ここは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令室。紛らわしいが、指令室ではない。指令室はいわゆる基地の発令センターであり、司令室は司令官の執務室だ。かつてアルバート大尉待遇中尉の城であったこの部屋は、今ではキースの物となっている。キースは本日、この部屋でとある来客を待っていた。やがて部屋のドアがノックされる。
「大尉、マテュー少尉です。お客様をお連れしました。」
「入室を許可する。」
「失礼します。」
マテュー少尉と客人2名が入室してくる。キースは客人のうち1人の顔を見ると、にやりと笑った。キースは言う。
「久しぶりだな、ヒューバート。そちらの応接セットのソファに座ってくれ。マテュー少尉、君は俺の隣にかけてくれ。」
「そうだな、キース。いや、大尉殿と呼ばなければならないかな?」
「いや、とりあえずは無礼講でかまわないだろうさ。『ロビンソン戦闘士官学校』では4年間学生寮の同室だったんだし。ただし、お前が俺の部隊に入ることを選択したなら、俺を立ててもらう意味を込めて、皆の前では敬語を使ってもらわにゃならんぞ?」
「わざわざここまで来たんだ。今さら拒否は無いだろ。」
そう、彼はキースの『ロビンソン戦闘士官学校』時代の学生寮の同室、ヒューバート・イーガンであった。ヒューバートは自分の連れを紹介する。これはキースに対する物と言うより、その隣にいるマテュー少尉に対する紹介だ。
「こいつは俺の郎党の整備兵、ニクラウス・エーベルハルトだ。覚えてるか?」
「お久しぶりです、キース様。」
「ああ、覚えてるよ。何度か学校にまでヒューバートに面会に来たことあったもんな。」
「しかし、同期の中でもトップレベルの秀才だったとは思っていたけど、まさかこんなに短い間に大尉にまでなっちまうとはね。」
「部隊が急速に拡張したもんでね。それに合わせて新たな階級が必要になったのさ。」
ここでヒューバートが、真面目な顔になる。
「ところで真面目な話、俺を雇ってくれるって話だけど……。俺は運が悪い男だぜ?本当にいいのか?」
「ヒューバート様……。」
ニクラウス整備兵が、悲しげな顔になる。ヒューバートは、6月に『ロビンソン戦闘士官学校』を卒業後に新任少尉として、亡き自分の父親が所属していた傭兵中隊に帰還した。いや、そのはずだった。しかしその傭兵中隊は、ヒューバートが到着する前日に、放漫経営のため破産して解散。敗北の末とか、部隊壊滅による解散でないのが、逆に涙を誘う。
その後彼は何処かの部隊に入ろうと努力を重ねてきた。しかし彼には伝手が無く、やむなく彼は自分のバトルメックを維持するために、フリーの傭兵として働いてきた。しかしながら、フリーの傭兵の厳しさは並では無い。報酬の割の悪い契約に、補給物資も惑星や星系間の移動手段も、自前で用意せねばならないことなどざらだ。そして彼のバトルメックである30tヴァルキリーは、戦闘中に手ひどいダメージを喰らい、現状不稼働となっていた。あげくにその際の任務は失敗扱いとなり、傭兵としての彼自身に対する評価も落ちていたのである。
だがキースは、そんな彼に向かい優しく言う。
「運の良い悪いは、巡り合せだ。それにそんなことを言えば、俺だって帰るべき部隊を失った経歴の持ち主だぜ?知ってるだろ?」
「……すまん。そうだったな。」
「それにあのファーニバル教官の推薦書付きだ。こちらとしては、文句は無いさ。」
「あの「狂い獅子」のレオ、か。やれやれ、士官候補生時代はあの厳し過ぎる訓練で恨んでたってのに、頭が上がらなくなっちまったなあ。」
苦笑しつつ、キースは諭す様に言った。
