鋼鉄の魂   作:雑草弁士

24 / 108
『エピソード-010 遺失技術』

 日が暮れた草原と言う名の荒れ地を、8機のバトルメックと10台の車両が進んでいた。先頭に立つのは70t級の重量級バトルメック、ウォーハンマーである。エリーザ軍曹が操るこの機体には、サーチライトが搭載されていた。それ故、一番先頭を任されている。

 やがて先行して偵察活動を行っていたジョアナ少尉のフェレット偵察ヘリコプターが、着陸して一行を待っているのが見えてくる。あそこが本日の野営場所なのだ。

 

『やれやれ、ようやく野営か。さすがに疲れたぜぇ……。』

 

 一行の最後尾を歩いていた60t級ライフルマンのメック戦士、アンドリュー軍曹がぼやく。彼らはここに至るまで、かなりの強行軍を強いられてきたのだ。ウォーハンマーのエリーザ軍曹が、突っ込みをいれた。

 

『ぼやかないの。あんたとあたしは、最初の立哨なんだから、まだ休めないわよ。交代で食事を摂ったら、またメックに戻らないと。』

『うげぇ……。』

『何不満そうな声出してるのよ。あたしとあんたは、一番楽なんだからね?途中で起こされることもなしに、終わったら朝まで眠れるんだから。

 キース中尉、マテュー少尉にヴィルフリート軍曹は、一番きっつい深夜ど真ん中の立哨だし、アーリン中尉、リシャール少尉、ヴェラ伍長は最後朝までの番だから、立哨が終わって朝ごはん食べたらそのまんま出発なんだから。』

 

 アンドリュー軍曹は、疲れた口調で抗弁しかける。

 

『ああ、わかってはいるんだけどよ……。ああ、わかったから何も言うな。』

『じゃ、先に夕食を摂ってらっしゃい。』

『アンドリュー軍曹、お先に夕飯を喫食させていただきますっ!』

 

 彼らのやりとりを聞きながら、キースは操縦席に常備しているガウンを羽織って自分の乗機55tグリフィンから降りる。彼はいつもTシャツとトランクスだけでメックに乗り込んでいるので、ガウンは必須装備だ。そして彼は戦闘糧食のパックを駆け寄って来た歩兵から受け取り、てきぱきと開け始めた。水との化学反応で発熱するレーションヒーターも付属してはいるが、彼はそれを使わない。と言うより、メック戦士がメックと共に野営をする場合、滅多に使わない。それよりも良い熱源が、近場に存在するからだ。

 彼はグリフィンの脚部にある放熱器の隙間に、水を注いだコッヘルを突っ込み、沸騰するのを待ってそれにレトルトパックを放り込む。糧食が温まるのを待つ間、粉末のコーヒーを用意し、これもグリフィンの放熱器で沸騰させた熱湯で溶く。ふと見ると、歩兵たちや整備兵たち、偵察兵たちはレトルトパックをレーションヒーターで温めている。レーションヒーターでは温まり切らない場合もあるのだが、彼らはさすがにメック戦士にメックの放熱器を使わせてくれとは頼まない。これはメック戦士だけの特権と言えるのだ。

 そんな中、頼んで来る剛の者が存在した……かと思ったら、それはフェレット偵察ヘリコプターを使っているジョアナ少尉であった。

 

「隊長、すいませんがバトルメックの放熱器で、お湯を沸かさせてもらえませんか?」

「……ああ、かまわない。グリフィンの、もう片脚の放熱器を使ってくれ。ただし、コッヘルやヤカンを取り出し忘れるなよ?整備兵が怒るからな。」

 

 ジョアナ少尉は、元々メック戦士と同格の地位である気圏戦闘機パイロットだ。身分が違う歩兵や偵察兵、整備兵たちとは異なり、多少無礼な頼み事をされたとしてもそうは問題ではない。もっとも前世における生活習慣の記憶を持つキースには、身分差という物はいまいちピンと来なかったが。少なくとも、メック整備をしてくれる整備兵たちぐらいには、メックの放熱器を使わせてやってもいいのではないかと思ってもいる。整備兵はメック戦士にとって命綱であることだし。

