轟音とともに、西瓜か何かの様な球体型をしたユニオン級降下船ゾディアック号が、苔が一面に生えた大地に降りてくる。着陸地点の周りには、傭兵小隊『SOTS』所属のバトルメック部隊と、傭兵小隊『デヴィッドソン装甲巨人隊』所属のバトルメックが展開し、周辺警戒をしていた。
やがて着陸したゾディアック号がメックベイの格納庫を開き、傾斜路を作る。そこから、傭兵小隊『機兵狩人小隊』所属のバトルメックが隊長機サンダーボルトを先頭にして、ゆっくりと降りてきた。その後を追うかの様にして、歩兵を乗せた装甲兵員輸送車4台1個小隊分が降りてくる。計画段階より、歩兵が1個小隊分少ない。
キースのマローダーが、アルバート中尉のサンダーボルトとアーリン中尉のフェニックスホークに通信回線を繋ぐ。キースはアルバート中尉に挨拶と報告をする。
「ご苦労様です。今のところ、問題はありません。」
『ご苦労さん。……しかし出発直前に、連れて行く歩兵を1個小隊にしようと言われた時は正直愕然としたよ。「その」可能性を失念していたなんて、俺もまだまだだなあ。』
「いえ、俺も朝目覚めるまで気づきませんでした。俺たちが出撃している間に、駐屯軍基地にハリー・ヤマシタが爆弾を持った破壊工作員を送り込まないとは限らない、と。
この惑星のドラコ連合スパイ網は、田舎の農業惑星と言う言葉から想像したよりも、ずっと強力です。あるいは本気でこの惑星を、橋頭堡として確保するつもりかも知れませんね。そしてマーカス・ギボンズ大尉が基地襲撃を失敗した事が、そのスパイ網からハリー・ヤマシタに伝わっていないなどと言うのは、楽観的に過ぎるでしょう。
正直なところ、もっと歩兵部隊を増強しておくべきでした。そうすれば、こちらに連れて来る歩兵と、基地に残す歩兵、どちらも余裕を持てたでしょうに。ですが結局はこちらに1個小隊、基地に1個半小隊と、どちらも心許ない状況です。それでもエリオット軍曹とテリー伍長を連れてこられればその指揮能力から、敵の降下船への突入も任せることが可能だったんでしょうが……。」
エリオット軍曹とテリー伍長は、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地の守りを固めさせるため、基地に置いてこざるを得なかったのだ。今こちらの歩兵小隊を指揮しているのは、一時的に軍曹待遇を与えたヴィクトル・デュヴェリエ一等兵である。その他は全て、この惑星ドリステラⅢにて雇用された二等兵と言う頼りない有様だ。これでは敵降下船への突入など、危なくてさせられない。
ここでアーリン中尉が話に加わる。
『過ぎたことをいつまで言っていても仕方が無いわ。それより全部隊が揃ったんだから、全軍を進発させましょう。』
「そうですね。ではアルバート大尉待遇中尉、号令をお願いします。」
『う、うむ。では回線を隊内通信に切り替えて、と。
諸君!敵、ドラコ連合は性懲りも無くこの惑星の星間連盟期の遺跡を狙って来た!敵の戦力は強大だが、こちらには気圏戦闘機4機の支援がある!我々は勝てる!我々は勝つ!全部隊出撃せよ!』
隊内無線より、轟々と戦士たちの士気の高まりが響いてくる。そして彼らは、アルバート中尉のサンダーボルトを先頭にして進軍を始めた。レパード級降下船2隻が気圏戦闘機ハッチを開き、ライトニング戦闘機を2機ずつ射出する。ライトニング戦闘機群は、推進剤を極力使用しない低速巡航モードにて飛行を開始した。
と、キースのマローダーに『SOTS』最初期メンバーであるアンドリュー軍曹、エリーザ軍曹、マテュー少尉から回線接続要求が来る。キースは念のために他への回線を一時切断してから、その通信を受けた。
アンドリュー軍曹が、怒りの込められた声で言葉を発する。
『なあ隊長。これから行く先に、リカルド・アゴスティ……ハリー・ヤマシタの奴がいるんだよな。なんとかして、奴の首は俺たちが取りたいもんだぜ。』
『アンドリュー、落ち着きなさい。隊長もアルバート中尉も、あたしたちの事情は知ってるんだから、可能な限りあたしたちに機会はくれるわ。でも第1に優先すべきは全員の勝利よ。それがハリー・ヤマシタの敗北であり、あたしたちが本懐を遂げる瞬間でもあるんだから。』