「レオ・ファーニバルの厳しさは、候補生を将来死なせないための優しさの裏返しだよ。」
「いや、実戦の厳しさを知った今ならばわかるさ。ただ、あの頃はなあ。ガキだったんだな。ほんの半年たらず前だってのに。」
「ファーニバル教官は、お前の苦境を知ってたよ。それで俺が来年度卒業生でも構わないから、士官を紹介して欲しいって手紙を書いたとき、お前のことを俺の部隊で雇うように言ってきたんだ。」
「教官……。ますます頭が上がらんな、こりゃ。」
「さて……。」
キースはマテュー少尉に顔を向ける。マテュー少尉は頷くと立ち上がり、執務机から何通かの書類を持ってきた。
「ご苦労、少尉。これがお前の書類だな、ヒューバート。職務経歴書に、いちいち失敗した任務まで正直に書くのはお前らしいよ。しかも借金背負ってることまで。」
「後からバレでもしたら、大変だからな。なら、最初から隠さない方がいい。」
「違いない。お前のヴァルキリーは、融合炉鎧装を2層までやられ、ジャイロにも一発くらってるな。あげくに左脚が吹き飛んでる。操縦席も無くなってるな。機体を回収するのが大変だったろうに。」
「俺自身は脱出して、味方に拾ってもらった。ヴァルキリーはメックの身代金交渉の結果、戻されてきたんだ。ヴァルキリーの部品が恒星連邦以外では手に入りづらいから、他国では運用しづらいこと、それとかなり壊れてたことで、奪って使うよりも身代金と交換した方がいいってことで返還された。
ただ恒星連邦から、メックの身代金として支払った額を請求されて、今までコツコツ稼いだ資金が全部吹っ飛んだ。その上で残金は借金になった。このままだとヴァルキリーを予備パーツとして売っ払って失機者になるか、首をくくるしか無かったよ。お前にここまでの旅費を出してもらわないと、ここドリステラⅢまで来れなかったからなあ。」
深く頷くキース。彼は口を開く。
「これだけ壊れているのを直すのは、手間だと言うだけじゃなく部品代が馬鹿にならない。今俺たちの部隊も修理待ちの機体が多くてな。だからお前にはこの機体と交換と言う形で、別のメックを与えようと思うんだ。お前がヴァルキリーに拘りがあると言うなら、無理にとは言わないけどな。」
「……いや、望外の幸運だ。どんな機体だい?」
「75tの重量級バトルメック、オリオンだ。」
絶句するヒューバート。ヴァルキリーは非力な軽量級だ。それを重量級の中でも最も重い、75t級と交換するなど聞いたことがない。しかもヴァルキリーはかなり壊れている不稼働メックだ。
「い、いいのか!?」
「お前には重要な役割を任せたいと思ってるんだよ。火力小隊の小隊長だ。実際のところ、お前の人間性や人格、心根は、4年間一緒に生活してきたことでよく知っている。俺の脇を固める役割に、これ以上相応しい人間はそうはいないさ。そして小隊の指揮官になってもらうからには、そうそう簡単に撃墜されてしまっては困る。できるだけ頑丈な機体を用意するのは当然だよな。」
「小隊長!?お、俺がか!?本気か!?」
「ああ、本気だ。受けてくれるかい?」
ヒューバートは俯いてしばし考え込んでいたが、やがて顔を上げる。
「契約書をよこしてくれ。ニクラウスの分もだ。」
「マテュー少尉、頼む。」
「了解です、隊長。」
マテュー少尉が2通の契約書を用意した。ヒューバートは丁寧に文面を読んで、おもむろにそれにサインをする。ニクラウス整備兵もまた、自分の主に倣った。そしてヒューバートとニクラウスはソファから立ち上がり、キースに向かい敬礼する。
「これからよろしくお願いします、大尉。」
「よろしくお願いいたします!」
「うむ、こちらこそ。我が傭兵中隊『鋼鉄の魂』は、貴官らを歓迎する。頼んだぞ、ヒューバート中尉、ニクラウス伍長。」
