3025年9月5日、キースたち傭兵小隊『SOTS』とアーリン中尉麾下の傭兵小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、ユニオン級降下船ゾディアック号で第3発掘ポイントへ向かっていた。今回は気圏戦闘機ベイも倉庫として用いる予定であるため、2機のライトニング戦闘機は載せて来ていない。もし発掘品が大量で運びきれないときには、基地に連絡してレパード級降下船ゴダード号を呼ぶ手筈になっている。
「う~~~……。あたしのウォーハンマー……。」
「だからそんなに気落ちすんなって。隊長からグリフィン貸してもらえたろ?」
「それにサイモン曹長は、部品が着き次第完全に直してくれるって、請け合ってくれたでしょう?」
エリーザ軍曹の大事な相棒、70t重量級バトルメックのウォーハンマーは、前回の戦闘で胴体に大ダメージをくらい、いまだ使用には心許ない状態であったのだ。まあ手持ちの部品で、直せる部分は直したのだが。アンドリュー軍曹とマテュー少尉は、苦笑しながらエリーザ軍曹を宥めている。キースもまた、その様子を見ながら苦笑いしていた。
と、そこへアーリン中尉以下『デヴィッドソン装甲巨人隊』の面々がやって来る。アーリン中尉がキースに手を上げて挨拶した。キースもまた、手を上げて返す。そんな中、リシャール少尉がキースに頭を下げて来た。
「キース中尉、この度は本当にありがとうございました。実のところ、クリントでは偵察任務ならばともかくとして、戦闘任務には少々心許ないと思うようになって来ていたんです。貸与していただいていたフェニックスホークをクリントと交換してくださると言う話は、渡りに船だったんです。」
「それならば良かった。愛着のあるメックを無理に取り上げた様な形になったのではないか、と恐れていたんだが。」
「愛着が無いとは言い難いですが、クリントは部品調達も難しかったですし、『デヴィッドソン装甲巨人隊』では一番持て余す機体でもあったんです。」
リシャール少尉の顔色は明るい。無理をしている様子ではなさそうだ。キースは内心安堵した。ここで、ブリッジでゾディアック号を操船しているイングヴェ船長代理からインターホンを通じて連絡が入る。
『まもなく第3発掘ポイントです、隊長。』
「ありがとう船長代理、偵察兵、整備兵、歩兵たちにも伝えてくれるか?」
『わかりました。……はやくカイル船長、帰ってきませんかねえ。ああ、レパード級に戻りたい……。』
イングヴェ船長代理は、元々レパード級降下船ヴァリアント号の副長だ。そのヴァリアント号と船長であるカイル少尉は、今現在恒星連邦に備蓄がない種類のメック部品の買い付けと、ユニオン級降下船ゾディアック号の船長、副長をスカウトするためにこの星系外に出ている。
キースは笑ってイングヴェ船長代理の言葉に応えた。
「ははは。あと3週間の辛抱だ、船長代理。それじゃあ、他の面々への連絡、頼んだぞ。」
『はい……。』
ゾディアック号は、ゆっくりと渓谷の間に垂直降下していく。この渓谷の奥に、目的の星間連盟期のバトルメック倉庫があるのだ。キースはその場の全員に向けて、言葉を発する。
「では諸君、着陸完了次第、我々はバトルメックを起動して下船する。今回は戦闘は無いはずだが、相手はなにぶん星間連盟期の手つかずのバトルメック倉庫だ。充分注意するように。」
「「「「「「了解!」」」」」」
「ではアーリン中尉、そちらの小隊はお任せします。」
「了解。……ねえ、キース中尉?」
アーリン中尉は怪訝そうな顔になる。その様子を見て、キースは何か問題でもあるのかと思った。
「どうかしましたか?アーリン中尉。」
「前から思ってたんだけど貴方、本当に16歳?その威厳は、ただ事じゃないわよ?」
「ほっといて下さい。」
キースは肩を落として落ち込んだ。アンドリュー軍曹が、彼の内心を代弁する。
「キース隊長は、老け顔なの気にしてるんですから、そっとしといてあげてくださいよ、アーリン中尉。」
「あんたもズバっと言うわよね。」
アンドリュー軍曹に突っ込むエリーザ軍曹。キースの気持ちはしばらくの間、晴れる事は無かった。
その後彼らは、爆薬で人工地震を起こしてその震動が伝播する波形を観測し、地下のバトルメック倉庫を見つけた。そして偵察兵と整備兵たちが協力して倉庫を暴いて行く。ここには3機のバトルメックと、幾ばくかのメック部品が眠っていた。3機のバトルメック中、2機が遺失技術を用いて建造された実験機であり、1機は通常のバトルメックである。遺失技術を用いられた機体は、1機が60tライフルマンをベースとしたウルトラオートキャノンの実験機であり、1機が55tシャドウホークを基礎にした小口径~大口径のパルスレーザー及び軽量型の火炎放射器の実験機だった。ちなみにノーマルのバトルメックは、60tライフルマンであった。