『そうですね、いや、そうだな。だができるならば、自分たちの手で奴を討ちたいと言うのも本音だな。その気持ちは抑えられそうにないな。』
アンドリュー軍曹を、エリーザ軍曹が窘める。が、いつも冷静なマテュー少尉も過剰な闘志を抑えられていない。しかも、お仕事モードの化けの皮が剥がれており、フランクな口調になっている。キースは少し考えてから、口を開いた。
「そうだよな。できるだけ機会を作る様にするともさ。けど奴には俺も恨みがあるからなあ。うかうかしてると、俺が奴の首をもらってしまうことになるけどな。」
キースは多少道化が入った台詞を使った。こちらもお仕事モード抜きで、いつもの偉そうな口調はあえて使わない。
「奴の乗機は45tフェニックスホークじゃない。75tのオリオンだ。超重装甲で、ひたすら頑丈なんだよな。一致協力しないと、倒すのは一苦労だぞ?」
『……わかってらい、キース。俺の機体はライフルマン、長距離支援がお仕事だ。それを忘れやしないさ。』
アンドリュー軍曹が、サブモニターの中で頷いた。その画像が、今度はエリーザ軍曹に変わる。
『そうね、それにも他にも強敵は大勢いるわ。順に倒せる相手から倒していかなきゃね。』
『ああ、わかってる。まずは勝つことを最優先にしないとな。その上で奴の首を狙うとしよう。……さて、ではお喋りはこの辺にしておきましょうか。』
マテュー少尉も、再びお仕事モードの仮面を被り直す。キースも偉そうな口調になった。
「では先をいそぐとしよう。俺たちの存在は、知られていないとは思わん方がいい。全員充分注意する様に。」
『機兵狩人小隊』、『デヴィッドソン装甲巨人隊』、そして『SOTS』の3個小隊は、フォーメーションを組んで荒野を進んでいた。
まず一番先頭グループが、アルバート中尉の65tサンダーボルト、ギリアム伍長の50tエンフォーサー、アマデオ伍長の55tシャドウホーク、エリーザ軍曹の70tウォーハンマー、マテュー少尉の55tウルバリーン。
次に中衛兼遊撃が、アーリン中尉の45tフェニックスホーク、リシャール少尉の同じく45tフェニックスホーク、ヴェラ伍長の45tD型フェニックスホーク、サラ少尉の同じく45tD型フェニックスホーク。
後衛にキースの75tマローダー、アンドリュー軍曹の60tライフルマン、ヴィルフリート軍曹の40tウィットワース、そして4台の装甲兵員輸送車と、偵察兵や整備兵の乗ったジープが4台である。サイモン老のスナイパー砲車輛は、既に別の場所で配置に着いていた。
と、ここでキースが隊内通信の回線を開いた。ちょうど河川の脇を通っている最中である。
「……アルバート中尉、アーリン中尉、わかりますか?」
『え?何のこと?』
アーリン中尉は分からなかった様だ。だがアルバート中尉は深く頷く。
『うん……。いるね。』
「サイモン曹長に指示を出します。」
『うん、任せるよ。』
『……!!まさか待ち伏せ!?』
2人の会話で、アーリン中尉も気が付いた様だ。ヴィルフリート軍曹とヴェラ伍長が注意を促す。
『向こうの岩場などは隠れるのに都合がよさそうです。無論、機体からの排熱をなんとかしてごまかす必要がありますが。』
『あと河の中に2機、いや3機はいますね。』
ちなみにキースの隊である『SOTS』は、全員が待ち伏せの可能性に気付いていたと見えて、機体に身構えさせようとしていた。だがキースがそれを止める。
「まて、気付いてないフリをしろ。このまま進んで、罠にかかったフリをしてやるんだ。その方が、サイモン曹長による第1撃が効果的だ。
サイモン曹長、BX-4520ポイント、BX-5315ポイント、BX-5314ポイント、BX-5313ポイントに連続して砲弾を叩き込め。風向はSWで風力は1単位。」
『了解ですわ、隊長。ぴったり叩き込んでやりますでのう。』
キースの指示が終わると、アルバート中尉が全員に向けて話す。
『いいかね?では前進だ。気付いてないフリをするんだ。ただし、いつでも行動に移れる様に準備は怠らないこと。装甲兵員輸送車とジープは戦いが始まったら、全速で後退。いいね?』
そして全部隊が無造作を装って前進する。そして河辺に近づいた時、空気を斬り裂く音が響いた。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