 ただキースには、この身分制度を自分で破壊しようと言う気は無い。というか、うっかりそんな事をすれば社会からはじき出されてしまいかねない怖さがある。それに、身分が下の者に上の者があまり親切にし過ぎると、逆に相手が恐縮したり、最悪の場合には侮られて戦闘中などに指示や命令を聞かなくなったりする危険がある。適度な距離感と言う物は、社会背景で変わってくる物だった。

 そうこうしている内に、レトルトパッケージは温まった。キースは携帯用食器に糧食を盛り付ける。メインはビーフステーキで、それにメキシカンライス、ピーナツバター付きクラッカー、粉末ジュース、ビーフジャーキー、おまけにキャラメルが付いてくる。勿論のことだが、温めたのはステーキとメキシカンライスだけである。ステーキは、ステーキと言うよりもハムっぽい感じであった。メキシカンライスの味も濃い。

 

(まあ、戦闘糧食ってのはこんなもんだ。サバイバル訓練でカエルや虫を食べたときよりはずっとましだよな……。)

 

 キースは糧食を口の中にかき込み、粉末ジュースとコーヒーで流し込む。わずかしか時間は経過していない。普通ならあまり良い癖とは言い難いが、緊急発進に備えての早飯は、いつの間にか習慣として彼に根付いていた。歩兵が用意してくれた天幕で、彼は寝袋に潜り込むと、瞬時に寝入ってしまう。これも軍人の心得の一つであった。

 

 

 

 深夜にメックでの立哨を交代し、3時間ほど見張り番をしたら、また元の天幕に戻り寝入る。そして朝が暗いうちに起き出し、再び戦闘糧食で朝飯を喫食し、歩兵たちが設営した簡易トイレで用便を済ませる。

 

(……トイレットペーパーが存在する時代に生まれ変わったのは、幸せだよなー。サバイバル訓練では木の葉なんかを使ったもんだが……。毎回アレや、ワラや縄で尻を拭くこと考えたら、文化レベルが中世のファンタジー世界なんかに生まれ変わらずに済んで、こればかりは助かったよな。)

 

 微妙な感慨を覚えたキースであった。

 その後キースは盗聴や傍受の可能性の低い高精度指向性アンテナの通信機を使って、ドリステラⅢ駐屯軍基地に定時連絡を入れる。

 

(今度、指揮車輛も購入を検討しないとなー。いちいち屋外にアンテナ設置してたら面倒だし。歩兵にも、余計な手間をかけさせちまうことになるしさ。スィフトウィンド偵察車輛の方が、安くつくかな?通信能力はピカいちだしな、あの車輛は。ただ頑丈さや、いざという時の応戦能力考えるとなあ……。)

 

 キースは考えを切り上げると、グリフィンに乗り込み出発を指示した。歩兵たちがてきぱきと、野営地の撤収を始める。フェレット偵察ヘリコプターへの燃料補給は、2台付いて来ている燃料補給車――これはキースの部隊『SOTS』やアーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』の装備ではなく、駐屯軍基地にあらかじめ備え付けられていた装備である――によって完了していた。フェレット偵察ヘリコプターと偵察兵たちのジープを先行偵察に出し、残りの本隊は通常速度での進軍を行う。

 

(さて、マップ上ではそろそろ目標地点だよな。)

『キース中尉……。そろそろ……。』

「ああ、わかっていますアーリン中尉。全員気を引き締めろ!これより我が隊は無線封鎖に入る!おそらくドラコ連合軍は、現場にいるはずだ!全員注意して進め!」

『『『『『『了解!』』』』』』

 

 しばらくの間、無言で彼らは進む。やがて山岳に入り、渓谷の間に入った。そこでジョアナ少尉のフェレット偵察ヘリコプターが戻ってくる。フェレットより発光信号が発せられた。

 