答礼しつつ、キースは重々しく言った。
「そうですか。それは良かったですな。いや、こちらのスカウトは中々良い人材に巡りあえず、大変でしたよ。」
そう言うのは、レパード級降下船ヴァリアント号のカイル・カークランド船長だ。その隣で、イングヴェ・ルーセンベリ副長もうんうんと頷いている。彼らはドリステラ星系外でのスカウト活動を終え、惑星ドリステラⅢに帰還してきたのだ。キースはスカウトの内容について尋ねる。
「応募自体は沢山来たんだろう?」
「それが応募者は酷いものでしてね。」
「そうそう、自分を大きく見せて高く売りつけようとする馬鹿な若僧とか、ちょっと聞き込みしたらばれる様な嘘をついて失機時の失態を糊塗しようとする失機者とか、自分では上手く隠しているつもりなんでしょうが隊長の年齢を聞いて侮って、上手く飾り物にして実権を握ろうとする野心を持つ輩とかが大勢来ましたよ。」
「面接で大半落としました。残ったのは航宙艦クレメント号からデータ通信で書類を送った3人だけです。メック戦士1名に航空兵2名ですな。ああ、それとは別に惑星学者が1名なんとか捕まりました。本人たちは隣室で待たせてあります。」
「それは……大変だったな。困難な仕事を頼んでしまってすまない。」
「「いえいえ。」」
執務机の上から書類を取り上げたキースは、熟読して内容をしっかり覚えているそれに、再度目を通す。
「1人目はライラ共和国の惑星アークトゥルスにある、ガンダラージャ機兵学校の出身者。俺が言うのもなんだが、17歳とは若いな。名前はグレーティア・ツィルヒャー。ライラ防衛軍に所属するメック戦士一族ツィルヒャー家の4女。一応一族の予備メック戦士としてメック戦士養成校に通わされたものの、上に兄姉が6名もいる上に長男に後継ぎの子供ができたため、家伝のバトルメックを継ぐことはついに叶わなかった、か。」
「ええ。残る選択肢は政略結婚かコムスターの侍僧になることでしょう。」
「ですが彼女はそれを望まなかったわけですな。自分で自らの運命を切り開くことに賭け、卒業後は傭兵部隊『ディックハウト防衛団』にて戦車の砲手をやっていた模様です。いつか自分の手でバトルメックを鹵獲することに望みを賭けて。ですがその傭兵部隊でも、女性であることで侮られ認められず、結局除隊することになったらしいですな。」
その書類を執務机の上に戻すと、キースは次の書類を手に取る。
「2人目もほとんど事情は同じだったな。ライラ防衛軍所属の気圏戦闘機パイロット一族、ブリーゼマイスター家の3男、アードリアン・ブリーゼマイスター、22歳。航空兵としての訓練は積んではいるものの、兄姉が4名もいたため、あくまで予備航空兵の扱いで部屋住み生活。長男に嫡男が産まれたために自分が気圏戦闘機を継ぐ可能性はほぼ無くなった。」
「それで無駄飯喰らいの身になるのも、コムスター送りになるのも望まなかった彼は、傭兵たちの星ガラテアにて通常型ジェット輸送機のパイロットとして生活していました。故郷の惑星を離れたのは、家族と顔を会わせるのが辛かったらしいですなあ。傭兵たちの星ガラテアを選んだのは、もしかして万一、という可能性に縋りたかったそうです。今回、その万一の可能性を掴んだわけですが。」
更にキースは3通目の書類を取り上げる。
「3人目は、自分の気圏戦闘機を失った失機者だったか。18歳の女性で名前はヘルガ・ヤーデルード。家伝の30tスパローホークをドラコ連合との戦いで失ったんだったな。いきさつは書類には、単にドラコ連合のスレイヤー戦闘機の4機編隊と単機で戦い、撃ち落されたとしか書かれていなかったが?カイル船長やイングヴェ副長が、そんな無謀なだけのパイロットをわざわざ連れて来るはずもないと思うが……。」
