鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-025 戦闘準備』

 恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍基地の演習場の様子が、同基地の指令室スクリーンに映し出されている。スクリーンの中では、惑星軍のスコーピオン戦車1個中隊強14輛と、駐屯軍のマンティコア戦車4輛、ハンター戦車4輛、ヴァデット哨戒戦車4輛が模擬線をしていた。惑星軍の戦車は、ドリステラ公爵ザヴィエ・カルノーの命により、惑星軍本部基地目指して移動中だった車輛群がここ駐屯軍基地に集結してきた物である。

 最初は腕前で圧倒的に劣るためにボロ負けしていた駐屯軍機甲部隊であったが、この頃は勝てはしないまでもそこそこ良い勝負をする様になっている。また惑星軍の方も、今まで1個分隊2輛に分かれて惑星各地へ分散配置させられていたため、当初は連携に多少乱れがあったが、今では解消されている。

 ちなみに現場では、バトルメック部隊偵察小隊の小隊長アーリン・デヴィッドソン中尉と、同副長リシャール・ジェレ少尉が各々の乗機であるフェニックスホークに乗り込み監督している。

 指令室のスクリーンに映る演習の映像を眺めながら、キースは何度目かになる手元の報告書の確認を行っていた。この報告書は、惑星軍のバトルメック部隊指揮官ケヴィン・デッカー大尉待遇中尉と、同隊副指揮官レオナルド・ロックハート中尉が提出してきた物である。

 

(まず敵の1個中隊が降下殻にて惑星軍本部基地敷地内へ強襲降下。その後すぐさま基地の砲台を無力化。集結していた戦車隊10輛とフェニックスホーク2機がアントナン・カレ中佐直接指揮のもと緊急出撃。同時に残ったバトルメック部隊と歩兵その他の兵員、一般職員などに基地の放棄を命令、脱出させる。

 アントナン中佐は残った戦力で時間稼ぎを試みるも、基地練兵場や演習場などの開けた敷地を確保されてしまう。そしてその場所へ敵のユニオン級降下船中2隻が降下。各々バトルメック戦力を放出。この時点で中佐はフェニックスホーク2機に、脱出を指示。戦車部隊で最初に強襲降下してきた部隊の指揮官機に集中砲火を加える。

 フェニックスホーク2機は戦車部隊の援護射撃により、脱出に成功。しかし中佐が乗り込んだスコーピオン戦車は、敵指揮官機と見ゆる80t級の強襲メック、ヴィクターの最大口径オートキャノンの直撃を受け、爆散。それ以降の戦闘経緯については不明だが、その後しばらく追撃部隊が追いついてこなかったことから、戦車部隊の生き残りが死兵となり、最後まで奮戦した物と思われる……。)

 

 もう1通の報告書を手に取ったキースは、それを捲る。

 

(惑星軍本部基地を襲撃した敵の概要は、以下の通り。

 80tヴィクター1、70tアーチャー2、60tオストソル1、60tオストロック1、60tドラゴン1、60tライフルマン3、55t標準型ウルバリーン2、55tK型ウルバリーン1、55t標準型シャドウホーク5、55tK型シャドウホーク4、55tグリフィン2、50tエンフォーサー3、45t標準型フェニックスホーク2、45tK型フェニックスホーク1、35tパンサー1、35tジェンナー1、20tK型ワスプ5。総数36機、1個大隊。

 なおこれとは別個に、1個小隊が独立部隊として活動している模様。その概要は以下の通り。

 45t標準型フェニックスホーク1、45tヴィンディケイター1、40tウィットワース1、35tオストスカウト1……。)

 

 目を指令室スクリーンに戻しつつ、キースは物思いにふける。

 

(ライトニング戦闘機3番機による高高度偵察の結果からすれば、軌道上でバトルメックを射出したユニオン級も惑星軍本部基地に降下したみたいだよな。本部基地に着陸しているユニオン級らしき船影は3隻になっていたし。あと、独立小隊っぽい1個小隊はあいかわらず首都ドリステルに居座ってるのが衛星写真から解析できたな。偵察兵のネイサン軍曹の首都への潜入活動の結果からも、それは裏付けられている。独立小隊は、首都ドリステルのあちこちに散らばって、市民たちを威圧してる、か。……虐殺なんぞやらなけりゃ良いけど。

