敵の降下船が降りて来るまでには、まだ若干余裕があった。キースは自機マローダーの操縦席から、ユニオン級降下船ゾディアック号へと通信回線を繋ぐ。
「アリー船長、マンフレート副長、新しい船へ慣れるための慣熟訓練の時間もやれずに実戦になってしまい、済まない。」
『いえ、中尉のせいではありません。何、ざっとですが船の調子は見せていただきました。あとは実戦で慣れるといたしましょう。』
『ええ、そうですとも。傭兵部隊の降下船副長になると決まったときから、覚悟はしていましたからね。』
「そう言ってくれると気が楽になるよ。その船の指揮は任せた。頼むぞ。以上。」
次にキースは、回線をヴァリアント号とライトニング戦闘機2番機に繋いだ。
「カイル船長、イングヴェ副長、ジョアナ少尉、間もなく敵降下船のうち2隻が降りて来る。ヴァリアント号はゴダード号のヴォルフ船長たちと協力して、引っ掻き回すだけ引っ掻き回してくれ。無茶をするな、とは言っても無駄だろうから、せいぜい楽しく無茶をしてくれ。
ジョアナ少尉、君はライトニング戦闘機の推進剤が足りていないはずだ。適当な敵に一撃かましたら、あとは一目散に逃げろ。俺の命令があるから、敵前逃亡にはならん。」
『了解だよ隊長。せいぜい楽しく無茶をするとしよう。ゴダード号のヴォルフ船長もアルバート中尉からたぶん同じことを言われているだろうね。』
『了解です隊長。なに、球型・長球型の降下船は地上では鈍重です。そこまで言われるほど無茶でもないでしょう。』
『了解です隊長。申し訳ありませんが、一撃したら離脱させてもらいます。推進剤が補給できていれば良かったのですが……。』
「気にするな、ジョアナ少尉。敵の気圏戦闘機を減らしてくれただけでも充分以上の働きだ。カイル船長、イングヴェ副長、死に急ぎさえしなければ、好きなだけ無茶してくれ。以上。」
その次にキースが回線を繋いだのは、歩兵部隊である。
「エリオット軍曹、歩兵部隊の調子はどうだ?」
『はっ!新兵どもが多少浮ついている様ですが、少なくとも浮き足立ってはおりません!』
「そうか。まあメックに突っ込ませる気は毛頭ない。だから新兵どもが暴走しない様、手綱をしっかり取ってくれ。……いざという時には、隠れて2隻の降下船に近づいてもらい、突入してもらうかもしれん。いや、おそらく今回もその戦法を取ることになるだろう。無理を強いてすまんが、頼む。基本的に、突入のタイミングは軍曹に任せる。
ただしフォートレス級には1個中隊規模の歩兵部隊が乗組んでいる可能性がある。降りて来たのが長球型のフォートレス級だったら、その船への突入は諦めるんだ。いいな?」
『了解!部隊を2つに分けて準備をし、長球型以外の降下船であった場合にのみ、突入を敢行いたします!』
「うむ。以上だ。」
キースは続いて、麾下のバトルメック部隊に回線を繋いだ。
「諸君、あと少しで敵の降下船が降りて来る。恨み重なるハリー・ヤマシタあるいはトマス・スターリングがいる可能性がある。もしいなくとも、『BMCOS』の降下船エンデバー号やディファイアント号に乗ってきた以上、それに関わりのある奴らだ。……皆、勝つぞ!」
『了解だ!まかせとけ隊長!俺のライフルマンで、ギッタンギッタンのケチョンケチョンにしてやるぜ!』
『隊長、こっちも了解。それとアンドリュー、落ち着いて。あまり撃ちすぎると、いざという時にオートキャノンの弾が切れるわよ。』
『了解です隊長。目にものを見せてやりましょう。』
「ああ。皆、その意気だ。以上。」
大方の相手に話し終えたキースは、秘匿回線を使ってサイモン老のスナイパー砲車輛に通信を繋ぐ。サイモン老のスナイパー砲車輛は、直接の戦闘に巻き込まれることを避け、既に基地の敷地を離れていた。スナイパー砲の射程をもってすれば、その距離からでも充分援護が可能なのである。
おもむろにキースは、普段公の場では使わない呼び名でサイモン老を呼んだ。
「……サイモン爺さん。」
『ほ、なんですかのう坊ちゃん。』