「彼女は味方を撤退させるための捨て駒にされたんですよ。彼女自身は言いわけになると思ったらしく、書類にも書かなかったし、口も重かったですがね。船長の巧みな話術に、ついに口を割りました。」
「探偵を雇っての裏付け調査でも、同じ結果が出ましてな。少々予算オーバーしましたが、彼女の様な人材を得るためならば、かまわないでしょう。自殺的な命令でも味方のためなら躊躇わず実行する上に、失機者として辛い目に遭ったのにも関わらず人間が腐ってませんからな。」
「カイル船長とイングヴェ副長がそこまで言うのなら、間違いないだろうな。」
最後の書類を手に取ると、キースはおもむろに言う。
「そして待望の惑星学者、ミン・ハオサン博士、43歳か……。カペラ大連邦国出身者だったな。」
「彼には政治的な頭はまったくありません。ですので、恒星連邦がカペラ大連邦国の敵国だとか言うことも、まったく気にしてないんですな。良い意味での、学者バカです。もっともそれでカペラ大連邦国の大学を追い出されて、国まで追われたんですが。」
「大学を首になり、国から出て行かなければならなくなったことで、家族とも縁を切られたそうです。ですから今の彼は天涯孤独ですな。もしも将来的にリャオ家と戦うことになったとしても、彼はかまわないそうです。」
(……って言うか、恒星連邦がライラ共和国との合併のためにライラ共和国と国境線を繋げる必要性から、リャオ家の領域であるカペラ大連邦国の領土を切り取ろうと宣戦布告するのが、将来起きる第4次継承権戦争勃発の契機なんだけどな。恒星連邦ダヴィオン家がカペラ大連邦国リャオ家と戦うのは、このまま行けば必至と言うわけだ。)
内心でキースは「今後の歴史」について考えながら、全ての書類を執務机上に置いた。彼は机上のインターホンを使い、隣室に連絡を入れる。
「ネイサン軍曹か?隣室で待ってもらっているお客人4名を司令室に案内してくれ。」
『はい、了解です。今から向かいます。』
そして司令室の扉がノックされる。
「ネイサン軍曹です。お客人を案内しました。」
「入室を許可する。入りたまえ。」
キースは執務机から立ち上がって言った。カイル船長とイングヴェ副長は、キースの横に並んで立つ。
「「「「「失礼します。」」」」」
「よく来てくれた、諸君。俺が傭兵中隊『鋼鉄の魂』、略称『SOTS』の部隊司令、キース・ハワード大尉だ。グレーティア・ツィルヒャー女史、アードリアン・ブリーゼマイスター氏、ヘルガ・ヤーデルード少尉、ミン・ハオサン博士、我が『SOTS』は、諸君らを歓迎する。」
ネイサン軍曹と、残り4人のうち3人が敬礼をする。おそらく敬礼をしなかった中年の男性が、ハオサン博士なのだろう。ちなみに4人の客人――今の段階では――は、キースの巨体と老け顔に一瞬驚いた様だった。16歳という年齢だけを聞いていたのだろう。
キースとカイル船長、イングヴェ副長は答礼をした。キースは頷いて言う。
「楽にしてくれ。」
「はっ!自分はグレーティア・ツィルヒャー、ガンダラージャ機兵学校の卒業生であります!」
「俺、いえ自分はアードリアン・ブリーゼマイスターです。従軍経験はありませんが、民間機による飛行時間は1600時間を超えております。また自分の家の気圏戦闘機であるチペワ戦闘機にて、合わせて100時間の飛行訓練を積んでおります。」
「自分はヘルガ・ヤーデルードです。以前の部隊での最終階級は少尉でした。」
「私はミン・ハオサンと言う。一応博士の肩書なども持ってはいるが、大学も国も追い出された根なし草でね。」
キースは各自の顔を見ながら、おもむろに問う。