キース達はバトルメック倉庫から自分たちのメックで発掘メック他を運び出し、ゾディアック号に積み込んで帰還の途につく。ちなみにキースはまだちょっと不機嫌だったりした。無論公の場で、それを表に出すようなことはしないが。
3025年9月7日、キースたち『SOTS』と『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、今度は第4発掘ポイントにやって来ていた。ここは深い森の中で、降下船ゾディアック号が降りられる場所が近くに無い。やむなく彼らはゾディアック号を少々離れた場所に着陸させ、バトルメックおよび徒歩で目的地を目指していた。何故徒歩かと言うと、この森は少々険しくて、車輛が入れる様な場所ではなかったのである。歩兵たちの徒歩での移動にあわせ、速度を調節しているので、かなり進軍速度は遅い。
キースのマローダーに、エリオット少尉待遇軍曹から通信が入る。
『隊長!申し訳ありませんが全部隊停止をお願い申し上げます!』
「全部隊停止!どうしたエリオット軍曹。」
『歩兵が1名、毒蛇に噛まれました。医務官キャスリン伍長の話では、通常の救急箱ではなく、マローダーに積んでいただいている野外手術キットを使い、傷口を切開する必要があるとのことです。』
「了解した。今からマローダーをしゃがませるので、腰にある収納区画から取り出して使う様に。それと手当てが終わったら、その兵は1個班つけてやって、降下船に帰還させろ。」
『はっ!』
キースはマローダーをしゃがみ込ませる。ふとキースは妙な事に気付いた。
(ありゃ?この惑星は原生生命は植物だけで、その割合は40%だったよ……な?つまり毒蛇は、外の惑星から持ち込まれた物だってこと、か。うーん、しかしそのうち専任の惑星学者が必要になるかもなあ。キャラクターの能力値としての知性度は最高に設定したけど、知識自体は浅薄な物だからな。毒蛇がいるってそう言う知識を持った人間がいてくれれば、あらかじめ色々用意してきたんだけどなあ。)
やがて治療が終わり、その兵に人数をつけてやって降下船に帰らせると、キース達は再度出発した。その後は何事もなく、目標地点へと到達する。
「全部隊停止。エリオット軍曹、エルンスト曹長とネイサン軍曹の指示に従って、3か所に爆薬を仕掛けてくれ。くれぐれも爆発物の取り扱いには注意するように。」
『了解!』
そして爆薬により人工地震が発生する。震動が伝播する波形を観測して、おおよその地下施設の位置を割り出した彼らは、入口と思しき場所に向かう。そこは崖の様になった場所で、崩れた土砂に施設の入り口は埋まっていた。キースは命令を下す。
「マテュー少尉、エリーザ軍曹。ウルバリーンとグリフィンで、メック用円匙を使って土砂を除けてくれ。」
円匙とは、スコップの事である。ウルバリーンとグリフィンは、巨大なスコップを背中から降ろし、その両手に持った。マテュー少尉とエリーザ軍曹の返答が響く。
『『了解!』』
『隊長、砲撃で土砂を吹き飛ばすんじゃ駄目なのか?いや、土木作業してたら暗くなっちまうぜ?それとも今日はここで野営すんのか?』
アンドリュー軍曹は不思議そうに言う。キースは答える。
「ああ、今日はここで野営しようと思う。砲撃は、できれば避けたい。星間連盟期の施設だからな。下手な真似をしたら、防御設備が動き出したりする可能性もある。」
『なるほど。』
(それに戦闘任務じゃないから、砲弾使ったりしても補給は出ないんだよなあ。粒子ビーム砲とかなら安上がりだけど、万が一こちらの落ち度で防衛装置と交戦するようなことになったら……。侵略者や略奪者相手の戦闘じゃないから、戦闘手当てとか出るかどうかも怪しい。
……世知辛え。)
結局その日はそこで野営し、本格的な探索は次の日に行われた。危険なトラップもあったが、幸いにして優秀な偵察兵や整備兵たちの技により、回避することができた。
