鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-008 我が家奪還戦』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地では、3隻のレパード級降下船が発進準備をしていた。そのうちの1隻、リライアント号は正直見た目でわかるほどに痛めつけられている。ただサイモン老の応急修理により、惑星上を短距離――ユニオン級降下船ゾディアック号の着陸地点近傍まで――往復で飛ぶくらいの事は可能になっていた。

 そのリライアント号だが、未だに船長は入院中である。そのため軽傷であり既に退院した副長が操船を担当し、キースの隊から派遣された航空兵のマイク少尉とジョアナ少尉がその補佐に就くことになっていた。ちなみにこの船自体は戦闘には参加せず、ゾディアック号近場まで『デヴィッドソン装甲巨人隊』のフェニックスホーク2機と、今回の作戦の要である歩兵部隊――『機兵狩人小隊』が1個歩兵小隊、キースの『SOTS』が1個歩兵小隊――を運ぶだけである。

 そしてその歩兵部隊は、この3日の間に大急ぎで用意された、草原用迷彩服を着用している。ちなみに、どこら辺にゾディアック号が着陸しているかが判然としなかったため、この際だから色々な柄の迷彩服を一括で揃えていた。そのため、金額はちょっとだけ安く上がった。

 この歩兵部隊には通常の歩兵の他に、志願したサイモン老ら整備兵の一部と偵察兵たちが加わっている。サイモン老はかつてゾディアック号に長年乗組んでいたことがあったため、道案内兼特殊工作要員だ。またもう1人、整備兵の中からコンピュータの操作に長けたパメラ伍長も付いて来ている。彼女の役割は基本的に、ゾディアック号を取り戻した後の話だ。機密情報などを消去されたりしないうちにコンピュータの情報を奪ったり、消されない様にロック、あるいは消されたファイルの復元などを担当する。彼ら戦闘能力が無い整備兵たちの護衛役として、3人の偵察兵ネイサン軍曹、アイラ伍長、そして『機兵狩人小隊』からエルンスト曹長が付いて来ている。

 やがて3隻の発進準備が整う。レパード級降下船ゴダード号に搭載されたサンダーボルトに乗っているアルバート中尉が、全部隊に号令をかけた。

 

『全降下船、発進せよ!目標はユニオン級ゾディアック号より南に5km地点!全降下船は低空侵入した後、そこでいったんメックと歩兵を降ろし、リライアント号はそこで待機!ゴダード号とヴァリアント号は、メック部隊と歩兵部隊が進発した後にゾディアック号へと向かい、一撃離脱を繰り返す!メック部隊はそのまま前進し、ゾディアック号前に展開!囮攻撃を行う!バトルメックが出てきたならば、乱戦に持ち込め!

 歩兵部隊の諸君!今回の主役は君たちだ!我々戦場の王者バトルメックをさしおいて、ヒーローになるチャンスだぞ!ボーナスもはずむ、期待しておけ!歩兵部隊は通信封鎖してゾディアック号に接近、バトルメック降船ハッチが開いて降りてくるのを待ち、そこから突入せよ!後の指示は各歩兵部隊指揮官に従え!』

 

 キースは自分の乗機、グリフィンの操縦席でアルバート中尉の話を聞いていた。ユニオン級の攻撃力は凄まじい。また乗っている人員の数も多いだろう。歩兵部隊、メック部隊に被害が出ないだろうか、と彼は不安になる。だが彼は頭を振って、無理矢理に気を取り直す。彼は自分麾下のメック小隊に通信を繋いだ。

 

「傭兵小隊『SOTS』の皆、いよいよ第一歩だ!あの船を使っている連中の中に、恨み重なるハリー・ヤマシタやトマス・スターリングに連なる者たちがいる!叩き潰して貸した分をいくらかなりと返してもらおう!」

