鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-023 雛鳥を逃がせ』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地指令室のスクリーンには、惑星軍の大型レーダー基地から転送されてきた情報が映し出されていた。これを実現するために、キースたちは敵艦と思しき存在がこの星系の北辺宙域にあるジャンプポイント、ゼニス点に出現するよりもずっと以前から、努力を重ねて来たのである。キースも、アーリン中尉も、ヒューバート中尉も、いったい何枚の申請書類を書いたかわからない。だがその努力は、ぎりぎりで間に合ったのだ。

 ヒューバート中尉が、感慨深げに言葉を紡ぐ。

 

「この惑星に来て、惑星軍とのレーダー情報が共有化されてないって知ったときは、愕然としたもんだがなあ……。」

「縦割り行政の弊害なのよねえ。惑星軍自体の人員には、こちらに協力的な人が多いのが救いだけど……。その組織の上に乗っかってる議会がねえ……。はぁ……。」

 

 アーリン中尉も、溜息を吐く。キースが2人を宥めた。

 

「まあ、なんとか間に合ったんだから今は文句を言うまい。オペレーター、気圏戦闘機隊はどうなっている?」

「現在所属不明降下船群の予想軌道に向けて急行中です。接触まで、約15分。」

「収束赤外線装置による熱影感知によれば、相手はユニオン級と思われる船が3隻に、レパード級もしくはレパードCV級が1隻か。つまり相手は1個増強大隊。ジャミングなんかで姿を隠さないで来るってことは、彼我の戦力差を最初から知っていて、真正面から叩き潰すつもりでしょうかね、キース大尉?」

 

 ヒューバート中尉が疑問の形を取った確認を行う。キースは頷く。

 

「まず間違いなく、こちらの戦力は敵に筒抜けだろうな。それで真っ向から勝てると踏んだのだろう。俺たちの戦力は、演習場で散々姿を晒していたからな。ドラコ連合のスパイ網が、その情報を掴み損ねるわけがない。

 こちらのバトルメック戦力は、俺たち『SOTS』の1個中隊と、惑星軍所属のスティンガー5機、ワスプ1機、ローカスト1機、フェニックスホーク2機、ライフルマン1機……。それにサイモン曹長が組み上げたテスト機が4機の1個中隊強。ただし惑星軍メックの中で、戦力としてある程度あてにできるのは、フェニックスホーク2機のみだ。それ以外は、素人同然の腕前しか持たない新前だからな。そのことは、見る者が見れば機体の動きからわかる。」

「その惑星軍のバトルメック戦力は、首都ドリステル近郊の惑星軍基地に集中配備されてるんでしたよね?あとは戦車による機甲部隊が2個中隊、ただしこれは2輛ずつの1個分隊に分けられて、惑星各地に警備のため分散配備されてるから、緊急時の戦力としては数えがたい……。」

「今惑星軍のアントナン・カレ中佐が、緊急招集をかけているがな。全部は間に合わんだろう。それに戦車の車種は25tのスコーピオン戦車だ。正直重量が軽すぎる。バトルメック相手だと、かすり傷を負わせるのと引き換えに爆散しかねん。」

 

 アーリン中尉の呟きに、律儀に応えるキース。そのとき、50tのライトニング戦闘機に搭乗しているミケーレ少尉から通信が入った。ちなみに本来気圏戦闘機隊の最先任将校はマイク少尉もしくはジョアナ少尉であるのだが、彼らは自分が空戦の技量はともかく指揮をそれほど得手としていないことを理解しており、ミケーレ少尉に指揮権を委譲していた。

 

『こちらライトニング戦闘機3番機ミケーレ・チェスティ少尉!相手は交信を求める前に気圏戦闘機8機を発進させました。全機あつらえた様にシロネ戦闘機です。奴ら、やる気満々です!』

「所属不明降下船群を敵機と認定する。応戦せよ。ただし無理はするな、敵降下船および気圏戦闘機の数は多い。4隻と8機相手では、6機の気圏戦闘機では荷が重い。」

『了解!応戦します!』

 

 キースは応戦命令を出すと、惑星軍基地への直通電話を手に取る。

 

「こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令官キース・ハワード大尉。所属不明降下船群を敵機と認定、味方気圏戦闘機が交戦に入りました。結果が出次第、報告いたします。」

『こちら惑星軍ドリステル本部基地、司令官アントナン・カレ中佐。大尉、気圏戦闘機から送られたカメラ映像を、こちらにも送ってくれるかね?関連する書類仕事はこちらで受け持とう。』

