鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-024 籠城開始』

 傭兵中隊『SOTS』の指揮小隊は、敗走する惑星軍バトルメック部隊を護るために奮戦していた。アンドリュー軍曹が60tライフルマンの操縦席から吼える。

 

『ここから先は一歩も通さねえぜ!』

『落ちなさいってのよ!』

 

 エリーザ軍曹もまた、70tウォーハンマーを前面に出して胴体部装備火器の全てを用いて1機の45tK型フェニックスホークの装甲を丸裸にしていた。

 しかしアンドリュー軍曹機のオートキャノンの弾丸は既に切れ、彼はやむなく大口径レーザー主体の戦闘を行っている。そのため機体に熱が溜まり易く、2本大口径レーザーを撃った後はしばらく機体を放熱させねばならなくなった。だが敵機が仲間を狙うのを見過ごすわけにもいかず、彼はかなりの無理をしていた。またエリーザ軍曹のウォーハンマーも6連短距離ミサイルの残弾を撃ち尽くしており、その凄まじい攻撃力も減退している。その上に前面に出たため、幾ばくかの被弾を被ってもいた。

 マテュー少尉の操る65tサンダーボルトもまた、15連長距離ミサイルを使い果たし、今はエリーザ軍曹の盾となって攻撃の殆どを引き受けつつ、近距離戦闘を行っていた。今しがた、55tK型ウルバリーンの頭部を格闘にて破壊したところだ。ちなみにメック戦士は緊急脱出している。ただ攻撃の殆どを一手に引き受けているため、その分厚い装甲も、かなりやられていた。次に彼は、指揮小隊の脇腹を狙おうとする20tK型ワスプを狙う。

 

『鬱陶しいんですよ!いい加減あなたも落ちなさい!』

「マテュー少尉、そろそろ俺と位置交換だ。流石にそろそろつらいだろう。アンドリュー軍曹と並んで、大口径レーザー主体の攻撃に切り替えろ。」

 

 キースが75tマローダーを前に出す。彼の機体もオートキャノンの弾薬を使い切っている。今までに彼は、60tライフルマンと70tアーチャー2機に被害を与えて後退させ、55tグリフィン1機の頭部を撃ち抜いてセンサーを破壊し脱落させた上、55tシャドウホーク1機および50tエンフォーサー1機の脚部を折り取って転倒させていた。敵からすれば、悪夢でも見ているかの様だったろう。数倍の追撃部隊が、たった1個小隊にずたずたにされているのだから。

 

(しかし、このままではじり貧だよな……。惑星軍はもう随分距離を取ったと連絡があったから、なんとか隙を見て撤退しないと。)

 

 その時、脇から忍び寄ったK型ワスプの中口径レーザーの一撃が、マローダーの左胴に命中する。それは装甲の隙間から内部構造を一部破壊した。そこにはオートキャノンの弾倉が配置されている。

 

「……危なかったが、オートキャノンは既に撃ち尽くしているんだよ。残念だったな。しかし誉めてやろう。こいつが褒美だ。」

 

 キースが機体の左側面を晒したのは、オートキャノンの残弾が無くなっていたため、ラッキーヒットを恐れる必要が無かったからである。彼はK型ワスプに褒美として、マローダーのキックをくれてやった。K型ワスプは右脚を無残に折り取られると言うよりは蹴り潰され、右胴にも大きなダメージを負って倒れ込んだ。

 その時、キース機の周囲に20連長距離ミサイルの雨が降り注ぐ。ぎりぎりで命中しなかったが、あぶないところだ。はるか後方に後退した、アーチャー2機の仕業だった。長距離ミサイルの射程は、マローダーの主武器である粒子ビーム砲のそれを凌ぐ。キースは叫んだ。

 

「アンドリュー軍曹!マテュー少尉!エリーザ軍曹!俺が戦線を支えるから、離脱しろ!」

『隊長はどうするんだよ!』

『……いえ、私とエリーザ軍曹の機体は被弾が大きくなってきました。隊長の命令通りにしましょう。アンドリュー軍曹の機体も、過熱が酷い。今のまま居ても、足手まといになるだけです。』

『……くっ!仕方ないわね。』

 

 下がろうとするエリーザ軍曹のウォーハンマーに、55tの通常型ウルバリーンが追いすがる。それを粒子ビーム砲の2連射を命中させて左脚を吹き飛ばして阻止したキースは、単身自機を前に出す。砲火がキース機に集中するが、キースは機体を全力疾走させて木陰に飛び込み、命中弾のおおよそ3/4を回避することに成功する。一方、仲間の機体は離脱することに成功していた。