「こうしてこんな片田舎の惑星までやって来てくれたと言うことは、諸君らは我が隊に入隊してくれる意志はある、と言うことで良いのかな?」
「は、はい!」
「はい、それは勿論です。」
「はい。再起の機会を与えてくださり、ありがとうございます。」
「うん。働き口をくれるなら、是非にお願いしたいところだよ。」
各々が、各々の口調で承諾の意思を表す。キースは1人1人に向けて言葉を発した。
「グレーティア・ツィルヒャー、君は士官学校を卒業しているため、少尉に任ずることとする。貸与するバトルメックは55tのウルバリーンだ。貴官は新設される火力小隊の副隊長となることが内定している。貴官のこれからの活躍に期待する。」
「は、はい!ありがとうございます!」
「アードリアン・ブリーゼマイスター、君を本日ただ今をもって少尉に任ずる。貸与する気圏戦闘機は75tトランスグレッサー戦闘機。貴官が実力を発揮できることを祈っている。」
「謹んで拝命します。ありがとうございます。」
「ヘルガ・ヤーデルード少尉、貴官は前部隊のときと同じ、少尉として迎えることにする。貸与する機体はアードリアン少尉と同じ75tのトランスグレッサー戦闘機だ。機体が同じ故に、ペアを組んでもらうことになる。実戦経験が豊富な君が、2機の編隊長を務めてもらうぞ。」
「はっ。了解しました。」
「ミン・ハオサン博士、貴方には階級は無いのだが、給与他の関係により少尉待遇と言うことでお迎えしたい。無論実戦部隊に対する命令権は無いし、指揮系統には組み込まれないのだが。それでかまわないかね?」
「うむ、捨扶持でも貰えるならば僥倖だと思っていたところだよ。それほど好待遇で迎えてくれるのならば、文句など無いとも。」
その後キースは執務机から4通の書面……辞令と、3個の襟章……階級章を取り出して彼らに渡した。そしてキースは、ネイサン軍曹に向けて命令する。
「ネイサン軍曹、新任の少尉たちにこの基地を案内してやってくれ。彼らの宿舎の手配は既に済んでいる。こちらの書類に纏めてあるから、そちらの案内もしてやってくれ。」
「了解です、大尉。しかし大尉、そろそろ自由執事を雇用することを考えてはいかがですか?宿舎の手配などとか、細々としたことまでご自分で処理されるのは、部隊が小隊単位であった時ならばまだしも……。」
「考えてはいるんだ。だが自由執事とそれに関わる総務の人間は、部隊資産に直接関わる権限を持つことになるからな。絶対的に信頼できる人材でなくてはならない。そうそう見つかるものでもない。
では下がってよろしい。」
「「「「「失礼します。」」」」」
ネイサン軍曹と新任少尉たち、そしてハオサン博士は司令室から退出した。カイル船長とイングヴェ副長は、溜息を吐く。
「やれやれ、今度は自由執事探しですかな。」
「いや船長、それは我々が探すよりも大尉の伝手で探してもらった方が確実ですよ。」
「そうだな。サイモン曹長にも相談してみよう。サイモン曹長の人脈は凄いからな。」
キースも溜息を吐くと、肩を竦めた。
駐屯軍基地の演習場で、ヒューバート中尉操る75tオリオン、グレーティア少尉駆る55tウルバリーン、ロタール軍曹の乗機たる65tクルセイダー、カーリン伍長の55tグリフィンが、くるくると舞う様に隊列をめまぐるしく変えながら動いていた。キースは自機、75tマローダーの操縦席からそれを監督している。無線からヒューバート中尉の声が響いた。
『よし、いいぞ!その調子だ!だがまだ時々隊列変更が遅い時がある!いいか、お前たちの技量はかなり大したものだ。メック戦士養成校で正式な訓練を受けた俺やグレーティア少尉にすら劣らない。だが、小隊としての纏まりは話が別だ。チームで動くことについては、お前たちはまだまだだ!