先ほどヴィルフリート軍曹が言っていた岩場の陰に、スナイパー砲の砲弾が着弾した。そしてそこかしこから、敵機が一斉に立ち上がる。それは全部で14機存在した。河の中に隠れていた3機を除いて、IR偽装網を纏っている。
ちなみに岩場の陰に隠れていて砲弾の直撃を受けたのがK型ウルバリーン、砲弾の余波を受けたのがその左右にいた2機目のK型ウルバリーンにフェニックスホークであった。やや遠くの別の岩場陰から立ち上がったオリオンが、苛立たしげに外部スピーカーで叫ぶ。
『ええい、何故気付いた!?』
何故もくそも、ある程度深く戦術を学べば、ここが待ち伏せに都合の良い場所だなどと言うのは当たり前にわかる。そんなことをわざわざ言ってやるほど、暇な人間は味方側にはいない。
だがキースの目は、本来敵の編成には含まれていない2機に向いていた。それはなんと言うか、脚の生えた箱、と言った外観をしている。その箱型の胴体には識別のつもりか、大きくペンキでそれぞれ1、2と書かれていた。キースの口から呆れを含んだ呟きが漏れる。
「……マッキー。機体のペイントからして、マッキー1号にマッキー2号、と言ったところか?」
『キース中尉、あの機体知っているの!?わたしは士官学校でも習ったことないんだけど!』
『私も知らん機体だな。』
アーリン中尉、アルバート中尉の台詞に、キースはマローダーの粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノンを撃ちつつ答えた。
「士官学校では、バトルメックの構造学や機種判別法の講義ではなく、戦史学で習ったはずですよ。2439年に初号機が地球帝国政府の元で開発された、文字通り最初のバトルメック、マッキーです。
まっとうに動いてるのが運用されているなんて知りませんでしたから、多分ここから発掘された代物でしょうね。100tの重量の割に武装はたいしたことありません。ただその重量から来る格闘能力は桁外れです。重装甲のサンダーボルトでも、格闘戦は回避した方が無難でしょう。
ああ、あと操縦席のガラスが外からだと中が見えない様になってるらしくて、まるで誰も乗って無い様に見えるそうです。混乱しないでくださいね。」
『『へえ……。』』
(まあ、大半はバトルテックのシナリオ集、BLACKWIDOWからの知識なんだけどな。)
キースの攻撃は、岩場の陰で部分遮蔽状態になっていた敵のサンダーボルト、K型シャドウホーク2機に次々命中する。K型シャドウホーク2機への攻撃はそれぞれ左胴、胴中央にあたった。だがサンダーボルトへの攻撃は、なんと粒子ビーム砲がその頭部を貫く。サンダーボルトは頭部を吹き飛ばされて、擱座してしまった。
更に4機のライトニング戦闘機が、トレール――縦一線隊形――を組んでK型ウルバリーン2機とフェニックスホークの集団に向かい、各々機体前面に3門ずつ搭載している中口径レーザーで地上掃射を行う。1機につき3門なので、計12門の中口径レーザーによる地上掃射は、K型ウルバリーンに重いダメージを与え、フェニックスホークの両腕を奪った。
これでフェニックスホークには攻撃力が無くなってしまった。だが同時に、K型ウルバリーンとフェニックスホークも反撃を試みていた。先頭を飛んでいたマイク少尉機に1発、2番手を飛んでいたジョアナ少尉機に1発、中口径レーザーが命中する。マイク少尉は叫んだ。
『やりやがったなああぁぁ!?』
『マイク!熱くならない!』
ジョアナ少尉が諌める。相手の方が大きなダメージを負っているのだから、まあ彼女の言い分の方が正しいだろう。ちなみに巨大なダメージによる衝撃で、K型ウルバリーン2機とフェニックスホークは転倒してしまった。
アンドリュー軍曹と、ヴィルフリート軍曹は、自機にマッキー1号を攻撃させていた。ライフルマンから放たれる中口径オートキャノン2発と、大口径レーザー1発がマッキー1号を撃ち据える。そしてウィットワースからの2門の10連長距離ミサイルが、マッキー1号に降り注いだ。マッキー1号は衝撃で転倒する。
