鋼鉄の魂   作:雑草弁士

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『エピソード-027 天を仰ぐ』

 敵の重量級メックであるオストソルと、同じく重量級の敵オストロックが、並んで両腕の大口径レーザーを撃ち掛けてくる。だが大口径レーザーは長距離兵器の中では射程が短い方で、この距離ではなかなか命中しない。

 逆にアンドリュー軍曹の支援機ライフルマンが発射した中口径オートキャノン2門と大口径レーザーは、オストロックにあっさりと突き刺さった。全弾が胴体のど真ん中に命中し、その装甲板を著しく削る。技量が違い過ぎた。

 そこに後方の戦車による機甲部隊からの支援射撃が来た。搭載火器の射程ぎりぎりの遠距離から発射されたその攻撃は、滅多に当たらないが、全く当たらないと言う物でもない。

 1輛のハンター戦車から発射された20連長距離ミサイルがオストロックを叩きのめし、オストロックは胴体中央に搭載していた4連短距離ミサイルの弾薬に火が回って大爆発を起こす。メック戦士は脱出した模様だが、地面に降りるとぐったりと気を失った様子である。弾薬の爆発は、搭乗しているメック戦士に大きくダメージを与えるのだ。

 キースが叫ぶ様に言う。

 

「敵中央付近のライフルマン2機と通常型シャドウホーク2機を狙え!あれが敵の対空戦力だ!あれを潰して、気圏戦闘機を戦闘に参加させ易くする!端にも1機ライフルマンがいるが、あれは位置からして単なる支援戦力だ!地上掃射で狙わなければ応射の危険は無い!」

『『『『了解!』』』』

 

 キースのマローダーから、エリーザ軍曹のウォーハンマーから、マテュー少尉のサンダーボルトから、そして後方のマンティコア戦車とヴァデット哨戒戦車から、敵のライフルマンとシャドウホークに向けて長距離兵器の砲火が飛ぶ。

 ライフルマンの1機がサンダーボルトから撃たれた大口径レーザーに頭部を貫かれ、メック戦士が緊急脱出する。またもう1機のライフルマンは必死に応射するものの、逆に脆弱な脚部にマローダーの粒子砲と中口径オートキャノンを浴び、ついでの様に同じ個所にマンティコア戦車の10連長距離ミサイルが8本命中して右脚を吹き飛ばされ、倒れ込んだ。

 シャドウホーク2機は必死で5連長距離ミサイルと中口径オートキャノンで抗戦するが、いかんせん距離が遠い上に、指揮小隊の機体は戦場を右から左へと走行移動している。命中は覚束ない。

 そのシャドウホークには、エリーザ軍曹機からの粒子ビーム砲2発が命中。左胴装甲を撃ち抜かれたシャドウホークは、背負った中口径オートキャノンの基部を破壊されて対空射撃能力を著しく減退させた。

 それを見て取ったキースの指示が飛んだ。

 

「まだ何機か中口径オートキャノン装備機がいるが、ライフルマンを潰した以上かまうまい。マイク少尉!ジョアナ少尉!出番だ!

 サイモン曹長はBASE-ON-37760ポイント、BASE-ON-34120ポイント、BASE-ON25100ポイントに順番に撃ち込め!ボールドウィン伍長は指定ポイント5、2、2の順番で撃て!」

『いいいやあっほおお!!』

『よりどりみどりね!』

 

 マイク少尉機であるライトニング戦闘機1番機と、ジョアナ少尉機であるライトニング戦闘機2番機が、縦一線隊形を組んで敵が密集している地域に地上掃射をかける。2機6門の中口径レーザーが降り注ぎ、地雷地帯から抜けたばかりで展開が間に合わず、密集していた敵に次々と命中した。マイク少尉機とジョアナ少尉機にも敵弾が数発命中するが、たいした被害では無い。

 

『やりやがったな!?』

『マイク!抜けたら今度は反転してもう一度掃射よ!』

『わかってる、ジョアナ!』

 

 敵バトルメック部隊は、必死で散開しようとするが、連携がちぐはぐで動きが鈍い。キースはそれを見て取ると、戦場をざっと見渡した。

 

(アーリン中尉の偵察小隊は、フェニックスホーク2機とD型フェニックスホークがグリフィンの支援のもと、全力走行によるヒットアンドウェイを繰り返して敵の部隊を翻弄しているか。問題はないな、うん。

 ヒューバートの火力小隊は、前衛にヒューバートのオリオンとグレーティア少尉のウルバリーンが出て、後衛にロタール軍曹のクルセイダーとカーリン伍長のグリフィン。お、ヒューバート機が大口径オートキャノンであっち側にいたライフルマンの頭を飛ばした。さっすが、やるなあ。

 惑星軍の方は……。あ、まずい!)