サイモン老の方も、最近は滅多に使わなくなった呼び方でキースを呼ぶ。キースは震える声でサイモン老に問うた。いや、サイモン老にではなく、自分自身に問うたのかも知れない。
「トマス・スターリングは、今回の敵の中にいるだろうか?」
『……わかりませんのう。ただ、もしいなくとも今回の敵を叩けば、きっとあやつにも打撃になることでしょうの。』
「そうか……。そうだな。済まなかった、サイモン曹長。」
『いえ、わしは別にたいしたことは全然しておりませんですの、隊長。』
「以上だ。」
ここで、アルバート大尉待遇中尉のサンダーボルトから通信が入る。アーリン中尉のフェニックスホークにも回線は繋がっている模様だ。
『キース中尉。アーリン中尉。ただいま基地の対空監視網が最大望遠で敵降下船を捕捉した。基地の砲台の射程に入り次第、射撃を開始する予定だ。バトルメック部隊もそれにタイミングを合わせて対空射撃を行うが、弾切れの恐れがある実弾兵器は控えてくれ。おそらくは敵もバトルメックを出してくるだろうからな。』
「了解です。」
『こちらも了解。……ねえアルバート中尉、キース中尉。なんで敵は軌道上から降下殻でバトルメックを降下させなかったのかしら。』
「おそらくは、こちらの気圏戦闘機を1機も落とせなかったことが響いていたのでしょう。降下中のバトルメックは、気圏戦闘機のいい餌食ですからね。バトルメックを射出した後に、こちらの気圏戦闘機が戦域に復帰する可能性を恐れたのではないかと。
しかし……気圏戦闘機に変形可能なLAM機が敵に無かったのは幸いでした。」
『確かにそうだね。さて、もうじきだぞ。』
もう既に、上空に2つの船影が見えていた。片方は西瓜の様な球型、もう片方は卵の様な長球型をしている。キースはアルバート中尉とアーリン中尉に注意を促した。
「フォートレス級が来ました!強敵です、気を付けてください!歩兵部隊を乗せている可能性が高いので、あれにこちらの歩兵を突入させるのは危険です!」
『となると、姿の見えない残り1隻はユニオン級か。たしかフォートレス級はロングトムⅢ間接砲を搭載しているんだったね?まずいな……。こちらのバトルメックにはめったに当たらないだろうが、基地の砲台や本部棟などを狙われては……。』
『あっ!?ユニオン級から何か落ち、いえ降りてくるわ!』
ユニオン級の、バトルメック用ハッチが開いていた。そしてそこから8機のバトルメックが降下してくる。いずれもジャンプジェットを装備した機種であるらしく、降下速度は時折ランダムに遅くなる。まあ、ジャンプジェット装備機でなくば、この高度の降下船から飛び降りたりはできないのだが。
キースはマローダーのセンサーで各々のメックをロックオンし、まだ超遠距離のそれらのメックを機種判別していった。と、その目が見開かれる。キースは今ロックオンしているバトルメックを、マローダーのスクリーンで可能な限り拡大して映す。キースの口から呪詛の言葉が漏れた。
「おのれ……。ただでは済まさないぞ……。」
『え?キース中尉?』
『どうしたね!?』
キースはアルバート中尉、アーリン中尉の言葉には応えず、マローダーの粒子砲になっている両手をその降下してくるバトルメックの方へと伸ばした。今にも撃ちそうな構えである。アルバート中尉が、キースを制止せんと声を上げた。
『待て、キース中尉!今撃っても有効射程外だ!機体の過熱を招いて敵に有利になるだけだぞ!』
『キース中尉、どうしたのよ!?』
「……申し訳ありません。取り乱しました。」
キースの声は、既に平静に戻っている。だがその表情は、憤怒に染まっていた。
「あれは、あのデスサイズ、いえエクスターミネーターは、自分の父のバトルメックです。父の死の原因になった者たちが、それをのうのうと使っているのを見て、思わず我を忘れてしまいました。」
『……そうか。ではあれが君のお父上の仇かもしれないのか。』
「いえ、仇であるトマス・スターリングは自分自身のもっと重い強襲メック、80tのヴィクターを所有していたと言う話ですから、あれは違うでしょう。ですが、実行犯の一味であることは間違いないです。」