「了解です。映像が届き次第、転送します。では失礼します。……オペレーター!気圏戦闘機からの映像が届き次第解析に回すと共に、惑星軍基地へもデータ転送を!」

「了解しました。ただ今着信しています。……映像出ました!部隊マークが識別可能です!惑星軍にも転送開始します!」

 

 キース、アーリン中尉、ヒューバート中尉はしばし黙って待つ。そしてオペレーターの声が再び響いた。

 

「敵部隊マークは第4アン・ティン軍団の物です!敵はドラコ連合です!」

「やっぱりか。シロネ戦闘機ってとこで、ドラコ連合だろうとは思ったんだが。……キース大尉?」

「……いや、気にするなヒューバート中尉。第4アン・ティン軍団ならば、練度は若干だがこちらが上回っているはずだな。」

 

 キースの言葉を証明するかの様に、次々と戦果報告が入る。

 

『こちらライトニング戦闘機1番機!敵シロネ戦闘機を撃墜したっす!』

『こちらライトニング戦闘機2番機!敵シロネ戦闘機を撃墜!』

『こちらトランスグレッサー戦闘機1番機、敵シロネ戦闘機を2番機と共に協同撃墜しました。』

『こちらライトニング戦闘機4番機!3番機と共にシロネ戦闘機を撃墜!ただし当機もダメージを負いました!離脱許可を!』

 

 キースは即座にライトニング戦闘機4番機に離脱命令を下す。

 

「ライトニング4番機、離脱しろ!」

『了解です!あとは頼むわ皆!』

「1番機と2番機は凄いわね。単機で敵機を無傷で撃墜しているなんて。」

 

 アーリン中尉が感心した声を上げる。だがキースは難しい顔だ。

 

「だがこれでこちらは5機に数が減った。敵は4機の気圏戦闘機が残っている上に、降下船4隻は無傷だ。降下船の支援の下で戦っている敵機に対し、圧倒的に有利なのは確かに凄いが……。この調子で敵味方を互いにすり減らせば、敵の降下は阻止できん。」

『こちらライトニング3番機!大尉!敵降下船のうちユニオン級1隻が、バトルメックを射出開始しました!また残りのユニオン級2隻とレパード級……。レパードCV級ではありません、バトルメック用ハッチを確認しました!残りの3隻も、大気圏への降下を開始!』

『こちらライトニング戦闘機1番機!ちっくしょう、シロネ戦闘機が邪魔して、降下を阻止できねえっす!いえ、できませんっす!』

 

 一瞬考え込んだキースは、離脱中のライトニング戦闘機4番機に通信を入れる。

 

「ライトニング戦闘機4番機。離脱しながらで良い。遠距離の映像で良いから、降下中の敵バトルメックと敵降下船を観測できるか?」

『……やってみます!』

『こちらライトニング1番機!邪魔していたシロネ戦闘機を片付けたっすが、バトルメックを射出したユニオン級が頑張ってて、他を追撃できないっす!』

「オペレーター、パメラ伍長に作ってもらった例の軌道計算プログラムをコンピュータに走らせて、おおよその敵降下位置を割り出せないか試すんだ。」

「了解!」

 

 キースは惑星軍基地との直通電話の受話器を取る。

 

「こちら恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地、司令官キース・ハワード大尉。中佐、残念ながら敵降下の阻止は失敗です。敵気圏戦闘機の半数以上を……。」

『こちらライトニング戦闘機2番機!シロネ戦闘機を撃墜!』

『こちらトランスグレッサー戦闘機2番機!敵機を1番機と協同撃墜!』

「失礼、敵気圏戦闘機の大半を撃ち落しましたが、敵の必死の守りによって降下船および射出されたバトルメックは降下してしまいました。」

 

 電話の向こうでアントナン中佐が難しい顔をしているのが、容易に想像できる。アントナン中佐はおもむろに言葉を発した。

 

『大尉、敵の目標降下地点は何処だと思うね?』

「いくつか考えられます。ですが俺、いえ私でしたら第一に狙うのはここ、駐屯軍基地です。最大の戦力を保持しているうちに、最大の敵戦力を叩きます。」

『そうだな。私でもそうするよ。ただ他の可能性を除去してしまうには、まだ早いな。』

 

 その言葉に、キースは頷く。

 

「ええ。他の最大の懸念としては、首都を狙った攻撃ですね。都市に対する攻撃はアレス条約違反ですが……。それで公爵閣下を人質にでも取られた場合、惑星軍と駐屯軍の関係にひびが入りかねません。」

『……公爵閣下の御身が第一の我々惑星軍と、公爵閣下を犠牲にしてでも惑星自体をクリタ家から護らねばならん駐屯軍の立場の違い、か。』

「それで万一、味方同士が相争う様な事態になっては馬鹿らしいにも程があります。」

 