 だがフェニックスホークやK型ワスプなどの機動力に優れた機体が、キースのマローダーを包囲せんと移動してきた。なんとか退路を確保したいキースだったが、それは果たせず背後に回り込まれてしまう。機体の上半身を捻ってどうにか装甲の薄い背面から攻撃を受けることだけは避けたが、逃げ道を塞がれてしまった。

 

(不味いなあ。なんとかフェニックスホークを一撃で片付けられれば、逃げられないことも無いけど……。サイモン爺さんのスナイパー砲支援でもあればなあ。いや、泣き言は言ってられない。まずはフェニックスホークからだ!)

 

 キースは再び機体を走らせる。フェニックスホークの間合いに飛び込み、粒子ビーム砲1門と中口径レーザー2門を一斉に発射。全弾命中し、フェニックスホークが一瞬揺らぐが転倒はせず持ちこたえる。逆にフェニックスホークの攻撃もまた、マローダーに命中し、その装甲を削った。胴中央にこれ以上攻撃を受けると、かなりまずい。

 

(倒せなかったかっ!くそ、機体上半身を捻りたいところだが、他の機体も近づいてきている!今度はそいつらに背面を晒すことになる!く、命中弾が他の箇所に分散することを祈るしかない、か。脱出も、降伏もできないよな。やつらはおそらく、トマス・スターリングか故ハリー・ヤマシタに連なる者たちだ。あのエンフォーサーの存在が、それを物語っている。奴らが捕虜をどんな風に扱うか、分かったもんじゃないわな。

 それに、捕まるわけにも、死ぬわけにもいかんよな。俺には指揮官としての責任があるんだ。と言うか、こう言うどじを踏んだら、その責任を蔑ろにしたって言われても言い逃れはできないところだけどさ。)

 

 目の前のフェニックスホークとK型ワスプが各々の主武器を構えるのを見つめながら、キースは両腕の粒子ビーム砲を各々の敵機に1門ずつ向ける。機体は過熱し、2門を一度に撃つのはちょっとつらい。操縦席の中は、蒸し風呂の様だ。

 

『大尉!』

 

 その瞬間、大口径レーザー3門と粒子ビーム砲1門が、フェニックスホークとK型ワスプに降り注ぐ。K型ワスプは片脚を吹き飛ばされ転倒。フェニックスホークは胴中央に直撃を受けてエンジンに命中弾が出たらしく、熱映像画面で見ると急速に機体の熱量が高まって行く。敵のフェニックスホークは慌ててその場を後退して行った。

 

『キース大尉、無事ですか!?』

「アーリン中尉、間に合ってくれたか。ありがとう、助かった。」

『こんなに無茶をして!』

 

 その攻撃を放ったのは、アーリン中尉麾下の、2機の通常型フェニックスホークと1機のD型フェニックスホーク、そして1機のグリフィンだった。キースは苦笑して言う。

 

「すまん。返す言葉もない。っと!」

 

 キースはアーリン中尉機に忍び寄っていた通常型ウルバリーンに、粒子ビーム砲を撃ち込む。その一撃はウルバリーンの頭部を貫いて、メック戦士を緊急脱出に追い込んだ。

 

「アーリン中尉、大丈夫だな?」

『あー、もう!助けに来て助けられるって、なんか恥ずかしいわ!』

「そう言うな。お互い助け、助けられだ。さて、とっとと尻に帆をかけて逃げ出すとしよう。戦利品を持って帰る余裕が無いのが残念だな。」

 

 キースはそう言うと、機体に踵を返させ、全力で走らせはじめた。それを護る様に、偵察小隊のバトルメックがその周囲を取り囲む。敵機は擱座した味方機の回収を優先したのか、諦めて追いかけては来なかった。

 

 

 

 キースたちは、間もなく先に撤退した指揮小隊のメンバーと合流。仲間たちはキース機の惨状を見て、おおいに文句をぶちまける。もっとも、見た目は派手にやられているが、内部構造まで破壊された部位はわずかにK型ワスプのラッキーヒットを喰らった部分だけだ。しかしキースは抗弁しない。抗弁すると、数倍の言葉のフレンドリーファイアが返ってきそうだからである。