アーリン中尉は言葉もない。アルバート中尉は、硬い声音で尋ねる。
『キース・ハワード中尉。大丈夫、だな?』
「はい、もう大丈夫です。信じてください。」
『うん。じゃあ射撃準備だな。先ほどの降下部隊は地上に降りた。そのままこちらに向けて進軍して、降下船の着陸ポイントを占拠しようと言うのだろうね。こちらとしても、上空の降下船ではなくあちらのバトルメックを狙わざるを得ないし。
……よし、ではお祭りを始めようかね。』
アルバート中尉の声は、いつもの調子に戻っていた。キースも可能な限り普通の声になる様に自制して言う。
「了解です。じゃあちょっと一発、相手の度胆を抜いてやりますか。」
『キース中尉?本当に大丈夫ね?』
「はい。もう落ち着きました。落ち着かなければ自分や戦友が死ぬことになります。俺はそれに耐えられるほど強い人間ではありませんから。だから心を落ち着ける技術は、持っているつもりです。」
『流石ね。頼りにしてるわよ。』
「お互い様ですよ。」
キースはアーリン中尉との話を終えて、隊内通信で部下たちと話す。
「皆、まずは降りて来たやつらを叩くことになる。ここから届かせる自信はあるか?」
『俺は大丈夫だぜ。』
『あたしもたぶん当たると思います。ただ確実とは言えないから、粒子ビーム砲だけにしておきますね。』
『私は厳しいですね。遠距離射程で、敵が全力移動してますから……。いや、あのパンサーなら動きは多少鈍いですから、上手くすれば……。』
部下たちの言葉に頷くと、キースはアルバート中尉に発砲許可を求める。
「アルバート中尉、うちの者たちはこの距離であてる自信がある様です。撃ってよろしいでしょうか?」
『いいだろう。砲台も発砲開始させるから、君らも好きなようにやってくれ。』
『相変わらず、凄い腕前ね。うちの面々じゃ、私も含めてあたりそうにないわ。』
「ありがとうございます。では……。聞いたな諸君!撃ち方開始!サイモン曹長、スナイパー砲をBASE-E03776にぶち込め!その次はそこからEWに720m地点!今の風向はWより2単位の風力!」
基地に2基ある砲台に装備された粒子ビーム砲が火を吹く。それと同時に、キースのマローダーが粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノンを、アンドリュー軍曹のライフルマンが中口径オートキャノン2門を、エリーザ軍曹のウォーハンマーが粒子ビーム砲2門を、マテュー少尉のウルバリーンが中口径オートキャノンを、それぞれ遠距離射程ぎりぎりの距離にいる敵機めがけて撃ち放った。
狙われたのは、高い遠距離攻撃力を持つ55tグリフィンと35tパンサーの2機だ。砲台の攻撃は外れたが、キースたちの攻撃はそのほとんどが命中する。パンサーには中口径オートキャノンが3発と粒子ビーム砲が1発命中し、左脚を吹き飛ばした。敵のグリフィンには粒子ビーム砲2発と中口径オートキャノン1発が命中し、胴中央にダメージが集中、融合炉の鎧装を2層ばかり破壊する。融合炉からの異常発熱により、元から過熱しやすいグリフィンは、その攻撃力のほとんどを奪われた。
これに驚いた敵機は、メック部隊を避けて砲台を破壊しようと大きく迂回し、左右に分かれる。このため、敵機は一時的にキースたちの有効射程から出た。パンサーはその場に置き去りだ。グリフィンは移動力には障害が無いため後退して、熱の発生が少ない長距離ミサイルを花火の様に打ち上げている。
キースたちから見て右に行ったのが65tエクスターミネーター、40tアサッシン、40tバルカン。左の砲台へ向かったのが、45tフェニックスホーク、45tD型フェニックスホーク、40tクリントだ。右の隊は各個の機動性がばらばらであるため、適度に分散している。左の隊は機動力が揃っているため、一塊になって移動していた。
(計算通りだ。)
