レーダーに引っ掛からない低空を、2隻のレパード級降下船ヴァリアント号とゴダード号が、超高速で飛翔する。ヴァリアント号のブリッジでは、本来この船の副長であるイングヴェ・ルーセンベリ准尉が奇声を上げていた。
『きゃっほおおおぉぉぉ!』
『……イングヴェ准尉!……師匠!もう少し静かに!メックベイの隊長たちにも回線繋がってるんですから。』
(……いい歳なんだから、もうちょっと落ち着いてもよさそうな物なんだがなあ。と言うか普段は落ち着いてる立派な初老の紳士なのに。)
まだ自分のライトニング戦闘機が直っていないがために、本来副長がいるべき席でこの船の操舵を手伝っている、航空兵のジョアナ少尉がぼやく声に、キースは100%賛同していた。イングヴェ副長は、カイル・カークランド船長とのじゃんけんに今回は勝利し、ヴァリアント号の操舵の権利をもぎ取ったのである。カイル船長は、後からゆっくり来るユニオン級降下船ゾディアック号の操舵を任されていた。ゾディアック号は歩兵部隊や整備兵たちを運び、更には帰りに発掘品を載せて運ぶ予定になっているため、その任務の重さはバトルメック部隊及びマイク少尉のライトニング戦闘機を運ぶレパード級2隻に、決して劣る物ではない。
そう、重要さは決して劣る物ではないのだが……。カイル船長もイングヴェ副長も、元が気圏戦闘機のパイロットである。その上に、平穏な隠居生活に飽きて現役復帰したという、ある意味物騒な輩だ。大気圏内では鈍重な、ユニオン級の操舵は彼らにとって面白い物ではないらしい。カイル船長は、じゃんけんに負けた事を非常に悔やんでいた。
やがて2隻のレパード級降下船は、平坦な草原に見事な腕前で着陸する。2隻はしばらくここで戦闘終了を待つのだ。敵が降下船とか非常識に強力な存在でない限り、味方の降下船を危険にさらす真似はできないのである。
そして2隻のメックベイハッチが開き、そこからバトルメックが姿を現す。ヴァリアント号からは、55tの傑作支援メックたるグリフィンを先頭に、同じく55tの主戦機ウルバリーン、60t級で高い対空能力を持つ支援機ライフルマン、最後にこの小隊いやドリステラⅢ駐屯軍で現状最重量級の70tウォーハンマーが、次々降りて来る。一方ゴダード号からは、45tのザ・ベストデザインとまで呼ばれるほど完成度の高い機体フェニックスホークが2機、同じフェニックスホークのバリエーションの1つたるD型――ダヴィオン家型――が1機、最後に40tと中量級メック中最軽量であるが優秀な支援能力を持つウィットワースが1機降りて来た。
更にヴァリアント号からは、1台のスナイパー砲搭載車輛がのろのろと降りてきた。これはサイモン老の愛車である。サイモン老は整備兵であるが同時に砲兵でもあり、今回はゾディアック号に乗って後から来る他の整備兵とはわかれて、メック部隊に随伴してきたのだ。そして1台のジープが続けて降りてくる。これはエルンスト曹長を暫定リーダーとした、ネイサン軍曹、アイラ伍長の偵察兵組だ。この他にもこの船には、マイク少尉の気圏戦闘機たるライトニングが搭載されているが、これは戦闘直前になったら発進する予定である。
キースは全員に向けて通信回線を開く。
「これより第2ポイントへ向けて進発する。サイモン曹長は、地図上のX-29831ポイントで静止し、間接砲撃の準備を整えてこちらからの連絡を待っていてもらう。マイク少尉は会敵予想時刻の5分前にヴァリアント号を発進し、X-01059ポイント目指して飛んでくれ。エルンスト曹長以下偵察兵のチームは、X-01059ポイントへの先行偵察を行ってもらう。出発後は会敵時まで無線封鎖するので、これが最後の通信になる。何か質問はないか?」
『『『『『『……。』』』』』』
「無いようだな。よろしいですね、アーリン中尉?」
『ええ、キース中尉。』
「では全機発進!無線封鎖!」
先頭にエリーザ軍曹のウォーハンマーとマテュー少尉のウルバリーン、中衛にアーリン中尉とリシャール少尉のフェニックスホーク2機、およびヴェラ伍長のD型フェニックスホーク、後方にアンドリュー軍曹のライフルマンとヴィルフリート軍曹のウィットワース、最後尾に殿としてキースのグリフィン及びサイモン老のスナイパー砲搭載車輛と言う陣形で、一行は進んで行く。エルンスト曹長たち偵察兵組は、ジープの快速を活かして先行する形だ。ジープはすぐにメック部隊の視界から消える。
しばらく進んだところで、サイモン老のスナイパー砲搭載車輛が脇道にずれた。車輛から発光信号が送られる。
(キース中尉、ご武運をお祈りしております、か。サイモン爺さん、頼りにしてるぞ?)
