鋼鉄の魂   作:雑草弁士

29 / 108
『エピソード-015 引き抜き工作』

 標準時間では3025年の9月19日と、秋を思わせる日付だが、ここドリステラⅢではこれから夏真っ盛りの時期であった。しかも公転周期は110.44日と、標準時間の1/3年に少し足りないほどである。この惑星では、季節はあっという間に過ぎていくのだ。この日キースは、久しぶりに75tマローダーではなく55tグリフィンに搭乗し、惑星首都ドリステル近郊にやって来ていた。と言うのも、マローダーの腕は直接粒子ビーム砲になっているために両手が無く、ユニオン級降下船ゾディアック号にぎっしりと詰め込まれた「とある物品」を荷降ろしするのに不都合があったからである。

 同じくキースの予備メック、45tのD型フェニックスホークに乗り込んだエリーザ軍曹が、レパード級降下船ゴダード号から降りながら愚痴を言う。

 

『バトルメックを荷積み荷降ろしに使うのは、それが戦利品とかじゃあないと、いまひとつ納得できないわね……。それにあたしのウォーハンマー、せっかく直ったのに使えないんだもの。』

『本音は後半だろ。いいからさっさと降りろよ。自分のメックが使えないのは、俺も一緒だぜ?それに、この「荷物」も戦利品みてーなもんじゃねーかよ。』

 

 これもキースの予備メックである、55tウルバリーンに乗り込んだアンドリュー軍曹が、エリーザ軍曹に突っ込む。いつもと突っ込み役が交代しているのに、キースは違和感を覚えたりしていた。ちなみにアンドリュー軍曹の本来のバトルメックは60tのライフルマン、エリーザ軍曹の本来の機体は彼女が言っていた通り、70tのウォーハンマーだ。だが2人とも操縦の腕前は確かで、慣れていない機体だとはとても思えない。

 キースのメック小隊『SOTS』の副隊長マテュー少尉が、これは彼本来の乗機である55tウルバリーンの機上から2人を宥める。

 

『まあまあ、言い合いをしてる暇があったら、さっさと作業を終わらせましょう。建設予定地にはもう重機とメックが入って、作業をしているそうです。』

『『へーい。』』

「……それにわざわざバトルメックを使っている理由は、いざという時に戦闘ができるからだぞ。ドラコ連合のスパイ網の洗い出しは、どうもあまり上手く進んでいないと言う話だからな。万が一戦車かなにかで襲撃を受けたら、たまったもんじゃない。メックは無いと思うがな。」

 

 キースの台詞に、全員の目が厳しくなる。エリーザ軍曹は、ぱん!と自分の両手で自分の頬を挟む様に叩き、気合いを入れ直した。アンドリュー軍曹も、ごくりと唾を飲み込んだ。マテュー少尉はその様子に頷く。キースは先頭に立ち、ユニオン級ゾディアック号の球体状の船体に向けて、機体を歩ませた。

 

 

 

 巨大な「荷物」を持ったキースたちのバトルメックが、工事現場に入る。そこでは大型のパワーショベルやクレーンなどの重機に混ざって、20tスティンガー5機、20tワスプ1機、45tフェニックスホーク2機が、メック用の巨大な円匙(スコップ)、鶴嘴(ツルハシ)を持って土木工事をしていた。更に20tのローカストと、60tのライフルマンが、立哨として周辺警戒をしている。

 これらのメックの大半は、キースたちがこの惑星に隠されていたバトルメック倉庫から発掘した物である。発掘メックのうち、遺失技術が使われていた物はNAIS――ニューアヴァロン科学大学――に送られたが、それ以外の機体はこの惑星に残されたのだ。わずかにスティンガー1機とワスプ1機のみは、惑星軍に元からあった機体である。それらは見た目からして使い込まれており、新品同様の発掘品とは異なっていた。

 アンドリュー軍曹が、ぽつりと漏らす。

 