(敵バトルメックを超遠距離にて確認、発見される恐れがあるので帰還した、敵メック総数は12機、機種は遠すぎて判別不能……か。12機となると、確実に発掘品が混じっているかあ……。)

 

 キースはメックのハンドサインで車輛部隊に停止を命じ、メック部隊だけで前進する。やがて偵察兵たちのジープも戻って来て、これも発光信号で報告した。

 

(敵バトルメックを確認、機種はスティンガー5、ワスプ2、ドラゴン1、ウルバリーン1、及び改造機と見られる軽量級メックがジェンナー1、スティンガー1、ワスプ1……。ドラゴンとウルバリーンは「古い」機体、その他は「新品同様」……。

 古い機体、という事は使い込まれた機体と言う事だろ……。その他の機体は新品同様という事は、メック倉庫から持ち出した機体と言うことだろうけどなあ……。どういう事だ?敵の指揮小隊はどこに行ったんだ?)

 

 キースは、例の印が付けられた惑星マップの写しを取り出して確認する。第1ポイントは以前ゾディアック号が着陸していた地点からさほど遠くはない。しかし次に近い第2ポイントは、ちょっと遠い。できるならば降下船で飛んでいきたい距離だ。

 

(だが降下船の推進剤にも限りがある。それに大型レーダーは当時使用不能にされていたが、あちこちの惑星軍基地にある小型のレーダー施設は動いていた。それらによる検知範囲はせまいとは言え、あまり降下船で飛び回ると発見される恐れがあった……。それを嫌ったんじゃないか?

 まてよ?敵の指揮小隊は、かなり以前から姿が見えなかった。まさかその時から移動を開始していたのか?第2ポイントまでメックの歩行で?)

 

 キースは頭の中で、敵降下船が着陸してから今までの時間と、第2ポイントまでの距離とメックの平均的移動速度をざっと暗算してみる。

 

(もしそうなると、今頃は第2ポイントへの道のりの3/4まで踏破していることに。……ま、まずいかも。これは急がなきゃならんかも。第2ポイントまで盗られてたら、えらいこっちゃ。)

 キースはメックのハンドサインでメック部隊に移動速度アップを命じる。更に彼らは接敵に備え、フォーメーションを整えた。キースのグリフィン、アンドリュー軍曹のライフルマン、ヴィルフリート軍曹のウィットワースが後衛、マテュー少尉のウルバリーンとエリーザ軍曹のウォーハンマーが前衛、アーリン中尉とリシャール少尉のフェニックスホーク、ヴェラ伍長のD型フェニックスホークが遊撃だ。

 やがて遠くにバトルメックが動いているのが見えた。ドラゴンとウルバリーンがいちばんこちら側に近い位置で、その向こうでぴょんぴょんジャンプジェットで跳躍して、おそらく機体に慣れるための完熟訓練を行っているのがスティンガーとワスプだ。おそらくはスティンガーとワスプも新品同様という事は発掘メックなのだろうが、ほぼ間違いなく発掘品だと思われる改造メックは岩陰にでも隠れているのか姿が見えない。

 キースは命令を下した。

 

「攻撃開始!目標はウルバリーンおよび敵指揮官機と見ゆるドラゴン!攻撃力に乏しいスティンガーとワスプは、脇や背後に回られない限り無視していい!ただし改造機が出てきたら、どんな能力を持っているかわからんから早目に叩き潰す必要がある!その場合、目標変更して集中攻撃だ!

 ウルバリーンはアーリン中尉たちでお願いします!こちらの小隊は遠距離攻撃力に優れているので、ドラゴンを狙います!」

『了解!聞いたわね、皆!わたしたちはウルバリーン相手よ!』

『『『了解!』』』

 

 アーリン中尉麾下の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、ウィットワースを残し、高機動力を活かしてウルバリーンに突撃していく。一方キース指揮下の『SOTS』の面々も、行動を開始した。

 

『俺たちはドラゴン相手か、了解!』

『了解!ドラゴンを狙いつつ前進します!』

『了解!逃がさないように側面へ回り込みます!』

 