『こちらアンドリュー軍曹、了解!狙い目は前回逃がしたドラゴンだな!?あれがどうやら火力小隊の隊長機っぽかったし、ハリー・ヤマシタの腹心が乗ってるんだよな!』

『エリーザ軍曹、了解!アンドリュー?上級指揮官はみんな、ヤマシタやスターリングの手下だって話だったわよ?』

『マテュー少尉、了解!そうですよ。別にあのドラゴンばかりにこだわる必要はありません、よりどりみどりです。それと基本は我々は囮ですからね。歩兵部隊がユニオン級を制圧してから、奴らを逃がさない様にするのがいいでしょう。それまでは、せいぜい派手っぽく戦うフリだけして、目立ってやるんです。最初は時間稼ぎだと言う事を、忘れないでください?』

 

 アンドリュー軍曹は不敵に笑う。

 

『けどよ、倒せるもんなら倒しちまってもいいんじゃね?』

「残念だが、うかつに早目に倒してしまうと、ユニオン級が飛んで逃げる可能性がある。」

『あ……。そっか……。』

 

 キースの言葉に、アンドリュー軍曹は残念そうになった。キースはそんな彼に、再度発破をかける。

 

「だがゾディアック号を制圧した後なら、やり放題だ。奴らと我々では、若干だが腕前の平均値はこちらの方が上と見た。特にあのドラゴン、後方から静止射撃していたのに、ほとんど命中弾が無かったことからみて、カモだ。おそらくコネだけで上に行ったやつの典型に違いない。

 恨みを晴らすだけじゃなく、ぼろ儲けするチャンスだぞ?傭兵大隊『BMCOS』ではドラゴンは無かったからな。ウォーレンさんに契約の詳細について確認したところ、『BMCOS』のじゃない機体に関しては、鹵獲や撃破した場合報奨金が出るそうだ。」

『そ、そっか!ああ、なんかやる気が出て来たぜ!』

『元『BMCOS』の機体だったとしても、そうなったら隊長の所有物になるのよ?つまり、うちの部隊の機体も同然!』

『おお!ますますやる気が!』

 

 アンドリュー軍曹は元気になった。そしてカイル船長から通信が来る。

 

『隊長、うちの船の番が来た。離陸するよ。』

「わかった。今回は危険だからな、気を付けてくれ船長。」

『なに、こういう感覚が懐かしくて現役復帰したんだからね、私も副長のイングヴェも。大丈夫、船には傷一つ付けさせてたまるものかね。鈍重な地上のユニオン級なんかにね。』

「おいおい、あれは俺の家だったんだがな。」

『おっと失礼。では行くよ。』

 

 強烈な加速度が、身体にかかる。レパード級降下船ヴァリアント号は、凄まじい速度で基地付属宇宙港の滑走路を飛び出して行った。

 

 

 

 目的地までは、あっという間だった。彼らはバトルメックと歩兵を降ろし、ユニオン級降下船ゾディアック号めがけて出発した。歩兵部隊はここから作戦完了もしくは失敗した時まで通信封鎖を行い、見つかる可能性をできる限り小さくする。

 やがて彼らの機体のカメラに、巨大なユニオン級降下船が映った。キースにとっては、非常に感慨深いものがあると同時に、抑えきれない腹立ちが襲ってくる。と、アルバート中尉からの通信が入った。ちなみにアーリン中尉にもこの通話は繋がっている。

 

『キース中尉……。大丈夫だ、かならず成功するさ。必ず君の家は取り戻せるともさ。

 と言うか、成功しないと我々に後が無くなりかねないんだけどねえ。』

「ええ、確かに……。敵が連れ込んだ大量のメック戦士というか、その候補者。それに整備兵に偵察兵。我々のメックが狙いでなければ……。冷静に考えれば、我々のメックを狙うよりも良い方法なんていくらでもあるからその確率は低いんですよね。で、そうであるならば、次の可能性は……。」

『うん、確証は無いんだけどね。』

『それっていったい何の話なのかしら?』

『「あ。」』

 