 

(ま、心配かけたんだから仕方ないよな。)

『聞いてる!?隊長!!』

『確かに俺たちはあれ以上戦うとヤバかったけどよ!隊長のマローダーがそこまでやられるんなら、俺だけでも残って後方支援してたぜ!?熱は溜まってても、装甲板は傷ついてなかったんだからよ!』

 

 エリーザ軍曹と、アンドリュー軍曹がなおも言い募る。キースは素直に謝罪した。

 

「ああ。済まなかった。」

『……でも、隊長は同じことがあったら、また同じことするんでしょうね。』

『『……。』』

 

 マテュー少尉の台詞に、エリーザ軍曹もアンドリュー軍曹も、押し黙った。キースはおもむろに言葉を紡ぐ。

 

「かもな。だけど、その時はもう少し上手くやるよ。二度とやらない、とは約束できんが。」

『……本当に上手くやってくれよ?』

『そこまでやられる様なことになっちゃ駄目だからね?』

『隊長には、マローダーよりもバトルマスターかなんか、もっと装甲が厚い機体が良いんじゃないですかね。まあバトルマスターなんて手に入りませんけど。』

「いや手に入らんだろう、本当に。」

 

 指揮小隊の様子を、アーリン中尉たち偵察小隊の面々は苦笑しつつ聞いていた。やがて彼らのはるか前方に、惑星軍の隊列の最後尾が見えてくる。どうやら動きがもっとも鈍いマッキー改及び定員をはるかにオーバーしている兵員輸送用の車輛やトラックが、移動速度の足を引っ張っているらしい。キースたちの機体が追いつけたのは、それが原因だった。

 

 

 

 そして彼らは駐屯軍基地へ帰り着く。帰ってきたときには、基地周辺に歩兵を展開させて、基地の様子を観測している者がいないか確認させた。理由は、ちょっとばかり敵のスパイに知られたくない情報があったからである。案の定、基地の様子を双眼鏡で眺めていた男が2人捕まえられた。

 捕まえられた彼らは、パメラ・ボネット伍長とフランツ・ボルツマン伍長により尋問され、当初は年齢の若い2人の尋問官を馬鹿にしていたものの、気付けば洗い浚い喋らされていたことに気付き愕然とする。やはり彼らはドラコ連合のスパイであった。しかしその中でも促成栽培された下っ端であり、大したことは全く知らされていない輩でもある。

 彼らは捕虜収容所ではなく、基地の地下に設置された独房に収監された。おそらくはスパイの扱いの常に従い、情報を徹底的に吐き出させた後で銃殺と言うことになるだろう。キースも仲間達に害を及ぼしそうな人物に情けをかけるほど、甘くはない。

 基地に帰ったキースたちを出迎えたのは、意外な人物であった。いや、その人物を連れて来ることを命じたキース自身には、意外でもなんでも無かったのだが。

 

「おお、大尉。無事でなによりじゃて。」

「はっ。閣下もご無事で安心いたしました。」

「いやの、アントナン中佐からの連絡で別邸に一時退避したところで、敵のレパード級降下船が首都の幹線道路に降り、そこから現れたバトルメック小隊がわしの本来の邸宅を取り囲んだ、と聞いたのじゃ。いや間一髪じゃったのう。

 そこへサイモン曹長がやってきての。駐屯軍基地への避難をお主が申し出た、と伝えてくれたんじゃわい。いや、サイモン曹長の運転は爽快で、愉快じゃったわ。あとはカイル船長だったかの?彼の者の操船も凄まじかったわい。」

 

 そう、基地の指令室で待っていたのは、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーその人であったのだ。キースについて来た惑星軍のケヴィン大尉待遇中尉とレオナルド中尉は、自分たちのご主君が、それもいつもはこうして真正面から会う事の絶対無い存在が目の前に立っているのを見て、敬礼をしたまま硬直している。

 ちなみにサイモン老がザヴィエ公爵の迎えに出たのは、駐屯軍の中で公爵との面識があった希少な人物だったからだ。そうでなくては、重要な間接砲撃手であるサイモン老を戦力から外すような真似はしない。

 キースはザヴィエ公爵に尋ねる。

 

「こちらに来られる際は何事もございませんでしたか?」

「いや、敵のレパード級が追撃してきよったがの。お主が付けてくれたライトニング気圏戦闘機2機とトランスグレッサー気圏戦闘機2機が追い払ってくれたわ。」

 