 ここでオペレーターが叫ぶ。

 

「大尉!敵の降下予想地点は、惑星首都ドリステル付近の模様です!」

『こちらライトニング3番機!最後のシロネ戦闘機が降伏信号を打ち出しました!打ち出しましたが……。敵は既に惑星上に降下してしまいました。申し訳ありません。』

「中佐!敵降下予想地点は首都ドリステル周辺地域です!」

『君の懸念が当たったか……。む?少し待ってくれ。』

 

 アントナン中佐は、少し直通電話の前を離れた様だ。しばらくして、中佐が戻ってくる。

 

『地上のレーダー施設で確認した。敵はレパード級と思しき1隻を首都に向けた。残りの部隊は、もう間もなく「ここ」に降りてくる。』

「惑星軍の本部基地に……。公爵閣下の身柄を押さえる間、惑星軍を釘づけにするつもりでしょうか。いや、あわよくば惑星軍を先に撃滅……。いえ、その基地には戦略目標となり得る「施設」が2つもありましたね。敵はそれを確保するつもりですか。」

『……大尉、君に2つばかり頼みがある。1つは……。』

 

 キースはしばらく無言で電話を聞いていたが、やがて頷くと受話器を置いた。そして彼は硬い表情で命令を下す。

 

「アーリン中尉。偵察小隊はただちに首都ドリステル方面へ向けて出撃。目標はドリステル近郊の、惑星軍ドリステル本部基地だ。偵察小隊で最も遅いグリフィンの最大速度にあわせて進軍せよ。指揮小隊はレパード級降下船ヴァリアント号にて、同じく惑星軍ドリステル本部基地へ向け、メック他の搭載が終わり次第発進する。途中で偵察小隊を追い抜くことになるとは思うが……。こういう任務に使い勝手の良いレパード級がもう1隻あれば、使っていたんだがな。

 ヒューバート中尉、火力小隊には悪いが基地の留守番を頼む。」

「はっ!」

「はい。ですが大尉、留守を守るのは指揮小隊の方が良いのではないでしょうか?」

 

 ヒューバート中尉の疑問に、キースは硬い表情を崩さずに答える。

 

「君の隊にはメック戦闘が初めてのロタール軍曹と、戦闘自体が初めてのカーリン伍長がいる。初陣はもう少し万全の状況下でやらせてやりたい。

 今回の任務は味方の撤退支援だ。「敗走してくる」惑星軍を、この駐屯軍基地まで送り届けるのが主目的なんだ。敵の戦力は味方の数倍はあるはずだ。そのきつい状況で初陣は、流石に酷だろう?」

「納得しました、了解です。……って、「敗走」ですかっ!?」

「ああ、惑星軍のアントナン中佐は1個大隊の歴戦バトルメック部隊に、9割近くが素人同然で、しかも半数が20t級軽メックで構成された自軍バトルメック中隊が、勝てるとは……いや、まともに戦えるとも考えておられない。中佐は1個中隊だけ集結に間に合った戦車部隊で時間を稼ぎ、惑星軍の「未来の主力」を脱出させるおつもりなんだ。

 惑星軍のメックに乗っている新人メック戦士の多くは、俺から見てさえまだガキどもらしい。頼むから奴らを生かしてくれ、と言われたよ。」

 

 そこまで聞いたアーリン中尉は頷くと、キースに敬礼を送って通信設備に取り付いた。ちなみに降下船群が接近してきた時点で、既に全部隊は総員戦闘配置に就いている。

 

「偵察小隊!準備はできてるわね!?」

『こちらリシャール・ジェレ少尉!自分以下3名、いつでも出撃可能です!』

「わたしが格納庫に着き次第……。ううん、ヴィルフリート軍曹のグリフィンだけ先に発進させて!全速力で行くように伝えてちょうだい!目的地は惑星軍ドリステル基地!私たちもすぐに追いつくわよ!復唱不要!以上!」

『りょ、了解!』

 

 そしてアーリン中尉はキースに通信設備を明け渡し、軍服――『SOTS』には正規の軍服はまだ無いため、それっぽい服に階級章だけ付けた物――の襟元を緩めながら格納庫へ駆け出して行った。何故衣類を緩めるかと言うと、彼女をはじめ『SOTS』のメック戦士達は、冷却チョッキや冷却パイロットスーツと言う高級品は持っていないのである。そのため、熱のこもるバトルメックの操縦席に搭乗する際は、できる限りの薄着で乗り込むのだ。