 

 子供たちの乗るメックの動きを見て、キースは叫ぶ。

 

「クリスティーナ伍長!ロベルト伍長!突入は1テンポ遅らせろ!」

『は、はいっ!』

『りょ、了解!』

 

 ヒュウウゥゥ……、ドガッ!!

 

 次の瞬間、スナイパー砲の砲弾がサイクロプス改の前にいたフェニックスホーク、パンサー、ジェンナー、K型ワスプに降り注ぐ。既にライトニング戦闘機2機の地上掃射でダメージを負っていた敵機群は、フェニックスホークが胴中央に直撃を受けてマシンガンの弾薬に引火し機体爆散、パンサーが右腕の粒子ビーム砲を失い、ジェンナーとK型ワスプはそれぞれ左脚と右脚を失って倒れ込んだ。

 

「味方の砲撃で機体がやられるなんて、馬鹿らしいぞ。着弾予定箇所と着弾時刻には注意をはらえ。」

『『あ、ありがとうございますっ!』』

 

 言いながらキースは、マローダーに右手の粒子ビーム砲1門と中口径オートキャノン1門を発射させる。狙ったのは、岩場の陰で部分遮蔽を取ったばかりのヴィンディケイターだ。

 ヴィンディケイターからは粒子ビーム砲と5連長距離ミサイルが撃ち放たれる。しかし遠距離で最大限移動しているキース機には命中しない。逆にキース機の攻撃は双方とも命中し、その粒子ビームはヴィンディケイターの頭部を貫いてメック戦士を死亡させた。

 

 

 

 戦闘はなおも続いていた。マイク少尉とジョアナ少尉のライトニング戦闘機は幾度か地上掃射を繰り返し、敵陣に多大な被害を与えたものの、敵の応射で相応の被害を被ったために、今は砲撃の届かない上空で待機している。

 

「サイモン曹長、次はBASE-ON-88230ポイント、BASE-ON-00134に連続で叩き込んでくれ。たしかそれで弾切れだったな。ボールドウィン伍長は指定ポイント6、6、4へ続けざまに撃ち込め。」

 

 キースは間接砲撃の指示を出しつつ、戦場を見回す。味方機には倒された者はいまだいないが、火力小隊のウルバリーンと偵察小隊のD型フェニックスホークの両機が、装甲の損傷が大きくなってきたために後ろへと下がらせて、遠距離火器での支援に切り替えさせている。しかし両機とも遠距離攻撃が得意な機種と言うわけでは無いため、あまり頼りにはならないのが実情だ。

 ちなみに火力小隊のクルセイダーは、とっくに15連長距離ミサイルの残弾を使い果たし、ウルバリーンに代わり前に出て来ている。他の機体も弾薬を中心に消耗が激しい。

 惑星軍バトルメック部隊では、ライフルマン3機とグリフィンが思ったよりも気を吐いていた。前線の味方に守られて、静止射撃が可能であったことも理由の1つであろう。彼らは4機で1機の敵に攻撃を集中すると言う戦法を繰り返し、命中率こそあまり高く無いものの今までの合計で3機の敵機を行動不能にしていた。ただしライフルマンはオートキャノンの弾薬を使い果たし、そろそろ攻撃力が減退している。

 サイクロプス改とマッキー改の4機は、射撃戦闘ではなく格闘戦を挑み、その重量から来る格闘能力を遺憾なく発揮していた。しかしハビエル伍長のマッキー改とロベルト伍長のサイクロプス改はそれぞれ頭部にパンチの一撃をもらい、格闘戦が危うくなったために一歩下がっての近接射撃支援に回らせることにしたため、今までの様な破壊力は期待できなくなった。その重厚な装甲板も、かなり削れてきている。