この第4発掘ポイントの倉庫に収められていたのは、第1発掘ポイントと同じ様な軽メックが5機、残骸状態の中量級メックが1機、及び多少のメック部品であった。無事な5機のうち3機が遺失技術を用いた機体であり、残り2機が通常のバトルメックである。遺失技術メックは、20tワスプの改造機が2連誘導短距離ミサイル発射筒の実験機、30tジャベリンの改造機がナーク・ミサイルビーコンの実験機、20tスティンガーの改造機がガーディアンECMとビーグル・アクティブプローブの実験機であるらしかった。残り2機の通常型バトルメックは、20tローカストが1機、20tスティンガーが1機となっていた。
ちなみに残骸状態の中量級バトルメックに関しても、倉庫に設置されていたコンピュータから情報が拾えた。これはパメラ伍長の手柄である。この機体はCASE、多孔式弾薬保管装置の実験機であった模様で、元は40tクリントだった機体にCASEを載せ、弾薬を実際に爆発させてみた結果がこうであったらしい。この機体に搭載されていたCASEは、不完全な代物であった様だ。だがこの残骸は、脚部が無事であった。後にキースはこの残骸について交渉し、このクリントの残骸の右脚を買い取ることに成功する。これにより、部隊の予備メックであったクリントが、完全修復可能となったのだ。
こうしてキース達は、そこそこの成果を得て第4発掘ポイントを後にした。
3025年9月11日、キース達はとうとう資料にあった最後のバトルメック倉庫である、第5発掘ポイントへとやって来た。実際の倉庫がどこなのかは、爆薬を使って人工地震を起こすまでもなく、あっさりと判明した。草原のど真ん中に、ぽっかりと陥没した大穴が開いていたのである。
『うわ……。空から見てもあっさりわかったけど、この壊れようは何かしらね。』
「アーリン中尉、壊れ方から見て、おそらくは天然の地震による被害ではないかと。」
『なるほど。でも、この壊れ様じゃあ……。まともな物は残ってないかもしれないわね。』
「とりあえず、偵察兵と整備兵を送り込みましょう。」
残念がるアーリン中尉に、決めつけるのは早いとキースは、まずやることをやろうと提案した。そう長い事待たずに、結果は出た。凄腕のコンピュータ技師であるパメラ伍長から、連絡が来る。
『隊長!キース隊長!大変です!』
「パメラ伍長、きちんと報告しろ。大変、だけではどうする事もできん。」
『は、はい!って言いますか、戦闘準備を整えてくださいっ!』
キースはその言葉を聞くや、即座に決断を下す。
「全部隊、戦闘準備!グリフィンとライフルマン、ウィットワースを中心に円陣を組んで周辺警戒に当たれ!パメラ伍長!?」
『この倉庫のシステム、まだ生きてます!隊長たちのメックを敵機と誤認して、動かせる戦力を出そうとしてます!この第5ポイントで実験されていたのは、主に自動制御装置と、あと1つ何かまだ判らない物を実験してた様です!
自動制御のバトルメックが、今出撃します!』
「……!!パメラ伍長、そこから遠隔で自動制御装置を止められないか?」
『駄目です!完全に自律して、こちらのコンピュータとは接続を切ってます!』
キースたちのバトルメックから少し離れた場所の地面が揺れ動き、土砂が崩れ落ちる音がする。そちらを見ると、3か所の地面にぽっかり穴が開いており、そこの地下から高速でエレベーターが上がって来る。エレベーターに乗った代物を見たキースは叫んだ。
「奴が飛ぶ前に叩き潰せ!全機、一斉射撃!」
『『『『『『了解!』』』』』』
『……って、飛ぶ!?』
『ジャンプのことでしょ?撃つわよ!って何よあれは!』
そこにあったのは、気圏戦闘機の胴体から脚を生やし、腕を生やした様な代物であった。それが3機存在する。キースはマローダーの粒子ビーム砲2門と、オートキャノン1門を一斉発射した。ワンテンポ遅れて、仲間達も撃ちまくる。キースの射撃は、そのうちの1機に着弾し、その左腕を破壊した。だが次の瞬間、その異形の機体は胴体からジェット流を噴き出すと宙に浮かんだ。そしてホバリングしつつ加速すると、超高速で低空飛行を始めたのである。アンドリュー軍曹があきれた様な声で叫ぶ。
『隊長!ありゃ、何だ!?』
「あれはLand-Air-battleMech、LAM機だ!聞いたことないか!?フェニックスホークLAMだ!」
『私は学校で習ったわ!主に降下拠点の占拠任務や、偵察に用いられる高機動の可変バトルメックね!?』
アーリン中尉が大口径レーザーを撃ちながら叫ぶ。キースは内心で愚痴った。
(くそ、出撃時点からエアメック形態ってのは、どんな冗談だよ!?しかも本来なら遺失技術メックよりも珍しいレベル3の代物のはずだろ!?それが遺失技術の自動制御装置を搭載してるだ!?)