キースはグリフィンのハンドサインで、発光信号に応える。やがてスナイパー砲搭載車輛は見えなくなった。彼らは更に先へと進む。そして偵察兵組のジープが戻って来た。ジープからはサーチライトで発光信号が送られる。
(……情報にあったマローダー以下、敵指揮小隊機4機を発見。事前情報通りの構成。ただし、事前情報にないフェニックスホークの改造機と見ゆる3機の新品同様のバトルメックを確認す。現在おそらく慣熟訓練中。3機の概要は、大砲を右手に持った機体が1、両手に1門ずつ計2門の大口径レーザーらしき武装の機体が1、最後に左手に粒子ビーム砲らしき武装と右手に長剣を構えた機体が1。長剣の機体のみ熟練者が乗っていると思しき機動を見せる。代わりに、指揮小隊のD型フェニックスホークの動きが拙いことから見て、D型の操縦者であった者が発掘メックに移乗した模様……。
なに?右手に長剣?まさか……バトルメック用高速振動剣かッ!?)
キースは前世において、テーブルトークRPGメックウォリアーのリプレイ集に掲載されていた、強力な格闘武器を思い出す。
(冗談じゃない!ゲームじゃあ、ハチェットやソード、棍棒による攻撃だって通常の命中表を使ったってのに、あの高速振動剣はパンチ命中表を使うんだぞ!?頭に当たる可能性が高いじゃあないか!……フェニックスホークがベース機だからなあ。機動力で完全に負けてるはずだ。なんとか隣接されない様にしたいが……。
おっと、偵察兵たちに隠れているように合図を出さないと。)
グリフィンのハンドサインでエルンスト曹長たちに合図を出すと、キースは部隊を前進させた。そして遠距離映像で、敵バトルメックらしき影が見え始める。地形は小さな湖があり、その周囲に丘陵や森林が点在している。
(バトルテックのマップみたいな地形だな……。勿論細かいところは違うが。……気付かれたか。)
敵バトルメックが、一斉に動き出すのが見えた。K型シャドウホークとK型クルセイダーは、丘陵の陰に隠れて部分遮蔽状態を取ろうとしている。マローダーは中央に陣取り、こちらを狙っていた。D型フェニックスホークは囮にでもなろうと言うのか、全力走行で前進して来る。
問題の3機の発掘メックらしき機体は、各々が別個の動きをしていた。まず大砲を右手に構えた機体だが、K型クルセイダーと並んでこちらからは部分遮蔽となる位置取りをしている。次に両手にそれぞれ大口径レーザーを構えた機体は、中央の湖を大きく迂回してこちらへ走ってくる。最後に長剣と粒子ビーム砲を構えた機体だが、いきなり180mのフルジャンプを行い、左手の粒子ビーム砲を本来なら届くわけもない距離で、唐突に射撃した。
「……無線封鎖解除!フェニックスホーク改造機と見ゆる3機を、発掘メックと仮定する!長剣を持った敵に接敵されるな!あれはおそらくバトルメック用高速振動剣、破壊的な威力を持つ格闘武器だ!搭載している粒子ビーム砲は、長射程型タイプ!最低射程は持っていないから、近接距離に立つことでの有利さは無い!」
『『『『『『了解!』』』』』』
「サイモン曹長!TM358-GK276地点にぶち込んでくれ!風向はNNW、風力は3単位!」
『了解ですわい、隊長!』