キースたちは、再度射程に入って来たアサッシンに向けて射撃を行う。今回もほとんどの攻撃が命中し、やや全身にダメージが散ったものの、胴中央を食い破られたアサッシンはジャイロを破壊され、その場に立ち往生した。だがエクスターミネーターとバルカンは砲台に攻撃を命中させる。砲塔の旋回機能をやられた砲台は向きを固定されてしまい、降下船への攻撃が不可能になる。
一方敵のフェニックスホーク、D型フェニックスホーク、クリントの3機は、走行移動からジャンプ移動に変えて砲台に近づき、各々レーザーやオートキャノンを撃ち放った。ジャンプ移動に変えたのは、地面がフェロクリートで舗装された舗道になっているためだ。こういう所では全速での走行移動を行うと、スリップして転倒しかねない。ジャンプ移動であれば細かい機動性も確保できる。こちらの砲台も、砲塔の旋回機能を奪われてしまった。しかしそこへスナイパー砲の攻撃が降り注ぐ。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
敵のD型フェニックスホークに砲弾は命中し、敵フェニックスホーク、敵クリントの2機がその余波に巻き込まれた。
『キース中尉、どう動く?』
「1隊が右手の敵、1隊が左手の敵に向かい、最後の1隊がここで支援射撃および降下船への牽制を行うのが良いかと。左手の敵に向かうのは、高機動メックで構成されたアーリン中尉の部隊が適任です。右の敵には……申し訳ないのですが、アルバート中尉の隊にお任せした方が良さそうです。」
『了解だよ。君の敵を貰ってしまうことになるが……。詫びと言ってはなんだが、こっちは忙しくなってしまうから、レパード級降下船ゴダード号の投入時期の判断は、君に任せたいね。』
『了解よ、キース中尉。あっちは任せておいて。』
アルバート中尉の『機兵狩人小隊』、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』は、各々の敵に向けて歩行移動あるいはジャンプ移動で近づいて行く。キースの小隊『SOTS』は、降りて来た降下船に対して射撃を行い牽制する。だが敵の手にあるフォートレス級とユニオン級は、その厚い装甲に物を言わせて強引に降下してくる。そればかりではなく、その高い火力でこちらを攻撃してくる様子もある。遠射程なのでなかなか命中弾は無いが、それでも心臓に悪い。キースは叫んだ。
「アリー船長!カイル船長!ヴォルフ船長!出番だ!
サイモン曹長!次は前地点からNに330m!」
『了解です、中尉。』
『待ちかねたよ!』
『いっちょ、ぶちかますかね!』
味方のユニオン級ゾディアック号が中口径オートキャノン、20連長距離ミサイル、粒子ビーム砲、大口径レーザーを撃ちながら浮遊しつつ接近してきた。そして敵降下船の弾幕の中を、2隻のレパード級降下船が高速で飛翔する。敵船2隻は、レパード級2隻に狙いを付けねばならず、しかも相手が高速であるために命中弾を与えられないでいる。敵の砲手は、さほどの腕前では無い様だ。残念ながら味方降下船の砲手も、それほどの腕前では無いのだが。
そしてついにフォートレス級が着陸し、そのハッチを開いて傾斜路を作る。ユニオン級もまた、着陸してメック用ハッチを開いた。ユニオン級のハッチからは65tクルセイダーと50tハンチバック、40tシカダ、それに20tローカストが出現する。一方フォートレス級からはマンティコア戦車4輛、ハンター戦車4輛、ヴァデット哨戒戦車4輛、それに4個小隊……つまり1個中隊の歩兵が飛び出してきた。キースはつい、内心の思いを口走る。
「フォートレス級には、あとメック1個中隊を載せる余裕があるはず!それを出さないと言う事は、あれが荷積み用の空船か!?」
クルセイダーは少しだけ前進すると、先ほどから全然戦力になっていないグリフィンと並んで静止、両腕の15連長距離ミサイルを発射する。ハンチバックはできるだけ距離を詰めようと、舗道にもかかわらず全力疾走。ローカストとシカダも、全速でこちらに向かって来た。戦車の群れは20連長距離ミサイル発射筒や粒子ビーム砲、中口径オートキャノンを撃ちまくりながら前進してくる。歩兵は何の策もなしに、ライフル銃を乱射しながら突撃してきた。