キースの隊に比して、若干射撃技量で劣る『デヴィッドソン装甲巨人隊』の面々は、高速で浮遊飛行するエアメック3機に命中弾を送り込むことができていない。いや、『SOTS』小隊のメンバーも、エアメック相手には命中させるのは困難な様だ。幸いなことにエアメックからの攻撃も、散発的にしか当たっていないが。飛行状態からの攻撃は、そこそこ難しいのである。
そんな中、気を吐いているのがアンドリュー軍曹のライフルマンだ。彼のライフルマンにはD2J照準/索敵システムが搭載されており、飛行する目標に対しての射撃性能が高い。そして2基搭載されている中口径オートキャノンは、もとより対空性能が高い兵器として知られている。
キースとマテュー少尉もまた、自機に搭載された中口径オートキャノン主体の攻撃に切り替える。やがて1機のフェニックスホークLAMが、翼を破壊されて墜落した。大地に落ちたその機体は、凄まじい土煙を上げて地面を滑って行く。そしてそのまま動かなくなった。
『ようし!1機撃墜!俺のライフルマンは天下一品だぜ!』
「その調子で、もう1匹頼むぞアンドリュー軍曹!」
キースはアンドリュー軍曹を称賛、激励しつつ、粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノンを発射する。彼の射撃技量は小隊の仲間たちから見ても一段上である。粒子ビームとオートキャノンの砲弾が、エアメックの片脚をもぎ取った。その同じ敵機に、マテュー少尉の撃ったオートキャノンの砲弾と、アンドリュー軍曹の撃った砲弾とが命中する。その機体も翼を破壊され、墜落した。敵機はあと1機だ。
だが運命は悪戯である。アンドリュー軍曹の悲痛な叫びが響き渡る。
『うわっ!オートキャノンの弾が、もう無えっ!!』
その彼のライフルマンめがけ、最後に残ったフェニックスホークLAMは集中砲火を見舞う。なんと運が悪いことに、全弾が命中した。弾着が集中せずに分散したのが、不幸中の幸いだろうか。エアメックは、蝶の様に舞い、蜂の様に刺す行動を繰り返し、キースたちの機体の装甲を削っていった。一応キースは命中弾を数発与えているのだが、まだなんとかフェニックスホークLAMは持ちこたえている。
アーリン中尉が叫んだ。
『ああもう!鬱陶しいのよ!落ちなさい!!……え?』
アーリン中尉の射撃が、見事に右翼を撃ち抜く。キースが先ほど中口径オートキャノンで叩いて、装甲が弱っていた部分だ。最後のフェニックスホークLAMは、きりもみしつつ墜落し、草原に派手な跡を残してかなりの長距離を滑って行った。しばらく待ってみたが、どうやら動く様子は無い。アーリン中尉がキースに謝る。
『ごめんなさい、なんか美味しい所だけ貰ったみたいで……。』
「何故謝るんです?誰が撃墜しようと、勝利は全員の物です。それにこの場合、協同撃墜というやつでしょう。……それより問題が。」
『え?問題って?』
暗い口調で、キースは説明する。
「いえ……。今回あのLAM機のせいで、かなりの損害でしたから……。」
『あ、でも装甲板や弾薬は契約で支給されるはずで……。今回やられたのは装甲板だけで……。』
「いえ、今回の相手はクリタ家のような侵略者でも、海賊のような略奪者でもありません。正規の戦闘任務と認められるかどうか……。認められなかったら、装甲板も弾薬も支給されませんし、戦闘報酬さえ支払われない可能性も……。
恒星連邦ではなく、惑星公からの遺失技術機体回収のボーナスはちゃんと出ると思いますが、あれだけ壊したら遺失技術部品が無事に残っているかどうか……。」
過熱して暑いはずのフェニックスホークの操縦席の中で、アーリン中尉は凍り付く。キースは慰める様な口調で言った。