 アーリン中尉は捕虜尋問の時にいなかった。だから情報の共有ができていなかったのだ。キースもアルバート中尉もすっかり忘れていたのだ。もっともその時点では、アーリン中尉は自分の小隊のクリントとウィットワースの損傷のことで、頭がいっぱい仕事いっぱいだったと言うこともあるのだが。

 アルバート中尉は、慌ててアーリン中尉に捕虜から得た情報のことを伝える。アーリン中尉が首を傾げる様子が、キースのグリフィンの通信用モニター画面に小さく映る。

 

『ってことは、もしかしたらこの惑星には……。』

「漁るに足る、何がしかの物が隠されている可能性が高い、ってことですよ。確証はない上に単なる憶測でしかないんですが。」

『だけどねえ……。最悪の事態に備えて、先手先手と手を打っておかないと、手遅れになったら大変だし。っと言ってる間に、出て来たよ。』

 

 アルバート中尉の言葉通り、ゾディアック号のメック用ハッチが展開して傾斜路になり、そこから4機のバトルメックが出撃してきた。それと同時に、ユニオン級の丸い船体の各所に付いている砲門が、キース達の方に向けて動き出した。

 

『4機?残りのバトルメックは、2機キース中尉の隊が鹵獲したから、最大10機のはずだ……。確認されている機体だけでも、あと2機存在するはず。何故出てこない?……くそ、キース中尉!アーリン中尉!作戦は予定通りだが、終わったらキース中尉の小隊を残して、私とアーリン中尉の隊は駐屯軍基地に急いで戻るぞ!万一だが、行き違いで基地を攻撃されていたら、たまったもんじゃない!』

『「了解!」』

 

 焦った声のアルバート中尉に、キースとアーリン中尉は返答を返す。そしてそのまま戦闘が開始された。キースは麾下の部隊に命令を下す。

 

「全機、走行移動による機動防御!更に熱が溜まらない程度に撃て!目標は敵フェニックスホーク!」

 

 見ると、一番まともな状態の敵機は、通常型のフェニックスホークであった。外観から判断するに、少なくとも装甲は完全である。逆に酷い状態なのがシャドウホークだ。以前の攻撃で吹き飛ばした5連長距離ミサイル発射筒は無くなったままであり、一応中口径オートキャノンは修理されているが、装甲はあちこち欠落して修理途中のまま出撃してきたのが分かる。

 ジェンナー、ジャベリンはシャドウホークよりはまだましだが、それでもジェンナーの中口径レーザー砲は1門が吹き飛ばされたままで、ジャベリンの右胴には真新しい装甲板が付けられているけれど、6連短距離ミサイル発射筒は駄目になったままであった。

 アンドリュー軍曹のライフルマンが、全力で走行して敵シャドウホークの中口径オートキャノンの着弾を避けつつ、大口径レーザー1本だけを敵フェニックスホークに撃つ。敵フェニックスホークはライフルマンの射撃を間一髪180mジャンプで避けると、アルバート中尉のサンダーボルトの方へ飛び去る。どうやらアルバート中尉が総指揮官だと見破った様だ。ゾディアック号の粒子ビーム砲と20連長距離ミサイル発射筒数基も、サンダーボルトへ集中砲火するが、全力走行している上に遠距離にいるその機体には命中しない。

 アルバート中尉の隊の副隊長をやっている、サラ少尉のD型フェニックスホークが、180mジャンプで敵フェニックスホークの前に割り込んで、右腕の中口径レーザーを照射した。だが相互に高機動しているため、そのレーザーは当たらなかった。同じくアルバート中尉の隊の、ギリアム伍長のエンフォーサー、アマデオ伍長のシャドウホークが、寄って来たジャベリンを迎え撃つ。ジャベリンは左胴の6連短距離ミサイルを発射、それは見事にアマデオ伍長のシャドウホークに4本の命中弾を与えた。だがお返しとばかりにそのシャドウホークから左脚を蹴られて、動きが急に鈍くなってしまう。どうやら腰の接続パーツを完全ではないにせよ壊された様だ。アマデオ伍長の声が聞こえる。

 