 アンドリュー軍曹のライフルマンが、中口径オートキャノン2門と大口径レーザー1門を発射する。エリーザ軍曹も、両腕の粒子ビーム砲を一斉発射しながら走行移動でドラゴンに近づく。マテュー少尉のウルバリーンは中口径オートキャノンを撃ちながら、その高い機動力でドラゴンの側面へ回り込み、退路を断とうとする。キースもグリフィンの粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを一斉発射した。

 敵指揮官機らしきドラゴンはキースたちの機体を発見すると、後退しつつ中口径オートキャノンと10連長距離ミサイルをマテュー少尉のウルバリーンめがけて発射する。だが一向にその射撃は当たらない。逆にキースたちの射撃はその8割以上が命中する。外れたのはわずかに、ウォーハンマーの粒子ビーム砲が片方だけだ。ドラゴンは火だるまになった。だが着弾箇所はばらけてしまい、致命傷は与えられていない。ドラゴンはバランスを崩しかけたが奇跡的に持ち直し、必死に後退をはかる。

 その時、敵陣の更に後方からレーザーの光条と粒子ビームのエネルギー束が発せられる。狙われたのは、マテュー少尉のウルバリーンだ。全力移動していた彼の機体には、幸い命中はしなかった。だがその射撃により、彼はドラゴンを逃がさないための機動を断念せざるを得ない。彼は叫ぶ。

 

『馬鹿な!粒子ビーム砲と中口径オートキャノンの有効射程はほぼ同じはず!なんでこちらの攻撃が届かない場所から撃って来て、相手の攻撃が届く!?しかも若干射程が短い大口径レーザーまで!』

(長射程型粒子ビーム砲に、長射程型大口径レーザーか!発掘メックの真骨頂かよ!)

 

 キースは唇を噛む。そうこうしている内に、スティンガーとワスプの群れがドラゴンの前に出てきた。だが問題は更にその後ろから、信じがたい長距離ジャンプで現れたジェンナーの改造機である。明らかにジャンプジェットを増設しているその機体は、更に武装も換装しているのが見て取れた。目立つのは胴体の左右に1基ずつ計2基装備された6連短距離ミサイル発射筒であるが、こっそりとそこはかとなくマシンガンも2門搭載されている。火力は軽量級としてはかなりの物である。ラッキーヒットがあれば、重量級の機体ですら討ち取れるかもしれない。おそらくこの機体にも、なんらかの遺失技術が投入されているのだろう。

 先の指示に従い、敵のウルバリーンを攻撃していた『デヴィッドソン装甲巨人隊』の3機のフェニックスホークが、そのジェンナー改造機に目標変更して大口径レーザーの攻撃を集中する。エリーザ軍曹のウォーハンマーも機体の上半身を捻り、左腕で粒子ビーム砲を放った。それらの攻撃のうち、半数が命中弾となる。だが命中したはずのアーリン中尉機の大口径レーザーと、エリーザ軍曹の粒子ビーム砲の一撃は、ジェンナー改造機が発生させた妙なエネルギーフィールドに阻まれ、その軌道を曲げられてしまい、ジェンナー改造機には傷一つ与えられなかった。

 

(エネルギー偏向フィールド発生装置だと!……やってくれる。あの機体が盾になって、その間に長射程型大口径レーザーと長射程型粒子ビーム砲で滅多打ち、と言うつもりか。だけど、そうはさせない!)

 

 キースは新たな指示を叫ぶ。

 

「方針変更だ!ジェンナー改造機にはエネルギー兵器は効果がない!格闘距離に持ち込むのもあの武装では危険だ!『デヴィッドソン装甲巨人隊』のフェニックスホーク3機はその高機動力で敵最後衛の2機、スティンガーの改造機とワスプの改造機を無力化してください!ジェンナー改造機には、ヴィルフリート軍曹と俺の機体で長距離ミサイルの雨を降らす!軍曹、頼めるか!?」

『……了解ッ!』

 