『昔からメックに乗ってるにしては、他のスティンガーと動きが変わらねーな。他のスティンガーは、最低限の訓練を受けただけの新人なんだろ?』

『乗り換えたんでしょ?あっちのフェニックスホーク2機は、良い動きしてるわよ?』

『ああ、なるほど。もっと強い機体が手に入ったんなら、ベテランを軽量級に乗せたままにはしておかねーか。』

 

 エリーザ軍曹の台詞に、納得するアンドリュー軍曹である。だがその隊内通信に、割り込んでくる声があった。

 

『ところがの、ワスプやスティンガーにあまりに慣れ過ぎておってのう。フェニックスホークではやってはいかんと、あれだけ口を酸っぱくして言ってやったのに、全力ジャンプした上で全開射撃をしよるんじゃわい。』

『ああ、そりゃまずいな。マイアマーが熱でダレて動きが鈍くなるし、センサーも感度が悪くなって射撃の命中率が……。って、今の誰だよ?』

「公爵閣下!」

『『『ええっ!?』』』

 

 キースの言葉に、隊員たちは皆一斉に驚く。キースは隊員たちに命令を下した。

 

「荷物を降ろし、工事現場作業指揮所に向かい、敬礼!」

 

 キースのグリフィンは、持っていた大荷物を足元に降ろし、機体と搭乗者本人の両方で見事な敬礼を決める。マテュー少尉、アンドリュー軍曹、エリーザ軍曹もまた、ワンテンポ遅れはしたもののそれに倣い、見事な敬礼を行った。

 工事の視察に来ていたドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーは、鷹揚に言葉を発する。

 

『ああ、よいよい。楽にせい。と言うか、その荷を早く所定の位置まで運ぶがよかろうて。先日ぶりじゃのう、若人よ。また後で話そうて。のう。』

「はっ!お気にかけていただき、光栄です!では作業に戻らせていただきます!」

 

 キースはグリフィンに荷を拾わせ、移動を再開した。隊員たちも、慌ててその後に続く。アンドリュー軍曹は、秘匿通信で愚痴を吐いた。

 

『驚いたぜ……。なんで公爵閣下サマがこんなところにいるんだよ……。』

『それだけこの工事が重要だと言うことだろ、いえ、でしょう。』

 

 マテュー少尉も、お仕事モードの化けの皮がはがれて一瞬フランクな口調になる。そう、彼の言う通り、この工事は非常に重要なものであった。この工事現場は惑星軍のドリステラ基地の一角であり、工事の目的は例の第5発掘ポイントで発見されたバトルメック自動整備施設の移設である。キースたちのバトルメックが運んでいるのは、その自動整備施設のパーツの一部であったのだ。あの後、ウォーハンマーと予備メックであるクリントの修復を終わらせて時間のできたサイモン老が、発掘現場に行って確認したところ、自動整備施設の移設が充分に可能だとの結論が出たのである。

 無論、それには非常に高度な知識が必要になる。最高クラスの技術者であるサイモン老と、コンピュータ技師として極めて優秀なパメラ伍長は、公爵閣下の要請により工事の基礎計画を任され、自動整備施設の移設最終段階には一時的に出向する約束をさせられていた。先日貸した分を返せ、と言うわけである。もっとも只というわけではなく、駐屯軍に対してはけっこうな額の報酬の支払いが為される予定である。Win-Winの取引と言うわけだ。

 そしてキースたち駐屯軍は、自動整備施設のパーツを発掘現場からこの工事現場まで輸送する仕事を、恒星連邦政府を介して命令された。その命令の大元は、ここに来ていることからして明らかに、ドリステラ公爵から出た物であることは間違い無かったが。

 

『あと何回往復すりゃいいんだ?』

『5回か6回ね。』

 

 アンドリュー軍曹とエリーザ軍曹が、ほんのわずかばかりの疲労を滲ませて言う。やはり慣れないメックは疲れるのだろうか。マテュー少尉はいつも乗っている機体であるが故に、まだまだ元気だ。

 

『戦闘出撃扱いで報酬が出るんですから、元気出してやりましょう!』

『へ~い。』

『は~い。』

 

 どうにも緊張感が持続しない2人である。キースはグリフィンの操縦席で、こっそり溜息を吐いた。

 

 

 