『あ!やり過ぎたか?』

『いや、その程度ならかまわん。だが時間稼ぎだからな、次は他の敵を狙ってくれよ?』

 

 アルバート中尉の注意が聞こえた。アーリン中尉の隊のアーリン中尉機フェニックスホークと、ヴェラ伍長機D型フェニックスホークは、高機動力を活かしてユニオン級の中口径レーザーと大口径レーザーの束を躱し、それぞれの機体に装備されている大口径レーザーでの反撃を行っている。だが距離が遠いためか、命中はしなかった。いやヴェラ伍長はともかく、アーリン中尉はわざと外したのだが。苦戦を演じて、歩兵部隊が船内に侵入するまでの時間を稼ぐためだ。

 次の瞬間、大空に爆音が響いた。ユニオン級の砲門が、今までバトルメックに向けられていた物も全て空へ向けられる。

 

『ひゃっほー!!』

『そうだ、これだよこれ!ああ、久しいなこの感覚は!』

 

 レパード級降下船ゴダード号船長ヴォルフ・カウフマン少尉と、レパード級降下船ヴァリアント号船長カイル少尉の声が通信機から響く。どうやら2人とも、戦争に酔っている様だ。飛び交う弾幕の中を、2隻のレパード級が飛翔する。

 

『うわ……。気圏戦闘機じゃないんですから……。』

 

 マテュー少尉のあきれた声が聞こえた。彼はウルバリーンを150mジャンプさせつつ、中口径レーザーを、わざと当たらない様に乱射している。それを見つつ、キースも粒子ビーム砲をシャドウホークの足元の岩肌にぶち当てた。見た目だけは派手な戦闘が続く。

 と、突然ユニオン級ゾディアック号からの火線が半分に減った。そして幾ばくかも経たないうちに、完全に沈黙する。敵バトルメックの動きが挙動不審になった。そしてアルバート中尉機、アーリン中尉機、キース機の各隊長機に、歩兵部隊からの通信が入る。

 

『坊ちゃん!……ゴホン、隊長!やりました!わしらの家は、取り戻しました!アルバート中尉も、アーリン中尉も、もう手加減する必要ありませんですわい!すぐにこちらからも、援護射撃開始しますでの!』

「サイモンじ……曹長、やったな!各自、もう手加減なしでいいぞ!全力で叩け!」

『『『了解!』』』

 

 マテュー少尉が、温存していた6連短距離ミサイルと中口径オートキャノン、それに使いべりしないからと無駄射ちしていた中口径レーザーを、本気で敵シャドウホークめがけて撃った。全弾見事に命中し、敵シャドウホークは衝撃で倒れ伏す。マテュー少尉のウルバリーンはそればかりではなく、転倒した相手を蹴り飛ばした。その一撃は敵機の左脚を折り砕く。シャドウホークは降伏信号の信号弾を打ち上げた。

それを横目に見ながらキースは、粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルで敵フェニックスホークを狙う。高機動で回避しようとした敵機だったが、粒子ビームが胴中央に、6発のミサイルが左胴と頭とに分散して当たった。そこへアマデオ伍長のシャドウホークが、2連短距離ミサイル発射筒と中口径レーザーを撃つ。中口径レーザーは右胴に命中し、短距離ミサイルはなんと1本が再度頭に当たった。一度に多数の打撃を受けたことで、敵のフェニックスホークはバランスを崩して転倒する。そしてそのまま動かなくなった。どうやらメック戦士が気絶した様だ。

 そしてエリーザ軍曹のウォーハンマーの粒子ビーム砲2門が火を吹く。適正距離で放たれた2条の粒子ビームは、ジェンナーの左脚を吹き飛ばし、胴中央の装甲板を蒸発させる。ジェンナーは倒れて動けなくなった。頭部ハッチが開き、メック戦士が大きく両手を上げて降伏の意図を示す。無線が壊れたらしい。

 残されたのは、腰にダメージを負ったジャベリンのみだ。機動力が減少し、逃げるに逃げられないジャベリンは、降伏信号の信号弾を打ち上げて一般回線で叫んだ。

 