 しかしネイサン軍曹によると、敵には歩兵戦力はわずかしか無い模様だな。ネイサン軍曹も潜入のために丁寧に変装してったけど、首都の警備はザルだったって報告してたもんなあ。いや、歩兵戦力がわずかだからこそ、虐殺なんかやる可能性が高くなったかも。見せしめの意味合いも込めて。……頼むから、デモ行進なんかやらんでくれよ、首都の人たち。相手はクリタ家の配下で、しかもサイモン爺さんが独立小隊のメック全部に見覚えがあるって言ってたからには、乗ってるのはまず間違いなく、『BMCOS』を襲撃した特殊部隊あがりの無法者同然のやつらだ。)

「キース大尉。」

「む?ああ、ヒューバート中尉。何か?」

「この基地の周辺に展開し警備を行ってくれていた惑星軍歩兵部隊より連絡です。ドラコ連合のスパイの疑いが濃い人間2名発見しましたが、逃走されたそうです。相手はスキマーを使用していました。」

 

 内心で溜息を吐きつつ、それを表には出さずにキースは言葉を紡ぐ。

 

「スキマーなんてものを与えられていると言う事は、そこそこ上位もしくは腕利きの人間と言う事か。逃がしたのは惜しかったな。」

「同感です。」

「そろそろ予定では、惑星軍の支部に集積されていた軍需物資の第5便が届くはずだな。地雷原を抜けるルートをスパイに見られたくはない。輸送隊が基地に入る間、我が方の歩兵部隊と惑星軍歩兵部隊には警戒を密にしてもらおう。」

「了解、その様に伝えます。ところで……。」

 

 ここでヒューバート中尉が、キースの意見を求めた。

 

「ところで、敵は今頃何をやってるんでしょうね。俺としては即刻攻め寄せてくるかと思っていたんですが。」

「大方指揮小隊にやられた損傷機の修理に、かかりっきりになっているんだろう。以前にこの惑星に攻め寄せたハリー・ヤマシタに関する記録は読んだな?奴らはハリー・ヤマシタよりも慎重だと俺は感じている。修理が完了次第、戦力を分散させたりせずに、全戦力をもってここに攻め寄せて来るつもりだろうな。俺の読みでは、今首都を押さえている独立小隊すらも、その際にはこちらに投入してくるだろう。」

「激戦になりそうですね。」

 

 キースはにやりと笑う。

 

「だが、そうなればその時こそ、首都を解放するチャンスとも言える。惑星軍の歩兵戦力を、少しづつ小出しにして基地の外へ出し、首都周辺に伏兵させておきたい。首都からバトルメック戦力が無くなったときに、惑星軍自身の手で首都を解放してもらうんだ。そうなれば彼らの面目も立つ。」

「惑星軍本部基地はどうします?」

「あそこにはユニオン級が3隻も鎮座しているからなあ……。練兵場に1隻、演習場に2隻。……気圏戦闘機用に搭載する爆撃用の爆弾は、確か何セットかあるな。ふむ……。奴らが着陸している地点は、専用の離着床ではない、ただの地面だ。しかも地盤強化されているわけでもなかったな。横着しているのか、基地施設を使用したいがためか、宇宙港ドリスポートにユニオン級を移動させていない。バトルメックの整備はユニオン級でやっているらしく、衛星写真ではユニオン級に出入りするメックが確認できる……。」

 

 キースはしばし考えに沈む。そこへ轟音が響いて来た。オペレーターが、指令室のスクリーンを基地付属宇宙港の映像に切り替える。そこには、酷く傷ついたレパード級降下船が垂直着陸している様子が映っていた。

 

「あれが例の不時着したレパード級降下船、ハルナ号か。」

「既に元々の乗員は全て捕虜にして、捕虜収容施設にて収監しています。1名ずつ順番に尋問をしているところです。ジェレミー・ゲイル伍長の手により応急修理され、ヴァリアント号のイングヴェ副長によりこの基地に回航されました。」