キースのグリフィンは、高速振動剣を持った敵に接敵されないような移動で、敵陣に接近しつつ森林に分け入る。そして部分遮蔽状態を取ったK型クルセイダーに向けて、粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを放った。同時にK型クルセイダーからは2基の10連長距離ミサイル発射筒が火を吹き、キース機を狙う。だが森に入ったキース機には命中せず、逆にグリフィンの粒子ビームと10本中6本の長距離ミサイルが、K型クルセイダーの上半身に命中した。そのうち粒子ビーム束と1本のミサイルがK型クルセイダーの頭にあたる。K型クルセイダーはしばし、まごついた様な動きをしていたが、やがて部分遮蔽の位置を捨てて前進してきた。どうやらセンサーが破壊されたか何かした様で、射撃が不可能になった様だ。
キースは周囲の状況を確認する。マテュー少尉のウルバリーンがK型シャドウホークが隠れている丘陵上にジャンプジェットをひと噴きさせて登り、全開射撃と共に相手の頭めがけてキックを見舞っていた。K型シャドウホークは頭を蹴飛ばされ、メック戦士が脱出する。だがそのマテュー少尉機めがけてマローダーが両手の粒子ビーム砲を発射、2射ともに敵ながら見事という腕前で命中させた。たまらずマテュー少尉機は丘陵陰に隠れる。
アンドリュー軍曹のライフルマンは、エリーザ軍曹のウォーハンマーを後方で援護している。そのエリーザ軍曹機だが、フェニックスホーク改造機の1機、両手に大口径レーザーを構えた機体に近距離まで接近されていた。キースは眉を顰める。彼の計算では、あのフェニックスホークはまだウォーハンマーからは遠くの位置にいるはずであったのだ。更に例の高速振動剣持ちも、キースの予測位置からわずかに外れた位置にいる。まるで、普通のフェニックスホークよりも長距離を移動できる性能でも持っているかの様だ。
キースは、はたと気づいた。
「エリーザ軍曹!そちらの発掘フェニックスホークはMASC、人工筋肉加速信号回路付きの機体だ!機動力は並じゃないぞ!そして高速振動剣持ち、あれはトリプルストレングス・マイアマー、三重機能強化型人工筋肉を使っている!絶対に隣接されるな!」
『は、はい!?』
「わかりやすく言えば、ただでさえ強力な高速振動剣のダメージが、2倍になる人工筋肉だ!」
『わ、わかりました!』
キースはサイモン老に連絡する。敵の移動力が高すぎたために、敵の移動予想地点にズレが生じたのだ。このままではスナイパー砲の砲弾は命中しない。
「サイモン曹長!先ほどの位置からEに120m地点を狙い撃て!その次はそこからNEに180m!」
そしてキースが見遣ると、敵のD型フェニックスホークがアーリン中尉麾下の3機のフェニックスホークに袋叩きにされていた。だがそれを狙っている者がいる。
「アーリン中尉!リシャール少尉!ヴェラ伍長!W方向へ最大ジャンプで避けろ!」
『りょ、了解!』
『わかりました!』
『え?あ!』
タイミングの遅れたヴェラ伍長機が、餌食になった。彼女の機体は右肩に直撃弾を喰らい、その腕は根本から吹き飛ばされる。彼女のD型フェニックスホークは、その攻撃力の7割を失ってしまった。
『きゃああぁぁっ!!』
『伍長!』
『ヴェラ伍長!』
(く、あの距離で届く上にあの威力……。あの大砲はガウスライフルだったか!)