 惑星軍で最も被害が大きいのが、遊撃担当のD型フェニックスホーク3機とウルバリーンだ。ことにウルバリーンはフェニックスホークの盾となって戦っていたため、機体のあちこちに穴が空き部品が垂れ下がっている。実弾兵器の弾薬を撃ち尽くしていたために爆散は免れたものの、これ以上は無理だとして、指揮官たちは遊撃担当たちを最後方まで下がらせることにした。

 ちなみに惑星軍指揮官機の標準型フェニックスホーク2機は、いまだ健在である。今も2機いたうちの生き残ったアーチャーに肉薄してその長距離ミサイルを封じつつ、その高機動力で翻弄していた。

 

(味方もそろそろ危ない機体が増えてきたな。指揮小隊はサンダーボルトとウォーハンマーがちょっと傷ついてるぐらいで全然まだまだ平気だけど、実弾兵器の弾薬が尽きつつある。と言うか、ライフルマンと俺の機体の中口径オートキャノンはもう弾切れだし。

 サイモン爺さんのスナイパー砲も弾切れだ。ロングトムⅢはあらかじめ照準しておいた指定ポイント以外に撃たせるのは、ボールドウィン伍長の腕前だと誤射が危険だし。機甲部隊もマンティコア戦車の粒子ビーム砲以外はそろそろ弾切れだよなー。

 だけど敵はそれ以上にズタズタだ。罠にかかったから序盤撃ち放題だったって言うのもあるけど、予想以上に脆い。連携も拙い、と言うより連携しようと思ってない感じだよな。個人技はさすがに大したものだけど。)

 

 敵の陣営を見遣るキース。その2/3以上が無力化もしくは撃破か撃墜され、生き残っている機体も間接砲と気圏戦闘機や戦車の支援を受けた味方機により、ほとんどの機体が重度の損傷を被っている。つい今しがたも、今まで生き残ったアーチャーが右脚を破壊され、地面に倒れ伏したところだ。

 そして残った機体には、K型……ドラコ連合特有の、クリタ家バージョンの物が多い。それらは戦闘自体に消極的だった様に、キースには思われた。

 

(これだけやれば、頃合いだろうな。K型と言う事は、おそらくは元から第4アン・ティン軍団にいた人員だろ。少なくとも士気は高くないはずだ。

 そして『SOTS』の大半はともかくとして、火力小隊の初陣の者たちや、惑星軍の子供たちの気力がそろそろ持たない。奴を……トマス・スターリングを倒して、決着をつける!)

 

 キースの視線の先には、左脚を引き摺りつつマッキー改に向け、最後の1発になった最大口径オートキャノンの砲弾を撃ち込むヴィクターの姿があった。ヴィクターはメック戦士の運が強いとでも言うのだろうか、序盤の攻撃時から前衛に出ていたにも関わらず、ダメージが前面の全身に散っており、今まで生き残っている。キースは、左腕で胴体をかばい最大口径オートキャノンの砲弾を受け止めたマッキー改に、指示を下す。

 

「ワンダ伍長、そのマッキー改はそろそろ限界だ。下がって粒子ビーム砲による支援射撃に切り替えろ。そいつの相手は俺がやる。」

『……了解!』

 

 マローダーの機体を前進させ、キースは機体左腕の粒子ビーム砲と両腕の中口径レーザーを、大きく傷ついたヴィクター目がけて撃つ。粒子ビームとレーザーの光条は、ヴィクターの胴体ど真ん中に吸い込まれる様に命中した。既に損傷を受けていたヴィクターの装甲は持ちこたえられずにはじけ飛び、エンジンの鎧装が2層まで破壊された。

 

(折れかけている脚に当たれば、話は早かったのにな。)

 

 そう思いつつ、キースは通常回線と外部スピーカーで降伏勧告を行う。内心では降伏勧告などしたくない気持ちもあったのだが、その気持ちをぐっと噛み殺し、キースは口を開いた。

 

「……勝負はついた。その機体ではもはや勝ち目はあるまい、降伏しろトマス・スターリング。正式な裁判を約束する。裏切りの件も、お前自身はともかくとして部下たちは命令に従っただけと言う事ならば、命ばかりは助かる可能性もあるだろう。ほんのわずかな可能性だがな。」

『何?ま、まさか貴様は……。いや……。まだだ!ここで終わってなるものか!』

 