「確か敵司令官がトマス・スターリング少佐であることや、部隊内には新旧の部隊員間に亀裂があり、旧来の隊員は新規の隊員およびスターリング少佐に対し隔意があることなどがわかったんだったな。と言うかそのことは、ハリー・ヤマシタの部下から尋問の結果得ていた情報の裏付けになった、と言うだけなんだが。

 しかし……。その亀裂に付け込みたくはあるが、どうしたものか。奴らが勝つ見込みが高い間は、おそらく亀裂は表面化すまい。」

 

 その台詞を聞いたヒューバート中尉は、一瞬吹き出しそうになる。キースは怪訝な顔をするが、自分の上官と言う立場を思い出し、叱責する。

 

「ヒューバート中尉。笑うとは何事だ。」

「し、失礼しました大尉。しかし大尉……。ご自分のなされたことを過小評価するのは、申し訳ありませんが不味い傾向だと小官は愚考するものであります。」

「俺が?」

 

 ヒューバート中尉は、キースに対し自分の考えを述べた。

 

「はい。大尉はわずか1個小隊を率い、2個中隊の敵バトルメック戦力を翻弄して大被害を与え、惑星軍バトルメック部隊を無傷に近い状態で救出しただけではなく、ご自分もその後偵察小隊の支援を受けたとは言え、見事に脱出を果されています。これだけ鮮やかな戦果を得ているのです。敵は屈辱的な大敗北を喫したと考えていてもおかしくはありません。

 で、あるならば……。おそらく敵の旧来の隊員の、新規の隊員およびスターリング少佐に対する不信感は、決定的な物になっているのではないでしょうか。この大被害を招いた追撃命令を出したのは、間違いなくスターリング少佐なのですから。」

 

 キースは目を丸くする。よくよく考えれば、その通りなのである。彼は呟く様に言った。

 

「なるほど……。納得行った。

 となると、スターリング少佐にはこれ以上迂闊な敗北、あるいは苦戦すらも許されないわけだな。しかも後ろ暗い謀略によらずして、真正面からの華々しい戦果を必要とする。であるならば、先ほどの推測に自信が持てると言う物だ。奴はかならず最大戦力をもって全力で攻撃を仕掛けてくる。しかも自分自身が出陣するのは間違いが無い。……ならば、奴の軍勢をせいぜい引っかき回してやるとしよう。奴の軍勢の不和を助長する意味でも。」

「天の時、地の利、人の和のうち、スターリング少佐には地の利も人の和も欠けています。いや、時間を稼げば援軍が来るという状況である以上、天の時すらも我々の味方でしょう。」

「確かに!」

 

 キースとヒューバート中尉は、にやりと笑い合った。

 

 

 

 司令室で、キースは書類仕事に精を出していた。惑星軍の輸送部隊が持ち込んだ軍需物資のうち、惑星軍のフェニックスホーク2機の修理に『SOTS』の備蓄から一時出してやった部品などを返してもらうための書類や、惑星軍機甲部隊と駐屯軍機甲部隊の戦車同士の模擬線に関する書類、まだまだ他にも沢山の書類があったのだ。アーリン中尉とヒューバート中尉もこの部屋で、各々が可能な書類の決裁に忙しく働いている。

 と、その時ドアをノックする音が響く。

 

「エリオット・グラハム少尉とアイラ・ジェンキンス伍長、入ります。」

「入室を許可する。入りたまえ。」

「「失礼します。」」

 

 駐屯軍の歩兵を統括するエリオット少尉と、偵察兵であるアイラ伍長だった。キースはいきなり2人に詫びる。

 

「すまなかったな、2人には嫌な仕事を任せてしまって。」

「はい!いいえ、ご命令とあらばこの程度のこと。」

「いえ、とんでもありません、大尉」

「では報告を聞こう。アーリン中尉、ヒューバート中尉も聞いてくれ。」

 

 エリオット少尉が、アイラ伍長を視線で促す。アイラ伍長も頷いて話し始めた。

 