だが転倒する前にマッキー1号と、相方のマッキー2号は左右の腕に装備されている粒子ビーム砲と大口径オートキャノンを発砲していた。射撃の腕はそう良くない。しかし合計4発のうち1発、粒子ビーム砲だけが命中し、ライフルマンの右腕の装甲を0.5t強ばかり削り取った。マッキー2号は格闘距離に踏み込もうと、前進してくる。アンドリュー軍曹、ヴィルフリート軍曹は、自機を後退させて隣接距離に踏み込まれるまでの時間を稼いだ。
一方、前衛を構成していたアルバート中尉、ギリアム伍長、アマデオ伍長、エリーザ軍曹、マテュー少尉は、敵の総大将であるオリオンと、それを直衛するシャドウホーク、D型フェニックスホークの方へ突進していた。その足を止めるべく、河面から立ち上がったグリフィンとライフルマン2機が猛然と射撃を敢行する。だが味方前衛は全力移動しており、なかなか命中しない。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
その時、河面にスナイパー砲の砲弾が着弾する。それはグリフィンに直撃し、ライフルマン2機に余波を浴びせた。ライフルマン2機は、各々右胴と左胴にダメージを負っただけで済んだが、グリフィンは頭部に直撃を受けた。水地にいると、上半身に命中弾が集中するのである。操縦席が破壊され、メック戦士の肉体が血煙になった。
オリオンを操る敵の総大将、おそらくハリー・ヤマシタであろう人物は、悪夢を見る思いであったろう。駐屯軍のバトルメック部隊を待ち伏せして叩き潰す予定が、相手に先手を取られて自陣営をボロボロにされて既に2機が擱座し、更に相手にはたいしたダメージは無いのだ。バトルメックのスピーカーから、くぐもった叫びが漏れる。
『うぐおおうあああぁぁぁあああっ!』
そしてオリオンは大口径のオートキャノン、4連短距離ミサイル発射筒、2門の中口径レーザーを、アルバート中尉のサンダーボルトめがけて一斉発射する。随伴のD型フェニックスホークとシャドウホークも、サンダーボルトに向けて火力を集中した。火だるまになるアルバート中尉機。だがその分厚い重装甲は、集中砲火を耐えきってみせた。
直後お返しとばかりにサンダーボルト、エンフォーザー、シャドウホーク、ウォーハンマー、ウルバリーンから敵のシャドウホークめがけて砲撃が集中する。敵のシャドウホークは一瞬で装甲板を剥がされて、更に左腰とジャイロに一撃を受けて転倒してしまった。挙句に転倒した際に再び剥き出しになったジャイロを強打し、ジャイロが完全に破壊されて二度と立ち上がれなくなってしまう。
同時に、遊撃に就いていた駐屯軍のフェニックスホーク4機が、その右手に装備した大口径レーザー合計4門で敵のD型フェニックスホークを狙う。敵のD型は、左脚を根元から吹き飛ばされて倒れ伏す。
アンドリュー軍曹とヴィルフリート軍曹は、後退しつつ距離を稼いで、マッキー2号を散々に叩いていた。マッキーの操縦者は2名とも腕が良くないらしい。どうやら新人メック戦士の様だ。1号は先ほど転倒状態から立ち上がろうとして再び転倒し、パイロットが気絶でもしたのかそのまま動かなくなった。2号もまた、ライフルマンとウィットワースの集中砲火による衝撃で転倒してしまう。そのとき、アンドリュー軍曹機にキースからの通信が入った。
「アンドリュー軍曹!マッキーの相手はもういい!こっちの相手が終わったら、俺が代わる!軍曹は前線組を支援できる位置にいけ!」
アンドリュー軍曹はこれを聞き、敵の総大将であるオリオンの方へとライフルマンを駆け出させた。
『サンキュー、隊長。待っていやがれ、リカルドじゃねえ、ハリー・ヤマシタ……。』
敵のK型ウルバリーン2機は、転んだままの仲間のフェニックスホークを放っておいて自分たちだけ立ち上がると、再び攻撃体勢に入ったライトニング戦闘機の群れを迎撃する。だが高速で飛行する気圏戦闘機には、なかなか攻撃があたらない。
逆にライトニング戦闘機の攻撃は……特に先頭の2機の攻撃は、確実にK型ウルバリーンを捉える。マイク少尉機とジョアナ少尉機の、2つの最大口径オートキャノンがK型ウルバリーン各々の胴体中央に命中した。2機は融合炉の鎧装をやられて、エンジンから異常発熱が始まる。
ヤマシタに対する忠誠心どころか、彼を嫌っていたこの2機のメック戦士たちは、もはやこれまでと降伏信号を打ち上げて機体を停止させた。マイク少尉はこれを見て、喜びの声を上げる。