 ヴィクターがジャンプジェットに火を入れ、後方に最大ジャンプを行いつつ中口径レーザー2門と4連短距離ミサイルを発射した。キースは自機を疾走させて、逃げるヴィクターに追いすがる。スターリングの執念か、全弾がマローダーの機体に命中し、中口径レーザー1本がその頭部にあたった。着弾の衝撃で、キース自身の肉体にダメージが加わる。だがキースの強靭な肉体には、その程度のダメージはかすり傷に等しい。

 ヴィクターは空中で向きを変えると後ろを向いて着陸した。胴体前面の装甲が失われている以上、背中を向けた方がまだましだ、と言うことなのだろうか。実際、ヴィクターの背中の装甲は、粒子ビーム砲に一撃は耐えられるほどに厚い。そしてボロボロのその機体は、左脚を引き摺りつつ、それでも全力で疾走する。

 マローダーの両腕に装備された粒子ビーム砲から、粒子ビームの束が発射された。2条の粒子ビームはそれぞれ、逃げるヴィクターの背面中央と頭部に命中する。後ろを向いていたため、スターリングは緊急脱出のタイミングが取れなかった。

 

『ここで終わるわけに……。』

 

 最期の言葉すらも中途半端に、トマス・スターリングの肉体は操縦席ごと粒子ビームによって焼散した。怒り、悲しみ、憎しみ、憐れみ、安堵、喜び、虚しさ、その他様々な雑多な感情が、爆発的にキースの胸に溢れる。だがキースはこの部隊の隊長であり、恒星連邦ドリステラⅢ駐屯軍の現司令官だ。彼にはまだやることがある。

 

「トマス・スターリングは死んだ!降伏しろ!まだやると言うのならば、俺たちが相手になるぞ!」

 

 キースの言葉と共に、無傷とまでは言わないが未だ健在な指揮小隊のバトルメックが、前に歩み出る。しばし敵も味方も、1発も撃たずに睨みあった。やがて1機のひどく傷ついたK型ウルバリーンが、降伏の信号弾を打ち上げた。

 

『……降伏しよう。……黙れ!ハリー・ヤマシタの腰巾着どもに、トマス・スターリングの手下どもが!

 失礼した、自分は第4アン・ティン軍団C大隊第2中隊偵察小隊の元小隊長、ノボル・フジだ。奴ら、特にハリー・ヤマシタのせいで降格されて、今では一介のメック戦士に過ぎんがな。昔の部下どもや同僚は自分が説得しよう。どうか寛大な扱いをお願いする。』

「了解した。降伏を受け入れる。」

 

 そして次々に、K型の機体を中心に降伏の信号弾が打ち上げられる。全ての機体が降伏したわけではない。生き残りの中で最大重量のオストソル1機を先頭にして、ウルバリーン1機、シャドウホーク1機、エンフォーサー1機の計4機が、後ろを向いて逃走を開始する。

 キースたちはその機体に向けて粒子ビーム砲や大口径レーザーを放った。そのほとんどが命中するが、かろうじて致命的な箇所に命中するのは免れたらしく、その機体たちはヴィクターが地雷原に空けた隙間を通って逃げていった。マテュー少尉が隊内通信でキースに尋ねる。

 

『追撃しますか?』

「いや、俺たち指揮小隊はともかく、他はもうぎりぎりだ。特に惑星軍の雛鳥たちは、1.5倍強の格上の敵と戦ったんだから精神的疲労も限界だろう。ただし虚勢を張って、まだまだ戦えるように見せていろ。」

 

 言葉の後半は、火力小隊、偵察小隊、それに惑星軍メック部隊と後方の戦車たちに言ったものだ。配下の機体はその言葉に従い、まだまだ元気だと言うところを見せる様に屹立していた。

 その様子を見て諦めたのか、片脚を折られて転がっていたいくつもの敵機からも、降伏信号が打ち上がった。キースが警戒していたのは、脚を折られて転倒しただけの機体である。片手で機体の上体を支えれば、もう片方の腕と胴体装備の武装は撃つことが可能なのだ。それ故に無力化した様に見えても、警戒を怠るわけにはいかなかった。

 とりあえずキースは、気圏戦闘機隊のうちで推進剤が比較的多く残っているライトニング戦闘機3番機と4番機に連絡し、逃亡したメックに対する高高度よりの追跡を命じた。と、そこで基地の指令室より通信が入る。