『くそ、捉えた!』
ヴィルフリート軍曹のウィットワースが、今しがたヴェラ伍長のD型フェニックスホークを撃ち抜いてくれた敵に、長距離ミサイルの雨を降らせる。その相手は、山陰に半身を隠したあの大砲持ちの発掘フェニックスホークだった。その上半身に、次々と長距離ミサイルが着弾する。ヴィルフリート軍曹の腕前は、かなりの物だった。大砲持ちは、これはたまらないとばかりに丘陵地帯を捨てて出てくる。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そして第1射目の、スナイパー砲の砲弾が着弾する。高速振動剣持ちに、至近弾となった。だがあれが通常型フェニックスホークと同じ機動性であれば直撃していたはずなのだ。キースは自分の判断の甘さを悔やむ。もう少し早く、あの機体が高速振動剣だけでなく、三重機能強化型人工筋肉を積んでいることに気付ければ良かったのだ。高速振動剣持ちは、長射程型粒子ビーム砲を当たれば儲けものと撃ち放ち、ついでに自機に溜まる熱量を稼ぐ。三重機能強化型人工筋肉は、機体に高い熱量が溜まっていなければ起動しないのである。
そこへ心強い味方の声が聞こえる。
『いいいやあっほおおおぉぉぉ!!』
「マイク少尉か!右手に馬鹿でかい大砲持ちの敵機を頼む!」
『了解っす!!』
ライトニング戦闘機は急加速して戦場に突入すると、機首にある最大口径オートキャノン及び各部に搭載されている中口径レーザーを乱射する。その射撃は過たず大砲持ちの機体を乱打する。ことに最大口径オートキャノンの馬鹿でかい砲弾は、右腕の付け根に命中し、上腕駆動装置と、大砲……ガウスライフルの弾倉を破壊した。砲弾が傷口から周囲に散らばる。ガウスライフルは弾倉に着弾しても、爆発はしない。砲弾が使い物にならなくなって撃てなくなるだけである。代わりにガウスライフル本体が破壊されると、爆発し放電により大ダメージを受けると言う笑えない欠点もあるが。
大砲持ちの機体にはあとは小口径レーザーと格闘しか攻撃方法が無い。それはキース機に向かい、全力で突進してきた。突撃をするつもりだ。だがキースはそれを読んでいる。彼はグリフィンをジャンプさせると、相手の真後ろに回り込んだ。敵機は機体を捻り、無事な左腕でパンチを放ってくる。キースはグリフィンの両腕を振り上げた。それはクロスカウンターとなり、お互いの頭部に命中する。衝撃でキースは身体のそこかしこに打撲を負った。だが相手よりは随分とましであったろう。相手の機体は頭部を破壊されて、装甲の隙間からメック戦士の無残な姿が見える。キースは何度目かになる重苦しい思いを噛みしめた。
そしてキースは再度機体をフルにジャンプさせる。ジャンプジェットに取り込まれた大気が、高温に加熱されて噴出し、グリフィンの機体を高々と舞い上げる。今しがたまでグリフィンの機体があった場所を、2条の粒子ビームと中口径オートキャノンの砲弾が抉った。マローダーからの射撃である。マローダーは撃ちすぎて熱くなった機体を冷やすため、湖の中へと進入していく。
丘陵を挟んで反対側では、マテューのウルバリーンがK型クルセイダーを沈めたところだった。K型クルセイダーはセンサー系統をやられており、一切の射撃が不可能だ。それに重量級故の機動力の無さで、格闘距離に持ち込めないでいる。K型クルセイダーは案山子も同然であり、マテュー少尉機が放った中口径オートキャノンの弾が、既に9割がた削れている頭部を吹き飛ばして決着を付けたのだ。
キースは叫ぶ。
「マテュー少尉!エリーザ軍曹のフォローに回れ!高速振動剣持ちに追い詰められている!」
『了解!』
「アーリン中尉!そちらの隊で長射程型大口径レーザーの両手持ちをお願いします!D型は放っておいてかまいません!」
『わかったわ!』