『ひゃっほおおぉぉ!!やったぜジョアナぁ!』
『恥ずかしいから、わたしの名前を一般回線で大声で叫ぶんじゃないっ!!』
そしてジョアナ少尉に怒られるのだった。
その頃キースは、部分遮蔽を捨てずに遠距離射程にも関わらず自機を狙ってくるK型シャドウホーク2機を相手に、単機で射撃戦を行っていた。多少過熱するのは覚悟の上で、彼は粒子ビーム砲2門と中口径オートキャノン1門を射撃する。オートキャノンはK型シャドウホークの一方の胴中央にあたるが、粒子ビーム砲は双方の頭部を捉える。
部分遮蔽状態は機体の半分が隠れるため攻撃が命中し難いが、キースほどの腕の持ち主であれば逆に部分遮蔽であることを利用して敵機の頭部を狙うこともそう困難な話ではない。K型シャドウホークの1機はセンサーを破壊され、もう1機は操縦席を吹き飛ばされる直前に緊急脱出する。センサーを破壊された機体の主も、ヤマシタに対する忠誠心など持ってはいない。それ故に、すぐさま降伏信号を打ち上げて機体を停止、メックを降りてきた。
キースはそれを見ると、先ほどの言葉の通りにマッキーの方へと機体を向けた。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
そして河面に再びスナイパー砲の砲弾が降り注ぐ。ライフルマンの1機が、スナイパー砲に頭を吹き飛ばされ、もう1機も頭に余波を受け、メック戦士が気絶してしまう。だがそれで話は終わらず、もう1発スナイパー砲の砲弾が降って来た。
ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!
それが残り1機のライフルマンにとって、とどめとなった。
キースたちは今、必死で逃げているオリオンを追って、機体を疾走させていた。降伏したり脱出したりした敵メック戦士たちを捕虜にするのは、歩兵たちとアルバート中尉以下ギリアム伍長、アマデオ伍長、ヴィルフリート軍曹に任せてある。
『待ちやがれ、リカルド・アゴスティ!いやさハリー・ヤマシタ!』
アンドリュー軍曹の声が響く。味方のフェニックスホーク4機がオリオンの足を止めるべく、先回りをしようとしていた。あと少しでオリオンの行く手を阻むことが叶う、そう思った時である。
キースの叫びが響いた。
「アーリン中尉!リシャール少尉!サラ少尉!ヴェラ伍長!W方向に全力でジャンプして避けろ!」
『くっ!了解!』
『は、はいっ!』
『!!』
『きゃ!了解!』
以前似た様な事があった時とは異なり、ヴェラ伍長も今度は即座に動くことができた。そして4機が最大180mジャンプで飛び退ったところに、粒子ビーム砲と20連長距離ミサイルの雨が降り注いだ。それを放ったのは、ユニオン級降下船であった。ユニオン級降下船は、オリオンの眼前に強引に緊急着陸する。ここは降下船の着陸には向いていない場所であるのに、おそるべき腕前の船長だ。
オリオンの外部スピーカーから、笑い声が響く。
『ははははは!まだ俺には運が残っているようだ!発掘品の中でも重要物は、この船に既に積み込んである!中隊を2つも壊滅させられたのは痛いが、貴様らにもそのしっぺ返しを受けてもらう!』
『ハリー・ヤマシタ!貴様やはり!』
マテュー少尉の激昂した声に答え、ヤマシタは心底嬉しそうに言う。
『貴様らの基地は、今頃吹き飛んでいる手筈になっている!ははははは!お前らの原隊の基地の様にな!もっとも、お前らの原隊がどこだったかなぞ、心当たりが多すぎてわからんが……。俺をリカルド・アゴスティと昔の偽名で呼んだからには、そうなのだろう!?ははははは!』
オリオンは、ユニオン級降下船の傾斜路を駆け上りながら、狂った様に笑い声を上げる。キースは機体の足を止め、マローダーの粒子ビーム砲で射撃を始めた。だがそのビームは、ハッチの陰に身を隠したオリオンには当たらない。いつもであれば、部分遮蔽になった敵機にも楽々と命中弾を与えていたキースであるのだが、ここ一番で運に見放されたのだろうか。
だがキースがそのとき考えていたのは、別のことだった。
(あの船はユニオン級……。ゾディアック号と基本構造は同じはず……。ならば、あそこを狙えば!)