『降伏だ!降伏する!ちくしょう、だから無理だと言ったんだ、あの素人隊長め!ヤマシタの腰巾着め!』

「降伏を受け入れる。メックから降りろ。……歩兵隊エリオット軍曹、聞こえるか?人数をよこしてくれ。バトルメック4機を鹵獲した。メック戦士を捕虜にする。」

『了解。今から2個分隊を、そちらへ送ります。』

「ああ、それからエリオット軍曹……。ゾディアック号制圧で、こちらの損害は?」

『犠牲者はおりません。ただし負傷者は7名、うち1名が重傷。軍医、キャスリン伍長には連絡済みであります。』

 

 キースは大きくため息を吐いた。

 

「そうか……。軍曹、ご苦労だった。」

『は!ありがとうございます!』

 

 ここでアルバート中尉から連絡が入る。

 

『キース中尉、あとはここの事を任せていいかい?私とアーリン中尉は急いで基地に戻る。ここには戦力が少なすぎた。万が一があるかもしれないからね。』

「了解です、アルバート中尉。まかせてください。」

 

 見ると、レパード級降下船ヴァリアント号、ゴダード号は既に着陸しており、その隣にリライアント号がおっかなびっくり着陸するところであった。アルバート中尉の『機兵狩人小隊』、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、急いでそちらにメックを走らせている。やがて両小隊のバトルメックを載せたゴダード号、リライアント号は垂直離陸すると、推進器を噴かしてドリステラⅢ駐屯軍基地の方角へ、文字通りすっ飛んで行った。

 キースはヴァリアント号ブリッジに通信を入れる。

 

「カイル船長、あなたかイングヴェ副長のどちらかがゾディアック号に移乗して、操船をお願いしたいのだが。」

『わかったよ、今から副長がそちらに……。』

『ま、待ってください船長!私だって航空機型のレパード級の方が好きなんですよっ!?』

『むむ、じゃあ、じゃんけんだ。じゃーんけーん……。』

『ぽい!……ああーーーっ!!負けたーーーっ!』

『と言うわけで、副長がそちらの船に行くよ。』

「……早くしたまえ。」

 

 頭痛がした様な気がして頭を押さえたキースは、めげずに次の処理をする。

 

「バトルメック隊各員、それぞれ手近な鹵獲機をかついで、ユニオン級ゾディアック号に運び込むんだ。俺は周辺警戒してるから、残り1機は誰かが2回運んでくれ。」

『『『了解!』』』

(うん、これでこそ部隊ってもんだよな。)

『しっかし、撃破機がなくて4機とも鹵獲できたっつーのは快挙だよな。儲け、儲け。マテュー少尉、ライフルマンの腕にそのジャベリン乗っけてよ。』

『ちょっと、急ぎなさい。アルバート中尉たちが急いで基地に帰った理由、わかってるでしょ?あ、マテュー少尉、こっちにもお願いします。』

『ウルバリーンは1機しかないんだから、そんなに急かさないでくださいよ。』

(……うん、これでこそ、うちの部隊なんだよな。はあ……。)

 

 どうやら小隊のほとんどが、戦闘終了で気が抜けているらしい。キースは気合を入れ直すことにした。

 

「メック部隊!全員、謹聴!!」

『『『はいっ!?』』』

「いくらなんでも気を抜き過ぎだ!俺が周辺警戒してる意味ぐらいわかるだろう!想定敵戦力の残りが、いつ戻ってくるやも知れないんだぞ!」

『『『申し訳ありません!』』』

「……いや、わかってくれれば良い。ネイサン軍曹、アイラ伍長。ヴァリアント号からジープを降ろしてくれ。君ら2人には申し訳ないが、ゾディアック号を基地に回航した後で、敵戦力が戻ってくる可能性があるので、しばらくここでの監視を頼みたい。」

 