 そして今、キースは惑星公爵ザヴィエ・カルノーと1対1で対面し、お茶を飲んでいる。彼は荷運びの仕事を全て終わらせた後、グリフィンをレパード級ゴダード号に戻して公爵に挨拶に来たら、近場にある別邸に誘われ、お茶に付き合わされたのである。ちなみに部下はマテュー少尉ですら、一緒に来てくれなかった。

 ザヴィエ公爵は、お茶の香りを楽しみながら言葉を紡ぐ。

 

「ふむ……。この茶葉はの、この惑星で作られたものでのう……。この惑星の短い季節のサイクルの中で、満足な味と香りを出すのにえらく長い間苦労を重ねた、と記録に残っておるわ。どうかの?味は。」

「は。自分には大変美味しく思われます。」

「ほっほっほ。下手に難しい言葉を使わずに、平易かつ失礼のない言葉を用いるか。慎重じゃのう。」

「は……。」

 

 下手に緊張しても意味はない。キースは開き直って自然体でお茶を楽しむ。無論、失礼にはならない様に、だ。ザヴィエ公爵は、キースの肩から力が抜けたのに気付いた様で、唇の端がわずかに上がった。ザヴィエ公爵は、おもむろに本題を切り出す。

 

「バレロン伯爵のせがれ、いや今はあれがバレロン伯爵であったな。元気かの?」

「はい。先日手紙を貰い、返事の中で閣下に大変お世話になった事をしたためました。手紙の中で彼は、日々職務に邁進していると書かれておりました。」

「うむ、孫からもバレロン伯爵の部隊は規律正しく士気も高い、かの人物は傑物である、と手紙に書かれておったよ。」

 

 キースは親友であるバレロン伯爵ジョナス・バートンが評価されて嬉しく感じると共に、この眼前の老人の魂胆がわからず困惑する。もっともその困惑を、表情には出さなかったが。キースはちょっとだけ先手を打ち、牽制しておこうと考える。

 

「自分は彼に大変世話になっております。彼を傷つけるもの全てから、彼を守らねば、と考えている次第であります。残念ながら、逆に彼に守られているばかりの立場でありますが……。」

「今のところ、バレロン伯爵には敵と言えるような者はおらんの。ただし表の政界には、の。」

「どういう、意味、でしょう?」

 

 思わず、キースの言葉が揺れる。ザヴィエ公爵は、眉を顰めつつ言った。

 

「バレロン伯爵に袖にされたご婦人方がいらっしゃるのだよ。伯に誘いをかけて、の。まったくふしだらな。しかもそれを根に持って、伯の悪い噂を自分の飼っている若いツバメを使い表の政界で流そうなどと。まあ、それを信じた馬鹿はおらんと孫も手紙で書いてきておる。しかし……。

 しかしバレロン伯爵も一時のことと割り切って、一夜のお付き合いでもすれば良さそうなものを……。きれいごとだけでは済まないことも、裏の政界ではあるのにのう。」

「それは……彼にはできません。できない、でしょう。」

 

 テーブルの下で拳を握りしめ、キースは思い出す。彼の親友、ジョナス・バートンの身体に刻まれた、幼い頃に異母兄姉から受けた虐待の痕を。それは未だに消えていないはずだ。彼の身体からも、そして心からも。キースの手により虐待から救われ、立ち直ったとは言っても、幼い日々のその傷跡は完全に消えることは無いだろう。ジョナスが一夜のお付き合いを断ったのは、間違いなくその傷跡を見られることを嫌ったためだ。

 ザヴィエ公爵は怪訝そうな顔つきになる。

 

「むむ、だがの。きたないことも裏の政治の世界では必要になるのじゃ。お主は若いが故、知らぬであろうし、知りたくもないであろうがの。」

「はい、いいえそうではありません。彼……バレロン伯爵には、いざとなればきたないことをする覚悟も充分備わっています。ですがそれとは事情が違うのです。個人のプライバシーに関わることなので話す事は断じてできかねます。ですが、きれいきたないの問題ではないのです。」

「……深い事情がありそうじゃの。聞かなかったことに、した方が良いかの?」

「お願いいたします。」

「そうか……。」

 