ユニオン級がゆっくりと浮上を開始する。そして傾斜路になっていたハッチがゆっくりと閉じていく。だがそのハッチは、途中で何かに引っ掛かったかの様に開いたまま閉じられなくなってしまった。ハッチの開閉装置に、粒子ビームが直撃していたのだ。キースの射撃は、これを狙っていたのである。
キースは叫んだ。
「飛べ!マテュー少尉!」
『……了解っ!!』
マテュー少尉のウルバリーンが最大ジャンプで跳躍し、ぎりぎりで飛び立ちつつあるユニオン級のハッチに飛び込んだ。無論のこと、ユニオン級からはそれを防ぐべく砲撃がいくつも放たれていたが、最大ジャンプを敢行したマテュー少尉機には命中しなかった。
マテュー少尉とヤマシタの声が響く。
『おっと!こんな所でそんな大砲を撃って、降下船が壊れたらどうするつもりだ!?ええ、アヒム・デーメルことハリー・ヤマシタさん!』
『くっ!だが重量差からくる格闘能力の差は!』
『甘いね!拳の致命度は55t以上なら、どれもそう変わらないさ!』
ユニオン級降下船は、高度を上げていく。そして何かがユニオン級のハッチから押し出され、落下した。
75t級バトルメック、オリオンだった。
『やったわね、マテュー少尉!』
エリーザ軍曹の嬉しげな叫びが響く。オリオンは100m近くを落下し、胸から地面に叩き付けられる。整列結晶鋼の装甲板がはじけ飛び、内部構造が露わになったオリオンは、融合炉にひどいダメージを受けている様だ。もうほとんど勝負はついている。
だがヤマシタは往生際悪く、なおも抵抗する。味方のフェニックスホークたちは、キースたちに始末を任せるという意思表示なのか、遠巻きにして逃がさないようにしているだけだ。
『く、か、はは、ははは!』
『まだやろうってのか!?いいだろう、やってやろうじゃねえか!』
『待ってアンドリュー、あたしにも出番をちょうだい。』
エリーザ軍曹のウォーハンマーが前に出て、直接粒子ビーム砲になった両手を戦鎚のごとく振り下ろした。ヤマシタも、オリオンの両手でパンチを送り込む。次の瞬間、ウォーハンマーの頭部がはじけ飛んだ。エリーザ軍曹は、かろうじて緊急脱出に成功する。
『エリーザ!』
アンドリュー軍曹の悲痛な声が響く。だがキースは彼を宥める様に言った。
「大丈夫だ、エリーザ軍曹は緊急脱出に成功している。それに……ハリー・ヤマシタは脱出していない。」
『何っ!?』
見ると、オリオンの頭部もまた、ウォーハンマーの粒子ビーム砲砲身によって叩き潰されており、そこには血煙が舞っていた。メック戦士……ハリー・ヤマシタの成れの果てである。彼らのメックの足元から、エリーザ軍曹の肉声が聞こえた。
「あはははは!やった!やったわ!父さん、母さん、マーカス隊長、ゲイル中尉、イレーネ中尉、フレデリカ、バージル、アシュトン、ガス、エドマンド、コニー、バーバラ……。仇は取ったわ!あははは……。
う……く、うえ、うええぇぇええぇぇん!うああぁぁぁああぁぁん!」
エリーザ軍曹は、感極まって泣き出してしまう。アンドリュー軍曹も、キースのマローダーの通信用サブモニターの中で、涙ぐんでいた。そこへユニオン級降下船が降りて来る。無論、開閉装置が壊れたハッチは開いたままだ。だがユニオン級からの攻撃は無い。マテュー少尉からの通信回線が、キースのマローダーとアンドリュー軍曹のライフルマンに繋がる。
『ユニオン級降下船コバヤシ・マル号を降伏させました。中でミサイルとオートキャノンを撃つぞ、と言ったら諦めてくれましてね。で……。奴は?』
「無駄な足掻きをしたので、エリーザ軍曹が叩き潰したよ。間違いなく、地獄へ落ちただろう。」
『そうですか……。ついに……。すいません、隊長にとってはまだ終わったわけじゃないのに……。』