もっと精進するんだ。チームが有機的に結合して動くことができれば、総合的な戦力は足し算ではなく、掛け算になる。だが逆に足を引っ張り合えば、マイナスになることだってあるんだ。』
『は、はい!……そうか、歩兵の時と同じような物か。チームで動くことで弱点をカバーしあって……。』
ロタール軍曹は、なんとなく飲み込んだ様だ。一方カーリン伍長は、理性では理解しても、皮膚感覚でわかってはいない様だ。
『はい、頭ではわかるんですが……。』
『なら、後は感覚で的確な行動をとれるようになるだけよ。あなたの機体はグリフィン、支援メックよ。私たちの背中はまかせたわよ。敵はそっちには通さないから、安心して落ち着いて行動してね。』
『は、はい!』
グレーティア少尉の激励に、カーリン伍長は頷く。キースはその様子を見て、満足そうに笑った。彼は心の中で思う。
(火力小隊は、ヒューバートに任せておいて大丈夫だな。これでバトルメック部隊も中隊の定数を満たした。だがやはり、予備メックを全て満足に動かせるようにしておきたいよなあ。だけど全部の機体を直すには資金が足りないか……。それに信頼できるメック戦士が雇えないと、直しても意味ないしなあ。)
考えているうちに、キースの思いは別な方向へ流れだす。
(……トマス・スターリングは今現在大隊指揮官だ。それと正面からぶつかることの可能な戦力を整えるのは、今のところ不可能だ。稼働メックの数、メック戦士の数、どちらも足りない。修理待ちの機体が修理できたと仮定して、それでも大隊規模には足りないし、メック戦士がいない。メック戦士を確保できたとしても、その中にハリー・ヤマシタの様な存在が混じっていたりしたら、たまったもんじゃないよな。トマス・スターリングに対抗するには、何か策を考えないと……。
いや、気が早いよな。別にいますぐこの惑星ドリステラⅢに、トマス・スターリングの奴がやって来るわけでもあるまいし。)
『キース大尉!ちょっとこちらに来てもらえませんか?』
「ああ、なんでしょうアーリン中尉。」
咄嗟に応えたキースの台詞に、アーリン中尉は眉を顰めた。彼女は通信回線を個人対個人に切り替えると、キースを注意する。
『キース大尉、また丁寧語になってますよ。今はもう、そちらが上官で司令官なんです。』
「ああ、すみませ、いや、すまなかったアーリン中尉。癖になっていた。気を付ける。」
『そうしてください。』
そしてアーリン中尉は、通信回線を通常の隊内通信に切り替え直す。
『戦車隊なんですが、静止射撃は満足いく出来になってきました。また単純な運転技量は、ようやくそこそこの出来上がりですね。ですが行進間射撃はまだ上手くいきません。砲手の技量の問題ではなく、運転手との息が合っていない模様です。』
「やはり訓練あるのみ、だろうな。ただ最低限の目標は達成したと見て良いか?遠距離射程からの支援砲撃をしてもらいたいのだから、移動中に泥濘や障害物によりスタックして擱座することがないならば……。
いや、満足はするべきでは無いな。彼ら戦車兵の生存率にも関わることだ。まあ褒めるところは褒めておいた方が良いだろうが。」
『ですね。』
その時、ヒューバート中尉の声が再び響く。
『その調子だ!やればできるじゃないか!』
『はい!』
『はい、ありがとうございます!』
『では続けましょうか、ヒューバート隊長。』
火力小隊の様子に、キースとアーリン中尉の頬が綻ぶ。
『良い人材が入ってくれて、よかったですね。』
「ああ、まったくだ。」
火力小隊の結成により、キースの傭兵中隊『SOTS』は一応定数を満たした。だが未だ、宿敵トマス・スターリングと正面決戦をするには力不足である。トマス・スターリングのいる惑星バレンチナへ殴り込むことも不可能だ。恒星連邦政府との契約なしに軍事行動を行ったりすれば、こちらが法を犯すことになる。まあ、命令に無い他国領域への襲撃をやって、稼いでいる傭兵部隊も存在しないわけではないが。たとえばカペラ大連邦国リャオ家に仕えている『マッカロン装甲機兵団』とか。
だがとりあえずキースは、今はそのことを脇に置いておくことにする。焦っても、どうにもならない。いつか来る機会のために、今は少しずつでも力を蓄えて、牙を研ぎ澄ましておく時なのだ。
最初から細かく読んでくれている人は気付いたかもしれませんが、今回登場したヒューバートは、プロローグにちょっとだけ名前が出てます。実は伏線だったんですねー。
いよいよ完全な中隊として、『SOTS』は再スタートを切りました。うーん、そろそろ部隊編成表、載せた方いいかなあ。でも、ちょっと初期試料が見つからない……。もう少し後になってから、部隊編成表は載せる事にしますねー。