 ヴィルフリート軍曹は、直属の上官ではないキースからの指示に一瞬戸惑った。だがそれが命令では無く頼みという形を取っていたこと、アーリン中尉がその指示に異議を唱えなかったこと、それにキースは部隊吸収合併後には直接の上司になることなどを考え、なによりも彼の声に含まれていた言いしれない威厳に従って、了解の返事を返した。

 キースは続けて指示を飛ばす。

 

「アーリン中尉!敵の遺失技術粒子ビーム砲は最低射程がありません!接敵しても油断はしないでください!アンドリュー軍曹、オートキャノンでジェンナー改造機を!マテュー少尉、エリーザ軍曹は指揮官機ドラゴンを逃がすな!」

『『『『了解!』』』』

 

 ジェンナー改造機は自分の傍らを走り抜けるマテュー少尉のウルバリーンを狙い、全開射撃を敢行。2門あるうちの片方の6連短距離ミサイルだけを命中させる。それは見事にマテュー少尉機の頭部に命中した。キースはそのミサイルの射線が異様な動きを見せるのを見て、内心歯噛みする。

 

(くそ、板○サーカスじゃあるまいし!あれも遺失技術の恩恵か……。そうか!アルテミスⅣFCSか!?)

『うわっ!!』

「マテュー少尉!損害を報告!」

『は、はい!生命維持装置が吹き飛びました!ですがそれ以上の問題はありません!』

 

 しかしマテュー少尉の声音には、ウルバリーンの頭部にダメージを受けたことによる負傷の苦痛が、如実に表れていた。キースのグリフィン、ヴィルフリート軍曹のウィットワースが並んで長距離ミサイルを発射する。更にアンドリュー軍曹のライフルマンが中口径オートキャノン2門を撃つ。

 

『くそ!マテュー少尉の仇だ!』

『い、いや私はまだ死んでないんだがね。』

 

 アンドリュー軍曹に対するマテュー少尉の突っ込みと同時に、ジェンナー改造機がボコボコに叩かれる。ジェンナー改造機は左脚を吹き飛ばされて転倒した。キースは再度指示を飛ばす。

 

「ジェンナー改造機にはこれ以上かまうな!大きく迂回すれば短距離ミサイルは恐れるに足らない!

 ……!?エリーザ軍曹、足を止めるな!そのスティンガーは危険だ!」

『は、はい!?』

 

 キースの目には、手に持った中口径レーザーでエリーザ軍曹のウォーハンマーを狙う1機のスティンガーの姿が捉えられていた。いや、それは中口径レーザーであっただろうか。通常のスティンガーが持つ中口径レーザーは、オミクロン3000中口径レーザーである。しかしそのスティンガーの手にあるものは、明らかに違う形をしている。そしてその中口径レーザーが火を……吹かなかった。キースは自分の予想が当たった事を知る。

 

「エリーザ軍曹、耐ショック!」

『え!?はいっ!』

 

 次の瞬間、エリーザ軍曹機に多数のミサイルが着弾する。そのミサイルは空から降って来たのだ。ちなみに運悪くウォーハンマーの周囲にいたスティンガーやワスプにも、ミサイルは着弾していた。運が悪かったワスプ1機は、短距離ミサイルの弾薬に直撃をくらって爆散する。キースはグリフィンの粒子ビーム砲で例のスティンガーを狙った。しかしそのスティンガーは180mジャンプでグリフィンから遠射程となる場所を飛び回り、キースの技量を持ってしてもなかなか命中弾を送り込むことができない。キースは叫んだ。

 

「アンドリュー軍曹!大口径レーザー1門であのスティンガーを狙い続けろ!他の目標を狙う際でも、必ず大口径レーザー1本はアレを撃ち続けるんだ!」

『え!?』

「あれは着弾観測機だ!しかも星間連盟期の着弾観測用のシステムを用いている!目標補足ギア、というやつだ!アレを破壊することが叶わなくてもいい、常にジャンプ機動を強いて、奴に着弾観測をさせるな!」

『りょ、了解!』

 

