兵は、堰を切ったかの様に話し始める。
「は、はいっ!ぐ、軍曹は、軍曹殿は悪くありません!悪いのは前の部隊の、『ベクルックス軽機団』のクソ部隊長なんですっ!ぶ、部隊が破産して解散するときに、あのジェイク大尉の豚野郎は、部隊の金を、財産を、かき集めてとんずらしやがったんです!お、俺たちの個人の金で買ったはずだったライフル銃や防弾チョッキまで勝手に売り払いやがって!給料も3ヶ月分未払いのままで!
それで、それで……。今日明日の飯にもみんな困ってるんです。軍曹殿は、自分個人の貯金まで切り崩して、皆の面倒を見てくれて……。でもその金もほとんど尽きて……。だから軍曹殿は無理な話だと思っても、支度金が欲しいって……。
ちくしょう、俺たちが1個分隊にまで減っちまったのも、ジェイクの野郎の無茶な命令のせいだってのに。自分のメックが逃げるために、歩兵部隊をサンダーボルトに突っ込ませたんだ。アキーム少尉もシャルルの奴も、あいつのせいで……。偵察小隊のソニア中尉も、火力小隊のアルトゥール中尉も、勇敢に戦って死んだのに、あいつと指揮小隊だけとっとと逃げやがって……。それなのに奴は部隊の金と自分のクルセイダーだけ持って……。ちくしょう、ちくしょう……。」
ジャスティン二等兵は泣いていた。他の兵士たちも、目が潤んでいる。エリオット軍曹は唇を噛みしめて黙っていた。
キースはサイモン老、カイル船長、マテュー少尉に順に目を遣る。カイル船長は頷き、マテュー少尉は仕方ないと言った風情で苦笑、サイモン老は以心伝心というべきか既に電卓を叩きはじめている。サイモン老は小さな声で言った。
「あー、坊……隊長。1人あたりレーザーライフルと軍用パワーパック、軍用自動拳銃に予備カートリッジ、高速振動剣にパワーパック、防弾チョッキって所ですかな?」
「あと月給1ヶ月分相当の前金を支給してやれないか?」
「え……と。まあ、大丈夫でしょ。全部でメックの装甲1.5t弱ぐらいの出費ですかのう。装甲兵員輸送車は、彼らで無いとしても既に歩兵を雇うこと前提で予算を組んでましたから、今のやりとりには関係ないですがの。
……お互い泣き落としには弱いですの。」
「無理に言わせて、泣かせたのはこっちだ。仕方あるまい。……それに、人格的には信頼が置けそうだしな。」
キースはエリオット軍曹に向き直る。
「……軍曹。」
「はっ!」
「君たち全員を雇おう。この場で契約書を書いてもらい、今日中に今の宿を引き払ってこのヴァリアント号の空き船室に移って来てくれ。装備品は全部こちらで支給する。それと支度金だが、全員で1750Cビルだ。
契約書を書いたら、さっそく行動を開始してもらうぞ。サイモン曹長、彼らの身体検査の書類を見て、防弾チョッキのサイズを調べて発注してくれ。それと武器類の発注もだ。」
エリオット軍曹は一瞬目を丸くするが、すぐに直立不動の体勢を取る。彼は朗々たる声で言った。
「ありがとうございます!」
「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」
6名の歩兵たちが唱和する。その顔は喜色に溢れている。マテュー少尉がにこやかに微笑みながら言った。
「やれやれ、メック戦士たちに冷却パイロットスーツを購入するのが、随分と先になりますね。まあ、でも良い人材を得られたようですから、そちらの方がいいですな。」
「まあ俺は、身体に合う冷却パイロットスーツが発掘されないだろうけどな。」
「違いないですね。」
キースの身長は2mを軽く突破し、身体つきも筋肉ムキムキのマッチョマンだ。星間連盟時代に、彼の様な体格のメック戦士が多かったはずがない。冷却パイロットスーツどころか冷却チョッキすら望めないキースは、今のところTシャツにトランクスという格好でメックに乗っていた。なおこの部隊に、冷却パイロットスーツや冷却チョッキなどの高級品を所有しているブルジョアはいない。
まあそれはともかくとして、キースは再度インターホンを使いアイラ伍長を呼んで、契約書の書類を7通持って来てもらう。歩兵たちは規律正しく、しかし嬉しそうにそれにサインして行った。
そして3日後、レパード級降下船ヴァリアント号は宇宙港ガラポートから発進し、惑星ガラテアを離れた。行き先は、ドリステラ星系の第3惑星、ドリステラⅢである。その旅程において、エリオット軍曹たち7名が、キースが16歳であることを知って驚いたりしたのは、余談である。
新しい、頼りがいのある仲間がまた増えました。優秀な歩兵、1個分隊です。彼らは今後、どんな活躍をしてくれるのでしょうか。