と、クルセイダーに向けて空中から襲い掛かる影があった。直前まで付近の空中で待機していた、ジョアナ少尉のライトニング戦闘機2番機である。
『落ちなさい!』
クルセイダーは突然の伏兵に驚き、15連長距離ミサイルと中口径レーザーで応戦する。しかし命中弾は、中口径レーザー1本のみ。逆にジョアナ少尉機の全開射撃は全て命中した。胴中央に最大口径のオートキャノン、右胴と左脚に中口径レーザーの直撃をくらったクルセイダーは、それでも耐えていたが、頭部に2発命中した中口径レーザーがとどめとなり、たまらず機体が転倒する。クルセイダーはそのまま動きだすことは無かった。メック戦士が気絶したのであろう。
ジョアナ少尉はキースに通信を入れる。
『すいません、推進剤が無いので離脱します!』
「わかった、あとは任せろ。サイモン曹長、次の射撃目標はNNEに60mずらしてくれ!」
ジョアナ少尉機は全速で戦域を離脱していく。見ると、アルバート中尉の『機兵狩人小隊』は今しがたスナイパー砲の直撃をくらったバルカンを降伏させ、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』はこれもまたスナイパー砲の支援によりフェニックスホーク、D型フェニックスホーク、クリントの片脚を蹴り折っていたところだった。
キースは部下たちに命令を発する。
「マテュー少尉とエリーザ軍曹の2人で、ハンチバックを仕留めてくれ!俺とアンドリュー軍曹はシカダとローカストを接近前に叩く!」
『『『了解!』』』
その時、戦いが始まる前にアルバート中尉が恐れていたことが起きる。フォートレス級のロングトムⅢ間接砲が動き出したのだ。砲身は、基地の本部棟を狙っている。射線が通っているので、着弾観測員は必ずしも必要ないのだ。
と、ここでキースのマローダーに通信が入った。エリオット軍曹からだ。
『隊長!1隊をユニオン級に突入させました!そちらの指揮はテリー伍長が取っています!』
「そうか、軍曹。頼んだぞ。」
『はっ!それと上申させていただきます!フォートレス級に対する突入許可を!フォートレス級に乗組んでいた歩兵は、おそらく全て出撃した物と思われます!』
「……よし、軍曹!頼む!全体を占拠できれば良いが、せめてロングトムⅢだけでも止めてくれ!」
『はっ!了解です!ではこれより自分が、フォートレス級への突入指揮を取ります!』
その時、フォートレス級のロングトムⅢが火を吹く。キースは歯噛みした。そのキース機に向かい、シカダが一直線に全力で走行してきた。体当たりをするつもりだ。キースはマローダーの両手の粒子ビーム砲を同時に発射した。それはシカダに命中、シカダの両腕を消し飛ばす。シカダはその衝撃で、キースのマローダーの眼前でひっくり返った。キースはマローダーの右脚を上げて、シカダの胴体を踏み潰す。シカダは右胴を踏み潰されて中口径レーザーの1基を失い、メック戦士は緊急脱出した。その隣では、アンドリュー軍曹のライフルマンがローカストのマシンガン弾薬に直撃弾を与え、ローカストを消し飛ばしたところだ。
見ると、敵のハンチバックもまたエリーザ軍曹のウォーハンマーとマテュー少尉のウルバリーンに囲まれてパンチの連打を喰らっており、今しがた頭部をウォーハンマーの直接粒子砲の砲身になっている右腕で叩き潰されたところだった。それまでにウォーハンマーとウルバリーンには少なからず命中弾を送り込んでいた模様だが、この2人を倒すには至らなかったらしい。ちなみにメック戦士はぎりぎりで緊急脱出していた。
敵のバトルメックは、大半がその戦闘力を失うか破壊された。しかし未だ指揮官機であるエクスターミネーター……キースの父親のバトルメックであったデスサイズは健在であり、戦車部隊と歩兵部隊は無傷である。と、ここでエクスターミネーターが最大ジャンプで後退し、後ろを向いてユニオン級降下船の方へ駆け出した。どうやら逃げるつもりの様だ。