「装甲板は、うちの小隊に備蓄があります。支給されなかったら、それを取り崩して提携部隊であるそちらにもお分けしますよ。弾薬も、使ったのはうちの小隊が装備してる中口径オートキャノンの砲弾と、グリフィンやウィットワースの10連長距離ミサイルですから。どちらの弾薬も、備蓄が一応あります。ウィットワースのミサイルは、支給されなかったらこれもお分けします。」
『ありがとうキース中尉!あー、なんか泣けてきたわ……。以前だったらもう手も足も出なくなって赤字転落するところよ……。』
(いや、支給や支払いが無かったら、うちも備蓄の許容範囲ってだけで赤字には違いないんですがね。……ここの倉庫に、まだ良い物が残ってるといいんだけどなあ。)
そのとき、キースのマローダーに通信が入る。
『隊長!ここの倉庫、えらい代物です!』
「ネイサン軍曹、落ち着いて報告したまえ。」
『すみません。興奮しました。えー、ここの倉庫には、バトルメックの維持管理が自動で行える設備があるんです。もっとも作業速度は物凄く凄い程に遅いんですが、そのかわり確実に機体を直して調律してくれます。それが稼働してたんで、さっき出撃して行った機体も万全の状態で動いてたわけですな。』
キースは納得する。確かにそれはえらい代物だ。
『でもって、今整備兵連中が総出でその設備に張り付いてます。』
「で、どうだ?その設備は移設できそうか?こんな人里離れすぎた場所にあっても、無意味とまでは言わないが、意味は薄い。」
『サイモン曹長がいれば、すぐに分かったんでしょうが……。ちょいと今ここにいる連中じゃ……。』
「曹長には、他に重要な仕事が山積みになっているんだ。無理を言うな。」
『ですよねえ……。このまま調べさせてみます……。っと、また何かあったみたいです。少し待っててください。』
しばらくキースは待った。さほど時間をかけずにネイサン軍曹の声が戻って来る。
『隊長、正体不明のバトルメックを発見しました。さきほどのバトルメック自動整備施設の中に入ってたそうです。型は不明、まったくの新型……いや、星間連盟期の代物だから新型と言うのは変ですな。』
「軍曹、パメラ伍長に聞いてくれ。先ほどのLAM機……さっきの敵機の事だが、それが出て来たエレベーターを動かせるか、とな。フェニックスホークやウルバリーン、グリフィンなどの手を使えるメックを下に降ろして、その型式不明機を搬出する。」
『了解しました。』
すぐにエレベーターが動かせることがわかり、エリーザ軍曹のグリフィンと、マテュー少尉のウルバリーンが地下に降りて行く。やがてそのバトルメックが地上に搬出された。キースはそれを一目見て、ほう、と溜息を吐く。
「どうやら赤字は免れそうだな。」
『キース中尉、どうしたの?』
「いやアーリン中尉、このバトルメックを惑星公に納めれば、かなりの謝礼金が貰えそうです。きっとたいした代物ですよ、これは。まあ、実験機でしょうから実用性は薄いでしょうけれどね。」
その後、彼らはこのバトルメックを持ち帰った。ちなみにフェニックスホークLAMの残骸も、部品の一片に至るまで歩兵の手を借りて拾い集め、持ち帰っている。幸いにして遺失技術部品である自動制御装置は壊れていなかった。それはともかくとして、持ち帰った型式不明機は、サイモン老が一目で正体を見破ってくれた。
「これはLAM機ですな!シャドウホークLAMの流れをくむ機体ですのう!」
「シャドウホークLAMは、開発に失敗したってどこかで聞いた気がするが……。」
「よくご存じですなあ隊長。ですから、基本的な構造から手が入ってますな。おかげで外見ではシャドウホーク系の機体だとはわからん様になっておるんですのう。」
「それって、もうシャドウホークとは言えないんじゃ……。」
「言えませんの。だから、流れをくんでるだけなんですのう、これが。」