 ここでヒューバート中尉が口を挟む。

 

「閣下、ハワード大尉に報告するべき事がございますので、どうか発言をお許しください。」

「うむ、許す……。いや、そうではないな。ここではわしが客人なのだ。わしに許可を求めるまでもない。いつも通りにやってくれれば良い。そうでなくば、任務に差しさわりが出るであろう?」

「では遠慮なく。キース大尉、ライトニング戦闘機1番機と2番機、トランスグレッサー戦闘機の1番機と2番機より報告がありました。敵レパード級降下船を協同で撃墜、敵レパード級は惑星地図上の……。」

 

 ヒューバートの言葉が終わる前に、気を利かせたオペレーターが指令室のスクリーンに惑星マップを投影する。その1点、駐屯軍基地から南に数km離れた場所に、赤い点がつけられていた。

 

「ありがとう。この赤い点、D-33744ポイントに不時着した模様です。私の独断で歩兵1個小隊を付け、整備兵ジェレミー・ゲイル伍長と助整兵5名を向かわせました。気圏戦闘機4機は、低速巡航状態にてその場で上空待機してます。」

「貴官の判断は正しい。敵レパード級を押さえられる物ならば押さえてしまった方が良いからな。だが、敵レパード級は降伏していないのか?……保険をかけた方が良いな。」

 

 キースは通信設備に取り付くと、格納庫のアーリン中尉たちに連絡を入れた。

 

「アーリン中尉、もうひと働きしてもらいたいが、中尉と隊員の疲労は大丈夫か?」

『まだ大丈夫です。いつでも出撃できます。』

「そうか。今、不時着した敵レパード級を押さえるためにジェレミー・ゲイル伍長と歩兵1個小隊が向かっているんだが、降伏する様子が無いらしい。保険として偵察小隊にも出て欲しい。マップは今、そちらの機体に転送する。」

『了解。ただちに支援に向かいます。』

 

 通信を終えたキースは、オペレーターにマップを偵察小隊のバトルメックに転送するように命じると、再びヒューバート中尉に向き直った。

 

「これで全部か?」

「いえ、あとは降伏した最後のシロネ戦闘機なのですが、当基地の付属宇宙港滑走路に着陸させました。パイロットの航空兵は、捕虜としての正当な扱いを求めています。尋問しましたが、氏名生年月日、階級や認識番号などの情報以外は、条約で話す必要は無いとの一点張りでした。

 もう1つ、気圏戦闘機隊の現状なのですが、ライトニング戦闘機1番機2番機とトランスグレッサー戦闘機1番機2番機は損傷軽微、現在不時着して動く様子のない敵レパード級を監視しています。ライトニング戦闘機3番機は損傷なし。帰還して推進剤補給を受けています。ライトニング戦闘機4番機なのですが、1機で割を食ったようで、小破状態。ただし部隊に備蓄している部品で修理可能です。」

「わしからも報告がありますでの、隊長。」

 

 サイモン老が手を上げる。キースは頷いて見せた。サイモン老は話し始める。

 

「公爵閣下とお付きの方々4名は、無事に当基地へお迎えすることが叶いましたわ。ただ、ちょっとばかり気になる点が……。いえ、公爵閣下御一行のことではありませんがのう。

 公爵閣下の別邸に赴いた際、遠隔映像で、公爵閣下のお屋敷を包囲するバトルメックの姿を確認したんですがの。45tフェニックスホークを隊長機として、45tヴィンディケイター、40tウィットワース、35tオストスカウトからなる中軽量の偵察小隊タイプの部隊でしたわ。で、それらのメックに見覚えがあるんですわい。特にヴィンディケイター。

 あれは傭兵部隊『BMCOS』がカペラ境界域にてリャオ家と戦った際に、敵から奪取したメックですな。『BMCOS』はその戦いにおいて戦利品の自由裁量が認められており、頭部をやられてメック戦士も死亡、身代金との交換要求も無かったものですんで、『BMCOS』の予備メックになった機体ですわ。自分で修理した機体ですからのう、間違いないですわ。」

「ああ、予想はついていた。今回敵に、エンフォーサーが3機も混じっていたんだ。エンフォーサーは恒星連邦ダヴィオン家特有のバトルメックだ。第3次継承権戦争の戦乱の間に流出したりドラコ連合に鹵獲されたりした機体が無いとは言えないが、あんなに状態が良好な機体が改造もされずにそのまま運用されているとなると、ごく最近……。たとえば「去年年末から今年初頭にかけて」奪われた物である可能性が高い。つまり、今回の敵には、俺たちの仇の一味が含まれていると断定しても良いだろう。