 通信機で通信内容を苦笑して聞いていたネイサン軍曹とアイラ伍長は、グリフィンに向かい敬礼する。

 

『『了解!』』

「頼んだぞ。撤収時期は、追って知らせる。ただし万一敵戦力に発見されたら、即座に撤退、撤収する様に。」

 

 そうこうしている内に、ゾディアック号の発進準備が整った。先にレパード級であるヴァリアント号を帰らせ、ゾディアック号に乗り込んだキースは思う。

 

(ああ……。ほとんど変わってないな。いや、今は郷愁にかられている場合じゃない。)

 

 

キースは自分の顔をパチン!と両手で挟む様に叩く。そこへサイモン老がやって来た。

 

「隊長、どうしましたかの?」

「ああ、いや。郷愁にかられている場合じゃないって、気合いを入れ直してたんだ。はは。」

「そうですか……。まあ、仕方が無いんではないですかのう。隊長……坊ちゃんは4年半ぶりですし。」

「ん……。だけど今の俺は隊長だしね。」

「気を張り過ぎても、いけないもんですよ。」

「そうか……。そうだね、サイモン爺さん。」

 

 そしてゾディアック号は発進した。

 

 

 

 幸いなことに、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地襲撃は、可能性だけで終わった。敵は基地戦力が全力出撃しているという、この絶好の機会を見逃したのである。その理由はわからないだけに不気味であったが、とりあえずキース達は一息つくことができた。

 その他にも、良い事があった。ゾディアック号に、莫大な数の資材が積まれていたのである。その最たる物は、メック部品や気圏戦闘機部品だ。無論これらのほとんどは恒星連邦へ接収される。バトルメックや気圏戦闘機、ゾディアック号そのものと異なり、これらの資材は元『BMCOS』の物であったかどうかを判断するための材料が無いに等しいのだ。それでも元『BMCOS』の物であったと判断された少数の物は、キースの手に残された。

 そしてこれらの資材を得た報酬として、現金ではなく資材の一部を渡してもらえる事になったのも、良いことだろう。バトルメックや気圏戦闘機の部品は、資金だけあっても確実に手に入る物では無いのである。キースたちはそれらの資材の中から、フェニックスホーク、ウルバリーンの部品を優先して受け取っていった。

 もう1つ、今回ほとんど無傷で鹵獲できた標準型フェニックスホークが、元『BMCOS』の物であったことが判明した。これに乗っていたメック戦士は、『BMCOS』隊員を戦闘員、非戦闘員問わず虐殺した、あの特殊部隊員であったのだ。キースはこのフェニックスホークを、アーリン中尉の部下であるメック戦士リシャール・ジェレ少尉に貸与することを決定した。彼の本来の乗機は40tのクリントという高機動メックであり、操縦性はフェニックスホークに近い。フェニックスホークに乗せるには、うってつけの人材であった。更に彼らは得たフェニックスホーク用の資材を用い、同じくアーリン中尉の部下、メック戦士ヴェラ・クルーグハルト伍長のD型フェニックスホークを完全修理した。

 これでアーリン中尉の小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』で実動していないのは、メック戦士ヴィルフリート・アーベントロート軍曹の40tバトルメック、ウィットワースだけになった。これについてはサイモン老がフェニックスホーク用の大腿駆動装置と足駆動装置を流用して、応急修理中である。40tメックに45tメックの部品を無理矢理取り付けるのだから、相当な無理があるのだが、サイモン老は鼻歌交じりで作業をこなしていた。

 だが好事魔多しとも言う。第4アン・ティン軍団C大隊第3中隊の残存戦力及び多数のメック戦士候補者と整備兵、偵察兵たちの行方は、一向に判明しなかった。そんな時である。ゾディアック号の司令室の開かない金庫を開けようと奮闘していたアイラ伍長が、基地の指令室に駆けこんで来たのは……。




歩兵戦力の有効活用で、ユニオン級降下船ゾディアック号は奪還できました。ですが、もしかしたらですが、まだまだ厄介毎の種は残っている様で……。
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