 キースの小隊である『SOTS』メンバーは、間接砲撃の恐ろしさをよく知っている。キースが着弾観測員を、サイモン老が間接砲撃手を務めた戦いにおいて猛威を振るったそれを、彼らが恐れないわけが無いのだ。

 アンドリュー軍曹に着弾観測機の相手を任せたキースは、自身はマテュー少尉機を後ろから狙おうとしている敵のウルバリーンを狙撃した。粒子ビーム砲は遠距離であったにもかかわらず相手の背中から命中し、どうやら何かの損害を与えた様である。その機体は動きが急に鈍くなった。キースがサブモニターの熱映像画面を見遣ると、その敵ウルバリーンは機体の温度が急激に上昇している。どうやら核融合炉の外殻を破壊したらしい。そしてしばらくすると、ウルバリーンは熱が溜まり過ぎて融合炉が自動的にシャットダウンしてしまった。

 しかしまた敵を1機片付けたとは言え、こちらの優位が絶対的になったわけではない。何故ならば、敵の着弾観測機は、そこそこの技量の持ち主である様だったからだ。今度はマテュー少尉のウルバリーンが間接砲撃の餌食になる。ただしその着弾観測機の乗り手は、味方撃ちも気にしない様だった。またもスティンガー1機とワスプ1機が巻き込まれ、爆散する。

 

「マテュー少尉!損害は!」

『右胴にダメージ集中しました!ここに次喰らったら持ちません!』

「く、マテュー少尉!下がれ!」

 

 あの着弾観測機が生きている以上、じり貧だ。敵の指揮官機ドラゴンは、スティンガーやワスプを捨て駒にしつつ、じりじりと後退している。エリーザ軍曹のウォーハンマー、ヴィルフリート軍曹のウィットワースがしばしば命中弾を与えてこそいるが、どうにもダメージが散ってしまって致命打を与えられないでいる。

 

(くそ、味方にも間接砲があれば!サイモン爺さんがいてくれれば!あるいは敵のアローⅣ誘導ミサイルがなんとかなりさえすれば!)

 

 キースが苛立ちを噛みしめた、その時である。

 

『いいぃやっほおおおぉぉぉ!!』

『ま、マイク!?あんた何処にいるのよ!!』

『よおジョアナ!俺のライトニングが直ったんで、試運転がてら今からそっちに支援しに行く途中だったんだけどよ!アルバート中尉の命令で!そしたら大物がかかったんだぜ!』

 

 無線に向かい、キースは叫んだ。

 

「マイク少尉!状況報告!」

『は、はいっ!さっきの話の通り、アルバート中尉の命令で、そちらを支援に行く途中だったんすけど、そこで変なメックを見かけまして……。そっちの方角に向けて、背中に背負ったでっかいミサイル発射筒からミサイル撃ってたんす。IFFも味方の反応出してなかったですし、こりゃアレだなと思いまして、オートキャノンで撃ったんすよ。そしたら頭に当たって吹き飛びまして。』

 

 キースは続けざまに叫ぶ。

 

「よくやってくれた少尉!」

『は……え?あ、俺、もしかしてお手柄?』

『キース中尉!こっちもやったわよ!スティンガーの改造機と、ワスプの改造機、2機とも脚を蹴り折ってやったわ!損害は多少装甲が削れただけ!』

「お見事です、アーリン中尉!皆、一息に揉みつぶすぞ!」

 

 キースの檄に応え、全員の士気が上がった。とうとうアンドリュー軍曹の大口径レーザーの一撃が、着弾観測をしていたスティンガーを撃墜する。『デヴィッドソン装甲巨人隊』の3機のフェニックスホークがドラゴンの退路を塞ぐ。エリーザ軍曹のウォーハンマーがそのドラゴンに接近して、砲を撃つ構えを取る。

 次の瞬間である。ドラゴンはまだ戦闘能力があると言うのに、降伏の信号弾を打ち上げた。通信機の一般回線からも、悲鳴のような声が響いて来た。

 