 ザヴィエ公爵はわずかな間だけ沈痛な表情になるが、一瞬後にやりと笑うとキースに向かい、言い放った。

 

「お主の様な人材、孫の傍に欲しいのう。」

「お戯れを……。」

「いいや、真面目な話じゃよ。わしの孫に仕えてくれると嬉しいのじゃがのう。」

 

 ザヴィエ公爵の顔は笑っている。だがその目は笑っていなかった。だがキースは謝絶する。

 

「申し訳ありませんが、その儀だけはお許しください。」

「理由を聞いてもいいかの?」

「いくつか理由はありますが、最大の物は、自分が仇持つ身であるという事です。その仇を討ち取るまでは、何かに縛られるわけには参りません。それに仮に仇を討てたとしても……。」

 

 苦笑しつつザヴィエ公爵が言葉を被せる。

 

「……お主の行くところは、バレロン伯爵のところ、か。」

「彼の傍に自分の居場所があるとは限りませんが、それでも今の自分があるのは彼のおかげなのです。もし彼が困っているとしたら、今度は自分が彼を助ける番です。彼が平穏であるならば、自分は彼の平穏を守るため動きましょう。」

「むう、惜しいのう。……?……そうか、そうじゃの。ほっほっほ。」

 

 突然のザヴィエ公爵の笑いに、キースは一瞬驚く。その驚きの表情を見て、ザヴィエ公爵は再びにやりと笑う。

 

「……公爵閣下、何をお笑いでしょうか?」

「いや、の。将を得んとすればまず馬を射よ、という言葉を思い出してのう。」

「閣下、まさか!」

 

 キースはザヴィエ公爵の言っている馬が、ジョナスのことだと瞬間的に察した。キースの頭に血が上りかけるが、彼は瞬時に自制する。ザヴィエ公爵は苦笑した。

 

「いやいや、そうではない。わしは単に孫に対し、バレロン伯爵をなんとしても物にしろ、と命じるつもりなだけじゃよ。」

「か、閣下?バレロン伯爵は自分が知る限り、まっとうな性癖の持ち主ですが。」

「……?……おお、そうか。安心せい、孫は歴とした女じゃ。しかも身内の身びいきなしで言うが、けっこうな美形じゃぞ?ちょいとばかり胸は残念じゃが。しかも性格も良い。バレロン伯爵が何やら問題を抱えていようと、支えてやれるはずじゃわい。2人が良い仲になって結婚でもすることになれば、お主も半自動的にやって来てくれる、と言う物じゃて。

 まあ問題は……。バレロン伯爵は伯爵家ではあるが家格は高く、わしの様な田舎公爵と縁続きになるのを嫌がるかもしれんと言うことか、のう。なに、全てはわしの孫次第じゃ。」

 

 キースは開いた口が塞がらなかった。その間抜け面を見て、ザヴィエ公爵はまた笑った。

 

 

 

 キースはゴダード号に戻って来てから、ずっと口を利かなかった。それを見て、仲間たちは口々に言う。

 

「あー、やっぱ誰か付いて行った方が良かったんじゃね?具体的に言うと、マテュー少尉とかマテュー少尉とかマテュー少尉とか。」

「待ってください。私の礼儀作法は付け焼刃です。付いて行ったら、足を引っ張る結果になってました。

 それに偉い人の前に出るなんて、ぞっとしないですし。」

「ソレが本音でしょ。あたし?あたしは見ての通りガサツだし。」

「わかってる。」

「ええ、わかってます。」

「ふふふ、月のある夜ばかりだと思わないでね。」

「いえ、ドリステラⅢの月は2つありますから、両方ともが出てない日はそうそう無いんですが。」

 

 キースは彼らの言葉を聞きながら、今日の会話を反芻していた。やがてゴダード号が発進する。ほんのわずかな時間で、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地が見えて来た。




やっぱり主人公程の能力の持ち主は、家臣として欲しがる人、大勢いますよねー。ま、下手に何処かの家臣になるわけにはいかないんですが、主人公の立場としては。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。