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そしてスナイパー砲の2射目が着弾した。今度こそ、砲弾は高速振動剣持ちに叩きつけられる。だがフェニックスホークとは思えないほど装甲が厚いその機体は、その打撃に持ちこたえた。
ついにウォーハンマーを、その凶刃が捉える。
『きゃあっ!!』
『エリーザ!ちくしょう、これでも喰らえ!』
最も装甲が厚いウォーハンマーの胴体中央を、まるでバターの様に高速振動剣が斬り裂く。アンドリュー軍曹は昔からの同僚の危機に、ついタブーを忘れてライフルマンに全開射撃を行わせた。その射撃は、おおよそ6~7割ほどが命中する。しかしダメージは機体の全身に散り、致命傷は無い。頭部に命中した中口径オートキャノン1門が、かろうじて有効的なダメージと言えるだろうか。
一方、ウォーハンマーのダメージは酷いものだった。核融合炉の鎧装が大きく斬り裂かれ、異常な発熱を機体にもたらしていたのである。これではろくな射撃もできない。下手に射撃を行えば莫大な熱が溜まり、核融合炉が強制的にシャットダウンするか、下手をすれば弾薬が爆発する危険すらある。
だがエリーザ軍曹には、まだ幸運が残っていた様だ。
『……あら?』
高速振動剣持ちの方が先に、核融合炉がシャットダウンしていたのだ。三重機能強化型人工筋肉の発動には、大量の熱量が必要である。その熱量を溜め込んで動いていたために、機体が強制的にシャットダウンしたのだ。これははっきり言って、メック戦士が機体に慣れていないのが原因である。三重機能強化型人工筋肉と高速振動剣の組み合わせの強力さに浮かれ、必要以上に熱を溜め込んだのだ。エリーザ軍曹は、今の状態でも撃てるほどの熱量しか発しない武器で、高速振動剣持ちの頭部を狙い撃ちする。
『これでも……くらいなさいっ!!』
小口径レーザー2門とマシンガン1門が敵の頭部に命中し、その部位を完全に破壊する。それとほぼ同時にアーリン中尉麾下の小隊が、人工筋肉加速信号回路付きの長射程型大口径レーザー2本持ちの機体の左脚を折り取る。敵は人工筋肉加速信号回路のもたらす高速性に酔いしれて、連続でその機能を使用したため、両脚の駆動装置が機能停止して機動力を奪われたのだ。これもメック戦士が機体に慣熟していなかったが故の失敗である。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そしてスナイパー砲の3射目が着弾した。なんだかんだ言って今まで残っていたD型フェニックスホークは、スナイパー砲の直撃を右脚に受けて、右脚を吹き飛ばされる。キースは機動性能が不安定で、動きの予測しづらい相手では無く、確実に挙動を予測できる敵を狙ったのだ。
「エリーザ軍曹、損害報告を。」
『え、エンジンに重いのを一発喰らって、熱が出てます……。たぶん3重の鎧装の2重までやられたかと。』
「……大損害だな。エリーザ軍曹はマテュー少尉といっしょに、後方に下がっていてくれ。」
キースはグリフィンを、水浴びしているマローダーの方へ歩ませた。彼は一般回線で降伏勧告を行う。
「お前の部下は全て片付けた。大人しく降伏しろ。」
『だ、黙れ!こうなったら、私だけでも徹底抗戦してやる!せっかくメック戦士の座を取り戻したのに!おのれ、おのれええぇぇっ!』
マローダーはキースのグリフィン目がけ、粒子ビーム2本と中口径オートキャノンを撃ちまくった。キースは急速後退しながら指示を下す。
「アーリン中尉!少し手伝ってください!アンドリュー軍曹!熱が溜まらない程度に撃て!」
そしてキース自身も粒子ビーム砲と10連長距離ミサイルを射撃した。アーリン中尉の撃った大口径レーザーと、アンドリュー軍曹の放った中口径オートキャノン2門に大口径レーザー1門が、マローダーの水上に出ている上半身に次々と着弾する。そしてキースの撃ち放った長距離ミサイルがマローダーの頭に命中し、生命維持装置を破壊する。マローダーは着弾の衝撃でぐらりと傾くと、水中に倒れ込んだ。