「やはり惑星軍の歩兵部隊と一般職員の中に各々1名と2名、計3名のスパイが紛れ込んでいました。惑星軍の輸送部隊にはスパイはいないか、未だスリーパー状態であると思われます。一般職員のスパイは1人は外部に連絡を取ろうとしたところを押さえ、捕らえてあります。もう1人は、まだ泳がせていますが……。」

「歩兵部隊のスパイは、昼間スピーダーに乗ったスパイを血気にはやって銃撃したと見せかけてわざと外し、逃がした者です。おそらくは下っ端であると思われますが……。捕縛しようとしたところ、隠し持っていた銃で抵抗したので、やむなく射殺しました。」

 

 アーリン中尉が眉を顰める。ヒューバート中尉も苛立たしげだったが、溜息を一つ吐いて落ち着く。

 

「本当に潰しても潰しても湧いてくるわね。台所の黒い害虫みたいに。」

「……だがこの基地は、かなりクリーンに保たれているな。サイモン曹長が陣頭指揮を取って、定期的に盗聴器の掃除をしているし、エリオット少尉が表から、アイラ伍長が裏から監査してくれるおかげで致命的なことになる前に発見できてる。」

「……一般職員のスパイの1人は、まだ泳がせているんだな?」

 

 キースは人の悪い笑みを浮かべた。アイラ伍長は頷く。

 

「はい。泳がせて、接触先を調べようと……。何かお考えですか?」

「いや、よくある手だ。アーリン中尉、ちょっとパメラ伍長を呼んでくれ。掛け捨て保険の様な悪巧みをする。いや、保険と言うよりは宝くじかもな。当たったら美味しいし、外れても痛くない程度の。」

 

 そう、確かに良くある手だった。

 

 

 

 キースは駐屯軍基地の電算室に来ていた。指令室から主コンピュータにアクセスしても良かったのだが、キースの考えた策の1つはあくまでまだ素案でしか無かったので、それが可能かどうかをこっそり確かめるためにここにやって来たのである。ちなみにここにはサイモン老および、キースの部隊でコンピュータの第一人者と言ったらこの人と言うパメラ伍長が一緒に来ている。

 

「サイモン曹長、ユニオン級、爆装時のトランスグレッサー戦闘機及びライトニング戦闘機の諸元は入力したな?」

「はい隊長、完了しとりますわい。」

「ではパメラ伍長、シミュレーションを頼む。」

「了解!」

 

 3人は小さな画面を覗き込む。キースの眉が顰められた。サイモン老もよくわからない顔をしている。キースはパメラ伍長に質問した。

 

「パメラ伍長……。数字だらけでグラフィックが無いので、良くわからんのだが。」

「わしもコンピュータのハードはともかく、ソフトは専門外ですしのう……。」

「ああ、この数字がトランスグレッサー戦闘機1番機の精密射爆の精度、こちらが同2番機のデータです。で、これがライトニング戦闘機4番機の同じデータなんですが……。こちらが爆発力のエネルギー量で、こっちが爆発によるクレーターの直径と深さですね。」

 

 キースは頭の中で素早く計算する。

 

「……なんとなくわかった。つまりは75tのトランスグレッサー戦闘機ならなんとかなるが、50tのライトニング戦闘機では爆弾の搭載量の面から難しい、と言う事だな。2隻か……。1隻残るな。ライトニング戦闘機を2機投入するか?いや、それでは基地防衛に不安が残る。この案はボツか……?まあ、元々保険程度のつもりだったしな。保険に貴重な気圏戦闘機を使うことも無いか?」

「成功しさえすれば、敵戦力の漸減になるんですけどね。敵の士気も下がるでしょうし。」

「わしにはこの画面上の数字が理解できんですけどのう、ライトニング戦闘機を2機投入したとして、その代替戦力を用意できれば良いのではないですかの?」

 

 サイモン老の台詞に、キースは眉を顰めて言った。

 

「何処からその代替戦力を持ってくるかも問題だよ。」

「隊長は惑星軍バトルメック部隊は出さないおつもりだったんですな?」

 