「逃がしてたまるか!……!?」
しかし追撃しようとしたキースの前を塞ぐように、歩兵と戦車部隊が展開する。ことに歩兵は、バンザイを叫んでまっしぐらに突撃してくる。
「歩兵や戦車を捨て駒に、自分だけ逃げるつもりか!アーリン中尉、機体のダメージは!?」
『いくらか喰らったけど、まだ充分いけるわ!』
「すいませんが、フェニックスホークの機動力で敵指揮官を追い詰めてください!俺は見ての通りですので!」
『了解!……キース中尉、歩兵だからと言って、手加減しては駄目よ?わたしには経験があるけど、対メック歩兵を侮ってはだめ。』
「わかっています。手加減はしません。」
キースはそう言うと、バンザイ突撃をしてくる歩兵に中口径レーザーを2発と粒子ビーム砲1発を撃ち込む。フェロクリート舗装の地面がはじけ飛び、歩兵1個小隊が消し飛んだ。だが残り3個小隊は、変わらずバンザイを叫んで突っ込んでくる。戦車は、ある程度離れた場所から砲撃に専念していた。歩兵部隊に比べ、戦車部隊の士気は低い様だ。しかも腕前も低い様で、命中弾はごくたまにしか無い。キースのマローダーは、ほとんど無傷だった。その僅かな傷も、歩兵にやられた物だ。
アンドリュー軍曹のライフルマンが、大口径レーザー1本と中口径レーザー2本を歩兵に向かい放つ。また歩兵1個小隊が消滅した。後には焼け焦げた死体が残る。
『……あんま、いい気分じゃないよな。コレ。』
「いい気分じゃないのは俺も同じだ。だがバンザイ突撃をしてくるドラコ歩兵を止めるのは、不可能だ。……消し飛ばすしかない。サイモン曹長、新たにBASE-N04370にぶち込んでくれ。」
キースは戦車部隊の動きを読んで、それに対する間接砲撃を指示すると、再度粒子ビームと中口径レーザーを放った。また歩兵が1個小隊焼き尽くされる。そこへ追い撃ちの大口径レーザーと中口径レーザー、マシンガンによる攻撃があり、最後の歩兵小隊はバンザイを叫んで吹き飛ばされた。アルバート中尉の攻撃だ。アルバート中尉は『機兵狩人小隊』を率いて中央に戻って来ると、キースに向かって総指揮官として命じる。
『キース中尉、総指揮官としての命令だ。エクスターミネーターを追え。ここの戦車部隊は俺たちが引き受ける。』
「……ありがとうございます!」
キースはマローダーを前進させる。それを阻む様に戦車部隊が動くが、アンドリュー軍曹のライフルマン、マテュー少尉のウルバリーン、エリーザ軍曹のウォーハンマーによる支援射撃と、『機兵狩人小隊』による全面攻撃により、戦車部隊は後退せざるを得ない。
と、フォートレス級の放ったロングトムⅢの砲弾が着弾する。
ヒュウウゥゥ……、ドゴオォン!!
基地の本部棟を狙ったそれは、だが大きく目標を外れて練兵場グラウンドのど真ん中に大穴をあけた。フォートレス級のロングトムⅢは照準を修正し、第2射を撃ち放つ。味方のユニオン級ゾディアック号と、レパード級ヴァリアント号、ゴダード号がフォートレス級に攻撃を集中するが、フォートレス級はその分厚い装甲で耐え抜く。
敵戦力を壊滅できたとしても、ロングトムⅢ間接砲により本部棟や整備棟を破壊されてしまえば、ここの基地は基地機能を失ってしまう。そうなれば良く言って引き分け、普通の評価では惜敗と言ったところだった。
(エリオット軍曹!はやくロングトムⅢを黙らせてくれ!……しまった!)
エクスターミネーター、キースの父の機体であった個体名デスサイズという65t級バトルメックは、150mの最大ジャンプを繰り返し、今まさにユニオン級のメックベイに辿り着こうとしていた。『デヴィッドソン装甲巨人隊』の3機のフェニックスホークがそれを阻もうとしているが、相手はジャンプジェット搭載機。行く手を阻んでも、ジャンプでそれを飛び越えてしまう。常に最大距離のジャンプをしているため、攻撃もなかなか命中しない。キースは心の中で叫ぶ。
(間に合わない!)