 ……敵に80tの強襲メック、ヴィクターが含まれていれば、ほぼ確実なんだがな。」

 

 ヴィクターは、キースたちの仇であるトマス・スターリングの乗機である。少なくとも、傭兵部隊『アルヘナ光輝隊』時代はそうであった記録が残されており、キースは親友ジョナス・バートンを通じてその記録を入手している。

 と、そのときザヴィエ公爵の声が響く。彼は惑星軍のケヴィン大尉待遇中尉から報告を受けていたところだった。

 

「なんじゃと!……そうか、アントナン中佐が逝ったか。」

「はっ!敵指揮官機と思しき80t級ヴィクターのオートキャノンの直撃を受け、中佐の搭乗したスコーピオン戦車は爆散いたしました。あれでは残念ながら助かる可能性は……。しかし、勇敢な最期であられました。自分はそれを最後に本部基地を脱出しましたため、機甲部隊の残りがどうなったかは見ておりません。しかししばらく敵の追撃が無かったところから、おそらくは死兵となり最後の戦車1輛、最後の1兵に至るまで抵抗を続けたものと……。」

「むう……。」

 

 ザヴィエ公爵は、瞑目して天を向き、唸る。キースは少しだけ待ち、話が終わったと見てから割り込んだ。

 

「デッカー大尉待遇中尉、ロックハート中尉。できるだけ詳細に、敵のメック部隊陣容を知りたい。俺たちの部隊による戦闘データ、目撃情報と合わせ、貴官らの情報も統合して敵バトルメックの構成に関する情報を構築したいのだ。お願いできるか?」

「はい、了解です。それと……。」

「それと?」

「自分たちはアントナン・カレ司令の最後の命令により、貴殿の指揮下にあるのです。お願い、ではなく命令してください。」

 

 ケヴィン中尉は、生真面目に言った。隣にいるレオナルド中尉も、それに頷きを返す。キースは首肯した。

 

「わかった。では貴官らに命令する。敵襲撃時から本部基地陥落までの経緯と、敵陣容に関する情報を、可能な限り早く報告書に纏めて提出せよ。合わせて貴官らのバトルメックの戦闘データも提出を命じる。惑星軍関係者の宿舎や執務場所についての手配は……。ヒューバート中尉、頼めるか?」

「了解です、キース大尉。」

「うむ。このヒューバート中尉に聞いてくれ。では即刻取り掛かる様に。」

「「「はっ!では失礼します!」」」

 

 ヒューバート中尉と、ケヴィン中尉、レオナルド中尉は、キースとザヴィエ公爵に敬礼してから、細々したことを話し合いながら指令室を出て行く。キースは答礼を崩すと、サイモン老に命じた。

 

「サイモン曹長、即刻全バトルメック及び気圏戦闘機の修理を開始せよ。惑星軍の物も含めて、だ。必要ならば、『SOTS』所有の予備部品を提供しても構わん。その場合、使った部品の明細だけは作っておくように。ただし最優先すべきは高高度偵察に使用可能な気圏戦闘機群の修復、次が指揮小隊のバトルメックの復旧だ。自慢するわけではないが、指揮小隊はうちの最大戦力にして切り札だからな。」

「了解しましたわい、隊長。では失礼します。」

 

 サイモン老とキースは、互いに敬礼を交わす。そしてサイモン老は年齢に見合わない敏捷さで、整備棟の方へと駆け出して行った。一通りの指示を出し終えて、キースはザヴィエ公爵に向き直る。

 

「公爵閣下、むさくるしいところで申し訳ありませんが、貴賓室をただ今用意させております。もっとも、しばらく高貴なお方をお迎えしたことが無いので掃除が必要なため、しばし時間をいただかねばなりませんが。とりあえずの仮のお部屋として、司令室を提供いたします。」

「いや、それはいかん。司令室を取られては、司令官たるお主が不自由するじゃろう。それは軍事的にもいかん。仮住まいと言うならば、もっと粗末な部屋でかまわぬ。なに、わしは若い頃はメック部隊を率い、野営なども多数経験があるからの。くそ不味いコーヒーや戦闘糧食もな。具体的なことは、わしが連れて来た執事長のアロン……アロン・グローヴァーと話をしてくれい。それまでわしは、ここ指令室で待っておるわい。」