『『『『『「あ。」』』』』』
マローダーは、水中で起き上がろうともがいている。だが起き上がるのに失敗し、しばらくじたばたしていたが、急に動きを停止してしまった。アンドリュー軍曹がぽつりと言葉を漏らす。
『な、何が起きたんだ?』
「頭部にずいぶんダメージを受けていた様に見受けられるが……。」
『もしかして、生命維持装置が壊れたんじゃないの?』
キースの言葉により、アーリン中尉が正解を導き出した。バトルメックの生命維持装置が破壊されると、操縦席の気密が破れてしまうのだ。その状態で、水中に転倒したのだから、当然操縦席に水が流れ込んで来る。つまりは溺れてしまうわけだ。
『ほ、捕虜を取るんなら、早く助けないとまずくないかしら?ほら、敵の中隊長なんでしょ?重要な情報を多く持ってるかも。』
「そう、だな。ちょっとグリフィンで引き上げます。」
アーリン中尉の台詞に、キースも情報源に死なれては困るとばかりにグリフィンを湖に飛び込ませる。そしてマローダーを担ぎ上げ、水上へと引っ張り上げた。
結論から言うと、マローダーのメック戦士を助けるのは間に合わなかった。既に心肺停止状態であり、応急処置も功を奏さなかったのである。高い医療技術を持つキャスリン伍長が、ユニオン級降下船ゾディアック号で到着した時には、もう手遅れであったのだ。こうして情報源には、誰の手も届かないあの世と言う逃げ場所へ逃げられてしまったのである。
その後、キースたち……正確にはキースたちの隊の偵察兵や整備兵たちが、第2ポイントの発掘現場を徹底調査した。そこでは改造を施されていない「生の」フェニックスホークが2機発見されたが、遺失技術を使ったバトルメックは例の3機以外は見つからなかった。発見された機体も、再稼働させるには熟練の整備兵による入念な整備が必要であるとの結果が出た。
整備兵と言えば、敵の指揮小隊が連れて来ていた多数の整備兵が、遺跡の倉庫の中に立て籠もっているのが発見された。若干名の偵察兵やメック戦士候補も一緒である。彼らは、彼らの中隊長が既に倒されていることを知ると、あっさりと降伏した。だがエルンスト曹長の尋問によっても、結局は何も知らないことが判明しただけであった。
鹵獲したバトルメックについてだが、やはりD型フェニックスホークは元『BMCOS』の物であった。だがそれだけではなく、敵中隊長が搭乗していたマローダーも、元『BMCOS』第2中隊中隊長機であったことが判明する。キースは今後マローダーを乗機とすることを決定。更にウォーハンマーが直るまで……サイモン老によれば部品さえ手に入れば確実に直せるそうなので、事実上部品が来るまでの間、エリーザ軍曹にこれまでの自機、グリフィンを貸与することにした。
操縦席の修理が成ったマローダーを見つつ、キースは呟く。
「……一気に予備メックが増えたな。」
「修理待ちなのがウルバリーンとD型フェニックスホーク、貸し出しているのがグリフィンと通常型フェニックスホーク、ですのう。あと本来は予備機ではない機体が、ウォーハンマーとクリントが部品待ちですかの。」
サイモン老の応えに、キースは眉根を寄せる。予備メックは確かに増えた。しかし修理部品などの数が足りない。フェニックスホーク系とウルバリーン系の部品は、そこそこストックがあった。だが通常型フェニックスホークを貸し出した相手であるリシャール少尉の本来のメック、40tクリント、そして今回エンジンの鎧装と胴中央部の機体中枢を大きくやられた70tウォーハンマー、これらの修理部品はなかなか揃わない。付け加えて言えば、ヴェラ伍長のD型フェニックスホークも右腕を吹き飛ばされており、修理に部品ストックを多数消費してしまう。
おもむろに、キースは考えを述べる。