 キースは頷く。

 

「フェニックスホークの2人には出てもらうつもりではいた。だが他の奴らはまだ13~14歳が大半だ。あまり矢面に立たせたくは無い。まあマッキー改の2人は一応16歳だが……。なんとか出せるとしたら、そのマッキー改の2人だろう。腕前も、新前の中ではまだ若干かろうじて微妙なところだが良い方だ。もしかしたら射撃でまぐれ当たりが出るやも知れない。

 後は……敵を威圧の意味で、後ろに突っ立たせておくだけのつもりでサイクロプス改が2機とライフルマン1機、かな。サイクロプス改ならば耐久力的に少しは安心だ。もし格闘に持ち込めれば戦力にすらなるやも知れん。ライフルマンも、当たらずとも射撃しまくれば、少しは誤魔化せるかもな。

 ただし残りは絶対に駄目だ。乗機がローカスト、スティンガー、ワスプでは死なせる様な物でしかない。今回の敵は、緊急脱出したからと言って見逃してくれるかどうかもわからん敵が混じっている。」

「ローカストは1機、ワスプも1機、スティンガーが5機の計7機、7名が完全に戦力外と言うことですな?」

「ああ。」

 

 サイモン老の問いかけに、頷くキース。彼には20t級メックに乗った子供を、弾除けに使うつもりは無かった。甘いかも知れないが、それで死なれるよりはましだと彼は考えていた。だがサイモン老は渋い顔をする。

 

「隊長……坊ちゃん。あの子供たちと、ちゃんと話したことありますかの?」

「……いや。話をしてみようと思ったことはあるんだが……。何か俺は怖がられているみたいでな。緊張のあまり、相手が硬直してしまうんだ。特にローカストのデクスター・ドハーティ伍長。だから話ができていない。」

 

 キースは、サイモン老があえて「坊ちゃん」という言葉を使ったのに気付いた。おそらく理屈ではなく、情の面での話なのだろう。情は、時と場合によっては無視しなければならない時もある。特に軍事などの面で、そう言った場面が顕著に表れることが多い。

 だがしかし、常にそれを無視できると言う物でもない。第一、人間は感情の生き物なのだ。情と言う物が実際に存在している以上、計算する事が困難だからと言って計算から排除してしまえば、必ず計算結果は狂ってくる物だ。

 サイモン老はにっこりと笑って言った。

 

「坊ちゃん、ちょいと物陰に隠れて、わしとあの子供らの話を聞いてみてくれませんかの?それと、ちょいとお耳を拝借。」

 

 キースはサイモン老から耳打ちされた言葉に、一瞬眉根を顰める。だが、とりあえずサイモン老の言う通り、物陰から話を聞いてみることにした。

 

 

 

 とは言っても、キースは身長2mを軽く超える巨体である。隠れる場所には非常に苦労した。結局彼は、自分の予備機であるグリフィンの操縦席に座り、サイモン曹長が持った隠しマイクから彼らの話を聞くことにする。

 やがて演習場で行われていた実機訓練から、惑星軍の12機のバトルメックが戻って来る。なお惑星軍で唯一戦力になると評された2機のフェニックスホークは、偵察小隊の3機のフェニックスホークと共に整備を受けているため、この棟には戻って来ない。いや、もっと正確に言えば、この棟には今現在乗り手がいなかったり壊れていたりする『SOTS』の予備機と共に、「戦力には成り得ない」と思われた惑星軍の若年メック戦士たちの機体が置かれていたのだ。当然こちらの棟に回される整備兵は少ない。

 12機のメックから、年若い……と言うよりも幼いと言った方が良い少年少女が降りて来る。マッキー改から降りて来た多少は年長の少年と少女が、年少の仲間達を励ました。キースは頭の中の名簿を手繰る。たしか少年がハビエル・アベラルド伍長、少女がワンダ・フェヒト伍長のはずだ。

 

『なにを落ち込んでるんだよ!落ち込んでる暇なんてないのはわかってるだろう?』

『そうよ。この駐屯軍の基地は、いつ奴らに襲われてもおかしくないんだから。元気だしなさい!射撃がぜんぜん当たらなかったぐらいで、何よ!』

『『『『『『……はい、先輩。』』』』』』

 