キースが通信用サブモニターを見ると、マテュー少尉も涙ぐんでいた。キースはエリーザ軍曹にも聞こえるように、外部スピーカーも繋いで言葉を紡ぐ。
「いいさ。かまわんよ。で、これからどうするんだ?」
『どうって……。』
「ひっく……。えぐ……。えっ?何の話?……ひくっ。」
『ちょ、ちょっと待てキース!ここまで恩義を受けておいて、こっちの仇討が終わったらハイ、サヨナラなんて真似はできねえよっ!』
アンドリュー軍曹が叫ぶ。彼の台詞で、マテュー少尉もエリーザ軍曹も、何の話か理解した様だ。
「ちょ、ちょっと隊長!あたしたちをお払い箱にするつもりじゃあないでしょうね!いやよ!あたしたちは、隊長の仇討が終わるまで、いえ終わっても、隊長について行くからね!」
『そうだ!エリーザ軍曹の言う通り!キース、そんな事を考えていたのかっ!?』
『絶対俺は、俺たちは、『SOTS』……『鋼鉄の魂』を辞めねえからなっ!』
キースは笑って言った。
「だと思ったよ。これからも、よろしく頼む。」
「……心臓に悪い事言わないでよキース隊長。よろしくね。」
『まったくですよ。本当に心臓に悪い。よろしくお願いしますよ、本当に。』
『悪趣味だぜ、キース……隊長。今後ともよろしくな。』
ここで、遠巻きに見ていたアーリン中尉が話しかけて来る。
『キース中尉。奴が口走っていた、基地への破壊工作のことだけど……。』
「アルバート中尉にも話をしないといけませんね。それとユニオン級ゾディアック号の回線を経由して基地まで連絡してみましょう。俺はユニオン級に繋ぎますから、アルバート中尉への説明お願いできますか?」
『わかったわ。そっちの方、さっそくお願いできるかしら。』
「はい。」
キースはまず、ゾディアック号に連絡を付け、ゾディアック号の通信回線を利用して基地までの通信回線を自分のマローダーとの間に構築した。キースは基地の通信室を呼び出す。返信はすぐにあった。
『こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地。キース中尉、ご苦労さまです。』
「よかった、無事だったか。指令室に繋いでくれ。」
『了解。少々お待ちを。』
少しの間があって、指令室のオペレーターが通信に出る。
『こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地指令室発令所。』
「こちら作戦行動中のメック戦士キース・ハワード中尉だ。基地への破壊工作があるとの情報を、現場にて掴んだ。基地の指揮を任せていたエリオット・グラハム少尉待遇軍曹はいるか?」
『グラハム少尉待遇軍曹は、ただ今基地を厳戒態勢に置き、自身は現場で指揮を取っています。お繋ぎしますか?』
「厳戒態勢?頼む。」
『了解。少々お待ちください。』
また少しだけ間があり、やっとエリオット軍曹が通信に出た。
『こちらエリオット・グラハム少尉待遇軍曹。任務ご苦労様です、キース中尉。』
「キースだ。厳戒態勢とはどういうことだ?こちらは現場にて、基地への破壊工作の情報を掴んだのだが。」
『はっ!監視カメラの監視が及ばない場所を中心に、隊員を警らさせておいたのですが、複数個所より基地内に潜入しようとしている不審な輩を発見。捕縛しようとして抵抗したため、全員やむなく射殺することになりました。
その者たちの遺体を調べたところ、高性能爆薬と基地の弾薬庫の図面や基地の動力区画の図面他を所持しておりましたため、基地を厳戒態勢に置き、テロに対する防衛体制を敷いておる次第であります!』
「そうか、よくやってくれた軍曹。とりあえず我々が戻るまで現状の態勢を維持する様に。解除するかどうかは、アルバート大尉待遇中尉と検討の上、決定する。以上だ。」