『降伏する!降伏する!ぶ、部下たちにも降伏させるから、わしの命だけは助けてくれ!』

「……降伏を認める。部下たちに降伏命令を出したら、メックから降りろ。」

 

 戦いは、あっけなく終わった。

 

 

 

 キースは歩兵たちに組み上げさせた高精度指向性アンテナの通信機で、駐屯軍基地と連絡を取っていた。

 

「……と言うわけです。ここには敵の指揮小隊はおりませんでした。おそらくはこの惑星に着陸直後から、第2ポイントへと向かっていたのではないかと思われます。」

『まいったね、それは。』

「はい……。それで、ここの倉庫は敵の探し残しが無いか調べようと最初は考えていたのですが、それを中止して即座に帰還しようと思います。そして部隊の各メックの修理を急ぎ、降下船ゾディアック号とヴァリアント号、ゴダード号をもって第2ポイントへ急ごうと思います。」

 

 そのキースの提案を、アルバート中尉はしかし却下する。

 

『いや、倉庫の調査は重要だ。探し残しは無いとは思うが、やっておいてくれないかね?時間短縮には、別の手を使うから。』

「……それは、もしや?」

『うん。つい昨日の昼ごろ、公爵閣下から推進剤が山と届いたんでね。今から第1ポイントに降下船を飛ばすよ。だから降下船が着くまでは倉庫の調査と、破壊した発掘メックの回収……一応遺失技術が使われてる可能性も考えて、完全破壊しちゃった残骸も持って帰ってほしいね。メックの修理も装甲板の換装とか簡単な物なら、基地までの移動中にやっちゃっておいてね。

 それで、メックが全機完全になり次第、レパード級ヴァリアント号とゴダード号で第2ポイントに急行してもらいたいんだ。これなら、当初案よりは3日ほど早く事が運べる。上手くすれば、敵の指揮小隊が発掘メックを掘り出す前に、そうでなくとも機種転換訓練を終えて使いこなせる前に、第2ポイントへ到着できる。

 今は巧遅よりも拙速を貴ぶ時だよ。』

 

 キースは思わず無線の相手も見えないのに頷いてしまった。

 連絡が終わると、アーリン中尉がキースの方へ歩いて来る。メックから降りたばかりなので、彼女もガウン姿だ。この惑星の駐屯軍には、冷却パイロットスーツや冷却チョッキなどと言う高級品を持っているメック戦士はいない。彼女はキースに問いかける。

 

「ねえキース中尉。あなた随分敵の装備品に詳しかったわね。星間連盟期の装備品なんて、今じゃNAISの学者ぐらいじゃなきゃ知りもしないはずなのに。」

「ええ、以前そういった文献を読んだことがありまして。」

「へー、文献?」

 

 平然とした表情の裏で、キースはしみじみと考える。

 

(ええ、前世でリプレイ本なんかで紹介された装備と、有志が翻訳したレベル2装備までなら読んだことありますとも。中心領域のだけじゃなく、氏族の装備も。)

 

 そんなキースの内心には気付かず、アーリン中尉は尊敬の眼差しを彼に送る。キースはなんとはなしに居心地が悪かったが、にやりと笑ってアーリン中尉をごまかした。

 

「さて、偵察兵と整備兵に第1ポイントのメック倉庫に、探し残しが無いか確認させなくては。それと鹵獲もしくは破壊した敵メックを回収しないと。歩兵にも手伝ってもらわないといけませんね。星間連盟期の物品は、破片でも大事な資料になり得ますから。」

「そうね。じゃあ私たちも手伝わなきゃね。」

「お願いします。」

 

 キースとアーリン中尉は、各々自分のバトルメックへと向かい歩いていった。




トイレットペーパーが無い中世ファンタジー世界には、生まれ変わりたくないですよねー。いや、幾多の転生ものや神様転生ものだと、躊躇なく中世ファンタジー世界に逝ってしまいますが。日常生活の様々な困難とか、大丈夫なんでしょうか。現代人が適応できそうなのって、20世紀初頭が限界じゃないかなーと。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。