 だがその返事には、全然元気が無かった。そこへサイモン老が大きなポリ袋いっぱいに入った缶ジュースを持って近づく。

 

『よう、新任伍長ども。今日も頑張ったみたいだのう。ほれ、差し入れだわ。』

『あっ!せ、整備分隊長!け、敬礼!』

『『『『『『はい!』』』』』』

『あー、楽にしろや。ほれ、好きな銘柄のジュースを持ってけ。』

『『『『『『ありがとうございます!』』』』』』

 

 サイモン老はにこやかに笑いながら、PXから買ってきた缶ジュースを渡していく。キースは黙ってその様子を、グリフィンの操縦席から窺っていた。

 

『んで、話が聞こえちまったんだがのう。射撃が当たらないって?』

『あ……。はい。』

『わしは長いこと数多くのメック戦士を見て来たがの。乗り始めのころは、誰でも同じ様なもんだわい。落ち込むことなんぞないわ。』

『……でも!今、今上手くならないと!そうでないと駄目なんです!』

 

 今叫んだのは、ローカストのメック戦士デクスター・ドハーティ伍長だ。キースは意外に思う。彼はキースの前ではガチガチに固まってしまうため、てっきり気が小さいのだとばかり思っていたのだ。この様に叫ぶところなど、考えてもみなかった。

 

『そうでないと、中佐の仇を……。取れないん、です。』

『ふむ。』

『僕は……。メック戦士の家系の3男で、バトルメックを継ぐことなんてできないと思ってました。でも突然ローカストに乗れって言われて、有頂天になったんです。そして、メック戦士でない人たちを馬鹿にしてたと、思います。アントナン中佐も、メック戦士の家系に生まれながら、適性がなくてメック戦士になれなかったって聞いて……。表面上では敬ってたけど、心のどこかで馬鹿にしてたと、そう思います。

 でも、あのとき空からバトルメックの群れが降ってきた時に……。中佐が僕らを逃がしてくれて、自分はローカストよりも非力な戦車でバトルメックに立ち向かったんです。ロックハート中尉から聞かされました。勇敢な最期だったって……。僕は恥ずかしかったです。自分の実力じゃなしに、単に運でメック戦士になれたからって、こんな逃げるしかできなかった僕が、あんな戦車で、だから……。』

 

 段々と、デクスター伍長の語調と呂律がおかしくなってきた。どうやら半分泣いているらしい。サイモン老が持っている隠しマイクにも、子供らの泣き声の様な物が入り始める。

 

『だがら、ぼぐは……中佐のかだぎを……。う、うう……。』

 

 キースは理解した。このまま彼らを戦いから隔離しておけば、命はおそらくきっと無事だろう。だがその後も彼らは、まともに人生を送ることができるのだろうか。答えは否だ。何らかの形で戦いに貢献させてやらねば、彼らの心は救われないだろう。命だけ無事でも、それでは無意味とまでは言わないが、残酷すぎる。キースの耳に、サイモン老の耳打ちの内容が蘇る。

 

(坊ちゃんの予備グリフィンは完動状態ですし、ウルバリーンは修理完了した所で予算がなくなったので、予備部品こそありませんが完動状態ですわ。あと、アンドリュー軍曹機用に確保しとった予備部品を使い果たす覚悟になれば、ライフルマン2機も復帰できますのう。これで4機。

 あとは損傷機の通常型フェニックスホークからパーツ取りすれば、その機体はほとんどエンジンやジャイロと言った中枢部と骨組だけになりますがの、3機のD型フェニックスホークが修復できますわ。スティンガーやワスプに慣れてるやつらには、放熱能力の高いD型の方が良いですわ。これで合計7機。ちょうど坊ちゃんが言ってた、戦力外の数にぴったりですわい。)

 

 グリフィンの操縦席を開き、キースはタラップに出た。そして3段飛ばしで階段を駆け下り、整備棟の床に降り立つ。

 