キースは通信を切ると、アルバート中尉、アーリン中尉との間に回線を繋ぐ。
『おお、基地の様子はどうだったんだい、キース中尉。』
『大丈夫だった?まさか……。』
「エリオット軍曹が防いでくれました。どうやら手引きをする者は基地内にいなかった様です。おかげで基地への工作員侵入は防ぐことができました。
ただし、基地内の情報は洩れていますね。破壊工作員の死体が、高性能爆薬と基地の弾薬庫、動力区画などの図面などを所持していたらしいです。いつから情報が洩れていたのかはわかりません。俺たちがこの惑星に赴任するより以前からかも知れませんね。ドラコ連合のスパイ網は、侮れません。
今、基地はエリオット軍曹の判断で厳戒態勢が敷かれています。」
『そうか。エリオット軍曹には感謝だな。』
キースはおもむろに言う。
「……それでは帰還するとしましょう。ただ、ここの発掘調査も行わなければなりませんし、鹵獲したユニオン級コバヤシ・マルも基地に回航しなければなりませんし……。部隊を分散しましょう。
ウォーハンマーがやられた我々『SOTS』と、サンダーボルトの損傷が大きい『機兵狩人小隊』がレパード級2隻で基地に帰還。特にアルバート中尉は基地の方で色々仕事もありますし。そして歩兵部隊とユニオン級ゾディアック号の副長や機関士見習いたちで、倒した敵メックを積み込んだ鹵獲降下船コバヤシ・マル号を基地まで回航しましょう。捕虜も一緒に連れて。
偵察兵と整備兵たちはここに残して発掘調査を行わせるとして、アーリン中尉の『デヴィッドソン装甲巨人隊』にその面倒をお願いしましょう。発掘調査の指揮もアーリン中尉にお願いしたいです。発掘調査が完了したら、発掘品などの戦利品をゾディアック号に詰め込んで、帰還してきてください。」
『俺がやることが無くて、楽だなあ。ははは。その方針でかまわないと思うよ。アーリン中尉はどうかな?』
『わたしもそれが一番まっとうな選択肢だと思う。じゃあ、その方針で。』
『しかしまた捕虜が1隻分増えたか……。どうしようかねえ。プレハブで収容所を増築するしか無いか。コバヤシ・マル号が基地に着くまでの間に、助整兵たちに命じてプレハブを建てさせよう。』
2人の賛同を得られたため、彼らはその方向で帰途につく準備を始める。まず歩兵部隊が捕虜にしたメック戦士やコバヤシ・マル号の船員たちを船室に拘束し、見張りに立つ。ゾディアック号のマンフレート副長とマシュー航法士見習い、ライナス機関士とアデル機関士見習いがやって来て、コバヤシ・マル号の機能を掌握。
一方で手が使えるメック――フェニックスホークやシャドウホーク、ウルバリーンなど――のメック戦士たちは、倒したバトルメックと、頭部が破壊されたウォーハンマーの回収にあたる。その間に、サイモン老とジェレミー伍長、パメラ伍長ら、艦船の整備能力を持つ者たちが、キースが破壊したコバヤシ・マル号のメックベイハッチの開閉装置を応急修理した。
ジェレミー伍長とパメラ伍長はサイモン老の教えを受け、艦船整備に関してはいっぱしの腕前に成長している。しかもジェレミー伍長は、艦船に関してだけならばサイモン老に並ぶ技量と知識を手に入れていた。
最後に万が一の周辺警戒にあたっていた気圏戦闘機4機を2隻のレパード級に収容し、ゾディアック号とアーリン中尉たち『デヴィッドソン装甲巨人隊』、偵察兵たちと整備兵たちを残して、レパード級ヴァリアント号、同級ゴダード号、ユニオン級コバヤシ・マル号は駐屯軍の基地めざして発進していった。
はてさて、仇の一方と言うか、部隊の仲間たちにとっての仇である、ハリー・ヤマシタはなんとか倒す事ができました。ですが主人公にとっての本当の仇は、まだピンピンしてます。ただしハリー・ヤマシタが死んだ事によって、そいつにも幾ばくかの影響は出るんですがね。