だが次の瞬間、エクスターミネーターの眼前で、ユニオン級のメックベイ扉が閉まった。気付けば、ユニオン級からの砲撃は完全に止んでいる。エクスターミネーターは何やらじたばたしていたが、やがて外部スピーカーを使ってがなり始めた。
『こら!わしがまだ乗っておらんぞ!開けろ!開けるのだ!』
そしてキース機に通信が繋がる。
『こちらテリー・アボット伍長。ユニオン級降下船、エンデバー号の制圧に成功しました。負傷者はおりますが、重傷者、死者はおりません。』
「よくやってくれた、伍長!」
『隊長、報告いたします!エリオット軍曹以下1個半小隊42名!ただ今フォートレス級降下船ディファイアント号を制圧完了!死者はおりませんが、軽傷者が5名であります!』
「軍曹もよくやってくれた!」
『いえ……。最後に1発、ロングトムⅢを撃たせてしまいました。あれが着弾する場所によっては、大変なことになります。』
「それは今気にしても仕方ない。敵の部隊長を討って、片を付けるぞ!」
キースはエクスターミネーターに向けて、2門の粒子砲と中口径オートキャノンを構える。キースの耳には、かつての父親の声が聞こえていた。
『……いつかはお前に、あのデスサイズを任せることになるんだ。『BMCOS』の第3中隊中隊長の座と共に、な。』
(父さん……。ごめんな、デスサイズをぶち壊すことになる。『BMCOS』も、もう無い。でも、仇はかならず取る!いつか必ず!)
心の中に走る痛みを堪えて、キースは引き金を引く。2条の粒子ビームと、中口径オートキャノンの砲弾が、エクスターミネーターを……思い出の機体、デスサイズを打ち据えた。それは過たず敵機の胴中央に背中から突き刺さり、10連長距離ミサイルの弾薬に見事着弾。弾薬に火が回り、デスサイズは大爆発を起こして四散する。敵の部隊長は脱出装置により脱出した。キースはマローダーをその部隊長に歩み寄らせ、まだ熱い右腕の粒子ビーム砲砲口を突き付ける。彼は言った。
「降伏しろ。アレス条約に則った扱いはしてやる。貴様がアレス条約に則った行いをしていれば、だがな。」
「こ、降伏する!命だけは助けてくれ!」
「……1つ教えておいてやろう。俺は傭兵大隊『BMCOS』の生き残りだ。部隊壊滅時に部隊を離れていたんで、難を逃れたんだ。そしてお前が今の今まで乗っていたバトルメックは、俺の父親の物だった。」
「ひっ!?」
キースの考えが間違っていなければ、この男は『BMCOS』の隊員を戦闘員、非戦闘員の区別なく虐殺した特殊部隊員のうちでも、高い地位にいた人物のはずだ。当然非合法活動に従事していた無法者であり、アレス条約の保護を受けるに値しない人物であった。
「色々と、教えてもらう事がある。」
「わ、わかった!何でも話す!ハリー・ヤマシタのことか!?トマス・スターリングのことか!?なんでも話す!」
キースは外部スピーカーと一般回線を使って、周囲全体に通信を送った。
「ドラコ連合の諸君!君たちの部隊長は降伏した!これ以上の抗戦は無意味である!降伏したまえ!繰り返す!君たちの部隊長は……。」
やがて戦車の上部ハッチが次々に開き、戦車兵たちが両手を上げて降車してくる。遠くから散発的に10連長距離ミサイルを撃っていた傷ついたグリフィンも、降伏信号を打ち上げてメック戦士が降りて来た。
そして最後に撃たれたロングトムⅢ間接砲の砲弾が、基地本部棟玄関前に着弾して駐車場に大穴をあけたのを幕引きに、この戦闘は終わったのであった。
敵を撃滅しましたが、主人公は自分の父親のバトルメックを自分でぶち壊してしまう事になりました。彼の心中は、おそらく……。
しかし勝ちは勝ちです。辛くても悲しくても、仲間を失ったりするよりかはマシでしょうね。