 

『大尉、首都奪還作戦実施中の惑星軍歩兵部隊より連絡がありました。惑星軍歩兵部隊は首都の奪還に成功、味方の損害軽微、現在残敵を掃討中、とのことです。』

「……となると、応援が必要だな。逃げた敵部隊は占領中の惑星軍本部基地に撤退しつつある。惑星軍の本部基地は首都ドリステル近郊にあるからな。逃げた奴らがやけにならないとも限らん。……アーリン中尉!ヒューバート中尉!偵察小隊と火力小隊の現状について報告せよ!」

『はい、大尉!自分のフェニックスホークは無傷です。リシャール少尉の機体は若干装甲がやられています。ヴェラ伍長機のD型フェニックスホークはかなり装甲板が痛めつけられましたので、直後の作戦は不可能です。ヴィルフリート軍曹のグリフィンは無傷ですが、10連長距離ミサイル発射筒の残弾が心許ない状態です。』

『了解、大尉。俺のオリオンは装甲がけっこうやられましたけど、内部構造に及ぶ傷はありません。ただし弾薬が空っぽに近いです。グレーティア少尉のウルバリーンも装甲が限界ぎりぎりに近いですが、致命的なダメージはかろうじて無し。ロタール軍曹のクルセイダーは損傷軽微ですが、全ミサイルを撃ち尽くしました。カーリン伍長のグリフィンは10連長距離ミサイル残弾が半数程度、傷はありません。』

 

 少し考えてからキースは、とりあえずの案をひねり出す。

 

「よし、アーリン中尉。少し無理を頼みたい。リシャール少尉とヴィルフリート軍曹、および各々の機体を連れて、レパード級降下船ヴァリアント号で首都ドリステルに向かってくれ。

 そしてドリステル南端で、敵の占領下にある惑星軍本部基地の戦力とにらみ合いをして欲しい。交戦の必要は無い。ただ単に相手に手を出させず、こちらからも手を出さずに、にらみ合いを続けてくれ。

 機体の修理と補給が完了次第、火力小隊の4機を送る。そうしたらアーリン中尉以下偵察小隊の3人は入れ替わりで駐屯軍基地に帰還してくれ。」

『了解しました。要は敵戦力を首都に入れなければいいんですね?』

「その通りだ。任せたぞ。……レパード級降下船ヴァリアント号、カイル船長。発進準備をしてくれ。アーリン中尉たちを、首都まで送ってきて欲しい。その後火力小隊機の修理が完了したら、火力小隊を乗せてまた首都まで送り、偵察小隊の人員と機体を連れ帰ってくれ。」

 

 カイル船長が承諾の意を返す。

 

『了解だよ、隊長。さて、お乗りくださいなお嬢さん。快適な空の旅をお約束しよう。』

『あら、お嬢さんなんて呼ばれたのは久しぶりだわ。よろしくお願いしますね、船長。ではキース大尉、ヒューバート中尉、行ってきます。』

「気をつけてな。」

『頑張ってくださいよー。すぐ修理終わらせて、交代に行きますんで。』

 

 その後キースは駐屯軍基地から歩兵部隊を呼び、降伏したメック戦士たちを捕虜として連行させた。また鹵獲したバトルメックを運ばせ、破壊したバトルメックの散乱した部品を集めさせた。

 ちなみにその作業には、火力小隊は参加していない。彼らの機体は最優先で修理、整備と補給がなされた。明朝には彼らの機体は完璧となり、いったん戻って来たヴァリアント号により惑星首都ドリステルへと運ばれることになる予定だ。

 

 

 

 深夜、惑星時間で日付が変わる直前で、連盟標準時ではとっくに日付が変わっている時間のことである。キースは駐屯軍基地本部棟の屋上にやって来ていた。基地のそこかしこには警備用のサーチライトが灯されており、けっこう明るい。特にバトルメックや気圏戦闘機の整備棟からは、灯りと作業の音がいつまでも止まなかった。

 だが基地の外側、地雷原の手前あたりには光は届いていない。キースはそちらの方を見遣る。何も見えないが、そこはトマス・スターリングをキースが討ち取った場所であった。

 