 キースもまた、軍服の襟元を緩めながら通信設備に取り付く。

 

「指揮小隊!レパード級ヴァリアント号にメック搭載開始!俺もすぐ行く!復唱は不要だ!……ヴァリアント号カイル船長、イングヴェ副長!緊急発進準備!目的地は追って伝える!復唱不要!……サイモン曹長!偵察・整備兵分隊のうち、曹長と偵察兵2名だけでヴァリアント号に乗り込め!ジープを2台持っていくのを忘れるなよ!復唱は不要だ!……気圏戦闘機隊!いったん基地に帰還したら戦闘可能な機体は推進剤を補充し……。」

 

 各員への通達が終わると、そのままキースは格納庫へ向けて走り去ろうとした。その背にヒューバート中尉の声が届く。

 

「キース大尉!留守は任せてください!お客さんの受け入れ態勢は整えておきます!」

「頼んだぞ!」

 

 今度こそ、キースは格納庫へ向けて疾走した。

 

 

 

 レパード級降下船ヴァリアント号は、首都ドリステル近郊の渓谷の合間にこっそりと隠れる様に着陸した。そのメック用ハッチが開き、キースの75tマローダー、マテュー少尉の65tサンダーボルト、エリーザ軍曹の70tウォーハンマー、アンドリュー軍曹の60tライフルマンが次々と降りて来る。そしてサイモン老が運転するジープが1台と、アイラ伍長が運転するジープが1台が最後に降りて来た。サイモン老のジープには、ネイサン軍曹が同乗している。

 ヴァリアント号のブリッジに通信回線を繋ぐと、キースは言葉を発した。

 

「いいか船長、副長。来る時説明した様に、俺たち指揮小隊を待つ必要は無い。俺たちは惑星軍と共に歩いて帰るからな。船長たちは、サイモン曹長たちが連れて来る「お客さん」を乗せたら、わき目も振らず真っ直ぐに基地までぶっ飛ばすんだ。」

『了解したよ、隊長。「お客さん」の方は任せておいてくれたまえ。』

『同じく了解です、隊長。しかしそんな高貴な「お客さん」乗せるとなると、少し緊張しますね。』

「何、緊急事態だからな。それほど気にする必要は無い。頼んだぞ。」

 

 キースは次に、指揮小隊の面々に向かい声をかける。

 

「こっちの方の「お客さん」は、ちょっと大勢だ。だが「できるだけ多く」なんて言葉はいらん。あくまで「全員」を無事に駐屯軍基地まで送り届けるぞ!そのぐらいの気概で任務にあたれ!」

『了解です、隊長。機種転換してから初の戦いですからね。腕が鳴ります。』

『了解だぜ、隊長。マテュー少尉もエリーザも、背中は俺が守ってやるぜ!』

『了解、隊長。雛鳥どもを守ってやればいいのよね?』

 

 指揮小隊隊員たちの心強い台詞に、キースは力強く頷いた。彼は号令をかける。

 

「指揮小隊、前進!高高度偵察を行っているライトニング戦闘機3番機からの連絡では、「お客さん」には送り狼がついているそうだ。まずはそれを潰すぞ!」

『『『了解!』』』

 

 傭兵中隊『SOTS』指揮小隊は、全速で前進した。しばらく進んだところで、マローダーのセンサーが機影を捉える。その機体は、20tの軽バトルメック、ローカストであった。さらにその後ろから、同じく20tの軽メックであるスティンガー5機とワスプ、60tライフルマン、そしてサイモン老謹製の90tサイクロプス改2機と、100tマッキー改2機、その他多数の兵員輸送車輛群が続いている。そして少し離れて、45tのフェニックスホークが2機、必死になって後方に向け、大口径レーザーを射撃しているのが見て取れた。と、ローカストが戸惑った様に足を止める。惑星軍の無線周波数に合わせた回線から、怯えた声が響いてきた。

 

『そ、そんな……。回り込まれてたなんて……。』

「馬鹿野郎!!足を止めるな!!走り抜けろ!!」

『え?』

 

 キースはマローダーを走行させて、ローカストの脇を通り過ぎる。

 

「IFFの反応を良く見ろ!!そんなことでは、戦場で味方撃ちをやらかすぞ!」

『え、あ、み、味方機!?』

「走れといっただろうが!」

『は、はいっ!』

 

 ローカストは、泡を食って疾走を再開する。今のやり取りを聞いていたのか、続くスティンガー5機にワスプ、ライフルマン、サイクロプス改2機とマッキー改2機は、足を止めずに走り抜けた。その後を追う兵員輸送車群に鈴生りになった兵士や一般職員などは、どうやら味方のメックであるらしいと知り、喜び騒いで手を振っている。