「契約では、メックが損傷した場合、装甲板は支給してくれることになっているし、その他の修理部品については正規軍の備蓄を正規の値段で売ってくれることになっていたな。だがウォーハンマーはともかく、クリントは恒星連邦では数が少ない。故に備蓄部品もあまり無く、近場の星系には存在しないと返答が返って来ている。それだけじゃない。ウィットワースも不具合が出てこないから忘れがちだが、正規部品ではないパーツで補修しているだけの応急修理品だ。
ウィットワースについてなんだが、部品を星系外の業者に繋ぎを取って購入しようと思う。そしてクリントなんだが……。今リシャール少尉に貸与している標準型フェニックスホークを、正式にリシャール少尉の物にして、代わりにクリントをこちらで引き取ろうと思う。クリントはあくまで予備メックとして、最低限動かせる様に、間に合わせの部品で応急修理できないか?」
クリントとウィットワースは、正確に言えば『SOTS』の機体ではない。だがその機体が所属している『デヴィッドソン装甲巨人隊』とは現時点で提携関係を結んでいるし、将来的に吸収合併する約束もできている。しかも今現在ですら、2つの小隊の経営は統合している。キースたちがそれらの機体の面倒を見るのは当然と言えば当然であった。
サイモン老は頷く。電卓を叩きながら、彼は思案する。
「クリントは代わりになるフェニックスホークがありましたでのう。だから無理に応急修理しなかったんですわ。最低限の応急修理で良いなら、いつでも可能ですな。」
「アルバート中尉に相談したんだが、一度カイル船長とヴァリアント号を星系外に出す。カイル船長には、ゾディアック号の船長、副長に相応しい人材に心当たりがあるそうだからな。それを部品の買い付けと一緒にスカウトしてきてもらうつもりだ。ちょうどマーチャント級航宙艦クレメント号も、小銭稼ぎから3日後に戻ってくるはずなんだ。それにヴァリアント号を運んでもらおう。あと、同時にリライアント号も完全修理のために恒星連邦に返却しなければならない。クレメント号にはリライアント号もゼロG乾ドックのある星系まで運んでもらわないとな。
イングヴェ副長には、カイル船長がスカウトに成功して戻ってくるまで約3週間、ゾディアック号の船長代理を頼む。」
「また嫌がりそうですなあ。」
キースは踵を返して、バトルメック整備棟から出て行く。サイモン老がその後を追う。
「……で、だ。偵察・整備兵分隊分隊長として聞いて欲しい事がある。これは歩兵小隊隊長エリオット軍曹にも後から話す予定だが、それ以外の者にはまだ秘密にしておいてくれ。」
「!……了解しました。」
「敵の今回の発掘部隊を迎えに近い内、空荷の降下船を含んだ部隊がやって来る可能性が高い。この情報は、こちらで発表するまで部下には洩らさない様に。我々はその敵を迎え撃たねばならない。損害が出る可能性が高いので、予備のバトルメックをいつでも代替機として使える様にしておいて欲しい。無論のこと、本来の機体のうちで今現在不稼働の物もだ。ヴェラ伍長のD型フェニックスホークが、まず最優先だな。サイモン曹長は基地にてそれらの指揮を取ってくれ。
その他の偵察・整備兵分隊は歩兵部隊と共にメック部隊に随伴し、残された第3、第4、第5の各発掘ポイントを調べて回る。敵が現れる前に調査、発掘を終えたい。」
「わかりました。わしに任せてください。腕が鳴りますのう。ヴェラ伍長機は、綺麗に右腕が吹き飛んだんで、逆に繋ぎやすいですわ。発掘隊の出発までに、たぶん間に合いますわい。ではわしは、整備棟に戻って修理計画を立てますで、これにて。」
キースはサイモン老を見送ると、自分はアルバート中尉、アーリン中尉と発掘計画の詳細を詰めるために、本部棟に向かって歩いていった。
と言うわけで、主人公メカが新しくなりました。主人公メカの世代交代は、お約束ですよね!それと同時に、敵戦力はとりあえず殲滅できました。ひとまず安心です。ですが、おかわりの戦力がまだやって来る可能性は高いです。
さて、次回をお楽しみに。