ちょっと詐欺の様な気がしたキースだった。ともあれこれで、敵から入手した資料にあった星間連盟期の遺跡発掘は、すべて完了した。第5発掘ポイントには、まだバトルメックの自動整備施設も残ってはいるが、今のところその設備をどこかに移設することはできない。可能ならば首都ドリステルの近くか、あるいは駐屯軍基地の近くにでも移すことが望ましいのであるが。もっとも、そこに備蓄されていた資材を全て回収して来たので、自動整備施設だけあっても意味は無い。とりあえず、サイモン老の手が空き次第、レパード級降下船ゴダード号で現場に連れて行き、その整備施設を移設できるかどうか確認してもらう予定である。
3025年9月13日、その夜キースはアルバート中尉、アーリン中尉と、これからのことについて話をしていた。
「……そうですか、援軍申し込みは却下されましたか。」
「ああ。今日着いた不定期便の軍用降下船が、恒星連邦の返事を持って来たのさ。不確定な情報だけで、今まさに侵略を受けているマーダックを差し置いて、この惑星に増援を送るわけにはいかないそうだよ。」
「軍用降下船が、わざわざメッセージを?」
アーリン中尉が意外そうな声を出す。その気持ちは、キースにもわからなくもない。増援を送るわけでもないのに、こんな辺ぴな田舎惑星に軍用の降下船を送り込む理由がない。
いや、1つ理由があったことをキースは思い出す。
「遺失技術メックおよび部品、ですか。」
「あたり。ザヴィエ・カルノー公爵閣下が手配してたらしいよ。NAISに今回発掘された遺失技術バトルメックを輸送するために、できるだけ大量のバトルメックを輸送できる降下船を送れ、ってな。それでなんとオーバーロード級を1隻送ってきた。」
「わざわざオーバーロード級を空荷で送ってきたの?」
「いや、不幸中の幸いと言おうか……。キース中尉のところのウォーハンマーとマローダー、あれの予備部品や補修部品注文してたろ?それを持って来てくれたらしい。これでウォーハンマーは復旧できるよね。それにうちの小隊でも、サンダーボルトのとかエンフォーサーのとかD型フェニックスホークのとかシャドウホークのとか、予備部品注文してたんだよね。
他には色々他の惑星で生産された機械類とか。コンバインとかトラクター、ディーゼル機関車なんかだね。そう言った物を、この際だから満載してきたらしい。」
オーバーロード級と言う、ある意味で軍用の極致とも言える降下船が、農作業用や輸送用の民生機器などを運んで来たことを知り、アーリン中尉はがくっと脱力する。キースも多少脱力する物を感じなくも無かったが、気合いを入れ直す。
「話を戻しましょう。敵のスパイ網がもしこの情報を掴んでいれば、もう遺失技術メックは手に入らないと悟ってこの惑星へやって来ない可能性もあります。ですが既に招かれざる客が、あちらの星を進発していれば……。航宙の間にHPGによる超光速通信で情報を受け取ることはできないのですから、この惑星で発掘を続けているはずの発掘部隊を……正確にはその戦利品を受け取りに来る可能性もあります。」
「安心はできない、ってわけね。」
「万全の準備を整えて待ち構えましょう。気圏戦闘機によるCAPの体勢を整えて。」
「そうだな。任期が切れる10月前半までその体勢を続ければ、何処からも文句は出ないだろ。」
キースの中では、余計な被害を出さないために敵に来て欲しくない気持ちと、仇を討つためにも敵に来て欲しい気持ちとがせめぎ合っていた。彼はそんな矛盾する気持ちを、胸の奥に押し込める。今は「もしも」に備えることが何よりも重要なのだ。それ以外のことは、「可能であれば」でしかない。
胸の中の嵐と戦っているキースを、アルバート中尉がわずかに隠せなかった同情の視線で見つめていた。
さて今回は、色々無茶な物を出してしまいました。一応SNEのリプレイに出て来たり、個人HPで翻訳されてたりした物でなんとかしたんですがね。自動制御フェニックスホークLAMは、やり過ぎだったかなあ(笑)。
それと、主人公たちにプラスの方向では無い、マイナスの方向のご都合主義で、援軍は却下してしまいました。主人公達には頑張ってもらいましょう。