 そしてマローダーの粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノンが火を噴いた。それは過たず、今まさにフェニックスホークにとどめを刺そうとしていたK型シャドウホークの胴中央に突き刺さる。追い撃ちの様に同じ目標を、アンドリュー軍曹のライフルマンのオートキャノン2門が撃ち据える。胴中央の装甲を全て剥がされてジャイロでも損傷したのだろう、K型シャドウホークはよたよたとしながら後退していった。

 もう1機、別のK型シャドウホークと、ウルバリーン、通常型シャドウホークが一斉にキースのマローダーを狙って砲撃する。だが距離が遠くて命中しない。しかしキースが再び撃ち放った粒子ビーム砲のビーム束と中口径オートキャノンの砲弾は、K型シャドウホークに命中する。更にアンドリュー軍曹のライフルマンの砲火だけでなく、マテュー少尉駆るサンダーボルトの15連長距離ミサイル発射筒と、エリーザ軍曹操るウォーハンマーの粒子ビーム砲が、次々と発射される。この遠射程だと言うのに、それらは的を外すことなく、ことごとく敵機に命中した。敵機はたまらず後退して行く。

 一息つくと、キースは酷くダメージを負った2機のフェニックスホークへ通信を入れた。

 

「こちらは恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍、傭兵中隊『SOTS』司令官キース・ハワード大尉。そちらの官職姓名を述べよ。」

『あ、ああ貴殿が。わ、私はドリステラⅢ惑星軍所属バトルメック部隊指揮官、ケヴィン・デッカー大尉待遇中尉です。』

『じ、自分は同じく惑星軍バトルメック部隊副指揮官、レオナルド・ロックハート中尉。た、助かりました。ありがとうございます。』

「……礼を言うには早い。おかわりが来るぞ。貴官たちは急いで逃げろ。雛鳥どもの面倒を見なければならんのだろう?」

 

 ケヴィン中尉は一瞬言葉に詰まるが、すぐに頷く。

 

『了解しました。私たちは、いえ自分たちは本部基地司令アントナン・カレ中佐より、貴殿の指揮下に入るよう正式な命令書付きの命令を受け取っております。』

 

 それを聞き、キースは目を見開く。アントナン中佐は、キースがこの件で後から惑星議会に難癖をつけられない様に、手を打ってくれたのだ。正式な命令書とやらがどこまで効力のある物かはわからねど、少なくともこの事態においてキースが指揮を取る上での法的根拠になってくれる。そして万一それが法的に無効とされた場合であっても、責任は命令書を発行したアントナン中佐にあり、キースには咎は無いことになるのだ。

 

『それと……中佐より、例のバトルメック自動整備施設と製作施設の起動キーを預かっております。これが無くば、あの施設は並の技術者では動かせないとのことでしたが……。』

「ああ、その辺は聞かされている。貴官はそれを敵の手に渡さぬためにも、なんとしても雛鳥たちを連れて、駐屯軍基地まで脱出するんだ。さあ、行け!」

『はっ!了解であります!行くぞレオナルド中尉!』

『了解!中佐、いつか必ず仇を……。』

 

 キースはその台詞に、今度こそ瞑目した。やはりアントナン中佐は亡くなったのだ。25tのスコーピオン戦車が1個中隊では、1個大隊のバトルメックに対し、あまりに力不足だ。そして戦車はバトルメックよりも極めて脆い。戦車兵の命は、対メック歩兵までとは言わないが、吹けば飛ぶ様に軽いのだ。

 

『隊長、また1個小隊来たぜ。更にその後方にも、まだ続いてくるみたいだ。』

『今度はライフルマンに……。嘘!?エンフォーサーが3機!?なんでダヴィオン家特有のメックが……。って、決まってるわね。』

『そうですね。第4アン・ティン軍団、ことにC大隊とオマケのD大隊は例のやつらが根を張ってるんです。何の不思議も無いですよ。』

 

 アンドリュー軍曹、エリーザ軍曹、マテュー少尉が口々に言う。キースはにやりと笑みを浮かべると、命令を下した。

 

「指揮小隊全メック!射撃開始!目標は先頭の敵ライフルマン!」

 

 マローダーから、ライフルマンから、ウォーハンマーから、サンダーボルトから集中砲火が敵のライフルマンに飛ぶ。第2ラウンドの幕は上がったのだ。




渋い脇役として前回登場したアントナン中佐、残念ながら退場いたしました。でも彼の残した影響は、今後延々と「良い方向で」続きます。
なんたって、「渋い脇役」ですから!
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