「……了解しました。できるだけ早急に仮のお部屋を用意いたします。貴賓室もできるだけ早く使える様にいたします故、しばしのご辛抱を。」

「ああ、わかったわい。それとな、大尉。」

 

 ザヴィエ公爵は眉を顰めつつ言った。キースも顔を引き締める。

 

「ゼニス点ジャンプポイントにインベーダー級とスカウト級が出現した時点で、恒星連邦政府にわしの名前で援軍要請をした。返答は可、ただし戦力を集めるまでしばし現有戦力で持ちこたえよ、とのことじゃ。拙速よりは巧遅を選ぶようじゃの。悠長なことじゃ。で、可能か?」

「こちらには、敵には無い気圏戦闘機の支援があります。また基地の砲台、および間接砲の支援、最近敷設した地雷原なども考え合わせれば……。予想される援軍到着は、星系間の移動と集結に2~3週間、直後この惑星へのジャンプをしたと仮定して、ジャンプポイントから惑星ドリステラⅢまで4日……。1ヶ月弱ですか。可能、ですね。

 問題はそれを支える兵站です。弾薬や装甲板は、恒星連邦との契約により消耗分は支給されることになっていますので、予想される消耗分の3倍量がこの基地に備蓄されております。いちいちMRBの管理人に書類を提出して許可をもらわねば、書類上は恒星連邦政府の資産であるその備蓄を受け取ることもできないのですが、それでも充分な量の備蓄がなされております。

 ただ……。装甲や弾薬以外の部品が、我が傭兵部隊『SOTS』の備蓄分しかないために、少々心許ないのが難点です。籠城戦で損傷を負った場合、できるだけ早め早めに基地内に戻し、内部構造まで至る傷を負わない様にするしか無いでしょう。あとは……予備メックからの共食い整備ですか。ですが同一機種からのパーツ取りならばともかく、他機種からの移植となればこれは所詮応急修理なので、できれば避けたいところです。」

「問題はあるが、なんとか可能か。よし、とりあえずわしの名前を出して惑星中に触れ回るが良い。惑星公爵ここにあり、とな。わしが健在である以上、形だけではあっても奴らはこの惑星を制圧した、とは言えん。実際に奴らが押さえているのは、惑星軍本部基地と首都ドリステル、そして宇宙港ドリスポートだけじゃ。各地の小規模な惑星軍基地やレーダー施設、衛星管理施設などの軍事施設すべてには、いまだ手が回っておらん。本部基地に集結中であった戦車部隊も、集結先をここに変更させようぞ。それと本部基地以外に置いてあった軍需物資もかき集めさせるわい。」

 

 キースはついつい思った。

 

(なんかこの老人、生き生きしてきたよ。カイル船長やイングヴェ副長も、普段は初老の紳士だけど戦争になると生き生きするし。やっぱり元メック部隊司令官て肩書は、だてじゃないのかね。)

「どうしたかの?」

「いえ、即刻手配いたします。」

 

 キースは指令室のオペレーターに命じたり、電話をかけたり、様々な手配を始める。そんな中ふと、惑星軍本部基地への直通電話がキースの目にとまった。

 

(アントナン中佐……。あなたを殺した敵は、どうやら俺の仇であるようです。少しばかり待っててくださいね。奴は俺が地獄へと叩き落します。)

 

 おもむろにキースは、惑星軍本部基地への直通の電話機を、モジュラージャックから外す。今までかなり役立ってくれたこの電話機も、惑星軍本部基地を取り戻すまではお役御免だ。それどころか、敵との回線となり得るこれは謀略のタネにも使われかねない。敵との交渉を行わねばならない場合には、国家間の条約で決められた手続きに従えば良いだけの話だ。

 キースは直通電話機の本体とコードをまとめると発令所の司令官卓に丁寧に置き、直通回線の停止を命じた。




主人公、獅子奮迅の大活躍。そして「渋い脇役」アントナン中佐の裏での働き。本来は様々な掣肘を受けるはずの『SOTS』ですが、中佐のおかげで自由に動き、惑星軍に命令を下す事ができます。影の殊勲賞ですねー、アントナン中佐。
惜しい人を亡くしました。いえ、ストーリー上の都合で死なせたのは私ですが。
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