(なんか……。あの瞬間は、色々な感情で気持ちが爆発しそうになったけど、今は変に落ち着いてるなあ。なんか、スポっと心の中から、何かが抜け落ちたみたいだ。虚脱状態ってのが近いかなあ。

 え?……もしかして前世のうつ病が再発でもしたか?いや、まて!それはまずいぞ!まだ色々と後始末も残ってるんだよ!逃げた1個小隊相当の敵も、発進不能状態にしてやったユニオン級降下船3隻も、まだ残ってる!駐屯契約も2ヶ月残ってるってば!いや、変に落ち着いてるってことは、うつ症状じゃないよきっと!って落ち着いてねえーーーッ!)

 

 内心の混乱を表に出さずにキースが立ち尽くしていると、後ろで人の気配がした。キースは振り返る。

 

「あ、気付かれちまった。」

「サイモン曹長の言う通り、隊長は勘が鋭いですね。」

「驚かそうなんて考える方が悪いのよ。」

 

 それはアンドリュー軍曹、マテュー少尉、エリーザ軍曹の3名だった。キースは苦笑してみせる。

 

「どうしたんだ?こんな時間に。」

「隊長……いや、キースこそどうしたんだよ、こんな時間にこんなところに来て。」

「なんか無茶苦茶な猛スピードで仕事して、仕事無くなったら他の人の仕事まで取り上げて自分でやって。しかも私にも手伝わせずに。その上、仕事無くなると整備班のところまで行って手伝おうとして、サイモン曹長に少し休めって追い返されたらしいじゃないか。

 休みも取らず、こんなところで何やってるんだい?」

「そ、そうだったかな?」

 

 確かにそうだった。まるでワーカホリックだ。エリーザ軍曹がおもむろに、ここに来た理由を説明する。

 

「サイモン曹長が心配して、あたしたちに頼んだのよ?自分は部隊のと惑星軍のと、バトルメックに気圏戦闘機の修理があるから様子を見に行ってあげられないって。」

「そうか……。サイモン爺さんが。」

「自分の他には、キースの気持ちを少しでもわかってやれるのは、俺たちだろうってサイモン曹長が、な。俺たちもよ、ハリー・ヤマシタのせいで家族とか仲間とか亡くしてるからな。……ほれ。」

 

 アンドリュー軍曹が、何かを放ってよこす。キースが思わず受け取ったそれは『SOTS』結成時に、ここにいる仲間たちで決めた部隊エンブレムを象った金属片だった。鎖が付いて、首飾り状になっている。

 

「これは?」

「サイモン曹長によると、エクスターミネーター……デスサイズの装甲板の破片を削り出した物だそうだよ。デスサイズ撃墜後、暇を見ては作っていたらしい。」

「デスサイズの……。」

 

 キースはそのエンブレムを、まじまじと見つめる。

 

「あたしたち、っていうか部隊のメック戦士や航空兵たちの分もあるのよ!そのうち部隊全員に行き渡らせたいって言ってた。まあ素材は別物だけどね。キースのそれは特製品!あたしたちのは鋳造品の量産品だけど、キースのは削り出しで作った唯一無二の代物!って聞いてないわね。」

「いや、聞いてるよ。ただ、何と言っていいのか……。」

「とりあえず、喜んでおけばいいんじゃないかい?」

 

 マテュー少尉の言葉に、キースは笑おうとした。しかし頬がひきつって上手く笑えない。その視界が曇った。思わず彼は上を向いた。涙が零れそうだったのだ。

 

(父さん、母さん、とりあえず一区切りついたよ。なんて言うか、こう……。ようやく俺も、この世界に足を降ろせたような、そんな気がする。ありがとう、さよなら。父さん、母さん。)

 

 上を向いて微動だにしないキースを、仲間達は何も言わずに見つめていた。




ようやくの事でと言いますか、けっこうあっさりと言いますか、さくっと、と言いますか、『宿敵』退場です。まあ、サモンジ小隊の『宿敵』も、小説版の第1巻で、さくっと退場しましたからね。それを参考にして、この程度であっさりと『宿敵』を討ち取ってしまいました。
でも、主人公の心理としては感無量と言いますか、物悲しい気分と言いますか、色々複雑なのです。ですが、ようやっと主人公はこの世界にきちんと降り立つ事ができたのです、まる。
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