「来ましたな、坊……隊長。」

「たいちょ、う?あ、た、大尉!?」

「け、敬礼っ!」

「「「「「「は、はいっ!」」」」」」

 

 キースはすかさず言葉を発する。

 

「休めっ!」

「「「「「「はっ!」」」」」」

「貴様ら、何をしょぼくれた顔をしている!そんなことで大恩あるアントナン・カレ中佐の死に報いることができると思っているのかっ!!」

「「「「「「!!」」」」」」

 

 あえて挑発的になる様に、キースは言葉を選ぶ。まあ、彼の本意ではなかったが。

 

「そんなことでは、お前たちに未来を託して死んだ中佐は、無駄死にだったと言う事だな!中佐も草葉の陰で、涙にくれているだろうよ!……なんだ?その顔は。」

「無駄死にでは……。」

「聞こえん!もっと大きな声で!」

「無駄死にでは、ありません!!」

 

 叫んだのは、デクスター伍長だった。キースの前では硬直してろくに喋ることもできなかった子供が、だ。

 

「言ったな!ならばそれを証明して見せろ!他の者も似た様な顔だな!同じ意見か!?」

「「「「「「はいっ!」」」」」」

「よし!ハビエル・アベラルド伍長!ワンダ・フェヒト伍長!クリスティーナ・ヴェーリン伍長!ロベルト・サンチェス伍長!ジャスパー・カートライト伍長!テオドール・アイヒベルガー伍長!イルヴァ・リンドホルム伍長!ヴィルジール・シャブリエ伍長!マックス・フェアフィールド伍長!ベネディクトゥス・ブライテンバッハ伍長!アリス・ジョアンヴィル伍長!そしてデクスター・ドハーティ伍長!」

「あ……。」

「ぜ、全員の名前を……知って……。」

 

 更にキースは、被せる様に言った。もちろん大声でだ。

 

「中佐の死を無駄死ににしないために、今何がお前たちに必要だ!?」

「え?」

「あ、ええと。」

「わからんか!ならば言ってやる!お前たちに足りない物は数多くあるが、その中でも今この時に必要な物、それは「力」だ!生き延びるための「力」が致命的に足りていない!中佐はお前たちを生き延びさせるためにその命を擲った!そのお前たちが簡単に死んでしまっては、中佐の死に報いるどころかそれを穢すことになる!わかるか!」

「「「「「「はい!」」」」」」

「声が小さい!聞こえん!」

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 全員が必死で叫んだ。絶叫と言っても良いくらいだ。おもむろに低い声でキースは語る。

 

「よし、ならば俺がお前たちに「力」をくれてやろう。ただし俺のしごきは並ではないぞ?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

「時間も残りわずかだ。敵の来襲までは、そう時間は無い。だから中佐の御霊の手前、殺しはしないが死ぬ一歩手前まで絞ってやる。わかるな?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

「総員、整列!本部棟バトルメックシミュレーター室へ向け、駆け足!……進め!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 キースは心の中で独り言ちる。

 

(レオ・ファーニバル……「狂い獅子」のレオ仕込みの教導法、ためさせてもらうとしましょうかね。まあ、壊れなきゃ並の新兵……。ゲーム的に言うと、射撃目標値6、操縦目標値6ぐらいまでは行ける、かな?行けるといいなあ。)

「隊長。」

「サイモン曹長。バトルメックの方は、サイモン曹長が言っていた方針で頼む。俺は子供たちを短時間でできるだけ使えるようにしてみる。アーリン中尉とヒューバート中尉には、申し訳ないが急を要する書類はシミュレーター室まで届けてくれる様に伝えてくれ。」

「了解ですわい、隊長。」

 

 キースはシミュレーター室まで走り出す。サイモン老は、それを優しい笑顔で見つめていた。




またアントナン中佐の影響が、ここにも出て来ました。若い、というより幼い少年少女メック戦士たちの心に、壮絶な傷と共に壮烈な勇敢さの印象を植え付けていましたねー。
それと主人公の悪癖です。相手を過小評価しないのはいいのですが、自分自身を過小に評価する癖があります。困ったもんです。
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